私は天使なんかじゃない






狩るか狩られるか







  勝者の定義はただ一つ。
  最後に生き残ること。

  それだけだ。





  声がする。
  声が。
  女が誰かと喋っている声だ。私の視界は真っ暗で、自分の体がどうなっているのかも分からない。上下の区別もなくフワフワしている気がする。
  死んだのか、私?

  「ストロ、ブラック、あの男の始末はまだなの? 建物に隠れてて狙撃できない? ……聞こえる、クラン、グーズ。ストロたちが支援するから仕留めてきなさい」

  ラズ・ベリーの声か。
  まだ私は現世にいるらしい。となると麻痺したまま転がっているのか?
  グリン・フィスは無事のようだ。
  だけどこのクライスラスビルにはいなくて、別のビルに立て籠もっているようだ。ストロとブラックに狙撃されて身動きが取れない模様。だけどベリー3姉妹とか言ってたのにクランとグーズとかいるのか。
  ベリー3姉妹、ね。
  あくまで3というのは姉妹というだけで、別の奴はまだいるらしい。
  要はクラン・ベリー、グーズ・ベリーってノリだろ。
  ああ、そういえばデリンジャーが前に忠告してくれた時に一族で暗殺してるとか言ってたな。
  嫌なファミリービジネスだ。
  結局今回の一件はベリー家が画策した結果で、エマラインもシドニーも体よく利用されていたってわけだ。
  用意周到な連中だ。
  頭の回転は悪くない。

  「よお、ここで死なれても困るんだけどな。もう諦めるのかい? 困るんだけどな、勝手にリタイアされるの。俺を説得してここまで引き込んだのは誰だい?」
  
  声がする。
  男の声。
  新手、というわけではない。私はこの声を知ってる。
  もう1人の私だ。
  ルックアウトで会った……夢の中だけど……もう1人の私の声。
  言われるまでもない。
  「まだ、終わらせないわ」
  「へぇ? 起き上がれるんだ」
  視界が開く。
  視界にはラズ・ベリーが映る。無線機で妹たちとやり取りをしている、完全にこちらの復活は想定していないらしく私は拘束すらされていない。
  腕に力を入れて立ち上がろうとする。
  「タフね。でも駄目よ。叔母さん」
  叔母さん?
  視界には誰も……。
  「初めまして赤毛のお嬢さん。私はポイズン・ベリー、彼女の叔母よ」
  後ろっ!
  首筋にチクッと痛みがする。
  そして何かが体の中に入って来る。
  再び力を失ってその場に転がる時、ラズの声が響いた。
  「良い夢を」
  くそったれ。






  狩人は知っている。
  獲物を追い立てる方法を。
  傷付かせ、急き立て、罠へと追い込む。
  「ちっ」
  グリン・フィスは舌打ちして物陰に潜んだ。
  正攻法で向かってくる相手はもちろん、策を弄してくる相手の対処法も心得ているし、経験も多い。だが狩人のやり方で追い立ててくる相手は、相手のペースに引き込まれたら逆転することは容易くない。
  完全に分断され、完全に相手のペース。
  最初からここは狩場なのだ。
  支配するのは敵。
  姿を容易には見せないベリー家の刺客たちは次第にグリン・フィスを追い詰めつつある。
  狩るか狩られるか。
  罠に掛かっているのは、最終的にどちらだろう。





