私は天使なんかじゃない






盗まれたコレクション






  歴史ある物や美術品は価値がある。
  だからこそ奪い合う。

  それは為政者が何度も繰り返してきたこと。





  シェイル・ブリッジの女王蟻撃破。
  捕虜開放。
  ハントも無事生還。
  ただ場所が場所だけにすぐさま全員を文明の地に帰すことはできず、私はギルダー・シェイドの保安官ポールソンに依頼。彼は快諾し、人をこちらに寄越してくれるという。
  あと、女王蟻のフェロモン。
  これも回収しようと思ったものの、そもそもフェロモンがどんな類かは分からず。
  おそらくハントたちが隷属化されていた何らかの匂いなんだろうけどどの器官から出ているかが謎。というかそんな使うのか、アンジェラ。惚れ薬というか洗脳じゃね?
  怖い怖い。
  ともかく。
  ともかく回収はしたいのでそのあたりはアンタゴナイザーに任せた。
  蟻の女王様、お願いします。
  ハントたちの回収、女王蟻のフェロモンの回収に一定の目処が立ったので私は一足先にリベットシティに戻ることにした。
  シーに任せていることもそろそろ終わっているだろうし。

  「コマンダー・ルージュ、カンタベリー・コモンズに行ったらメカニストに手を貸してあげて。私はフェロモンを抽出しつつ、彼らの迎えが来るまでここに留まるわ」

  これはアンタゴナイザーの言葉。
  メカニスト、ね。
  どうやら新しい任務のフラグのご様子。
  まあ、久し振りに会いに行ってみるか。
  Dr.ホフの行方の探索をウルフギャングやラッキー・ハリスにも頼まれてるしさ。

  「アリーに伝えてくれ。少し時間が掛かるけど、必ず帰るからって」

  これはハントの言葉。
  アンタゴナイザーには抽出したフェロモンはハントに渡すように頼んである。
  彼の手柄ってことで。
  意味?
  特にない。
  まあ、手柄というか今回の危険手当みたいなもの?
  蟻の奴隷にされてまで生き延びたのに無報酬ではさすがに可哀想だと思っただけだ。女王蟻のフェロモンの入手という契約だった以上、手に入らなければハントに報酬はないわけだし。
  私は私で結構な出費が自腹ですけどね。
  防刃コートにグレネード弾、帽子もなくしたし。だけどハントに花持たせてあげなきゃ。
  さて。
  帰るか。






  数日かけてリベットシティに舞い戻る。
  1人ってわけではない。
  「一杯やろうぜ、ミスティ」
  「まったく」
  飲みに誘うのはポールソン。
  私の依頼を快諾したその足でリベットシティに向かったそうだ。もちろん派遣する人員の確保は済ませた上で、だ。その上で休暇を楽しむためにリベットに向かい、丁度鉢合わせしたってわけだ。
  アリーとアンジェラには報告済み。
  グリン・フィスとはまだ接触していない。
  適合する鍵穴はあったのかな?
  特にオラクルとは繋がりがない、というか全くないけど両親が殺される原因になったぐらいの鍵だ、ジェリコの仲間が何故か狙うほどの鍵だ、何かあるのだろう。
  何とかしてあげたい。
  「こっちだ」
  「はいはい」
  ポールソンに一杯だけと付き合ってくれと言われて私は付いて行く。
  連れて行かれた場所はマディ・ラダー。
  リベットの酒場。
  ゲイリーズ・ギャレーはお酒もあるけど子供連れも多い食堂なら、ここは完全に飲み客限定の場所だ。食べ物もあるけれども。
  「ここに座ろうぜ」
  テーブル席に陣取る。
  まだ昼間だけど客はかなり多い。カウンター席は埋まってる。そして女性たちが客の間を絶えず動き回ってる。
  薄い肌着で歩き回ってます。
  ……。
  ……すいませんこんな店に誘う意味って何すか?(汗)
  「ポールソン」
  「言いたいことは分かる。分かるが、頼むよ。おーい、ビール2本くれ。ツマミは適当に頼む」
  勝手に注文。
  良いですけど。
  「奢り?」
  「当たり前だろ。誘ったのは俺だから」
  「で? 何で私をここに?」
  意味不明だ。

