私は天使なんかじゃない
火蓋
勢力図塗り替え戦、スタート。
「核発射、か」
バニスター砦の外。
BBアーミーは完全降伏した。一部が、というか、大半がだ。大部分は中途採用組で、元々タロン社でも何でもない連中だったわけだし、それも当然かな。普通に警備会社に就職した連中だった模様。
まあ、いいことですね。
安定するまではBOSの管理下になるんだろうけどBBアーミーは存続し、警備会社として各街を護り続けるわけだ。
問題は……。
「どうなるのかなぁ」
「どうなるのですか?」
傍らに立つグリン・フィスが聞いてくる。
私の側には他には誰もいない。
「どうなるって、ヤバイでしょ」
「どうヤバいのですか?」
核の威力を知らないのかな。
「どの程度の威力が?」
「大きな街が吹き飛ぶ」
「メガトンのような?」
「何倍もの規模の街が、吹き飛ぶの」
「それは恐ろしいですね」
「でしょ」
サラたちBOSは忙しそうだ。
偽装降伏のBBアーミー兵士もいないとも限らないわけだしBOSはピリピリと警戒してる。
少し離れた場所でサラはスーツの男性と話をしてる。
会話は聞こえない。
あれがSEEDって機関の人間なのかな?
スーツ男の後ろには、同じくスーツの女性と小太りの男性がいる。計3人。
ごろごろ。
「うー」
お腹が痛い。
ここに来る前からだ。
変な物食べたか?
200年前の代物ということを抜きにして、何か妙な物を食べたか?
……。
……賞味期限が全てですね。
おおぅ。
能力の使い過ぎか?
んー、能力の使い過ぎは偏頭痛であって、お腹には来ないなぁ。少なくとも今までそんなことはなかったし、別に今回そんなに無茶な使い方はしてないだろ。
マッド・マッスルも相手の自爆に近い形で倒せたし。
「主、顔色が優れないようですが?」
「分かる?」
「はい」
「お腹痛い」
「……」
「何故に沈黙?」
「い、いえ、避妊はしているわけですけど……」
「死ね」
バリバリバリ。
アサルトライフルを宙に向けて乱射。
BOS、BBアーミー、一同慌てる。
いきなり撃ちましたし。
「死ねっ!」
「あ、主、ユーモアです」
「経験すらまだだわっ!」
空気が凍りつく。
うわぁ何か変なこと言っちゃったかもー。
あっははー☆
「グリン・フィス」
「は、はい」
「私の言うことは、絶対よねー?」
「ぎょ、御意」
「グレネード弾食って死ねーっ!」
「お許しをーっ!」
乙女のトップシークレットを大きな声でカミングアウトしちゃったー☆
あっははー☆
「全員死ねーっ!」
「ちょっ! あんたたち何やってんのよっ! BOS、ミスティを止めてっ!」
ぐだぐだです。
ぐだぐだ。
おおぅ。
バニスター砦の核発射から1時間後。
メガトン。
街中にサイレンが鳴り響く。
<レイダー警報発令っ! レイダー警報発令っ! 住民は速やかに避難してくださいっ! 繰り返します、避難してくださいっ!>
警告を打ち消すような銃撃音。
ミスティたちは今だバニスター砦にいる。その不在を衝いての攻撃、ではあるが、これは計画的な攻撃だった。そうでなければ人狩り師団が発射1時間後に襲撃などしてこれるはずがない。
そしてこれはメガトンだけではなかった。
まだ市長は知らないものの他の街も攻撃を受けている。
「戦える人数を正面の門に集中させろっ! 物見台から銃弾をお見舞いしてやれっ! ビリー、お前は門を頼むっ!」
「分かった」
「全員、街を護るぞっ!」
『おうっ!』
市長であるルーカス・シムズが怒鳴るとビリーは兵士たちを連れて門に向かって行く。その場に取り残される市長。
出せる戦力は門に集結させた。
門が破られない限りはメガトンは不落だし、仮に破られても兵の数は充実している。
備えは出来ている。
