私は天使なんかじゃない






Fallout







  かつて世界は放射能に沈んだ。





  「ぬおーっ!」
  絶叫を上げてBOSのパワーアーマー兵士が宙を舞い、壁に叩きつけられた。
  それが戦闘開始の合図。
  無敵病院で遭遇した頭半分がメタリックの超兄貴は……いや、マッド・マッスルはマッチョエキスで倍加した肉体を誇示、こちらと対峙している。倒れているBOS兵士は動かない。

  ドン。

  宙を漂っているMr.スティールをとりあえず私は撃ち落す。
  バチバチと火花を上げて転がる。
  半殺しにされたお礼だ。
  「あなた、彼の状態を」
  「了解です」
  サラの命令で兵士の1人で倒れている兵士に駆け寄る。
  今のところ3対1。
  こいつが人狩り師団だというのは想定外だったけど、核ミサイルの争奪戦に一体全体どうして人狩り師団が絡んでいるのか全くの謎だ。
  ただ分かったこと。
  それは人狩り師団がレイダーの寄せ集めではないってことだ。
  何らかの意図がある軍事組織。
  私の勘ではBOS、エンクレイブとも別の第三勢力。
  そう考えれば最近の街々への攻撃も合点がいく。勢力拡大の為の戦いなのだ。どうして核が欲しいのかはまでは分からないけど、良い理由ではないのは確かだ。
  面倒なことだ。
  「主、来ますっ!」
  超兄貴が迫る。
  速いっ!
  繰り出される手刀を私は横に転がることで回避、グリン・フィスは回避しつつ抜刀。抜き打ちに斬って捨てるつもりだったようだが大きな腕を広げてぶんぶんと回転。マッチョエキスで筋肉が
  倍加したマッド・マッスルの腕はまるで大木のようでグリン・フィスを寄せ付けない。さすがにまともに当たれば威力がでかいのでグリン・フィスも後ろに引いた。
  接近はしない方がいいか。
  逆に接近さえしなければいいわけだ、相手は接近戦しかできないわけだし。
  「サラっ!」
  「分かってるっ!」
  私は銃撃、サラはレーザーライフルを連打。

  バヂィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  弾かれたっ!
  床に転がるMr.スティールから何かの淡い光がマッド・マッスルを包んでいた。
  フォース・フィールドかっ!
  グリン・フィスが走り込んで転がる残骸を完全に撃破。先にあいつから沈めておいてよかったな、万が一にも連携されたら勝てなかったかもしれない。これでフォース・フィールドの加護は消えた。
  一気に決めるっ!

  ガッ。

  ……?
  突然マッド・マッスルは両拳を床に叩きつけてよつんばになる。
  何だ?
  「ジェットハットっ!」

  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  爆音が大反響する。
  耳が痛い。
  仲間の無事を確認、よかった。それからマッド・マッスルの姿を確認すると……な、何だ、あの威力はっ!
  「鉄壁に、めり込んでる」
  呆然と私は呟く。
  ただの体当たりではない、必殺の一撃。
  す、凄い威力だ。
  当たったら多分粉々に砕けてただろ、ただし当たればだけど。マッド・マッスルは壁に誤爆、鉄製の壁にめり込んでいる。
  つまり?
  つまり身動きが取れない。
  チャーンスっ!
  「こんのぉーっ!」

