私は天使なんかじゃない






狂騒







  事態は悪化していく。






  「リチャード・グレイ?」
  木漏れ日の中、私はそう聞き返した。
  ここは木々が生い茂る場所。
  キャピタル・ウェイストランド唯一の覆うほどの植物が自生している場所。
  オアシス、そう呼ばれている。
  「そう。それが奴の、ザ・マスターと呼ばれていた男の本当の名前さ」
  「へぇ」
  大木と会話中。
  ……。
  ……いえ、ジェットはやっていません。
  麻薬良くない。
  幻視でも幻聴でもない、この大木はハロルドだ。
  大木にもたれ掛って預言者様のアンクル・レオは寝てる。
  訪れた理由は西海岸のスパミュ事情を知る為で、私と同行しているのは毎度お馴染みのグリン・フィス。オアシスから少し離れた岩場になるけど、そこにはジェットヘリで待っているスティッキーがいる。
  何故離れた場所にいるのか。
  余所者をオアシスの面々が嫌うから?
  それは分からないけど、より純粋に着陸地点がオアシス内にはないだけだ。木々が生えてるからね。
  別にスティッキーの目的はインタビューでもこの場所を世間に知らせるわけでもない。
  あくまで今回は私の足だ。
  辺境に近い場所だから陸路で行くには時間が掛かる、それだけの話。
  一応この場所を世間的に知られると面倒だし、ツリーマインダーたちにも迷惑がかかるので、スティッキーには守秘義務を課せております。
  口止め料として今度何か奢って欲しいらしい。
  可愛い要求ですね。
  さて。
  「それで、ザ・マスターはどうやって倒されたの?」
  訪れた理由はザ・マスターやマスターズアーミーの情報を得る為、まあ、予備知識欲しさです。
  BOSに聞けばいい?
  当事者ではあるものの、BOSはボルト13出身の放浪者によって倒された以外は知らないらしい。どうも敵の本拠であるマリポサ基地前でいきなり撤退したとか何とか。
  サラは面倒は他人事報酬は自分の物主義のBOSらしいって笑ってたけどそれって何かずるくね?
  キャピタルBOSは私に最後まで付き合って欲しいものです。
  ハロルドに聞く理由は、彼がこうなったきっかけがマリポサ基地にあるから。前にそんなことを聞いた、ピットから帰ってここに迷い込んだ時に。
  「ボルト13の放浪者によって倒されたよ」
  「どうやって?」
  「まさかザ・マスターの復活とか考えてるのかい?」
  「そうじゃないけど、西で何があったか知らないと展開に付いて行けない」
  「じゃあ最初からかいつまんで話そうか。奴と俺はマリポサ基地探索をしていたんだよ、そしたらFEVで変異していたミュータントたちにFEV浸けにされた。俺は何とか逃げたんだけど、奴はそこで
  スーパーミュータントは別の変異を遂げた。そして考えたんだ、この世界に適応できる生物は何か、その生物を自分が統率すれば世界は生まれ変わるのではないかと」
  「ちょっと待って」
  「何だ?」
  「つまり、根本は世直しってこと?」
  「そうはならないだろ。自分が認めるモノ以外の排除で、認めた存在にする為の強制的な実験だぞ? そんなの、独善でしかない」
  「確かにそうね。それで?」
  「ボルトの放浪者はミスティみたく強くはなかったけど、頭の回転が滅茶苦茶速くて口が達者な奴でな。奴はザ・マスターに言ったのさ、お前の進化は頭打ちだって」