  「いらっしゃい、ポールソンさん。はい、まずはビール。お嬢さんもどうぞ」

  「ああ、どう……も」
  思わずはっとした。
  黄色いワンピースを着た、青い髪の女性。
  綺麗。
  ノヴァ姉さんもアッシャーの奥さんのサンドラも綺麗だったけど……別格だ……思わず私は息を飲んでしまった。鼻の下を伸ばすポールソン。
  「ナタリー、連れてきた。彼女がミスティだ」
  「あら、ポールソンさん、ありがとう。そう、あなたが。ずっとサイン欲しかったの」
  ナタリー。
  そうか、彼女が。
  なるほど。
  あの3兄弟、正確にはイッチとニールが取り合うのも頷ける。私を兄弟喧嘩に巻き込んで生き埋めにしたのは頷けないけど。
  頼まれるがままサインをする。
  彼女は喜び、ポールソンに何か耳打ち。手を振って別のお客の所に注文を取りに向かった。
  「ポールソン」
  「何だ?」
  「スケベ」
  「男は皆どスケベさ」
  「……」
  ちょっと評価低下しました。
  男って奴はー。
  その後、別の女の人がツマミを持ってくる。私はビール飲んだり、食べたり、ポールソンと話したりして30分ほど費やした。ビール飲んだしそろそろ行くか。
  「私行くわ、ポールソン」
  「分かった。悪かったな、利用するみたいで」
  「それは構わないけどハントたちの迎えは大丈夫なのよね?」
  「完璧だ。相棒に任せたからな」
  「デズモンドによろしく」
  「ああ。伝えとくよ」
  「それじゃあ。……あー、そうだ、前にギルダー・シェイドのスケベ男が行方不明になったって言ってたよね、サロンド乙姫に連れてかれた人。あれどうなった?」
  「オカマになって戻ってきたよ。マッチョがどうとか」
  気になる話だ。
  ワリーと同じ症状。
  そしてマッチョ、これもどっかで聞いたような。
  サロンド乙姫か、何なんだろうな。
  だが答えは持ち合わせていない。私もポールソンも。私は彼と別れて店を出た。
  グリン・フィスと合流しなきゃ。
  リベットの通路を歩く。
  宿にいるはずだ、確かこの通路……。

  「いいとこにいたね、ミスティ」

  「シー」
  トレジャーハンターの友人に遭遇。
  いつもの陽気さはない。
  「どうしたの?」
  「まずいことになった」
  「まずいこと」
  「あたしは見てないんだけど、ワシントンの博物館が襲われた。コレクション根こそぎにされたみたい。あの爺さん曰く、シドニーがやったって。いきなり後ろから殴られたみたいだけどあれはシドニーだってさ」
  「マジか」
  「マジ」
  それだけでシドニーが犯人って確証があるのか?
  まあ、独立宣言書の絡みでトラブっているわけだし現在シドニーはプッツンして全方位に喧嘩売っている可能性があるしそう思われても仕方ないのか。
  「会わせて、その爺さんに」
  「分かった」
  コレクションはどうでもいい。
  だけどシドニーに関しては私も襲われている。現在進行形でさらに襲われる予定、シドニーがそこまでプッツンしているなら何とかしないといけない。
  つまり。
  つまり殺すしかない。
  その爺さんは彼女の雇い主だったんだ、どこにいるかが分かるかも。
  シーに付いて行きながら彼女に聞く。
  「シドニーの居場所って知ってるの?」
  「あたしは知らないっすよ」
  「そっか」

