私は天使なんかじゃない
自販機パラダイス
この世界の、見えない敵。
「足は大丈夫？ 疲れてない？」
「うん、平気だよ」
「元気一杯ね」
「男の子だもん」
リベットシティから旅立って一日後。
私はオラクルとともにカンタベリー・コモンズを目指す。
目指す理由。
特にナッシング。
アンタゴナイザーにメカニストの支援を頼まれたり、ウルフギャング＆ラッキー・ハリスにDr.ホフの行方探しを頼まれたりで行ってみようかなーと。
グリン・フィスとはリベットで別れた。
ハーマンがいなくなったからだ。
あと、ハンニバルへリンカーングッズを渡す為に別れました。
剥げ剥げのアスファルトを歩いて私たちは移動。
「オラクル」
「何？」
「鍵、私が持ってていいの？」
「どこの鍵か分からないし」
彼はそう言って笑った。
私も笑う。
確かにどこの鍵なのか、何の鍵かを私たちは知らない。だけど、この鍵が原因でオラクルの両親は亡くなった、私は見てないけど。出会ったのはオラクルがその場から逃げた後での話だ。
別に鍵やその中身に関してはどうでもいい。
狙っているのが何者なのか。
それを探るのが急務だ。
私に鍵を預けてくれるのであれば助かる、彼らしてみたら形見のようなものなんだけど……狙う側にしてみたらお宝だ、必ず何らかの接触をしてくるだろう。
その時に私が対処する。
それがベターかな。
「あのお兄さんはまだ来ないの？」
「みたいね。ハーマンとは仲良くできてるの？」
あの子がグリン・フィスの何なのか不明。
姪？
信じてません。
ただ、私とオラクルが一緒に行動する以上、グリン・フィス＆ハーマンとの接触も増えてくる。
何とか楽しんでくれたらいいんだけど。
「あの子は、苦手かな」
「ほほう？」
「すごいトゲトゲしてるんだ」
「伝えとく」
「えーっ！」
「あはは」
「もうっ！ からかわないでよっ！」
可愛いですね。
弟みたいだ。
護りたいその笑顔、なので物理的にも護らねばならないようです。
「おうおう、なかなか良い雰囲気じゃねーか。おすそ分けしてくれないかー？」
手で庇うように、実際庇ってるだけど、オラクルを私の後ろに隠す。
レイダーか？
服装はバラモンの服の上に防弾チョッキを着こんでいる。
手にしているショットガンで肩をトントンと叩いている。
その取り巻きが5人。
そいつらも同じような格好。手にはそれぞれ銃火器。
追剥ぎか。
「何か用？」
「おーおーつれないこと言うなよ、付き合えよ。意味は分かるだろ？」
「さあ？」
追剥ぎ、別に珍しくもない。
キャピタルは復興しつつあるけどそこから弾かれる人たちは少なくない。要はアウトローに生きてきた人たちにすれば今の流れは邪道なのだ、レイダーとまで行かない人たちも街から離れて
こういう生き方をするようになる。ちょっとしたキャピタルの社会事情ってやつだ。
「問答無用で奪ったら？」
「男ならそうする。女だからな」
「へー」
「あと、そうだな」
「うん？」
「鍵を寄越せ」
「……へー」
鍵絡みの連中か。
とはいえメガトンで喧嘩吹っ掛けてきた奴らは鍵が何なのかすら知らなかった。単にガルシアっていうジェリコの仲間に使われているだけだった。
こいつらからジェリコを辿れればいいんだけど。
「ガルシアに頼まれたの？」
誰だか知らないけど。
面識はない。
たぶん。
「ガルシア？ 誰だそりゃ？」
違うらしい。
「じゃあ、どこで鍵のことを？」
そもそもオラクルの鍵を最初から追っかけてた奴らか？
それはそれでラッキーだ。
手間が省ける。
私はまだ抜かない、普通に立っている。
今の私なら楽勝だ。
「あんたがだ誰だかは知ってるよ、赤毛の冒険者さんよ。鍵のことは誰かが喋ってた、悪党連中は宝箱の鍵にご執心さ。ただ、あんたが持っているわけだからな、結局口だけで誰も動きゃしねぇ」
「じゃああなたたちは勇気があるってことね」