  「頭打ち? ……それって生殖能力のこと?」
  「そうだ」
  スーパーミュータントは性別がない。
  つまり?
  つまり繁殖できない。
  人間を次から次へとスパミュにして、人類全てをスパミュにしたら世界平和?
  ザ・マスターがそれを支配して?
  でもその先がない。
  進化の頭打ちとはそういう意味だろう。
  まあ、実は例外的に性別がある奴がいるのかもしれないけど。
  「それでどうなったの?」
  「論破されて自分がしてきたことの意味がないと悟ったザ・マスターは自爆した。その後奴が統率していたマスターズアーミーは四散した。人間社会に溶け込む連中もいたし、戦いと再起を求め
  続けている集団もいた。それが俺が知っていることの術だよ。役に立ったかい?」
  「ええ。ありがとう」
  となるとカーティス大佐率いる西海岸スパミュはその残党の一派か。
  西海岸から離れて再起を図る途中にロスでも負けた的なことを言ってたな、それが200年くらい前だとしてもスパミュは施設がなければ増えない。ここにいる西海岸組は個体数が少ない?
  教授が支配していた東海岸スパミュもかなり個体数を減らしている。
  そして北部でエンクレイブを一手に引き受けて交戦中。
  ふぅん。
  こいつは勝てるかもしれないぞ、かなり簡単に。
  ボルト101に来ていた部隊はそれほど圧倒的ではなかった。ナイトキンという東海岸ではレアな近衛兵タイプの奴がいたけど、それだって殺せないというレベルではない。
  割と簡単に行くかもな、これ。
  「ハロルド」
  「何だい?」
  「ロスでのことは知ってる? えっと、アッティス将軍」
  「アッティス将軍?」
  「そう」
  「ああ、あいつか。知ってるよ。BOSのサイラスに倒された奴だろ。俺もその場にいたんだ」
  「へぇ」
  大木になりきる前はかなりアグレッシブに旅してたのかもな。
  「どんな事件なの?」
  「ザ・マスターが倒された後に残党の一部を引き連れてロスに攻め込んだんだよ、そいつ。で秘密のボルトの住民を使って軍の再建をしようとしていた奴さ。BOSのサイラスたちに倒された」
  「秘密のボルト」
  知ってる。
  シークレットボルトというやつだ。
  ルックアウトにもあった。
  大金詰めば個人用の小型ボルトも作って貰えるものらしい。それがシークレットボルト。ただ、DC残骸にもFEV貯蔵用にあったようだから、ボルトテック社用の極秘ボルトもそのカテゴリーの模様。
  「カーティス大佐は?」
  「そいつは知らないな」
  「そっか」
  ともかくだ。
  現在スパミュ軍を率いているのは大佐。
  キャピタルにいる西側にしろ東側にしろ、スパミュの数はそこまで多くはないと見ていい。そして大半はエンクレイブが受け持ってくれている。今回の南下で予備兵力は失われ、これ以上ちょっかいは
  出してこないだろう。だとしたら、今度はこちらのターンだ。素材である人間の確保を今回失敗したけど、向こうはまだFEVが大量に残ってる。
  何とかしなきゃね。
  だけどハロルドも色々と冒険してるんだなぁ。
  前にデズモンドが言っていた言葉を思い出す。世界はどこまでも繋がっている、戦っているのも私たちだけじゃないのだ。
  そう考えると世界って広いなぁ。

