私は天使なんかじゃない






熱狂的なファン






  需要と供給。





  「あれか。確かに数がいるわね」
  「御意」
  メイソン地区。
  要塞南西にある場所なんだけど徒歩で来たのは初めて。というのも道路がビルの残骸で塞がれている為、メトロを経由して、つまり地下を通らなければ来れない場所。
  前回はベルチバードで来た。
  L.O.Bエンタープライズ絡みの一件でね。
  私、グリン・フィス、スージーはメイソン地区にある広場の見える場所で様子を伺う。
  何故?
  広場にスーパーミュータントが集結しているからだ。

  「では我々はこれで」

  「どうも」
  全身フル武装しているメトロの住人に感謝して別れる。
  どういうことかって?
  メトロを移動している間に遭遇して、道案内して貰った次第です。どうも以前メトロの本拠地で啖呵を切った時にいた2人組だったらしく、向こうから私を発見、接触してきた。
  案内がなければ移動にもう少し掛かっただろう。
  さっすが私の人望っ!
  ただ、あの人らはマックス?マキシー?という人ではない模様。
  見分けろって?
  無理っす。
  声もフルフェイスのヘルメットの所為でくぐもってるし、そもそも男女の違いすら分からない声だ。体型だってあのアーマーで分からないし。
  さて。
  「主、どうしますか?」
  「蹴散らす」
  「ねぇ、私はどうしたらいい?」
  「大体なんでスージーも来るのよ」
  ボルトスーツの上にセキュリティアーマーを着込んでいる。市長からの提案の後、彼女は一度スプリングベールに戻って武装してきたわけで。
  10oサブマシンガンを手にしているけど戦力的には宛にしてない。
  肩からはカバンを掛けている。
  「ミスティ今更お説教?」
  「まあ、そうだけど」
  「何かお絵描きグッズがあるかぁって」
  「そうっすか」
  こっちの戦力は3人。
  当然ながら私とグリン・フィスは完全武装。今回はオラクルは置いてきた。メガトンにいれば安全だろ、今回は鍵絡みのお出掛けじゃないし、出掛けない方が安全だ。
  なおアマタはアカハナの護衛でスプリングベールに帰りました。
  「結構いるわね」
  「御意」
  何だってこんなところにスパミュが陣取っているのだろう。
  謎だ。
  数は12、いや、14か。
  野営しているのかドラム缶が無数に置かれ、そのドラム缶からは炎が燃えている。広場のど真ん中には木箱が幾つか集積されている。
  弾薬、いやグレネードボックスか。どうぞ吹き飛ばしてくださいってことか。
  どいつもこいつもアサルトライフルかハンティングライフル装備。
  そして体は普通に緑色。
  斑な赤ではない。
  レッドアーミーではないってことだ。
  まあ、別にレッドアーミーでも問題ないけど。特に対処法が変わるわけではない。
  「グリン・フィス」
  「はっ」
  「あそこ見て」
  30メートル先に廃墟の建物がある、その2階の部分は攻撃に適している。
  「私があそこに移動するから、攻撃を開始したらお願い」
  「御意」
  「私は?」
  「スージーはここにいて。動かないで」
  「ちぇっ」
  「行動開始」
  私は移動を始める。
  能力を駆使すればスパミュを相手にするのなんて簡単だけど、今回はスージーがいる。恐れを知らない重戦車みたいな連中だ、万が一ラッシュされたら、私とグリン・フィスは
  戦い慣れてるしどうとでも身のかわしようがあるけどスージーの身が危ない。
  物陰から物陰に隠れながら走る。
  PIPBOYを起動、索敵モード。
  近くにはいない。
  どうやら広場にいるのが全部のようだ。
  もちろん油断はしないけど。
  廃墟に入る。
  コンクリート製の建物で、時間と戦争によって劣化しているものの崩れそうには思えない。階段を発見、駆け上る。そして狙撃に適している一室に入る。
  慎重に窓際に移動。
  「ん?」
  おやおや。
  骸骨がある、これをどうぞ使ってくださいとばかりにスナイパーライフルまで丁寧に置いてある。
  使わないけど。
  スパミュは、うん、まるで気付いていないようだ。
  にしても何だってこんなところで群れてるんだろ。もしかしたらボルト87が壊滅したことを知らない世間知らずどもで、この陣地を護り続けているだけなのか?
  まあいい。
  照準を付ける。
  「食らえ」
  グレネードランチャー発射。
  ポンっと間の抜けた音を立てながら飛んで行く。
  数秒後。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発。
  直撃を受けたスパミュが1体吹き飛び、その両隣りにいた奴らは蹲る。2体は倒してはないな、倒したのは1体だけだ。
  距離離れてるから照準の微調整が難しいな。
  別にスパミュを狙ったわけではない。
  私が狙ったのは弾薬の木箱だ。
  再装填。
  もう一度撃つ。
  またスパミュを吹き飛ばしただけだ。別にいいか。連中は完全に動揺し、てんでバラバラに撃ち始める。
  ジェネラル種がいなければこんなものか。
  統率がまるでない。
  グリン・フィスが一直線に走る姿が見える。
  ショックソードを手に。
  スパミュはそれに気付きグリン・フィスに狙いを定めるものの銃弾は全て斬り落としつつ接近する。私も援護、スージーも……うん、当たってないけど、援護。
  スパミュ排除完了っ!



