私は天使なんかじゃない
その少女、危険につき
綺麗な薔薇には棘がある。
可愛い少女には……。
オラクルの持つ鍵で開けれるものがリベットシティにある、かも知れないという情報を入手。
私は翌朝、リベットに向けて旅立つ……はずだった。
「お姉さん」
「ん?」
完全武装、旅の為の食料や飲み物を持って家を出た時、オラクルが指を差す。
指差す方向を見ると……。
「おはよう」
「どうも、モニカ」
レギュレーターのモニカがいる。
彼女1人だ。
「晴れてよかったわね。お出かけ?」
「ええ、まあ」
「そう、なら簡潔に言うわ」
「仕事は困るんだけど。今からリベットに行くし」
オラクル連れてね。
特に意味はない。
もしかしたらリベットで何かを思い出すかもしれないと思って連れて行く。そもそもリベットにいたかも謎だけどさ。
この子の記憶が曖昧なのだ。
何かの刺激になると思ってのこと。
このままメガトンに置いておいてもいい。レギュレーターが警備に関してはしてくれるみたいだし、保安官助手やら街道巡回の警備兵の出入りも多いし。もちろんそれでも警備には
穴がある、だからこそレギュレーターに昨日頼んだのだ。レギュレーターなら任せて安心だ。完璧な警備をしてくれると思ってる。
さて。
「ミスティ、昨日のチンピラの正体が分かったわ」
「正体? そんなに大層な奴らだった? 自惚れもあるかもだけど、レベルアップした今なら私1人でも片が付きそうだったけど」
「ええ、そうね。あれはただの雑魚よ」
「じゃあ、何が分かったの?」
「あいつらはガルシアに頼まれたらしいわ」
「ガルシア?」
はて。
心当たりがないな。
私が知らないだけか?
ありえるな。
わざわざ名前確認してから喧嘩してないからなー、私。
「何者なの?」
「レイダー、になるのかしら。暴走野郎のガルシアって小悪党よ。青いトサカの髪の奴なんだけど」
「知らない。そんな小悪党が何か用なの?」
「ジェリコの旧友なのよ」
「ああ、その繋がりか」
「そう」
ジェリコが放った12人の刺客絡みか。
忘れてた忘れてた、そういう展開もあったなぁ。
「チンピラたちは居場所は知ってた?」
「知ってたら生首添えて持参して教えているわ」
「……」
「何か?」
「……そっちで始末してくれる場合、わざわざ生首は持って報告はしに来ないでね。さすがに引くわー」
「意外に怖がりなのね」
「いやいやいや」
怖がりっていうか普通はそんな感性だと思うんだが。
だけどこれで鍵の件は分からなくなったな。
ジェリコの絡みで私はチンピラを差し向けられたのか?
だけどあいつらは何かを奪おうとしていた。
鍵か?
鍵だろうな、他に心当たりがない。
オラクル自身ってことはないだろ、さすがにあの時私のポケットにオラクルがいるなんてアホな発想はしてないだろうし。
「チンピラは何を奪おうとしてたの?」
「さあ」
「さあって……」
「そう言えって言わされていただけみたい」
「はあ?」
訳が分からない。
何らかのフラグなのか?
それとも本当に意味がないのか、まだ見極めが出来ない。
「そうそう、もう1つ報告」
「まだあるの?」
うんざりだ。
今から旅に出るのに。
「これは終わった話だからそう構えなくてもいいわ。ただ、別のことが始まっている気もするけど」
「何の話?」
「マダムが死んだわ」
「マダムが?」
前哨基地にいた奴だ。
組織を私が潰した後もわずかな生き残りを連れて今の今まで逃げていた女だ。
「始末したの?」
「これは一昨日の話。話が届いたのは昨日。奴の手下たちがマダムは死んだからもう追跡しないで欲しいと、ビッグタウンの市長にねじ込んだの。マダムの首には共同体も我々も賞金懸けてたし」
ビッグタウンの市長はビターカップだ。
共同体に属してる。
「それで?」
「ジョコのジュース・ガソリンスタンドという場所があるの。ギルダー・シェイドの近く。そこで遺体で発見された。ジェットやらモルパインを過剰摂取して死んでいたそうよ」
「自滅ってわけ?」
「手下曰く男に溺れた末路、だそうよ」
「男?」
「デリンジャーのジョン、マダムはそいつにあなたの始末を依頼したそうだわ。でも彼はすぐには動かなかった。その、マダムとイチャイチャ……こほん、していたそうよ。手下たちもそれに関しては
内心でイライラしていたみたいでね、最後に自首してきた時には部下は3人しか残ってなかった。残りは離散したそうよ」
「デリンジャーが、マダムと?」
わりとデップリしてたよな。
んー?