「赤毛の冒険者っていう鼻っ柱の強い女と寝れるなんて機会はそうはねぇからな。俺らは人狩り師団だ、大人しく俺らに従っていた方がいいぜ？ とりあえず俺が一番最初にお前と寝る」
「Cronus」
ドサ。ドサ。ドサ。ドサ。ドサ。
「俺が気分爽快になったら次はこいつらだ」
「死体と寝る趣味はない」
「はあ？ ……はわっ！」
盛り上げる要素？
皆無です。
あっさり手下は全滅。
「へ、へへへ。やるじゃねーかっ！」
「どうも」
人狩り師団。
拠点不明なレイダー組織。バザー襲撃の様子を見る限りかなりの規模。そして拠点が完全に不明な、神出鬼没な組織。
こいつに聞く？
無理だろ。
レギュレーターですら居場所が突き止められないんだ、口を割らないんだろ、きっと。
なら殺すしかない。
「だがこれで勝ったと思うなよっ！」
「ほほう？」
これで勝ちじゃなきゃ何が勝ちなんだろ。
勝利条件は何？
意味不明です。
「先生、出番ですぜっ！ お前と戦うんだ、凄腕の先生を雇っていたんだよっ！ 俺みたいなレベルじゃこの手下の数が精一杯だからな、凄腕の先生を見つけていたんだよっ！」
「凄腕ねぇ」
見当たらないけど。
荒野だけだ。
ブォン。
突然人影が具現化する。
現れたのはライダースーツの男。
「ふわぁぁぁぁぁ。寝てた。何だいもう出番かい？ ……面倒だからとっとと片付けちゃうとしよう」
「何だデスか」
中華製ステルスアーマー装備で透明化していたようだ。
あくまでスーツだけが透明化する、なので無手。
西海岸最強の傭兵団ストレンジャーの中で最強の男、つまりは超最強の奴。通称と自称が死神。
こんな奴に雇われているんだからジェリコとの契約は切れたのかな？
元12人の刺客の1人。
ガンスリンガーはどうしたんだろ、袂を別ったのかな？
「デス、元気してる？」
「うげっ！ 赤毛の冒険者っ！」
ああ。
聞いてなかったのね、雇われた理由を。
ブォン。
透明化、そして駆け去って行く音。猛ダッシュでトンズラした？
よっぽど私らに負けたのがトラウマらしい。
私は肩を竦める。
「凄腕先生、逃げちゃったわね」
「ストレンジャー最強っていうから大金払ったのにっ！」
「そりゃ残念」
「ちょ、ちょっと、話し合おう、色々と、そう、話し合おう。そうしたらお互いに誤解とか解けるし、へへへ、良いとことか見つけあえると思うんだ」
「人狩り師団は人間じゃない、死ね」
「ちょっ！ まっ！」
「待たない」
ミスティックマグナムの引き金を引く。
あっさりと頭が吹き飛んだ。
アホが。
媚びるぐらいなら最初から喧嘩吹っ掛けて来るな、へたれるぐらいなら最初からまっとうに生きとけ。
まったく。
オラクルは私の後ろにずっといたので惨劇は見ていない。
見せたくはない。
そのまま回れ右、オラクルにも促して回れ右。
この道を迂回してカンタベリー・コモンズに向かうとしよう。
その後、特に問題なくカンタベリー・コモンズに到着。
「止まれ」
街の前で衛兵たちに止められる。
率いている警備主任のハゲ……えっと……確か……。
「ドミニカ？」
「残念。ドミニクだ」
「ああ、どうも」
「あんたか、久し振りだな」
「そうね」
カンタベリーまで来たのはまだ2度目だ。
キャピタルを周るキャラバン隊の拠点ではあるけれど、別に大した設備があるわけではない。まあ、遠いっていうのが寄らない一番の理由だけど。
そうだ。
人狩り師団のことを言っておくとしよう。
「ねぇ」
「何だ？」
「人狩り師団って知ってる？」
「人狩り、ああ、あいつらか、知ってるよ。ラストレイダーとか呼ばれてもいる奴らだろ？ それがどうした？」
「この近辺にいた」
「そうか、また現れたか。見回りを強化しないとな。おい、誰かアンタゴナイザーに助っ人を頼んで来てくれっ！」
彼女とはジェイル・ブリッジで別れた。
帰っているらしい。
私はまたねと言って彼の脇を通り過ぎる。
顔パスってわけではないだろうけど、一応信頼関係は築けていると思う。
たぶん。
「オラクル、お腹空いた？」
「空いてないよ」
ギュルルー。
お腹は正直ですね。
