私は天使なんかじゃない






いつもどこかで便利屋さん






  助けを乞う者。
  救う者。

  そしてそれはいつか実を結ぶだろう。





  「止まって。ポールソン、あれが見える?」
  「ああ。デカブツがいるな」
  薄暗い通路の先に大きな影がある。
  複数。
  ここは悪名高い……いや、正確には悪名高かった奴隷商人たちの楽園であるパラダイス・フォールズ西部に位置するルーズベルト学院。
  3つのエリアからなる結構大きな場所で、学院、図書館、芸術と運動競技場から成っている。
  高校なのかな、スプリングベール小学校よりさすがにでかい。
  現在この学院はスーパーミュータントに占拠されていたりする。
  大きな影もそいつらのものだ。
  私は知らなかったけど、キャピタルでも有名なスパミュの拠点の1つ、らしい。
  ……。
  ……ふむ、今更ながらだけどルックアウトで聞いたスパミュという呼称は楽でいい。
  言い易いし。
  さて。
  「どうする、ミスティ」
  「そうね」
  少し考える。
  この場にいるのは私とポールソンだけだ。
  私はいつもの装備、彼もまたいつもの装備。腰には開拓時代の旧世紀リボルバー、そして手にはショットガン。制圧するのは容易いだろう、私も昔のままの私ではない。正面切ってこられたら
  ヤバいだろうけど、奇襲すれば何とかなるだろ。能力の行使も昔と違って容易にできるし。
  だけど。
  だけど今回は制圧が目的ではない。
  無理に倒す必要もない。
  「目的とは違うわ」
  「だがあれは見過ごしていいわけじゃないだろ?」
  「まあね」
  ここに来るまでにすでに戦闘はしてる。
  スパミュを退けてここまで来た。
  現在未だにグリン・フィスは行方知れず、たまたまメガトンの私のところに遊びに来たポールソンを借りだす形でここまで来たんだけど……さてさて、どうしたもんか。
  ここに来た理由。
  それはメガトン共同体からの依頼だ。
  ビッグタウンはランプライトの子供たちを全て受け入れた、一部は余所に移動したけど、現在キャピタルで一番事もが多い場所。そしてキャピタルは復興しつつある、なので教育に力を入れ
  たいようだ。その一環で私はここにいる。要は教材の確保。まあ、正確には私はその有無を調べる為に来た。さすがに大量の教材抱えて往復したくはない。
  スプリングベール小学校は適所だったんだけど、どうも私がルックアウト行っている間に爆発があり、建物が崩壊する危険がある。
  キャピタルでもう1つ、蔵書がある場所がある。
  アレクサンドリア図書館。
  ただ、そこはそこでレイダーの拠点になっているらしく、現在BOSが交戦中。
  楽にゲットできる場所はないですなぁ。
  おおぅ。
  「倒しましょう」
  「だな」
  結局応援頼んでここにいる敵は蹴散らすんだ、だったらこっちで潰しておいてあげよう。
  手間を省いてあげるとしよう。
  さて。

  「見つけたよ、この泥棒猫がっ!」

  背後から声。
  振り返った途端、視界がスローとなる。弾丸が飛んでくるっ!
  視界に入る限りは自動的にスローとなる。
  実弾に限るが。
  そして私はその中で加速的に動ける、らしい。はた目から見るとそのようだ。私としては普通に動いているだけなんだけどさ。ポールソンを押しのけ、ミスティックマグナムの引き金を引いた。
  弾丸から視界を外した途端に時は動き出すが、くそ、外したか。
  薄暗い中での反撃だから仕方ない。
  相手が見えてないし。
  だけど薄暗い程度てよかった。私の自動的にスローの能力は完全な暗がりの中では発動しない。その場合は蜂の巣だっただろう。

