私は天使なんかじゃない






売られた喧嘩







  殴ったら、生意気にも殴り返された?
  それが嫌なら最初から喧嘩を売らないことだ。






  空を飛び回るロケットマン。
  示威行為か?
  初撃以外は特に何もせずに飛び回っている。
  オラクルは逃げた。
  背中に一発叩き込めはしたけどロケットマンを視界から外すと面倒な気がして撃つわけにはいかなかった。
  「何なんだ、あいつは」
  空を飛び回る謎のパワーアーマー野郎。
  野郎じゃなくて女かも知れないけど。
  背中のバックパックは飛翔能力がある模様。
  BOS崩れか?
  少なくともエンクレイブではない。エンクレイブが使っているタイプの3、4世代上のパワーアーマーではない。
  敵?
  ロケットマンが飛び回っていたお蔭でベリー家の裏を掻くことが出来たし、直接的にはまだこちらに攻撃してきていない。初撃もオラクルを狙ったと言われれば、それもそうかと納得してしまう。つまり
  まだ敵という確証はないけど、あくまで確証がないだけだ。暫定的には敵だろう。あいつのお蔭でオラクルを取り逃がしたし、この空域に留まっている理由も分からない。
  厄介なのは距離だ。
  かなり上空にいる。
  手持ちの武器では届かない。
  唯一の対抗手段はラズのスナイパーライフル。残弾は4発。この屋上に陣取っていたストロ、いや、ブラック?のスナイパーライフルはグレネードの直撃でどこかに吹っ飛んだ。
  撃つ?
  逃げる?
  どちらにしても何らかのアクションをすれば攻撃してくる気がする。
  「どうしたもんかな」
  オラクルはどこに逃げたのか。
  突然現れたBBアーミーは何だったのか。
  ラズの言ってた父とは誰なのか。
  グリン・フィスはどうなったラズの従妹たちはどうなった等色々とあるけど、まずはロケットマンのやりたいことを見極めなきゃだ。
  なのでとりあえずは疑問は保留。
  「ん?」
  こちらに武器を向けるロケットマン。
  まあ、そう来ますよね。
  そうじゃなきゃわざわざこの戦場に介入しないだろ。
  オッケー、受けて立つっ!
  相手の攻撃方法が分からないけど、あの銃は弾丸かレーザーか、だけどこの距離だ。レーザーなら避ければいいし弾丸なら視界に入る限りは自動でスローだ。
  問題ナッシング。
  「来た」
  視界に入る限りはスロー。
  視界に入る限りは……。
  「うにょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!

  慌てて飛び退くも、私は何かの吹き飛ばされる。
  な、何だー?
  ふらりと立ち上がって着弾地点を見る。
  大穴があいてた。
  ……。
  ……マジっすか?
  直撃したら消し飛ぶじゃんっ!
  そしてそれだけの威力だ、衝撃波が生じたのだろう、私は衝撃波で弾かれたってわけだ。
  何だあの攻撃。
  弾丸なのか?
  見えてるには見えてるけどスローにならない。
  「こんのぉーっ!」
  スナイパーライフルで照準を合わせ、撃つ。
  引き金を引いた次の瞬間には相手は空中を縦横無尽に飛び回り次撃に備えている。こっちの攻撃が見えてるのかっ!
  相手の次の攻撃。

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!