  「おやぁ。ミスティじゃないの」

  「後にして」
  親しげに声を掛けてきたのは青い軍服の女。
  ブルーベリーアーミーの肉欲のサンディ大尉だ。手下を連れてた。リベットにまで出張で警備の押し売りとは手広いですね。
  今は構ってる暇はない。
  ……。
  ……待てよ?
  「シー、ちょっと待ってて」
  「何?」
  「サンディ大尉っ!」
  呼びかける。
  嬉しそうにこちらに来る。
  何なんだ、こいつは。
  「何か用?」
  「単刀直入に言うけど、美術品の買い付けでここに来た? 前に言ってたわよね、ブルーベリー大佐は美術品が好きだって」
  「価値は分かってないけどね」
  「誰かから買う約束でここに来たってことは?」
  「……」
  「答えて」
  「そこまで答える義理はないと思うけど。こちらの仕事なわけだし」
  「何が欲しい?」
  「ミスティ自身、っていえばくれるの? でも、まあ、条件次第では教えてもいいわ」
  「条件?」
  「共同体に関わらせてほしい。個人的に。ブルーベリーアーミーってうちらから見ても胡散臭いのよ、再就職先が欲しいってわけ。どう?」
  悪い取引でもない。
  一部を取り込めるなら人材確保の面でも悪くない。どうせ身体検査はするんだ、密偵だったら即座に弾かれるだけ。
  「分かった」
  「さっすがはミスティっ! えっと、それで、取引の話だよね、確かにいるよ、2人組の取引相手」
  「名前は?」
  「さあ。私は上の方から買い取って来いって言われただけ。ああ、あと一応無駄は承知で警備の仕事の話に来たってわけ」
  「ここで取引するの?」
  「ドゥコフって奴の屋敷」
  「ドゥコフ?」
  「ここから北にある、武器商人の屋敷。主人と組織はエンクレイブによって倒された。そこで取引予定なのよ」
  「そう。ありがとう」
  「取り引き失敗として私らは引き上げる。しばらくはブルーベリーアーミーにいるけど、約束は忘れないでよ。何だったら二足のわらじで密偵してあげてもいいし」
  「ルーカス・シムズと相談したうえで連絡する」
  無線のチャンネルを聞いてお互いに別れる。
  取引、か。
  人手が足りないな。とはいえシーはシドニーとも面識あるし味方してもらうには気が引ける。
  ポールソンにも頼もうかな。
  それと……。
  「シー」
  「ん?」
  「コレクションは私が取り戻すから博物館の爺さんに伝言お願い。リンカーンの類は報酬としてもらうって」
  「うっわワルですなぁ」
  「あはは」
  「伝えとく。嫌だろうけど、あの爺さんも断れないだろうし」
  「お願い」
  「またね」
  シーと別れる。
  用意しなきゃな。
  
  ずざざざざざざー。

  何かが滑ってくる。
  ってグリン・フィスだ、スライディング土下座すげーっ!
  「主、申し訳ありませんっ!」
  「ちょっ!」
  突然土下座するグリン・フィス。その傍らにはハーマン。あれ、オラクルがいない。
  意味分からん。
  通路を行き交う人やセキュリティがこちらを胡散臭そうに見てる。
  ハーマンがつまらなさそうに言った。
  「オラクル誘拐されたよ」
  「……」
  こんなキャラだったっけ、この子?
  私の顔を見て天使の笑顔。
  「誘拐って怖い、怖いから……ママになって☆」
  「……」
  謎の子だ。
  まるで私の心を読んでいるかのようだ。
  「どういうことなの?」
  「主、自分の不注意です」
  「だから……」
  詳細が分からない。
  「要はロッカーというロッカーを聞いて回り、この鍵が照合するところはどこか分からないかと聞き込みをした挙句に宝箱の鍵と勘違いした2人の女にさらわれたってわけ」
  「そういうことか」
  ハーマンの説明で合点できた。
  くそ。
  私がもっとグリン・フィスに言い含めておくべきだった。もちろん彼が悪いわけでもない、私の不注意だ。
  しかし2人の女?
  まさかシドニーと女傭兵か?
  博物館を襲撃するぐらいだ、やりかねない程にプッツンしてるのか。
  「グリン・フィス、酒場にポールソンがいる、力を借りたいから呼んできて」
  「御意っ!」
  旧ドゥコフ邸に向かうとしよう。