  「失礼します。アウトサイダー、お食事の用意が出来ました。ご一緒にいかがですか?」

  「いただくわ」
  声を掛けてきたのはツリーマインダーの代表パーチ。ツリーファーザーという称号だったし、まあ、代表でも間違いないだろ。
  長老格、うん、これが丁度いいかも。
  「そうそう、アウトサイダー、あなたのお仲間が何やら慌てて駆け込んできましたが」
  「スティッキーが?」
  何かあったのだろうか。
  「どこにいるの?」
  「ハロルドとお話のご様子でしたし、お話がひと段落つくまで邪魔したら悪いと思い、留めております」
  「呼んでくれていいわ」
  「分かりました。お客人をお通ししてくれっ!」
  よく通る声でパーチが叫ぶ。
  3分ほど経ってからスティッキーが通されてきた。
  「何かあったの?」
  「何かだって? ミスティとつるむといつも面倒事さ」
  「まあ、それは認める」
  否定はできません。
  ただ、私もその面倒をコントロールしているわけではなく強制イベント名だけです。
  神様の馬鹿ーっ!
  「それで?」
  「保安官のおっさんから通信があった」
  「保安官? ああ、ポールソン?」
  「そうだよ」
  「何だって?」
  「よく分からないんだけど、ガルシアがどうとか、街にいるとか何とか。距離があり過ぎてノイズが多くてさ。ただ通信状態が悪いだけかもしれないけど」
  「ガルシア」
  ジェリコの仲間だ。
  12の刺客ではないらしい。
  遊軍的な感じで立ち回っている、私はそう見てる。所持している鍵を宝箱の鍵とか吹聴したりしてる。お蔭て悪党どもがそれを信じて私にアタックしてくる。昼夜問わず。面倒なことだ。
  街、か。
  ポールソンの街はギルダー・シェイド。
  なるほど考えたものだ、あの街は完全に辺境だ。メガトンで屯するよりもリスクは少ない。荒野や廃墟で屯すれば見つかるリスクはないものの、連中だって人間だ、たまにはお酒飲んだり柔らかい
  ベッドで寝たいだろう。いずれにしても人里に出て来てくれて感謝だ。昔とは違う。連絡網は出来てる。
  「スティッキー」
  「はいはい、分かってるよ。ヘリの準備してくる」
  「分かった。よろしく」
  お食事は辞退の方向で。
  今までガルシアは、差し向けているのかは知らないけど、あいつのお蔭て悪党に何度も襲われた。
  レッドアーミーは完全に北に固定化させたし、そろそろ終わらせよう。
  色々とね。
  「パーチ、ごめん、私たちは行くわ」
  「分かりました。お気を付けて」
  「ハロルド。色々ありがとう」
  「気を付けてなぁ。ハーバードがまた会いたがっているから……分かった分かった、ボブ、ボブが会いたがっているからまた来てくれ」
  「わ、分かった」
  相変わらずボブって誰だよ状態。
  アンクル・レオは終始寝ている。
  「行くわ、アンクル・レオ」
  「ぐごーっ!」
  「アンクル・レオ殿」
  「ぐごーっ!」
  爆睡っすな。
  まあいいか。元気そうだし。
  さて。
  「行くわよ、グリン・フィス」
  「御意」






  キャピタル・ウェイストランドは変わった。
  メガトンを中心として各街々は連携し、ここにメガトン共同体が出来た。街道を警備兵が歩き、治安が維持された。警備兵は各街々を拠点としているけど、その中継地点として街と街の中間地点に
  ある廃墟に中継地点が設けられている。少数ながらも警備兵が常駐し、旅人や商人が足を休め、時には売買がなされている。
  その中継地点では補給も出来る。
  つまりジェットヘリの燃料も補給できるってわけ。
  一度補給し、私たちはギルダー・シェイドへとたどり着いた。
  「よっと」
  街の真ん中にヘリが着陸。私は飛び降りる。
  相変わらず寂れてるなぁ。
  街といっても建物が10数軒ってところだ。とはいえ辺境でこれだけの人口がいるのだから、むしろ多い方だろう。
  ここにもBBアーミーの兵士が目に入る。
  現在共同体と正式に契約が結ばれているので警備会社として各街々に常駐している。
  今のところは特に問題はない。
  今のところは。
  別に疑うわけではないけど元タロン社という前身を考えたら無邪気に無条件で信じられない。ヘリが物珍しいしのか、まあ、珍しいか、街の人々は遠巻きにヘリを見てた。、
  「スティッキー、待ってて」
  「わざわざ言われなくても同行なんてしないよ。撃ち合いはこりごりだ」
  「あはは」
  続いてグリン・フィスも降りる。
  そこにグールの友人が近付いてくるのが目に入った。
  「デズモンド」
  「よお、赤毛さん」
  デズモンド・ロックハート。
  カルバート教授との因縁が全て終わった後、ワンコとともにここで楽隠居している。正確には彼も保安官のようなものだけど。
  「ガルシアの所に案内して」
  「悪いがお終いだ」
  「お終い?」
  「逃げちまったよ」
  「くそ」
  逃げ足の速い。
  別の場所に移動した、ではなく逃げたと言うのであれば、つまりは気付かれたってわけか。
  「どこに行ったの?」
  「さあな。俺はポールソンと一緒に死体を埋めるので忙しいんだ」
  「死体? 埋める?」
  「ああ」
  「逃げたというよりは戦闘があって返り討ちにしたってことね」
  「そういうことだ。軽くだが順を追って話すよ。ここの酒場であんたを襲う手筈を仲間としてたんだよ、であんたらを俺たちが呼び寄せた。ガルシアって奴の名前は手配書でメガトンから回って
  来てたからな。だが向こうにこちらの動きが気付かれてな、ドンパチってわけだ」
  「ああ、それで埋めてるのね」
  「そういうことだ」
  つまりは一足違いか。
  無駄足とも言う。
  「生存者は?」
  「こっちには被害はない。警備兵が1人肩撃たれたがスティムで何とかなったしな」
  「相手側は?」
  「
8人死亡、1人逃亡、1人寝返り」
  死亡はいい。
  ガルシアが集めて手下だろう、逃亡はガルシア、となると寝返りって誰だ?
  「誰なの?」

