私は天使なんかじゃない






世界の影





  世界の真の姿は……。





  キャピタル・ウェイストランド北西部にあるディカーソン・タバナクル礼拝堂。
  廃墟の場所。
  人里離れた場所であり、まず人が近付かない場所。
  かつてここはストレンジャーのキャピタル支隊所属のドリフターが拠点にしていたが、しばらく前から彼は行方不明であり、変わりに住み着いたのが……。
  「役立たずどもが」
  廃墟の礼拝堂内で、瓦礫の上に腰を下ろしたジェリコがそう吐き捨てた。
  ミスティ抹殺の為に放った12の刺客。
  誰も戻ってこない。
  全滅というわけではなく今だミスティ抹殺ならずの為、誰も戻ってこないというわけだ。もちろん脱落者も既にいる。
  ストレンジャー残党のデス、ガンスリンガー、ともに脱落。
  同じく残党のマシーナリーは先の2人とは違い現在もアタックしているものの、既にそれは依頼という範疇を越え、完全に自分のロボットでオートマタを次々と破壊するミスティに対する私怨だ。
  また、ミスティは認識しておらず、彼らもミスティだと認識していなかったものの、リンカを誘拐して小遣い稼ぎをしていたザンザ兄弟は戦うことすらできないまま死亡。
  ベリー3姉妹によって噛ませ犬として利用されたグーラは手駒のフェラル軍団を失った後、ベリー3姉妹によって処刑。
  メガトンにあるミスティの自宅を襲撃したブッチゃーは買えなく返り討ち、死亡。
  既に7名が死亡や逃亡で脱落。
  ベリー3姉妹は機会を伺いつつまだ決行しておらず。
  刺客とは別に同盟を組んでいたクローバーはジェリコに愛想を尽かして袂を別ち、昔馴染みのガルシアは独自にミスティを始末するべく行動している。
  既にジェリコの組織は破綻しつつあった。
  いや、破綻しているのだ。
  世の中つまらなくなってきていた、その発端がミスティだった。
  街道を歩けば警備兵がいて、街を歩けば物が溢れている、古くからキャピタルを知る者からしたら革新的な進歩ではあるが、ジェリコからしたら昔流の悪徳の喜びの方が勝る。
  だから。
  だからミスティを殺す。
  そうすることで今の時代を壊し、かつての退廃した、享楽的であり、厭世的な世界に戻すのだ。
  刺客はその為のもの。
  全ての自分の欲望を満足させる為だけのものだった。
  刹那主義者。
  それこそがミスティ打倒で組んだものの最終的にクローバーと相容れなかった理由。
  「残り2人も、ベリー3姉妹も、あまり当てにはならんな。どうしたものか。くそ、このままでは俺自らが出る羽目になりそうだな」
  ジェリコの脳裏に浮かぶ次の手。
  それは……。





