私は天使なんかじゃない






明日を追え





  憂いは捨てた。
  希望を感じろ。

  さあ、明日を追えっ!





  任務を受けて1日後。
  私は市長から車を借りて目的の場所に着いた。
  ナショナルガード補給基地。
  州軍の重火器が保管されていた場所。キャピタル・ウェイストランド東部に位置している。DC残骸の地域一帯にあるビル。
  「ここ、か」
  既にレギュレーターの人間が何人かその場にはいた。
  知らない奴らばかりだ。
  数は、8人。
  少ない。
  現在キャピタル・ウェイストランドは混乱している。いや、正確には混沌としている。レイダー連合にしてもタロン社にしても奴隷商人にしても一つに纏まるための枠組みが完全に消失し
  てしまった。潰す側としては各個撃破できるようになったわけだから楽と言えば楽なんだけど、方々に分裂して散っている状態なので即座には対応できない。
  悪党の乱立している状態。
  なのでレギュレーターも方々に少ない戦力を投入しているのが現状だ。
  そういう意味では、ここに8人もいるのは多い方なのだろう。
  「ミスティさん」
  「どうも」
  髭面の男性が声を掛けてくる。
  初対面だ。
  ただ、向こうは私を知っているらしい。
  アッシュとモニカ、ビリー・クリールはいない、いるわけがない、メガトン周辺のドラウグールの死体の処理で別れたし。倒すのは簡単、でも死体を残すと疫病になる。なので任せた。
  私?
  私は二時間で切り上げて帰った。それでも討伐の最後までいたんだ、片付けぐらい免除して欲しいものだ。
  ステーキ食べ掛けだったし、この間から仕事だらけ。
  ルーズベルト学院で教材探し、L.O.Bエンタープライズの勢力潰し、ドラウグール討伐と忙しい毎日だ。
  そして今回のマザー・マヤの抹殺任務。
  ……。
  ……あ、あれ?
  L.O.B以外は全部ルーカス・シムズからの依頼じゃね?
  嫌だなぁ。
  「どんな状況?」
  名前も知らない髭に聞く。
  彼がここの責任者なのだろう、たぶん。
  「今のところ動きはありません」
  「ふぅん」
  ビルは静寂に包まれている。
  周辺にも敵はいない。
  どういうことだ?
  予想では周囲にはフェラル・グールが大挙している、とばかり思ってたけど。
  「掃除した?」
  「いえ。監視だけです。まるで動きはありませんが……」
  「ありませんが?」
  「50近いグールが中にいます」
  「グール?」
  「グールです」
  どういうことだ?
  また訳が分からなくなる。
  知性がないフェラルが東に移動している市長に聞いた、だけど中にいるのはグール?
  見た目は失礼ながら同じだけど、いや正確には目を見れば知性の有無が分かるからまったく別物なんだけど……あー、じゃあ普通に見分けが付くよな、間違える方がおかしい。
  市長の情報が誤報なのか?
  かもしれない。
  いや待て、だとするとメガトン周辺にいたのはなんだったんだ?
  ただの偶然か。
  それとも……。
  「情報は確かなの? グールの方がいるって」
  「確かです。リリーが偵察しましたので」
  「ふぅん」
  リリーが誰かは知らないけど。
  当初の予定とはいささか違う展開のようだ。
  「マザー・マヤは?」
  「確認しました。中にいます」
  「スナイプしないの?」
