私は天使なんかじゃない
視線
こちらを見ている何かの視線。
「……バカナ……」
ドサッと肉塊が崩れ落ちる。
私はミスティックマグナムの空薬莢を捨て、弾丸を装填。
とりあえずこれでお終い、か。
「はあ」
ここはボルト101の入り口。といっても侵入前ではない、侵入後。しかも歯車型の扉は閉じている。
つまり?
つまり閉じ込められたでござる(号泣)
屍が累々。
私たちを出迎えてくれた歓迎委員会は、その無作法のお仕置きを受けたってわけだ。
電力が落ちているので明かりがここにはないけど、PIPBOY3000のわずかな照明である程度は照れされている、当然やたらと薄暗いけど。まあ、視界の確保は何とかできた。
完全な闇ってわけじゃない。
レッドアーミーが来る前に私たちはポータブル核融合炉を使ってボルト101の電力をわずかに回復させてある。ここを抜ければ非常灯が点いている。
それまでの辛抱だ。
「主、いかがなさいますか?」
ショックソードに付いた血を振って飛ばすグリン・フィス。
彼がいれば百人力だ。
そして私もGER前で死に掛けてた私じゃあない。
能力に磨きが掛かったし、その使い方も熟知している、そして何より強力なのがこのミスティックマグナムだ。ボルトのような閉鎖空間ではスパミュは群れを成すほど前後左右が使えるだけだ、でかいし。
つまりは的。
今のところはそのお蔭で楽が出来た。
「よっと」
スパミュの使っていたアサルトライフルの弾倉を幾つか回収。
所持しているグレネードランチャー付きのアサルトライフルと互換性があるわけだから、当然私も使える弾丸。ボルト87では慢性的な弾丸不足だったし、拾える内に確保しておこう。
乱戦になると拾えないし。
「主」
「ん? ああ、聞こえてるよ」
どうやって扉が閉じたかは謎。
出入り口付近にある端末は死んでる、正確には通電していない。
扉も微妙なんだよなぁ。
開閉時にはサイレンが鳴るんだけど鳴らなかった。
どういうことだ?
確証はないけど、この扉自体通電していないような?
もちろんその場合どうやって閉じたのか謎だ。
まあいい。
設置したポータブル核融合炉は生きている、それは確かだ。じゃなきゃここは空気の循環も出来ていないことになる。奥からスパミュが来たんだから酸素はある、つまり循環は生きている
わけで、設置した代物は当然あるということになる。スパミュとはいえ酸素動けるわけではない。
だから。
だから電力の当てはある。
私たちが設置した場所まで行って、ボルト住民の為の運動広場まで行って、扉に通電させればいい。
それだけの話だ。
カサ。
「……っ!」
物音がした。
私はそちらに銃を向けた、ただグリン・フィスはそちらを向いていない。
何故に?
「……」
音はしたけど何もいない。
まあ、PIPBOY3000の照明では大したことはないから、暗がりで見えないだけかもだけど、少なくともスパミュが潜める場所はない。
ラッド・ローチか?
前にグールのガロが定期的に送り込んでいたらしいからどこかに入り込める空間があるのだろう。ガロは死んだとはいえ野良が勝手に入り込んでいてもおかしくはない。
しかしラッドローチか。
視覚的に来るな。
あまり見たくはない敵だ。
「グリン・フィス?」
「……」
彼は構えを解いていない。
それも私が見た方向ではない方を見ている。
「グリン・フィス?」
「……」
「ちょっと……」
「何やら妙な気配がします」
「気配」
「はい」
そんなにレッドアーミーの軍勢が入り込んでいるのだろうか?
だけどここは無人だ。
何故にそこまで動員したんだ?
知らずに来た、うん、それは多分正しいんだけど、そこまで奥に入り込む必要って何だ?
まさか敵はさっきまでの連中で打ち止めで、本当の目的は私たちの生き埋めか?
だとしたら嫌だなぁ。
「敵がわんさかいるの?」
「主」
「ん?」
「密林でのことを覚えておりますか? 主、自分、ポールソンの3人で進んでいた時のことです」
「あー、ルックアウトね」
「はい」
あの時、気配がし過ぎるとグリン・フィスは言ってた。
野生の動物や昆虫が多過ぎると。
だからスワンプフォークの気配が読めなかった。
……。
……えっと、それってつまりここにはラッド・ローチが大量にいるのか?