  「うひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  後ろを見ずに屋上から脱出。
  ビルの階段を駆け下りる。
  ダメだ。
  場所を特定されたらダメだ。
  何とか姿を隠さなきゃ。
  それにしても弾丸は見えてるけどスローにならないなんて……いや、見えてる時点でスローになってるのか。じゃあこれは、あの攻撃の弾速が早過ぎるのか?
  だとすると自分の能力の弱点の発見だな。
  今までは弾丸は一律で同じ速度に落ちているのだと思ってたけど、落とせる速度の方が一律のようだ。
  つまり?
  つまりあの攻撃の弾速が速すぎる。
  自動発動のスローでは視認するのがやっとで、視認の次の瞬間には逃げないと私が消し飛ぶ。
  「くっそ」
  階段を駆け下りて外に出る。
  クライスラスビルを出ると緑色のカーゴトラックが3台止まっているのに気付いた。入る前はなかった、となると突入してきたBBアーミーの代物か。
  ロケットマンはクライスラスビルを延々と攻撃している。
  あっ、シドニーがヤバくね?
  狙撃しようと思うものの、ここで狙撃したら場所がばれる。まずは隠れなきゃ。私は相手に捕捉されないようにビル群を障害物を駆使して移動、身を潜める。
  ロケットマンは私がクライスラスビルを出たと断定して上空を飛び回り始めた。
  まずいな。
  手がない、わけではないけど、相手が避けるなり避けるなりしたらカウンターが来る。
  衝撃波を含めると範囲が低いから、出来たらそれは避けたい。
  くそ。
  虐殺将軍の妹とか、ベリー家とか、BBアーミーとか、祟り過ぎだろ今日。
  大体BBアーミーがどうして介入……。
  あれ?
  「ブルー……ベリー……?」
  問い→さっきまで相手にしてたのは?
  答え→ベリー家。
  そうか。
  BBアーミーはベリー家に雇われてここに来たんじゃなくて、仕切っているブルー・ベリー大佐がそもそもベリー家の人間なのか。
  ラズの父親って大佐のことなんだ。
  となると私の脳摘出手術&オラクルの脳移植手術は連中の本拠地であるバニスター砦でするつもりだったのか?
  共同体への接近はその為か?
  ……。
  ……いや、それとは別か?
  依頼を取る為に色々と黒いことをしているという噂があったけど、噂の範疇を越えていないし、人狩り師団が各街々への攻勢を強める中でBBアーミーも前線で戦い、死んでいる。
  分からん。
  大佐がベリー家の出であることは確実だろうけど、未だに立ち位置が分からない。

  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  「うひゃっ!」
  悠長に考えている場合じゃないな。
  私が隠れている場所に向けての攻撃じゃないけど、大体の見当を付けて攻撃してきてる。
  あの攻撃はヤバい。
  まともに受けたら体に穴が開くというレベルでは終わらない、確実に消し飛ぶ。かといって避けたからといって大丈夫というわけでもない、余波の衝撃波で確実にダウンする。連打が敵ないのが
  救いといえば救いだけどダウンしたらまずお終いと見ていい。厄介な広範囲型の武器だ。
  スナイパーライフルの残弾は3発。
  1発は外した。
  相手が能力持ちで弾丸が見れるのか、ロケットマンがしているフルフェイスのパワーアーマーヘルメットが何らかの改造が施されていて、弾道が分かるのかは分からないけど、まともにやったら
  当たらない。回避される。つまりあの機動性も厄介ということだ。ただでさえ高所にいるのに、デタラメにチートすぎるだろ。反撃らしい反撃が出来ない。
  出来たらカウンターは避けたい。
  相手の隙を衝きたい。
  グリン・フィスがいたら陽動を頼みたい……無理か、さすがにあの攻撃相手てでは彼の身が危うい。
  何とかして相手の気を気を引ければいいんだけど。
  「この手で行くか」
  アサルトライフルに武器を切り替え、攻撃のチャンスを狙う。
  ロケットマンは上空を飛び回っている。
  まだ駄目。
  まだベストじゃない。
  まだまだ。
  まだ位置が悪い。
  まだ……今だっ!