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。

  ミスティックマグナム12連発。
  パワーアーマーすら貫通する一撃だ、それが避けることも叶わず全弾命中するわけだから耐えられるわけがない。倍加した筋肉だろうが、メタリックな頭部だろうが同じこと。耐えられない。
  硝煙が立ち上り鼻をくすぐる。
  「ふぅ」
  空の薬莢を捨てて弾丸交換。
  マッド・マッスル、撃破。
  「倒したの?」
  「ようやく、ね」
  化け物との戦いは疲れるものがある。
  まあ、私の方が一枚上手の、化け物でしたね。
  死者ゼロ。
  手こずりしたけどまずまずの戦果だ。
  サラは無線機で何か話し始める。
  そういえば陸路で増援が向かってきてたな、BOS100人。ここに至っては全面対決は仕方ない、BBアーミーは人狩り師団と結託しているわけだし。ただ核を売ったというだけではないだろ、それだけ
  なら私らをここで殺す意味合いはないし、あんな化け物をわざわざ配置するわけないし。
  「主、大丈夫ですか?」
  「ええ。能力は使ってないし」
  任意発動の能力の使い過ぎは偏頭痛を伴う。
  あまり嬉しいものではない。
  能力が温存できたのはいいことだ。
  出来ることなら使わずに終わりたいけど、恐らく無理だろうなぁ。異能は消えたけど、一般兵は大量に残ってるわけで。ただBOSと全面対決する意思がある兵士はどれだけいるかは謎。大半のタロン社
  残党は大佐に従わずに野良化しているし、今いるのはここ最近の採用組だろうし。じゃなきゃ各街に駐留している兵士たちの数の説明がつかない。本来の正規兵にしては多過ぎる。
  中途採用組は大佐に従うかな?
  微妙かな。
  警備会社として行動することを是としているサンディ大尉みたいのもいるし。ああ、大尉は元々タロン社だっけっか?
  さて。
  「サラ、どうする?」
  無線を終えたサラの言葉を待つ。
  今回の指揮官は彼女だ。
  ……。
  ……別に私が仕切りたいわけではないです、はい。
  出来たらメガトンでビール飲みながらダラダラしていたいのです。
  私はいつ楽隠居できるんだろ?
  おおぅ。
  「サラ」
  「地上部隊が到着したわ」
  「おー」
  これで今回の戦いは終わったようなものだ。
  バニスター砦はBBアーミーの本拠地であり地の利は連中にあるものの、BOSはパワーアーマーの兵士を抱えている。さすがに喧嘩にならないだろ。
  「サンディ大尉も到着したわ」
  「サンディ……あー」
  要塞に陸路向かい、向こうで会おうと言ってたBBアーミー離脱組だ。
  こっちに来ているらしい。
  だとしたら心強いな。
  能力が、ではない、離脱したとはいえさっきまでBBアーミーだったわけだから身内の説得が出来るだろう。
  「彼女が投降を呼びかけてる」
  「BBアーミーをどうするの?」
  降伏後潰すのか。
  それともBOSに編入するのか?
  それにより連中の対応も変わるだろう。
  「父はBBアーミーを存続させるつもりみたい。離脱組がそのままBBアーミーを存続させることになるわ、警備会社としてね」
  「共同体にいる連中はどうなの?」
  既に各街々にBBアーミーの部隊はいる。
  反乱の心配がある。
  「問題はないわ、こちらの傘下に入った。現在抵抗しているのはバニスター砦の連中だけよ」
  「そっか」
  なら心配はない。
  後顧の憂いはなくなった。
  肉欲のサンディ大尉の説得で砦内の連中も武装解除する可能性もある。
  随分と楽が出来る。
  ただ、問題があるとしたら人狩り師団の出方だ。
  連中の拠点は謎のままで移動経路が謎であり神出鬼没。BOSに捕捉されずにここに援軍を送ってくる可能性もある。
  既に砦入りしてる?
  どっちにしても長引けば面倒になる。
  エンクレイブが報復に出張ってくるかもしれない。私たちは砦には用がないのだ。核さえ無力化出来ればそれでいい。あとはBBアーミーの旗色の明確化。それだけ済めば私らは出て行く。
  後はエンクレイブが報復で空爆でも何でもすればいい。
  まあ、離反組がBOSに付くのであれば、その際は助ける必要があるのだろうけど。
  いずれにしてもとっとと片を付ける必要がある。
  長引けば面倒。
  ならば。
  「サラ、早急に抑える必要があるわ」
  「……」
  「サラ?」
  「それ、私の台詞」
  苦笑。
  別に指揮権を脅かすつもりはない。
  「センチネル・リオンズ、いかがなさいますか?」
  「何それ」
  サラは吹き出す。
  「あはは。で? どうする?」
  「砦内を占領するわ」
  「だと思った」
  マッド・マッスルは倒した。
  奴は異能。