気配が読めないほどに?
やだ何それ怖い。
早退させてくれーっ!
「つまり敵がたくさんいるの?」
「いえ」
「はっ?」
「あの時は気配が沢山しました、だから読めなかった。敵が隣にいても分からないほどでした。しかしここは違います、こんなことは初めてです」
「……」
初めて気付く。
彼は脂汗を流している。
怯えている?
彼が?
「これはまるで」
「まるで?」
「まるで、化け物の体内にいるような感じです」
「……」
そ、それはさすがにありえないだろ。
実はボルト101は化け物って?
あの扉は口?
「ともかく先に進みましょう。奥に行かなきゃどうにもならない。ポータブル核融合炉で送電しないと扉は開けられそうもないし、いつまでもあれでは電力は維持できない。空気が供給されている間に動こう」
「御意」
ミスティックマグナムをホルスターに戻し、グレネードランチャー付きのアサルトライフルを装備。
弾丸?
大量にある。
ポータブル核融合炉を設置した運動場まで15分ってところだ。
設置場所の理由?
特に理由はない。
まあ、条件的に設置するのに広いし、近かったってだけだ。
配線とかコンピューターを接続したりと色々と面倒で、原子炉区画ならその手間も省けたし良かったんだけどエレベーターで地下に行く必要があった。
でも電力はそこでポータブル核融合炉を設置するまでないわけで。
なので運動場にした。
さて。
「行くわよ。前衛をお願い。私がバックアップする」
「御意」
カサ。
再び物音。
何かが動くのが見えたけど、何かは分からなかった。
計器の影に消えた。
スパミュでは当然ない。
何だ、今の。
またグリン・フィスは別の場所を見ている。
囲まれているのか?
でも、何に?
ラッド・ローチでもなさそうだ。
私は不意打ちに備えゆっくりと音のした方に進み、銃口を計器の影に向けた。
「んー」
何もいない。
何なんだ?
「グリン・フィス」
「視線を感じます」
「視線?」
「はい」
言っている意味が分からない。
敵はいない。
だけど見られている?
「監視カメラ」
呟くも、それはあり得ない。
あれは監督官の部屋からしか動かせないはずだ。監督官の部屋には電力は回してない。仮にスパミュが回したにしても、どうして連中がそんなことを知っている?
分からないことばかりだ。
「主、ともかく、進みましょう」
「ええ」
私たちは進む。
奥へと。
その頃。
レッドアーミーがホルト101付近に展開したことを受け、メガトンは市長の命令によって門は閉ざされ、閉鎖されている。
今のところ襲撃はないものの、襲撃があったとしても備えは万全だ。
食料や水の備蓄はあるし街を覆う巨大な壁がある。
何よりBOSの支援により物見台にはミニガンが複数設置されている。圧倒的火力がこの街にはあり防御に徹した場合はレッドアーミーは全軍を持って攻撃しなければ落とすことが出来ない。
もっとも、かつては今ほどの防御力がなかったものの、クリスティーナ隊が襲来した時のように空から来られたら成す術もないが。
メガトンには備えはある。
それでも。
それでも市民たちは当然のことながら動揺し、市長の指示がなかったとしても自発的に家に籠っていた。
警備兵や保安官助手、雇われているBBアーミーたちは門に戦力を集中させ、物見台にも可能な限りの人員が詰めている。
街は閑散としていた。
そんな中、街の2階層目の手摺の上に座ってリンゴを両手で持って食べている少女がいた。
「ふぅん。楽しそうな催しだこと」
ハーマン・グラスフィル。
異世界の住人。
「力と意思は伝達する、その力は引き継がれる、連鎖は続きその輪から誰も逃れられない。繰り返される歴史、出来事、因果。さあグリン・フィス叔父さん、この世界の住人としてどう足掻く? お手並み拝見」
彼女は楽しそうに呟いた。
ボルト101の奥から次から次へと敵が出て来る。
私たちは通路で応戦中。
何気にボルト87での戦いを思い出すほどの数だ。まさかこいつらここを拠点にするつもりで来ているのか?
「くっそっ!」
通路でバリバリとアサルトライフルが火を噴く。
この狭さで、あのデカさ。
的は外しようがない。
それにどれだけ化け物とはいえ銃は銃だ、アサルトライフルならスパミュでも撃ち負けることはない。
一丁上がりっ!