  「くそぅっ!」

  女。
  女の声だ。
  足音共に遠ざかって行く。
  誰だったんだ?
  それとは逆に……。

  「ダレカイルゾっ!」

  はい。
  スパミュに見つかりました。
  ドタドタとこちらに向かってくる。撃ってこないとなると……こいつらはスレッジハンマー持ちか。近接武器しか持っていないらしい。実はスパミュってよく分からなかったりする、何故か重火器を嫌う
  個体もいるようだ。防具の有無で上位、中位、下位と見分けが付くけど、下位で銃気持ちだったり、上位でネイルボード持ちだったりと訳が分からない。腕力凄いから怖いと言えば怖いけど。
  巨人たちが迫ってくる。
  「行くわよっ!」
  「弾丸をお見舞いしてやるぜっ!」
  弾幕。
  その圧倒的な弾幕の前でスパミュたちはバタバタと倒れていく。
  ここにいる連中は黄緑色の連中。
  つまり今流行の斑赤に体を塗ってる連中レッドアーミーではない。こいつらは今までは教授が支配していたけど教授は死んだ。指揮系統がよく分からない。主流派になりつつあるレッドアーミー、後は
  好きに動き回っている連中と分かれているのかな。別系統と見ていいのかもしれない。まあ、どっちも敵なわけですが。
  状況終了。
  「ふん、手応えのない連中だぜ。なあ?」
  「仕方ないわよ」
  肩を竦める。
  「私とポールソン相手にしたら仕方ないって」
  「ははは。だなっ!」
  「でも本当に保安官の仕事はいいの?」
  「心配ないさ。相棒が代わりにギルダー・シェイドで街を護っているからな。とはいえ、遊びに来てこの展開は想像してなかったけどな」
  「今度デズモンドに会いに行くわ。最近会ってないし」
  「そりゃいい。皆で酒でも飲もうぜ。さて、とりあえずはやること済まそうぜ」
  「そうね」


  ルーズベルト学院、制圧。
  探索完了。
  大量の教材確保。
  あと、教育用にプログラムされたプロテクトロン、個体名<学部長ディーイ>を発見。生ける(?)教育者をスカウト。
  任務完了、帰還するとしよう。





  それが昨日のこと。
  次の日、私は空の上にいた。
  ……。
  ……何でよ?
  何で何だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  理不尽だ。
  神様、あんたは理不尽だ。
  「降下ポイントに到着したわ、ミスティ」
  「……」
  「ミスティ?」
  「……聞こえているわ、サラ」
  ここは空の上。
  もちろん私は飛べない、エンクレイブから鹵獲したベルチバードの後部にいる。既に後部ハッチは開き、私の腰にはワイヤーが巻いてある。ここからバンジーの時間らしい。
  操縦しているのはサラ・リオンズ。
  ボルト112にあったトランキルレーンとかいうシュミレーターを要塞に運び込み、仮想世界でベルチバードの練習したらしい。
  使い方次第ですね。
  Dr.ブラウンの変態はアホなことしてニヤデレしてたけど、こういう使い方は素晴らしいものだ。
  私の側にはパワーアーマーの兵士2人がいる。
  サラとは違いヘルメットまで被っているので性別は分からない。ここまで一緒に来たけど一切喋ってないし。
  昨日の今日だぜ、私の激務。
  ここに来るまで寝てました。
  ポールソンはあの後一緒に飲んだのでメガトンのゴブの店で酔い潰れています。
  いいなぁ。
  「ミスティ」
  「何?」
  「概要を改めて説明するわ」
  ベルチバードは先ほどからこの付近で滞空している。
  下を見たくはない。
  高所恐怖症?
  違う。
  下では戦いが繰り広げられている。ベルチバードが滞空しているすぐ下にはビルの屋上がある。私たちはここから降下するってわけ。そしてビルの周辺では戦闘中。周辺での部隊はある
  意味で陽動であり、私ら3人はその隙に屋上から侵入して上層階を制圧するというありがたーい任務があります。
  それもこれも……。
  「私達の任務はL.O.Bエンタープライズの制圧にあるわ」
  そう。
  こいつらの所為だっ!
  DC残骸のメイソン地区という場所にあるビルディングで、戦前の兵器製造メーカー。ルックアウトに行った時に知ったけど、カルバート教授と関係があった、中国系と繋がりがあったかいし、らしい。
  まあ、そのあたりの背景はどうでもいい。
  問題はこの場所にいる連中が自分たちを独立国家L.O.B共和国を名乗って周囲を行き交う旅人を攻撃しだしたのだよ、ええ、本当に迷惑。それが一週間前。BOSが何とかしなきゃと考え行動に
  移したわけなんだけども、ここはスターパラディンも参加しなきゃというノリで駆り出された次第。面倒です。
  何を考えて暴れ出したかは知らないけど、まあ、立て籠もって暴れてるのはレイダーだろう。
  戦前のL.O.Bの系譜?
  グール化して今頃になって行動を?
  かもしれない。
  「パラディン・ホスとイニシエイト・ベックがあなたをサポートするわ」
  「分かった」
  パラディンは精鋭だろうけど、イニシエイトって訓練兵だったような。
  まあいいか。
  パワーアーマー持ちなら問題ないだろ。
  ベックが呟く。
  「重いな、初めて着たけど動きにくい」
  ……。
  ……
  大丈夫か、この助っ人。
  「降下開始っ!」
  「はいはい」
  善処します。
  私はベルチバードから勢いよく飛び出す。敵は敵で、ようやくベルチバードに気付いたのだろう、屋上に3人ほど飛び出してくる。
  へぇ?
  体をリコンアーマーで覆っている。
  結構な防具だ。
  コンバットよりも強度がある。
  ただのレイダー崩れってわけでもなさそうだ。高級レイダーなのか、名の通った傭兵の集団なのか。
  だが、しかーしっ!
  「Cronusっ!」

