私は天使なんかじゃない
魔窟の住人
そこに住まうのは……。
「この先だ」
「どうも」
薄暗いキャピタルの地下を進む。
ここはメトロ。
キャピタル・ウェイストランドの地下に張り巡らされた、かつての地下鉄の名残。そして今は完全なるラビリンス。
私たちを先導しているのはマックス、メトロと呼ばれるコミュニティの住人。
全身を防具で固め、顔にはガスマスク。
正直性別不明。
声もくぐもってるし。
私たちは彼なのか彼女なのかは知らないけど、ともかくマックスの先導でメトロを進む。
私たち、それは私、サラ、グリン・フィス、BOSの100名の精鋭のこと。
潜入任務は何度かしてきたけど普段は少数でのステルスであって、これほどまでの大所帯は初めてだ。
アレックスたちSEEDは要塞に戻り、サンディ大尉はバニスター砦でBBアーミーとお留守番。
お留守番の理由?
簡単です。
どこまで信用できるか分からないから。
こちら側に付いたとはいえ人狩り師団と繋がってたブルー・ベリー大佐の元部下たちだし、さすがに共同任務は危険かなという理由。
メトロとの接触は簡単だった。
大所帯で地下を適当に歩き回っている間に捕捉された。もちろん想定済みだ。地下は彼ら彼女らの王国、大勢で、それもパワーアーマー部隊が徘徊してたら何らかのアクションがあると思ってた。
接触の後、私は自分の名前を名乗った。
前回の絡みで面識あったし。
それでマックスが先導としての役割をしているってわけだ。
別にマックスを指定した、というわけではない。
地下を徘徊しているこちらを捕捉したメトロ側に道案内を頼んだところ、彼女が買って出てくれたってわけだ。あくまで先導であり、参戦ではないけども。
そもそも先導は彼女だけだし。
……。
……いや、彼か?
性別は不明。
ただ……。
「ミスティ、お前はブッチが好きなのか?」
「はっ?」
「自分は第二夫人でいいぞ、仲良くやろう」
「えーっと」
たぶん女性。というか女性でない場合はどうなるんだ、これ。
なお別にブッチに対して私は何の意識も持ってません、ただの友達です、あしからず。
「残念ながら主は自分の妻になるのだ、悪いな」
口を挟むグリン・フィス君。
誰が妻だ誰が。
「なるほど、つまりブッチは独占してもいいのだな?」
「そういうことだ」
お互いにGJし合うマックスとグリン・フィス。
頭が痛い。
「ミスティ」
「何、サラ?」
「この人、当てになるの?」
「ええ、ばっちり(適当)」
地下には精通してるんだから問題はない。
人柄は、謎ではある。
おおぅ。
「ところで真面目な話がしたいのだが」
「ん?」
語調を改めるマックス。
マスク越しなので声の調子は変わらないし相変わらず性別も分からない。
「どうしたの?」
「敵を排除したタワーはどうなる?」
「テンペニータワー?」
「そうだ」
考えてなかった。
「サラ、どうなるの?」
「いずれは拠点にしたいとは思ってる。共同体が欲しがるかも、人口増加しているから。ただ、BOSも共同体も今はそこまで余裕がないから、とりあえずは無人になると思うけど」
「だってさ」
「我々が貰ってもいいだろうか」
「メトロが?」
「いつまでも地下には暮らせない。出て行くにも拠点が欲しい。メトロと繋がっているなら、移住も楽だろう」
「まあ、良いと思うけど」
サラを見ると、少し考えてから頷いた。
「そうか、良いことを聞いた。ありがたい」
「ところでマックス、それは外さないの?」
「何だ、お前も私の体目当てか。仕方ない、ブッチと3人で家族に……いや、そちらの剣士も結婚して4人暮らしをしよう」
「いいですな」
何言ってんだこのアホ侍。
「私も一緒になろうかしら。5人で楽しくやりましょ。意味、分かるでしょう?」
何言ってるんすかね隊長さん。
笑うマックス。
「ここを抜けたら建物の敷地に出れる」
「えっと……そうね、見覚えがある」
ここから上に登れば発電所に出れる。そういえば前回はグリン・フィスはいなかったな、初テンペニータワーってことか。
「悪いが私はこれでお別れだ」
「ええ。ありがとう、マックス」
「ミスティ」
「ん?」
「所有権のこと、忘れるな」
「ええ」
ここでマックスと別れる。
さて、行くか。
上に登り発電所内に進む。全員で進むにはいささか多過ぎるな。
「ミスティ、どうする?」
「全員で進むのはどうかと思う」
「そうよね」
まずは斥候かな。
発電所を出る。
モヒカンの悪漢が複数屯っていた、そしてこちらと目が合う。
相手側は何か叫び銃をこちらに向けた。
遅い遅いっ!