「はあっ!」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
グリン・フィスが刃を振るい、斬撃の作品を作っていく。
基本の攻撃スタイルは彼が斬り込み、私が後方支援で敵を撃破していく。ボルト内は敵よりも私の方が詳しい、そりゃそうだ、私はここで育ったんだから。レッドアーミー全体の知能指数はよく
分からないけど、仮に端末弄ってマップを頭に叩き込んだにしても、幼少期からここにいる私には地理で勝てるわけがない。
進んでいるのは背後を取られるルートじゃない。
私たちの敵は前にしかいない。
前に前に進めばいい。
前に前に。
それだけだ。
カチ。
弾丸が尽きた。
支援がなくなって得たりと思ったのか、真紅のスパミュが突っ込んでくる。
ジェネラル種だ。
アホが。
ドン。
左手でミスティックマグナムを引き抜いて頭を吹き飛ばす。
さらに連打。
雑魚スパミュを含め6発で6体の死体の山。
敵さんは身の程を知らないようだ。別に私の支援なくともグリン・フィスの脇を通り過ぎて私を狙えるわけでも、グリン・フィスに勝てるわけでもあるまいに。
この時、最後の1体をグリン・フィスは脳天から斬り伏せた。
ラストもジェネラル種。
かつてはカルバート教授が遠隔操作し、雑魚スパミュを支配する為の個体だったけど、どういう経緯でかは知らないけどボルト87から瓶詰だった連中が開放され、レッドアーミーの上位種として
編入されているようだ。誰がそうしたのかは知らないけどさ。ボルト87がエンクレイブに管理され、その後BOSが爆破するまでにロスがある。その間にジェネラル種は開放されたのだろう。
だけど……。
「完全にただの雑魚に成り下がったわね、ジェネラル」
GNR前では殺されかけた。
そんな敵が今ではただの的だ。まあ、知能的には雑魚スパミュよりは高いし、言葉も片言ではないけど、アンクル・レオやフォークスのような思慮はない。
流暢に喋るだけの雑魚。
アサルトライフルとミスティックマグナムの弾丸を装填。アサルトライフルのマガジンはスパミュから回収できるけど、44口径はこいつらは持ってない。温存しなきゃ。
「……」
グリン・フィスはまたあらぬ方を見ている。
落ち着かないな、彼。
化け物の体内かぁ。
……。
……いつの間にかボルト101は巨大なミュータント生物に飲み込まれていたとかって展開じゃないでしょうね?
嫌だなぁ。
「グリン・フィス、行く……」
「ちっ!」
彼は突然舌打ちして後ろに飛んだ、でも私がいる、ある意味で飛び退き損ねた。彼は苦痛の声を上げて胸を押さえた。
何かに殴打されたっ!
「頭下げてっ!」
言ったと同時に彼はその場にしゃがんだ。
アサルトライフルを連射。
「……グハァ……」
呻き声、口から吐き出される血の塊とともにそれは突然目の前で具現化し、そのまま崩れ落ちた。
な、何だこいつ?
青いスパミュ?
手にはスレッジハンマーを持っていた、それで殴打されたのか。
「グリン・フィス、大丈夫っ!」
「まだ来ますっ!」
「くっそっ!」
前方に連射。
弾丸に弾かれるように青いスパミュが吹き飛んでいく。
透明化しているのかっ!
「……終わった?」
「御意」
赤いのの後は青いのか。
初めて見るタイプだ。
「グリン・フィス、平気?」
「問題ありません」
彼は前のようにアーマーは着ていない、それでも助かったのは彼が頑丈だから……ではなく、こんな閉鎖空間だから満足に振るうことが出来なかったからだろう。
じゃなかったら死んでるか、重傷だ。
「主、確か敵のデータが分かるのでは?」
「えっ?」
「その腕の機械で」
「ああ、そんな設定あったわね。忘れてた」
「はっ?」
「気にしないで、メタ的な発言だから。……えっと、改めて……そうだった、その機能を止めてたわー(棒読み)。起動させてみる」
PIPBOY3000から機械音声。
敵データ起動。
<個体名ナイトキン>
<かつて西海岸で人間をベースに作られたスーパーミュータントの高位版でありマスターズ・アーミーと呼ばれる軍隊の近衛兵>
<ステルスボーイを使用しての透明化による奇襲が得意>
<良い1日を>
「ナイトキン?」
へぇ。
スパミュはベヒモス、ジェネラル、マスター、プルート、雑魚の5種かと思えば、さらに上位がいるのか。
しかも今の口振りからすると西海岸の限定種ってわけだ。
まあ、見慣れている奴以外にも亜種のコマンダーやオーバーロードもいるわけですが。
ナイトキンねぇ。
こんなの今まで見たことがない。教授の手駒にこんなのがいたなら出してきたはずだ、でも出してこなかった。つまり最近までいなかった?