「いつの話?」
「いつの……依頼の時期ですか? 手下たちが言うには、バザーが人狩り師団に潰される前だそうだけど?」
「大体そのあたりに私はデリンジャーと会ったけど?」
どういうことだ?
依頼受ける前だったのか?
それともアマタたちと組んでデスクロー討伐をしていたから、私の抹殺を後回しにしたのか?
らしくないな、あいつ。
嫌な奴だけど徹底したプロだ。わざわざ数年前の依頼も、失敗したと悟ったら勝手に遂行する奴だ。ルックアウトでの一件を見る限り完全なプロフェッショナルだ。
それに依頼主と情欲に溺れるか?
らしくない。
らしくないなー。
「聞きたいんだけどレギュレーター的には、あいつはどうなの?」
「デリンジャーですか? ブラックリストには載ってますよ、第一級の標的です。ただソノラが単独では挑むな、挑むときは指示すると言っています。我々はそれを厳守している。そういう意味では
完全にスルーしてます。そもそもあいつは悪党に雇われて悪党を殺すタイプですからね、我々としても使い勝手はいいんです」
「勝手に潰し合うから?」
「そうです」
「ふぅん」
厄介な奴ではある。
けれどそこらの悪党よりはまともでもある。厄介だけどさ。
「とりあえず話は以上です。引き止めでごめんなさい」
「いいわ」
「ミスティ」
「何?」
「受難に満ち満ちるであろう旅をお楽しみください」
「……善処する」
私が動けば厄介が近寄る、それがデフォです。
嫌だなぁ。
おおぅ。
GNRの放送。
DJはお馴染み……。
『どうも、私は赤毛の冒険者ミスティです☆』
『なんてなっ! どうだ今の声帯模写、似てただろ、スリードックだっ! ラジオの前で俺の声で愛しのミスティ生放送だと思った奴は今すぐ耳鼻科行けよっ!』
『さて、最初のニュースだ』
『ここ最近は雨が降っているな。汚れた大地に汚れた雨が降る、何も作物が育たなくなったら何を食べればいいんだろう、そう考えたことがない奴はいないはずだ』
『Dr.マジソン・リーって知っているか?』
『浄化プロジェクトを手掛けた1人だ。残念ながらもう旅立ってキャピタルにはいないらしいが、そんな彼女が置き土産をしてくれた』
『それは土壌を必要としない作物の生産だ』
『現在は試験段階だがBOSが実用にこぎつけつつあるって話だ』
『水は浄化され、食べ物は新鮮、これからも努力は必要だ。だが状況はよくなっている、暗い顔せずに俺たちも頑張って行こうじゃないか、赤毛の冒険者みたいによっ!』
『ずっと無理だと思ってた、だが世界はよくなっている。大地だって蘇るさっ!』
『こいつは決してただの願望ではないと思うぜ、リアルな話さ』
『聞いてくれて感謝するぜっ! 俺はスリードック、いやっほぉーっ! こちらはギャラクシーニュースラジオだ、どんな辛い真実でも君にお伝えするぜ?』
『さて、ここでしばらく曲を流そうか』
4日後。
リベットシティで一番人気の料理店ゲイリーズ・ギャレー。私はリベットにはあまり足を運んではいないけど、いつも満員なのは知っている。
座るのに少し時間が掛かった。
今は座って、料理がテーブルに並べられ、飲み物も置かれている。
特別今日は忙しいのか、それとも毎日忙しいからなのかは知らないけどアンジェラっていう店員とは違う人が私の応対をしてた。
ここに来るのに4日も掛かったのはオラクルがいるから。
子供の足に合わせるたら時間が掛かった。
途中特に何も妨害はなかった、通行料せびってきたレイダー蹴散らした程度。今更レイダー1人で私を阻もうとは……まあ、ギャグなのかなー……。
「それで? シドニーと話し付けりゃいいの?」
「うん」
相席している女性に私は頷いた。
本来の目的ではないけど全く無関係ってわけでもない。シドニーの襲撃を何とかやめさせたいので私はシーに繋ぎを付けた。オラクルは難しい話が嫌なのか席を外している。
「お金かかるよ?」
「ちょっ、仲介料取るの?」
「そりゃ骨折るわけですから」
「……」
良い友達持ったなぁ(棒読み)
「仲介料だけじゃなくて、シドニーにも払うんだけど、どうもミスティは嫌っぽい?」
「私が? あいつに? 何でよっ!」
理不尽だ。
命狙われているのは私だぞ。
懇願料か?