「そこっ!」
出た直後に私はアサルトライフルを発砲、レイダーの1人を不意打ちで倒す。音に釣られて敵が寄って来るものの次々と掃射。5人倒した時点でサラも援護し、サラにBOSの兵士たちもわらわらと
発電所から出て来るので1分ほどで門内を哨戒していた敵さんは全滅。
「主、間違いないようですね」
「ええ」
やはりここは敵さんの本拠地だ。
疑問ありでの襲撃?
証拠はなかったけど確証はあった。SEEDの証言と、今までの人狩り師団の動きを総合するとここしかなかったわけで。
そしてビンゴ。
当たりです。
「サラ、ここで部隊を少し分けましょう。まずは様子見しないと」
「そうね」
人狩り師団の拠点なのは間違いない。
ただ、全員で突っ込んで行くのはリスクが高い。例えば建物に突入した際にミニガン部隊で待ち伏せされてたら簡単に全滅してしまう。全滅を免れたとしても損害がでかい。
まずは少数で様子見だ。
サラは部隊を編成、BOSのパワーアーマー10人が同行。
残りはこの場にて防御しつつ待機。
防御組が安全かと言われればそうでもない、タワー上層からの攻撃は想定される。まあ、来ても反撃するだろうけど。アーマー分はタフなわけだし。
ともかく。
ともかく突入組は速やかに安全を確認し、タワー一層目を制圧する必要がある。
「グリン・フィス、行くわよ」
「御意」
当然私たちも同行。
ここの指揮は私が知らない兵士に任された。パワーアーマーのヘルメット被ってるし、声もくぐもっているから性別も不明。
まあ、別にいいんですけど。
サラが信頼して任せるんだから、人物なのだろう。たぶん。
さて。
「行きましょう、サラ」
「ええ。私たちに続け」
部隊は動き出す。
裏手にある発電所からタワーの入り口を目指す。
……。
……おかしい。
不意打ちした際に発砲してる、敵は気付いているはずだ、私たちに。何故攻撃してこないのだろう。迎撃の部隊すら出てこない。
何かあるな。
「ミスティ」
「何、サラ?」
レーザーライフルを即座に撃てるように移動しながらサラは私に声を掛けてきた。
周囲を警戒しつつ進みながら私は次の言葉を待つ。
「確証は、あったんでしょうね?」
「ここが敵の拠点かって?」
「そう」
「あるわ。哨戒のレイダーもいたでしょ」
「そうじゃなくて、ここに来る前によ。そうじゃなきゃ無駄な時間を食ったわ」
「まあ、救援の時間はなくなったわね」
各街々の攻撃は続いてる。
確かにサラの言うとおり無駄足だったらみすみす救援の時間を失ったことになる。まあ、救援するほどの時間も戦力もBOSにはないわけですけど。時間は、どこに救援を出すとかの決定をしている
暇はなかったしどこが攻められるか情報がなさ過ぎたってことだ。全ての街が攻撃されてるなら話は別だけど、狙われていない街が多かった、連中の動きを想定するのは不可能だった。
戦力がないってことは、BOSの戦力が空っぽってわけではない。
人狩り師団に要塞が落とせるとは思えないけどエンクレイブが控えているんだ、要塞の戦力は強大とはいえ動かすのはエンクレイブの介入をすることになる。
何しろベルチバードか向こうにはある。
大編隊だ。
北部戦線通り越して飛んでくる。
さすがに動かすのはエルダーリオンズも躊躇うだろう、最終的に救援するにしても、かなり後になる。
私とグリン・フィスだけだったらさすがに私も動かなかったけど、サラ率いる精鋭100名がいる。
好機だと思った。
だから、動いたのだ。
「サラ、大丈夫よ」
「……」
「サラ」
「大丈夫なのは分かったけど、馬鹿げた行動だっていうのは理解してるわよね? 敵の本拠地に突入することがさ」
「ええ。クレイジーよね」
「やれやれ」
裏庭を周り、正門に、そしてタワー入口に。
扉は開いている。
正門もタワーも。
レイダーはいない、やはりおかしい、確実にこちらに気付いているはずなのに。
だけど進むしかない。
ゆっくりと。
それでいて慎重にね。
「行きましょう」
「主、自分が先行します」
「任せた」
「御意」
タワーの中に飛び込むグリン・フィス。
私たちはその場に待機しているけど……扉が開いているわけだから中が見える。死体だらけだ。
お昼寝中には見えない。
何がどうなっているんだ?