  「……ん……」
  瞼が重い。
  あれからどれだけ経ったのだろう。私は最後の状況を眠たげな脳みそを総動員して思い出す。
  そうだ。
  ラズ・ベリーの叔母に何かを注射されたんだ。
  「おはよう、赤毛の冒険者」
  「……」
  アーマーは剥ぎ取られ、武器は没収されている。
  服は、着てるけど、こんなの防御力の欠片もない。私の持ち物は床に転がっているけど、私の体は鎖でぐるぐる巻きに拘束されている。足は拘束されていない、胴体だけだ。両腕は使えない。
  足の傷、足の傷はないな。スティムで治癒したらしい。
  とはいえ、どうにもならないな。
  視界にはラズ・ベリー、年配の金髪女性は白衣を着ている。こいつがポイズン・ベリーか。
  室内には私たちだけ。
  「オラクルは? ……あと、ああ、シドニー」
  「香水で完全に支配したから廊下で待たせてあるわ」
  「私をどうするつもり?」
  殺されていないのだから、私に何か用があるのだろう。
  じゃなかったらとっくに射殺されてる。
  「私に何か用?」
  「ええ、用があるわ。何すると思う?」
  「歓迎会? 悪いけど正装着てないからとりあえずメガトンに帰りたいんだけど」
  「面白い冗談ね」
  「どうも」
  「正解を教えてあげる。拷問して殺すのよ。どう、楽しそうでしょ? 助けは期待しない方がいいわ。あなたの恋人はストロたちに追い回されてるから」
  「そう」
  「素っ気ないわね。でも少し震えてない?」
  「拷問されると聞いて喜べとでも?」
  「ふふふ」
  やばい。
  こいつマジヤバい奴だ。
  鎖は、うん、解けない。
  拘束は解けない。
  グリン・フィスがすぐに来ないというのもあながちウソではないのだろう、ここでそんな嘘を吐く理由は特にない。私を動揺させる為、それはあるかもだけど、相手の方が是体的に優位に立っている
  のだからわざわざ嘘吐く必要もないだろ。つまりグリン・フィスはすぐには来ないのだ。
  私の脳ミソ様、私を怪力にしておくれーっ!
  「ねぇ、まず何されたい?」
  「まずは鎖解いて」
  「ふふふ」
  何ですか何ですかそのねっとりとした熱い視線は。
  視線がおかしい。
  拷問好き?
  こいつガチでヤバい奴やっ!

  
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  何の音だ?
  外で何か音がした。その直後建物がピリリと震えた。
  「叔母さん」
  「見てくる」
  ポイズンは出て行く。
  連中の与り知らない出来事のようだ。
  だけど今のは何だ?
  高速で何かが建物の傍を通ったのか?
  ベルチバード?
  「ストロ、聞こえる、ストロ」
  無線機で妹を呼び出すラズ・ベリー。
  とりあえず私は後回しの模様。
  そのまま忘れてくれ。
  「ストロ」

  <聞こえてるわ、姉さん。何か飛んでる。ビルとビルとの間を何かが飛び回っているけど、早過ぎて捕捉できない>

  無線から響いてくる声。
  ビルとビルとの間を飛んでいる?
  捕捉できないとか言っているしベルチバードではないのか。
  「まあいいわ。男の方はどうなった? 仕留めた?」

  <従妹たちが建物の中を追い回してる。私は奴がいる建物を狙撃できるポイントで待機中。従妹たちが仕留め損なっても、出て来たら私とブラックで仕留めれる>

  「分かった。迎えもそろそろ来るから、気を付けるのよ」
  迎え?
  迎えって何だ?
  まだいるのか。
  まずいな。
  「さて、それじゃあ拷問を始めましょうか。3時間は壊れないでね」
  「やだ何それ怖い」
  この状況ではどうにもできない。能力で時間止めても拘束されたままだから逃げられない。だけど、来たらせめて噛んでやるっ!
  近付いてくる。
  近付いて……。