  見つからずに潜入できているのだろう、じゃなきゃ今頃戦闘は開始されているはずだし。
  何で殺さない?
  そこで話終わりじゃん。
  「ミスティさんを待ってました」
  「私を?」
  「はい」
  「誰が殺そうと同じじゃん」
  「それはそうですけど……」
  「歯切れ悪いわね。何? 何なの?」
  「その……」
  「何?」
  「ソノラさんからの命令でして」
  「私を待つようにって?」
  「はい。あと、その、伝言です。察しろと」
  「察しろ」
  私に何が何でも仕事さそうってか?
  ふん。
  迷惑な話だ。
  ……。
  ……いや、待て。ソノラがそんな回りくどいことするか?
  あいつは合理的だ。
  わざわざそんなことはしないはずだ。
  じゃあ何だ?
  私が来るのを待ってた、私にマザー・マヤを殺させたい、いや違う、そこじゃない、もっと前に話を戻そう、この仕事の根幹は……だから、こうなって、つまりは……。
  「あー」
  謎はすべて解けたっ!
  あんの女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  用意周到だろ、これっ!
  つまりはっ!
  つーまーりーはー、レギュレーター、BOS双方の顔を立てる為だ。
  組みたくはないのだろ、心情的に。
  それはいい。
  だけど喧嘩はしたくない、少なくとも表面的には中立でいたいんだろうな、どちらも荒波立てずに。
  マザー・マヤをレギュレーターが殺す、必然的に彼女の部下も皆殺し、ナショナルガード補給基地はレギュレーターの手に落ちる、BOSの面目丸潰れ。BOSに譲れるにしても、BOSだって
  プライドがある、それを傷つけられたと考えるだろう。敵対はしないにしてもギクシャクはする。エンクレイブ絡みが控えている以上、それは双方得策ではない。
  逆にBOSに任せるとしよう。
  どう考えても制圧の際にマザー・マヤ殺すだろうな、敵対しないにしてもついでに。その場にいるわけだし。
  結果?
  考えるまでもない、レギュレーターの顔が潰れる。
  だから私にやらせるんだ。
  レギュレーターであり、BOS側の名誉称号であるスター・パラディンの私に。
  そう考えるとBOSもこれに一枚噛んでるな。
  大部隊だから動きが遅いー?
  くそ。
  最初から織り込み済みの話か。
  察しろね。
  まったく、楽しいお話だことで。
  「あのー」
  「何よっ!」
  「あれを」
  「ん?」
  建物から誰か出て来る。
  女だ。
  一見すると修道女。
  「彼女です」
  「ふぅん」
  あれがマザー・マヤか。
  初めて見るな。
  そりゃそうか。
  聖なる光修道院とかアトム教団の一件には私は関わっていない、それはむしろブッチの方の冒険であって、私はその時ルックアウトで冒険してたし。
  さてさて、どうしたもんか。
  その女、両手にそれぞれ10oマシンガンを持っている。2丁。
  お供はいない。
  外の空気を吸いに出て来たのか?
  フラフラしてる。
  私達は別に隠れていない、建物から距離を200mほど取っているし、私らと婆さんの間には瓦礫もあるからすぐさま認識できないだけで、視線さえ合えば私たちに気付くだろう。
  今のところは気付かれていない。
  「ふむ」
  お供がいないのであればやり易い。
  とっとと倒す。
  私はミスティックマグナムを引き抜いて足を進める。
  瞬間。

