私は天使なんかじゃない






袋の鼠







  退路はない。






  クライスラスビル。
  メガトン北東戦前の自動車メーカのクライスラス・モータースのオフィスピル。
  廃墟の建物が立ち並ぶ場所らしい。
  ビル内部でのご対面なのか、廃墟の街の路上でのお話し合いなのか。
  どっちにしてもこれだけは言える。
  無人。
  これに尽きる。
  つまり話し合いは必ずしも言葉ではないということだ。
  まあいい。
  そっちがそのつもりならこちらにも考えがある。
  弾丸で話し合うまでだ。



  「来たわよ」
  「来たわね」
  廃墟の路上で私たちは10メートルの距離を空けて対面。
  緑色のコンバットアーマーを着た女がカスタマイズされた10oサブマシンガンをこちらに向けている。これ以上近付くなということのようだ。
  へたれめ。
  その隣には知らない女がいる。
  ショートの赤毛で、火炎放射器を持ったコンバットアーマー着た女。こちらに向けて火炎放射器が向いている。火炎放射器の燃料タンクを背負ってるけど、重くないのかねー。
  火炎放射器はまずいな。
  私の能力は弾丸をスローにするだけ、火炎放射器は私の能力対象外。
  自動発動では対処できない、発動しないからだ。
  少なくともピットでのベア兄弟との戦いでは発動しなかった。知っててのチョイスなのか、知らずになのか知らないけど、シドニーよりも向こうが面倒だな。
  私の隣にはグリン・フィスがいる。
  私も彼も完全武装。
  まともに戦えば負ける要素はないんだけど、今回はオラクルという人質がある。
  この場にあの子はいない。
  どこだ?
  どこかのビルに閉じ込められていると見るべきか、だとしたら問答無用では倒せないな。倒すだけなら問題ない、すぐさま殺せる。だけどここであっさりと展開を処理してしまえばオラクルの居場所が
  分からなくなってしまう。それは困る。半殺しに抑えて、何とか聞き出さないと。もっとも、まだ仲間がいる可能性もあるからそれ見しばらくは延期だ。
  まずは話を引き出す。
  それからだ。
  「オラクルはどこ?」
  「1人で来ないとはね」
  シドニーは詰るように呟く。
  詰るの?
  私を?
  意味不明。
  公文書館での振る舞いに私に不備があっただろうか?
  まあ、独立宣言書が偽物だとは分かってたけど警告しなかったっていうのはあるかな。とはいえここまで逆恨みされる筋合いはない。大体私があの場にいなくても間違えたんだろうに。
  目利きない癖に逆恨みでここのでするとは良い度胸してる。
  「1人で来いとは言われてない」
  「空気読みなさいよ」
  「空気読まないついでにBOSとレギュレーターでここを取り囲めばよかった?」
  「……」
  「で? オラクルはどこ?」
  「鍵を先に渡しなさい」
  付き合いがないからこいつの人となりが分からないけど、公文書館で会った限りでは良い奴だったのになぁ。
  シーに仲介頼んだけど聞く気なかったようだ、こいつ。
  どうしたもんかな。
  「鍵を寄越しなさい」
  「わざわざそう警告した上で交渉しようってことは、問答無用でっていうのはないってことよね?」
  「状況による」
  「そう。次の状況にステップアップしたら教えて」
  「鍵をっ! 渡しなさいっ!」
  「はいはい」
  投げ捨てる。
  シドニーの頭の上を通り越えて鍵は落ちた。
  「……舐めたことするじゃない」
  「あなたほどじゃない」
  私は肩を竦めてそう答えた。
  挑発してる?
  挑発してますとも。
  当然のことながらあまり挑発し過ぎると爆発する。だけど、少なくとも問答無用で撃つことはしなかった。私を殺して奪えば早いのにそうはしなかった。
  鍵を持っているかを見極める為?
  それもある。
  だけど悠長にそんなことをする意味があるだろうか。
  いや。
  そもそもその鍵が何の鍵かこいつは知ってるのか?
  ちらりと火炎放射器女を見る。
  ずっと警戒体勢のまま火炎放射器を身構えている。ご苦労なことで。
  ……。
  ……あれ?
  こいつどっかで見たような?
  そんなことを考えている間にシドニーは後ずさり、銃は構えたまま、鍵を拾う。
  「本物でしょうね?」
  「何を以て本物とするのかは知らない。私はその鍵がどこの鍵かも知らないし、本物なのかも知らない。で? オラクルはどこ?」