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  グレネードランチャーをBBアーミーのカーゴトラックに叩き込む。
  ロケットマンは上空でその爆発に気を取られた。
  これが私が起こした何らかのアクションだと気付いていても音に一瞬だけど気を取られ、反射的にその爆発を見た。私に背を向けたっ!
  油断大敵ですよっ!
  これなら狙えるっ!
  アサルトライフルを放り投げてスナイパーライフルを掴み照準を合わせつつCronus発動っ!
  時間は止まり、そして確実にベストな位置を狙い狙撃っ!
  時間は動き始める。
  そして。
  そして弾丸を動き始める。
  「これでどうだっ!」
  車の爆発に一瞬とはいえ気を取られたロケットマンは私に背面を見せる形になってる。
  当たってもパワーアーマーは貫けない。
  前にケリィが言ってた、実は整備さえまともなら戦前の旧型でも最新型のエンクレイブのパワーアーマーとも渡り合えると。それだけの過去の技術は凄いということだ。
  でも私は知ってる。
  正確には夢の話になるんだけど、ロケットマンの飛行機能のバックパックは後付けで、それも正規の品ではなくジャンク品。
  宇宙船の中の部品を使った代物。
  耐久力は未知数。
  でも私としてはそこに賭けるしかない。
  パワーアーマーよりも強度がないと賭けるしかない。
  そして……。

  
ボンっ!

  背面のジェットパックに狙撃、小爆発。
  よしっ!
  その直後、ロケットマンは空中をデタラメに飛び回り始める。
  何かの策?
  作戦というよりは完全に制御が効かなくなった、ってところかな。
  そしてそのままビル群の中を飛び回り、壮大な音を立ててどこかに墜落した。
  「ふぅ」
  スナイパーライフルを放り捨てる。
  倒した、かな。
  あの高さとあの速度だ、整備が行き届いたパワーアーマーがどれだけ強度を持っていたとしてもおしゃかになるだろうし、仮に耐えても……耐えれる可能性はほぼないけど……耐えたとしても、中の
  人間が耐えられるわけもない。確実に衝撃で死ぬ。どこの誰だか知らないけどロケットマンはこれで死んだ、と見るべきか。
  「あー、疲れた」

  「主っ!」

  「おそーい」
  今回出番のなかったグリン・フィス君。
  ベリー家の従妹に追い回されていたようだけど、結末はどうなったのかな?
  「意外に手こずったみたいね」
  「積極的に仕掛けてくるタイプではなく、こちらを罠に嵌めてこようとするタイプでして、中々勝敗が付かず」
  「無事でよかった。敵はどうなったの?」
  「2人撃破しました」
  「ご苦労様」
  これでこの場にいたベリー家はオラクル以外は全滅か。
  まだいるのかな?
  少なくともブルー・ベリー大佐は残ってる、ここにきて全く関係ない姓ってことは考えづらいだろ。BBアーミーの介入もあるし、一族である可能性が非常に高い。
  だとしたら居所は分かってる。
  バニスター砦だ。
  ただ少し厄介なのがここ最近はBBアーミーは共同体内で浸透している。
  警備兵として雇っている状態。
  もしも大佐がこちらと全面的にやり合うつもりなら各街々に既に相当数入り込んでいることになる。
  どこまでやるつもりなのかの腹が知りたいところだ。