  バリバリバリ。

  マザー・マヤが突然乱射する。
  こちらに、ではない、空に向かって。気付いたってわけではないようだ。何か叫んでいる。戦闘開始ではないが、開始と判断していいだろう。
  走る。
  くるくる回りながら老女は銃を空に向けて乱射している。
  何なんだ?
  「マザー・マヤっ!」
  「きひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  こっちを向く。
  その顔、狂気。
  何故か大量に涙を流し、口からは絶叫。

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。

  6連発。
  パワーアーマーすら貫通する一撃だ。相手の衣服には防御力なんてない。全弾受けて宙を舞い、地面に叩きつけられた時には既に死んでる。
  状況終了。
  簡単なお仕事でした。
  空の薬莢を捨て、新たに装填。
  「ここは任せるわっ!」
  単独で建物の中に向かおうとする。
  威力偵察ってやつだ。
  私の眼で状況を見ておきたい。
  その時……。

  「あなたたちは何者ですか?」

  中からグールが出て来る。
  喋っている。
  知性がある、目を見れば分かるけど、出て来たのはフェラル・グールではない。スーツを着ている。物腰が柔らかなんだけど、少し普通のグールとは違う。
  体の一部が光っているのだ。
  前にレッドレーサー工場で見た光りし者を思い出す。
  だけど彼は斑に体の一部が光っているだけ。
  声に敵意は感じられない。
  物腰も柔らかだ。
  何者?
  レギュレーターのメンバーたちが駆け寄り、私の周りを固めるけど攻撃そのものを私は制した。
  「私は」
  「ミスティ、ですよね」
  「どうしてそれを?」
  「ビジョンですよ」
  「はっ?」
  「かつてあなたは私にビジョンを与えてくれた。そのことをどうやらお忘れのようだ」
  「……えーっと……」
  誰だこいつ。
  考えてみたら私はマザー・マヤの抹殺の為に来ただけで、彼女の目的も心情も知らないな。髭のレギュレーターに聞いてみるとしよう。
  「マザー・マヤって何がしたかったの?」
  「アトム教団は核を爆発させて放射能の世界を築き、グールとして生きることです」
  「ふぅん。ねぇ、そこのグールさん、あなたの名前は?」
  「改めて名乗りましょう。ジョンソン・ブライト、と申します。今は約束の地に同胞を導く旅の途中です。ブライト教、そう呼ぶ者もいます。今は信徒たちとともにここで休息をしております」
  「失礼かもだけど、どうして光ってるの?」
  「旅の途中で放射能を過多に浴びたようです。その結果、光るように」
  「へー」
  光りし者になりかけているのか。
  でも意思はある。
  紳士的なぐらいだ。とても敵とは思えない。レギュレーターが思っていたようなマザー・マヤの仲間ってわけじゃないだろ。
  となるとマザー・マヤは何なんだ?
  死体を指差す。
  「彼女は何?」
  「さあ? よく分かりません。我々がここで休息している時にやって来たのです。何やら私のことを神とか呼んでいましたね。それと一方的に世界に放射能をとか。私にはその意思はあり
  ませんと言いましたよ、あくまで私は同胞たちと共に平穏に生きる明日を追いたいだけだと。何度も何度も。そうしたら、突然奇声をあげて外に。撃ったのですか?」
  「ええ」
  「彼女の命に安らぎを」
  ははあん。
  なるほど。
  グールになりたがっていた彼女は、ジョンソン・ブライトの斑とはいえ光り輝くその姿を神と誤解したってわけだ。
  でも彼にはそのつもりはなかった。
  神様を演じることはしなかった。
  そりゃそうだ。
  いきなり誤解されて神様を演じる奴はどこを探してもいないだろう。
  ……。
  ……あー、アンクル・レオ(汗)
  か、彼は仕方なかったのよ、私たちの命が懸ってたし。
  さて。
  「この地にはいつまで?」
  「そろそろ西海岸へと向かいます。私は伝道の為に旅をしているのですが、この地での役目は終わりましたので」
  「武器は必要?」
  「人数分、旅路に必要な分は」
  「分かった」
  その件はここでBOSを待って私から説明しよう。別にBOSの物ってわけでもないから早い者勝ちだ。全部持って行くわけではないようだし良しとしよう。
  さすがに討伐する気にはならない。
  私はホルスターに銃を戻す。
  任務は終わりだ。
  マザー・マヤは勝手に彼を神とし、自分の信条をことごとく否定されたことにより狂ってしまったのだろう。
  悲しい話だが別にどうでもいいことだ。
  「我々と敵対なさるおつもりで?」
  「まさか」
  「よかった。あなたとは戦いたくないのでね。これでも、宇宙人との戦いであなたをアシストした仲ですし」
  「あー」
  その繋がりか。
  覚えてないけど。というか本当かどうか疑わしいけど、宇宙人なんて。
  ポールソンたちの理屈で言うと、私は記憶障害ってやつらしい。
  「西海岸に行ってどうするの?」
  「レブコン社に向かいます。そこには戦前の有人ロケットがあるようなので、それで宇宙に出て宇宙船と合流しようかと」
  「そ、そう」
  やべぇっ!
  ジョークなのかそうじゃないのかの区別が出来ねぇーっ!
  おおぅ。


  マザー・マヤ、抹殺完了。
  BOS到着、大量の武器弾薬を確保。
  ブライト教は西海岸に旅立った。
  全員の体面が立つ形で今回の任務は無事に終了、私はメガトンに帰還した。





  キャピタル・ウェイストランドに流れる陽気な声。
  ギャラクシー・ニュース・ラジオ。
  DJはお馴染み……。

  『スリードックだっ! いやっほぉーっ!』
  『こちらはキャピタル・ウェイストランド解放放送ギャラクシー・ニュース・ラジオだ。どんな辛い真実でも君にお届けするぜ?』
  『まずは本日の公共放送からだ。最近行方不明事件が相次いでいるらしい。何でも好色漢たちが次々といなくなっているって話だ。おいおい、一体何が起きてるんだ?』
  『この荒廃した世界にようやく女性人権団体が活動を開始したのか?』
  『おっと、好色=モテるってわけじゃなかったな。そういうわけだからイケメンを気取ってないでとっとと家に帰って来いっ!』
  『さて、ここで曲でも流そうか』





