私は天使なんかじゃない






複製の穴





  自分が自分であるという、不確かな証明。





  「あんたはワリーでしょ。それが?」
  「お、俺はボルト108で恐ろしい目にあったんだっ!」
  それで混乱しているのか。
  だけど勝手に別行動取ったのは、そもそも彼だ。
  「自業自得。じゃ、そういうことで」
  立ち去ろうとする。
  そりゃそうだ。
  勝手に宝探しの為に行方不明になって、勝手に厄介を持ってきたんだ、知ったことか。どんな厄介化は聞いてないけどどうせろくでもないことなんだろ。
  「頼む聞いてくれーっ!」
  「はふ」
  甘いな、私。
  仕方ない。
  聞いてやるか、聞くだけね、聞くだけ。
  大概私が関わることになるんだろうけどさ。
  「それで?」
  「ボルト108の奥底にさ、奇妙な装置があってよ」
  「奇妙な装置?」
  あそこにそんなものあったか?
  なかった。
  「そ、そいつを弄るとさ、指の先がチクッとしたんだ。それからベルトコンベアが動き出したんだ。それで、そっから何が出て来たと思うっ!」
  「落ち着け」
  「落ちつけられねぇーよっ! 何が出たと思うっ!」
  偉そうな奴。
  何か話聞いてるのがアホらしくなってきた。
  「お宝?」
  「だったらよかったのになっ!」
  何切れてんだ、こいつ。
  「じゃあ何? モンスターでも出て来たってわけ?」
  「そんな生易しいもんじゃねぇっ! いいか、聞いて驚くなっ! その機械から出て来たのは俺だよ、もう1人のっ!」
  「グリン・フィス引き上げるわよ」
  「御意」
  「聞けよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  日頃の行いだろ。
  ボルト101時代からワリーの良い記憶はない。
  あれ?
  じゃあなんで私は頼みごと聞いてやってるんだ?
  善人は辛いですなぁ。
  「夢です、はい終了」
  「俺もそう思った。でもいくら自分のほっぺた抓っても目は覚めねぇんだ、残念ながらっ!」
  「何が言いたいの?」
  「どうもこうもねぇっ! 俺の他にもう1人俺がいたんだっ! あまりの不気味さに俺はその場から走って逃げた。そしたら、そしたらあいつ追っかけて来たんだっ!」
  「あーっ!」
  こいつクローン製造機動かしたんだなっ!
  前回ゲイリー絡みの時は確認できなかった、たぶん隠し部屋にでもあったんだろう。今回はその類のがあるのは分かってたけど、探さずにBOSに任せた。
  どう転んでも面倒が飛び込んできそうだったからだ。
  ……。
  ……あぶねぇ。ワリーのアホがちょっと触っただけで起動するんだ、危うく私のコピーが出来上がるところだった。
  さわらぬ神に祟りなし。
  昔の人は良いこと言いました。
  「逃げ切れたのはいいんだけど、でも、今考えるとそれはそれでまずかった気がしてよ」
  「何で?」
  「考えてみろよっ! この世界にもう1人自分がいるんだぜっ! そいつが俺の姿でどこで何をしているかを考えると……ああ、気持ち悪いっ! 夜も眠れねぇっ! 分かるだろっ!」
  「分かる気がする」
  「でも、でもあんなとこに戻る気は嫌だっ! ミスティ、何とかしてくれよっ!」
  「私はドラえもんか、のび太君」
  クローン、か。
  でも別にワリーが増えたとこで世界には何の問題もない気がする。
  考え過ぎだろ。
  「別にいいじゃん、もう1人いたって」
  「やだよっ!」
  駄々っ子か、お前。
  力一杯否定しやがった。
  「見返りは?」
  「要求するのかよっ!」
  どーしろというんだこいつは。
  「ただ働きしろって? 少なくとも経費ぐらいは欲しいんだけど。それ以上要求しない優しさはあるつもりだけど?」
  「お宝見つける前に逃げて来ちまったからな。残念ながらやれるものはねぇんだ。もし、やってくれたら今度からミスティのことを姉御って呼ぶよ」
  「……」
  何の役にも立たねぇ。
  つまりはただ働きってことです。
  嫌だなぁ。
  「で? あんたは本物のワリーなのよね?」
  悪戯っぽく言ってみる。
  途端に彼はどんどんと沈んで行った。
  お、おい。
  何だそのダークネスなオーラは。
  「ずっと、ずっと考えてたんだ。もしかして追って来たのが本物の俺で、俺が偽者だってことはねーかな? だって、見掛けは全く同じなんだぜっ!」
  「まあ、クローンだから遺伝子も同じよね」
  「だろっ! ああ、もう頭がこんがらがるっ! 本当に俺が本物のワリーなのかっ!」
  「知らんがな」
  「ああっ! 俺は誰なんだっ! あいつらとどこが違うっ!」
  「ちょ、あいつらって……」
  複数かよ。
  まずいな、結構面倒かも。
  「そうだ、自分が本物だと確信できるまで俺の名前はワリー(仮)とでもしておこうっ!」
  「……」
  ワリー(仮)。
  もうお前芸人でもやってろよ、面白すぎだよ。
  