  ドン。ドン。ドン。

  降下しつつミスティックマグナムを撃つ。
  この一撃、パワーアーマーすら撃ち抜く。どんな防具だろうが意味ないわぁーっ!

  スタ。

  降下完了。
  私は屋上に舞い降りる。少し遅れてBOS兵士たちも降りてくる。屋上にあるのは私たちと死体だけだ。
  「さすがですね、スター・パラディン閣下」
  「どうも」
  パラディン・ホスが本当に凄そうに言った。
  銃の腕でがよっぽど高くなければワンショットキルは難しいだろう。まあ、私の場合は任意で時間を止め、ゆっくりと慎重に狙いを付けて撃ったからこそ当たっただけ。
  能力も実力なのでわざわざ水を差すようなことは言いませんけれども。
  さて。
  「社長室を制圧するわよ」
  『了解ですっ!』


  L.O.Bエンタープライズ、制圧完了。
  同施設に立て籠もっていた独立国家L.O.B共和国軍を掃討完了。
  真相は、戦前からここにあった同社の反アメリカを掲げていた内部資料を鵜呑みとし、それをある意味で聖書や神託として信じて疑わなかった一団だった。少なくとも100年前からここで
  暮らしていたらしい。内部資料のまま密かに独立軍として準備していたようだ。
  それを積極的に後押ししたのが現在衛星中継ステーションを拠点にしているエンクレイブ。
  どうやらキャピタルの内情を引っ掻き回す為に援助し、蜂起させたようだ。
  妙にハイスペックな武装はエンクレイブのプレゼントってわけだ。
  軍事顧問として派遣されていたエンクレイブ兵は5人いて、3人が交戦中に死亡、1人が自殺、1人を拘束。
  詳しい情報はBOSがそいつから引き出すだろう。
  ただ、そいつ曰く、どうもサーヴィス少佐という奴が策動していたようだ。
  サーヴィス少佐は知ってる。
  私の宿敵でもあるオータムの部下で、レイブン・ロックにいたし、ジェファーソン記念館ではオータム大佐とともに逃げた奴だ。
  ともかく。
  ともかく状況終了。
  メガトンに帰って寝るとしよう。





  そしてそれが昨日の話。
  メガトン。
  いつも私に憩いを与えてくれるゴブの酒場に私はいる。愛用のカウンター席に座ってビールを一口。うまぁ。ステーキを一口。うまぁ。
  昼酒になるけど、まあいいだろう。
  働き過ぎだ。
  「あー、生き返る」
  店は混んでいない。
  混み合う前だ。
  というか客は私だけだ。
  基本この店は夜にならないとそれほど混み合わない。一昔前だとそうも行かなかった、昼酒も多かった、何というか定職ってやつがあまりない場所だったから。今はメガトン共同体構想の
  結果、街は発展している。昼酒している暇がないほどに住民は忙しくなったってわけだ。良いことだと思う。豊かになっているって証拠だ。
  私?
  私は、働き過ぎだから、昼酒でもいいのですっ!(ゲス顔。グヘヘ)
  客は私だけなのでノヴァ姉さんもシルバーも部屋で夜に備えて寝ているようだ。ブッチたちトンネルスネークもいない。
  おっと、瓶もコップも空になった。
  「ミスティ、ビールはお代わりするかい?」
  「当然」
  「ははは。サービスしとくよ」
  「ありがとう。でも、払うわ、普通に」
  「いいってことさ。俺からサービスするよ。ミスティが喜ぶ顔を見ると、俺も嬉しくなるよ」
  カウンター越しにからのビール瓶を回収し、新しいキンキンに冷えたビールをくれる。
  コップに注ぎ、一口。
  うまぁーっ!
  「はふ」
  「最近お疲れかい?」
  「うん。ゴブはどうなの?」
  「俺?」
  「うん」
  「別にそれほど疲れは感じないよ。とりあえずミスティが帰ったら俺も夜まで休憩するし」
  「あー、この時間帯は邪魔だった?」
  「違う違う。そうじゃない。休憩は交代なんだよ、元々な。ミスティが帰る大体それぐらいの時間にシルバーと交代する予定なんだ。いても時間になったら寝るが、その間はシルバーとよろしくやってくれ」
  「よろしくするならノヴァ姉さんとが良いな。デュフフ」
  「……」
  「冗談」
  「そ、そうかい。ミスティのジョークは高度過ぎてよく分からんよ」
  「何よそれー」
  「ははは」
  「でもシルバーもカウンターに立つのね、知らなかった」
  「その時間帯は来たことなかったっけ?」
  「んー、たぶん」
  他愛もないことを話す。
  これだ。
  これだよ、私が欲しかったのは。

