私は天使なんかじゃない






運命の意図







  定めなのか。
  気まぐれなのか。






  「センチネル・リオンズ、バニスター砦周辺を完全制圧しました」
  「報告します。BBアーミーの一部がこちらに対して降伏、武装解除しました。指示をお願いします」
  「弾薬庫を制圧完了です」
  「兵舎にBBアーミーの兵士たちが立て籠もり徹底抗戦の構えを見せております。隊長、至急増援をお願いしますっ!」
  「あたしはサンディ大尉。これを聞いているBBアーミーに抵抗をやめることをお勧めするよ。無駄に死にたいなら話は別だけどさぁ」
  「報告。兵舎の残存部隊が説得に応じて降伏っ!」
  「あー、サラ? ミスティよ。ブルー・ベリー大佐の身柄を拘束。発射装置は人狩り師団が持っているらしい。どこにあるかは不明。それで、ミサイル発射は阻止できたの?」
  「サラ・リオンズ、こちらはSEEDのアレックスですが……問題発生です。発射施設への扉が溶接され、封鎖されていて進めません。迂回経路を探します」
  「隊長、こちらはベルチバード3号機っ! 上空から地上部隊の支援をしていますが……ミサイルサイロが開いていきますっ! ……ああ、まずい、発射体勢だ、ミサイルが発射されますっ!」





  衛星中継ステーション。
  ジョン・ヘンリー・エデンを大統領に据える、クラークソン将軍派のエンクレイブ本拠地。
  もっとも、今のジョン・ヘンリー・エデン大統領はオータム大佐の腹心であるサーヴィス少佐が演じているだけであり、実質的な指導者はオータム大佐であって将軍はただの飾りでしかないわけだが。
  大佐の私室にサーヴィスが訪れた。
  「何だ」
  「報告します。発射が確認されました」
  「よしっ!」
  喜色満面を浮かべる大佐。
  核ミサイルの目標はシカゴの地中深くにある軍事要塞ドーン。そこが現在クリスティーナ・エデン率いるエンクレイブの本拠地になっている。
  軍事要塞ドーンは核戦争も想定した造りで直撃にも耐えられるものの、200年の間に耐久度も衰えている。
  一発で全て吹き飛ぶとは言わないが、直撃したら地表ごと本部の何割かは潰れる。
  それがオータム派の最善の策。
  何しろあくまでクリスティーナがエンクレイブのほぼ全てを牛耳っており、オータム派が勢いがあるのはキャピタルだけであって、エンクレイブを冠しているもののオータム派はあくまで地方勢力でしかない。
  だから。
  だからバニスター砦にある核ミサイルを利用した。
  それがあればクリスティーナ側に確実にダメージが与えられ、クリスティーナに不満を持つ者たちに揺さぶりを掛けれるからだ。
  発射が成功した。
  オータムが喜色を浮かべるのも当然とも言えた。
  だが……。
  「その、大佐」
  「浮かないな。珍しいじゃないか。いや、浮かれたお前も想像はできんが、取り乱しているように見えるが?」
  「はっ。実は想定外のことが起きました」
  「想定外?」
  「核ミサイルの制御を人狩り師団とやらに奪われたとのことです」
  「何?」
  「地元勢力のようです。バニスター砦に入れていた部隊は全滅、とのことです」
  「ちっ。ブルー・ベリーめ、裏切る根性があるとはな」
  想定外のこと。
  だが別にオータム側に損害があるわけではない。
  「気に食わないな」
  「さすがにこれは我々も想定外のことでした。申し訳ありません」
  「まあいいさ」
  キャピタル平定の策は既にある。
  軍事要塞ドーン攻撃はあくまでついでに過ぎない。
  そして大佐は特に気にしていなかった。
  そう。
  あくまで自分が大統領に成り上がれればそれでいいのだ。
  「くくく」
  「閣下?」
  「それで核はどうなった? 飛んだのは飛んだのだろう? どこに飛んだんだ?」
  「それが……」





  同刻。
  シカゴ。軍事要塞ドーン。
  大統領執務室。
  「まったく。ようやくキャピタルに向けて私直々に出張れると思えば、オータムめ、余計なことを」
  「クリスティーナ様、早く避難を」
  執務室にはクリスティーナと副官の橘藤華。
  核発射の報は既に届いている。
  キャピタル・ウェイスランドにはリナリィ中尉が密偵として入り込んでいるからだ。
  「クリスティーナ様、お早く」
  「やれやれ」