  ある意味で私ら人類規格外向けの相手だった。それを倒したんだ、後は兵隊しかいないはず。別の異能がいる……いや、いるならここに投入してきたはずだ。いるにしても、これで1人消えた。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「力を貸して」
  「御意」
  「御意、とか命令じゃないんだけど……いや、そのキャラにダメ出しは今更か」
  「主の御心のままに」
  「……まあ、いいか」
  堅苦しい奴だ。
  ともかく地上には騎兵隊が到着してる。BOSの、パワーアーマー兵士100名。
  手こずりはしても負けることはないはず。というか勝てるだろ。
  「サラ、分担しましょう。私とグリン・フィスで別行動する」
  「……まったく」
  「ん?」
  「主人公だからって死なないってこと? 死亡イベントからの復活イベントは面倒だから、極力死なないでよね。復活のキーアイテムを世界中探しまわるのとか疲れるんだから」
  「すいません意味が分かりません」
  意味不明。
  何語だ?
  「ミスティ、ともかく私は部隊を指揮して制圧するわ。あなたたちはステルスで砦内をかき乱して」
  「了解。核ミサイルは?」
  「SEEDのアレックスたちが対処する」
  「アレックス?」
  「SEEDという機関のエージェントの名前よ」
  「ふぅん」
  「私たちと同時期にルックアウトにいたらしいわ」
  「へー」
  そういう対応しか取れない。
  面識しかないわけだし。
  「とりあえず核に関しては心配しないでいいのね?」
  「解体はSEEDでするわ。発射停止も。実績があるのよ、連中。ただ発射装置を大佐が持っているかもしれないから、その時は押収して」
  「……私らが大佐と遭遇するみたいに言わないで」
  「あら、主人公様だから厄介に突っ込むでしょ?」
  「うー」
  厄介への突撃は折り紙つきです。
  くっそー。
  「ミスティ、ともかく気を付けて」
  「サラもね」
  「後で会いましょう。あなたたち、続きなさい」
  兵士2人を引き連れてサラは部屋を出て行く。
  私らは遊軍扱い。
  さてさて、どうしたもんかな。
  「グリン・フィス、どう思う?」
  「大将首を狙うべきかと」
  「マジで言ってる?」
  「へっ、どうせ主と一緒だとそういうことになるんだ、先にとっとと倒した方が速いってもんだ」
  「……何よそのキャラは」
  「ユーモアです」
  「……」
  「ユ、ユーモアです」
  「はいはい」
  冗談はさておき。
  大佐を倒せば終わるのは分かってるのだから、そうするべきか。
  よし。
  「行くわよ」
  「御意」
  アサルトライフルを片手に私は部屋を出る、グリン・フィスが従がう。
  断続的に銃声と悲鳴、怒号が砦内を包みつつある。
  大佐の心底が分からないので、どこまでやり合うのかが謎。結局のところ未だにBBアーミーの立ち位置が分からない。どうして核を人狩り師団に売ったのか、どこまで関係があるのか、謎のままだ。
  通路を進む。
  青い軍服の死体が3つ転がっている、そしてその側には1人の青い軍服兵士。
  「待て待て待てっ!」
  向こうから制止の声。
  離脱組か?
  「サンディ大尉の仲間?」
  「大尉? いや、俺は同僚に勧められて離脱したんだ。同僚は、そこの死体なんだけど。大佐側と交戦したんだ」
  「……」
  「嘘じゃないっ!」
  「嘘とは言ってない。大佐はどこ?」
  「この先にエレベーターがある。そっから最下層に行けばいい。……行っていいか?」
  「ご自由に」
  そのまま兵士は脱兎のごとく走り去った。
  「主、よろしいのですか?」
  「いいんじゃない、別に」
  心底信じているわけではないけど、不意打ちはとりあえずなさそうだ。
  エレベーターね。
  どうやらこの喧騒はBOSが砦内に突入したから、ではなく、BBアーミーが分裂して内部抗争を始めたかららしい。サンディ大尉の離脱の呼びかけに応じたのか、別の人物が呼び掛けているかは
  知らないけどさ。さっきの奴は同僚に言われたかららしいけど、その同僚は大尉に勧められたからかもしれない。
  ただ……。
  「主、見分け方はどうしますか?」
  「そこよね」
  大佐派と離脱派の見分けが付かない。
  さすがにこちら側に付いた連中を殺すのは目覚めが悪い。
  「グリン・フィス、殺意は読めるわよね?」
  「はい」
  「じゃあ私らに殺意がある奴らは敵ってことで」
  「出会い頭で我々を味方と認識できずに殺意を向けてきた者たちもですか? 躊躇えばこちらも危ないので敵認定として主に報告しますが」
  「……ま、まあ、難しいこと考えずに行きましょう」
  「御意」
  打ち合わせ終了。
  通路を進む。
  エレベーターか、こっちかな。道は分からないけど虱潰しに探すしかない。
  弾丸はふんだんにある。
  通路が右に折れている、曲がろうとすると……。