  「クライスラスビルに来いと言ったでしょ? そこにいる」
  「ああ。そういうこと」
  オラクルはこいつらにとって大事な人質。
  だけどこの場に連れてこなかった理由がいささか不穏でもある。
  連れて来れなかった?
  つまり死んでいる?
  考えたくはないが可能性としては否定できない。
  これだけは宣言しておこう。
  「オラクルの安否によってはあんたらを殺すわ」
  「安心しなよ。そんな心配は意味ないから」
  瞬間、シドニーはこちらに向けた銃口の引き金を引く。
  下らない真似を。
  視界に入る限りは弾丸がスローになる、自動発動で。あの10oのサブマシンガンはカスタマイズされたもので装弾数は従来の代物を圧倒する、大量の鉛玉を吐き出す。
  だけど私からしたらお遊びだ。
  赤毛の相棒は火炎放射器を起動させる。私は弾丸以外はスロー能力が自動発動しないけど、弾丸も視界に入っているのでゆっくりに見える。要は火炎放射器単体の場合は能力が発動しないけど、
  弾丸を視界に端にでも入れておけば一緒にスローになる。火炎放射器だけ通常の速さで、弾丸はスローという器用なことはできない。同時にスロー状態。
  まあ、Cronusを任意発動させたらどんな現象も時間停止で問題ナッシングなんですけど。
  ともかく。
  ともかくシドニーたちは攻撃開始。
  私は安全県内に移動しつつミスティックマグナムのトリガーを引き、視界をずらす。
  時間が元の状態に戻った時にはシドニーの武器は弾かれる。
  「なっ!」
  「私の能力に勝てると思うだなんて自信家ね」
  銃口はシドニーに向いたまま。
  赤毛の方は……マジか、構わずに火炎放射を続ける。私は後ろに後退しつつ発砲、女は回避。グリン・フィスは火炎を回避しつつ接近しようとするものの、炎の壁に阻まれる。
  へぇ?
  この女、中々強いぞ。
  グリン・フィスの動きは俊敏だ。
  そんな彼の行動ルートを見越した上で火炎放射器で炎の壁を構築している。大したものだ。
  シドニーは地面に転がる銃に飛びつくものの再びそれを弾き飛ばす。
  結果として無様に転がっただけだ。
  「チェックメイト、よね?」
  「くっ!」
  「そっちも納得してくれるといいんだけどね?」
  「……」
  ちらりとその女はシドニーを見る。
  シドニーが頷く。
  火炎が止まる。
  お利口さん。これでお話が出来るというものだ。
  「シドニー、何のつもり?」
  「人の依頼を……っ!」
  「私が独立宣言書を奪った? 私が? 結果的にどう足掻いてもあなたは手に入れることはできなかった、でしょ? 本物偽物の区別が出来ないんだから、結果は同じだったはず。ただ、私がいた
  からこそ、八つ当たりの相手が出来たってだけじゃない。迷惑。面倒。是非ともやめていただきたいのですけど。反論はある?」
  「偽物と分かってたなら、言ってくれてもいいじゃないかっ!」
  「あー、そう来ます?」
  別に義理はなかった。
  それだけの話。
  「だからと言って襲われる理由にはならないと思うけど」
  「メンツの問題だっ!」
  そんなメンツで襲われたら堪ったものじゃない。
  「どうしてオラクルを? 話し合いだったんじゃないの?」
  実に手の込んだやり方だ。
  ……。
  ……いや、むしろ逆か?
  シドニーと話し合いをする、多分その隙にこの赤毛がオラクルをさらう、そんな感じ?
  まあ、結局はイーターがレディーキラーを食い殺したお蔭で街は大混乱、そのドサクサで話し合いという茶番を通り越して誘拐されたわけだけども。
  もしかして誘拐は想定してなかった?
  ドサクサを衝いただけ?
  「どうして誘拐を?」
  「エマラインがその方が手っ取り早いってね」
  「エマライン」
  あの赤毛の女の名前か。
  初めまして。御機嫌よう。
  だけどどこかで見た顔だな。誰だっけ?
  「この鍵はどこの鍵なわけ?」
  それを知らなければそこまでする理由は……まあ、悪党どもはそれを知らないで襲ってきてたけど、こいつらは知ってるのだろうか?
  私は知らない。
  出来たら知りたいものだ。
  「どこの鍵?」
  「知らないよ」
  「はあ?」
  「エマラインが知ってる。だろ?」
  「……」
  赤毛、だんまり。
  表情は変わらずだけど、口元が少し動く。
  冷笑?
  その時、火炎放射器が起動する。

