私は天使なんかじゃない
帰らぬあの人を探して
時に想いはすれ違う。
「青いゴーグルをしています。それがハントです。よろしくお願いします」
そう言ってアリーと名乗る女性は深々と頭を下げた。
……。
……それが2日前。
アンジェラから前金としてラッキー・ハリスの所から弾薬をゲットした時、アリーという女性をアンジェラが呼んできた。礼儀正しい女性だったな。
助けなきゃ。
グリン・フィスはお子様たちを任せ、リベットの鍵開けも頼んだのでここにはおらず。
とはいうソロでもない。
ラッキー・ハリスからは別の依頼もされた。
これはウルフギャングから頼まれたことと同じでDr.ホフの行方のことだった。
近い内にカンタベリー・コモンズにも行くとしよう。
さて。
「ここがシェイル・ブリッジ、か」
周囲には何もない。
だだっ広い荒野に岩がごろごろしている。見通しは悪くない。敵は、いないな。そんな岩場の所に穴が一つ空いている。大きい。ここに潜るのか、あんまり気が進まないな。
蟻はー、見当たらない。
場所はリトル・ランプライトの北部。
この辺りはスパミュの勢力範囲内のはずだけど今のところ遭遇はしていない。色々と勢力図が塗り替えられている昨今なのでこの近辺には今はいないのかな?
まあ、油断はできないわけですが。
武装は完全武装。
防刃コートも来てるしお気に入りの帽子、強化型コンバットアーマー、ミスティックマグナムにグレネードランチャー付きアサルトライフル。
弾薬?
ふんだんに。
「コマンダー・ルージュ」
「何?」
そう。
今回はソロってわけでもない。
ちゃんと仲間がいます。
アンタゴナイザー。
カンタベリー・コモンズにいる蟻の女王。
仮面ライダー……いえ、蟻ライダーのコスプレをしている悪の女王、現在は正義の味方。
腰には10oマシンガン、ナイフ。
だけど最大の武器は能力。
彼女はmaster系の能力者ってことになりますね、エンジェルの話では。私の能力とはまた別系統ってことで、能力同士の反発もないらしい。
何故彼女がここに?
それはラッキー・ハリスとともにいたから。
そして目的が同じだから。
私自身は介入してないので何とも言えないんだけど、グレイディッチでストレンジャーとぶつかった時にアンタゴナイザーは能力の限界を超え、最近までダウンしていたようだ。そこから
復活したのでDr.レスコとかいう奴が初めて研究の全てを破壊する為に巨大蟻を追っていた、というわけだ。それがシェイル・ブリッジの女王蟻。
ある意味で目的が同じなので組みことになりました。
メカニスト?
相方の彼は別件の仕事で手が離せないそうだ。
「どうした、アンタゴナイザー」
「あれを見て」
「あれ」
指差す方を見る。
んー?
3人組がいる。
見たことがあるな、イッチ、ニール、サンポスだ。
「はははっ! 女王蟻のフェロモン、こいつでナタリーは俺のものだぜっ!」
「兄貴はそんなものに頼らないと女も口説けないのかよ。ニヤニヤ」
「だからいつも言うけど喧嘩なんて……っ!」
毎度の喧嘩か。
そんなにナタリーって人は美人なのか?
……。
……って何でこいつらがここにいるんだ?
話している内容的に女王蟻絡み。
アンジェラが頼んだ?
まさか。
そんな話は聞いてない。
「あー」
あの時こいつらその場にいたな、ゲイリーズ・ギャレーにいたな、盗み聞きしてたのか。
まあいいや。
無視しよう。
「アンタゴナイザー、改めて言うけど私はハントって人の救出だからね。そちらと違って女王蟻の討伐じゃない」
「分かってる」
「でも、状況が許せば力を貸す。ハントの身の安全が保証出来たらね」
「分かってるわ。救出対象を危険にさらしてまで戦って欲しいとは思ってない。行きましょう」
「ええ」
穴に近付き、降りる。
中は真っ暗というわけではない。ところどころキノコのようなものが生えているけどそれが青く発光している。何故発光しているかは不明。放射能……いや、考えないことだ。
PIPBOY3000のライトをオン。
これで周囲が見える。
敵にも発見されるだろうけど問答無用で奇襲されるよりは全然良い。敵は蟻なんだ、視覚に頼らずとも触覚でこちらの位置が特定できるだろうし。
アンタゴナイザーも降りてくる。
「行きましょう」
「ええ」
歩き出す。
どの程度の広さかは分からないけど、もしかしたら蟻はそんなにいないのかな?