  広場を一掃して私たちはハブリス・コミック社に入る。
  中もスパミュ地獄か、とも思ったけど……。
  「いない?」
  そうでもないらしい。
  エントランスを抜けて内部を歩く。
  何もない。
  何もない。
  何もない。
  んー、部屋を回ってみるものの特に何もないなぁ。
  グロッグナック・バーバリアンの最新刊はどこだ?
  こんなことならとれはージャーハンターもどきの詐欺師とやらを伴って来るんだったな。
  「わー☆」
  部屋を出ようするとスージーは何か騒いでいる。
  「どうしたの?」
  「原稿用紙がこんなにっ!」
  「ああ」
  暇さえあれば何か描いてるもんなぁ。
  彼女にしたらお宝の山なのだ。
  掻き集めてはカバンに入れている。大漁らしい。
  よかったですね。
  だけど今はそういう場合でもない。。
  「スージー、持って帰るのは別にいいんだけど、あんまり勝手な行動しないでよ。はぐれると厄介。何もいないっていう確証はないんだから」
  「分かってる」
  「グリン・フィス、一応目を離さないでおいて」
  「御意」
  頷く彼。
  だが視線はこちらを向いていない、あらぬ方を向いている。
  「どうしたの?」
  「何かいます」
  「何か」
  「もしくは誰か、なのかもしれませんが」
  「スージー、後で回収するからとりあえず銃を構えて」
  「分かった」
  本当に分かっているのか?
  ただ、スージーはアマタより根性が据わってる。わりと図太い。テンペニータワーでもそうだったし。
  耳を澄ます。
  「足音」
  確かに誰かいる。
  足音がする。
  武器を構えて廊下に飛び出る。わざと足音を立てて。こんなところをステルスで動くよりは相手に見つけて貰った方がいい。見つけるよりも見つかる方が簡単だ。
  誰かの足音は一旦止まり、そして遠ざかる。
  ただの居住者か?
  その場合は謝ろう。
  所有権は誰にもないのだ、強いて言うのであれば先に住み着いた方に所有権がある。とはいえいきなり攻撃されたら反撃するけど。
  侵入したから攻撃してきた?
  とりあえず反撃します。
  もっとも、問答無用に反撃はしないで言葉は交わすけどさ。
  「グリン・フィス、行くわよ」
  「御意」
  走る。
  曲がり角に行き付く。
  私は止まり、仲間たちも止まる。慎重に進む。曲がり角で一度止まってそぉーっと顔を出し、それから武器を手に一気に躍り出た。
  「……」
  誰もいない。
  索敵にも引っ掛からない。PIPBOYの索敵機能はごくわずかな距離しかカバーしないものの、とりあえずはいないらしい。
  手で仲間たちに合図。