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

  こいつマジかっ!
  私たちには届かない、威嚇程度だけど、シドニーに銃を向けてるんだぞ、どういうつもりだっ!
  私たち同様にシドニーも慌てた。
  まさか仲間割れ?
  鍵を手にするまでは仲間で、その後はどこで使う鍵かを知っているエマラインが独占する為にシドニーを殺す?
  それが狙いか?
  「エマライン、まさか独り占めする為に最初から……っ!」
  火炎が止まり、彼女は高らかに笑った。
  苦し紛れの抵抗ではない。
  勝利者の笑い。
  「独り占め? ふん、こんなもの最初から何の意味などない。シドニー、意味なんてないのよ」
  最初から意味がない?
  どういうことだ?
  グリン・フィスがこちらを見る。私は首を横に振った。まだ斬るには早い。口を割らせてからだ。
  混乱しているシドニーは放っておく。
  ただ、こいつらは昨日今日の間柄ではないのはシーの言葉から分かってる。だから鍵を利用して私らをおびき出す為だけに話をでっち上げたってわけではないはずだ。
  だとしたら何がエマラインを動かしている?
  いや。
  それよりも鍵はオラクルが持ち込んだものだ。
  それが意味がない?
  それは中身が大したことがないという話なのか、鍵そのものがでっち上げなのか……違うか、オラクルの両親が鍵の所為で殺されてるしそれはないか、あるとしたら、エマラインは鍵がどこで
  使うものか知らないってことだろう。私らをおびき出す為に、オラクルをさらったのだ。理由は知らないけど、私をおびき出して殺す為。
  シドニーを利用する為に鍵が莫大な代物で、その鍵を得る為にオラクルを誘拐しようとでも言ったのだろう。
  でも何の為に?
  「あんた誰?」
  「初めまして赤毛の冒険者。姉の仇めっ!」
  「姉?」
  どこかで見た顔っていうのは、その姉を私が知っているからか。
  どこで……。
  「虐殺将軍?」
  顔立ちが似てる。
  奴も赤毛。
  そして虐殺将軍エリニースの妹であるならば、私の弱点が火炎放射器だと知っててもおかしくない。あの女も最終戦で火炎放射器武装の部下で私らを取り囲んだ。ピットでの弾丸以外はスローに
  出来ないという出来事をエリニースは掴んでた。妹にそれを何らかの形で伝えていたとしてもおかしくはない。とりあえず辻褄は合う。
  だけど当時とは違う。
  私は自分の能力を使いこなしているし、自動発動ではスローにならなくても、任意発動では全ての時間を止められる。
  今更火炎放射器だからといって敬遠することもない。
  エマラインは叫ぶ。
  「そうともっ! 私は虐殺将軍エリニースの妹、あんたに殺された姉の仇を討つために手を組んだのよっ! そしてあんたはここにおびき出された、この死地にねっ!」
  「ちっ」
  囲まれてる?
  単独でこんな台詞を吐けるわけがない。
  「グリン・フィス、気配は」
  「誰もいません」
  近くには潜んでいない。
  となるとグリン・フィスの気配が読める範囲外か。
  ……。
  ……まずいな。
  ここに呼んだ理由は、それか。
  スナイプするのか。
  狙撃主が潜んでいるらしい。
  どうする?
  「私を殺すつもり?」
  「当然」
  「姉の仇、ね。それは分かったけど、わざわざこんな手の込んだことをする理由は何?」
  「あんたほどの奴を敵にするんだ、計画は周到にね」
  「いつから狙ってたの?」
  「シドニーがあんたを狙い始めてからさ。……ああ、いや、私がそうなるように煽ったんだけど。メンツ潰されて黙ってるの、手伝うから殺しちゃいましょうよってね」
  「友達じゃないの?」
  「友達よ。でもあんたを殺す方がそれよりも優先されるの」
  「ふぅん」
  「ベリー3姉妹は実に良い計画を立ててくれたっ! さあ、ここであんたの旅路はENDよっ!」

