私は天使なんかじゃない






カーティス大佐





  余所者、来たる。






  キャピタル・ウェイストランド北部。
  銃弾が飛び交う。
  響く怒声。
  広大な塹壕が構築され、その塹壕に異質な巨体の存在がひしめいている。
  空には航空戦力。
  巨人たちは地上からミニガンやミサイルランチャーで応戦し、戦線は一進一退を繰り返していた。

  「チカヅケルナっ!」
  「ガハハっ! クラエーっ!」
  「ミライノタメニっ!」

  巨人たち、それはスーパーミュータント。
  全身を赤い斑で塗った存在。
  レッドアーミーと呼ばれる、ボルト87陥落後に編成された軍隊。
  航空戦力であるベルチバードを有し、圧倒的な火力を持つエンクレイブの部隊が展開していたもののレッドアーミーはそれに耐えていた。エンクレイブはエンクレイブでこちらに
  戦力を割けない理由がある。理由、それはエンクレイブの内乱。現在ここに展開しているのはオータム大佐指揮下の、衛星中継ステーションの兵力。
  クリスティーナ・エデン大統領指揮下のアダムス空軍基地の兵力の介入を警戒してのことだった。
  大規模投入すれば一気に全面対決になる可能性がある。
  それはオータムにとって避けたいことだった。



  北部に何があるのか。
  何故オータムエンクレイブは執拗に攻撃を繰り返すのか、それは誰も把握出来ていない。クリスティーナエンクレイブも、BOSも、交戦中である当のレッドアーミー自体も。
  北にあるもの。
  それは3基の巨大なアンテナ基地。
  衛星通信アレイNN-03d、NW-07c、NW-05aの3基。
  レッドアーミーの本拠地であるがエンクレイブにとってそのことはどうでもいい、そもそも興味すらない。
  交戦に至る理由、それは場所だった。
  拠点としている場所を欲している、それが理由。



  3基あるアンテナ基地の1つ。
  衛星通信アレイNW-05a。その一室。
  「失礼します」
  「何か?」
  そこはグール化したDr.アンナ・ホルトの私室。
  研究資料の束や機器が置かれているが当の博士は何もせず、ただ本を読んでいるだけだった。呼んでいる本はニコラ・テスラとあなた。
  彼女の日常はいつもこれだった。
  レイブン・ロックでグール化して以来、ミスティに対して逆恨みをしつつも、レッドアーミーに身を寄せてからはいつもこうだった。
  「博士、お話が」
  面会を求めてきたのは人間の男性。
  スーパーミュータントではない。
  黒い独特なコンバットアーマーを着た傭兵、タロン社の傭兵。ジェファーソン決戦の際に温存して部隊を撤退させた指揮官の1人であるリック少佐。事実上タロン社が壊滅してからは残存部隊は
  それぞれ勝手気ままに動いている。ある部隊は暴れ、ある部隊は警備会社に鞍替えし、ある部隊はタロン社の名を掲げたまま傭兵を続けている。
  少佐の部隊はタロン社時代のまま、傭兵家業を続けている集団。
  現在は彼女に雇われている。
  「話? 何?」
  「研究は進んでいますか?」
  「研究」
  彼女がここにいる意味。
  スーパーミュータントを従えれる意味。
  それは研究だった。
  それを条件に彼女はここに住まい、一室を与えられ、辺境であることを考えたら何不自由もないレベルの生活をしている。
  だが実際には何もしていなかった。
  「さあ、どうでしょう」
  「……」
  「それがとうしたの?」
  「されて、いないのですね?」
  「かもね」
  アンナ・ホルトがここにいる理由。
  FEVを使ってスーパーミュータントの軍団を再編すること。その為に危険を冒してまでシークレットボルトに貯蔵されていたFEVを入手した。
  だが実際には何もしていなかった。
  「大佐に言うのかしら?」
  「まさか。あんな化け物」
  「でしょうね」
  「博士、あくまで我々はあんたに雇われている。大佐に従う理由はない。だが、連中に空手形を取り続ければ我々の身も危うくなる。だからどうするつもりかぐらいは教えて欲しいんだよ。それが
  分かれば化け物どもが掌返しで攻撃してきても逃げ出す算段が出来る、何も知らなければ無駄死にするだけだ。それは困るんだよ」
  「安心して。万が一にも逃げ出すときは、私1人ではどうも出来ない。全員で逃げましょう」
  「……ああ、そうだな」
  金払いはいい、今のところ不穏ではあるが危険ではない、少佐はあくまで彼女を雇い人としか見ていない。
  傭兵としてそれは間違っていない。
  少し考え、ぎりぎりまでキャップを絞りとることで自身を納得させた。
  沈黙が続く。