  バリバリバリ。

  激しい銃撃音。
  咄嗟にグリン・フィスが引っ張ってくれなかったらミンチになっていたところだ。視界に入る限りは自動スローだとしてもあんな弾丸の数は避けられない。閉鎖空間だし。
  尋常じゃない弾丸の数だった。
  迂回ルートは今のところない。

  「頭ねじ切って玩具にしてやるぜぇーっ!」

  捩じ切るというレベルの火力じゃないだろ。
  ミニガンかな。
  アサルトライフルにしては火力が高過ぎる。
  やれやれ。
  「Cronus」
  時間停止。
  身を出して相手を確認。
  エレベーターがある。
  その前に2人の兵士が陣取っていた。私の予想通りミニガン。ただし、両方が装備している。これなら弾丸交換の際も交互に攻撃すれば隙がない。
  なかなか良い作戦だ。

  ドン。ドン。

  時間が戻ると同時に死体が転がる。
  人類規格外を舐めるなよ。
  その時、ドタドタと来た方向から足音が響く。さっき見逃した奴が仲間を連れてきた可能性があるな。
  「敵意です」
  「敵かぁ」

  ポン。

  間の抜けた音がしてエレベーターが開いた。
  兵士3人が出てくるも出会い頭に私に銃撃されて絶命。後方補からも敵が迫ってくる。しかし核攻撃阻止も私たちの重大なミッションでもある。発射装置が大佐の手元にあった場合、面倒臭い。
  どうしたもんかな。
  「主、ここはお任せを」
  「任せた」
  私は即答。
  エレベーターに乗り込み、最下層のスイッチを押す。死体と一緒に乗ることになるわけだか、まあ良しとしよう。
  任せてオッケー?
  オッケーです。
  彼の強さは折り紙付きだ。
  最下層。
  弾倉は下層に移動中に交換済み。扉が開いたと同時に私は走り出す。
  「どっけぇーっ!」
  ミスティックマグナム右手に、アサルトライフル左手に私は無双。
  敵さん?
  なんぼのもんじゃーいっ!

  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「こいつ無茶苦茶だーっ!」
  「に、逃げるなー、戦えーっ!」

  途中邪魔する兵士たちを蹴散らして私は進む。走っては撃ち、撃っては倒し、そして走る。
  次第に障害はなくなり通路の先に扉が見えてくる。鉄製の扉だ。
  一本道、あれが終点だ。
  私は扉を開き、中に飛び込む。