先に何か食べよう。
街を歩く。
すると道端に置いてある荷車の側で何かしている白衣の男がいる。
七三分けの口髭中年。
あれ？
見たことあるぞ。
確か……。
「あの、ジェイル・ブリッジにいた人ですよね？」
「んー？」
白衣はこちらを向く。
荷車の内容が分かる、何かの死体だ。頭と目玉が異様に大きい、そう、一昔前の宇宙人想像図そのものだ。グレイ型宇宙人。
何ミュータントだ、あれ。
「私はミスティです、覚えてますか？」
「さあな」
「……」
「何だ、挨拶せねばならないのか？ Dr.ミカヅキだ。この街にゃ用はないが近くに面白いサンプルが転がってたからな、しばらくここで研究するのだ。分かったらどっか行け」
「……」
口の悪い奴だ。
また妙なのがキャピタルに徘徊し始めたか？
新キャラは面倒ですなぁ。
「それは何なんです？」
「さあな。まだ詳しいことは何もしていないが、この星の進化系統にはあり得ない形ではある。FEVによるミュータントでもない。ふふん、こいつはおそらく宇宙人という奴だな」
「……」
「理解できないか？ ちっ、これだから脳みそがワラジムシの奴と話すのは嫌なんだ」
「……」
むかつくわぁ。
オラクルの手を引いてその場を去る。
ジョー・ポーターとかいう人のお店があったはずだ、そうそう、ここだ、私はオラクルを連れて中に入る。
「いらっしゃい」
黒人の店主が愛想良く迎えてくれた。
カウンター席には客がいる。
アンクル・ロエ。
この街カンタベリー・コモンズの市長。
ドミニク曰く、交渉で解決できることは全て解決してきた、らしい。なかなかのやり手のようだ。交渉で解決できることがこの世界に幾つあるかは知らないけど。
私たちもカウンター席に座る。
「お勧めは？」
「バラモンカレーっていうのはどうだい？」
「何かよく知らないけどそれで」
「そっちの子様は？」
「じゃあ、僕もそれで」
「何か飲むか？」
「ジュース2つ」
一応仕事の想定してる。
何の？
「市長さん、会えてよかった」
「こりゃどうも。赤毛の冒険者が何か用かい？ ああ、もしかして共同体の絡みで？」
カンタベリーも共同体に参加してる。
というか全ての街が現在参加してる。正確には、リベットはBOSの管理下であり、BOSと共同体は協力関係の為、そういう意味合いでリベットも身内ってことなんだけど。
「アンタゴナイザーに聞いたんだけど」
「メカニストの件か」
「そう。それ」
何のことかは知らないけど。
「自販機パラダイスって知っているか？」
「自販機パラダイス？」
どこかで聞いたような。
……。
……ああ、ブッチにか。
私がルックアウトで行っている間に出来た新名所だとか何とか。
あれはマジだったのか。
冗談だと思ってた。
だってある日突然カンタベリーの近くに自販機ばっか立ち並ぶなんてあるか？
「それで、それが？」
「実はそこに小さなミュータントが出るんだ。いや、これは既に討伐済みだ。らーめん缶っていうの？ その場所の自販機の中にそんなのが出るものがあるらしい。キャピタルのグルメたちが
傭兵雇ってその場所に押し寄せたのさ。その結果、小さなミュータントは全滅したってわけだ」
「ふぅん」
話が見えてこない。
「メカニストは何してるの？」
「調査だ」
「ああ、どうして自販機が現れたのかってこと？」
「いや。自販機パラダイスにどういう種類の自販機があるのかの、調査だ」
「……はっ？」
「なんせ結構な数だ。100はあるか、あるな。それらを調べて目録を作っているのさ。だがあんたが目録作りを手伝ってくれるなら鬼に金棒だ。もちろん報酬は払うよ」
「えっ？ ちょっ……」
そんなアホな仕事できるかーっ！
だが、この良かった良かったという笑顔を浮かべる人の要請を断るのもなぁ。
うー。
「それにあんたなら、適任だ」
「適任？」
「原因不明なんだが自販機パラダイスに行ったグルメの何人かは上半身を失った形で死んでいるんだ」
「上半身を？」
「ああ」