  「フェイってんだ。西海岸では隼っていう通り名を貰ってるよ」

  「へぇ」
  金髪の優男然とした男に銃を向ける。相手は銃を抜かずに手を挙げた。優男だけど、それはあくまで見た感じで、服の下は結構な筋肉が自己主張していた。
  グリン・フィスは腰を低くして構える。
  私らの間合いにこいつは既に入ってる。
  「俺は行っても?」
  「構わないわデズモンド」
  「じゃあな。あんまり暴れすぎるなよ」
  手を振って彼は去って行った。
  フランクですな。
  まあいい。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「ヤバいと思ったら斬っていい」
  「御意」
  これで相手の動きを封じた。
  私の隙を衝いて銃を抜こうものなら首が落ちる。私も大概デタラメだけど、能力なしで強いグリン・フィスは完全にデタラメなスペックだ。
  「手は下ろしてもいいかい?」
  「そのまま」
  「疲れるんだけど……」
  「知らない。そのまま」
  「分かったよ」
  「隼のフェイは知ってる。ああ、名前の高さは知らない。だけどあなたが12の刺客の1人だとは知ってる。寝返った振りして寝首掻く? 埋伏の毒ってやつ?」
  「そんなつもりはない」
  「ではどんなつもり?」
  「俺は傭兵だ。金を積まれれば味方する。忠誠も愛国もない、金の為だ。そんな物の為にリアルで死地に突っ込めるか?」
  「はあ?」
  「俺はごめんだね。少なくとも意味のない戦いなんかはしたくない」
  「……傭兵失格じゃね?」
  「いえ主。失格かは分かりませんが、戦いの中で生き残れる方に付くのはあながち間違ってはおりません」
  「おー。話が分かるじゃん、あんた」
  「調子に乗るな。手は下ろさないで」
  「はいはい」
  予想に反してのグリン・フィスの援護射撃。
  まあ、間違ってないのか?
  だけどそんなことは私にはどうでもいい。
  「つまり、返り討ちにあうのが分かってたから裏切ったの?」
  「売り込んだんだよ、俺を。そっちに」
  「納得できない」
  「納得してくれよ。現に味方したろ」
  「ガルシアは逃げた」
  「奴ももう戻って来ないよ。たぶんな。それに、俺はあくまで前金欲しさで話を合わしていたに過ぎない。信義もない契約なんか最初から利用していただけさ」
  「……」
  「誰かの為に死ぬのなんか馬鹿らしい。あんたもそう思わないか?」
  「拝金主義ってこと?」
  「そうじゃないが、何かに命を懸ける意味っていうのが分からんのさ。あんたもそうだろ?」
  「かもね」
  調子狂うな、こいつ。
  嘘は言っていないように見える。ただ、雑魚を討ち取ったからって完全に信用も出来ないけど。
  「イーターって知ってる?」
  「イーター?」
  「12の刺客」
  「知らんよ。少なくとも西海岸の奴じゃない。仮にそうだとしても名が売れていない奴だ。一応言っとくが……」
  「刺客同士の面識は基本的にない、でしょ」
  「そういうことだ」
  これでまた刺客は消えたと見るべきか?
  フェイ脱落。
  残りはベリー3姉妹とイーターだけか。ああ、ジェリコの刺客として既に報酬目当てではなさそうだけど、マシーナリーは健在か。残りは脱落するか、私が意識して殺してない刺客もいる模様。
  「主、この者はどうしますか? 嘘は言ってないようですが……」
  「そうね」
  考える。
  撃つのは容易いけど、向こうは反抗の姿勢を見せていない。ジェリコの刺客ってだけで別に敵対はしてないし。
  どうしたものかな。
  「ジェリコはどこにいる?」
  「ディカーソン・タバナクル礼拝堂だ」
  「ディ……どこ?」
  「キャピタル北西部にある崩れ落ちた礼拝堂だ。だが、俺がここに合流するように言われた時には引き払うようなことを言ってたが」
  「口が軽いのね」
  「変わり身が早くなきゃ生きてけないんでね」
  「ふぅん」
  爆撃でもしてもらうか。
  後でBOSに頼もう。
  私が行く要はその方が速いし簡単。私は私でやることがある、エンクレイブ襲来までに出来るだけ邪魔な勢力を削るか潰しておきたいところだ。ジェリコがどの程度裏世界に影響力があるかは
  知らないけど今のところ私を殺すこと限定で動いているし、そういう意味では優先度が低い。処理はBOS、もしくはレギュレーターにでも任せよう。
  「それで、俺はどうしたらいい?」
  「そうね」
  殺すまではない。
  だけど味方にするには少々胡散臭い。変わり身が早い奴だ、だとしたら手元に置くのは危険過ぎる。別に信じてるわけでもない、ジェリコの居場所が嘘ならそれはそれでいい。
  とりあえず情報が手に入った、だから礼拝堂を潰す。
  それだけの話だ。
  「西海岸に帰って」
  「分かったよ。路銀は貯まったしそうさせてもらう」
  「主、よろしいのですか?」
  「いいわ」
  仮にこれが罠だとしても、何の罠か見極めるのも一興だろう。
  ジェリコだかガルシアの罠だとしてもまたどこかでその時こいつにもまた会うことになるはずだ、その時潰す。会わなければそれまでだし、罠でないならそれもまた、それまでだ。
  出会う敵出会う敵かも知れない奴を皆殺しにするほど私は交戦的ではない。