  パコーン。

  良い音が響く。
  私は頭を抑えながらひっくり返った。
  いったーっ!
  転がっているのは硬式ボール。一瞬お花畑が見えた。額を抑えると若干血が出てる。
  「主っ!」
  「大丈……」

  パコーン。

  立ち上がり、後ろを向いた途端に後頭部に。
  慌てて逃げる。
  「くっそー」
  曲がり角に隠れてやり過ごす。
  連続して硬式ボールが飛んでくる、隠れているから当たらないけど。そぉーっと顔を出してみる、通路の向こうは完全に闇。にも拘らずほぼ寸分違わず飛んでくるんだからピッチングマシーンか?
  誰だか知らないけどふざけたことを。
  アサルトライフルを手に飛び出し、通路向こうの闇に向かって連射。

  バリバリバリ。

  銃声が響き渡る。
  ボールが飛んでこないことを確認。ゆっくりと私1人で通路を進む。壊れたピッチングマシーンを発見。
  「大丈夫よ」
  「御意」
  「はーい」
  仲間を呼び寄せる。
  ふざたことをしてくれたものだ。
  額がひりひりする。
  くっそー。
  「主、大丈夫ですか?」
  「血が出るよ、ミスティ」
  「大丈夫よ、2人とも。さあ、行きましょう」
  「……扉」
  「ん? グリン・フィス?」
  「扉が開く音がしました。我々が来た方から」
  「えっ?」
  振り向く。
  何もいない。
  ただ、彼の言うことだからたぶん外れはない。
  スパミュか?
  「数は?」
  「数は複数、数十を超えています」
  「マジか」
  ここでは戦い辛い。
  ピッチングマシーン仕掛けてた謎の敵がいるんだ。こんな通路で挟み撃ちされたらまず負ける。
  「行くわよ」
  走り始める。
  「50を超える数が追跡してきます」
  「マジかーっ!」
  走る。
  走る。
  走る。
  ひたひたと確かに何かが追跡してくる。これはスパミュではないな、レイダーではない、というか人ではない。
  まさか……。

  『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!』

  やっぱりだ。
  フェラル・グールの大軍が通路に群れて追撃してくる。
  T字路になっていて、直進は通路、右は……階段だ。階段を駆け上る。階段に布陣して、駆け上ってくる敵を撃破する方が簡単そうだ。
  曲がる。
  その直後……。
  「ここは俺様、マッド・ジョニー・ウェスの城だーっ!」
  「マジかーっ!」
  変な男がいる、変なだけならいい、そいつはミニガンを構えていたっ!
  ミニガンが回転する。
  「Cronusっ!」
  アサルトライフル連射。
  能力解除、そして時間は動き出すっ!
  「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
  全身から血を吹き出して男は転げ落ちて行った。
  敵かって?
  そうは思わない。
  勝手に居住場所に入ってきたから攻撃してきたんだろうけど、かと言ってミニガンで蜂の巣にされるいわれはない。少なくともそのまま無条件で死んでやるつもりはないです。
  フェラルたちが階段に殺到してくる。
  ミニガンは親父ごと落下。
  ちっ、使えない。
  アサルトライフル連射、10oサブマシンガン連射。
  ただ突撃してくるだけのフェラルたちは情け容赦ない弾丸に崩れていく。が敵の数が減らない。倒しても倒しても殺到してくる。これが外なら、開けた場所なら負けてたな。あいにくここは
  屋内、階段、よほど油断しない限り背後に回られることもないしフェラルたちはその数で身動きが出来ないでいる。戦闘で死体になっているフェラルが邪魔で動けない。
  カチ。弾倉が尽きる。
  スージーも同じようなものだ。
  「後退」
  「御意」
  「はーい」
  後ろずさりで後退、弾倉を交換し踵を返して階段を駆け上る。
  どっから来たんだ、あれはっ!
  通路を走る。