ふぅん。
レッドアーミー上層部は西海岸のスパミュ連中か?
西の厄介は西でやってくれ。
まったく。
……。
……それにしても、こんなデータがPIPBOYに普通に入っているということは、最初から外の情報は入手しまくりだったわけね、ボルト101.。
外は荒廃して誰も生きられないボルトは絶対、ですか。
完全に洗脳されてましたね。
私も含めてさ。
「マスターズ・アーミーか」
前にデズモンドに聞いた。
東海岸でスパミュを作ったのはボルトテック社で、ここ最近までそれを引き継いで支配していたのはカルバート教授、そして西海岸でスパミュを作って支配していたのはザ・マスターとかいう奴。
その残党か?
あり得る話だ。
冒険野郎は西海岸では人間と共存するスパミュが普通にいると言ってた、アンクル・レオは別に珍しくないと。つまりレッドアーミーを現在統率しているのは向こうで共存を拒否した連中か?
知っててか知らないでかは分からないけど、統率者不在になったこっちのスパミュを西海岸組のスパミュが統合してる?
やれやれ。
だとしたら、西の面倒を東に持ち込まないで欲しいものだ。
大方こっちで戦力を西に再編して舞い戻るのだろう。
あー、それかこっちで支配を固めるのか。そっちの方があるのかな、北部に拘ってエンクレイブと戦争しているぐらいだし。
だけどここには何の用だ?
謎だ。
「グリン・フィス、行ける?」
「御意」
連中の思惑なんか別にいいか。
分かり合う必要もないし分かり合うのが目的でもない、お互いにね。
潰し合うまでよ。
幸いなことに連中はわざわざ閉鎖空間に飛び込んでくれている。あの巨体ではボルトでは命取りになる、ただの平野で囲まれた方がよっぽど厄介だ。だとしたら、実にやり易くしてくれた。
全体的にどの程度の最大戦力がいるのかは知らない、でもここには西でもレアであろうナイトキンまで投入してる。
近衛兵だぞ、レアだ。
狙いが分からないにしてもここにかなりの思い入れがあると判断していいだろう、当然戦力も多い。
それをここで潰せば?
誰も北部に帰れなければ?
北部戦線は崩壊するかもしれない。
キャピタルに敵対する勢力はエンクレイブだけじゃない、一気に全ては潰せないんだ、一つずつ潰していこう。
戦力が低下した北部の処理?
エンクレイブ様にお任せしますとも。
仲良く潰し合え。
さて。
「行きましょう」
武装を再点検して私たちは再び歩き始める。ここに至るまで戦闘の形跡はない、私たち以外には。となればエンジェルたちBOSはここに籠らずに普通に撤退したのだろう。
数分間、特に何のアクションもない。
手駒を出し尽くした?
その可能性は捨てきれない。充分にあるだろう。連中の本拠地からここは離れ過ぎている。大軍擁して南下して来たなら、BOSや共同体がどこかで必ず察知するはずだ。昔とは違うんだ、情報共有は
密になってるし情報網だってある、ボルト101付近まで接近されるまで把握できなかったわけだからそこまでの数ではないのだろう。
打ち止めの可能性はある。
だけど……。
「……」
グリン・フィス、周囲を警戒しまくってる。
消えてる奴がいるのか?
PIPBOYで索敵してみる。
何の反応もない。
まさか何らかの能力者でもいるのか?
ストレンジャーがキャピタルに来てから能力者だらけになった感がある。私は基本ルックアウトでいなかったからブッチの話で知っただけなんだけどさ。一陣最初に出会った能力者はボルト77の
あいつだったけども、今となってはあいつもそれほど強い能力者ではなかったなぁ。相性っていうのもあるんだろうけど。
ジェネラル種はarmyとかいうスパミュ支配の能力者らしいし、他にもそういうタイプがいるのか?