  「博士、カーティス大佐がお呼びです」

  扉の向こうから声。
  滑舌は良いし発音も間違っていないがその声は人間ではない、声質が人間のそれではなかった。
  見なくても分かる。
  声の主はジェネラル種。ボルト87で少数生産されていたタイプの生き残り。ボルト87壊滅時に覚醒し、脱走したわずかな生き残り。かつてはカルバート教授が遠隔操作し、スーパーミュータント軍の
  最高司令官として君臨していたものの、現在は部隊長としての地位に過ぎない。もっとも遠隔操作していないときの知能はスーパーミュータントより少し勝る程度に過ぎず、司令官の器ではない。
  「すぐ行く。リック少佐、それではまた」
  「はい、博士」



  衛星通信アレイNW-05a。最上階。
  そこは真っ暗だった。
  だが、いる。
  暗黒の闇の中から存在感が放たれていた。
  「大佐、来たわ」
  「……ああ、よく来た……」
  闇から囁くような声。
  アンナ・ホルト博士は若干身震いをした。真っ暗な部屋、不気味な声、あまり慣れるものではない。
  「呼んで置きながら明かりも付けないとはね」
  「外では同胞が戦っている。闇に身を沈め、耳を澄まし、彼らの魂の叫びに心を震わせているのだ」
  「何か用?」
  「用、左様。研究のことだ」
  「何か不明な点が?」
  「充分なFEVを確保した、必要な人体も集めている。戦線維持の為に必要な戦力をそちらに回してまで。……ああ、丁度いい。別件だ。エンクレイブは何故ここまで執拗なのだ?」
  「私が知るわけもない」
  「だが古巣だ」
  「連中はグールを嫌う、ミュータントも。在籍できるわけがない。分かるでしょう?」
  「ああ。分かる」
  大佐は即答した。
  そう、彼は知っている。エンクレイブのことも、BOSのことも、もっと昔のことも。
  100年以上前、かつて西海岸にザ・マスターと呼ばれる存在がいた。
  その者、スーパーミュータント軍団の創設者。
  ザ・マスターや主力の軍団はボルト13の男性とBOSによって倒されたもののその後も残党は各地で抵抗を続けていた。東海岸のスーパーミュータントはそもそもの成り立ちが違うので繋がりは
  ないもののカーティス大佐は東に転進、残党軍を率いて現在は教授亡き後のキャピタルのスーパーミュータント軍を併呑しつつある。
  「エンクレイブのことは私に聞かれても知らない」
  「ああ」
  「そもそもここを拠点に定めたのは大佐、あなたよ」
  「ああ」
  「だったら私に聞くのはお門違いだわ」
  「失言だった。すまない」
  そもそもの繋がりは特にない。
  お互いにたまたま出会い、たまたま利用できる間柄になったというだけだ。もっとも博士はそれを故意に反故にしていたが。
  辛抱強そうに大佐は続ける。
  「さて、話を元に戻そうか」
  「……」
  「必要な物は手に入ったはずだ。何故未だにスーパーミュータントの1体も出来上がらない? 製造ラインはどうなった? 手が足りない、なのでその足りない中から野良の連中を洗脳する為に
  戦力を各地に出している。レッドアーミーに組み込んでいる。ジェネラルの支配の能力を使ってな。だが人間も馬鹿でも雑魚でもない、抵抗されこちらの数も減る。どういうことだ、博士?」
  「……」
  「答えたまえ博士、何故何もしない?」
  当然大佐の姿を彼女は知っている。
  常時暗闇での会合ではないし、最初の出会いは夕暮れ時とはいえ姿を捉えることが出来た。
  カーティス大佐の強さまでは知らない。
  知らないが、その気になれば彼女などタロン社残党ごと単身で潰せるだけの力があることは理解していた。
  最初からスーパーミュータントを作るつもりはない。
  だが、それは口が裂けても言えない。
  作る技術もないことも。
  彼女には彼女の目的があり、復讐があり、その為にカーティス大佐を利用している過ぎない。
  「キャピタルの人間では無理よ」
  「どういうことかな?」
  「連中はFEVや放射能によってかなり変異している人類。さらにFEVを投与してもスーパーミュータントにはなり辛い。確率の問題よ、貰った人体では適していなかった。結果、ただ死んだだけ」
  「つまり君は役立たずということだな」
  「違う、違うわ。カーティス大佐、汚染されていない人類を使えばいいのよ」
  「当てがあると?」
  「あるわ」
  「どこだ」
  「ボルト101、純血の人類最後の砦よ」
  「実に素晴らしい」
  クククと上機嫌に彼は笑った。
  博士は怪訝な顔をする。
  「何がおかしいの?」
  「昔同じようなことを将軍の命令でやった事がある、それが懐かしかった」