「主」
グリン・フィスが手招きする。
私たちは中に入った。
周囲には敵はいないけど油断はできない状態だ。敵の本拠地というのは周知の事実だけど、この死体の山の意味が分からない。死屍累々。以前タワー一階に屯っていた面々だ。
スマイリング・ジャックも死んでいる。
頭に穴が開いて死んでる。
目は見開き、物欲しそうにこちらを見ていた。
何故死んでるんだ?
「ミスティ、これはどう思う? 彼らはここの客なの?」
「タワーを差配していた連中よ。何で死んでいるかは不明」
ジャックたちは人狩り師団と契約してここを貸していただけ?
それとも、仲間割れで処分された?
「まあいいか」
結果は結果として受け入れよう。
強欲なジャックおじさんが死んでる。
スーツ姿の私兵たちもだ。
今は他のこと優先するべきだ。
魔窟の住人たちを掃討する、それが急務だ。
「ミスティ、こっち」
「ん?」
サラに呼ばれて行ってみる。
エレベーターが開いている、そして中には死体。ここには死体が溢れてるから、別に珍しくもないんだけど……誰だ、これ。
ボルト101のジャンプスーツ、PIPBOYの死体がある。
男性だ。
「知り合い?」
「何とも言えない」
全員と知り合いってわけではないけど、顔を見たって程度の知り合いではある。何しろあんな閉鎖空間だし。だけどこいつは誰だろう、すぐには思い出せないな。
見たことあるような、ないような。
「ミスティ」
「知らないかも」
考えてみたらアンソニーみたいなボルトマニアがコスプレしてるいぐらいだし、この恰好しているからといって必ずしもボルトの住人ってわけではない。
101のナンバリングを背負ったジャンプスーツは着てるからってそこの住人って根拠にはならないし。
でも調べる必要はあるな。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
な、なんだぁ?
背後から爆音。
「サラ隊長っ!」
BOSの兵士の1人が叫ぶ。
扉をぶち破り巨大な移動物体がフロアに突入してきていた。
「こ、これは」
見覚えがあるぞ、これっ!
鉄板で補修されているけど穴が開いていた箇所がある、豆タンク。
これバザーのだっ!
人狩り大隊長が人狩り号とか呼んでた、レッド・フォックスが対戦車ライフルで吹っ飛ばしたやつだ。改修したのか。タワーの門外に待機してたのか。にしてもこんなの室内に投入してくるなよっ!
やばい機銃がやばいっ!
「総員退避っ!」
サラが叫ぶ。
ドドドドドドドドドドドドド。
同時に機銃が掃射された。
この掃射の前ではパワーアーマーと言えども数秒耐えれる程度だ。弾かれるように2人が吹っ飛ばされた。サラたちはレーザーライフルで応戦しているものの効きが悪い。
対レーザー処置の装甲か何かか?
そんなのがあるのかは知らないけどさ。
私のターンだ。
「こんのぉーっ!」
ドン。ドン。
ミスティックマグナムを引き抜いて連発。
パワーアーマーすら貫通する一撃。戦車の装甲も貫通、するかは知らないけど、鉄板で補強している部分は雑な補強だし、正規の装甲ではない。ただ穴を塞いでいるだけだ。
実際、鉄板を貫通。
動きが止まる。
やったか?