  「何をしているの、ラズ・ベリー?」

  「オラクルっ!」
  ポイズンが戻ってくる、その隣にはオラクル。
  私を見て彼はにこりと笑った。
  「お姉さんを壊していいとは命令してないけど? ポイズンに呼んで貰わなかったら大変なことになるところだった。それで何するつもりなのかな、ねぇ、ラズ?」
  「ひ、ひぃっ!」
  慌ててその場に跪くラズ・ベリー。
  えっ?
  どういうこと?
  「頭を上げなよ、ラズ」
  「は、はっ!」
  「……どういうこと、オラクル?」
  「貴様オラクル様に向かって何という言葉遣いだっ! オラクル様は我らベリー家の当主よっ!」
  唾を飛ばして叫ぶラズ。
  ベリー家当主?
  オラクルが?
  「ラズ、迎えはまだ?」
  「父上は部隊を送ってくれましたが、まだしばらくかかるようです」
  「ふぅん。相変わらず仕事が遅いなぁ」
  ベリー3姉妹はラズ・ベリー、ストロ・ベリー、ブラック・ベリー。
  叔母はポイズン・ベリー。
  従妹はクラン・ベリー、グーズ・ベリー。
  父上の名前は不明。
  でベリー家当主の名前はオラクル・ベリー?
  1人だけ果物じゃない名前。
  ……。
  ……えっ、ドラクエ5の街の名前?
  ネタバレはそんな感じ?
  まあ、一応は取っ手付けた展開ご都合主義乙ではなく、最初からベリー家の関係者という設定だったんだねー、というメタ発言。
  ダメだ、混乱してて変なこと考えてる。
  おおぅ。
  香水で支配して廊下に待たせてある、と言ってたけど、オラクルとシドニーが、とは言わなかった。シドニーは廊下で操り人形してて、オラクルは別に支配されていない?
  どういうことだ?
  子供が当主?
  「よく分かってないようだね、お姉さん」
  「まあね」
  「迎えが来て撤収までまだ時間があるし説明してあげようかな」
  これで拷問は免れた、か。
  まあ、手厚くおもてなしされる可能性はそれでもまったくないんだけども。
  迎え、ね。
  どこかに移送するつもりのようだ。
  「僕は君の暗殺をジェリコに頼まれたんだよ」
  「……」
  ジョーク、ではないだろう。
  操られてる?
  その可能性は低い。
  ラズは本気で震えあがってたし、ここでそんな演技をする必要はなさそうに思える。
  「何度君を殺そうとしたと思う?」
  「そんな兆候は……」
  「あったさ。最初に殺そうと思ったのはリベットシティさ。覚えてる? ジュースをご馳走してあげようとしたことを。あれさ、毒を混入してあったんだよね。正直楽勝だと思ったよ」
  リベット?
  ああ、確かにジュースを奢ってくれようとしてたな。
  でも……。
  「あの顔色がキモイ餓鬼の所為で失敗したよ」
  「ハーマン」
  そうだ。
  ハーマンが来て、ジュースが零れたんだ。
  あれが毒入り?
  「その後も暗殺毒殺奇襲、色々試したよ。わざわざ刺されてまでね。だけど結果はご覧の通り。ごろつき程度では駄目だと思って同じ刺客のブサッチャーをそそのかして襲わせたけど、結果は失敗さ」
  「……」
  刺されたのも演技?
  実際に刺さってはいたけど、死なないことを前提の演技で、私を油断させる為か。多分あのチンピラたちでは失敗すると踏んで、わざと傷付けられて今後の暗殺の布石にしたのだろう。
  「あの餓鬼は何なんだ? 僕に付き纏いやがって。結果として殺し損なって、今に至るってわけ」
  「私を助けてた?」
  ハーマンが?
  確かに。
  確かに彼女はオラクルの側にいつもいた。
  何者なんだ、本当に。
  「鍵は何なの?」
  「鍵」
  彼はそこで噴き出した。
  構わずに続ける。
  「ラズは開けるものは私のすぐ側にいつもあったとか言ってたけど、何なの?」
  「お姉さんの心の鍵ってことさ。小道具があるとなしでは信頼関係の築き方は段違いだからね。ああ、最初のパパとママが殺されてー……は嘘だよ。あの死体は本当だけどね。小道具として」
  「殺した、とでも?」
  「その通り」
  「ガルシアは?」
  「ああ、あいつ。あいつには鍵がとんでもない宝物の鍵だと広めて貰ったのさ。結果として鍵を巡ってお姉さんを襲いだしたし、そいつらを手駒として操るにも実に効率的だった。でしょ?」
  「……」
  「沈黙は称賛、と受け取っておくよ」
  「……」
  こいつ何者だ?
  無邪気で健気なオラクル君わ演じていたのは分かった。それは分かったけど、何者だろう?
  「あんたは誰なの?」
  「はっ? オラクル・ベリーだよ。お姉さん馬鹿なの?」
  「……」
  ムカつくわー。
  「私をどうするつもり? 殺すつもりならとっとと殺すと思うんだけど?」
  「そうだね、最初はそのつもりだったよ。でもさぁ、惜しいんだよね」
  「惜しい?」
  「そう。僕の新しい体として使わせて貰おうかなってね」
  「新しい体?」
  「こんな子供がベリー家当主なわけないだろ。お姉さんもそこは疑問に思っている、でしょ? 僕は何歳だと思う? ああ、いいよ、絶対に分からないから答えを教えてあげる。208歳さ」
  「随分と童顔ね」
  「あはは。いいねいいね、その態度。僕はさ、肉体を渡り歩いているんだよ」
  「肉体を?」
  「簡単な話さ。脳を新しい体に移植するんだ。この体はフェイクじゃないんだよ、ちゃんと本来の持ち主から脳みそをくり抜いて、空っぽになった頭に僕の脳を入れたのさ。もちろんそれだけじゃない、
  ただの餓鬼じゃ面白くないし実用的でもないから他者の有益な部位を交換して今に至るってわけ。今回は君の体を使わせてもらうよ。喜んで、脳以外全部を使うから。光栄だろ?」
  「……ははは」
  「んー?」
  「笑えるじゃない。つまり、あんたはパーツ寄せ集めの化け物ってわけね」
  「ふん。挑発かい? だとしたら無駄さ。僕は200年以上生きてる。そんな虚勢の入った嘲りなんて気にしないのさ」
  「ああ、そうですか」
  「君の能力は使える。実に有益だ。体を全換えしたら能力を覚えるだろうし」
  「それはどうかな。脳かもよ?」
  「痛いね、それはあり得る。まあいいよ。君の体を貰う。外科手術はポイズンがする。ここじゃしないけどね。移送したら、君と体の交換だ。ああ、ごめん。君の脳はこの体に入れないよ。ゴミ箱に捨てるから」
  「ゴミの分別はちゃんとしてね」
  何か手はある?
  ないな。
  あるとしたら移送した後だ、もしくはその途中か。いずれにしても見極めなきゃ。