  「何してるんだ、お前らはっ! さっさと進みなっ!」

  女の声?
  ああ、そうか、フェラル使いがいるのか。
  master系能力者。
  さっさと進みな、ね。
  完全に誰か狙いで来てるな。
  誰か。
  私か?
  私かもー。
  ……。
  ……あー、そういえば前にフェラルの移動を聞いたな。
  ブライト教の面々のことかと思ってた、グールとフェラルを見間違えたのだとばかり。
  なるほど。
  あの時の話題のフェラルはこいつらかな、たぶん。
  「主、どこまで?」
  「そこに入りましょう」
  「御意」
  開けっ放しの扉に入る。
  扉はここだけってわけではない。一目散にここに全て殺到するってことはないだろ。
  部屋の中には酒瓶が転がっている。
  床には寝床。
  武器の類は見当たらないな、単発銃はあるけど、今欲しいのはミニガンだ。さっきのがあればフェラルなんて怖くないんだが。
  要はここはさっきの親父の住処ってわけだ。
  あれは誰だったんだろ。
  謎だ。
  「スージー、扉を閉めて」
  「うん」
  カチャリと鍵も掛ける。
  大きめの窓がある。
  いざとなればここから逃げれるか、二階だけど。窓に近付き外を見てみる。
  「ん?」
  窓の外、若干足場がある。
  何だこれ?
  窓を開けて顔を出してみる。
  外窓沿いに面積は狭いものの足場が続いている。身を乗り出して左右見る。どちらにも続いている、これなら簡単にここから隣の部屋にも行けそうだ。
  ああ、これは何らかの災害時の避難経路か。いざとなれば使えるな。

  ガンガンガン。

  「くそ」
  来たか。
  いざという時がいきなり到来っすな。
  手当たり次第に扉を吹っ飛ばそうという腹なのか、匂いで追尾してくるのか、いずれにしても面倒臭いことこの上ない。
  「ミスティ、何なんのよ、これ」
  「私に聞かれても」
  「ですよねー」
  「……」
  ノリ軽いな、スージー。
  ともかく私も何が何だか分からない状況だけど乗り越える為には戦うしかないってのは分かってる。
  「窓から逃げましょう、足場がある」
  「御意」
  「先に行って、援護する」
  「分かりました。さっ、スージー殿」
  「はーい」
  緊張感持て、緊張感。
  窓から外に出る2人、私も身を乗り出そうとした瞬間、扉が破られ殺到してくるフェラル。マジかっ!
  危うく落ちそうになるもののセーフ。
  足場は狭い。
  とりあえず隣の部屋にでも……。

  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

  うわー。
  あいつら全速力で窓から身を投げてるよ、馬鹿だなー。
  完全に放射能で脳がイカレてんな。
  隣の部屋の窓に到着。
  中に敵はいない。
  窓を開けようとするスージーを制し、私はさらに進むように指示。私はここに留まり、2人が進んでからアサルトライフルの銃底で窓ガラスを割った。
  ガチャンという音を聞きつけて廊下から駆けつけるフェラルたちに、私はグレネード弾を叩き込む。
  「Cronus」
  時間停止。
  基本は攻撃のみで、その後すぐ時間を動かす。だけど普通に自分だけ動けてるんだから、移動だって出来る。そうすればどんな奴の眉間に弾丸を叩き込むことは容易ってわけだ。
  問題は、移動をし出すと頭がハンマーだ乱打されるような痛みを感じるということ。
  停止した時間で動くとこうなるらしい。
  嫌なペナルティ。
  テンペニータワーでしたけど、あまりしたくないですね。
  今は、まあ、してますけど。
  あのままグレネード弾が爆発したら私も爆発に巻き込まれて真っ逆さまだし。
  停止した時間を歩き、スージーたちに追いつく。
  つっ。
  もう、いいか。
  解除。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ