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発と爆風。
  気付けば私は転がっていた。
  何故に?
  周囲を見る。
  グリン・フィスもシドニーも倒れている。エマラインはいない。いた場所の地面が抉れ、炎が立ち上っている。
  自爆か?
  火炎放射器の誤操作?
  いや、これはまさか……。
  「主っ!」
  「Cronusっ!」
  能力発動。
  時間停止中に動くのは消耗が激しいから嫌なんだけど、私はその場を離れる。能力解除。その瞬間に銃声、それも複数。
  狙撃されてるっ!
  「自分は何とかしますので、この場から離脱をっ!」
  「わ、分かった」
  その場から離れる。
  銃声は断続的に聞こえる。
  1人逃げるのは卑怯?
  グリン・フィスは私よりも感覚が鋭い、弾丸も普通に避ける。私の場合は視界に入らない限りはどうにもならないし、任意で時間を止め続けるにも限度がある。
  狙撃を避けるためにはこれがベターだ、ベストではないにしても。
  追い立てられるように私は1つのビルに入った。
  中は真っ暗。
  PIPBOY3000の照明を点灯、どこかの会社の受付のようだ。目ぼしいものは何もない。とうの昔に誰かが中身を剥ぎ取ったようだ。
  武装は、ある。
  傷は特にない。少なくとも深手はない。額が切れているのに気付いたけど、あの爆発でこの程度なら無傷のようなものだ。
  「くそ」
  エマラインを爆弾代わりにしやがった。
  火炎放射器のタンクをベリー3姉妹が狙撃したのだろう。最初から手を組むというよりは、爆弾代わりに利用するつもりだったのだ。発想は悪くない、実に狡猾で、実に有効な手段だ。
  だけど私を殺し損ねた。
  残念でしたね。
  ベリー3姉妹は知ってる、まだ会ってはないけど、ジェリコが放った12の刺客。デリンジャーが警告してくれた敵。わざわざあいつが警告するのだから、強いのだろう。
  外では銃声が続いている。
  まずいな。
  どこから狙撃しているか特定するところから始めなきゃどうにもならない。
  手持ちの武器では高所からの狙撃はどうにもならない。
  居場所を突き止めなきゃ。

  タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ。

  誰かが外から走ってくる。
  グリン・フィス?
  銃を扉に向ける。
  「ちょっ、撃たないでっ!」
  「何だシドニーか」
  無手のシドニーが来る。
  銃は私が弾き飛ばしたし、あの状況だ、無手はおかしくない。むしろ武装されたら困る。こいつも仕込みの可能性はまだある。
  「ベリー3姉妹の指示?」
  「ち、違うっ!」
  「どこまで関わってる?」
  「だから違うってっ!」
  「今更信じれるとでも?」
  「た、ただ損した分をあんたから取り立てれればよかったんだっ! エマラインが手伝ってくれるって言った、それだけよっ! そのベリー3姉妹とやらは知らないっ!」
  「取り立てるだけでいい。じゃあルーズベルト学院での奇襲は?」
  「あ、あれは……」
  「……」
  「出来心で」
  「ふぅん」

  バキーっ!