  
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  またあの音だ。
  何の音だ?
  建物が再び少し揺れる。高速で何かが飛び回っているのか?
  「ラズ、ストロたちはなんて言っている?」
  「報告では捕捉出来ない何かが飛び回っていると」
  「ふぅん」
  こいつらの仲間ではないのは確かだ。
  私の仲間でもない。
  飛行タイプの仲間はまだいない。
  この状況を何とか利用出来たらと思うけど……難しいか。

  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!

  振動と同時に何かが吹き飛ぶ音。
  な、何だ?
  地震?
  「ストロ、何があったのっ!」
  無線機でラズが叫ぶ。

  <太陽の中に何かいるっ! こっちに……いえ、手当たり次第に何らかの攻撃をしてくるっ! 一発一発の威力が高いわ、どうする、姉さんっ!>

  「やり過ごしなさいっ!」
  太陽の中に何かいる?
  文字通り太陽と一体化している、わけではないだろ。多分太陽を背に何者かが攻撃しているんだ。
  空を飛んでいる敵って何だ?
  だけど良いチャンスだ。
  逃げる?
  逃げても追い付かれる、何よりこの鎖で両手ごと胴がぐるぐる巻きだから武器が持てない。
  ならばっ!
  「たあっ!」
  「……っ!」
  無線機のやり取りで忙しいラズに体当たり。彼女はその場に転がり、私は全力キックを彼女の顔に叩き込んだ。飛び散る血と歯。うわぁ、痛そう。
  続いてポイズンに向かうも、彼女は私のミスティックマグナムを取り出して私に向けている。
  「動くと撃つわよっ!」
  「撃てないわ。だってオラクルの大切な体でしょ?」
  ちらりとオラクルを見るポイズン。
  立ち上がろうとした呻くラズを頭から踏みつける私。痛そうですなー。
  寝とけ、無理するな。
  「ポイズン、撃っていい。別に殺していいよ」
  「了解です」