  「おお、ここにいたのか、ミスティ」

  「……オワタ、オワタよ、憩いの時間……」
  現れたのはルーカス・シムズ。
  メガトン市長。
  そしてレギュレーター。レギュレーターに階級はないけど、立場としては上なんだろうな、モニカとアッシュを部下のように従えているし。
  ビールをあおる。
  「で? 何の御用?」
  「機嫌悪いな」
  「メガトン共同体の仕事はこの間ルーズベルト学院の件をこなしたばかりなんだけど」
  「こいつはメガトンとしての依頼だ」
  「左様で」
  「機嫌悪いな」
  嫌いな相手ではないけど私はゆっくりとしたいんだ。
  がるるーっ!
  「お前がそういう気分なら仕方ない。用件を簡潔に言おう。最近フェラル・グールが移動している。東にだ。何故かは分からん。この近辺の連中も活性化しつつある」
  「この近辺? この辺りにはフェラルはいないと思うけど」
  少なくとも今までそんな展開はなかった。
  いるなら出てきていたはずだ。
  「お前さんがルックアウトに行っていた間のことだ、ドラウグールというのが小学校で生み出されていた」
  「ああ」
  ブッチが関わった一件か。
  小学校、スプリングベール小学校か。そいつはまずいな。アマタたちボルト組がスプリングベールで街を作っている。ピット組の半分、アカハナと4人の部下が常時駐留しているし、残りの5人も
  メガトンを軸として周辺を警戒しているから、まあ、問題はないだろうけど、近過ぎる。無視はできないか。
  それに市長とは今まで良い関係を築いてきた。
  無下にはできない。
  「やるわ」
  「そうか。助かった。アッシュとモニカを付ける。あと、ビリー・クリールが門の側でもう待っている。合流して掃討してきてほしい」
  「了解、ボス」
  「料理はどうする、ミスティ?」
  「そのまま置いといてゴブ。すぐ帰って来るから」





  「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





  しゅーりょーっ!
  毎回毎回お願いごとに時間かけてられっかってっ!
  ドラウだか何だか知らないけど今の私ならあっさり粉砕だーっ!
  「堅い」
  先ほどの食べ掛けのステーキが堅くなっている。
  何だかんだで二時間だからなぁ。
  くっそー。
  「新しいの焼こうか?」
  「お願いします」
  能力フルに使って2時間で掃討して再びメガトンの酒場に舞い戻った私。その間にゴブはお休みの時間で、代わりにカウンターに立っているのはシルバーだ。
  客はいない。
  肉を焼く音と匂いが部屋を包む。
  うーん。
  食欲をそそりますなぁ。
  「ノヴァ姉さんは?」
  「ノヴァ? ああ、スプリングベールに出掛けているわ」
  「スプリングベール? 何で?」
  「どんな街にもあるものはなんでしょう?」
  「あー、酒場作るのね、あそこ」
  「そう。とはいえボルトの人間にはない知識らしくてね、この間レクチャーして欲しいって頼みこまれたのよ、それでノヴァは今教えに言っているってわけ」
  「なるほど」
  アマタたちは頑張ってる。
  私も協力しなきゃな。
  明日あたりに行ってみるとしよう。
  今のところはそこらから物資とか掻き集めたりはしたけど、最終的に立ち行くようにするのは私ではなく、アマタ達自身だ。その為にも何か産業を考えなきゃね。