  とりあえず顔面にストレートを叩き込む。
  鼻血出して彼女は後ろに倒れた。
  「これで勘弁してあげる。とりあえずはね」
  「いたた……」
  「で? エマラインとは長いの?」
  「昔馴染みだよ」
  「ふぅん」
  そんな付き合いのシドニーを捨てるぐらいに私が憎かったらしい。とはいえあれは私の所為なのか?
  仇といえば仇だろうけど、うーん。
  起き上がるシドニー。
  「あれ、ここは……」
  「何?」
  「クライスラスビルよ」
  「えっ?」
  オラクルがいる場所か。
  「どこにいるの?」
  「ここの5階に縛って閉じ込めてある。5階に意味はない。そのあたりで体力が尽きたんだ」
  「ああ、そう」
  外から見た限りではこのビルはかなり高い。
  5階で諦めてくれたのはいいことだ。
  銃声は断続的にしている。
  「グリン・フィスはどんな感じ?」
  「凄いよあいつ。狙撃を回避してる。こことは別の方向に走って行ったよ」
  「こことは別の?」
  「ああ」
  「……」
  「な、何よ。沈黙すると、不安になるじゃない」
  「……」
  まさかここまで追いたてられた?
  分断された?
  「ミスティ?」
  「オラクルの所に案内して。ところで、ここは無人の場所なのよね? この辺り一帯は無人なのよね?」
  「いえ」
  「いえ?」
  「無許可で住んでいる連中は山ほどいるわ、これだけのビルだから」
  「ああ、そう」
  様子を見ている連中もいるのか。
  難民、住所不定、まあ、いずれにしても昔ながらのキャピタルの生活者だろう。だとしたらヤバいな。こちらが巻き上げれる相手と判断したら敵に回る可能性がある。敵ですと宣言している
  レイダーよりもたちが悪い連中だ。出来たら登場する前に何とか片を付けないと。そうすれば連中はギャラリーで終わる。
  「シドニー」
  「な、何?」
  「あんたはどうするの?」
  「武器はないけど外にも出れない。あんたがお気に入りを弾き飛ばしてくれたお蔭でねっ!」
  「私の所為?」
  「い、いや、自業自得です」
  銃を向けると自信喪失た模様。
  へたれめ。
  かといって別にこいつに武器を貸すつもりはない。連れて行くのはリスク高いし、ここに放置の方向でいいだろ。
  「じゃあね」
  「あ、ああ」
  「5階よね?」
  「5階の会議室だよ」
  「そう」
  彼女を残して私は階段に向かう。
  ベリー3姉妹は外に釘付けだろうか?
  それはない。
  銃声は途切れている。
  たぶんグリン・フィスがどこかの建物に入ったから狙撃待ちの状態なのか、狙撃ポイントから移動したかだろう。グリン・フィスが撃たれることはないだろ。私が問題に思っているのはここへの
  追い込みだ、そしてグリン・フィスとの分断。狙ってやっているのだとしたらここには何かある、罠か待ち伏せか。
  嫌なパターンとしてオラクルを人質として持ち出してくることだ。
  それぐらいしてくるだろ。
  虐殺将軍の妹を動かしていたのは3姉妹だし、オラクルの誘拐も姉妹の指示とも考えられる。
  だったら人質を有効利用してくるはずだ。
  厄介だな。
  PIPBOY3000の索敵モード起動。
  有効範囲は狭いけど誰かいればこれで分かる。少なくとも不意打ちは避けれるだろ。
  階段を上る、2階、3階、4階、そして5階。
  
誰もいない。
  だけど……。

  ピピピ。

  PIPBOY3000に反応がある。
  オラクルのもの?
  あいにくこれが誰の物かは分からないけどオラクルはいるのかなシドニーが言ってた5階なわけだし。
  反応する数は……。
  「8? えっ?」
  その時、誰かがこちらに向かって殺到してくる。
  アサルトライフルを構える。
  暗がりの廊下を全力疾走してくるのは誰だか分からない、粗末な服の面々。ここの住人たちか、だとしたらかなりアグレッシブなことだ。
  「止まらないと撃つっ!」

  バリバリバリ。

  と言いつつ私は銃ら掃射。
  殺到してくる面々はバタバタと倒れた。相手は無手だ、ただ突っ込んで来たに過ぎない。ラッシュするには数が足りなかったわね。誰も動かないことを確認して、私は弾倉交換。
  PIPBOY3000がさらに反応する。
  どこからだ?
  近付いてくるけど視界には……階段かっ!
  振り向いて階段を見る。
  下か、上か。

  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  階段を駆け上ってきたのはシドニー。
  私は迷わず引き金を引いた。