  プップー。

  クラクション。
  一台のカーゴトラックが近付いてくる。クラクションはその車からだ。
  乗っているのはBBアーミー。
  運転席と助手席に1ずつ、荷台には何人いるんだ?
  運転席の奴は知ってる。
  サンディ大尉だ。
  こちらに対してにこやかに手を振り、車を止めた。
  グリン・フィスがこちらを見る。
  「とりあえず出方を見る」
  「御意」
  敵認定するのは早い。
  少なくとも何らかの情報が手に入るはずだ。降りてきたのは荷台の奴を含めて3人。全員武器らしい武器を持っていない。わずかに腰にピストルを携帯しているだけだ。
  私が何か言う前にサンディが口を開いた。
  「まずは話し合おうよ。武器は護身用しか持ってないし、この程度じゃあんたらへの不意打ちにもならないだろ?」
  「何の御用?」
  肉欲のサンディ大尉に銃を向ける。
  いつでも撃てる。
  グリン・フィスもまた、低く腰を落として抜刀の構え。BBアーミーの兵士2人は慌てるものの、サンディはパタパタと手を振った。
  「だからさぁ、こんな人数であなたを討ち取るって? 無理無理」
  「先遣隊が討ち取って、あなたが確認の為に来ただけっていうのもあるんじゃない? あいにく先遣隊は全滅だけど」
  「……」
  「どうなの?」
  「無線機」
  兵士に無線機を指示、それを受け取ってから私に放り投げた。
  左手でキャッチ。
  もちろん右手のミスティックマグナムは構えたままだ。
  「確認取ってよ、BOSに」
  「BOS?」
  何でBOSが出て来るんだ?
  大尉は続ける。
  「どうせあたしの言葉は信用度がないだろ? この状況だし」
  「そうね」
  「あたしらはBBアーミーと袂を別ったのよ。共同体にもそう伝えてある、あたしらに賛同する流れも出てる。つまり分派するってわけ。代表が誰になるかは知らないけど、警備会社続行」
  「はあ?」
  言っている意味が分からない。
  「なかなかヤバいことをしてるよ、ブルー・ベリー大佐」
  「その大佐のことで聞きたいんだけど、ベリー家?」
  「ベリー家? まあ、ベリーって姓だからそうなるんじゃない? 悪いけど言っている意味が分からない」
  オラクルたちの流れを知らないのか?
  暗殺一家だと知って分派したわけではないのか。
  では何故だ?
  「詳しくはBOSに。あたしらは掴んだ情報を提供した、それだけ。そろそろ判断が付くと思うよ」
  「何の話?」
  「だからさ、連絡しなよぉ」
  「ここには何しに? わざわざそれを伝える為に?」
  「いや」
  「いや?」
  「大佐があんたの始末を命令したと聞いてね、何とか止めに来たんだけど……その心配はなかったようだ。ともかくだ、BOSには連絡しなよ。あたしらのトラックで移動、っていうのもあるし、あたし
  としてはあんたと一緒にドライブって捨てがたいんだけど、まあ、胡散臭いよね。無線機はあげるから連絡しなよ。あたしらは先に要塞に行くから」
  「……」
  嘘はついていない?
  少なくともこちらに対しての敵意は感じられないし、その表情にも恐れや戸惑いはない。
  無線、ね。
  「じゃあ向こうでね。あんたら、行くよ」
  部下を促してトラックに乗り込む。
  排気ガスを噴出してここから走り去って行った。
  「主」
  「分かってる」
  無線機の周波数を弄る。
  要塞にだ。
  繋がったと同時に私は認識番号を言った。少々お待ちくださいと通信係が返し、数十秒後に更新が再開される。
  聞こえる声は……。

  <ミスティっ! よかった、あなたを探していたのよ。今どこにいるのっ!>

  声はサラのものだ。
  切羽詰まっている感じだ。
  「場所、私たちはクライスラスビルにいるけど?」

  <現在ベルチバード3機を使ってあなたを探してる。付近を飛行中のベルチバードをそちらに回すわっ!>

  BOSがエンクレイブから鹵獲しているベルチバードは5機。
  その内の3機を私の捜索に使ってる?
  どういうことだ?
  最近はエンクレイブが出方を見る為にベルチバードで領空に侵入を繰り返していると聞く。
  そこまで私に割く理由って何だ?
  「何があったの?」

  <BBアーミーのサンディ大尉から情報提供があったの。バニスター砦には核ミサイルがあって、発射準備に入っていると。発射場所は距離的にキャピタルではないわ、近く過ぎるからさすがに
  自殺行為。ただエンクレイプが背後にいるという話なの。そうなったらどうなると思う?>