  「久し振りだな、ミスティ」

  「ポールソン」
  この街の保安官であるポールソンが青い色をした飲み物の入った瓶を持ってこっちにやって来る。
  デズモンドはいない。
  まだ死体埋めてるのかな。
  というかあれは飲み物か?
  怖い色だ。
  「呼んだはいいが、そいつがアクション起こしたお蔭で全て終わっちまったよ」
  「みたいね」
  「で、どうする?」
  「信用はしてないけど放すことにした」
  失礼な言い方?
  そうは思わない。
  フェイを信用できる理由が特に見当たらない。情報は情報として頂きますけどもねー。
  「ようグリン・フィス。あんたも元気か?」
  「お蔭様で」
  「酒でも飲むか?」
  「お心のままに」
  「いやいやいや。急ぐわよ、グリン・フィス」
  「……御意」
  不満そうですな。
  「ははは。ミスティは厳しいな。そうだミスティ、こいつをやるよ」
  青い液体を受け取る。
  「何これ?」
  「ヌカコーラ・クアンタムだとさ」
  「ヌカコーラ・クアンタム?」
  「シエラ・ペトロビタに貰ったのさ」
  「誰それ?」
  「おっばいな女だ」
  「……」
  どういう説明だ、それ?
  「ほほう? 詳しく」
  詳しく、じゃねーよエロン・フィス。
  「ああ。興味深いな」
  お前は西海岸に帰れよ裏切り傭兵さんよー。
  男って嫌いだ。
  「レアモノの飲み物なんだと。俺も息子もこんな得体の知れない色の飲み物は飲めん……いやいや、お前には世話になってるからやるよ」
  「……」
  「そうそう、ロナウドも帰ってきたよ」
  「誰それ? あー、脳みそピンクの人?」
  「そうだ」
  サロンド乙姫に付いて行った人か。
  ボルト108が壊滅したから戻ってきた模様。ボルト108に突入した時に私も会ったのかもしれない。