  「ホールドアップ、ザンス」

  終点だ。
  ここは執務室なのだろう。
  結局こいつらはテロ組織なのか、警備会社なのか不明のままなので、何を執務しているかは知らないけどさ。
  壁には様々な戦前の絵画が並び、壺や工芸品などの調度品が棚に立ち並ぶ。
  豪奢な机の上にはワインのボトル、青い軍服を着たヒョロいおっさんが椅子に優雅に腰掛けてワインをグラスで嗜んでいた。
  声はスピーカーで聞いた声と同じだからこいつがブルー・ベリー大佐か。
  サングラスを掛けた、チョビ髭のおっさん。
  芸術大好きとかサンディ大尉が言ってたな、それで警備とは別にトレジャーハント紛いのこともしてた。芸術の価値が分かっているかは謎とも言ってた。
  まあ、自分が価値があると思えばそれでいいと思うけどさ。
  「抵抗は無意味ザンス。ここにいるのはエリート兵ザンス」
  「ふぅん」
  両脇には兵隊たち。
  自動小銃をこちらに向けている。
  兵士は7人か。
  「勝手にミーの部屋に入って来るとは無礼ザンスねぇ。ここには何しに来たザンスか? 部屋を間違えたなら出て行って欲しいザンス」
  「あいにく用があるのよ」
  「ミーにはないザンス」
  「……? これだけのことをしておいて、このまま終わらせるつもりなの?」
  「はっきりさせておくザンス。ミーはあくまで人狩り師団にミサイルを売っただけザンス。ユーたちと敵対する理由はないザンスが?」
  「勝手なことを」
  「BOSに売れば正義ザンスか? エンクレイブに従って、エンクレイブの分裂組に反撃されてもいいザンスか? ベターな展開にしたつもりザンスけどねぇ」
  「利に転んだだけでしょ」
  「それが悪ザンスか?」
  「善とか悪とか論じるつもりはない。もっとシンブルに私ら正義、あんたら悪、それで行きましょう」
  「横暴な正義の味方ザンス」
  「誰だってそうでしょ。あんただって自分が善だと思ってる。これだけは言うけど、核を撃てば報復の可能性だってある。この期に及んで世界を壊したいの?」
  「戦いとはそういうものザンス。大なり小なり、ミサイル撃ちこもうが銃を撃とうが世界を壊しているザンス。程度の違いというだけで、意味は同じザンスよ」
  「へぇ」
  頭は悪くない。
  言ってることも間違ってはいない。
  「解体したいのよ」
  「売ったので我々の所有権はないザンス」
  「なら強制的に押収する」
  「無法者ザンスねぇ」
  「んー、より正確に押し込み強盗って言って」
  「他に何か言いたいことはないザンスか?」
  「ミサイルはどんな感じで撃つの? ここに発射装置があると思うんだけど……ないのかしら?」
  「発射装置?」
  大佐がスイッチ押して発射か。
  サイロで兵士が発射するのか。
  まあ、どちらでもいいんだけど発射装置があるならここで抑えておきたい。こいつがポチっと押して発射されたらたまったものじゃない。
  「そんなこと言える立場ザンスか?」
  「というと?」
  「銃が見えないザンスか?」
  「ああ、そうだった」
  向けられている兵士たちの銃口。
  視界に入る限り弾丸は自動でスローだとしても全部の攻撃を避けるのは骨だな。
  「で? 何したいわけ?」
  敵の数は8人。
  銃を構えているのは7人。ブルー・ベリー大佐は優雅に椅子に腰かけて赤い液体、ワインかな、それを飲んでいる。
  余裕ですね。
  まあ、この状況なら余裕でも仕方ない。
  だけどふんぞり返り過ぎて足元救われないようにしてくださいね。
  何しろ目の前の女は人類規格外ですから。
  「ミーの親衛隊は元特務のエリート軍人ザンス、迂闊に動いたらハチの巣ザンスよ」
  「そりゃすごい」
  クイッとグラスを傾けて喉元を潤す大佐。
  うざいな。
  格好良いと思っているのだろうか。
  それにしても特務、か。
  前にピットに出張ってきたカールが率いていたタロン社の部隊が特務大隊だったな。無事にキャピタルに戻って来れた生き残りがいたのか、キャピタル居残りの連中なのかな。
  銃の構えは悪くない。
  対象の女が普通の女なら、だけど。
  「人狩り師団とつるんで何するつもり?」
  「簡単ザンス。キャップ目当てザンスよ」
  「その為だけにこんなことを?」
  撃たれた先の報復を考えないのか?
  それとも反撃の可能性がないところなのか?
  考えてみたら人狩り師団の情報がなさ過ぎて何も分からないことばかりだ。連中の本拠地、親玉、方向性、何も分からないことばかり。
  「どこを狙ってるの?」
  「知らないザンス」
  「質問を変える。撃った後はどうするつもりだったの?」
  「人狩り師団と付かず離れず頑張るザンスよ。ミーの目的はキャップであって、エンクレイブとか関係ないザンス。可能ならユーたちとも仲良くやりたいザンス。それに人狩り師団の攻撃対象は
  知らないザンスがエンクレイブとは無縁と言っていたザンス。連中も馬鹿じゃないザンス、いきなりエンクレイブを敵に回すはずはないザンスからねぇ」
  「……」
  それはたぶん嘘じゃない。
  人狩り師団もエンクレイブをいきなり狙うわけがない。キャピタル内を狙うには近過ぎる、となればキャピタル外を狙うはず。とはいえエンクレイブの本拠地、が何処かは私は知らないけど、そんなとこ
  をいきなりは狙わないだろ。エンクレイブの技術力を持ってしたら核の反撃だって考えられるわけだし。
  まあ、人狩り師団が破滅主義者なら話は別だけど。
  そうじゃないとしたら反撃されない場所を狙うというわけだ。どこの勢力かは知らないけどさ。
  「核は飾って喜ぶものじゃないザンスよ」
  「盟主王かお前は」
  「分かったザンスよね、ミーはあくまでビジネスでしているだけザンス」
  「勝手なことを」
  「ユーとは仲良くしたいザンスが……」
  「無理ね」
  「ふぅむ。では仕方ないザンス。ユーにはここで死んでもらうザンス」
  「Cronus」