  ドン。

  掛かったっ!
  視界に入る限り弾丸はスロー。これを私は待ってた。しかもミスティックマグナムとは有り難いことだ。パワーアーマーをも貫通するその威力、私はコンバットアーマーを着ていない。
  まともに当たれば確実に死ぬ。
  ……。
  ……私という存在がまともならね。
  スローで飛んでくる弾丸をギリギリの弾道で避けれる位置に移動する、そう、鎖に丁度当たる位置に。そこで私は弾丸から視界を逸らした。直後、時間が元に戻る。
  飛び散る鎖。
  よし、束縛が解けたっ!
  私のターンだっ!
  千切れた鎖を掴んで私はそれを鞭のように振るう。
  「がっ!」
  ポイズンの額にダイレクトアタックっ!
  これは痛い。
  頭を押さえて蹲るポイズンに駆け寄り顎を蹴り上げる。お前も寝とけ。彼女が手にしていたミスティックマグナムを奪い取りオラクルに向ける。
  「チェックメイト」
  「かもね」

  バリバリバリ。

  「なっ!」
  スローの弾丸が飛んでくる。会議室の入り口から男たちが突入し、アサルトライフルを撃ってくる。
  青い軍服、こいつらBBアーミーかっ!
  身を翻して回避、ミスティックマグナムを連打。兵士たちは倒れる。

  カチ。

  弾丸が尽きた。
  私は自分の武装に飛びついてアサルトライフルを取る、直後に更にBBアーミーの兵士たちが乱入してくる。
  持っている銃口が皆様にハロー。
  そしてー。
  「グッバイっ!」

  バリバリバリ。

  掃射。
  兵士たちはこの世からグッバイ。
  オラクルは……いないっ!
  逃げやがったか。
  「赤毛ぇーっ!」
  後ろから声。
  ラズだ。
  窓際に立てかけてあったスナイパーライフルを持ちだし、こちらに構える。だがそんなものこの距離で使うには適していない。そんな長物、この近距離で構えるには動作が多過ぎる。
  「Cronusっ!」
  時間停止。
  その間に自分アーマーと武装を部屋の外に蹴り出し、自身も部屋の外に飛び出してからアサルトライフルを構える。
  食らえーっ!

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  グレネードランチャー炸裂。
  ラズ諸共室内にいたポイズンも……うん、絶命してる。
  「つっ」
  時間停止中に移動すると消耗が激しい。
  頭が痛い。
  うー。
  私はライリーレンジャー製の強化型コンバットアーマーを着込み、ホルスターを巻く。2丁のミスティックマグナムを弾丸装填した後にホルスターに入れ、アサルトライフルの弾倉も交換。
  よし、これで形勢逆転だ。

  カタ。

  「動くな」
  「ち、違うってっ!」
  ああ。
  忘れてた、シドニーか。
  香水の効果は消えたようだ。
  「まだいたの?」
  「不満そうだね」
  「仲良くなれる要素あった?」
  「……」
  鍵渡したら問答無用で撃ってきたんだ、仲良しではないだろ。
  エマラインにそそのかされたにしてもだ。
  ……。
  ……訂正。
  ルーズベルト学院でも襲われたなー。まだ鍵も持ってないのにだ。
  とりあえず殴っとく。

  ドサ。

  「お休み」
  良い夢見てね。
  ダウンしたシドニーを放置して私はその部屋を出ようとして、何かを蹴る。ラズのスナイパーライフルだ。弾丸はフルで装填されたまま。
  頂いとくか。
  ゲットして私はその場を後にした。
  
  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!