  GNRの放送。
  『リスナーの諸君、朗報だっ!』
  『スプリンクベールって街を知っているか? 知らないって? 遅れてるぜ? ……俺も知らなかったけどなっ!』
  『メガトンの近くに出来たボルト101出身者たちの街なんだが、そこではすごい取り組みが成されているらしい』
  『グロナック・バーバリアンって漫画が連載再開されたって話だ。しかもキャラバン隊に販売を委託するらしいぜ? しかもだ、街に直接行けば一足先に購入できる。ボルトの人間は商売上手だぜっ!』
  『聞いてくれて感謝するぜ。俺はスリードッグ、いやっほぉーっ! こちらはキャピタル・ウェイストランド解放放送だ。どんな辛い真実でも君にお伝えするぜ?』
  『さて、ここからは現場のスティッキーな任せるとしよう』
  『俺はどうするかって?』
  『人気DJの特権で手に入れたミスティ著のサバイバルガイドブック読んだりグロナックの最新刊でティータイムって寸法さっ!』





  「お出掛けお出掛けっと」
  私はメガトンの自宅でいそいそと準備中。
  今日はスプリングベールのアマタからお茶に誘われてる。
  お洒落しなきゃ☆
  ……。
  ……というわけにはいきません。何気に事態はエンクレイブ再襲来間近っ!だし私は不運の星の元に生まれているので完全装備です。まあ、普通に廃墟の時代なんだ、再建しつつあるけどまだ
  レイダーは蔓延っている。警備隊の隙を突いて街道に現れたりするし外出する際に武装し過ぎるということはない。
  オラクルは遊びに行ってる。
  友達が出来たようだ。
  よかったよかった。
  鍵に関しては不明。未だにどこの鍵なのか、何の鍵なのか分からない。ザ・ブレインの予測だと海軍のロッカーの鍵らしいけど……信憑性としてはどうだろ。
  なので市長に相談、鍵を複製してもらうことにした。
  市長が選んだ信用できる人間、まあ、大半はレギュレーターなんだけど、その人らに複製を渡して鍵穴見つけたらとりあえずさしてもらう形にした。
  いつかは当たりに行き当たるだろ。
  たぶん。
  効率は悪いかもしれないけど当のオラクルが何の鍵か知らないので人海戦術で手当たり次第で何とかするしかないわけです。
  よし、準備完了。
  さっきはラジオでスティッキーがスプリングベールにいるようなこと言ってたな、タイミングが合えば会えるかもしれない。
  扉に向かう。
  さあ、今日はオフを楽しもうっ!

  ガチャ。
  「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

  バタンと速攻で扉を閉じた。
  小汚い恰好をした肥満の大男が開いた扉に向かって突進してきたからだ、大振りのナイフを手にして。
  閉めたと同時に扉にぶつかる音。
  しばらくするとまた音が響く。
  振動も。
  体当たりしてるのか。
  タイミングを読み、私は扉を開けた。後ろに下がり突進しようとしていた大男。