少なくとも外には群れてなかった。
想像では入るまでに苦労するイメージだった。
まさか別の入り口があるのか?
そこが狩りの出入り口?
かもね。
その可能性はある。
元々ここはただの洞窟だったにしても蟻たちが住んでいるのだからある程度拡張していてもおかしくない。ここは蟻の巣穴なのだ。
気を付けなければ。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
「つっ!」
爆発音が反響する。
一瞬聴覚が奪われる。アンタゴナイザーは私をいきなり引っ張って歩き出す。抵抗する間もなく私は付いて行く。
ドゴン、ドゴン、ドゴンっ!
落石の嵐。
……。
……あー、あの場に留まっていたら潰されてましたね。
あ、危なかった。
さすがに死ぬ。
確実にお陀仏でした。
耳の聞こえが戻ってくる。
「あ、ありがとう、アンタゴナイザー」
「しっ」
「……?」
「何か聞こえる」
「……」
「はーっはっはっはっ! これでナタリーは俺のもの……うお、兄貴、何でここにいるんだっ!」
「アホかお前が爆発物持っているのは知ってたんだよ、ニールっ! 入ってすぐに出たんだ、お前が爆発物をセットしている間になっ!」
「何やってるんだよ兄さんたちっ!」
あいつらかぁーっ!
出入り口が封鎖されてしまった。
落石で死ななかっただけマシなんだろうけど、まずいな。
「心配ないわコマンダー・ルージュ。蟻の習性として出入り口はいくつも作っているものよ」
「さっすが女王様」
「ほーっほっほっほっ! 蟻を司りし者アンタゴナイザー様に掛かればこの程度の問題なんてお茶の子さいさいよぉーっ!」
「……」
恩人です。
恩人なんですけどこのノリには付いていけんなー。
とりあえず出口の心配は後にしよう。
またアホ兄弟の所為で爆破されてもかなわないしさっきの爆発で落盤があっても困る。いくら私でも落盤相手だとどうしようもない。
歩き出す。
すると……。
「蟻がいるわ」
「人もいるけど」
一匹の蟻がいる、そして白衣のおっさん。誰だか知らないけど別に蟻に襲われているわけでもない、蟻にもその兆候はない。
アンタゴナイザーが呟いた。
「ただのジャイアント・アントね、あれ」
「火を噴くやつじゃないの?」
「違う。普通のやつ。よくは分からないけど、もしかしたらDr.レスコが弄らなければ火吹き蟻は生まれないのかもしれない」
「だとしたらラッキーね」
アサルトライフルを撃つ。
蟻撃破。
銃声で蟻が寄ってくるかもしれないけど仕方ない。しばらく周囲を確認、増援は、なさそうだ。
警戒を解いておっさんに近付く。
「あんた信じられるかっ! ここの蟻には知性があるのだっ! 実に興味深いっ!」
人がいた。
白衣のおっさんが何か叫んでる。
どっかの科学者か?
七三分けの、口髭の中年男。
「あなたハント?」
違うと思うけど。
「ああ、そんな奴は奥にいたな。ここをまっすぐ、突き当ったら左だ。卵の世話係として飼われている人間たちがいるぞ」
「そう。ありがとう」
お礼を言って通り過ぎる。
関係ないならどうでもいい。助ける助けないじゃなくて、何か今の人はこの場所を楽しんでいるみたいだったし。
私はアンタゴナイザーに囁く。
「あれってDr.レスコって奴の仲間?」
「分からない。あんなのはいなかったと思うけど」
「スルーでいいよね?」
「ええ」
全く無関係の蟻の科学者ってところか?
まあ、良い情報源ではあった。
言われた通りの道順を進む。
「ギチギチギチ」
蟻だ。
蟻たちが向かってくる。
「攻撃開始」
「ほーっほっほっほっ! 正義の味方に死角なしっ!」
戦闘開始、そして終了っ!