  ガチャ。

  ノックなしで扉が開いた。
  入ってきたのはガルライン中佐。クリスティヘナの忠実な部下であり、冷静沈着な人物ではあるが、今回の核発射の事態により少々の礼儀が欠いていた。
  「中佐、無礼でしょう」
  橘藤華の叱責。
  たがクリスティーナは悪戯っぽく笑う。
  「私の執務室に無言で入るとは随分と出世したものだな?」
  「はっ? あ、いえ、その……」
  出て行こうとする中佐にクリスティーナを呼び止める。
  「冗談だ。入室をやり直す必要はない。どうした?」
  「報告があります」
  「だろうな。何だ? 大尉が避難を進めている、早急に頼む」
  「内偵中のリナリィ中尉から追加報告がありました。標的はここではないようです」
  「ここでは、ない?」
  「はい。詳細は分かりませんが、オータム側は人狩り何とかとやらに発射の権限が奪われた、ようです。そして現在監視衛星で軌道を計算中ですが標的は……」
  「標的は?」
  「ビッグ・エンプティのようです」
  「ビッグ・エンプティ?」
  聞き慣れない言葉のように、クリスティーナは眉を潜めた。
  それは科学の墓場と称される場所の名前。
  周囲にはシールドが張られ、場所こそ西海岸の人間は誰でも知っているものの迂闊には手を出さない場所。現にNCR、リージョン、BOSも手を出していない。
  エンクレイブもだ。
  「……」
  沈黙。
  あまり沈黙に橘藤華はクリスティーナに耳打ちした。
  「科学の墓場です、閣下」
  「……ああ、あそこか」
  何故そこを狙うのか。
  それは分からなかったが軍事要塞ドーンが狙われていないのであれば特に問題はない。
  「中佐」
  「はっ」
  「リナリィ中尉に通達。どんな些細なことでも報告するように、とな」
  「御意のままに」
  一礼。
  そのまま中佐は退室した。
  「大尉」
  「はい、クリスティーナ様」
  「最近ではビッグ・エンプティと言うのか?」
  「……?」
  「何だ、その顔は」
  「い、いえ。まさかビッグ・エンプティを知らないとは思いませんでしたので」
  「場所は知っている。これでも200年は生きているからな。ああ、正確には200年存在している、と言った方がいいのか。しかしビッグ・エンプティか。時代も変われば、呼称も変わるか」
  「……」
  「そんな顔をするな。私は自分の存在をちゃんと理解している。納得もしている。移動要塞クローラーはどうなっている?」
  「アダムス空軍基地に向けて順調に移動中、とのことです」
  「シカゴ周辺の連中はどうなっている?」
  「他勢力の動きはありません。エンクレイブに匹敵する規模のメッカニアですが、連中の動きも今のところはありません。私見ですが動かないと思われます。全面対決は避けるはずです」
  「だろうな。全面対決になれば我々もだが、メッカニアも損害が大きいからな」
  「国境はクインシィ少佐が固めております」
  「ふむ。ならば問題はあるまい。ミサイル発射で出発がごたごたしたが、我々もそろそろ出るぞ」
  「御意」
  「行くぞ」
  「あの」
  「ん?」
  「これは私事ではありますが、以前はビッグ・エンプティは何と呼ばれていたのですか?」
  「ああ、地球救済センターと呼ばれていたよ」





  キャピタル・ウェイストランド。某所。
  高い高い、屋上。
  「兄上」
  「……」
  「兄上」
  「……ああ、お前か」
  巨漢の男が空を眺めている。女性の声に気付いたものの、振り返りもせずに空を眺め続けていた。
  空には何もない。
  雲一つ。
  「何を見ているのですか?」
  「我々の復讐さ」
  「ミサイルは随分前に飛び去ったと思うのですが」
  「感動の余韻に浸ってってやつだ」
  「発射成功、おめでとうございます。ですが……」
  「ああ。弟が死んだ。だが奴も本望だろう。我々の復讐を成し遂げたのだからな」
  「はい。そう思います」
  「BOSにはSEEDが協力しているという。解体狂いのあいつらのことだ、メンツ潰された報復にとことんBOSに協力することも考えられるだろう。ここを突き止めるのも時間の問題だ」
  「どうしますか?」
  「どうもこうもない。復讐は終わった、ならば今度は野心の番だ」
  「では、いよいよ?」
  「手始めにキャピタル・ウェイストランドを頂くっ!」
  

  人狩り師団との全面対決、開始。