ガタン。
補強というよりは穴を適当に塞いでいただけなのか、しばらくすると鉄板が床に転がった。
戦車に動きはない。
「展開」
この間にサラはBOSの部隊を展開させる。取り囲む兵士たち。
さらに待機している軍を無線機でこちらに呼ぶ。
陣取りゲームの要領ですね。
焦らず少しずつ陣地を増やして行くことが肝心。
結局強欲なジャックおじさんは何だったんだろうな。
上層にいたのが人狩り師団だとは知っていたはずだ。仲間だったのか、ただの長期宿泊者として受け入れていたのか謎ですね。何故私兵もろとも皆殺しにされているのかも。
悪人ではなかったけど、金にうるさ過ぎた。
それ故の結末なのかな。
「主、どうしますか」
「ハッチを開けて確認するしかないわね」
豆タンクは動かない。
攻撃してこないのは中の奴が死んだのか、攻撃能力が失われたのか。サラが手で合図するとBOSの兵士たちが取り囲む。
「くそっ! よくも俺のオートマタMr.5をっ!」
中から声がした。
知ってる声。
またかよ。
元ストレンジャーのマシーナリーか。
だけどMr.5って、既にロボですらないだろ。まあ別にいいんですけどね。少なくとも今まで一番強いのは確かだ。沈黙したけど。
「今回は何の用?」
「貴様だけは殺さなければ気が済まんっ!」
「もう依頼すら関係なくて私怨ってこと?」
「お前を殺した時、中国は開放され、世界は偉大なるチャン総書記が世界を総べるのだっ!」
「意味の分からないことを」
どうやら完全に頭の中身を戦前に置いてきているようだ。
ガンスリンガーもそれっぽいこと言ってたし。
にしても私を付け狙うほどの因縁ないだろ。
そもそも一番最初にトンネル・スネークにボコボコにされたんだろ、私は二号さんでいいから向こうと遊んで来いよ。ブッチたちに勝てるとは思いませんけどね。
「やれやれ」
因縁は断ち切るに限る。
話し合いは無意味。
「誰かグレネード頂戴」
私は面白くなさそうに呟き、BOSの兵士の1人が差し出したグレネードを掴むとタンクに近付く。
機銃で撃ってこないのは私の銃撃で電気系統がイカれたのか、銃撃がマシーナリーに当たったのか、そのどちらかだろう。
「今から中国まで吹っ飛ばしてあげるわ」
「何だとっ!」
「うるさいうるさいうるさい」
因縁深めるつもりはない。
これでThe Endだ。
そもそも何の因縁もないわけですけど。
手榴弾のピンを抜いて穴の中にそれを放り込んだ。
数秒の間。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
タンクから黒煙が立ち上る。
助からないだろ。
助かるわけがない。
とりあえずこれでマシーナリーは死んだ。タンク内という密閉状態でグレネード放り込まれたら避けようがない。
死亡確定です。
何だって人狩り師団とつるんでたかは不明だけど、死んだ以上、どうでもいいことだ。
「隊長」
その時、無線で呼ばれたBOSの兵士たちが室内に入って来る。
未だかつてない殴り込みの仲間の数。
今まで?
少数での戦いが強いられていたでござる(号泣)
BOSの精鋭100人だ、随分と楽が出来るだろう。
今のところ人狩り師団からのアクションはない、マシーナリーが出て来ただけで兵隊が出てこない。何を企んでいるんだろ。
「主、どちらに?」
「エレベーター調べる」
あの死体が何なのか調べたい。
サラは兵士たちに指示していて忙しそうだし、人狩り師団が攻撃してきても即座にBOSが対応してくれるだろう。つまり調査している時間があるってことだ。
「ちょっと、手を貸して」
サラがグリン・フィスを呼ぶ。
彼は私を見て、私が頷くと一礼してサラの元に向かった。律儀な奴だ。
さてさて、エレベーターの中。
「死因はこれか」
心臓撃たれてる。
死んでるのは確かだ。まあ、素人が見ても死んでるのは分かりますけどね。
「んー」
しっかし誰だこれ。
ボルト101の住民全ての情報を知っているわけではないけど、顔を見たことある程度には面識がある。閉鎖空間だったし。
でもこんな奴知らない。
ケリィみたく私が知る前に脱走した人か、それとも私がただ記憶していないだけか。
着ているのはボルト101のジャンプスーツ。
これは別に模造できる。
模造する意味があるかは知らないけど。
ただ、PIPBOYは純正品だ。
持ち出したのがボルト101なのかほかのボルトの物かは知らないけど本物のPIPBOYだ。これは模造できる代物ではない。外観だけ同じものなら作れるけど……。
ピッ。
弄るとちゃんと動く。
本物だ。
「あれ?」
この状況ヤバくね?