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  心臓が脈打つ音が聞こえ、全ての事象が限りなくスローとなる。
  能力発動っ!
  ……。
  ……やれやれ。
  リサーチ不足ではないですか?
  どんなエリートを集めようが私を能力者ということを忘れてもらっては困る。
  この程度の数、物の数ではないっ!
  大佐を除く人数分の頭にロックオンし引き金を引く、そして能力解除。
  次の瞬間……。

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。

  寸分違わず頭が消し飛ぶ。
  転がる7人。
  視界に入る限り弾丸は自動でスロー、7人分の銃撃を避けるのは骨だけど、任意で時間を停止させるという選択肢を選べば特に問題なんてない。片頭痛はするけどさ。
  時間停止、チートですね。
  ガンスリンガーが私との対決を避ける気持ちも分かる気がする。
  さあ、交渉の時間だ。
  「ここまでよ」
  ミスティックマグナムの銃口を突きつける。
  敵は?
  全滅です。
  今の私は武器さえあれば、真正面からの戦いであれば、この程度の数なら何とかなる。
  詰みですね、大佐殿。
  「大佐」
  「ぶっ」
  「ぶっ?」
  「ぶっちゃけミーたちが負けるなんてありえないザンスっ!」
  「ご期待に沿えなくて申し訳ない」
  兵隊は既にいない。
  大佐は見た感じただのヒョロだ。
  組織運営はお手の物だったみたいだけど戦闘は得意そうには見えない。もちろんそれはそれでいい、別に総大将が前線に出て積極的に戦わなくても問題はあるまい。
  ただ、この状況で戦闘力の無さはどうなる?
  「核発射の起爆装置は?」
  「そ、それは」
  「どこ?」
  戦闘力の皆無は交渉権の無さを決定付ける。
  「どこ?」

  ドン。

  壺を撃ち抜く。
  あくまで脅しだけど大佐は絶叫した。
  「この壺は良いものザンスよっ!」
  「マ・クベかお前は」
  「ミ、ミーは何も知らないザンスっ!」
  「起爆装置の場所を言いなさい。じゃないと……」