何かそんな記憶があるような？
宇宙船にいた夢。
そうだ。
ローズとかっていう人が食べられてたなぁ、夢だけど。
「腕が立つ人が欲しかったところさ。もっとも、その猟奇殺人は自販機パラダイスと特に関係ない話なのかもしれないけどね」
「たぶんね」
人狩り師団だろ。
ドミニクも、また現れたかとか言ってたし。この近辺に私とは関係ない徘徊しているのだろう。
「叔父さん叔父さんっ！」
「何た、デレク、騒々しい」
甥っ子登場。
相変わらず無駄に元気な子だ。
そう考えるとオラクルは随分と物静かな子だなぁ。
「叔父さん、今日も見たよ、ロケットマンっ！」
「大切な話の最中だ、家に帰ってなさい」
「ちぇー」
ふてくされつつ退場。
ロケットマン？
「何の話？」
「ん？ ああ、ロケットマンか。最近空を飛んでいるスーパーヒーローらしい。見たことはないけどね。なかなか想像力逞しいからな、デレクは」
「空をねぇ」
「アンタゴナイザーやメカニストは信じているようだが。ヒーロー仲間を増やしたいらしい」
「あはは」
他愛もない話をしているとカレーとやらが出て来る。
ジュースも。
スプーンで頬張る。
うまっ！
「美味しいね、オラクル」
「……うん、ｶﾞﾂｶﾞﾂｶﾞﾂ」
会話などする暇ないぜー、な勢いで食べるオラクル。
豪快ですな。
「美味しいわ」
「そりゃ良かった。カレーに関しては自信があるんだ。市長が良い香辛料を優先して回してくれるからね。弟子入りしてきた奴もいるんだぜ？」
「弟子入り？」
「ああ」
納得な話だ。
美味しいし。
「ミスティさん」
「あー」
うげ、アンソニーだった。
苦手な人だ。
食事後、自販機パラダイスに。
何故かアンソニーも一緒に。
まあ、いいですけど。
彼は10㎜マシンガンを帯びている。
携帯食料等が入ったカバンは市長に預けてきたので身軽だ。オラクルも置いて来たかったんだけど、一緒に行きたいって。まあ、特に危険もないだろ。
「それで、何をすれば？」
自販機パラダイスで目録作りをしているメカニストに聞く。
ぶっちゃけ、こんな地味な仕事を任すぐらいならDr.ホフの探索をメカニストに任せたらいいのに。
「西から順番に何の自販機か調べているところだ」
「ほうほう」
地味ですな。
地味地味です。
「反対側から調べてくれ。調べたら、自販機に番号を書いてくれ。当然その番号は目録にも書いてくれよ、照合できなくなるからな」
「アンソニーも手伝ってくれるのよね？」
「ええ。もちろんです」
「じゃあメカニスト、二手に別れましょ。私とオラクル、メカニストとアンソニー、これでいい？」
アンソニーが少し不満そうかな？
まあいい。
「じゃあお姉さん、僕が売り物読み上げて、自販機にペンキで番号書くね、お姉さんは目録に僕が読み上げるもの書いて」
「了解ボス。じゃあ、開始で」
「コマンダー・ルージュが手伝ってくれて助かるよ。じゃあアンソニーって言ったっけ？ よろしく頼む」
「分かりました」
作業開始。
……。
……作業中……っていうかぶっちゃけこれは私がやる必要あるのか？
さすがに地味過ぎね？
さすがに私のすべきことではなくね？
うー。
何かエンクレイブの危機あるのにこんなことしてていいのだろうか？
そんなこんなで一時間。
少し休憩ということでみんなで集まった。
グリン・フィスまだかな？
彼がリベットから直行してくれたら人手が増えて仕事が進むのに。
「あー、疲れた」
「コマンダー・ルージュ」
「何？」
「この自販機を見てくれ」
見る。
特に珍しいラインナップではない。ジュース、ジュース、ジュース、ジュース、らーめん缶、ジュース、ジュース。
「らーめん缶？」
「自販機パラダイスで一番のお勧め商品だ。グルメの大半はこいつ目当てで集まってくる」
「ふぅん」
「戦前の島国で作られたものらしい」
「へー」
「それは凄いっ！」
反応したのはアンソニー。
「こ、このタイプの自販機はいくつあるんですか？」