  旧ドゥコフ邸。
  かつてここはドゥコフというロシア系の男が率いる武器密売組織の拠点、だったらしい。
  だったらしい、という表現はこの件に関しては私一切与り知らないから。
  エンクレイブによって掃討されたようだ。
  まあ、タロン社やレイダー連合がドゥコフから武器を買ってた可能性もあるし全く無関係ってわけではないんだろうけど。そういえばピットではカール大佐率いるタロン社はロシア系装備だったな。
  現在ではここは無人。
  組織は壊滅し親玉はいないからだ。
  だけどこんな豪邸を手付かずで置いておくほどキャピタル・ウェイストランドは甘くない。
  当然住み着いている奴がいる。
  それが……。
  「シドニーめ」
  こんなところまで逃げ込みやがって。
  ここは彼女の活動拠点なのか、何とかっていう女傭兵のアジトなのかは知らないけど良い場所に住んでいるものだ。
  建物の前に装甲車、良い物持ってるな。
  このショッキングピンクなカラーリングはいただけないが。
  私は笑う。
  「追い出して別荘にしようかな」
  「主、良い考えです」
  「悪くないな。俺もここで飲んだくれようかな」
  「ポールソン、女の子を連れんじゃ駄目よ?」
  「ははは。こいつは手厳しいぜ」
  さて。
  行くか。
  取っ手を掴み、扉を引き開けた。
  鍵を掛けないとは不用心だ。
  「へぇ」
  内装悪くない。
  まあ、エンクレイブとの交戦でところどころ壁に穴が開いていたり調度品が壊れているけど、このレベルを現在で維持できるとはなかなかのものだ、ドゥコフという奴。
  お金は偉大ですな。
  「オラクルの無事が最優先だからね」
  「御意」
  「了解だ」
  「やれやれ。あんなの放っておけばいいのに。アリス並みにお人好し」
  欠伸をかみ殺しながらハーマンは低く呟いた。
  他の仲間はそれに対して何も反応しない。
  聞こえてないのか?
  それとも私が今の言動に過敏になっているだけか?
  その発言に少しぎょっとした。
  彼女は私を見て悪戯っぽく微笑。
  ……。
  ……わざと私に聞かせたのか?
  なかなか謎のお子様だ。
  もしかしたら能力者なのかもしれない、何の能力かは知らないけど、ちょっとこの子に違和感を感じる今日この頃。
  侵入開始。
  1階を物色。2階はないから探索は楽だけどもしかしたら地下はあるかも。
  豪邸だから広い。
  オラクルはどこだ?
  私たちは散開せずに進む。散開すれば効率はいいけど全員で手早く片付けた方が楽だ。もちろん片付ける内容にはシドニーたちも含まれている。
  扉を開ける。
  外れ。
  扉を開ける。
  外れ。
  以下ループ。
  こりゃ結構な広さだ。接収して共同体で使えないかな?
  そんなことを考えながら扉を開ける。