以前とは違う。
そう。
ミスティが来てからメガトンは、いや、キャピタル・ウェイストランドは変わった。
各街々には固有の戦闘員以外に、共同体の警備兵、レギュレーター、雇われているBBアーミーの兵士等戦う人数には困らない。
戦える備えはあるのだ。
特にメガトンは周囲を金属の壁で覆われている。侵入するには正面の門を超えるしかないが、物見台にはBOSに譲渡されたミニガンが配備されている。
ただ……。
「ルーカス・シムズっ!」
「アッシュ、モ二カ」
レギュレーターの2人が駆けてくる。
現在街にはブッチたちは不在であり、戦力的に心許ない状態だった。防衛の人数こそ問題ものの、個々の戦力はトンネルスネークには及ばない。何だかんだでトンネルスネークは強力な戦力なのだ。
「ソノラにこのことは?」
「報告しました。各街々に向けて本部から出発したとのことです」
「各街々?」
「そうです、ルーカス・シムズ。ソノラが言うには、リベットシティ、ビッグタウンも攻撃対象とのことです。現状では他の街は被害にはあっていないようですが」
「何ということだ」
各街々も攻撃される可能性もある為、恐らく救援には来れない。
ミスティたちはおらず、トンネルスネークも不在。
BOS主力も現在バニスター砦にいる。
ただの偶然?
それとも……。
「計画的と見るべきか」
そう。
これは全て計画的な行動。
人狩り師団は核発射直後に各街々に対して攻撃を開始している。
つまり付近に戦力を潜ませていた、同時攻撃を開始した、これは全て計画あっての行動。
「ん?」
市長は耳を澄ます。
銃声が門付近以外にも聞こえたからだ。
そして叫び声。
見ると血塗れの警備兵が叫んでいた。
「市長、レイダーが、レイダーが壁を登って次々と……っ!」
そのまま倒れる警備兵。
絶命している。
メガトンに入るには門を潜る必要がある、警備強化の為に物見台があるが、それはあくまで門にあるだけで、街の周囲にあるわけではない。
銃声は街中からもしているのだ。
これが何をするのか?
「侵入、されただと」
レイダーが既に壁を越えて街に入り込んでいる。
絶対の防御力の街、メガトン。
にも拘らず侵入を許した。
つまり。
つまり壁を絶対だと過信するあまり周囲は敵に囲まれていてもそれを視認することすらできない。
アッシュは毒づいた。
「マジかよ。命なんていらないってことか?」
壁をよじ登る、言うのは簡単だ。
ただ壁の高さは数メートルに及ぶ。到底重火器なんて持って登れるものではない。なので自動的に所持できるのはピストルなどの小型拳銃に限られる。それで侵入したところで返り討ちにあうのは明白だ。
であるのに侵入してくる。
命を最初から捨てている、そう見るべきだ。
「アッシュ、モニカ、頼む」
『了解っ!』
駆けていく2人。
入れ違いに市長の元に来る女。
「どうした、オフロディテ」
「レイダーが、レイダーが街に火を放ち始めていますっ!」
「くそっ! 好き勝手やりおってっ!」
「逃げ遅れた人たちは酒場に一時避難してます」
「酒場、問題はないのか?」
「受け入れてくれています。それと、用心棒の、えっと」
「ガンスリンガーか」
「そ、そうです、彼がレイダーを次々と倒しています。なので、その、大丈夫です」
「奴は元ストレンジャーだからな」
強いに決まっている。
ただ、ミスティが相手だったから遅れを取るだけで、レイダー程度が叶う相手ではない。
「オフロディテ、お前は酒場に行け。俺は踏み止まる」
「わ、分かりました」
「レイダーどもめ。ここは俺たちの街だ。好きにはさせんっ!」
同刻。
再びバニスター砦。
「えっぐ。えっぐ」
「主、泣かないでください」
「ヴるざいー」
膝を抱えてなく私。
何があった?