  「発射はフェイクで、実に自爆させたがってる?」
  エンクレイブに損はない。
  もしかしたら内部抗争している、もう一派のエンクレイブに打ち込むつもりなのかもしれないけど、そっちも核を持っていたら報復でキャピタルに直撃する。
  そうか。
  それでサンディ大尉たちは離反したのか。
  まともな頭があれば核を使うなんて暴挙はしないはずだけど……これはオラクルの差し金でもあるのか?
  くそ。
  あの餓鬼っ!
  「裏は?」

  <裏は取れてる。SEEDがキャピタルにいてね、バニスター砦にも核があると分かった。当時は発射不可能と判断して放置されてたみたいだけど、エンクレイブのテコ入れがあったのであれば可能よ>

  「SEED?」
  聞きなれない単語だけど、別にいい。
  核の発射、か。
  なかなかスリリングな展開ですね。
  つまりこれはバニスター砦へBOSが攻撃するってことか。
  BBアーミーの立ち位置が相変わらず不明だ、黒い噂があったものの、わりとまともに警備会社してると思えば裏では核攻撃ですか。大佐がどこまで暗殺一家と繋がっているかは知らないけどラズは
  迎えが来るとか言ってた。迎えの先はバニスター砦で、そこで私の頭を開いてオラクルの脳を入れようとしてた、と見るべきか。
  状況的には真っ黒。
  間違えたら?
  殴り込んでから謝ります。
  「サラ、了解したわ。待ってる。通信終了」
  「主、一難去ってまた一難ですね」
  「ですよねー」
  「このたびの戦いではお役に立てませんでしたが、今回はそうでないことを証明します」
  「期待してる。お願い」
  「御意」
  それにしても核攻撃、か。
  エンクレイブのテコ入れがあるなら、当然狙いは分裂した側のエンクレイブ施設への攻撃だろう。撃たれたら反撃してくるはずだ、バニスター砦に。連中が核を保有しているかは分からないけどその
  可能性は高い。ブルー・ベリー大佐を贅沢大好き人間と前にサンディ大尉は評していたけど、金に転んだのか?
  利益があればそれでいいのか?
  売国奴の考えることはよく分からない。その先を考える頭がないのか?
  やれやれだ。
  「大きな展開になってきた」
  面倒なことです。






  その頃。
  クライスラスビルのあるビル群の一画にある、高層マンションの屋上。
  「死んだかな?」
  観戦していた者。
  黒人の女性。
  名をソマー、元々はパラダイス・フォールズに所属していた奴隷商人で、宇宙人に拉致された際はミスティと共闘した人物。しかしそれはあくまで共通の敵、懐柔出来ず戦うしかない敵がいたからで
  あって、本来の性格は宇宙船の時のようにおおらかで快活はない。ミスティに対しての思い入れも特にない。
  だからこそ宇宙船から持ち出した飛行型のパワーアーマーやガウスライフルをクローバーに売却した。
  クローバーがミスティに固執していたことは知っている。
  売却の結果、どうなることも知った上だ。
  ただソマー自身にはその結末はどうでもいいことだった。
  大切なのは利益が出るかどうか。
  それだけ。
  「あの高さからの墜落だ、迷わず成仏してよ、クローバー様」
  クローバーが隠匿していたパラダイス・フォールズの遺産は全て手に入った。
  その大半はジェリコの軍資金に消えた(クローバーがジェリコと手を組む際に、資金を提供した)がそれでも相当な量が残っている。
  ソマーの目的はそもそもが金であり、その目的が達成できた。彼女にとってそれで充分だった。
  「モハビとやらにでも行くかね」
  エンクレイブ再来は誰の目にも時間の問題。
  戦争には興味がない。
  戦争になれば遊んで暮らすことは難しくなる。
  聞く限りではモハビ・ウェイすランドもNCRとリージョンの戦争中だと言うが、それでも中立地帯であるニューベガスの街がある。そしそこがカジノの街であることも知っている。
  大量のキャップあ゛ソマーにはある。
  ならば迷う必要もなかった。
  「バイバイ、キャピタル・ウェイストランド」
  彼女は去って行く。
  その足はモハビへと向いていた。