  街道を歩く。
  夕日を浴びつつ私とグリン・フィスで。
  戦後200年、しかも全面核戦争で国そのものが吹き飛んだ世界。いや、世界そのものが吹き飛んだと言った方がいいのか。
  ライフラインなんて存在しないし道路公団なんてものもない。
  当然のことながら道路やガードレールはその名残だけを残し、私たちを取り巻く世界は基本荒野と残骸、そして岩肌だけ。
  視界にはただた無人の荒野が映るだけ。
  向かう先はボルト108。そこでワリーのクローンが生産されている、らしい。今現在も生産されているかは知らないけどさ。
  ワリー軍団、ね。
  規模不明。
  ただ四天王とかいうのがいるらしい。
  スプリングベールまで乗り込んできた四天王ワリー(善)はなかなか強かった。あれはクローンというレベルではない、ある意味でミュータント化してた。
  クローンどもにそんな技術があるのか?
  それとも手助けしている者が?
  はあ。
  厄介です。
  「主、足は大丈夫ですか?」
  「何だかんだでキャピタルを歩いてるからね、足腰強くなった。大丈夫」
  「いつでもお姫様抱っこしますので」
  「死ね」
  「……最近辛辣ですね」
  「まあね」
  道中は既に半分ぐらい、かな。
  出掛けたのは今日。
  正確にはワリー(善)を倒してすぐに出発しました。さっさとケリ付けたいし。ある意味でエンクレイブよりも厄介。有限の軍隊より、無から量産される軍隊の方が怖い。
  それが例えボンクラなワリーのクローンでもだ。
  遺伝子操作できるのであれば危険度はさらに上がる。
  ボルト108は潰す。
  どんな装置なのかは実物見たことないから知らないけど、クローン製造機は戦前でもかなりレアな代物だ、多分ボルトテックの試作品だと思う。そんな物が正規品であるならば、
  エンクレイブは確実に活用してくるだろうけどそんな様子はないし。今潰しておいた方がいい。
  これ以上悪用される前に。
  「しかし主、途中までとはいえ短縮出来たのは幸運でしたね」
  「そうね」
  徒歩移動でいきなり旅程の半分ということはまずない。
  キャピタルは広い。
  足での移動では限度がある。
  途中まではベルチバードに乗せて貰った。別にデリバリー要請したわけではない、要塞にボルト108の脅威を連絡した際に気を利かせて向かわせてくれただけ。
  まあ、途中で降ろされたけど。
  何故?
  BOSの通信士も言ってたエンクレイブの侵入だ。
  最近ベルチバードで領域に侵入を繰り返しているらしい、その度に対応して追い返しているようで、私たちを降ろしたのも緊急で迎撃に向かう為だった。
  まあ、エンクレイブにその気はないだろ。
  あくまでこちらの対応速度を見る為、そして攪乱する為の行為。
  全面対決まではまだ時間はある。
  でもそれほど猶予があるわけでもない。
  こちらから撃って出れるだけの余裕がない以上、まずはキャピタル内を完全に抑える必要がある。
  私の行動もその一環だと思う。
  さて。
  「しかし、大丈夫でしょうか?」
  「そうね」
  到着地はボルト108。
  だけど私は現在そちらには向かっていない、現在の予定では大きく迂回しての旅程となっています。
  中継地はデイブ共和国です。
  ……。
  ……あー、ボブ帝国か?
  よくは分からないけど現在内乱中の集落に向かってます。
  何でもブッチたちトンネル・スネークがそこにいるんだと。メールではそう言ってたから向かわざるを得ない。トンネル・スネークは強いし、人数も3人だから、どうしても手助けが欲しい。
  しっかし何だってそんなところにブッチたちはいるんだろ。
  面倒臭い。
  まあ、大きく迂回で行けるだけマシか。
  これがギルダー・シェイド行ってから、だと完全に真逆な上に往復だけで一週間は掛かってしまう。徒歩の場合だけど。
  しかし暇だな。
  ただ歩くっていうのもなかなかに退屈だ。
  せめて景色か良ければ気は休まるんだろうけど何もないし、むしろ廃墟と化した世界なんて気が滅入る景色だ。鬱鬱鬱。
  事故った車輛とかがあるし。
  何か楽しい景色はないのか、楽しい景色は。
  「あれ?」
  「どうなさいましたか、主」
  「見たことあるぞ、あれ」
  ところとごろ疎らに残っているガードレールに乗り上げている車両がある。
  見たことがある大型トレーラー。
  サロンド乙姫だ。
  車両見つけてラッキー、とは思わない。
  敵がいる?
  いや。
  それ以前にタイヤがないのだ。多分スカベンジャーがこれを見つけてタイヤだけ剥いだのだろう、ケチな仕事しているなぁ。
  アサルトライフルを構えながら運転席を見る。
  誰もいない。
  グリン・フィスを伴い、後部の扉を開くように目で合図。彼は頷いて、一気に引き開けた。私は不意打ちに備える。
  ……。
  ……誰もいない。
  床にはいくつか染みがあるだけだ。
  ふぅん。
  他の人が見たのであれば???だろうけど私には意味が分かる。
  解けたのだ。
  ボルト108にいたクローンたちと双子だったんだろう、サロンド乙姫の女たちは。だから向こうが死んだため、連鎖して解けてしまった。
  この件はこれでお終いってこと?
  「どうだか」
  「主?」
  「何でもない。行くわよ」
  「御意」
  終わりだとは思えない。
  イヴは死んだしボルト108の女たちも死んだ、だけど無敵病院のマッチョ兄貴は逃走中。イヴは叔父上とか言ってたし、まだ続くんだろうなぁ。
  ワリーとの関係性?
  あるのかもね。
  マッチョ兄貴やイヴが何なのかはよく分からないけど、マッチョエキスとかクローン量産とかやっていることは素人ではない。
  何者だろう?
  いずれ分かる、かな。
  分かりたくはないですけれども(泣)