黙れーっ!
「えっぐ。えっぐ」
「ミスティ、紹介するわ。この人はSEEDのアレックスさん……って、何で泣いてるの?」
「自分にも何が何だか」
サラがスーツの男を伴って私の側に。
話がまとまったようだ。
濃紺のスーツにサングラス、スーツの下には銃があるようだ、ふくらみがある。従がう男女も同じ格好。戦前ならともかく、今の時代、お揃いでそんな格好をするのがSEEDであるならば、資金は潤沢なようだ。
何故って?
時は全面核背卵巣から200年後。
仕立て屋なんかどこにもない。あったとしてもレアだ。お揃いでそんな恰好をする、それは相当な資金力を意味する。
だけど。
だけど今の私は傷心なのだ。
「えっぐ。えっぐ」
「ミスティ、核の発射場所をアレックスが……何なのよ、さっきから」
「……サラ」
「どうしたのよ、ミスティ」
「……私、もうダメ」
「はあ?」
「……私はもう女としてダメなのよ。えっぐ。えっぐ」
「……何だか分からないけど、意外に面倒臭い部分もあるのね、ミスティ」
「面倒臭いって何よーっ!」
「もう、何なの」
「耳貸して」
「もう、何よ」
顔を寄せるサラ。
私は彼女の耳元に囁いた。
「ごにょごょ」
「はあ?」
「だから、ごにょごにょ」
「さっきトイレ行ったらおしっこが青かった?」
「口に出して言うんじゃないわよーっ!」
死んだ。
私の人生死んだっ!
うわーんっ!
「あらぁ。ミスティちゃんは青いおちっこが出て泣いているんでちゅねー。……可愛いねー、食べちゃいたいわぁ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
「あ、主が心の底から泣いている」
「マジ泣きしてるわね、ミスティ。大尉、からかわないであげて」
「分かったよぉ」
BBアーミー残党、いや、新生BBアーミーと言うべきか、そいつらを束ねる立場に繰り上がった肉欲のサンディ大尉が遠くからそう茶化した。
お前は自分とこの兵を束ねとけやーっ!
がるるぅーっ!
あっ、良いこと考えた。
「……いや待てこの場にいる連中全て消せば私の汚点は残らないウへへ……」
「……随分と、キャラ変わりましたね、主」
「……はあ、分かったわよミスティ、悪かったわ。それで? 何か変な物でも食べたの?」
変な物。
さっきからずっと考えてた、お腹痛かったし。
トイレ行ったら治ったけど。
ま、まあ、青かったんですけど。
変な物かぁ。
変かどうかはともかくとして、いつも食べているものだしなぁ。
今までこんな症状はなかった。
何なんだ?
「主、そういえばギルダー・シェイドで青いコーラを貰ったのでは?」
「あー、ポールソンに貰った」
「青いコーラ? ああ、クアンタムか。なら問題解決ね」
「問題解決? サラ、どうしてよ?」
「クアンタム飲んだら青く輝くものが出るのよ。大丈夫、死にはしないわ。……ぷっ」
「……笑った?」
「いーえ」
「大統領命令っ! BOS、サラを始末してっ!」
「うちの兵士を混乱させないでよ。悪かったわ」
「うー」
青く輝くって、体的にそれはどうなんだ?
キャピタル・ウェイストランドは今日も物騒です。
おおぅ。
「あの、そろそろ本題に入ってもよろしいですか?」
アレックス、と呼ばれていた男性が口を挟む。
ああ、忘れてた。
「アレックス、ミスティにもさっきのことを教えてあげて」
「はい」
物腰の柔らかい人だな、アレックス。
核発射の件を忘れて落ち込んだり騒いだりしていた、わけではないです、はい。
撃ったのがエンクレイブが背後にいるBBアーミーなら慌てもした。
何故って?