  まただ。
  何の音だ?
  いや、ストロの報告では何かが攻撃を加えている音なんだけど、何の攻撃で、それが何者なのか、謎のままだ。
  ベリー家の敵であることは確か。
  私の味方?
  それもない。
  私はただそいつの攻撃を利用して脱出出来たに過ぎない。
  「行くか」
  通路を歩き、ゆっくりと階段を慎重に下りる。
  香水使いのラズは殺した。
  シドニーは我を取り戻してた、多分香水使いが死ねば解放されるのだろう。操り人形にされた住民たちも解放されていると思う。まあ、ベリー家とは別に身ぐるみ剥ぎに襲ってくる可能性はあるけど。
  入り口まで戻ってきた。
  外が見える。
  だけど迂闊に外に出ればベリー3姉妹の残りの妹2人に狙撃される、従妹もまだ残ってる。作戦が必要だ。

  パチパチパチ。

  響く拍手。
  私は振り返る。階段のところに、三段目の所にオラクルが座っていた。足をバタバタしている。
  「凄いね、まさかあの状況から逆転するなんてさ」
  「どうも」
  銃を向ける。
  相手は何も持っていない。ただ座っているだけだ。
  「撃てる?」
  「撃てるわ」
  「子供だよ?」
  「私は子供たちこそ未来だと思っている。でも我々の楽しみまで台無しにされたくないByムアイク。それに、あなたは子供じゃないでしょ」
  「子供だよ」
  「体はね。脳ミソは200歳の爺さんだ」
  「あはは」
  「いつでも私を殺せたでしょ? 何故生かしてた?」
  「言ったじゃん。あの餓鬼が邪魔してたんだよ。最初の飲み物、体当たりで零させたでしょ? あれはわざとじゃないね、何者かは知らないけど、実に良い嗅覚してる」
  「一緒に暮らしてた時も殺せた」
  「あんた自分が素人だと思ってるでしょ?」
  「ええ。私は無害な一般人だけどそれが何か」
  「雑魚をけし掛けたでしょ、僕がわざと刺されたあの夜だよ。あれさ、普通はあんな簡単に起きて返り討ちなんて出来ないものだよ。君は素人じゃない、玄人さ」
  「そりゃどうも」
  「君の体を貰うよ」
  「許すとでも?」
  「許すさ」

  バッ。

  飛びかかってくる。
  速いっ!
  銃を撃つ暇はなく、アサルトライフルで叩き落とす。床に叩きつけられるオラクル、だけど跳ね上がるように蹴りを私に叩き込んでくる。
  すれすれでかわすけど、こいつ速いっ!
  お返しだ。
  銃底を繰り出す。
  オラクルは軽やかなステップで後ろに退いた。
  「ベリー家にここまでしたのはあんたが初めてだよ、お姉さんっ!」
  「そりゃどうもっ!」