  「誰っ!」

  開けたと同時に鋭い声が来た。
  フリフリなドレスを着た女だ。
  シドニーではない、じゃあこいつがシドニーの仲間の女傭兵か?
  全然傭兵らしくない格好だ。
  部屋着か?
  それにしても、何というか、奇抜な格好だ。
  戦前では普通なのかもしれないけど。
  その女が言う。
  「お姉さま、誰か入ってきたわ」
  「貴様、何者?」
  奥から別の女が出て来た。
  これまたフリフリドレス。
  お姉さま、か。
  このゴスロリ姉妹は何者だ?
  想定していなかったな、この展開は。確かにワシントンは襲われたけど、考えてみたらそれがシドニーかどうかの決定打がなかった。シドニーとの契約でごたごたしてた時期での強奪
  だったのでシドニーの所為にしていたけどそもそも無関係だとしたら?
  なるほど。
  強奪は別口の犯人ってことか。
  こいつら何者だ?
  たまたまここに住んでて、私達が誤って突撃しただけかもしれない。
  軽くギャグで応対。
  「お待たせしました、ピザのデリバリーです☆」
  「やっときた。でも30分過ぎてるから割引してねー。って! 何者だよ、貴様っ!」
  お姉さま、良いノリですね。
  この時グリン・フィスが何も言わずに半歩後ろに下がった。
  相手は同じ言葉を繰り返す。
  「貴様、何者?」
  「質問があるんですけど、歴史的な遺物と男の子に心当たりはありませんか?」
  「ちっ! ハンターかっ!」
  ビンゴだ。
  瞬間、お姉さまと口にしている方の女性がこちらに対して銃を向けた。9oピストルの二丁拳銃。
  「ズキューン、ドキューンっ!」
  あらぬところに発砲。
  天井に撃ってる?
  でも……。

  「うおっ!」

  ポールソンのショットガンが弾かれる。
  私はかわし、グリン・フィスはショックソードで斬り落とす。
  跳弾っ!
  狙ってやっているのだろう、凄い腕前だ。
  私たちが動揺している間に2人は建物の奥へと走り去った。
  ただの泥棒ってわけではなさそうだ。
  かなり腕が立つ。
  何者だ?
  「大丈夫?」
  「ああ」
  ショットガンを拾いながらポールソンは呟いた。
  よし。
  誰も怪我していない。
  「追うわよ」
  3人で建物の奥に。
  相手はかなりの手練れのようだから油断は禁物だ。長い廊下を歩く。その廊下の左右には扉が幾つかあるけど全て開いていた。クリアリングしながら進む。
  その時……。
  「主、あれを」
  「ん?」
  誰か倒れている。
  部屋の中に倒れている。
  「オラクルっ!」
  「……お姉さん……」
  「大丈夫なの?」
  「ごめんね、僕が鍵のことを話しちゃったから……」
  「いいのよ」
  その件に関してはグリン・フィスから聞いている。私が不注意だったというのもある、グリン・フィスにもっと言い聞かせておくべきだった。その鍵が誰かさんにとっては価値あるものだと。グリン・フィス
  も私もその価値は知らないけど、オラクル自身も知らないけど、リベットで思わせ振りな態度で鍵が宝箱のもののように振る舞ったのは間違いだった。
  もっと注意するべきだった。
  「鍵は?」
  「あのお姉ちゃんたちに……」

  「きゃははははははっ! 引っ掛かったわね、ボケナスハンターめっ!」

  後ろっ!
  バタンと音を立てて扉が閉じた。ポールソンがショットガンの銃底で叩くものの扉は堅く、開かない。
  グリン・フィスが腰を低くする。
  抜刀の構えだ。

  「お姉さま、どうしましょう?」
  「そうね。それならハンターさんに……落ちて貰いましょう」
  「きゃははははははははっ! 死んじゃえーっ!」
  「今のうちに逃げちゃいましょう」
  落ちて?
  それはどういう……。



  「いつつ」
  数分後、私は目を覚ました。
  地下か。
  くそ。
  どうやら床が抜けたらしい。
  あんな部屋にオラクルを配置して置くあたり奪還する者たちを想定していた可能性がある。用意周到なことだ。
  「皆は、いる?」
  「いるよ」
  退屈そうにハーマンは答えた。可愛らしく木箱の上にちょこんと座っている。
  オラクルもいるしポールソンもいる、グリン・フィスも。
  武器もそのまま。
  しかし暗いな、天井は閉じているようでわずかな隙間から光で洩れて来るだけだ。PIPBOYの照明を点ける。
  狭い、狭いな、ここ。
  幾つか木箱があるだけの部屋で特に何もない。
  扉もない。
  となるとあの部屋の元々の用途は始末予定な来客を落とす為の物なのか?
  厄介だな。
  だが落とす方法が間違ってる。
  武装なしで落とす前提なのだろう、武器外して寛いでいる時に落とすのが本来の用途。今の私は完全武装だ。登るのは簡単そう、木箱を積み重ねれば届きそう。
  グレネードランチャー付きのアサルトライフルを天井に向ける。
  この距離だから破片はともかくとして、バックファイヤーで死ぬことはないだろ。
  「皆、伏せて頭を護ってて」