  一日後。
  ……。
  ……あれ?
  最近何だか毎日働いているような?
  ま、まあいい。
  「ゴブ、おかわりー」
  「あいよ」
  「そういえばアンソニーは?」
  「さあな」
  「ふぅん」
  「ミスティはあいつのこと嫌いなのか? その、見ててそんな気がしたんだが」
  「苦手なだけ」
  ビールのおかわりをごっくごく。
  んー。
  おいしいですなぁ。
  相も変わらず私は昼酒中。そしてグリン・フィスはいまだ行方不明。心配はしてない、あいつをどうにかできる相手がいるとは思えない、とはいえいきなり消えると心配です。
  店内はまだ早いので空いている。
  だけど昼酒しているのは私だけってわけじゃない。
  流れるBGMはギャラクシー・ニュース・ラジオのものだ。さっきまで陽気なあいつが喋ってた。
  「それでこれからどうしたいの、アマタ?」
  「試行錯誤はしてるんだけどね」
  本日はアマタがいる。
  一緒に並んでカウンターに座ってる。私はビール、彼女はオレンジジュース、イグアナの串焼きを一緒に食べながら雑談中。少し離れた席ではスージーが絵を描いている。
  ノヴァ姉さんが相対する形で座ってる。
  似顔絵描いてもらってるってわけ。
  どことなく漫画チックではあるけど上手。何かに活かせればいいスキルですね。
  シルバーは頬杖付いて別にテーブルにいる。
  暇そうですね。
  客としてアカハナもいる、今回はアマタの護衛なので別に酒を飲んでおらずアーマーのままその存在感を周囲に示していた。
  さて。
  「街はうまくいっているのね、よかった」
  「始めたばかりだからうまくいっていると断定はまだ出来ないけどね」
  「住人はどんな感じ?」
  「士気は高いけど、空回りしてるって感じかしら」
  「ふぅん」
  アマタもスージーもボルト101のジャンプスーツではない。アマタは白いTシャツにジャケット、ジーパン、スージーも似たようなものだけどこっちはジーパンではなくスカートだ。
  何か新鮮だ。
  無理もないか、ボルト時代はそんな習慣なんてなかった、いや、発想なんてなかったし。
  全員ずっとジャンプスーツで暮らしてた。
  あれが生涯の衣服だった。
  モデルチェンジ?
  ないです。
  「食料も水も武器も、ミスティが都合してくれたから何とかなってる。水の運搬も開始されたわ」
  「そう」
  「でも」
  「でも?」
  「次を考えなきゃいけないと思う」
  「まあね」
  いつまでもおんぶにだっこは出来ない。
  都合した物資があるから今すぐに干上がることはない、水以外は1か月は足りるだろう。水は無料の定期便だから問題ないし。
  それにしても、次かぁ。
  メガトンが近くにあるからなぁ。
  旅人はまずすぐ近くのメガトンに足を延ばす、発展途上のスプリングベールは素通りだ。スプリングベールまで来たらメガトンまで少しだから休息地点にもならないし。
  産業ねぇ。
  何かいいのがないかなぁ。

  「完成っと。どう?」
  「うまいものね。ゴブ、どう、これ?」
  「ほぉ、綺麗に描けてるじゃないか。そ、その、俺も描いてほしいんだが。ちょっと男前にさ」
  「いいよー」