「Cronus」
時間停止能力発動。
そして解除。
任意同士は反発し合う、でも別に頭痛はしない。だとすると向こうは自動発動タイプなのか、そもそもそんなのがいないのか、あー、別の種を相性で操れるmaster系能力者か?
ともかく。
ともかく、何かがいるはずだ。
最奥に。
ここまでグリン・フィスが何らかの威圧を受けているんだから、何かがいるのだろう。
そして……。
「ほう、生身の人間が、来たか」
「うげっ!」
何だこいつ馬鹿でけぇっ!
普通のサイズのスパミュより頭2つ分大きい、それはいい。問題はこいつが着ているものだ。
この大男の中身はスパミュなのかは知らんけど、こんな特注サイズのパワーアーマーは初めて見た。
まさかBOS崩れ?
……。
……いやぁ、まさかね、人間であるかどうか怪しいものだ。
スパミュを統率しているんだ、そしてこのデカさ、まずスパミュだと考えて間違いない。何スパミュかは知らないけど。
周りに手下はいない。
打ち止めか?
ただ、手下なんかいなくてもこいつが軽々と片手で持っている鋼鉄製の大剣があれば無双できるだろうよ。
「ん?」
剣、ではないな。
形状は剣そのものだけどこれは車のバンパーを剣っぽく加工しているだけのようだ、バンパーソードとでも呼べばいいのだろうか。切れ味はなさそうだけど、あの打撃を受けたら余裕で死ねます。
「もう1人はどこだ」
グリン・フィスが抜刀の構えでそう問い詰める。
もう1人?
「何のことだ、ヒューマン」
「このボルトを覆っていた気配は貴様のモノではないだろう、今は消えているが……そいつはどこだ」
「ふん。この俺にそんな口調で話すとは死にたいと見える」
プンッと軽々とバンパーソードを振るう。
風が来た。
やばいな、あんなの受けたらコンバットアーマーごと砕かれそうだ。
「私はミスティ、あなたは」
「ミスティ?」
知らないらしい。
となるとここまで出張ってきたのは私目当てではない、か。
まさかボルト101目当て?
そういえば私がいない間にDC残骸地下にあるナンバリングのないシークレットボルトからFEVを大量に奪ったという事件があると聞いた。まさかここの地下にもそんなものが?
「それで、あんた誰?」
「俺はカーティス大佐だ」
「大佐?」
「マスターズアーミーを現在統率している身だよ」
「レッドアーミーではないの?」
言ってから私は勝手に合点する。
そうだ、それは私らが呼称しているだけに過ぎない名称だった。
「レッド? ああ、識別の為に兵士たちの体を染めているだけだ」
「青いのは?」
「あれは栄えある近衛兵だからな、塗る必要はない」
「ふぅん。ジェネラル種を基準に塗ったってこと?」
「ジェネラル種? ああ、そう呼んでいるのか、だとしたら良いネーミングセンスだな」
「名付けたのはカルバートって奴だけどね」
「ならば納得だ。あの赤い種は将軍の遺伝子を元に作られた存在だからな。あの男め、なかなか良い名前を付けるではないか」
「将軍?」
そしてカルバートを知っている、か。
もしかしてキャピタルのスパミュ騒動の大元はこいつら起源か?
「アッティス将軍だ。偉大なるマスターズアーミーを再興しようとした、俺の上官だよ」
「過去形ってことは死んでるのね」
怒るかな?
むしろ私としては怒らせて隙を作りたい。だけどこいつはそれを簡単に受け流した、正確には受け流したというよりは……。
「2088年のことだ」
「2088年?」
随分と昔だ。
受け流したというより昔過ぎるということだ、だからそこまで感情的にはならないのだろう。
「ロスの騒動を知っているか?」
「知るはずない」
「だろうな。ザ・マスターを失った我々はアッティス将軍に従ってロスで軍の再建を……」
「知ったこっちゃないわ」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
アサルトライフルを放り捨て、ミスティックマグナムを引き抜いての12連発。
回避できないだろ、勝った。
「下らん真似を」
嘘っ!
俊敏に弾丸を回避、そのままグリン・フィスに向かって突進する。まずは彼から沈めるつもりらしい。バンパーソードを振りかぶり、振るう。
バッ。
グリン・フィス、その一撃を飛んで後ろにかわす。
だがカーティス大佐は止まらない。
肉薄し続ける。
こいつ強いっ!