  「ミスティ、来てたのね。パルマーおばさんのロールケーキ食べながら一緒にお喋り……ひっ!」

  「ん?」
  スージーだ。
  だけど様子が変だ、ワリーを見る目が少しおかしい。
  「その……」
  「どうしたの、スージー」
  「ミスティがいたから声掛けただけなんだけど……何でワリーがここにいるの? 出て行って、すぐに戻ってきたのに……どうしてここにもいるの……?」
  「グリン・フィス、彼女をお願い。ワリーはここにいて」
  「御意っ!」
  私は走りだし、止まる。
  「スージー、家どこ?」
  「家は……来たっ!」

  ざわり。

  街の住人がざわめく。
  「警戒態勢っ!」
  『了解っ!』
  アカハナが叫び、パワーアーマー部隊が動き出した。当然といえば当然だろう、ワリーがもう1人いる。こちらのワリーはボルトスーツ、そして108と記されている。
  随分と分かり易いな。
  クローンの方か。
  「下がってっ!」
  私は叫ぶ。
  アマタも出て来た、原子破壊光線銃を構えるも、ワリーが2人いることを見て驚いている。
  そりゃ驚くか。
  さすがに顔見知りの人物が2人いる展開は私も初めてだ。
  向こうは腰に銃を下げている。
  10oサブマシンガン。
  だけど抜かないだろ、どう考えても瞬時に偽者が死ぬことになる。偽者ワリーは柔和な笑みを浮かべて一礼した。

  「あなた誰?」
  「初めまして。私はワリー(善)と申します。ワリー軍団四天王の1人です」
  「ワ、ワリー(善)……」
  お笑い軍団か、こいつら。
  ノリについて行けない。
  軍団って何だ、軍団って。
  他にもこんなノリの奴がいるっていうのか。
  嫌だなぁ。
  「単刀直入に申し上げます。我々は手荒なことはしたくない。彼をこちらに渡していただきたい。あるべき場所に戻るのです」
  「その前に1つ聞きたいんだけど」
  「何でございましょう?」
  「その、(善)って何なの?」
  「ワリーの遺伝子を基本に善良さを強調した個体でございます」
  「となると、あなたが一番の善人ってわけね。その、ワリー軍団の中で」
  「左様でございますね」
  結構厄介かも。
  遺伝子を弄るだけの技術があるのか、このクローンども。何をどうやったらそんな技術を持つクローンになるんだ、オリジナルの方にそんな技術があるとは思えないけど。
  ある意味でクローンというよりはミュータントなのかもしれない。
  「それで、ワリー軍団って何なの?」
  「ワリーの夢を叶える為に活動しています。どうです? 彼を差し出し、あなたも我々とともにワリーの為に働いてみませんか?」
  「はっ?」
  何言ってるんだこいつ。
  何だワリーの夢って。
  どうもワリー軍団とはワリーの夢を叶えるための軍団、らしい。
  「夢って何?」
  振り返らずにワリー(仮)に聞く。
  だけど彼はあわあわというだけで会話にならない。
  ……。
  ……引き渡す、というか……このまま交換した方がいいような?
  ワリー(善)の方が賢げだし。
  まあ、そんなことはできないけれども。
  「ワリー(善)」
  これだけははっきりさせよう。
  「あなたは偽者よ」
  「偽者、では何を以て偽者で、何を以て本物だと?」
  「それは……」
  確かに。
  確かにそう言われたら返しようがない。
  ふぅん。
  言うじゃない。
  「で? どうする? ドンパチしてみる?」
  「そうですね」
  「銃を捨てろっ!」
  叫んだのはアンソニー、勇ましいですな。彼が銃を構えるよりも早く、ワリー(善)は彼に飛びかかり、容易く制圧してしまう。羽交い絞めにされるアンソニー。
  こいつ早いっ!
  元のワリーの身体能力は知らないけど、今の動きはとても人間ではなかった。
  何かブレンドされてるな、こいつ。
  純粋なクローンとは思えない。
  四天王と名乗っているんだからやはりそれなりに強いのか。しかし(善)としているものの、交渉が可能でないと見ると一気にこういう対応をするってことは、強化される前のワリーの善性ってどんなんだよ。
  「アンソニーを離しなさい」
  「先に手を出したのは彼です」
  「喧嘩売りに来たのはあなたよ」
  「それは違う。あくまで交渉に来た、それだけです」
  「なるほど。でも、手を離せ」
  「仕方ありません。あなたは我々にとって邪魔な存在のようです。死んでいただきましょう」