「さすがに全部諳んじているわけではない。目録はまだだしな。だがレアなのは確かだ。初めて見た」
グルメのアンソニーはワクテカしてる。
なるほど。
食通は伊達ではないようだ。
「……ミスティさん、食べてみましょうよ」
「そうね」
興味あるし。
「奢りますよ」
アンソニーはそう言って自販機にキャップを入れようとする。
入らない。
そりゃ当然入るわけがない。
キャップなんて今の時代の貨幣。正確には貨幣の代用品なんだけど。
「あれ？」
どこの田舎者だ、この人？
ギャグか？
ギャグなのか？
ボルト101生まれの私でも知ってた、なのでスプリングベールのヌカ・コーラの自販機は破壊して中身ゲットしたし。
「入らないわよ、キャップは」
「みたいですね。どうしたらいいんだろうか」
まさかマジなのか？
「ねぇ、あなたどういう生活をしてきたの？」
「グールズという窃盗団……のような浮浪者たちと暮らしてました。途中で行き倒れてまして、それで彼ら彼女らに拾われて食事係として生活してました」
「ふぅん」
意図的なのか知らないけど随分端折ってるな。
いや私の言い方が悪いのか。
生活と言ったから彼はそう答えただけだ、生まれは少なくともその窃盗団ではないようだ。
見兼ねてメカニストが口を挟んだ。
「何も入れる必要がないんだ、ここに自販機群を持ち込んだ誰かが改造したようだから、ボタンを押しただけで出て来るんだよ」
「へぇ、それはハイカラですね」
ハイカラ？
ハイカラって何だ？
彼は照れ臭そうに笑った。
まあ、私も押しただけで出るなんて知らなかったからメカニストの説明にありがとうって感じかな。
ﾌﾞｯﾌﾞｰ｡ﾊｽﾞﾚｰ。
メカニストが別の自販機のボタンを押して、ジュースを取り出した。
ほほう？
当たり外れがあるのか。
「メカニスト、当たりって何？」
「景品が出来るんだ。自販機によって違うがね。大体グレードが高い奴が出るって寸法さ。ジュースなら、より高級なジュースってところだな。まあ、どうしても欲しければ自販機壊せばいいんだが」
「それじゃ夢がない」
「ははは。確かに」
私の狙いはらーめん缶。
つまり当たりが出ればこれよりも高級ならーめん缶が出るってわけだ。
「お姉さん、僕が押してあげるよ」
「そう？」
「うん」
にこにこ顔のオラクル君。可愛いですね。
お言葉に甘えよう。
「何がいい？」
「らーめん缶で」
「分かった」
「当たり出してね」
「よぉぉぉぉぉしっ！」
食べたことないし。
私達の雰囲気が和やかになりました。良いものですなぁ。ぽちっとなー。
ﾃﾚﾃﾚｯﾚｰ。
おっ！
何かテンポが良い音が流れたぞ。
「やったなコマンダー・ルージュ、当たりの音だ。景品が出て来るぞ」
「オラクル、さっすがっ！」
「へへへー」
景品か、何が出て来るのかな？
楽しみ楽しみ。
「オメデトウゴザイマス、人類サン。アナタニ死ヲプレゼントっ！」
『はっ？』
一同固まる。
えっ？
えっ？
えっ？
何だ、今のコメント。
ジャキーンっ！
自販機の上部から二対の目玉、二本の腕、下部からはキャタピラーがせり出て来る。
えっと、どんな不思議構造？
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ！
何だこいつはっ！
「アンソニー、オラクルを連れて退避してっ！」
「な、何言ってるんですか、た、戦いますよ、私もっ！」
「あわわわわわっ！」
震えながらも銃を構えるアンソニーと、腰抜けて尻餅ついているオラクル。とてもじゃないがこの場に留まらない方がいい。
私？
私も逃げたいっす。
「早く連れて行って」
「で、ですがっ！」
「気持ちはありがとう、受け取る、だからやれることをお互いにやりましょう、お願いっ！」
「わ、分かりましたっ！」
オラクルを引っ張ってこの場から退避するアンソニー。
意外に根性あるんだな、彼。
評価が上がりました。
にしてもこの自販機は何なんだ？
まあいい。
先手必勝っ！