  「はあはあっ!」
  「ミスティ?」
  これでフェラルの数が消せた。
  「そこから、中に入りましょう」
  「主、お加減は……」
  「早く」
  「御意」
  再び屋内に。
  何度も能力を使ってくる偏頭痛とは比べ物にならないな、意識が飛びそうだ。今回に限りこれはもう任意で時間は留めれなさそうだ。
  あれ?
  今回の目的なんだっけ?
  「あー、私ら漫画探しに来たんだっけ」
  「ミスティ、しっかりしてよ」
  「何か疲れた」
  フェラルの群れは面倒臭い。
  連射系の武器があれば問題ないんだけど群れで来るからラッシュが面倒。
  漫画は後回しだ。
  これは完全に敵を一掃しないと探索なんて出来ないし無理。
  作戦変更。
  「敵を一掃させるわよ」
  「しかし」
  「ん?」
  「しかし主は能力を使い過ぎなのでは? 大丈夫ですか?」
  「フェラルをメインなら何とかなるかな」
  あいつら相手に能力はいらない。
  普通の兵隊がいても数が少なければ大丈夫だろ。任意は使えなくても、自動発動で銃弾に限り勝手にスローになるからさ。視界に入る限りは。
  廊下を進む。
  「あれ、ミスティ、何か光った……」
  「伏せてっ!」
  スージーを突き飛ばし、私は伏せる。グリン・フィスは勝手に伏せる。
  赤い火線が通り過ぎた。
  レーザーっ!
  アサルトライフルを連射。レーザーを撃ちながらこちらに飛来する物体を撃破。
  転がる残骸。
  エンクレイブアイボット?
  広報用の小型の球状ロボットだ。弱いけどレーザーを装備している。
  何でこれがこんなとこに?
  エンクレイブか?
  まさか。
  幾らなんでもフェラルを兵隊にはしてないだろ。

  「よくも俺のオートマタMk.4を……っ!」

  中華製アサルトライフルを持った、古臭い中国の軍服を着たグールが現れる。マシーナリーだ、ストレンジャーの。今は知らないけどジェリコの刺客の1人。
  右腕がない。
  この間ミスティックマグナムで撃ち抜いた部分は直らなかった模様。
  すいません。
  戦うのかと思えばそのまま逃げて行った。
  何だったんだ、あいつ。
  「Mk.4ねぇ」
  どんどんランクダウンしてるな。
  最初のは私は知らないけどブッチ曰く警戒ロボット、次はMr.ガッツィー、Mr.ハンディー、そして今回はアイポッド。いきなりランクダウンしたな、次はなんだろ。
  今のがフェラル使いか?
  違うな。
  もしそんな能力があるなら最初から使っているはずだ。
  となると仲間がいるのか。
  それか別個なのかもね。たまたまこの状況で、強襲して来たとも考えられる。
  まあいい。
  あいつはロボット失ったら逃げる傾向がある、次のオートマタを都合してくるまで出てこないだろ。というかさっさと始末しておくべきだった。
  足音が殺到してくる。
  ちっ。
  戦いの音に引きつけられたか。
  反対側の通路からも来る。
  挟撃。
  「グリン・フィス」
  「はっ」
  「片側は任せるわ」
  「御意」
  ショックソードを片手に彼は素早く行動開始。
  彼の間合いに入った者は生きてはいられない。フェラル程度なら勝てる道理などない。
  片側は彼に任す。
  もう片側は私らが受け持とう。
  「スージー、撃て撃て撃て」
  「撃つっ!」
  アサルトライフルと10oサブマシンガンのコラボ。
  この通路幅を考えれば相手は攻撃を回避など出来ない。まあ、元々回避するだけの脳は持ち合わせていないわけですが。貧弱な脳みそでは突撃しかできないわけです。
  数発耐えながら銃弾の中を向かってくるツワモノもいるけど、結局それだけだ。
  到達なんて出来ない。
  カチ。
  アサルトライフルの弾倉が尽きる。丁度スージーの弾倉も。
  一時的に弾幕が途切れる。
  スージーは弾倉交換を戸惑っている。
  フェラルは奇声をあげて突撃してくる。こりゃ到達するな。私はアサルトライフルを放り捨ててミスティックマグナムを2丁引き抜く。
  食らえーっ!