  「ミスティっ!」

  「ん?」
  スティッキーが話に割り込んでくる。
  今度はどんな厄介だ?
  「どうしたの?」
  「無線でメガトン市長のおっさんからだ、すぐに帰って来いってさ」
  「メガトンに? 何で?」
  「シドニーって奴が話し合いをしたいとか騒いでいるらしいよ」
  「ああ、そんなのもいたわね」
  公文書館の女だ。
  姉御肌でわりと好きだったんだけど、独立宣言書で偽物を掴まされたのが私の所為だと思い込んでいるらしく付け狙われてる。ルーズベルト学院では襲われもした。
  PIPBOYを確認する。
  シーからの連絡はない。シドニー絡みで骨を折ってもらってるんだけど、今回の話し合いはシーが調整したのではなくシドニーの方がメガトンにねじ込んできた話のようだ。
  もう、次から次へと話が飛び込んでくるな。
  「グリン・フィス、行こう」
  「御意」
  「麗しの赤毛の冒険者様、では俺はこれで西海岸に帰らせてもらうよ」
  「ええ、そうね」
  脱落者に用はない。
  死体の配送で忙しいらしいポールソンへの挨拶がまだだけど事は急を要する。面と向かって敵対するのは嫌いじゃない……好きでもないけど……ともかく、シドニーに影から狙われるのは面倒だ。
  絶えず警戒するのもしんどいものだ。
  「スティッキー、お願い」
  「分かったけど、こいつは結構な代物を奢ってもらわなきゃわりにあわないよ」
  「何でも奢ってあげるわ」
  「ひゃっほーいっ!」
  西へ東へ忙しいな。
  さあ、メガトンに戻ろう。





  スティッキーの操縦で私たちは一路メガトンに。
  ……。
  ……何か移動が多いな、今日。
  隼のフェイは放置。
  西海岸に帰った?
  さあ、どうだろ。
  嘘なら嘘でいいのだ。その時はジェリコと一緒に出て来るだろう。ジェリコに対しての対処はBOSに依頼済み。今回はベルチバードが出払っていないらしく、爆撃してくれるらしい。
  上手くいけば礼拝堂ごとこの世界から消え去る。
  上手くいけば、ね。
  ヘリはメガトンの外に着陸。私とグリン・フィスはメガトンの門を潜り、街に入った。
  街は何やら騒がしいけど無視。
  市長の家に行く。

  こんこん。

  市長の家の扉をノック。
  反応はなし。
  あれ?
  「おーい」
  声を掛けてみる。
  反応はなし。
  あれ?
  「いないのかな」
  「しかし市長自らの呼び出しなわけですから……ですが、気配はしません」
  「そう」
  参ったな。
  秘書的な立場のオフロディテなら知ってるだろうけど、そもそも彼女の居場所を探すところから始める必要がある。あの人は共同体の調整もしていて、街を行き来してる。どうせ探すなら市長探した
  方が確実だ。しっかし呼んで置きながら何のメッセージもなしとは、感心できませんなー。
  どうしたもんかな。