ここは敵の本拠地だと想定しよう、まあ、実際拠点でもう間違いないだろ。
ともかくだ、ここは敵の拠点。
当然連中が支配している。
配置も思うが儘。
わざわざボルト101の住人でございな死体が思わせ振りな状態でエレベーター内にある。この時代レアなPIPBOYをご丁寧にした上でだ。
つまり?
つまりっ!
「あっ、やばいっ!」
ガタン。
くそ、遅かったっ!
エレベーターの扉が閉じ、上昇を開始した。ボタンを押すけどどれも反応しない。
私としたことがっ!
わざわざボルト101のジャンプスーツとPIPBOYをした死体が、ボルト101と縁も所縁もないテンペニータワーのエレベーター内に放置してあったら?
調べるでしょうね。
私が率先して。
これは私の好奇心と煽り、誘導する罠だ。
そしてそれに引っ掛かった。
お馬鹿さんでした。
うー。
「となるとただの餌か」
この死体が誰かは知らない。
ボルト101の誰かなのか、全く関係ないのか、それは知らない。それは知らないけど、私をエレベーターに誘い込む罠であり、その餌であることは確かだ。そしてエレベーターは上昇してる。
何を意味する?
答え。私を誘い出して殺す。
……。
……馬鹿だなぁ、本当に。
能力者だからって自分に自信があり過ぎのも問題ありだ。大問題。特に意識してそうなったわけではないけど、結果としてそれが証明されてる。
テンペニータワーは高い。
エレベーターは完全に敵に支配されてるからBOSの増援は期待できない。
来るにしても階段を突破してでのことだから、すぐには宛に出来ない。
敵の本拠地だし兵隊もたくさんいるだろう。
かといってBOS100名でのここへの奇襲が間違っているかと言われれば、それは間違いとは言い切れない。人狩り師団の大半が出払っているのだから電撃的に攻撃するのは間違ってない。
人狩り師団も馬鹿じゃないから私たちの備えもしてある、今の私の状況がそれだし。
ただ、本気で来るとも心底では思ってなかったのだろう、心底そう思ってたなら迎撃にもっと出て来たはずだ。
半信半疑の所に私たちが飛び込み、私は罠に掛かりました。
さてさて、どう引っくり返す?
「よし」
装備の点検をし、完了。
罠には掛かったけど私1人に全兵隊をぶつけるわけでもあるまい。少数の精鋭が手ぐすね引いて待っているのだろう。
それを潰すだけの自信も実力もある。
掛かってこいやぁーっ!
「死ね、ミスティっ!」
「はっ?」
気合を心の中で入れた直後にすぐ近くで声がした。
真後ろ。
敵がいるっ!
ググググググググググ。
後ろから首が締められる。さすがにこれは想定してなかった、まさか息を殺してエレベーター内に潜んでいたとは。だけど姿はなかったぞっ!
姿はなかったけど現に締められ、息が出来ないっ!
「くっ!」
相手の力は容赦がない。
完全に殺す気だ。
まあ、それは分かってる。
だけど姿が完全になかった、締められながら首を可能な限り動かして目線を移すものの何もない。
誰もいない。
いや、誰もいないわけじゃない。現に締められてるわけだし。
これは、透明化してる?
デスか?
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
叫びながら体を後ろに押し付ける。
壁にぶつかった。
何度も体を壁に押し付ける。
その度に呻き声がする。
相手を私と壁のサンドイッチにして何とか脱しようとしているものの、相手もそうさせまいと私の首を絞め続けている。ただ、少し緩んだ。酸素の供給が再開される。
もう少しっ!
「こんのぉーっ!」
壁に叩きつけ、そのまま後頭部を後ろに大きく振る。
ガン。
「くそっ!」
これは効いたのか、拘束が完全に消えた。
離れたっ!
直後、エレベーターの扉が開いた。
何だこのフロア、何もない広いフロアだ。戦前は何らかの販売フロアで仕切がなかったのか、いや、仕切はあったのか、全ての部屋を撤去したフロアのようだ、たぶん戦後にこういう仕様になった模様。
破壊した壁の跡が床に残っていて段差がある。
何か異様に匂うけど敵はいない。
隠れようがないフロアだ。
上下の階段があるだけ。
私はエレベーターから脱し、エレベーター内にアサルトライフルを掃射。
相手は透明化しているから手応えは分からない。
……。
……いや、手応えはないのか。
血痕がない。
エレベーターはしばらくすると閉じ、移動して行った。
「はあはあ」
逃げた?