  「おい、これは俺のお宝だぞっ!」

  「ん?」
  小汚いおっさんがいる。
  手には自動小銃、こっちに向けている。身の程知らずな。背中には大きな袋を背負い、その大きさは男の横幅よりも大きい。
  目は血走り気が狂った追剥ぎのような顔をしている。
  薄汚れた黒い肌。
  別に差別主義ってわけではない、本当にドロドロに汚れているのだ。
  追剥ぎ、かな?
  まあ、近いものがあるだろうな。
  職業を聞けばおそらく本人はスカベンジャーだと言い張るんだろうけれども。というかお上品に言うのがスカベンジャーであって、下品に言えば追剥ぎなのか?
  わざわざ喧嘩するほどもないだろ。
  「悪かったわね、行きましょう、グリン・フィス」
  「御意」
  タイヤのない車輛なんかに用はない。
  勝手に剥ぎ取ればいいさ。
  それはそれでキャピタルの経済が回る一因なわけだし。
  向こうも喧嘩したくなかったのか、そのままトレーラーの荷台の中に入って行った。タイヤを持って行ったのは別のスカベンジャーなのか、それとねあのおっさんがどっかに持って行って隠すなり
  売るなりしてから、その上で戻ってきたのかな。タイヤはそのままでも使えるし、レイダーやスパミュあたりは防具に転用したりするから、それなりの価値はあるのだろう。
  さて、旅路を少し急ぐとしよう。
  私たちは歩く。
  思えばキャピタル何周分を旅しているんだろうな、私たち。
  パパを探しに出て来ただけだった。
  それだけだった。
  人助けしたかったわけではないし救世主になりたかったわけでもない。
  歩きながら忠実な友に聞く。
  「グリン・フィス」
  「はっ」
  「私って何がしたかったのかな」
  「はっ……はあ?」
  「何というか別に良い子になりたかったわけじゃなかったんだけどさ。ボルト101を出た理由はそんなんじゃなかった。でも皆が私を赤毛の冒険者と呼ぶ。違う。私がしたかったのはそんなんじゃない」
  「主」
  彼は立ち止まる。
  私も止まる。
  「あなたに仕えれることは自分の誇りです」
  「やめてよ。私は……」
  「救おうとして救おうとも、意図せず救おうとも、救われる側はあなたに好意を覚える。それだけのことです。あなたが難しく考えることはない。別に崇めろと言っているわけでではないでしょう?」
  「そう、ね」
  難しく考える必要はないか。
  「主、笑えばいいと思います」
  「そうね」
  「そうです。このように笑えば楽しいですよ、ははは」