命乞いの?
ふざけんなーっ!
「あの女さ、わりとというかかなり強引なのだよ、プッツンするとあたしでも無理。というか誰にでも無理。キャップ嫌なら物理的に止めるしかないねー」
「マジか」
「マジ。聞いた限りではエマラインを既に雇ったみたい。女傭兵。こいつもかなり過激な奴」
「うー」
何なんだ?
何なんだーっ!
私が一体何をしたっていうんだよーっ!
くっそー。
丸く収めたいものの私がキャップ払う義理はさすがにないぞ。そこまで譲歩するつもりは全くない。
「そうだ、何とかって館長がいるんでしょ。シドニーを雇ってた人」
「アブラハム・ワシントン?」
「それ。そのパチモンの名前の人」
「パチモンwww」
「ワシントンが仲介しても駄目?」
「あの爺さんはあの爺さんで前金踏み倒されてるかに完全に切れてるよ、仲介頼みにミスティが行けば、逆に抹殺を頼んでくるパターンっす」
「マジか」
「マジ」
嫌な展開だ。
とりあえず今度会ったら口先三寸で何とか手を引かせよう。
それが駄目なら?
物理的に排除するしかないな。
めんどい。
「何とか成果が出ればいいが。そろそろ彼も折れてくれないものか」
「まっ、頑張ってください」
知った顔が近くを通り過ぎる。
とはいえゲイリーズ・ギャレーは絶賛大混雑中。そんな席に座っている私には気付かなかったようだ。
今のはハンニバルとシモーネ・キャメロンだった。
リンカーン記念館の指導者と腹心。
何だってこんなところに?
「ミスティの知り合い?」
「えっ? うん」
「あれもワシントンの爺さんが切れてる理由。ミスティの本筋とは関係ないけど。リンカーンの品々を買い取りたいんだってさ。売るわけないじゃん、あの博物館命の爺さんがさー」
「あー」
そうでしたね。
前もリンカーン由来の品を買いに来てたな。
確かに堂々巡りだと思う。
どちらも大切にしているのだから。
「ともかく、シドニーを黙らせるには口の中にキャップを突っ込むか、その銃を口の中に入れてBINGするしかないってわけ」
「脅しは?」
「脅し、まあ、一時は大人しくなるだろうけどさ。とりあえずあたしが言えるのは、それだけ」
「うー」
「とりあえず話はしておく。でも解決にはならないからね、繋ぎを付けて程度だから」
「分かった。よろしく」
「しばらくはリベットにいるんでしょ?」
「ええ。やることあるし」
オラクルの持っている鍵、リベットにあるロッカーと関係があるっぽいし。どの程度あるかは知らないけどしばらくは掛かるだろう。
交渉はシーに任せよう。
何だかんだで彼女は頼りになるし。問題はシドニーの方だ、何とかっていう女傭兵とともに私を狙っているようだし、迷惑な話だ。
彼女は悪戯っぽく笑う。
「それでー、ミスティ?」
「はいはい、奢るわよ、今日は」
「さっすが持つべきものは親友ねー。ごちー☆」
「そのかわり、頼むわよ」
バイバイする。
シーが立ち去った後、私は料理に手を伸ばす。美味い。でも、ゴブの方の味付けが私には好みですなぁ。
いかんいかん。
ゴブの料理が恋しくなってる。
「いいかっ! ナタリーは俺に惚れてるんだ、諦めろっ!」
「現実逃避かよ、勝手に言ってろよ兄貴。ニヤニヤ」
「だから何度も言うけどホステス巡って喧嘩なんて……ああ、もうっ!」
またまた見知った顔がいる。
飲み食いしてる。
少し離れた席だけど。
イッチ、ニール、サンポス、だっけ?
相変わらず仲の悪い兄弟だ。
ん?
ナタリー?
どっかで聞いたような名前……あー、前にポールソンが良い女がリベットにいるとか何とかスティッキーに言ってたなぁ。
ホステスかぁ。
まあ、のせられる男がアホなんだろうなー、さすがにおだてるのは仕事だろうから私は責めれんし。
もっとも正真正銘の悪女なのかもしれないけど。
聞き耳を立てるわけじゃないけど噂話は楽しいものだ。
他に何か面白い話はあるかな?
「お姉さん」
「ん?」
オラクルが戻ってきた。
両手を後ろに隠している。
「お姉さん、あの人は帰ったの? お話終わった?」
「ええ」
「あのね」
「どうしたの?」
「お姉さんにはよくしてもらって、それでね、僕あんまりお金持ってないけど、これ、お礼っ!」
マグカップをテーブルに置いた。
甘いミルクの香り。
後ろ手に隠していたのはそれか。
可愛いですなぁ。
健気ですなぁ。
ふっ、ショタに目覚めそうだぜ(変態)デュフフ
「ありが……」
ドンガラガッシャーンっ!