それとも降りた?
「はあはあ」
私はエレベーターの扉に背を預ける。
相手はデス?
マシーナリーが人狩り師団と組んでいたようにあいつもここにいる?
前回は凄腕先生として雇われてたし人狩り師団側でもおかしくはない。ただ、透明化する中華製ステルスアーマーは偽中国軍騒動の際にクリムゾンドラグーンが着ていて複数あること分かってるし、
必ずしも透明化しているのがデスというわけではないか。何らかの手段で手に入れた別口の可能性もあるし、簡易型透明化装置のステルスボーイというのもある。敵が誰かは特定できない。
問題は誰か、ではなく、ここにいるのか、だ。
PIPBOY3000の索敵システム起動。
ピピピピピ。
近くにいる。
そして気付く。上層の階段から下りてきた人影に。
それは……。
「久し振りだな、赤毛の冒険者」
「ジェリコ」
黒いレザーアーマーら44マグナムを腰にぶら下げた禿男。私を強制的ピット送りの件で因縁があったけど、接点があるのはそれだけだ。
久し振りの登場ですね。
にしても何だってこいつがここにいるんだ?
ジェリコは傭兵。
以前は偽ワーナーに雇われていた。その後ピットでの動乱の末にタロン社のカール大佐を護衛する形で退場。私との接触は完全にこれだけで何故12の刺客を差し向けられたのかは謎。
逆恨みも良いところだと思う。
私の知る限りではベルト87に用があるデズモンドに雇われ、ランプライトを強行で通り過ぎようとしてマクレディ前市長たちに敗北、ボルト87に捨てられ、私がルックアウトに行っている間に色々と
暗躍してたとも聞いてる。考えても別に恨まれることはしてないような気もする。ピットの件は、むしろ私が恨む事案だろ。
「まさかと思うけど、カールの差し金?」
「カール? ああ、あいつか。あいつは連邦に引き渡して契約お終いさ」
「ふぅん」
どうして連邦が出て来るのかは知らないけど、まあ、別にいいか。
カールが関わってるとは思ってない。やり口がらしくない。
あくまで念の為に聞いただけだ。
「12の刺客はお終い?」
未だにイーターは見たことないけど。
少なくとも大半は死亡、大半は逃亡、12の刺客はイーター以外は壊滅したはずだ。
「マシーナリーともども人狩り師団に鞍替え?」
「マシーナリー? あいつは俺より先にここにいたぞ、前金も返さず鞍替えしやがった」
「地獄まで取り立てに行くことね。送ってあげようか、片道でさ」
「この世界も地獄さ、だろ」
「何がしたいわけ?」
「つまらねぇんだよ」
「ん?」
「この世界、実につまらなくなったと思わないか?」
「いや、別に」
「だろうな。全部はお前の所為だからな」
「はあ?」
言っている意味が分からない。
分かる必要もないけど。
「その辺にしなよ、別に話がしたいわけではないだろ」
「ああ、あんたもいたのね」
「やあ、お姉さん」
オラクル・ベリー。
こいつもここにいるのか。
「久し振り。会いたかったよ、お姉さん」
「私も」
「わぁい☆」
「そういう演技はもういらないのよ。決着を付けたかったから、会いたかっただけ。その後は永久に会わないようにしてあげる」
「それが出来たらね、お姉さん」
ここがこいつの巣なのか。
隣に金髪の女がいる、見た感じの顔が老けた感じ……ああ、たぶんブラッド・ベリーかな、ベリー3姉妹に似てるし。
ブルー・ベリー大佐の行方不明の妻、オラクルと一緒にここにいたのか。
「何でここにいるわけ?」
「何でだと思う?」
「節操なく人狩り師団に尻尾振ってる」
「あははは。違うよ。たださ、これでも200年生きて来たから思うんだよ、人狩り師団長は悪のカリスマだってね。手を貸すのも面白いかなって思ってる。ジェリコはベリー家に依頼する立場だっ
たけど、別にここに来たのは話し合ったってわけじゃない。あくまで偶然さ。悪のカリスマの吸引力ってやつだよ」
「ああ、そうですか」
「さらに」
パチン。
オラクルが指を鳴らすと……今度はレイダーか?