  「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

  「……笑い過ぎじゃね?」
  どんびいたわ。
  「自分ではありませんが?」
  「えっ?」

  「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは見つけたぞーっ!」

  物陰から男が現れる。
  見た顔だ。
  そりゃ当然見た顔だろう、ボルト101の同級生の顔だからだ。
  ワリー。
  ただしボルト108のボルトスーツを着ている。
  「偽者か」
  クローンのワリー。
  周囲にはこいつ以外いない。ワリー軍団とか言いながら単独でしか動かないのか?
  群れないなら群れないで別にいいけど。
  手には斧。
  物騒な物持ってるけど、銃には勝てんだろ。
  こいつになんか妙なものがブレンドされていないなら、ね。
  スプリングベールを襲撃してきたワリー(笑)はお腹から手が生えてきた。少なくともあいつはクローンというよりはミュータントに近い。
  さて、こいつはどうかな?
  「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  笑ってる。
  笑ってるけど目が笑ってない。
  何か恐いな。
  グリン・フィスが無言で柄を掴み、抜刀の構えを取る。
  ふぅん。
  ただ者ってわけではないってことか。
  「俺は四天王ダニー(笑)だっ! てめぇらぶっ殺すっ!」
  「ちょっ!」
  斧を手に肉薄してくる。
  いきなりかよっ!
  「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「くっ」
  あまりにも唐突だったので銃を抜くことも出来ず、身を翻して避けるだけ。避けれただけマシだけどさ。
  ブン、と重い音が通り過ぎる。
  死ぬな、一撃で。
  グリン・フィスが間合いを詰め、抜刀、閃く刃。
  瞬間、ワリー(笑)は大きく後ろに飛んだ。わずかに振り遅れたグリン・フィス、一刀両断し損なった。もっとも、それでも大きく胸を薙いではいるのだが。
  血が盛大に噴き出す。
  だけどそれは一瞬で血は止まる。
  そこまでは分かる。
  ワリー(笑)もそうだった。
  だがこいつの場合はそうではなかった、傷がみるみる間に塞がって行ったのだ。
  「何とっ!」
  「solar powerっ! こいつが俺様の能力よっ! 日光を浴びている限り、傷は治癒し、腕力は跳ね上がるっ!」
  能力者かっ!
  誰だ、こんなの作ってる奴はっ!
  クローンはオリジナルの能力をコピーするだけだ、ワリーオリジナルにそんな才能はないだろ、となるとワリー軍団を仕切っている偽者に誰かが入れ知恵しているのか。
  マッチョ兄貴か?
  それとも別の……。
  「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは死ね死ね死ねーっ!」
  斧を投げてくる。
  ガッ。
  ほぼ本能でアサルトライフルで跳ね除けるものの、重い、私は体勢を崩してその場にぶっ倒れた。しかし怖いことしたな、自分。受け損ねても反応遅れても死んでたぞっ!
  まさか唯一の得物を投げて来るとは思わん……。
  「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「……っ!」
  ワリー(笑)は私に向かって突進、倒れてる私に対して両手で全力で首を絞めてくる。
  この時こいつの目が全然笑っていないことに気付く。
  マジ怖ぇー(泣)
  「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「……っ!」
  息が出来ない。
  息が……。
  「主から離れろっ!」
  グリン・フィスが引き剥がして、ワリー(笑)を投げ飛ばす。
  よろけるワリー(笑)
  私はミスティックマグナムを引き抜き全弾ワリー(笑)の体に叩き込む。自動回復しようが何だろうが無敵ってわけではない、死んで当然のダメージを受けたら死ぬしかない。
  頭吹っ飛んだし。
  普通じゃなくても死ぬだろうよ。
  「はあはあ」
  酸素が体を駆け巡る。
  あー、死ぬかと思った。
  「主、申し訳ありませんっ!」
  「いいわ、別に。生きてるし」
  そして奴は死んだ。
  それだけの話だ。
  解けていく。
  ワリー(善)のお腹からの不意打ち第三の手っ!はミュータントなだけだと思うけど、ワリー(笑)は能力者だった。まあ、能力者もある意味でミュータントよね、うん。私も含めてさ。
  誰なんだ、この四天王を作った奴は。
  凄い技術だと思う。
  こいつは私を探して彷徨ってたのか?
  何故に私を?
  まあ、ワリー(善)倒しているからかな、一応心当たりはある。確実に私を殺しに掛かってたしさ、たぶん私目当てで動いていたのだろう。PIPBOY3000のGPSを追ってきた可能性がある。向こうは
  クローンのみならず改造までしてるし、ワリー(仮)はPIPBOYをしていなかった。クローンの親玉が持っているのだろう、そしてそれで私の位置を特定しているのだ。
  「やれやれ」
  面倒なことですな。
  弾丸を装填し、ホルスターに戻す。
  ともかくこれで四天王の2人目まで倒した。楽観的な行くとしよう、残り2人で終わるってわけだ。だけどこれ漫画的に考えたら四天王を束ねる奴がいるんだよね?
  嫌だなぁ。
  いや、まて、スト2のシャドルーみたくラスボス含めて四天王的な流れかも。
  ……。
  ……どっちにしても面倒か。
  どーしてこうなった。
  おおぅ。
  「主、あれを」
  「ん?」
  指差す方向には先ほどの小汚いスカベンジャーがいる。
  こちらを見ている?
  つけてきたようだ。
  「何か用?」
  「……」
  「ん?」
  「……」
  じーっとこちらを見ている。
  周囲を見る。
  誰もいない。
  要は私たちを見ているのだろうけど、反応しない。
  何なんだ?
  面倒ですな。
  もしかして知り合いかな、だけどこんな知り合いはいないけどなー。
  敵?
  その場合は何とも言えない。
  そこら中に敵作ってますからね、私。こいつが私の潰したどれかの組織の構成員で、報復の為に機会を伺っているとも考えられる。
  「グリン・フィス、行こう」
  「御意」
  付き合ってられない。
  歩き始める。
  「待てぃっ!」
  意外にも傲慢そうな口調だった。
  私を知ってる?
  立ち止まり、振り向く。当然ながら警戒は怠らない。
  「何か用?」
  「何だその口の利き方はっ! 貴様、中々出来るから俺のシークレットサービスに任命してやろうというのだっ!」
  「はあ?」
  何なんだこのおっさん?
  イカレてんのか?
  まあ、まともではないですね。
  「主、こいつはボルト108の男では?」
  「ボルト108? ああ」
  覚えがある。
  こいつは……。
  「あんたもしかしてデイブ?」
  「デイブ大統領閣下と呼べ。死刑にするぞっ!」
  「……」
  殺してやろうか、ここで。
  だけどどうしてこんなにも落ちぶれた格好しているのだろう?
  恰好だけで態度は不遜だけどさ。
  「国に帰るんじゃかったの? というかケリィはどこ?」
  「ルーベンスに兵力を借りてボブ帝国から我が共和国を奪還するべく戦いを挑んだのだが、ボブ帝国の悪の力により俺はこのように世を忍ぶ仮の姿となっているのだっ!」
  「ふーん」
  全然忍んでねぇ。
  どうやら奪還戦に失敗して彷徨っている模様。
  ケリィはどうしたんだろ。
  奪還戦に加担するようなタイプではないよなぁ。旧友の援助とかはしそうなおっさんだけど、武力行使の手伝いはしなさそうだ。
  「ルーベンスって?」
  「カンタベリー・コモンズ攻略中の人狩り師団の中隊長だ。先代の悪の国王トムによって俺が追放されていた時分の昔馴染みのレイダーでな、兵力を借りたんだが失敗した。奴は奴で
  兵力貸したのが仇となってカンタベリー・コモンズで部下ともども無縁墓地に埋められたらしいぞ。ふん。使えん奴だった」
  「いやあんたが悪じゃね?」
  「何故だ? 俺は王だ、つまり俺が世の法律なのだっ!」
  「……」
  こいつ埋めた方がいいのかもしれないなー。
  人狩り師団から兵力借りるなよ。
  もっともそのお蔭でカンタベリーを攻撃中だった連中は全滅したのか、このおっさんもしかして周囲の人間に祟るタイプか?
  嫌だなぁ。
  「女」
  「何?」
  私のことを覚えている感じではないな。
  別にいいですけど。
  「俺をデイブ共和国まで連れて行け」
  「ボブ帝国でしょ?」
  「今はな。だが俺が舞い戻れば国民は楽器を打ち鳴らし、自らを皇帝と僭称した逆賊ボブの首を持って平伏すであろうっ!」
  「いやいや人狩り師団に兵力借りて舞い戻って成す術もなく負けたんでしょ?」
  「俺は過去は顧みない主義だ」
  「……」
  もうやだこいつ。
  「主」
  私は首を横に振る。
  斬りますかってことだろう、それはまずい。一応ケリィの顔も立てなきゃだ、ケリィの旧友だし。