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発。
  破片が降り注ぐ。
  天井は撃ち抜いた。木箱を積み重ねるように指示。積み重ねていると上から顔が2つ覗いた。
  チャーンスっ!

  バリバリバリ。

  アサルトライフルを掃射。
  顔は引っ込んだ。
  素早く弾倉交換、この状況だからこちらは不利だ。
  「急いで積んでっ!」

  「今のうちに片付けちゃいましょう」
  「きゃー、逃げちゃおっと」

  何かが視界に入る。
  手榴弾っ!
  やはりそう来たか。私の能力は弾丸に関しては視界に入る限りは自動発動でスローになる、手榴弾は無理。ならば偏頭痛するけど任意発動の能力で時間を可能な限り止めるまで。
  「Cronusっ!」

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  心臓が脈打つ音が響く。
  手榴弾が投げ込まれる瞬間で時間は停止、私はアサルトライフルではなくミスティックマグナムを構える。連続で弾丸を吐き出せるアサルトライフルは頼もしいが命中性に欠ける、撃っている
  間に銃口がぶれる。万が一外すと死ぬ。それだけはどうしても避けたいですね、当たり前ですが。
  照準を定める。
  発射っ!
  「へー、凄い能力。欲しいな」
  「……っ!」
  ハーマンの声がしたような?
  気のせい?
  気のせいだろー。
  時間は通常の流れを取り戻す。