7人のレイダーが降りてくる。
幹部クラスには見えない。
どう見ても一山幾らの、見慣れたレイダーファッションと髪型の面々だ。俺たちは雑魚さヒャッハーが個性だと全身で主張している。
「少ないわね。扱える手下はこれだけってわけ?」
「ナッツ家だよ」
「はあ?」
「僕の体でベリー家を作れるわけないだろ。数代前の体で作った一族なんだよ。ナッツ家もそうさ、別の体で作った一族だ」
「ああ、そうですか」
ベリー家は女系。
ナッツ家は男系の模様。
だけど同じこと。
等しく死体になるだけだ。
「この部屋なんか臭いけど」
「ああ、だろうな。ここは個室の壁取っ払って人狩り師団の手下どもが雑魚寝していた場所だ。お前を待ち受ける為に、ベッドロールは片付け済みだよ」
「ふぅん」
ジェリコがつまらなさそうに呟いた。
雑魚寝部屋、ね。
つまりこれはレイダーどもの体臭ってわけか。
臭うなぁ。
「ジェリコ、僕からやらせてもらうよ。僕で最後になるけど、いいよね?」
「好きにしな」
私は周囲を警戒する。
エレベーターの透明野郎が近くにいる可能性がある。
「お姉さん、その体貰うよ」
「ポイズン・ベリーは始末したけど、誰が手術するわけ?」
「ブラッドさ」
「そもそもその技術はどこの技術?」
脳を移植して体を入れ替える、戦前だって可能かどうか怪しい技術だ。可能にしても、最先端過ぎる。それが今の時代でも維持できるものなのか?
まあ、カルバート教授も自分の脳を機械の体に移植してたし可能と言えば可能なのか。
「ビッグ・エンプティの技術さ」
「またそこか」
核が撃たれたのもそこだ。
「でも入れないんじゃないの?」
「どこにだって抜け道はあるものさ」
もっとも、どうでもいいんですけどね。
オラクルは一番手を買ってでてるけど、ブラッド・ベリーもいるしナッツ家もいる。ダラダラ話しているのは私の手だ、つまり相手を出し抜く為に時間稼ぎしている。
聞きたいことは聞いた。
そろそろいいだろ。
攻撃開始だ。
Cronus発動っ!
どくん。
どくん。
どくん。
脈打つ心臓をBGMにアサルトライフルを掃射。
時間解除。
「死んどけ」
弾倉は空になったけどその場にいる全員が後ろに吹っ飛んだ。ジェリコにも弾丸を叩きむ。論じ合うつもりも今までの舞台裏とかも聞くつもりはない、排除してしまえばそれでお終いだ。
全員が倒れた。
ただし、オラクルを除いて。
「消えた」
奴は前回足にインプラントだかを組み込んでいるとか言ってたな、それで高速で動いているのだろう。
アサルトライフルを構える。
姿はない。
楽しげな声だけが響く。
「僕は足にインプラントを埋め込んであるんだ、この超加速は一度始めたら僕ですら制御できない速度っ! これでお姉さんもお終いさっ!」
「へー、それはすごいー(棒読)」
「ふふんっ! 弾丸しか見えないのにそんな余裕があるなんてさすがだねっ!」
「弾丸しか見えない私の体奪ってどうするのやだー(棒読)」
「……恐怖でどうかしちゃった?」
「だるいだけ。ちょろちょろ動いてないでとっとと来なさい」
「僕の力を……っ!」
「はいはい御託はいいのよ」
「ふんっ! こいつでお終いさっ!」
「やれやれ」
来たっ!
銃底を何もない虚空に叩きつける。
ガンっ!
鈍い衝撃が響く。
デジャプですか?
ウェスカーの時もこんな感じだったなぁ。
「ハイ。久し振り。元気だった?」
「な、に」
「車は急には止まれない。そんな勢いで突っ込んで来て避けれるわけないでしょ、あんたがね。そしてその速度、勢いがついて随分と痛いでしょ?」
「ま、待とうよ、少し待とうよ」
転がるオラクル。
アホが。
自分でも制御できない速度なんて、ただの暴走でしかない。現に回避も出来なかった。方向転換すらできないんだ、当然ね。
直線でしか動けないのであれば意味がない。
「み、見えてたの?」
「勘」
リーヴァー化したウェスカーの時と同じだ。
私は弾丸以外はスローには見えない、見えないけど、何となく分かる。
何故って?