  ドン。

  頭がまるでザクロのよう。
  転がる死体。
  過剰防衛?
  いえいえ、正当防衛でしょうよ。
  何なんだ、まったく。

  「平気っ!」

  駆けてくる人物。
  モニカ。
  レギュレーターの女性だ。よくアッシュとペアを組んでいる。ここ最近ずっとメガトンにいるけど、メガトンに駐留するようにソノラに言われてるのかな?
  銃声を聞きつけて保安官助手や警備兵、野次馬も寄ってくる。
  あー、またか。
  この間の夜も夜這いされたしなぁ。
  ガルシアだ。
  あいつが鍵のことを悪党どもに喋ったからだ、そもそも鍵を最初から狙っているオラクルの親の仇って、誰なんだろう。
  ジェリコか?
  ありえる話だ。
  「モニカ、悪いけど、処理頼める?」
  「構わないわ。お手柄だし」
  「お手柄?」
  ナイフを手に取り、私に手渡す。
  大振りのナイフ。
  こんな物に刺されたら確実に死にます。
  「ブッチャー、この男の名前よ。通称なのか本名なのかは知らないけど」
  「ブッチャー?」
  「殺し屋。うちの……」
  「ブラックリストにも載ってる超悪党」
  「正解」
  「はあ」
  何でこうも面倒ばかり私に寄って来るんだろ。
  嫌だなぁ。
  「このナイフはどうするの?」
  「あげる」
  「……」
  いらんし。
  護身用にナイフは持ってるけどこんな大きいのを使いこなせるほどナイフの技術があるわけではないし。いや、そもそも私はただのボルト101の住人だし、害虫処理の仕事をしてたけども。
  今じゃ立派な人類規格外。
  嫌だなぁ。
  「じゃあ、後はよろしく」
  「任せて」
  処理を頼んで私は歩き出す。
  何かテンション下がった。
  このナイフはどうしよう、そうだ、モイラにでも売るか。足をクレーターサイド雑貨店に向ける。
  二束三文だろうけど、まあ、いい。
  モイラの顔も見たいし。
  「あらミスティ」
  見知った人と道で会う。
  友達だ。
  「ルーシー、元気?」
  「お蔭様で。ねぇ、この間暴漢が入ったんだって? 大丈夫たったの?」
  「……ついさっきまた襲われたでござる……」
  「そ、そう」
  何なんだこの受難体質。
  うー。
  「今からランプランタン行かない? たまにはお店帰るのもいいわよ、一緒に昼食食べようよ」
  「ごめん。モイラのとこ寄ってからスプリングベール行くんだ」
  「そっか。じゃあ、またね」
  「うん、またね」
  別れる。
  外に出てから友達増えたなぁ。
  たくさん増えた。
  そんなことを考えながら私はモイラの店に到着。扉を開けようとすると……。
  「……」
  視線を感じる。
  後ろから。
  振り返ると遠くからこちらを見ている子がいる、ハーマンだ。近くにグリン・フィスでもいるのか?
  周囲を見てみるもいない。
  「あれ?」
  気が付くとハーマンがいなかった。
  見間違い?
  かもしれない。
  気を取り直して扉を開ける。
  「クレーターサイド雑貨店にようこそっ! あらミスティ」
  「ハイ」
  珍しく店主がお出迎え。
  傭兵は私に黙礼してくれたので私も会釈。ザ・ブレインはいない、倉庫かな?
  「印刷機の調子はどう?」
  「最高よミスティ、サバイバルガイドブック増刷に次ぐ増刷よっ!」
  「景気良さそうね」
  「景気? ああ、違う違う。あれはただなのよ」
  「はっ?」
  「前に言わなかったっけ? サバイバルガイドブックは強欲な商人より役に立つって。私は、あれを配ってるの。共同体のオフロディテさんに配送の差配して貰ったのよ」
  「へー」
  知的好奇心は高いけど、物欲は大してないらしい。
  「ザ・ブレインは印刷してるわ」
  「ああ」
  それでいないのか。
  なるほど。
  「そういえばあなたの王子様、ここに来てたわよ」
  「オラクルが?」
  「そう。ナイフは幾らするんですかって」
  「ナイフ? 何で?」
  「ミスティを護るんですって。値段言ったら、一度帰りますって。あの子可愛いし良い子だから市長がこの間お小遣いあげてたわよ」
  「へー」
  そうなのか。
  というか私もあげなきゃダメか。
  一度家に戻ると言っていた、か。入れ違いだったようだ。
  そうだ。
  「オラクル来たらこれを渡して」
  「凄い業物ね。どうしたの?」
  「拾い物」
  「ふぅん。じゃあ、無料でこれを進呈してあげた方がいいかしら。もちろんミスティのことは言わないでおくわ。王子様の気持ちを台無しにしちゃうし」
  「よろしく」
  これで用件終了。
  何だかんだでブラックリストの敵を倒したし結果オーライ……でもないか……。
  さて。
  スプリングベールに行くとするか。