  バッ。

  アンソニーを投げ飛ばし私に飛びかかってくる。
  早いっ!
  ミスティックマグナムを引き抜き、能力発動。
  「Cronusっ!」
  その動きが止まる。
  世界も。
  私はトリガーを引き、時間解除。弾丸はそのままワリー(善)の右腕を貫いた。パワーアーマーを貫通する一撃だ、右腕は爆ぜて存在しない。だが彼は屈せずに左手でサブマシンガンを引き抜く。
  懲りない奴っ!

  バジュ。

  緑色の光が銃を融解する。一部指に当たったようで、指の一部も誘拐した。
  アマタの攻撃だ。
  原子破壊光線銃、今の私のスタイルからしたら趣味じゃないけど、初期メガトンのあたりにそれがあったらならモリアティに良いように使われずに済んだのに。
  ある意味チートです。
  「これまでよ」
  「くっ」
  「ワリー軍団のことを教えてもらいましょうか」
  血が全く出ていない。
  正確にはすぐに止まった。
  やはり改造されてる。
  誰に?
  勝手に自分たちでやっているのか?
  だとしたらワリーのクローンにしては有能過ぎる。
  「G.O.A.Tから出題」
  「はっ?」
  何か言いだしたぞ、こいつ。
  G.O.A.Tとはボルト101でされていた職業適性試験。私も受けた、結果として害虫処理係でした。
  彼は続ける。
  「どうしようっ! 放射能に晒されたらこのお腹からミュータントの手が生えてきたっ! 一番良い治療法は何だろうか答えよっ!」
  「……っ!」
  腹部の服が割け、何かこちらに飛び出してくる。伸びてくる。
  腕っ!
  「どうするかって? 模範解答、頭を撃ち抜くっ!」

  ドン。

  喜色の悪い3本目の腕が届くよりも先に私のマグナムが彼の頭を吹き飛ばした。
  そしてそのまま彼は解けていく。
  ふぅん。
  ゲイリーみたく安定していないのか、この間のイヴたちと同じように不安定なタイプってことか。
  そいつは助かる。
  ワリー軍団がどれだけいるかは知らないけど、さすがに顔見知りの死体を山で築くのはいささか居心地が悪いものだ。
  「ミスティ、これは一体どういうことなの?」
  「私にも何とも」
  こう答えるしかない。
  アマタは納得できないようだけど仕方がない。
  「アカハナ」
  「何でしょう、ボス」
  「スプリングベールの防御を固めて。何だかよく分からないけど妙なクローンどもがワリーに固執している可能性がある。メガトンのピット組も呼び寄せて、ここを防御して。市長にはその旨の通達を」
  「了解しましたっ!」
  「スージー、ワリーを絶対に屋内から出さないで。クローンの群れと混ざると、分からんくなる」
  「うん、分かった」
  やれやれ。
  面倒な展開になってきたぞ。
  「皆、聞いて、気味の悪い展開だけど問題はないわ。アカハナたちは最強の部隊、ワリー擬きが大挙してきても問題はない。安心してっ!」
  騒ぎは収まりつつある。
  彼ら彼女らの動揺はワリー軍団が乗り込んでくるかも、というよりは、顔見知りのクローンが気味悪いだけだ。
  「アマタ、この場は任せるわ」
  「分かった。あなたも気を付けてね。乗り込むんでしょう?」
  「出来たら楽しようかとは思う」
  「楽?」
  「アマタ、無線機ある? 貸して欲しいんだけど」
  「分かった」
  立ち去るアマタ。
  住人たちも散っていく。まあ、囲いはあるし、アカハナたちがいるのである意味で鉄壁だろう、そこは心配してない。
  「アンソニー、大丈夫?」
  「ええ、まあ」
  「あんまり無茶しないで」
  「弱いのは分かってますけど、ミスティさんには恩返ししたかったし、私も、仲間ですから」
  「ありがとう。でも、無茶はしないで」
  「分かりました」
  「それで、どうするの? ここに留まるの? メガトンに帰るなら、気を付けてね。私は同道できないわ」
  「しばらくここにいます。美味しい肉料理のレシピ本があるとか言ってましたから」
  「ふぅん」
  ボルト101から誰かが持ち出した料理本があるのだろう。
  肉料理が好きなのかな、彼。
  「ミスティ」
  「アマタ」
  無線機を持って戻ってくる。
  「ありがとう。彼を、アンソニーをしばらくここに置いてあげて」
  「宿があるわ。一番大きい建物、そう、あそこよ。お客さん第一号だから歓迎してくれると思う」
  「そうですか。では、これで」
  