  「やあお嬢さん。ここで会えたのは僕の日頃の行いの賜物でしょうね。……何して幸運なのかは、神のみぞ知る、なわけですけど」

  「……はあ」
  「露骨にため息とはやめて欲しいものです」
  また厄介なのが出て来たな。
  金髪の美男子。
  ダスターコートを着込んだ殺し屋。
  「私を殺しに来たの、デリンジャーのジョン」
  「あなたを? 何故?」
  グリン・フィスが抜刀の構えに入る。
  デリンジャーは強いがグリン・フィスも強い、まともにぶつかればデリンジャーもただでは済まない。そして私はグリン・フィスと一緒に戦う。まず勝ち目がないのはデリンジャーも分かってる、彼は微笑した。
  「やだなぁ。やりませんよ」
  この辺りの身の引き方が彼の強みだ。
  不利と分かれば柔軟に引く。
  侮れない。
  「残念ながらオファーしてくれる方がいない状況でして。クライアントもだいぶ矮小化してしまいましたからね」
  「冗談。マダムに雇われてるくせに」
  「マダム?」
  「レイダー連合の残党よ」
  「僕が? 彼女に?」
  「とぼけないでよ。それとも、マダムが死んだから私への殺しは辞めたって?」
  「ふぅん。興味深い話ですね」
  嘘をついているようには見えない。
  嘘を吐く必要もないはずだ。
  だとしたら本当に知らないのか。そもそも私を殺すつもりなら声を掛けずにスナイプするなりすればよかっただけだ、それをしなかったんだ、嘘ではないのだろう。
  「で、ではな」
  ん?
  ああ、忘れてた、大統領いたんだっけ。
  彼は手を振って立ち去ろうとする。
  なんだぁ?
  「僕のことは気にしないでいいですよ、大統領閣下」
  