  バリバリバリ。

  シドニーの後ろに肉薄していた連中を掃射。
  だけど今度は数が多い。
  弾倉が空になる。
  私は流れるような動作(自画自賛っ!)アサルトライフルを放り捨ててミスティックマグナムを2丁引き抜いて発砲。パワーアーマーをも貫通するんだ、密集した生身の人間は1発で数人が倒れる。
  何なんだ、こいつら?
  敵を蹴散らした私はミスティックマグナムの弾丸を装填、アサルトライフルを拾って弾倉を交換。
  とりあえず敵はいない、かな。
  改めてPIPBOYで確認。
  反応した数は2.。
  索敵範囲内に限って、だからもっといるのかもしれないけど……オラクルと、別の誰かがいると見るべきか、もしくは関係ない2人なのか。
  「シドニー、どうしてここに?」
  「どうして、だって? 見たでしょ、あいつらっ!」
  「見た」
  「銃を貸してっ!」
  「うん、断る」
  信用は出来んわ、さすがに。
  「こいつらは何なの?」
  「聞かれても知るわけないっ!」
  カルシウム足りてないな。
  バラモンのミルクを飲むことをお勧めしたい。
  「ここの住民?」
  「か、かもね」
  「ベリー3姉妹に雇われているのかな」
  「それは、分からないけど、目が正気じゃなかった。いきなり突入してきて襲いかかってきたんだ」
  「目が正気じゃない」
  確かめてる場合じゃなかったから気付かなかった。
  ……。
  ……まさか無敵病院の続きか?
  オイホロカプセルで中毒になってた連中が無敵病院では襲われたけど、んー、あのマッチョとベリー3姉妹が繋がっているのか?
  謎だな。
  だけど、マッチョにしても、マダムにしても、何か大きな背後がある感じだった。
  手を組んでいるのであれば面倒なことだ。
  「このビル群に住んでいる住民の数は?」
  「さ、さあ」
  使えんな。
  だけど入り口から乱入してきたのはともかくとして、5階にいた連中は私の侵入を想定してここに配置していたと見るべきだろうか?
  まあいい。
  アサルトライフルを構えながら私は進む。
  後ろをシドニーが付いてくる。
  会議室、ね。
  「シドニー」
  「何?」
  「お先にどうぞ」
  「はあ?」
  「信用できると思う? ごめん、背中は預けられない」
  「……」
  「行って」
  「……」
  「駄目なら、ここから去って」
  「……分かったよ」
  「援護する」
  にっこり笑って彼女を前に歩かせる。
  会話なし。
  敵もなし。
  PIPBOY3000は2つの反応、私ら以外に2つ。
  そしてそれは私たちの前にある会議室の中からだ。
  「開けて」
  「あ、ああ」
  扉が開かれるのと同時に私はシドニーを避けて中に踏み込む。
  「動くな」
  アサルトライフルの銃口を窓際に立つ女に向けた。
  その女、金髪の、戦前のカーキ色の軍服を着こんだ女。窓際には無造作にスナイパーライフルが立てて置かれ、腰にはピストル。構えているわけではなく瓶入りの何かを手で弄っている。
  入っているのは透明な液体。
  シュッと音がした。
  瓶に付いているノズルから何かの気体が出た、甘い匂いがする、香水か。
  その側にはオラクルが倒れている。
  動かない。
  「この子に何をしたの?」
  「香水はお好き?」
  「動くな」
  「私の香水は甘くて優しい。人は容易く心を奪われる、そう、文字通り心を奪われるってわけ」
  「動くなと言っている」
  相手の動きを止める。
  あの香水か。
  何かの能力と併用しているのかは知らないけど、あの香水で人を操っているのだろう。非科学的かもしれないけど、私だって能力者として存在している、充分に非科学的だ。
  ともかくあの香水でこのビル群にいる連中を操ってたのだろう。
  「待ってたわ、赤毛の冒険者」
  「あんた誰?」
  「あたしはベリー3姉妹のラズ・ベリー。外では妹たちが失礼な真似を」
  「ラズ・ベリー?」
  「妹たちはストロ・ベリー、ブラック・ベリー」
  「……」
  何か体が痒い。
  何だこの中二病時代の名前はっ!
  おおぅ。
  「何の目的でこんなことを?」
  「ジェリコからの依頼。目的は金よ。後はあたしら一家が最強の殺し屋であることを知らしめる為。単独ではデリンジャーが最強かもしれないけど、組織的にはあたしらの方が上であることを知らしめるのよ」
  「エマラインは?」
  「あの女は姉の復讐をしたがっていた。それを利用したまでよ」
  「鍵は何? 何を開ける鍵なの?」
  「鍵、ああ、簡単なことよ。開ける物は常にあなたの身近にあった。でもそれを教えるにはまだ早い。予定がいささか狂ったけど、あなたは合格だ。だから……」
  「ちっ!」
  背後から誰かが掴みかかってくる。
  シドニーだ。
  私は彼女に肘打ちをし、束縛から解放される。屈せずに掴み掛ってこようとするシドニーにアサルトライフルの銃底を叩き込む。撃っても良かったけど、殺すまでの相手じゃない。
  まあ、下手したら今ので死ぬけど。
  香水をシュッとしている時点で気付くべきだった。
  私は振り向く。

  ザシュ。

  「おやすみ、お姉さん」
  「オラ、クル?」
  ドサ。
  私はその場に倒れた。ナイフは膝に刺さっている。おかしい、この傷で動けなくなるなんて……麻痺毒か何かか……?
  操られているのはオラクルもか。
  甘かった。
  甘かっ……。