  「主」

  「見て大佐、私の仲間が入ってきた。つまりは手下は全滅した、助けは来ない、さあ、どうする?」
  グリン・フィスの入室。
  これで今回の戦いは決した。
  もちろんまだ大佐側に付いて戦っている連中はいるだろうけど、この近場にいた連中は全滅したと見ていい。サラたちBOSも早々負けないだろう、パワーアーマー兵士が主力だ、BBアーミーは
  軍服で防御力無いに等しい。戦いになるわけがない。バニスター砦内は制圧ほぼ完了と考えてもいいだろう。
  大佐も馬鹿じゃない。
  状況を察して、口を開く。
  「ないザンス」
  「ない?」
  「そ、そうザンスよ」
  「グリン・フィス、嘘だと判断したら斬っていい。特に拘束は言われてないし」
  「御意」
  彼は抜刀の構え。
  大佐は震えあがった。そりゃそうだ。グリン・フィスは躊躇いなく即答し、本気で斬りかかりかねない雰囲気を醸し出している。
  実際、雰囲気では終わらないだろ。
  普通に斬りますね、彼。
  「で? 発射装置は?」
  「人狩り師団が持っているザンス」
  「人狩り師団」
  そうか。
  発射を実際仕切っているのは人狩り師団。連中が持っていて当然か。
  「聞きたいことじゃない、どこにあるの?」
  「だから……」
  「時間稼ぎ? あんまり舐めると本気で斬らせるわよ? 発射装置は、どこっ!」
  「知らないザンスっ!」
  「知らない」
  「ま、待つザンスっ! ミーは連中からマネーを貰っただけザンス、発射装置は渡したザンス、連中がどこで発射するかは知らないザンスよっ! ミーはただ金が欲しかっただけで、最初に言ったよ
  うな大層な善とか悪とかは心底どうでもいいザンスっ! ふんぞり返って理財を貯めこむのが楽しかっただけザンスよっ!」
  「警備会社は何?」
  「そ、それは別に他意はないザンス。本当ザンスよ、タロン社時代は戦闘力無くて軽んじられてたザンス。た、ただ、戦いだけでは何でも片付かないと証明したかっただけザンスっ!」
  「……」
  嘘ではない、か。
  この男はどこまでも利益だけを追い求めている、そういう節がある。人狩り師団と組んで何かしたいというわけでもなさそうだ。
  だとしたら。
  だとしたら本拠地を知らないこともあるだろう。
  それに警備会社という発想は悪くなかった。実際共同体ともBOSとも提携を結んでいた、色々と黒い噂があったにしてもだ。
  こいつの利を追及する価値観をうまくコントロール出来たら使い勝手がいいのかもしれない。
  まあ、そのあたりの判断はサラに任すけど。
  「別の質問。本当にオラクルの居場所は知らないのね?」
  「し、知らないザンス。言ったザンスけど、ミーは婿養子で殺し屋稼業には関わってないザンスよ」
  「なるほど」
  「ミ、ミーをどうするつもりザンス?」
  「殺しはしないわ。グリン・フィス、拘束して」
  「御意」
  斬るまでもない。
  生かして情報を絞り出すまでだ。
  ミサイル発射に関しては砦内でも何とかなるはず。SEEDとかいう核解体の組織が砦内で隠密で動いているみたいだし、連中に任せるしかない。
  サラに報告しておくか。
  それにしても。
  「良い趣味だ」
  調度品、絵画、趣味としては悪くない。
  人狩り師団の核ミサイル購入代金を頂くのもいいだろう。幾らだろう?
  BBアーミーの銃火器や弾丸もある。
  資産を没収してエンクレイブとの決戦に備える、それはそれでありだろうし、BOSはそのつもりだろう。エンクレイブ再来は時間の問題だし、戦力強化は死活問題だ。
  後は核ミサイルの発射阻止だけ。
  縛り上げられる大佐を見ながら私は無線機でサラに報告する。
  「あー、サラ? ミスティよ」





  サラ・リオンズに報告されている内容。


  「センチネル・リオンズ、バニスター砦周辺を完全制圧しました」

  「報告します。BBアーミーの一部がこちらに対して降伏、武装解除しました。指示をお願いします」

  「弾薬庫を制圧完了です」

  「兵舎にBBアーミーの兵士たちが立て籠もり徹底抗戦の構えを見せております。隊長、至急増援をお願いしますっ!」

  「あたしはサンディ大尉。これを聞いているBBアーミーに抵抗をやめることをお勧めするよ。無駄に死にたいなら話は別だけどさぁ」

  「報告。兵舎の残存部隊が説得に応じて降伏っ!」

  「あー、サラ? ミスティよ。ブルー・ベリー大佐の身柄を拘束。発射装置は人狩り師団が持っているらしい。どこにあるかは不明。それで、ミサイル発射は阻止できたの?」

  「サラ・リオンズ、こちらはSEEDのアレックスですが……問題発生です。発射施設への扉が溶接され、封鎖されていて進めません。迂回経路を探します」

  「隊長、こちらはベルチバード3号機っ! 上空から地上部隊の支援をしていますが……ミサイルサイロが開いていきますっ! ……ああ、まずい、発射体勢だ、ミサイルが発射されますっ!」


  そして。
  そして再び世界を崩壊させた悪意が放たれるのだ。