デリンジャーがデイブを呼び止めた。
  知り合いなのか?
  「わ、悪いが属領のオールドオルニーで新デイブ共和国を再建するのだ、ではなっ!」
  だがデイブはそれには取り合わずに走り去った。
  属領?
  オールドオルニー?
  まあ、多分またごっこ遊びなのだろう。つまりはハッタリだ。
  あのおっさんはどうでもいい。
  「知り合いなの?」
  「昔彼の殺しをMr.クロウリーに依頼されまして。最終的に彼とクライアントが和解したので殺しは中止になりましたけどね。その時に、ちょっと」
  「ふぅん」
  何したんだろ?
  「それよりも」
  デリンジャーが話題を転じる。
  顔は笑っているけど目は笑っていない。殺意を一瞬感じるけど私に対してのものではなさそうだ、こいつが殺気を私に放ったらビンビン飛んできそうだし。
  「それよりもマダムの話なんですけど」
  「ああ、その話」
  「その話」
  「マダムって奴があなたを雇ったらしいわ、私を殺す為に。でもマダムを薬中にして殺したんですって、あなたが。でお金だけ持って姿を消したとか。彼女の手下の生き残りの証言」
  「それは確かですか」
  「そのようね。そうやって聞くてことは違うのね、あなたらしいやり方じゃないし」
  「全幅の信頼ありがとうございます」
  「別に信頼ではないけど」
  「ふぅん。僕の名を騙っている奴がいるのか。……ふぅん」
  うわぁ。
  こいつ完全にぶち切れてるぞ。
  「で? デリンジャー、私に何か用?」
  「ああ、そうでした。ベリー3姉妹をご存知ですか?」
  「誰それ?」
  「キャピタルで殺しを稼業としている姉妹です。いや、姉妹だけじゃないですね、一族でやっている連中です」
  「私を狙っているって?」
  「そうです。連中には気を付けた方がいいですよ。狙撃が得意な連中です」
  「狙撃って、どう気を付けろと……」
  「用意周到な奴らです。埋伏の毒にはご用心を」
  「……」
  恭しく一礼。
  わざわざこれだけを言いに来たのか?
  ……。
  ……こいつの場合は何でもありだからなぁ、これが策略だとは限らないわけで。
  掴みどころがなさ過ぎる。
  「では僕はこれで。偽者を探す必要がありますので」
  「ええ。分かった」
  「……」
  「何よ?」
  「またね、とかないんですか?」
  「行け、斬るぞ」
  凄むグリン・フィス。
  だけどデリンジャーは微笑し、そのまま踵を返して立ち去って行った。
  どんな敵を回そうともあいつより厄介なのはいないだろ。
  最初に出会ったのはビッグタウン、異邦の地ピットでやり合い、ルックアウトでは半ば敵対半ば共闘という関係。
  でもこの先は?
  分かんない。
  あいつほど読みにくい相手もいない。
  「主、行かせてもよろしいのですか?」
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「もしもあいつを斬れと言ったら、斬れる?」
  「そうですね」
  彼は少し考え……。
  「やり方によっては腕一本という代償で斬れます」
  「そう」
  どんなやり方してもグリン・フィスが腕一本犠牲にする相手、か。
  戦いたくないものだ。
  今まで何人かの能力者と戦ってはいるけど、私自身も能力者だけど、あいつほどデタラメな奴はいなかった。実はあいつも能力者なんじゃないかとすら思えてくる。
  「グリン・フィス、道草終了。行きましょう」
  「御意」
  ボブ帝国へ。






  デイブ共和国……ボブ帝国……まあいいや、ともかく到着。
  そこは四方をフェンスで覆われた集落。
  ……。
  ……よほど今まで外敵がいなかったんだな、こんなんでよく今まで大丈夫だったなぁ。
  辺境で誰も来ないからかな?
  だからこそ国家ごっこ出来たってわけだ。
  国家とはもちろん人数の問題ではなく統制や理念があればそれでいいんだろうけど……この間ケリィに聞いた限りではごっこにしか見えない。指導者であるデイブ大統領がイヴのサンドバックに
  されている間に息子が勝手に帝国宣言したりとかふざけ過ぎだろ。無礼者のデイブに同情なんてしないけどさ。
  フェンスの入り口に立つ。
  「開けて」
  「うわぁ、余所者だぁ」
  入り口の向こうには女の子。
  怖がっている様子はない。
  物陰から子供たちが興味深そうにこちらを覗いている。
  「開けて」
  優しく言う。
  女の子は躊躇いながらもあっさりと開けてくれた。私たちは入り口を通り、それから扉を閉じる。
  「ありがとう」
  「デイブか言ってたよ、ウェイストランドの田舎者には気を付けろって」
  「田舎者」
  苦笑する。
  どっちがだよ、デイブ大統領閣下。
  彼は元傭兵だとか聞いたことがあるな、前にケリィに聞いたんだっけ?
  ここで育って外に出ていない人たちには世間のことが分からないんだろうけど、デイブは傭兵だったんだから知っているはずだ。その上でそのように情報を統制しているのだろう。
  間違いとは言わない。
  少なくとも今の時代、外に気軽に出ようとすれば死ぬだけだ。
  ある意味でボルト101と似ているのかもしれない。