  ばぁん。

  どこかで銃声がした。
  どこだ?
  「酒場の方です。屋外で発砲したものではないと思います」
  耳良いな、こいつ。
  私はゴブの店に急行する。店に入ると……。
  「はあ?」
  デリンジャーのジョンとガンスリンガーがお互いに銃を向け合ったまま止まっている。ガンスリンガーの銃口からは硝煙の香り。客たちは関わり合いになるのが嫌なのだろう、遠巻きにそれを見てる。
  ゴブとノヴァ姉さんは銃を持ちだしてはいるものの、デリンジャーの威圧的な気配に押されて動けずにいた。
  それでいい。
  まともにぶつかれば勝ち目はない。
  シルバーは休憩中なのかいないしアンソニーは厨房に籠っているのか、彼も見えない。
  トンネルスネークもいない。
  ……。
  ……あれ?
  吟遊詩人もいないぞ?
  「何してるのっ!」
  「邪魔しない邪魔しない。何だったらアタシも参加してもいいんだけどなー」
  「うるさいっ!」
  「怖い怖い」
  1人陽気な女がいる。
  赤い悪魔と呼ばれ西海岸の賞金首にして賞金稼ぎの女レッド・フォックス。2人の戦いを煽るように騒ぎ、ウイスキーを飲んでいる。
  「ここで何を?」
  「アタシ? NCRが追ってる賞金首の女がここに入り浸っているって情報を得てね、ここで待ってるんだ」
  「情報を?」
  「ああ」
  西海岸の賞金首の居所を把握できる情報屋でもいるのか?
  いや、この場合はNCRの奴がキャピタル入りしてる?
  まあいい。
  別件だ。
  「その女の名前は?」
  「言わない」
  「なら別にいい。私は興味ないし」
  「だろうね」
  「グリン・フィス、彼女に邪魔させないで」
  「御意」
  これで余計な邪魔は入らないだろ。
  グリン・フィスと戦いたがってはいるけど、ここで戦いを挑んでくるほど常識知らずではない……と思いたい。
  さて。
  「何しているわけ、お2人さん」
  「やあ赤毛のお嬢さん。見ての通り取り込み中でして」
  「見れば分かるわ」
  「では邪魔しないでいただきたく」
  「悪いけどそれは拒否する。ここは私の憩いの場所なの。支隊を転がしたらオーナーに迷惑が掛かる。ねぇ?」
  「あ、ああ、困るな」
  「ほらね。それで、何が理由なの? 無銭飲食しようとして咎められたから逆切れってタイプじゃなさそうだけど?」
  「レディキラーだよ」
  そう答えたのはガンスリンガー。
  誰だそれ?
  「何者?」
  「吟遊詩人だ。元ストレンジャーだよ」
  「はあ? そんな素振りなかったでしょ、あんたら」
  「俺の方が先にここに雇われたんだ。あいつは後から来た。偶然だよ。多分な。あいつの思惑は知らん。ともかく、ストレンジャー壊滅後初めて会ったんだ、声掛けたが無視された。過去を
  零にしたいんだと解釈して、知らん振りをお互いにしてた。少なくとも俺は真面目に仕事してるよ。西海岸に帰る金が欲しいんだ。強盗は、あんたみたいなのと出くわしたらヤバいしな」
  「それがどうしてデリンジャーと銃を向け合ってるわけ?」
  「それは僕が話しましょう。要はですね、そいつこそが僕の偽者でして」
  「はあ? ガンスリンガーが?」
  「偽者はレディキラーとかいう奴ですよ。つまり彼も共犯なのでは、というわけです」
  そうか。
  あの吟遊詩人はマダムとの依頼で私を殺しにここに来たのか、吟遊詩人を扮していたのは私の隙を衝く為?
  だけどマダムを薬中にして殺した奴が律儀に殺しに来るか?
  本当に吟遊詩人に就職をしにきた、それはないか。
  ではジェリコ絡み?
  12の刺客には入ってないけど、私の首を高く売ろうとしていたのかもしれない。
  だけど本人に聞けば済む話だ。
  「直接吟遊詩人に聞けば?」
  「街の騒動はご存じで?」
  「騒動? ああ、何か騒いでるわね。悪いけどギルダー・シェイド帰りでね、ここまですっ飛んできた。街の状況までは知らない、何があったの?」
  「その吟遊詩人が惨殺されてます。それで騒いでいるわけです。物騒ですね」
  「あんたが?」
  「まさか、さすがの僕も、顔だけを食い尽くして殺すなんて物騒な真似はできませんよ」
  「顔を、食い尽くす?」
  何だその殺し方。
  ……。
  ……待てよ?
  そういえばこの間食われたバラモンの死体があった。一瞬の間に食われ、通行人が気付いたら死んでいたとかいう話。
  イーターか?
  ジェリコが放った刺客が街に入り込んでる?
  そうか。
  それで市長は家にいなかったんだ、多分処理な追われているのだろう。だけどシドニーはどこに行ったんだ?
  それにしてもレディキラーをイーターが殺す理由が分からない。
  まあいい。
  「デリンジャー、銃を下ろして」
  「僕にお願いですか?」
  「そうよ」
  今の発言を突っぱねて銃を向けでもしたら拗れる。私から折れた。
  こいつは強い。
  出来たら敵に回したくはない。
  「まあいいでしょう。とりあえず僕の偽者は死んだわけですから、彼を殺すまでもない。仮に共犯だとしてもね」
  「んだとこらっ!」
  「黙っててガンスリンガーっ! それで? デリンジャー、納得はしたの?」
  「お嬢さんの御心のままに」
  「……」
  馬鹿にされている気がする。
  まあいいや。
  ガンスリンガーだって私の能力との相性が悪くて負けただけで、強いには強いんだ。まともにぶつかれば……いや、ガンスリンガーが死ぬだけか?
  うーん。
  デリンジャーは普通に弾丸避けるからなぁ。
  絶対に当たる軌道に撃っても当らない気がする。
  「ちぇっ。つまらないの」
  レッド・フォックスはそう言いながらお酒を飲んでる。
  引っ掻き回さないで欲しいものだ。
  「じゃあどっちも銃を下ろして」
  「分かったよ、あんたを怒らすのも得策じゃないし、終わりにするよ。別に俺はあいつと喧嘩する道理は最初からなくて、向こうから売ってきたんだけどな」
  「僕も同意しますよ」
  よし。
  これにて一件落着。
  だけどイーターは確実にメガトン入りしている。
  面倒なことだ。