  スプリングベール。
  ボルト101の脱出組はここに街を作った。人数は30人。
  私は出来るだけの助力をした。
  水をBOSやメガトンに手配したり、食料をレギュレーターから譲渡(レイダー前線基地の鹵獲物資)してもらしたり、ハミルトンの隠れ家で生活物資や武器を確保したり、やれることをやりました。
  衣服に関してはここにあった古着を着てる。
  ボルトスーツの人はもういない。
  正確には、その上に何か羽織ってるだけの人はいるけど、ボルトスーツ単体の人はもういない。
  街は頑丈な廃材で覆った。
  腰のあたりまで。
  廃材だから見栄えは悪いけど材料を集める手間をとりあえずは省いた。
  敵性生物はいつでもウエルカム状態だからだ。
  なのでとりあえず防御を備えたってわけ。
  まあ、この辺りの生物はモールラット程度で大して強くないけど。
  レイダーとかはアカハナ率いるピット組の半分がここに駐留してる、精鋭のパワーアーマー部隊だ。レイダー程度は敵じゃない。ちなみに残り半分はメガトン。
  まあ、街はそんな感じ。
  「ワリー帰ってきたわ」
  「へー」
  スプリングベールにあるアマタの家。
  建物は基本的に元々あった物を流用しています。
  ワリー、ね。
  どうでもいいことですが。
  「オカマだったでしょ?」
  「オカマ、いえ、普通だった」
  「へー」
  男性ホルモン復活したからか?
  まあ、別にいいですが。
  アマタの家でゆっくりゆったりとお茶会。
  これですよ、これ。
  こういう生活が私を癒してくれる。
  キャピタルに出てきてから友達が増えたけど、何というか、アマタが一番好きというのは、何でだろうかねぇ。
  「そうだ、良いもの見せてあげる」
  「なになに?」
  アマタは戸棚から何かを取り出し、テーブルの上に置いた。
  銃だ。
  それもレーザー銃の類。
  デザインは多少古臭いけど、どこで手に入れたんだろ。
  「凄いでしょ」
  アマタはレーザー系が出回っているのを知らないようだ。
  それを言うつもりはないけど。
  「ミスティ、それプラズマ系の銃なのよ」
  「マジかっ!」
  それは凄い。
  まともに運用しているのは今のところエンクレイブぐらいしかいない。前にハークネスがピットで使ったのは、あれはエンクレイブのモノだったのかな、あの時から裏切って……いや、やめよう。
  「買ったの?」
  「この街にあったわ。廃棄の中にダッフルバックがあって、その中にあった」
  「へー。私ボルト101を出て最初の夜はここで寝泊まりしたのよ。そんな物があったのか、惜しいことした。それいいなぁ、原子破壊光線銃」
  「……? それが正式名なの? ミスティこれ知ってるの?」
  「あれー」
  どこかで見たんだ、あれ。
  どこで?
  ああ、宇宙船の夢か。
  これを持って冒険したらチートだー、見たいな感じでダッフルバックに入れて降りてきたような。そういえばダッフルバック、あの時の寝床にした廃墟にあった。
  えっ、夢はマジだったのか?
  うーん。
  「ミスティ?」
  「ううん。何でもない。教科書作りはどうなってるの?」
  「どんな内容にするか選定中」
  「そっか」
  ここはキャピタルの教育の発祥の地となる。
  印刷機はどこに置いても印刷機だけど、その印刷機を教養がある人たちの場所に置けば、その意思があれば、教科書という産物を生み出すのだ。何だかんだで生気に教育を受けているのは
  ボルト101の住人ぐらいだし。BOSも教養人だけど、たぶん教養の方向性が違う。向こうはあくまで軍人であり、科学者だからだ。
  子供を育て、一般教育、常識を育てるのはボルト101の方が勝っている。
  私はそう思う。
  「ねぇミスティ」
  「ん?」
  「外で暮らすことになるなんて、考えてもみなかったわ。ずっとボルトは絶対だと思ってた、そこで生まれて死んでいくのだとばかり」
  「人生は驚きの連続ね」
  本当にそう思う。
  ラッド・ローチ駆除担当の私が今では赤毛の冒険者と呼ばれるほどの有名人だ。
  ……。
  ……あー、ついでに赤毛の大統領っすね。
  あれってエンクレイブを押し返すまでの展開でしょうね?
  その後も継続して、本気で大統領として担ぐつもりなら勘弁してほしいものです。
  「ここでの暮らしはどう?」
  「皆一生懸命よ。慣れない労働とかで筋肉痛が酷かったりするけど、ミスティやメガトン共同体の人たちが助けてくれるからやってけてる。オフロディテさんも視察に何度も来てくれるし」
  「ふぅん」
  最近市長に雇われた女性の名前だ。
  よくは知らない。
  一度会っただけだし。
  「スティッキーはいつ帰ったの?」
  「スティッキー?」
  「あー、取材に来た人」
  「ああ。あなたが来る少し前に帰ったわ」
  「ふぅん」
  入れ違いだったのか。
  彼の移動手段はヘリだから一度入れ違うとまず会えない。まあ、特に用はなかったけれども。
  「それで、スージー先生の執筆具合はいかが?」
  「絶好調らしいわ。彼女の印税で私たちが暮らしてもいいのよね?」
  「何それ」
  「あははははは」
  楽しい楽しい、親友との一時。
  私は久し振りの親友との時間を楽しんだ。
  お茶を終え、辞去したのは1時間後。
  アマタの家を出るとグリン・フィスが目に飛び込んできた。
  「グリン・フィス?」
  アカハナと喋り込んでいる。
  彼に用があってここに来たのだろうか?
  見送りに出てくれたアマタは悪戯っぽく笑った。
  「彼氏が来たみたいね」
  「ちょ」
  「彼氏だとばかり思ってた。違うの?」
  「うー」
  どうなんだろ。
  考えたこともなかった。
  「またね、アマタ」
  「ええ。お互い落ち着いたらまた遊んだりしましょうね」
  「うん」
  バイバイする。
  丁度アカハナも話を終えたのかグリン・フィスから離れて行った。グリン・フィスがこちらを見る。
  「主」
  「グリン・フィス、どうしてここにいるの?」
  「アカハナに用があってここに来たのですが」
  「ああ。ストーカーかと思った」
  「それもありますが」
  「あるのかよ」
  「ユーモアです」
  「どーたか」
  「彼はどうなのですか?」
  「彼」
  指差す方を見る。
  そこにはボルトスーツを着た、PIPBOYをした男性がいた。だけど私はそれがボルトの人間ではないことは分かってる、もちろんここの住人も。完全な余所者、いや、ボルトマニアになるのか?
  PIPBOYを欲しがってたのもその為なのかも。
  アンソニーだ。
  人を集めてレクチャーしてる。