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。

  12連発っ!
  面白いようにフェラルの肉体を弾丸は貫通し、気付けばそこには死体の山。
  こりゃすごい。
  ここまで威力があるとはね。
  まあ、それもそうか。
  パワーアーマーですら貫通するんだ、こんな丸裸も同然なフェラルに防御力なんてあるはずがない。ここまで連発する必要もなかったな、これ。
  空の薬莢を捨てて新しい弾丸を装填、ホルスターに戻す。
  アサルトライフルを拾って弾倉交換。
  スージーも弾倉交換が終了してた。もう既に敵はいないけれども。
  若干生きてはいるけどピクピクとのたうつだけ。
  振り返る。
  グリン・フィスも全て斬り伏せた後だった。
  さすがですな。
  「とりあえずは完了ね」
  「御意」
  結構な数を潰した。
  フェラル使いはどこだろ。
  この中にいた?
  あー、そうかも。
  私はmaster系の能力じゃないからどの程度の距離までなら支配出来るのかが分からないけど、そんなに離れては支配出来ない気がする。いや憶測だけれども。
  さっきのフェラルの集団にフェラル使いが紛れててもおかしくない。
  その場合判別が出来ないな。
  転がっているのはフェラルばっか、そうなるとフェラル使いはグールってわけだ。死体の中から探すのが面倒そうだ。
  まあいい。
  死んでるだろ、これ。
  「そろそろ本を探しましょうか」
  グロナック・バーバリアン。
  私のお気に入りの漫画だ、最新刊があるといいな。
  個々の部屋を虱潰しに探す。
  そうこうしている内に編集室を発見。あるとしたらここだろうか?
  今までの部屋にも本が山積みであったけどお目当てのものはなかった。
  「探索開始」
  「御意」
  「はーい」
  ない。
  ない。
  ない。
  「……何これ?」
  デスクの上に無造作に置かれた本がある。
  表題に掛かれているタイトルから察するにニーチェの詩集なのだろうけど……いや、中身をパラパラと見ると漫画のようだ。
  ギャグものなのか?
  ニーチェって詩人よね、確か。
  表題は、だってニーチェだもん。ニーチェだもんって、やだ何その可愛い口調。
  ちょっと読んでみたいかも。持って帰ろうかな。他にもシリーズなのか、ソクラテスでごめん、木から落ちたサルトル、あそこがデカルト、があります。
  ……。
  ……あ、あそこが、デカルト?
  えろいやつ?
  えろいやつなのか?
  「主?」
  「な、何でもない」
  こいつに言ったら悪乗りしそうだからな。
  他に本はないかな?
  「スージー、他に何かある?」
  「キャプテン・コスモスものはあるよ」
  「おー」
  それは収穫ですな。
  だけどグロナック・バーバリアンはなさそうだ。というかないです。どこかに隠し金庫の類があって、そこに入っているー……の場合はお手上げだ。
  編集室を見る限りどこにもない。
  でも確かに表紙だけはある。
  そう考えたら最新刊は製本待ちだった、でも全面核戦争で失われてしまった、と考えるべきか。
  くっそー。
  「主」
  「ん?」
  「この建物には無数の本があります、帝都の本屋にも引けを取らないほどの本があります」
  「帝都が何だか分からないけど、まあ、たくさんあるわね。大半は焼け焦げたり劣化してて本ですらないけど。それがどうしたの?」
  「どうやって本にしているのですか?」
  「はっ?」
  何言いだしたんだ、彼。
  言いたいことが分からない。
  「どういうこと?」
  「いえ、よくこれだけ書けたなという疑問が生じただけです。シロディールでは写本のアルバイトがあり、それで製本し流通はしているのですが、ここでもそうなのですか?」
  「……その手があったか」
  「……?」
  「ナイス、グリン・フィス」
  「よく分かりませんが、ご褒美はチューしてくれたらいいですよ」
  「くたばれ」
  「ユ、ユーモアです」
  「ともかく、でかした」
  「御意」
  「ミスティ、どういうことなの?」
  「印刷機よ」
  そう。
  ここには印刷機がある。
  モイラも欲しいと言ってた、何故ならここでは印刷機なんて存在しないからだ。現存しているのがあれば都合が良い。複数あればモイラに上げよう、サバイバル・ガイドブックを
  印刷したいだろうし。だけど私が今考えているのはスプリングベールだ。ボルト組に渡したい。キャピタルでは教育が不足している。ボルトでは教育が成されている。
  教科書の類をボルト組が作り、それをキャピタルに普及させたら?
  これは画期的な産業だ。
  もちろん印刷機がなくても出来るといえば出来るけど、それを流通させるとなると途方もなく時間が掛かる。でも印刷機があれば教科書の量産は簡単だ。
  一台ぐらいは残ってるだろ、使えるやつが。
  目標変更。
  「印刷機を探しましょう」
  「御意」
  「はーい」
  探索再開。
  フェラルは殲滅完了したのか、静かなものだ。
  スパミュも中にはいない。
  あの謎の先住者の仲間も特にいなさそうだ。結局のところ、フェラル、スパミュ、おっさん、いずれも何だったんだ?
  説明ないままご退場ってね。
  たまにはそれでもいいだろ、後腐れなくて実に楽チンだ。
  ……。
  ……まあ、後で勝手に祟ってきそうではあるけれども。
  嫌だなぁ。
  そんなこんなで探索終了、稼働可能な印刷機が8台ほどあった。幾つかBOSにもあげようかな、端末間での資料ならともかく、紙面資料となると印刷機の類が欲しいだろうし。
  何だかんだでアメリカ建国宣言したし、紙面資料増刷の機会は増えただろ。
  印刷機は必需品です。
  さて。
  「共同体やらBOSに連絡して引き取ってもらいましょう。じゃあ、撤収。……はあ」
  「どうしたの、ミスティ?」
  「……最新刊……」
  「ああ、そっか、読みたいよね」
  「うん」
  「じゃあ、これ読ませてあげようかな」
  照れ臭そうにスージーはカバンから原稿用紙を取り出した。
  私に手渡す。
  何か書かれている。
  漫画?
  「最新刊っ!」
  「違う違う、私の自作だよー」
  「マジかっ!」
  絵柄は同じ、内容も悪くない、むしろ面白いっ!
  グロナックの最新刊と言っても誰も分からないぞ、これっ!
  それにしても似顔絵のタッチとはまた別物だ、まさかスージーは使い分けて書くことが出来るのか、だとしたらこの子天才ってやつじゃね?
  「主?」
  「表紙、確か編集室にあったわね」
  「はっ?」
  「新たな産業が出来たわ」
  大々的にスージーを漫画家として打ち出すのだ、スプリングベール発、キャピタル初の漫画家の誕生だ。その旨を言うと彼女は素直に喜んだ。
  いいよいいよー、良い方向に進んでいるよー。