銃さえあれば巨大蟻なんて怖くない。まあ、見た目は怖いですけどね。昆虫はでかくなるとグロテスクだ。小さくても苦手だけど。
「ふん、つまらない」
わざわざポーズまで決めたアンタゴナイザーはそう吐き捨てた。
「行きましょう、アンタゴナイザー」
「ええ」
まっすぐ進み、突き当り、それから左に。
小さな穴が無数にある場所に出た。
その穴の中は蟻、いや、人間がいる。私たちに気付いて人間たちが這い出してきた。
結構いるな。
13人ぐらいいる。
見た感じまだ穴の中に人がいるけど死んでいるのか、寝ているのか、判別がつかない。一様にこちらを見ているけど全員に生気はない、私たちに対しての興味もないように見える。
誰も何も言わない。
ただ、1人だけ生気を宿した目をしている青年がいるのに気付いた。
青いゴーグル?
あー、たぶん彼か?
「ハント?」
「そうだが、あんたは? ……ん? 待てよ、あんたもしかして俺のファンか? 俺もハンターとして有名人になったもんだぜっ!」
「はっ?」
「……違う、ようだな」
「うん」
「……」
雰囲気が気まずいんですけど。
こいつ有名なハンターなのか?
よく分からない。
まあいい。
要件を済まそう。
「私はミスティ」
「ミス……まさか、あの有名な赤毛の冒険者かっ!」
「ええ、まあ」
「サインくれっ!」
何なんだこいつは、脱線しまくりだろう。
本題に戻す。
「アリーが心配してる、帰りましょう」
「アリー、そうか、アリーに頼まれたのか」
「正確にはアンジェラがアリーに罪悪感を覚えて私を寄越したの。もちろんアリーも心配してる」
「そうか。そうなのか。別にアンジェラのことは恨んでいない、仕事だからな」
「帰りましょう」
「そうしたいのは山々なんだが……帰れないんだ」
「帰れない?」
「ああ」
何でだ?
手ぶらでは帰れないって意味か?
「女王蟻のフェロモンがないと帰れないってこと? 気持ちは分かるけど欲の為に死ぬことは……」
「そうじゃない、無理なんだ、ここから出ることが」
「どういうこと?」
「女王蟻の所為だ、あいつに俺たちは何かを嗅がされたんだ。蟻たちは徘徊しているが俺たちだってただ捕えられていたわけじゃない。出口は分かってる。でも、逃げようという気持ちが湧かないんだ」
「もしかして、蟻たちはあなたたちを襲わない?」
「それが?」
「なるほど」
そうか。
餌っていうよりも卵の世話として飼われているのか。
何を嗅がされているのかは知らないけど、その匂いが彼らをここに縛り、蟻たちを攻撃させないようにしているのだろう。多分雑魚蟻からしたらここの奴隷は同類の類として認識されているのかも。
だから襲われない。
匂いにより一時的に人間蟻ってカテゴリーなんだろうか。
さて、どうするか。
「アンタゴナイザー、見当は付く?」
「さあね。それよりもどうするの、あなたの仕事は救出なんでしょ?」
「手助けてしてくれてこのまま帰るのも忍びないと思ってた。倒しましょう、女王蟻を」
「さすがはコマンダー・ルージュね」
「どうも」
その呼び方、何か照れくさいですね。
「それで作戦は?」
「私が女王蟻の所まで行くから、アンタゴナイザーはこの近辺の蟻たちを全部倒して。支配してくれてもいい。女王蟻を倒したらたぶんハントたちは支配から解き放たれる、その時雑魚蟻たちが
ハントたちを襲う可能性が高い。そうさせないためにも蹴散らしてほしい。もちろんそれが終わったら合流して、加勢に来て」
「一緒に行動した方がよくない?」
「確かに効率はいい。でもこの近辺の蟻倒している間に女王が気付いて兵隊差し向けてくる、そうしたらカオス。逃げ場所ないんだから、私らはともかくとして彼らが危ない」
「確かにね」
「分担しましょう。問題は?」
「ないわ。さあ、正義の味方、始めましょうかっ!」
随分と変わったものだ、彼女も。
もちろん良い方向に。
その場は別れ、私は単独行動で洞穴を進む。
ここは元々ただの洞穴でグレイディッチの女王蟻が越してきたことにより蟻の巣となった。そういう場所のはずだ。
越して来てから大した時間はまだ経ってない。
蟻はそういないのだろう、アンタゴナイザーと別れてから遭遇していない。
……。
……数がいないというのは間違いかも?