  「あれはどう、アマタ?」
  「あれって?」
  「スージーの絵のうまさを前面に出す産業」
  「へぇ、興味深いわ。例えば?」
  「……それは、まだ考えてないけど」
  「……何かないかしらね」
  「ねー」
  ダメだ。
  案がないです。
  「いらっしゃい。何だ、ブッチか。お帰り」
  「おう」
  トンネル・スネーク、ご帰還。
  ブッチ、軍曹、レディ・スコルピオン……相変わらずフードして顔も目だけ露出して隠している、暑くないのかねー?
  ブッチが肩を貸して歩いている奴がいる。
  私たちボルト組はその人物を知ってる。
  ワリーだ。
  「お帰りなさい、ダーリン」
  今まで暇そうにしていたシルバーが軍曹駆け寄る。
  おーおー、お熱いことで。
  2人はハグ。
  だけど軍曹はすぐにそれを外した。
  「悪いなハニー、ちょっと野暮用なんだ。ボス、こいつをボスの部屋に運べばいいのか?」
  「そうしたら俺の寝床がなくなるな、ゴブ、部屋空いてるだろ、貸してくれ、ちゃんと金を払うからよ」
  「分かった。どの部屋も空いてるよ」
  「じゃあ借りるぜ。ベンジー、寝かしてやって来てくれ。俺はここまで来るのに疲れちまった」
  「あいよ。休んどけよ、ボス」
  「ああ」
  ワリー連れて2階に上がろうとする軍曹。
  ブッチは手近な椅子に座り、レディ・スコルピオンはゴブに何か呟いた。ビールを瓶ごと差し出すゴブ。
  ああ、飲み物の注文か。
  「はい、ボス」
  「悪いな。……うめぇー……」
  一息付くブッチ。
  だけど分からないな、どういう状況なんだ、これ?
  「ワリー」
  声を掛けたのはスージー。
  当然といえば当然だ。身内、2人は家族なのだ。どっちが年上になるのかは知らないけど。
  「何よぉ」
  『はっ?』
  ワリーの言葉遣いは、女っぽい。
  思わず私、アマタ、スージーは声をはもらす。
  「あー、今そいつおかしいんだ。何というかオカマになっちまってるんだ」
  「オカマじゃないわよっ! ちょっとマッチョがなくなっただけよっ!」
  「はいはい。ベンジー、頼むわ」
  「あいよ、ボス」
  強制連行。
  何だあれ?
  「情けない」
  呟くスージー。
  仰る通り。
  サロンド乙姫から捨てられてああなったのか?
  それでオカマに?
  ……。
  ……いやぁ、自分で勝手に考えたものの……意味不明だ……。
  まあ、彷徨ってた間に精神がちょっと壊れ気味になってるのか、それだと納得いくかな。にしてもマッチョって何だ、男らしさってことか?
  マッチョ?
  何か聞いたようなフレーズだなぁ。
  「ブッチ、あいつ何であんなになってるわけ?」
  「さあな。荒野を彷徨っているのを拾っただけだ。気持ち悪いが顔馴染だからな、見捨てるっていうのも寝覚め悪かったから連れて来たんだ」
  「側にいても寝覚め悪そうだけど……」
  「言うな」
  「あはは」
  「ところで優等生」
  「何?」
  「実は俺ら最近ケリィのおっさんと行動してたんだ」
  「賠償金?」
  「それ」
  「で?」
  「その時さ、スティッキーに会ったんだ。知ってるだろ?」
  「知ってるけど、それが?」
  「こいつを預かったんだ。いつでもいいから渡してくれとよ。ほらよ。お前宛だ」
  「私」
  封筒だ。
  開けて見ると小さなディスクとパスケースだ。ディスク、ね。PIPBOYに挿入、再生してみた。
  スリードックの声だった。


  『よう、久し振りだな、ミスティっ!』
  『基本スタジオから動けなくてな、悪いがこういう形になっちっまたことは勘弁してくれ』
  『何でも古巣の連中が這い出てきたんだろ? おめでとうっ! 昔馴染みっていうのは、良いものだよな。そこでだ、俺からプレゼントがある』
  『同封してあるパスカード、そいつはハミルトンの隠れ家の扉を開く代物だ』
  『ハミルトンっていうのは戦前の人物で、ボルトテックの胡散臭さを見抜いてて有志を募って地下に籠ってた奴だ。今もその扉の奥に子孫がいるのかは知らないが、かなりの軍需物資を
  持って籠ったらしい。俺がパスカードを手に入れたのは実はつい最近なんだ。扉の前で探知機使ったが生命反応はなかったよ』
  『そこに何があるかは俺も知らない。だ明日に繋がる何かがあるはずだ』
  『収穫はゼロってことはないと思うぜ』
  『そこにあるものは明日を追う為の糧となるはずだ。仮に子孫がいて物資が手に入らないにしても、あんたならキャピタルを良い方向にする方に導く筈だ』
  『じゃあ、またな』


  ここで声が途切れる。
  なかなか憎い演出してくれるじゃないの。
  ハミルトンの隠れ家、か。
  「あれ」
  「どうしたの、ミスティ?」
  「どこかで聞いたような」
  聞いたことあるぞ。
  どこで……あー、ヴァンス率いるファミリーの拠点探してるときか。随分前の話だなー。あの時は分担して行動してた、グリン・フィスが潜ったんだっけ。扉があったけど入れなかったって言ってた。
  気配がなかったとも。
  となると既に死んでるのか、それとも扉からさらに通路が長く伸びてて探知機もグリン・フィスの気配読む力も及ばなかったのかもな。
  無駄足かも知れないけど動く価値はある。
  行ってみようかな。
  「ブッチ、出掛けない?」
  「いいけどよ、分け前は貰うぜ?」
  「いいわ」
  「よし、決まりだな。レディ・スコルピオン、ベンジー呼んできてくれ。トンネル・スネーク、行くぜっ!」
  「了解、ボス」


  ハミルトンの隠れ家へ。