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発音。
  上の方で2人の悲鳴も聞こえたような?
  爆発に巻き込まれていたならラッキーだ。
  「ハーマンとオラクルはここにいて、見てくる。ポールソン、グリン・フィス、着いてきて」
  「御意」
  木箱を登る。
  3人で周囲を警戒。
  「逃げられたか」
  死体がない。
  逃げたのだろうか?
  いや。
  「ほんっと、しつこい奴ねっ!」
  「お姉さま、こんな奴、やっちゃいましょうっ!」
  「そうね、やっちゃいましょっ!」
  「悪いわね、死んでチョーダイっ!」
  逃げるのをやめたってことか。
  このファンシー姉妹、どの程度の強さなんだ?
  「主、お気を付けを」
  「分かった」
  わざわざ彼が警告してくるんだ、油断ならない敵なのだろう。
  気は抜けない。
  私たちは対峙し合う。
  お姉さまと呼ばれていた方が笑った。
  「そういういえば自己紹介がまだだったわね、私はボニエ、この子がクライヤ」
  「ボニエ&クライヤって言ったら有名だよー」
  知らないな、私は。
  だがクライヤのあの跳弾撃ちは見事なものだった、同じことやってみろと言われても私は出来ない。こいつらただの泥棒ってわけではなさそうだ、裏打ちされた力がある。
  そう考えたら姉のボニエって奴の方も何らかの隠し玉があるのだろう。
  だけど相手は無手だ。
  暗器?
  かもね。
  油断なく銃を構える。一発でも当てたら私たちの勝ちだ。接近戦出来てもグリン・フィスがいる。完璧だ、こっちの布陣は。
  「降伏しなさい」
  「降伏?」
  「ええ」
  「こいつはお笑いね、ギッタギッタにしてあげるわっ!」
  ボニエが構える。
  無手で。
  体が青白く光っていくような……。
  「主、来ますっ!」
  「暗黒舞踏っ! ボンバイエっ!」
  えっ?
  その瞬間、私たちは壁に叩きつけられていた。
  な、何だ?
  「ふん、こんな程度なの?」
  「お姉さまー、強いー」
  グリン・フィスがゆっくりと立ち上がる。私たちはまだ駄目。ポールソンの視線は定まらない。
  「斬っ!」
  鋭い気合いとともにグリン・フィスが斬り込む。
  ボニエは低く鼻で笑い、ショックソードの刃を回避、回避しつつ彼の利き腕に蹴りを叩き込む。一瞬体勢を崩すグリン・フィス。
  「アイアン・フィストっ!」
  「がはぁっ!」
  決定的な一撃をグリン・フィスは腹部に浴びて後ろに滑る。ずざざざざと床を滑りつつも、それでも屈せず構え直す。
  今のは氣っ!
  そうかボニエは橘藤華と同じ氣の使い手なのかっ!
  暗黒舞踏とやらも氣なのだろう。
  「なかなか耐えるわね、じゃあ、これはどうっ!」
  淡く光り始めるボニエ。
  さっきのやつかっ!
  グリン・フィスは抜刀の姿勢。相手の攻撃を迎え撃つつもりか。
  「暗黒舞踏っ! ボンバイエっ!」
  「斬っ!」
  2人は交差、次の瞬間には再びグリン・フィスが吹き飛ばされた。何となく見えた、相手はあり得ない瞬発力でグリン・フィスに肉薄しパンチとキックを乱打していた。とはいえただの物理
  攻撃ではないのだろう、氣の力で攻撃力が上昇している。そうでなければグリン・フィスが遅れを取るはずがない。
  強いぞ、こいつ。
  まさかグリン・フィスが動きを完全に止められるなんて。
  「クライヤ、そっちも決めちゃんなさいっ!」
  「きゃはははははっ! 死んじゃえーっ!」
  クライヤがこちらに向ける。
  あらぬ方向に。
  跳弾撃ちは回避が難しい。だったら撃たれるまでに撃つまでだ。
  能力発動っ!
  「Cronusっ!」
  時間停止、ミスティックマグナムを構え、発射っ!
  そして時は動き出すっ!
  「ズキューン、ドキュー……あれ?」
  クライヤの手元に銃はない。
  私が弾き飛ばした。
  つっ。
  偏頭痛がする、意識をしっかりと戦闘に集中しないと。能力は使い勝手が良いけどこの偏頭痛が曲者だ。使い過ぎると容易に集中が途切れてしまうようになる。
  クライヤは唖然ととしている。
  無力化した方は無視しボニエに銃を向けた。
  「動くな」
  ボニエはグリン・フィスにトドメを刺すべく構えていたものの、その構えを解いた。
  グリン・フィスの足は少し震えながらも立ち上がる。
  よほど重い一撃だったのだろう。
  ポールソンも復帰。
  形勢は逆転だ。
  総合的にはこちらが覆したけど、単体で戦っていたならまず負けてた。そして相手が最初から本気なら……考えたくもないな。
  いるものだ、上には上が。
  ボニエ、橘藤華とどちらが強いのだろう。
  「あんた、何者よっ!」
  「ミスティ。よろしく」
  「ミスティ? あー、赤毛の冒険者さんか。ふぅん。これはこれは、大物が来てくれたわね。ようこそ我が家に。クライヤ、降参しましょう」
  「はい、お姉さま」
  何考えてる、こいつら?
  ポールソンとグリン・フィスがそれぞれ構えて私のカヴァーする。
  クライヤの銃は吹き飛ばしたけどボニエはあの妙な体術がある。氣の力か、まさか橘藤華もあんな技使うのか?
  だとしたら嫌だなぁ。
  「それで赤毛の冒険者さん、何がお望みかしら? まさか、押し込み強盗?」
  「あんたらが強盗した物の回収。それと鍵を返しなさい」
  「鍵? ああ、これか」
  鍵を取り出すボニエ。
  その鍵を見ながら笑みを浮かべている。
  「宝箱の鍵なんでしょ、リベットでそう聞いた。駄目よ、そんなの公言しながら歩き回っちゃ」
  「公言したつもりはないけど結果としてはそうなったわね。気を付ける。だから返せ」
  「欲しいの?」
  「返せ」
  「ほぉーらっ!」
  ボニエが鍵を投げる。
  その時、私たちの視線が鍵に集中する。姉妹は踵を返して走り出した。まずい、逃げるつもりかっ!
  追う私たちに対し、ボニエは反転、こっちに向かってくる。
  えっ?
  「あんたらほんとにバーカっ! 暗黒舞踏っ!」
  しま……っ!
  虚を突かれた私たちはボニエの怪しい動きに翻弄され、重いパンチとキックの洗礼を受ける。後ろに吹き飛ばされる私たち。
  ちくしょうっ!
  氣の力なんて反則だっ!
  私の能力?
  無問題っ!ジコチュー
  だが2人はそこには留まらずそのまま走り去った。
  「逃げるわよ、クライヤっ!」
  「待ってー、お姉さまー」
  逃げるのか。
  なかなか侮りがたい敵だな。こいつら能力がかなり高いけど無理押しせずに引くだけの冷静さがある。一番嫌なタイプだ。
  立ち直りは私が一番早かった。
  「あ、主」
  「そこで寝てて。私が追うっ!」
  走り出す。
  あの姉妹はお茶らけた戦闘スタイルだったんだからどこかでまた仕掛けて来るのか?
  逃走ごっこか?
  出入り口に近付くにつれて振動音がする。
  エンジン音?
  まずい、建物前に停められていた装甲車かっ!
  響く発進音。
  タイヤが急回転して遠ざかって行く。
  逃げられたっ!
  「くそ」
  建物から出るものの、くそ、ショッキングピンクに塗装された装甲車は彼方へと走り去っていく。
  あの距離だ、どんな攻撃も届かない。
  そもそも攻撃が通らない。
  ミスティックマグナムなら?
  貫通するかも。
  だが距離が問題だ、完全に射程外。走ったところで追いつく筈もないしご都合主義でベルチバードが飛んでくるわけでもない。
  逃げられた、か。
  仲間たちも出て来る。
  私は肩を竦めた。
  「お手上げよ」