動物ならいざ知らず昆虫だ、増える量は桁違いのはずだ。巨大なミュータント昆虫でも?
うー。
考えたくないものですなぁ。
だとしたらいないのではなくどこかに群れていると見るべきか。
開けた場所に出る。
あー、群れてますね。集結してますね。
たくさんいます。
うんざりだ。
「ふぅん」
ひときわでかい奴がいる。
あれが女王蟻か。
でかいな。
小型トラックほどある。
そしてはこの空間の中央に坐し、周囲は蟻に護られている。まさに女王ってわけね。その真上には巨大な穴、あそこからここに降りて住み着いたようだ。
あちこちには産卵の後、つまりは卵が山盛り。
岩場があったり高低の差があったりする。
あれだけ巨体だから高低があるのは助かる、つっかえて女王蟻が追って来れないし、岩場に隠れたりしてやり過ごせるだろう。
アサルトライフルを構える。
向こうはまだ気づいていないんだ、最初の一撃は無条件に入る。
私のアサルトライフルはグレネードランチャー付き。
以前リベットシティで改造して貰った。
食らえっ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
周囲の蟻ごと女王を吹き飛ばす。
勝ったっ!
「ギギギっ! ぎぎぎっ! アンギャースっ!」
爆炎の中から女王蟻が姿を現した。ふむ、さすがにあれでは死なないか。雑魚蟻たちは吹き飛んでいるけど、数が尋常じゃない、一斉に私を敵認定して動き出す。
やはり女王は簡単ではないか、雄たけびを上げる。
かかれーっ!とでも言っているのか?
厄介だ。
アサルトライフルを撃ち蟻たちを蹴散らしながら後退。
蟻たちは簡単に蹴散らせるけど女王蟻の攻略方法を考えないとな。
女王蟻が口を開き、何か液体のようなものを吐き出した。
咄嗟にコートで顔を覆う。
じゅー。
音を立ててコートは劣化、ぼろぼろとなった。
あぶねぇーっ!
酸かよ、あれっ!
防刃コートを捨てると同時に酸の唾液が再び飛んでくる。私は転がって回避、その際に帽子がなくなるも気にせず走る。
断続的に酸が飛んでくる。
走りつつ群がる蟻たちをアサルトライフルで蹴散らし、私は岩影に隠れた。
じゅー。
酸が岩に飛んでくるもさすがにこれは溶かせないようだ。
身を乗り出しアサルトライフルを乱射。
当面の敵はジャイアント・アントどもだ。次々と卵から孵ってくる。
キリがないな。
おおっと。
じゅー。
酸が飛んできたので岩陰に隠れた。
女王蟻はでかいので一定のフィールドからは出られない、つまり歩いてここまでは来られない、高さがないからだ。なので酸さえ気を付ければ大丈夫だ。
問題はアリどもだ。
どんだけ生んだんだ、女王。
ちまちまと倒している場合じゃないな。
ふんだんに弾丸があるとはいえ全部殺すとなると骨だ。
ならば?
ならばまとめて吹き飛ばすっ!
身を乗り出しグレネードランチャー発射っ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
集積されている卵を消し飛ばす。
さらに密集している蟻、女王にもそれぞれ装填して叩き込む。
連打連打連打ーっ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
昆虫に恐れ、というものがないのかもだけど圧倒的破壊力の前で恐れなど関係ない。
破壊する、それだけだ。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
女王蟻が雄叫びを上げる。
あいつ本当に元々はただの蟻なのか?
グレネード叩き込まれてまるでビクともしない。頑丈過ぎる。化け物だ。
「こんのぉーっ!」
バリバリバリ。
アサルトライフル連射。
グレネード弾は残り3発か、装填、発射×3っ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
やったかっ!