斬撃を繰り返し続け、グリン・フィスに抜刀の隙を与えない。私は急いで弾丸を装填、加勢しなきゃ。
ここは運動場だからあんな馬鹿でかい武器を振り回しても何の支障もない。
つまり。
つまり相手には何の制限もない。
何よりあの速度だ、グリン・フィスが抜くに抜けないなんて……カルバード邸で、出来るロボトミー相手にはあったけど、それでも相手のでかさはノーマルだったから何とかなった。だけど今回はあの
デカさだ、体術で何とか出来る相手ではない。パワーアーマー装着というのも痛い。体術なんかした日には骨が折れるのは、グリン・フィスだ。
私は銃を構え……。
「下がってろ」
「なっ!」
カタカタと私の体が震える。
な、何だ、これ?
カーティスはグリン・フィスに斬撃を連続して繰り出しながら、少し驚いたように言った。
「操れない? 完全に操れないのか、となると貴様のFEVは安定している、ということか。まさか能力者か?」
どういうことだ?
FEVを操る?
滅菌されたところに籠ってた人類以外はFEVで何らかの変異をしている。私はボルト101の純粋な人類じゃないし、母胎にいる段階で高濃度のFEVに感染している、そして能力者となった。
これがこいつの能力か?
FEV感染者を操る力?
ともかく私を操れないのは分かった、ならば能力発動っ!
頭痛でお互いにのた打ち回ろうぜ、大佐殿っ!
「Cronusっ!」
どくん。
どくん。
どくん。
そして時間は緩やかに停止して……あれ……発動しているけど……?
どういうことだ?
下がってろ、という言葉と同時に支配が始まった、私には効かなかったけど。反発し合うのは任意発動同士、なのに反発しないのは……こいつの能力は自動発動……いやいや、そんなわけない。
宣言と同時に干渉が来たんだ、となると任意なのだろう。でもお互いに反発しない。
能力者にも系統がある。
私のような能力者、相性で特定の生物を操るmaster系能力者、こいつはもしかしてまた別系統の、未知の能力者なのか?
まあいい。
相手は停止している、世界は停止している。
食らえーっ!
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
必殺の12連発っ!
世界が時間を取り戻した瞬間、弾丸は本来の役目を思い出したかのように相手に襲いかかる。しかし相手の反応速度は私が撃つよりも若干早い。わずかに数発が腕に当たった程度だ。パワー
アーマーすら貫通はする威力ではあるものの、中身は人間ではない、見てはないけど。そんなことを気にもしないように回避行動に移る。
元々敏捷なのか、それともパワーアーマーの動力で機敏なのか。
くそっ!
致命傷は与えられなかった、外したっ!
グリン・フィスが追撃するも奴はバンパーソードを振り回し、グリン・フィスを寄せ付けない。奴の方が速い、手数が多い、まともに近付けないでいる。
何て奴だ。
急いで弾丸を装填……。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
「きゃあっ!」
床に刺さるバンパーソード。
私の近くにだ。
狙いを外したのか、いや、外す必要はないのか、さすがに腕が痛むのだろう狙いが甘くて助かった。しかし私は衝撃で飛ばされる。助かったというのは、初げきで死ななかったというだけだ。
機敏な動きで私に向かって走ってくる。
グリン・フィス、追い付けない。
仕方ないっ!
「Cronusっ!」
時間を停止。
攻撃に移る、のではない、多分攻撃しても避けられる。私は停止した時間の中で動く、グリン・フィスの傍まで。時間停止している世界で動くと消耗が激しいねだから出来たらしたくはなかった。
そして。
そして時間は動き出す。
「くああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
頭を押さえてその場に倒れる。
近くにはグリン・フィスがいる。
脱出成功。
だけど戦えそうではない。
クールダウンには時間が掛かる。
「主」
「……ごめん、後は任した……」
「御意」
「まさか時間を停止しているのか? なるほど、これほど強力な能力者は初めて見た。俺の能力が効かないのも分かる」
ゆったりとした足取りでバンパーソードを引き抜く大佐。
「器として最高だろう」
何を言ってる?
器?
「BOSの連中では到底届かない高みにお前はいる」
「BOS、まさかエンジェル」
逃げたのではないの?
捕まった?
可能性は、ある。
教授が支配していた時はスパミュ量産の為に人間を誘拐していた、こいつらの目的も同じなら……くそ、まずいことになったっ!