エンクレイブは現在分裂している。
要は分裂先のエンクレイブに核ミサイルをデリバリーしたとなると、報復にキャピタルに飛ばしてくるだろう。分裂先のエンクレイブが核を保有しているかは知らんけど、ビクビクすることになる。
だけど核の発射の権限は人狩り師団に奪われた。
連中がどこに撃ったのかは知らないけどエンクレイブほどビクビクするほどではないだろう。
あれから一時間経ったけど特に報復とかないし。
「まずは改めて自己紹介を。私はアレックス、SEEDという機関のエージェントです」
「どうも」
SEED。
核解体を目的としている機関、それはサラにもう何度も聞いた。
別にBOSの一部というわけではなく、あくまで協力関係にあるだけで、本部BOSを裏切ったキャピタルBOSに対して特に何の敵意も持っていないようです。まあ、仲間ってわけではないわけですし。
実績のある機関でサラは全幅の信頼を置いてたな。
今回失敗したのは核ミサイルのコントロールームに至る通路が溶接されて封鎖されていただけであって、核解体作業をミスったわけではない。
核解体技術があったところで物理的に通路塞がれたらどうにもならんもんなぁ。
さて。
「発射は遠隔で行われていました。それはご存知ですよね」
「ええ」
ブルー・ベリー大佐は発射装置を持っていなかった。
彼は現在拘束されてる。
まあ、今更吐かせることもそんなにないだろうけど。
「攻撃地点は?」
「クレーター・ウェイストランド、その中心にあるビッグ・エンプティです」
「ビッグ・エンプティ?」
どこだっけ?
ああ、科学の墓場か。
前にデズモンドに聞いた場所だ。何だってそんな場所に撃ったんだろ。
「そこに何があるの?」
「さあ、基本誰も立ち入れない地帯ですので。なので被害も不明です。一応クレーター・ウェイストランドにも街がありますが、少なくとも狙いはそこではないようです」
「ふぅん」
「話を進めても?」
「どうぞ」
「遠隔で発射された場所を割り出しました」
「そんなこと分かるんですか?」
「はい」
すごいな。
まさにプロフェッショナルだ。
「本来我々は核解体以外の行為はしないのですよ、特定の組織に肩入れすることはないのですが今回だけは例外とさせていただきます。キャピタルに滞在している間はBOSに力を貸すつもりです」
「なるほど」
プライド傷付けられたってわけか。
スイッチオンした場所=人狩り師団所縁の場所、と考えるべきか。
いや、本拠地か。
依然として連中の本拠地が分からないから良い機会ではある。
「どこなんです?」
「キャピタル南部です」
「南部」
ざっくりとし過ぎだな。
「発射装置の起動の条件として、高いところが必要です」
「高いところ」
ざっくりとし過ぎだな。
南部か。
北部にはレッドアーミーがいて、南部には人狩り師団、か。なかなか嫌な勢力の分布図だ。北から潰すにしても南から潰すにしても、動いたら反対側の勢力に背後を攻撃されそうだ。
あー、そうでもないか?
何しろ北部のスパミュはエンクレイブが受け持ってくれてるし、前回カーティス大佐が率いた部隊はそれほど多くはなかった。おそらくレッドアーミーには戦線を維持する戦力が、ほぼ全ての戦力
なのだろう。戦線放り出してこっちには攻めて来れないはずだ。だったら先に南の人狩り師団を潰してから北に備えるべきか。
同時に攻撃できるだけの戦力は、あるにはあるけど、消耗が激しい。
出来るなら豊富な兵力で戦いたい。
兵を分けると思わぬ損害も出るだろう。
まあ、考えるのはエルダー・リオンズとかお偉い連中だろうけど。
「センチネル・リオンズ、報告ですっ!」
その時、慌ただしくパワーアーマー兵士が駆け寄ってくる。
敬礼しようとする兵士をサラは留めた。
「どうしたの?」
「要塞からの緊急通信が入りましたっ! 現在各街々に対して人狩り師団が攻撃を開始しているとのことですっ!」
「何ですってっ!」
「メガトン、ビッグタウン、リベットシティに対して攻勢を強めているとのことです。各街々も備えている状態で援軍は出していないようです。レギュレーターが遊軍として動き始めた、とのことです」
「BOSの精鋭もここに足止め状態ですぐには救援に行けない、クソ、こんな厄介なタイミングでっ!」
「……」
私は黙ってこの報告を聞いていた。
憤るサラ。
対照的に私はどこか冷めていた。
こんな、厄介なタイミングで?