  ハブリス・コミック社から逃げ出る影。
  それはグール。
  一見するとバラモンスキンの白い服を着た、キャピタル・ウェイストランドにおける市民然とした人物。だがそのグールは市民という可愛いものではない。
  名をグーラ。
  master系能力者でフェラル使い。
  傭兵。
  そしてジェリコが差し向けた12人の刺客の1人。
  ミスティを狙ったのは実は今回が初めてではない。テンペニータワーを襲撃した反ヒューマン同盟に雇われ、タワーを襲撃したフェラルを仕切っていたのは彼女だ。あの場にミスティがいる
  ことを知り、タワー襲撃に並行して自分の要求をタワーに出した。それがミスティの身柄引き渡し。反ヒューマン同盟側もグーラを評価していたので無下には出来なかった。
  結果としてそれが付け入る隙を与え、タワー襲撃の失敗の要因ともなったのだが。
  「くそっ!」
  今回率いていたフェラルは全滅。
  100をも超える大軍勢を率いていた彼女も敗者になるしか他はない。
  マシーナリーとは同じ刺客同士ということもあり手を組んだだけだったが、早々に敗退し、撤退してしまったので彼女としては憤りを感じていた。
  西海岸最強のストレンジャーという売込みだったにも拘らずだ。
  「フェラルをどこかで掻き集めて、リベンジよっ!」