アンソニーは宿の方に歩いて行った。
  無線機を使う。

  <要塞>

  「2035986」
  認識番号を言う。
  言ってからふと思う、今の私はスター・パラディンなのか、それとも大統領になるのか?
  通信相手も少し黙っている。
  番号は合ってる。
  どう呼べばいいか戸惑っているのかもしれない。

  <照合しました。どのようなご用でしょう、閣下>

  上手い言い方だ。
  閣下ならどちらでも通じる。スター・パラディンは名誉職の意味合いが強いとはいえ、一応はエルダー・リオンズに次ぐ地位だ。
  「ボルト108について聞きたいんだけど。部隊は派遣したわよね?」
  クローン生産の施設がある。
  その絡みで連絡した。

  <それが、その、未だに派遣はしておりません。エンクレイブのベルチバードか領域にちょっかいを出して来ています。北部以外にも>

  「ふぅん」
  再度侵攻の為にちょっかい出して来てるのか。
  こちらの対応を見る為であり、対応されることによって無駄足を踏ませたいのか。ちょっかいの域は出ないだろうけど、ボルト108に部隊投入できるほどの余裕はなさそうだ。
  ちぇっ。
  BOSに排除して貰えば楽が出来ると思ったんだが。
  「エルダー・リオンズに伝えて。ボルト108で妙なローンが発生してるって。私が処理する、でもクローン製造の為の機械が駄目になるかもしれないって言っといて。あれはない方がいいのかもしれない」

  <分かりました。閣下の決定はエルダー以外は覆らないこととなりました。おそらく、それで決定のはずです>

  「分かった。通信終了」
  エルダー以外は覆らない、ね。
  責任重大だけどこれで私の行動を止める者はいなくなった。クローンはない方がいい、少なくともボルト108から動かす手がないわけだし、あれを護るためにBOSが駐留するだけの余裕がないのも
  確かだ。エンクレイブがあれを抑えたら、いや、そうでなくても厄介が舞い込んでいるんだ。無から軍隊を作り出されても困る。
  破壊する。
  ボルト108ごと。
  「主、いかがなさいますか?」
  「ちょっと待って」
  今度は無線をメガトンに繋げる。
  アカハナの伝言も行っているはずだけど念には念を入れよう。
  「市長」

  <ん? ミスティか。アカハナから話は来ているが、そのことか?>

  「そう。妙なのが出回っている可能性がある。可能なら、こちらに警備兵を数人回してほしいんだけど。万が一ってこともあるから」
  数がいたらさすがにさばききれなくなる。
  それは困る。

  <当然だ、既に手配している。水臭いことを言うな、我々は仲間じゃないか。じゃあな、急いで送る。通信終了>

  警備兵が来る。
  これで護りは完璧だ。
  「主、市長の気配りが嬉しいですね」
  「ええ。そうね。アマタ、これで護りは完璧になった。私とグリン・フィスは偽者退治に行ってくるわ。人手は……んー、どっかから都合する」
  「気を付けてね」
  「当然」
  PIPBOYは音声のやり取りは受信は出来ても、返せない。
  それはブッチのもそうだ。
  だけどメールのやり取りは出来る。
  トンネル・スネークとどこかで合流できたなら随分と心強いし、楽が出来る。
  さて。
  「行くわよ、グリン・フィス」
  「御意」