違うだろ。
これは最初から狙ってたタイミングのはずだ。
3つの街に対して同時に攻撃するなんて厄介なタイミングでというレベルではない。核解体の為に動き出すことすら前提に入れて動いていた、と考えるべきか?
「アレックス、SEEDって有名?」
「えっ? まあ、BOSとは長年の付き合いなのでBOS内では誰もが知っています」
「そうじゃなくて世間的には」
「ああ、そういうことですか。西では有名ですね。NCRの頼みで解体したこともありますので。ああ、いえ、私はその件には関わっていませんが。ともかくその件以来それなりに有名です」
「ふぅん」
SEEDは核を嗅ぎ付ける名人、これは間違ってない印象。
人狩り師団は西の連中か?
ありえる。
レッド・フォックスのことを人狩り大隊長は知ってた。
SEEDがBOSを引き連れてバニスター砦に出張ることを知った上ではないのか、人狩り師団の攻撃は。
無人の施設ならともかくBBアーミーが居座っているんだ、BOSは大部隊を投入する、それを見越しての攻撃。手の込んでいる攻撃と言わざるを得ない。
それを想定して人狩り師団は兵を潜ませていた?
おそらくそうだろう。
そうじゃないと、さすがにレイダーどもの移動が速すぎる。
……。
……違うか、レイダーではない、少なくともただの掠奪者じゃない。
考えを改めなきゃ。
連中は軍隊だ。
この流れは完全にキャピタルを奪いに来ているのだ。
「ミスティ?」
冷静な私に不審を抱いたのか、サラは私の顔を覗き込む。
街の攻勢も実に巧妙だ。
メガトン。
ビッグタウン。
リベットシティ。
どの街も攻め辛い街ばかりだ。
周辺を高い壁で覆われたメガトン、高く積み上げられた車の山を周囲に持つビッグタウン、まあ、最近はその周りにも街が伸びつつあったけどさ。そして水に浮かぶ空母のリベットシティ。
何のつもりだ?
わざわざこのチェイスは何だ?
何だってギルダー・シェイドとかスプリングベールとか攻めやすいところをスルーするんだ?
いや攻撃されても困るけど。
だけど人狩り師団の動きを誰も知らなかった、今の今まで。
兵を動かしても分からない?
ありえない。
地下を動いているのではないかという疑問は前からあった、キャピタルの地下に張り巡らされたメトロを移動しているのでないかという疑問はあった。
「ミスティ、ちょっと」
「南、南、南」
考えろ。
人狩り師団は南部から核の発射装置を弄ってる、それも装置の都合上高いところが必要。
どこがある?
あの辺りは岩場もある、崖もある、それでいて地下を通れる場所?
どこだ?
どこ……。
「テンペニータワー」
そうだ。
あそこなら発電施設からメトロに通じていた。地下には開かない扉もあった、そこがテンペニータワーの地下へと通じているのであれば。
従業員用だと言われ立ち入りを禁止されていた上層。
そこに人狩り師団が寝泊まりしてる?
だけど誰もその姿を見ていない。階段で移動するなら客が分かるはずだ。ガラの悪い連中が出入りするわけだから。
エレベーターは強欲な商人に使えない、そう言われた。
エレベーターは使えない?