  パァン。

  視点がいきなり空になったどうして……それが彼女の最後の思考。
  どこからともなく狙撃され、頭からは血が止まることなく流れている。その魂は既に体にはなく、骸が転がるだけ。
  間接的にとはいえミスティはと敵対していた。
  が、グーラはともかく、ミスティはこのグールの女とは相対していない、なのでここに死体が転がっていたところでキャピタルの風物詩として通り過ぎることだろう。
  フェラル使いのグーラ、死亡。





  廃墟のビル。屋上。
  ここはハブリス・コミック社の社屋の全面を完全に射程としている。
  いるの3人のスナイパー。
  3人ともジェリコが差し向けた刺客であり、ベリー3姉妹として、狙撃主の暗殺者として名を売っていた。
  グーラを殺したのも彼女たち。
  何故?
  成功報酬の為だった。
  ミスティを殺したの者には莫大な報酬がジェリコ(正確にはクローバーが持ち出したパラダイス・フォールズの遺産)から与えられる。
  仲間意識など最初からない。
  あるのはいかに利用し、蹴落とし、横取りするか。
  それだけだ。
  「姉さん、本当によかったの? あいつはまだ泳がせておけば利用できたんじゃない?」
  「利用? 冗談。兵隊失ったフェラル使いに次なんてない。それより、ミスティたちも直に出て来るはず。まだるっこしい計画なんかより、手っ取り早く殺さない?」
  「正面から撃ったところで視界に入る限りスローとかいう化け物よ、あいつ。ここは当初の予定通りじわじわと行きましょう」
  くくくと長女は笑った。
  その視線には建物から出て来たミスティたちが映る。
  「あいつの弱点は分かってるんだ。埋伏の毒、あいつにはこれが一番効果的さ。その為にも時間がいる、下手に喧嘩する必要はない、じっくりといたぶるとしようじゃないか」





  メガトン周辺まで帰還。
  スージーはスプリングベールに送り届け済み。印刷機に関してはメガトン、BOSにそれぞれ打診した。正確にはメガトンではなく、共同体に、だ。意味は同じだけど。共同体にスプリングベール
  まで送ってもらうように手配した。1台はモイラに寄与、これでサバイバルガイドブックの増刷は簡単になったことだろう。
  「主、お疲れ様です」
  「あなたもね」
  「いえ、お気遣いなく」
  「ところでハーマンって誰なの? 姪じゃないんでしょ?」
  「な、何故ですか?」
  動揺してますな。
  「似てない」
  「実は、彼女はモロウウィンド出身のダンマーで、シロディールにいるアイリス・グラスフィルの妹なのです。何故かシヴァリング・アイルズのシェオゴラスに手を貸していて……」
  「……いい、別にいい」
  「はっ?」
  「ストップ」
  「了解しました」
  言っている意味分からねぇーっ!
  何語だ、今の?
  「主、あれを」
  「ん?」
  メガトンの前にトレーラーが停まっているのが見える。
  サロンド乙姫と呼ばれる団体。
  娼婦の集団?
  実際にはよく分からないけど好色な男たちをそそのかしては乗せていくらしい、ワリーはそれに乗って、オカマとして帰ってきた。ポールソンも同じようなこと言ってたな。何なんだ、あの団体。
  特に出入り禁止ってわけではないようだけどそろそろ共同体も何らかの策に出るんじゃないかな。
  さすがに胡散臭すぎる。
  車が発車する。
  直後、なよなよした人影が車の後部にしがみ付き、そのまま発車。
  「ワリー?」
  車は遠ざかって行く。
  車は……。