人類規格外ですもの、楽勝ですわ、おほほ。
「ここまでね、ベリー家」
「くぅっ!」
動けない模様。
でしょうね。
彼は気付いていないみたいだけど頭が割れてます。
「あんたとの生活は楽しかったわ」
「ちょっ、は、話し合おう」
「だけどそれももうお終い。その顔は見飽きた、その存在も。そろそろ退場を願おうかしら」
「僕は子供だよっ! う、撃てないでしょ。……撃てないよね?」
「見た目は子供、頭脳は化石爺。その名はオラクル・ベリー。見た目子供でもどうせ中身は胸糞悪い化石爺じゃない、何か問題が?」
「ま、待ってよ、お姉さんっ!」
「バイ」
左手でミスティックマグナムを引き抜いて引き金を引く。
ドン。
頭が吹き飛ぶ。
ベリー家完全壊滅。ああ、あとナッツ家も。名乗りすらあげさせずに倒したのは問題あったかな、だけどナッツ家って、きっとカシュー・ナッツとか恥ずかしい名乗りをするんだろう。
どうせ瞬殺するつもりだったし問題ナッシング。
さて。
「進もうかな」
「俺を倒したらな」
「ジェリコ」
こいつまだ動けるのか。
弾倉交換。
右手でアサルトライフル、左手にミスティックマグナムを構える。
あれ?
傷がない、血が出ていない。
「何した?」
「さあな」
どんな隠し玉があるんだ?
そういえば。
私がルックアウト行っている間にケリィに爆殺されたって聞いたな、どうして生きているんだろ。
「ジェリコ」
「ん?」
「あんたまさかアンドロイドか何かにした?」
教授みたいな感じか?
「生身さ」
「生身ねぇ」
「さて、そろそろ死んでもらおうか」
「私がそれを受け入れるとでも? あんたは本当に何がしたいの? 前とキャラ違う。まるで別人。人狩り師団に何を吹き込まれた?」
「人狩り師団の思惑なんざ知ったことじゃねぇ。今の俺は何も楽しめない、そうさ、楽しめないんだ。だからてめぇを殺して世界を元に戻す。混沌とした世界にな。そうすれば楽しめると思うんだよ。
誰も今の世界を本当は誰も認めちゃいない。ただ惰性で流されてるだけさ。お前が死ねば皆思い出す、そうとも、思い出すんだ」
「訳の分からんことを」
「とっとと片付けちまいな」
また何か出て来た。
筋肉質の、褐色の肌の女。レオタードに肩当て。ハイヒール。武器は何も帯びていない。どこかで見た感じの姿だな。
その隣には中華製ステルスアーマーの人物。
あいつはエレベーターにいた奴か。
こいつも無手。
雰囲気がデスとは違うから別人か。
私は肩を竦めた。
「幹部大集合、痛み入りますわ。一網打尽にして欲しいってことよね?」
「ふふん。威勢がいいね」
「そりゃどうも。えーっと、誰だっけ?」
「マダム・マッスル」
「マダム・マッスル?」
液体の入ったペットボトルを手で振っている筋肉質の女性は、マッド・マッスルと名前が似ている。えっ、マッスルってもしかして姓なのか?
そしてその格好。
もしかしてイヴたちクローン……ああ、そうか、こいつがマダムなんだ。
今まではレイダーの方のマダムがクローン騒動の元凶だと思ってたけどマダム違いか。
イヴには悪いことしたな、マダムは死んだって言って。
まあ、結果は同じですけどね。
敵対した以上は殺し合いってことだ。
まさか今から仲良く歓談ってわけでもあるまい。
「兄上がお前なら首を突っ込むと言っていたけど、まさか本当に来るとはね。用意はしていたとはいえ兄上も本当に来るとは、さすがに思ってなかったみたいだけど」
「期待に沿えるのか逆なのかは知らないけど、幹部大集合してくれたから蹴散らすわ。そしたら終わる。話は至極簡単よね」
やり易いようにしてくれた。
ネーム付きの敵が集結してくれるなら実にありがたい。
モブではない幹部クラス。
蹴散らすとしよう。
「魔窟の住人には退場願うわ」
「俺からやらせてもらうぞ、マダム・マッスル」
「好きになさい、ジェリコ」
「そうさせてもらう。さあ、誰もが心底では望む悪の時代の始まりだっ!」
VS幹部戦、スタートっ!