  バリバリバリ。

  「今回は楽しめたよ、結構ねっ!」
  嘘でしょこいつ銃弾を避けてる。
  そのまま階段を駆け上って階上に消えた。
  逃げた?
  いや……。

  「決着を付けようよ、おいでよ、お姉さんっ!」

  階上から声が降ってくる。
  ふぅん。
  これはこれで予定していた通りの展開なのかな。いや、正確には想定内なのだろう。しかしあの体で戦おうとしていること、わざわざ誘うということ、これは罠があるな。
  かといって外に出ると多分スナイプされる。
  誘いに乗るべきか。
  少なくとも奴、オラクルは仕留められる。
  乗るか。
  「行くか」
  私は階段を再び上りはじめる。
  1階、クリア。
  2階、クリア。
  3階、クリア。
  4階……これ、いつまで繰り返すんだ?
  上がりはじめてすぐに私の心は折れてくる。疲れるだろ、この状態。だけどこれが奴の狙いの1つなのだろう、こちらの精神力を削ぎたいのだ。
  やれやれ。
  お付き合いしてあげますか。
  ……。
  ……とは思ったものの。
  「ぜえぜえ」
  結局屋上まで階段を上ってしまった。
  終点、屋上への扉前だ。
  あの扉の向こうにいるのだろう。
  PIPBOYの索敵もそう反応している。
  今までの階層は丹念に調べてたわけではないけど、それでも警戒しつつ探索してた。そこにオラクルはいなかった。いるとしたらここしかない。いや、いないにしても何かあるだろ。全く何の考えもなしに
  私を誘い込んだわけではないはずだ。まさか建物ごと爆破するなんてことはないと祈りたいですね。
  「よし」
  両頬を叩き、気合を入れる。
  行くか。
  屋上への扉を開く。
  「Cronusっ!」
  能力発動。
  いた。
  屋上に敵がいた、こちらに対してスナイパーライフルを向けている。金髪で、ラズに似ている。多分これがストロか、ブラックだ。
  なるほどね、スナイパーの1人はここに陣取ってたのか。
  ここはどこのビルよりも高く、他のビルをも見下ろせるスナイパーにとって絶好の場所のようだ。
  オラクルはいない。
  どこかに潜んでいて、追い越してしまったようだ。
  これが狙い?
  迂闊にも屋上に踏み込んだ瞬間に私が間抜けに死ぬと?
  下らない。
  わずかとはいえ始終傍にいたのにこの程度か、実に下らない。
  グレネードランチャー発射。
  私は弾道上から身を少しずらし、Cronusを解除。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ

  敵は吹き飛ぶ。
  直後、私は屋上の扉を閉じて縁まで移動……特に落下防止用の柵とかはない……移動した後、目を一杯に開いて眼下を見る。
  どこだ?
  どこにいる?
  こちら側にはいない……いや……。
  「来た」
  視界がスローになる。
  弾丸がどこからか放たれ、私の視界に入っている。
  どこだ?
  どこにいる?
  視界に入っているとはいえ弾丸を見るのは一苦労、だから私は弾丸ではなく眼下のビルのどこかにいるスナイパーを探す。
  いた。
  左斜め下のビルからだ。
  視界に入る限りは弾丸である限りは自動的にスローになる。視界を逸らした瞬間に元のスピードを取り戻すことになる、だから私は任意能力を発動。
  「Cronusっ!」
  何故使ったのか。
  スナイパーライフルを使う際に一時的に弾丸をロストするからだ、その際に弾丸は元のスピードを取り戻してしまう。延々とストロだかブラックだか知らないけどスナイパーと応酬をするつもりは
  毛頭ない。照準を定め、相手の頭に合わせままトリガーを引く。そして私はその場から離れつつ能力解除。
  やったかな?
  「よし」
  眼下のビルをスコープで覗き込むと死体が転がっていた。
  残りはオラクルと従妹の2人だけだ。
  もしかしたらグリン・フィスが従妹たちを倒しているかもしれない。
  ともかく。
  ともかく私が注意すべきはオラクルだけだ。

  キィ。

  扉がわずかな軋みを立ててた。
  その音により誰かが来たのが分かる。閉めたのはその為だ、不意打ち上等っ!
  振り向くとオラクル。
  どこかに隠していたのだろう、10oサブマシンガンを持っている。
  そして撃つ。
  何の躊躇いもなく。
  「死ね、赤毛の冒険者っ!」
  「それが本性ってわけね、オラクルっ!」
  無数の殺意の弾丸が私に迫る。
  スローでね。
  回避しつつミスティックマグナムを引き抜いて撃つ。視界を逸らした瞬間、全ての時間は元に戻った。私への弾丸は何もな空間を通り抜け、私の弾丸は奴の銃を吹き飛ばす。
  「終わりよ」
  「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
  速いっ!
  一直線にこっちに向かってくる。
  私は撃つ。
  躊躇い?
  そんなものはない。
  だけど当たらない、この速度は想定してなかった、反応速度が間に合わない。
  キラリとオラクルの手で光る。
  ナイフ。
  それも私がモイラを通じて渡したブッチャーのナイフ。
  「ちっ!」
  私は彼に体当たり。
  退くにしても銃器を振り回すにしても、わざわざ白兵戦を挑んでくるんだ、絶対的な自信があるのだろう。私が突っ込んだことで相手の間合いが若干狂う。右腕に若干掠るものの私とオラクルは
  もつれ合って倒れた。ブッチャーナイフが転がる。オラクルは素早く起き上がって私の顔を蹴ろうとするものの、私はそれをガード。
  いったぁっ!
  何だこの重い蹴りっ!
  ブッチャーナイフを私は拾い、そのままオラクルの右足に突き立てた。