戦闘の後がなかったのもこれで分かった気がする。
人間を確保したいから攻撃しなかった、そしてそれが出来る公算があった。
こいつの能力だ。
BOSと言ったってある程度はFEVに感染しているだろう、それはそうだ、外部と独立して生きるなんてボルト以外ではまずできない。BOSの起源は核戦争直前にマリポサとかいう基地で独立したアメリカ
陸軍の部隊だと聞いたことがある。完全に感染の予防が出来ていなくても不思議ではない。身体的に変異しない程度に因子に組み込まれた可能性がある。
そしてカーティス大佐のFEV支配の能力で無力化された。
「彼女たちは、どこっ!」
「仲間? ああ、そうか、お前は救出にここまで来たのか。悪いがBOSの連中は……」
「彼女らをどうしたの?」
「一足先に北部に送ったよ」
「どうして?」
「ここに来たのは汚染されていない人間が欲しかったからだ。FEVで変異してしまった人類は、新たに投与してもスーパーミュータントにはなり辛くてな」
「ボルト101の住民狙いか」
「そうだ。無駄足を踏んだがな。BOSの連中はそれなりにクリーンなんでな、使えるんだよ。それで、本命のボルトの連中はどこに行ったんだ?」
「テーブルの引き出しは探した?」
「面白いジョークだ」
危なかった。
あのままボルト101に籠ってたら全滅していたところだろう。
「このまま退かせてもらおう」
「行かせると思う?」
「思わんが、行くしかないのだ」
「何故?」
「分かるだろう、このままでは体が維持できないからだよっ!」
何言ってんだこいつ。
グリン・フィスは行かせまいと構えるものの、大佐は悠然とその場から去って行った。奴の力は未知数だし、私は戦えないし、撤退するのが分かってた。だから見逃すしかなかった。
戦うにはリスクが大きい。
今この場に奴の戦力がいないのであれば、行かせた方が得策か。
下手に争えばスプリングベールに目を付けるかもしれない。
勝てばいい?
そう、勝てばいい、正確には勝てればいいんだけど……必ずしも勝てるとは言い難い。奴は強い、それは分かる、でもグリン・フィスが今回ここまで苦戦したのはそれだけじゃない。
彼は何かに恐れを抱いていた。
だから。
だから防戦に回った。
「主、申し訳ありません」
「いいわ。仕切り直しよ」
その後、私はBOSにこのことを報告。
エンジェルたち救出を依頼。
だが、しかし、それは無駄に終わった。
失敗したのだ。
前にエンクレイブがBOSの対応を見る為にベルチバードで領域に侵入していることを聞いた、その強行偵察機に捕捉されてしまった。
ミニ・ニュークで爆撃され、エンジェルたちは死亡、スパミュの部隊も全滅。
改造されるよりは良かったのだろうか?
私はこの怒りの矛先をどこに向けばいい?
レッドアーミーか、エンクレイブか。
……。
……どっちもどっちだ、どっちも潰す。
戦うしかないのだ。
戦うしか。
キャピタル・ウェイストランド荒野。
部隊を失ったカーティス大佐は北部へと単身で撤退している。ベヒモスほど大きくはないものの、並のスパミュより大きく、特注サイズのパワーアーマーも着込んでいる。
人狩り師団のレイダーたちがたまたま発見したものの、争わずに逃げ出した。
だが彼は逃げなかった。
「ほう、これは好奇心がそそられる」
「何だ貴様?」
その男、人狩り師団ではないし、カーティス大佐との面識もない。
偶然の出会い。
「私かね? Dr.ミカヅキだ。遺伝子操作や改造を専門としている。君は実に興味深い、どうだろうか、研究対象になって欲しいのだがね?」
「面白いことを言うヒューマンだ」
殺気が迸る。
だが、何を思いついたカーティス大佐はそれを押さえた。
「遺伝子操作、とか言ったな」
「いかにも」
「スーパーミュータントを作れるか?」
「無からは作れんぞ? 材料はそちら持ちだ。それが可能なら幾らでも作ってやるが?」
「ほう? となるとDr.アンナ・ホルトの代用になる。俺はカーティス大佐だ、マスターズアーミーを統率している。それで、お前の名は分かったが、何者だ?」
「グリゴリの堕天使、そう呼ばれておるよ」
レッドアーミー、グリゴリの堕天使、協定成立。