  「おいおい、勝手に入って来るなっ!」

  子供たちは蜘蛛の子散らすように逃げて行く。
  兵士がこちらに来た。
  3人。
  レザーアーマーに10oピストル。
  防犯意識のない奴らだ。
  ここ出身の連中なのか、それとも外部から招きよせたデイブと繋がりのある元傭兵なのか……まあ、前者か。多分普段は農民やってるんだろ。動きは素人そのものだ。
  「な、何者だっ!」
  声が震えてますぜ。
  農民だな、普段。
  「ここはボブ帝国であるっ! 貴様、まさかウェイストランド軍かっ!」
  何だその軍は。
  エンクレイブなんか見た日には心臓止まるんじゃないか、この田舎者。
  付き合ってられない。
  簡潔に行こう。
  「そっちの事情に用はないわ、ブッチいるでしょ、呼んで欲しいんだけど」
  「な、生意気な奴っ!」
  「はあ」
  銃を構えようとした瞬間、グリン・フィスのショックソードがその男の喉元まで突きつけられた。一瞬で動きを止める兵士たち。
  弱いな、こいつら。
  ボルト101のセキュリティも外の人間に比べたら弱いけど、それはあくまで実戦経験がないという弱さに過ぎない。セキュリティは体作りはしてる。この3人はしてない、やはり素人だ。
  「や、野蛮なウェイストランド軍めっ!」
  「野蛮で結構」
  「あの余所者たちの仲間ってことは、裏切り者のケリィ将軍が呼び寄せた奴らなんだろっ!」
  「何だ、ケリィのおっさんもいるのか」
  裏切り者ねぇ。
  仲介しようとして、どっちにも与していないからそう見られてるのか。
  さてさて、どうしたもんかな。
  「まあいいか」
  3人を押しのけて私たちは奥に進む。
  特に咎められなかった。
  捨て台詞は言われたけど。
  どうやらこっちの強さを別ってくれた模様。分かり合えるって素敵なことですね。
  「主」
  「何?」
  「どうなされるのですか?」
  「んー、どうしようか」
  「ケリィには度々世話になっています。恩義を返すべきではないかと」
  「まあねー」
  それは分かってる。
  問題はそれをどう返すかだ。
  集落内には畑があったり、家畜がいたり、そして当然それらを耕し、世話している者がいるんだけど……いずれの人々も銃を帯びているし、防具に身を包んでいる。んー、多分防具。鍋を頭に
  被ったりまな板を胴の所に吊るしていたりとちょっと笑えるけど。どうやら反乱騒ぎはこの集落の住人の生活を完全に脅かしているようだ。
  否応なく二分しているのかもな、住人も。
  ケリィはそれを止めようとしてる。
  仲介っていうのはそういうことだ。
  大きな建物の前に出た。建物の前はちょっとした広場になっている。
  兵士がスクラムをするように立ち塞がっている。
  通行止めってやつ?
  ここから先は行けないらしい。
  少し距離があるとはいえ兵士たちは私たちを目視しているけど特に何も言ってこない。
  あれが大統領の屋敷ってところか?
  ああ、今は帝国の主であるボブ皇帝陛下の宮廷なのかもね。とりあえずでかいけど、作りそのものは粗末だ。この集落の建物すべてに言えることだけど。
  その時声を掛けられた。