  「失礼。ここに赤毛の冒険者はいるかな?」

  「私だけど?」
  レザーアーマーを着た男が店に入って来る。コンバットショットガンを背負っているし、街の人間ではなさそうだ。
  傭兵か何かだろう。
  「こいつを渡して欲しいと女2人に頼まれてな」
  「ふぅん。どうも」
  手紙を受け取る。
  「じゃあな。ああ、礼金はいらないぜ。駄賃は貰ったからな。本当さ、何もいらない。気にしないでくれ」
  「……ゴブ、彼に何かお酒一本あげて。私が払うから」
  「あいよ」
  露骨に催促されたような。
  ガンスリンガーは用心棒に戻り、デリンジャーはニコニコしながらノヴァ姉さんに話し掛けはじめる。軽い奴。
  私は手紙を開いた。


  『餓鬼は預かった』
  『鍵を持ってクライスラスビルまで来い』


  「くそっ!」
  ぐしゃっと手紙を握り潰す。
  あっちこっち移動したのは別にこの手紙の主の策謀ではないにしても、私の不在を完全に利用されたっ!
  さっきの男の肩を掴んで前後に振る。
  「誰っ! 手紙を渡したのは誰っ!」
  「お、女だ。2人組の女。赤毛の方の名前は知らんが、その女はもう1人をシドニーとか呼んでたよ」
  あの女っ!
  元々そのつもりで来たのか。
  私の不在、イーターの動きを利用してオラクルを誘拐したらしい。イーターと繋がっているのかは知らないけど、そんなことはどうでもいい。
  「クライスラスビルって知ってる人いる?」
  「俺はここの出じゃないから知らん」
  「アタシも」
  ガンスリンガーとレッド・フォックスは知らないと答えた。
  ノヴァ姉さんは少し考えてから口を開く。
  「ここから北東にあるわ、すぐ近く。廃墟のビル群が立ち並ぶところよ」
  鍵を持って来い、か。
  ガルシアが煽った連中のように何の鍵かも知らずに言ってきているのか、それとも何の鍵か分かった上での脅迫か?
  くそ。
  シドニーめ。姉御肌のような奴だと思ってはいたけど、自分の利が侵されたら平然と攻撃してくるタイプだ。
  私がその利を奪ったわけじゃないにしてもね。
  逆切れとも言う。
  「よろしければ僕もお手伝いしましょうか? 格安でいいですよ」
  「大勢で行けばまずい。グリン・フィス、1人で来いとは言われてない、あなたが来てくれるなら心強いわ」
  「御意」
  私たちは一路クライスラスビルに。