  「初めちょろちょろ、なかパッパっと。そして必殺、熾火蒸らしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「おおっ!」
  グリン・フィスが身構える。
  しかし何も来ない。
  こいつ何かの必殺技だと思ってるのか?
  まあ、アンソニーも妙にテンション高いけれども。
  お米炊いているだけじゃん、あれ。
  そういえばあの人は料理人だったな、つい最近まで胡散臭い&影薄い人だったし忘れてたぜ。テヘペロ
  さて。
  「帰るか」
  「よろしいので?」
  「うん。もう用件済ましたし。グリン・フィスも帰ろ?」
  「御意。お供します」
  アマタとのお茶会も済ましたしメガトンに帰るとしよう。
  その時視線に気付いた。
  誰か見てる。
  アンソニー?
  彼は料理のレクチャーに忙しそうでこちらに気付いていない。
  どこだ?
  「主、あそこです」
  さすがはグリン・フィス、把握するのが早い。
  ワリーがこちら見ていた。
  「はあ」
  ため息。
  何だ、あの察してくださいの瞳は。
  関わらんと駄目か?
  やれやれ。
  「主」
  「何?」
  「うざいのであれば自分があの者を始末いたしますが」
  「やめろーっ!」
  「御意」
  まったく。
  これじゃあ邪険にしたらワリーが死ぬパターンじゃないか。
  仕方ない。
  「ワリー、何か用?」
  「……」
  PIPBOYをしていないことに気付く。
  ボルト108ではしてたけど。
  彼は古着を着ている。
  「悪いけど暇ではないわけよ。用がないなら、帰るけど?」
  「お、俺は……」
  「ん?」
  「ウォーリー・マック、だよな?」
  「はあ?」
  何言ってんだ、こいつ?