アサルトライフルを撃つ、メカニストはレーザーピストルを発射。銃撃が受け付けない、レーザーは……嘘っ！
「つっ！」
反射したっ！
そしてよりにもよって私の左腕を貫通、くそっ！
「コマンダー・ルージュっ！」
「え、援護するから、とりあえず退避しよう。自販機を盾にする形で戦おう」
「了解した」
この時化け物自販機が動く。
商品の取り出し口がパカッと開く。
何？
シュババババババーっ！
無数の何かが不規則な動きで発射された。
それは……。
「ペンシルミサイルっ！」
「嘘だろっ！」
「退避っ！」
「了解だーっ！」
踵を返してダッシュて逃げる。
自販機を盾にするように全力ダッシュで移動、背後では爆発する音が響き渡る。
私の能力、視界にいる限りは弾丸はスローになる。
だけどレーザー系はスローにならないし、ミサイル系もならない、あくまで弾丸という縛りになっている。何故かは知らない、たぶん意味なんてないんだろう、そういう能力なのだ。
任意で時間止めてカウンターしてもいいんだけど最初の一撃で左腕が死んだのが痛い。
痛みで集中出来ない。
「はあはあ」
「ま、撒いたか？」
自販機の陰に隠れて私たちは相手の出方を待つ。
時折爆発音。
どうやらこちらをロストしたらしい。
「メカニスト」
「何だ」
「あれは、何？」
「言われても知らん。あんなロボット初めて見た」
「だよね」
そもそもあれはロボットなのか？
いや、生物だとは思ってない。ロボットなのは確かだけど……アメリカ軍が作ったにしては用途が分からないし、何か根本的に軍の代物ではない気がする。
自販機に擬態した殺人ロボット？
意味が分からない。
もしかしたら戦前に中国がアメリカに持ち込んだものなのか、市街地でのテロとかに使ったり？
……。
……考えないことだ、うん、考えないことだ。
そもそも自販機がいきなり大量に現われたのだって意味不明なのだ。
「傷は大丈夫か？」
「ええ。綺麗に焼けてる、血は出てない」
「すまない」
「構わないわ、まさかあいつがレーザーに対しての反射耐性があるなんて思ってもなかった。これ使って、私は片腕使えないし」
ミスティックマグナムを一丁渡す。
弾丸も。
結局最後の頼みはこの銃ってことだ。
アサルトライフルのグレネードランチャーも心強いけど、女王蟻に対しての決め手にはならなかった、それを考慮するとあのとんでも兵器も厳しいかもしれない。別にグレネード弾が弱い
わけじゃない、むしろすごい武器。要は敵が最近デタラメなのだ。女王蟻にしても、この自販機にしても、ルックアウトのロボットどもにしても、ね。
「スティムはないのか？」
「ない」
最近無双三昧だったしなぁ。
油断し過ぎかも。
荷物そのものは市長に預けてきた、自販機パラダイスと街は近くだったし、携帯食料の類も入っていたカバンは置いてきた。その中にあるスティムも。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ！
近くの自販機が数台吹っ飛ぶ。
近付いてきたな。
それか無差別にミサイルぶっ放しているのか？
周囲全て吹き飛ばして、そのまま私たちも吹き飛ばすという寸法らしい。
とんでもない奴だ。
まさに外道っ！
「決めた、あれは外道販売機と名付けよう」
「……余裕だな」
「名前付けないと呼称しにくいし」
「ははは、あんたらしいよ。それじゃあ正義の味方の反撃と行こうかっ！」
「ええっ！」
外道自販機は私たちを探しているのだろう、手当たり次第にミサイルを周囲に発射している場面に遭遇した。ナーイス、丁度相手は背面を向けてるっ！
私たちはミスティックマグナムを受ける。
いっけぇーっ！
ぎょろん。目がこっちを見た。そして背面のまま手でこちらに何かを投げる。
手榴弾っ！
「マジかーっ！」
「た、退避だーっ！」
慌てて自販機の陰に飛び込む。
爆発音。
盾代わりの自販機のお蔭でダメージはない。
「メカニス……トっ！」