世界が暗転。
……。
……あ、あれ、何で私は寝転がっているんだ?
何か突撃してきたような……。
「ママ、ママでしょっ!」
「はっ?」
誰かが抱き着いている。
女の子?
女の子だ。
状況が掴めずしばらく呆然としていたが、女の子を少し引き剥がして顔を覗き込む。
知らない顔だ。
当然ながらまだ出産はしていないし、こんな大きな子がいるほどの歳でもない。オラクルと同年代ぐらいの子か?
可愛い。
可愛いんだけど顔が異様に青い。
青白いとか顔色が悪いんじゃない、本当に青色。
周囲の人々も遠巻きにこちらを見ている。料理は完全にぶちまけられ、オラクルがくれた飲み物も床に飛び散っている。惨劇です。
「パパ、この人がママでしょっ!」
「こ、こらっ!」
んー?
パパと呼ばれた人物を見る。
「グリン・フィス?」
「お、お久し振りです、主っ! シェオゴラスによって空間に捕えられ、出て来たのは一昨日。時間の流れが狂った世界でして。その、主の行方を聞き、ここまで参上しましたっ!」
「ふぅん」
頷くものの大半は意味不明。
毎度のことですね。
「その子は?」
「そ、その、姪です、姪。ハーマンと言いますっ! ほ、ほら、主に挨拶をっ!」
「どもー☆」
「ふぅん。よろしく」
「僕の、プレゼント」
泣きそうなオラクル。
あーっ!
何かカオスな展開になってんぞーっ!
「ちょっとっ! 喧嘩なら余所で……あらっ!」
周囲の野次馬をかき分けてやって来る店員。
この店員は知ってる。
面識がある。
アンジェラだ。
女王蟻のフェロモンを使って誰かを落としたいとか言ってたな。強力な媚薬か何かなのだろうけど、そういうのって落としたというのだろうか?
「よかった、あなたなら頼りになりそうっ!」
「頼り?」
「今の今まで生きているんだから、腕が立つんでしょ?」
「まあ、それなりに」
私を赤毛の冒険者として認識しての発言ではないらしい。
別に名前が売れてるとかは興味ないけど。
頼み事は何となく分かる。
「女王蟻のフェロモン取って来るの?」
「それも出来たらでいいんだけど、違うわ」
「ふぅん」
「別の人に頼んだの、ハントってハンター」
ルックアウト帰って来てからここで宴会したけど、その時は何も言われなかった。そうか、その時は既にハントって人に頼んだ後だったのか。
「それで用件は?」
「ハントが帰ってこないの。婚約者のアリーに、その、凄い悪いと思ってる。だからハントを探してきて、連れ帰って欲しい。私はフェロモンで既成事実作って結婚したかったし、ハントはお金
ないから私の依頼受けて結婚資金にするって言ってて。その、お互いに良い取引だと思ったんだけど、まだ帰ってこないの」
「救出任務ね」
「そうよ」
時間はある。
シーがシドニーと話を付けるまでまだ時間はあるだろ、会わないことでシドニー的にも冷却時間になるかもしれない。無理か、無理っぽいなぁ。
「それで場所は?」
「シェイルブリッジ、そこにはグレイディッチにいた女王蟻がいるわ」
「ふぅん」
引っ越しですか?
蟻が?
「グリン・フィス」
「はい」
「頼みがあるわ、オラクル預かってて。それと、この鍵で開けれるロッカーあるかここで調べてて」
「しかし……っ!」
「お互い子供連れているんだから、どっちかが残らなきゃ。任せるわよ」
「御意っ!」
しかし蟻、か。
ルックアウト行っている間にブッチがグレイディッチで戦ったとか言ってた、逃げた女王蟻というのは今シェイルブリッジにいるってわけか。女王蟻の強さは知らないけどブッチ曰く蟻は
面倒臭いほどに数がいるらしい。ボルト87でのスパミュを思い出す。弾丸がいるな、たくさん欲しい。
「それでアンジェラ、条件があるんだけど」
「言って」
「弾丸が欲しい。アサルトライフルの」
「ちょうどラッキー・ハリスが来ているわ、一緒に行きましょう。あっ、ちょっと待って、父に言ってシフトから外れるから」
「分かった」
父、か。
このお店のお嬢様だったわけか。
「主、お気を付けを」
「当然」
シェイルブリッジに。