弾倉交換、わらわらと群がるアリどもを蹴散らす。
爆発の煙の中から現れるのは……。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
「マジかっ!」
若干体が吹き飛んではいる、足が2本ほどなくなっているし、触覚が1本ないし、全身がぼろぼろだし、なんだけど女王蟻は動いてる。
頼りなくだけど動いてる。
もうグレネード弾はない。
5発叩き込んだんだぞ、こいつどんだけタフなんだっ!
少なくとも。
少なくともベヒモスよりタフだろ、あの時はグレネード弾はなかったけど、ここまでデタラメな耐久力でもなかった。
化け物か。
バサっ!
翼を広げる女王蟻。
まさかこいつ、逃げるのかっ!
バサ、バサ、バサっ!
羽ばたく。
次第に体が宙に浮き始める。
逃がすかっ!
アサルトライフルを捨ててミスティックマグナムを引き抜く。その時、群がってくる蟻がハチの巣となる、アンタゴナイザーだ。それだけじゃない、蟻たちは同士討ちを始めた。
アンタゴナイザーの能力か。
助かる。
協力感謝っ!
バサ、バサ、バサっ!
「コマンダー・ルージュ、逃げるよっ!」
「こんのぉーっ!」
飛翔し、上昇し、洞穴から脱出しつつある女王蟻に向けて私はミスティックマグナムを連射する。
12連射っ!
的はでかいし今の私なら外さないっ!
全弾命中っ!
ミスティックマグナムはパワーアーマーですら貫通する、なので女王蟻ですら貫通するはずだ。たぶん。ただ私は重点的に狙ったのはボティではない、羽根だ。
万が一に備えて一撃必殺で仕留めるよりも逃がさないという方針で撃った。
結果。
「キ、キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
飛翔する力を失い落下。
そして高さがある、落下ダメージが追加。女王蟻は地面にめり込むようにして横たわっている。ギリギリまで飛翔を許したのも落下ダメージを狙ってだ。
しかしタフだ。
あれでまだ生きているなんてね。
雑魚蟻たちは未だ壮絶な同士討ちを始めていて私には目もくれない。
ふぅん。
アンタゴナイザーのようなmaster系って敵でしかいなかったけど仲間にすると便利だな。
欠点として特定の生物限定の能力ってことだけど。
でも今回組めてラッキーだった。
「アンタゴナイザー、あなたがやる?」
「私はこいつらを同士討ちさせるから任せる。トドメを刺して、Dr.レスコの研究を終わらせるのよっ!」
「分かった」
空の薬莢を捨てて再装填。
女王蟻に銃口を向ける。
「グッバイ」
その頃。
リベットシティ。
「合わない、という以前に、全て開いているな」
グリン・フィスは呟きながらロッカーが山積みとされた下層デッキの一室にいる。
オラクルの鍵に合うロッカーを探す。
それがミスティからの任務。
だが大半の、いや、全てのロッカーは開錠済み。それはそうだろう、前後のドサクサで荷物は持ち出されただろうし、リベットシティ創設の際にも物資探しの一環でロッカーの扉は破壊されている。
今のところ鍵に合うものはない。
「どこのかは知らないんだな?」
「知らない。ううん、ここのかも分からない」
「そうか」
グリン・フィスとオラクルはそう言葉を交わし合う。
この場にハーマンはいない。
ハーマン・グラスフィル。
稀代の黒魔術師であり、その魔力はフィッツガルド・エメラルダを遥かに超える。ただシェオゴラスと組み、ダンウィッチビルを異界化したことにより魔力は失われていた。本来なら、これが
タムリエルなら自然と魔力が回復するもののこの世界にはそもそも魔力の流れがない。彼女は魔王を利用するが、魔王の加護があるわけでもなく、そこから魔力の充填も出来ない。
だから。
だから今彼女はこの世界に身を置き、帰る手段を模索している。
コツ。コツ。コツ。
リベットシティの通路を歩く。
ダンマーが存在しないこの世界では特異な顔色な為、人々に奇異の目で見られるもののハーマンは気にしていなかった。
立ち止まる。
「……」
じっと天井にある代物を見る。
それはカメラ。
セキュリティカメラ。
戦前の代物であり現在のリベットシティのセキュリティに用いられているわけではない。
ハーマンは見ている。
じっと見ている。
微笑して呟いた。
「へぇ、面白い、この世界の神様がこっちを見てる」