  「おう、優等生じゃねーか」

  「ブッチ」
  永遠の不良少年発見。
  彼の両脇にはトンネル・スネークがいる。ああ、そういうことか、ケリィのおっさんに助っ人として呼ばれんだろ、ブッチたち。おっさんもブッチもPIPBOYがある、メールで連絡し合ったんだろ。
  だけどケリィの姿はない。
  私達はブッチたちの所に行く。
  「ケリィは?」
  「挨拶も省いてそれかよ。まあ気になるよな。おっさんはいねーよ。一足違いってやつだ」
  「一足違い?」
  「ボブって奴の暴走を止められなかったらしくてな、ケリィのおっさんは第一夫人とその子供たち、恋人とドッグミートと従がう手下引き連れてどっか行っちまったとさ。恋人っていうのは嘘だと思うけどな」
  「出て行ったのか」
  「らしいぜ」
  亡命って言うほど大げさなのかはしらないけど、つまりはそういうことだろう。
  救済不可能と踏んだのだろう。
  デイブは攻撃失敗してるし。
  まあ、デイブの件も含めて失望したんだろうな、ここに。人狩り師団に協力求める元大統領ってどうよ?
  「なあミスティ、ワリーの話本当かよ?」
  「まあね」
  その件はPIPBOYのメールのやり取りでしてある。
  そしてブッチがここにいることもメールで知った、だからここに来たわけだけど……。
  「ケリィの絡みであんたらはここにいるんじゃないの?」
  さっきの話ではそうでもなかった。
  となるとただの偶然か?
  「閉じ込められちまったのさ」
  軍曹が面白くなさそうに言った。
  「閉じ込められた?」
  「そのまんまよ。あたしらは物資を補給する為にここに寄っただけ。ああ、あなたの姪っ子の皮膚の色を治す薬、材料揃ったわ」
  「感謝します」
  グリン・フィスが頭を下げた。
  だけど頭を下げるテンポが少し遅かった、何だ、今の「ああ。そうだった」みたいな顔つきは。何だかんだで四六時中彼の側にいるからな、顔つきで分かった。
  「それでレディ・スコルピオン、ここで何してるの?」
  「鎖国に付き合わされてるってるのよ。ケリィって奴の為にここにいるわけじゃない」
  「鎖国って?」
  「ここを乗っ取ったボブって奴が鎖国政策を施行したのよ。何でもウェイストランド軍に対抗する為に鎖国して国力を高めるとか何とか。鎖国してどう高めるのかは知らないけどさ」
  「そいつ馬鹿じゃないの?」
  「ははは。彼女もボスと同じこと言ってやがるぜ、なあ、ボス?」
  「優等生を待ってたんだよ、俺らはよ」
  「待ってた? 何で?」
  「ワリーの偽者ぶっ飛ばすんだろ? 合流地点は定めとかなきゃな。暇で暇で仕方なかったが、俺たちから外の情報穂引き出すとかで国賓待遇だったんだぜ、俺ら。どの程度の待遇化はお察しってやつだ」
  「あはは」
  こんな集落だ、大した待遇だとは思えない。
  だけどこれで合流できた。
  トンネルスネークの合流は心強い。
  人数的にも、質的にもね。
  軍曹は戦闘力あるし、レディ・スコルピオンは謎武器のメタルブラスターを持っているし毒にも精通してる、ブッチもストレンジャーを倒すほどに強い。
  申し分ないです。
  「じゃあ、チェックアウトする?」
  「だな。行くぞ、ベンジー、レディ・スコルピオン。トンネルスネーク行くぜっ!」
  「ああ」
  「了解、ボス」
  ケリィはここにはいないし、この街には特に義理もない。
  邪魔するのであれば強行に出るまでだ。
  文句は言わせない。
  「行くわよ、グリン・フィス」
  「御意」
  さあ、偽者狩りだっ!














  ボルト108。最深部。
  クローン製造機を操作しているのはワリー、ではない。
  七三分け、チョビ髭の白衣の中年男性。
  ベルトコンベアには全裸のワリーのクローンが並んでいる。ここでクローン兵士を量産している。
  「Dr,ミカヅキ」
  「ああ、君か」
  ボルト108のジャンプスーツの上に黒い革ジャンを羽織った、クローンワリーで構成されたワリー軍団の総帥であるワリーが博士の前に現れる。
  Dr..ミカヅキ。
  実はミスティとも面識がある。
  シェイル・ブリッジの洞穴、カンタベリー・コモンズ、その2回だ。ただしどちらも立ち話程度で、どちらも深い面識ではない。
  その程度の関係。
  「実験体が2体倒されたようだ。あー、四天王とかいうやつか? 倒された付近の監視カメラを遠隔操作してみたが、赤毛の女がいたよ、どちらもな。どこかで見たような猿だったが覚えていない」
  「赤毛、ふん、赤毛の冒険者様か」
  ミスティのことは好きではない。
  かといって嫌いというわけでもない。
  かなり込み入った感情が彼女にはあった、それは憎しみと羨望が入り混じった感情。ブッチにもその類の歪んだ感情をワリーのオリジナルは持っていてクローンにも程度の差があれ受け継がれている。
  Dr.ミカヅキは話を続ける。
  「どういう経緯かは知らんが、まだ狙わせるのかね?」
  「ああ。逃亡した奴を始末するのが目的だったが、もうそっちはどうでもいい。奴を殺したいっ!」
  「残りの実験体にも何らかの遺伝子を組み込んで組み込んでみようと思うのだが」
  「……」
  「どうした、ゾウリムシ程度の脳ミソでは理解できないのか?  ああ、すまん、別に他意はない、自分以外は見下しているだけだ」
  「……」
  「社交的な態度を求めているのであれば諦めてくれたまえ」
  「何であんたは俺の為に手を貸してくれるんだ?」
  「んー?」
  2人の接点はない。
  Dr.ミカヅキはボルト108に入り込んできて、勝手に手を貸している状態。
  もちろんワリーにはそれを拒む気はない。
  役立っているからだ。
  「理由など必要か?」
  「必要ではないかもだが、納得はできない」
  「望まれれば知識を授ける、それがそれを持つべき者の定め、というものだよ。別に感謝する必要はないぞ、あくまでボランティアでしているだけなのだからな」