  「やってますか? ……ああ、ミスティさんっ!」

  「いらっしゃい」
  「ん? あー」
  アンソニーだ。
  アンソニー・ビーン。
  苦手が来たな。
  別に彼に悪意はない、そして私もストーカーされていると思い込んでいた、結局はたまたま偶然だったってだけなんだけど……・私だって人間だ、意味もない苦手っていうのもある。
  もちろん顔には出さないけど。
  社交的っていうか、まあ、相手が悪い奴じゃない以上の礼儀だ。
  それに少なくとも友達っていうよりは知り合いつてだけだし。
  「テンペニータワーの仕事はもういいの?」
  「ははは」
  そう言って私の隣に座る。
  ん?
  左腕を見る。
  PIPBOYがあった。多分アマタがスマイリング・ジャックに売った代物だろう。買ったのか。
  自慢したいらしい。
  けど私はその話を聞く気分ではない。
  別のことを聞いた。
  「グールはどうなった?」
  「グール、ですか?」
  「そう」
  「あなたたちが出て行った後、タワーが総力を挙げて追い返しましたよ。あなたたちへの追撃に躍起になってて、タワーに対しての抵抗がおざなりになってしたから。ああ、タワーの支配人から伝言です」
  「伝言?」
  「彼の言葉ですからね、私じゃないですからね」
  「分かってるわ、何?」
  「二度と来るなこのトラブルメーカー、だそうです」
  「否定はしない」
  トラブル吸引器だし、私。
  「ミスティさん、どうです、これ」
  「似合っているわ」
  結局自慢か。
  別にいいけど。
  「そういえばブッチがいませんね」
  「ブッチ?」
  呼び捨て?
  別にいいんだけとなんか違和感があるな。別にいいけど。
  「彼って横暴ですよね、絡んできますし」
  「絡む」
  「女性の口説き方も知らないし」
  「んー」
  何を言っているのだろう。
  ステーキがこの時出来上がって私の前に出て来る。
  んー、おいしそうだ。
  「お待ちどうさま。古い方はどうする?」
  「それはそれで食べる」
  さて。
  食べるとしよう。
  いっただき……。

  「おお、ここにいたのか、ミスティ」

  「……マジか、マジでオワタ、本日は2本立てのお仕事だた……」
  
さっき会ったばかりの市長さんがご到着。
  今度は部下がいない。
  「何の用?」
  「機嫌悪いな」
  「さすがに全力で機嫌悪いわよっ! 共同体の仕事も市長からの仕事もこなしたばかりよっ!」
  「こいつはレギュレーターからの仕事だ」
  「……左様か」
  「機嫌悪いな」
  カウンターに私は突っ伏した。
  体力0です。
  おおぅ。
  「機嫌が悪いなら仕方ない。話を簡潔に進めよう。お前がいない間に起ったアトム教団……いや、聖なる光修道院……どっちでもいいか、ともかくその一件に関わっていた主要人物である
  マザー・マヤの居場所が分かった。こいつはレギュレーター案件だが、BOSも絡んでいる。どちらにしてもマザー・マヤは死ぬだろう、我々の沽券に懸けて先に殺さねばならない」
  「物騒ね。でも何でBOSも動いているの?」
  「俺がここに来る前だが、マザー・マヤは強硬派を率いてメガトンの核を爆破しようとしていた。大量の武器を持ってな。今までその出所が分からなかった」
  「……ああ、つまりその出所に今彼女がいるのね」
  「さすがミスティだ。頭が良い」
  「どうも」
  なるほど。
  BOSは来たるエンクレイブとの決戦の為に兵力を増強している、でも武器が足りない。大量の武器を探している。BOS的にはマザー・マヤはどうでもいいんだろうけど、大量の武器がある場所にいる
  以上は多分倒すだろう。話を聞く限りではマザー・マヤから仕掛けていきそうだし。
  「既にこちらも動かせる人数は動かした、だがキャピタルは今こんな状態だ、手薄なんだ。BOSは武器の確保の為に大部隊を動かそうとしている、故に動きが遅い」
  「武器はいらないの?」
  「いらん。少なくともソノラはそう考えている。マザー・マヤを始末して欲しい、BOSより先に」
  「誰が殺しても同じだと思うけど」
  「BOSがこの地を導く主勢力となるだろう、それはそれでいい。レギュレーターにそんな気はない。だが、軽んじられるわけにはいかんのだよ。言ったろ、こいつは我々の沽券だ」
  「分かった。何か注意事項は?」
  「今のところは何も。教団はほぼ壊滅状態だ、大した人数はないだろうが……タロン残党かレイダーを傭兵として抱えている可能性もあるし、先ほどのドラウグールも差し金かもしれない」
  「フェラルの移動がそいつの仕業?」
  「東に移動が気になるんだ、マザー・マヤがいるのは東だからな」
  「場所は?」
  「ナショナルガード補給基地、かつての州軍の銃火器の保管基地だ」