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  その瞬間、装甲車が爆発した。
  炎上し黒煙を上げている。
  私は何もしていない。
  仲間たちも何もしていないだろう、そんなフラグは立ててない。どこからも攻撃されていなかったし整備不良の結果、なのか?
  「……まあ、いいか」
  コレクションは無傷なんだ。
  敵が勝手に吹っ飛んだところで知ったことではない。
  こういう結末もたまにはありだろう。
  帰るとしよう。

  コレクション奪還完了。
  ボニエ&クライヤ、撃破。






  その頃。
  旧ドゥコフ邸に隣接したビルの屋上。
  3人の女が屋敷と爆発した装甲車を見下ろしている。
  「邪魔者は排除しなきゃね」
  「まさかボニエ&クライヤが関わって来るとは思わなかったけど、まあ、良い結末だわ」
  「そうね、あいつらが生きてる報酬に関わってくる」
  この3人。
  姉妹。
  ジェリコが放った12人の刺客のメンバー。
  ボニエ&クライヤはそこには含まれていなかったものの、あの2人は性格的に戦いを好まなかっただけで、実力面は実はミスティたちと拮抗していた。欠員した刺客に彼女らがジェリコによって
  加えられたら活躍の場が奪われかねない。だからこその排除だった。出る杭は打たれるというわけだ。
  無関係だった2人にしてみたらたまったものではないが。
  3人は呟く。
  「どうする、ここからスナイプしてミスティたちを始末する?」
  「我々は馬鹿ではない。あの女に勝てると思って挑んだ勢力は今まで返り討ちに合っている。ここは当面の予定通り、用意周到に、じわじわと攻めるとしましょう」
  「あたしらベリー3姉妹が巨万の富をこの手にっ!」