私はそれを試した?
いいえ。
試してない。
そう言われただけだ。
「サラ、人狩り師団の本拠地はテンペニータワーかもしれない」
「テンペニータワー?」
「そうよ」
「こちらの要請にも協力的だったけど……いずれにしても調査しないと何とも言えないわ。一度要塞に帰還して……」
「それはやめた方がいい」
「何故よ?」
「連中は何らかの意図があって攻撃してる。多分誘っているのね、私たちを。じゃなきゃわざわざ壁や障害物や水に囲まれてる場所を攻撃したりはしない」
「誘ってる? それは飛躍し過ぎだわ」
「そうかもね。でも、要塞に帰還する間に他の街は襲われる、それは確実よ。時間的にロスが出来る。他の街は防御が薄い。アレフ居住地区とメレスティトレインヤードは除くけど。少なくとも
スプリングベールとギルダー・シェイドはアンデールはヤバい。人狩り師団がテンペニータワーを拠点としているなら、今回の攻勢である程度は出払ってる。どう思う?」
「攻撃のチャンスだと?」
「ええ」
カンタベリーは戦力がある。
問題ないだろ。
あそこは商人の街だ、キャラバン隊の本拠地だ。いざその気になれば売り物が武器となり医療品となる、最大の武器弾薬を持つ存在となる。
商人たちが損得ではなく命の危険で物事を考えれば売り物を自分たちで使うだろ。
そうしたら敵はない。
スーパーウルトラマーケットは護り易いし、地雷原は元レイダーだ。問題ないだろ。
だけど私が挙げた3つの街はヤバい。
「ミスティ、さすがにそれは正気ではないわ。真正面からぶつかれば私の部下たちがただでは済まないわ。その案は、乗れない。言いたいことは分かるけど……」
「真正面から? いいえ、地下から行くわ」
「えっ?」
「メトロを通る」
「無謀よ、あの地下迷宮を進むのは。BOSだって未だに調査できていないんだから」
「サラ、私は主人公さまよ?」
「はあ?」
「主人公補正ってね」
「あのね、ミスティ……」
「冗談はともかくとして、メトロのことはメトロに聞けばいいのよ」
「……?」
「メトロの中に住んでる、メトロっていうコミュニティと懇意なの。マックス、いや、マキシー、まあ、どっちでもいいか。ともかく友達に案内頼んでみるわ」
前回テンペニータワーからグールに追われて脱出した際にメトロの住人達の所に出た。
繋がってる、だから侵入できる。
サラはため息。
「どう接触するの?」
「ここにいる部隊引率してメトロに入れば、向こうから発見してくれる」
「それで私たちは何をすればいい?」
「人狩り師団が攻め難いところだけを攻めている理由は正直分からない、分からないけど、手薄だと思わない?」
「やれやれ。馬鹿なことをしようってわけね」
「そういうこと」
「アレックス、テンペニータワーだという確率は?」
「ありますね。場所としては悪くないです」
「ほらね、サラ」
「分かったわよ、その案に乗るわ。エンクレイブが来る前に何とかしないとね」
メトロの住人を通じて地下からテンペニータワーに入り込む。
タワーが広い広いと言ったって従業員用と言われていた上層部にそう多くは住めないだろうし、各街々に展開している部隊を差し引いてもそこまで圧倒的な数はいないだろ。
願わくばメトロの住人も戦力として使いたいけど、それは贅沢かな。
一気に叩きたい。
一気に。
「主、自分はお供します」
「グリン・フィス、ありがとう。期待してる」
「御意」
さあ、そろそろ勢力図を書き換えよう。
所詮は前哨戦だ。
エンクレイブとの決戦前の前哨戦。
人狩り師団には退場願うとしよう。
「分かったわミスティ、馬鹿な提案に乗ってあげる。その代り、負け戦は嫌よ。無駄足もね」
「ええ、期待してて」