「動けん」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ自販機の下敷きになってるーっ！
ロボット風の強固なコスチュームのお蔭で大丈夫そうではあるけど、どうすんだ、これ。
倒れている自販機を動かそうとする。
「うーっ！」
無理だ。
片腕では無理だ。というか私では腕が無事でも無理だ、重い。
「何とか脱出できない？」
「無理だ、すまん」
きゅらきゅらきゅらと音をさせながら外道自販機がこちらに向かってくる。
ガラガラガラと取り出し口に何かが出て来る。それを器用に手で掴み、私に向かって投げてくる。手榴弾の連続投擲。
……。
……どんな内部構造なんだ、あれ？
どれだけ兵器内蔵してるんだ、物理的におかしいだろっ！
爆発を避けながら私はミスティックマグナムを撃つ。
弾丸が直撃っ！
外道販売機がひっくり返った。
ジュハババババババババっ！
ひっくり返りつつペンシルミサイルを宙に撃ちだす。
あ、危なかった。
少し遅れていたら吹き飛んでいたところだ。
「終わった？」
外道自販機は動かない。
ミスティックマグナムを構えながら私は近付く。近付きつつ3発ほど叩き込む。無条件で近付くほど私は馬鹿じゃない。まるで動かないな、完全に接近するまでに全弾撃ち尽くした。
倒したのか。
左腕が使えないからやり辛いけど、弾丸を装填。
結局何だったんだ、こいつは。
ガバっ！
「はっ？」
突然直立する外道自販機。
色々と常識とか法則を無視して起き上がる。誰かが立たせてもあんなに綺麗には立たないだろう、ましてやこいつは勝手に直立にご起立なされました、デタラメすぎるっ！
私の対応が遅れた。
まさかあんな動きするとは想定してなかった。
ジャキーンっ！
取り出し口に何やら刃物が乱立、まるで歯ですね。
そしてその取り出し口が拡張し、物凄い勢いで私を吸引してくる。
えっ！
ちょーっ！
突然視界が真っ暗になった。何も見えない。吸引に負け、四つん這いの格好で私は取りだし口に体半分を突っ込んでいる。傍から見たら完全に間抜けな格好だ。
間抜け以外の何物でもない。
ギギギギギギギギギ。
嫌な音が響く。
軋む音。
こいつ私を噛み砕こうとしてるっ！
まさに外道っ！
「まずいまずいまずいっ！」
ライリーレンジャーの強化型コンバットアーマーが軋んでいる。
……。
……そうか、上半身ない死体はこういうことか。
噛み砕いた結果か。
上半身が見つからないってことはこいつが食ってるのか。自販機なのに？
謎の敵だ。
ギギギギギギギギギギ。
意外に耐えているな、強化型じゃなかったらまずかった。
だけど時間の問題だ。
四つん這いで突っ込んでいるから銃なんて撃てないし、この状態でCronus発動しても意味なんてない。こんな間抜けな死に方は嫌だーっ！
銃声がする。
この音、着弾する音、10㎜マシンガンか。
「彼女を離せーっ！」
アンソニーだ。
アンソニーが健闘している、だが、無駄だ。あの程度の威力では効かない。
結局彼は良い人だったんだ。
疑ってスマソ。
「斬っ！」
鋭い気合いとともにドシーンと何かが倒れる音。
そして私の足を引っ張り始める。
た、助かった。
グリン・フィスの到着だ。
「さあ、引っ張り出そうっ！」
メカニストの声。
彼も助けられたってことだ。誰かが外道販売機の口をこじ開け、無数の手が私の足を引っ張ってくれる。お尻をナデナデしてくれる。何て仲間想い……おおーいっ！
「誰だ私の尻触ってる、いや待て揉んでる奴は誰だーっ！」
助けられた私。
なので残念ながら犯人が誰かを追求して晒し上げフルボッコにすることはできませんでした。
ちくしょうーっ！
外道販売機撃破。
カンタベリーコモンズの方針、大事を取って自販機パラダイスの自販機は全て破壊決定。さすがに外道自販機がまだいたら、嫌ですね。
破壊は私の仕事ではない。
私、グリン・フィス、ハーマン、オラクルはメガトンに帰った。
アンソニーには今までのことを謝罪済み。