  ギィンっ!

  音を立てて砕けた。
  えっ?
  驚く私の隙を衝いて彼は大きく飛び退き、10oサブマシンガンの所に走る。
  「動くなっ!」
  発砲。
  さらに遠くに10oサブマシンガンを吹き飛ばす。それは屋上から落ちて行った。
  チェックメイトだ。
  動きを止め、ゆっくりとこちらを向くオラクル。
  「これまでよ」
  「みたいだね」
  相手は無手。
  打つ手はないはずだ。
  「容赦ないね、大好きな弟の僕にナイフを突き立てるなんてさ。お蔭で皮膚から血が出ちゃったよ」
  「足に何か入れてる? その速度は何なの?」
  「インプラントだよ」
  「インプラント?」
  「西海岸ではわりと一般的だよ。お金があればね。脚力を、つまり速度上昇効果のある機械を埋め込んであるんだよ。僕の場合は念入りに複数ね。だから僕の足は生身の部分が少ないんだ」
  「ああ、そうですか」
  「撃てるわけないよ、だって子供だよ?」
  「体はね。脳ミソは200歳の爺さんじゃない。悪いけど配慮する理由はないわ」
  「老人に敬愛はないの?」
  「黙れパーツ寄せ集めの化け物」
  「お姉さんと僕の仲じゃない」
  「仲良しよね、私ら」
  じりじりとオラクルは下がり始める。
  今度は策がない?
  かもね。
  だけど策があろうがなかろうが関係ない、ここで引き金を引けば終わるのだ。
  そして私には躊躇いなんてない。
  外観は子供だろうが脳ミソは200歳、それに奪われた子供の脳ミソがどこかに保管しているわけでもない。わざわざ保管するメリットも分からない。遺棄したのだろ、たぶんね。
  「ここまでよ、オラクル」
  「くそっ!」


  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!

  「なっ!」
  仕留める瞬間、屋上に大きな穴が開く。
  何だ?
  上っ!
  「何、あれ?」
  パワーアーマーの奴がいる、背中から火を噴きながら飛んでいる。
  あれか、さっきから飛び回ってたとかいう奴は。
  ……。
  ……夢の中で見たような気がする。というか着てたよね、私。あれ着て宇宙人相手に無双していたような。いや、夢なんだけど。
  オラクルは好機とばかりに後ずさり。
  「またね、お姉さん」
  見逃した?
  そうじゃない。
  上空を見てロケットマンを視界に捉えている。当面の相手はオラクルからロケットマンに移った。あんな上空から屋上に穴が開くような攻撃をされたら堪ったものじゃない。わずかな隙すら危ない。
  だから。
  だから逃げるオラクルを撃つという行為すらできなかった。
  飛び回っている奴はガウスライフルを装填する……あれ、何であの武器の名前を知ってるんだっけ?
  まあいい。
  だけど完全にあいつの目的は私だと判明した。
  何者だ、あれ。
  「ロケットマン?」
  そういえばカンタベリー・コモンズでデレクが言ってたな、空飛ぶヒーローがいるとかいないとか。
  あれがそうか?
  「やれやれ」


  VSロケットマン戦、スタートっ!