私は天使なんかじゃない






独立宣言書






  歴史には価値がある。
  それこそが人類が共有すべき、かけがえのない財産。





  「マグナカルタ?」
  「そー」
  そう言ったのは青い髪のトレジャーハンター、シーリーン。私はシーと呼んでいる。
  ここはメガトン。
  酒場で私とシーはテーブル席で向かい合いながらお酒を飲んでいる。私はビール、彼女はウイスキー。客は他にはいない。まあ、まだ昼だし。
  浄水チップの一件から2日後。
  アマタたちが暮らしているスプリングベールの生活基盤の手伝いとか周辺のクリーチャーの掃除とか近くにレイダーがいないかとか調査してたりとここのところ忙しかった。レイダーはいないのが
  判明。一番の悩みは掃除してもレイダーが住み着くメッカともいうべきスプリングベール小学校だったけど、私がルックアウト行っている間に大爆発があったらしい。
  爆発は3階に集中しているみたいだけど屋上は崩壊し、3階は滅茶苦茶、いつ崩れてもおかしくないレベルなので誰も近付かないようだ。
  レイダーでさえも。
  そんなこんなで一連の調査が終わってメガトンで一息ついていたところに彼女が来た。
  ピットで出会い、助けられ、ルックアウトでも助けられた。
  ある意味で恩人。
  「それを取って来いって?」
  「そー」
  淡々と言うな、この子。
  マグナカルタ。
  イングランドと呼ばれた戦前の国家の、憲章。
  「ミレルークシチューのおかわり1つ〜」
  「あいよ」
  一方的に頼んできて、マイペースに注文するし。
  まあいいけど。
  確かにシチューは美味しいし。
  「何で私が取って来るわけ?」
  特に理由はない気がする。
  「いろいろ助けてあげたじゃん」
  「まあ、そうね」
  「ピットなんてあたしがいなければ死んでたわけじゃん? ルックアウトだってあたしが船を用意してなかったらソドムで死んでたじゃん?」
  「それは否定できないけど……」
  「じゃあたまにはお役にたって恩返ししないと罰当たるって」
  「うーん」
  そう言われればそんな気もする。
  助けられてるのは事実だし。
  「それはどこにあるの?」
  「おー、話に乗って来たね」
  乗ってはないですけどね。
  その時、シチューのおかわりをシルバーが持って来た。おいしそうに食べるしー。
  「ミスティも何か頼む?」
  「胃薬ある?」
  「慢性な胃痛には効かないと思うわよ?」
  笑いながら彼女は歩き去る。
  胃痛はストレスからです。
  うー。
  たまには休みたい。
  何だかんだで働いているよなー。
  「それで、受けてくれるわけ? もちろんただ働きで」
  「マジか」
  「マジ」
  「……」
  「まあ、手間賃ぐらいは払うよ。あたし今まで結構助けたじゃん。たまには恩返ししろってこと。特に問題はないと思うよ、あの辺り今じゃ随分静かだし。何かいてもミスティなら大丈夫だって」
  「……あんまり聞きたくないけど、それで、どこにあるの?」
  「公文書館。瓦礫の山の中にあるってわけ。さー、どこでしょう?」
  「DC残骸か」
  「正解☆」
  アンダーワールドとかリンカーン記念館とかあるところだ。ちょっと足伸ばして、というか情報収集も兼ねて皆に会いに行くかなー。
  上手くいけば戦力も手に入る。
  戦力?
  戦力です。
  ブッチはケリィのおっさんへの賠償金の為にトンネルスネーク引き連れてどっかに行ってるし……ああ、私はバザーの件で免除、ノヴァ姉さんは1000キャップ回収済み……アカハナたちピット組は
  スプリングベールに現在は駐留してる。街が安定するまではしばらく近場への巡回程度で動かないようだ。
  グリン・フィス?
  未だに行方不明。
  ちょっと心配になってきた。
  ともかく、そんなこんなで私に同行してくれる仲間が今はいない。
  あっちに足伸ばせばライリーあたりと一緒に動けそうだ。フォークスも力を貸してくれるかも。
  「シー」
  「何?」
  「手を貸すからここは奢りね」
  「ミスティの? ごちー☆」
  「あんたのだ、あんたのっ!」
  「やだなー。あっしそこまで面の皮厚くないっすよ」
  「どーだか」
  「そういえば前に頼んだことネイディーンに伝えてくれた?」
  「ええ」
  ばっちりです。
  何のこと?
  プンガフルーツの貿易のこと。
  シーがトライバルからその権利を買い取った、だからネイティーンはせっせとキャピタルにフルーツを運んできてる。独占事業だから、大儲け間違いなしですね。これがシーの分からない
  ところだ。キャップ大好きかと思えば巨万の利益を生む事業を簡単に、妹分とはいえあげちゃうんだからよく分からない。
  「それでマグナカルタを誰に売るわけ?」
  「コレクションっすよ。だからスズメの涙のお駄賃でご勘弁☆」
  「コレクションねぇ」
  どうだか。
  そういえばビックタウンで子供が増えたな、ランプライトの子供たちが引っ越してきたから。その子たち用に学習材料もあるかな?
  スプリングベール小学校から確保出来たら一番なんだけどいつ崩れるか分からないから入れない。
  公文書館に何かあるかもしれないな。
  ……。
  ……ないか、図書館じゃないし。行き先は公文書館だぞ。あるわけない。この国の条約とか条文がある場所だ。
  とはいえ歴史に触れれる何かがあるだろう。
  それは掛け替えのない、歴史という財産。
  今度BOSに教材がある場所を聞くとしよう。たぶん聞いたら自分で潜りに行かなきゃいけないんだろうけどさー。
  「シー、分かってるとは思ってるけど、この国にあるマグナカルタは写本だからね?」
  「分かってるって。それでも貴重品じゃん」
  「そうね」
  「関連した物も持って来てくれたらボーナス出すっすよ」
  「了解」
  さて。
  借りがあるのは確かだ。利子を付けて一括で返してあげるとしましょうか。
  公文書館とやらに行くとしよう。





  一時間後。
  完全装備でメガトンを出発。
  結局誰の都合も合わず一人旅。
  簡易食料と水、無線機をナップサックに詰めてある。
  私はファラガット駅構内に到着、駅構内を歩く。薄暗く、埃っぽく、そして血と黴の臭いが充満した空間。
  たまにフェラルの類がいる程度で特に支障はない。
  パパを探して同じ道を歩いたなぁ。
  ……。
  ……考えてみたら完全なソロは初めてかも。
  まあ、ピットでも基本1人だったけど。
  なかなか新鮮な感じですな。
  わりとかなりの確率で私は大勢と行動しているからなぁ。グリン・フィスすらいないというのは珍しいと思う。というかあいつどこ行ったんだ?
  あくまで私用なのでベルチバードは呼べない。
  エンクレイブ絡みで飛び周っているだろうし。

  「ぐふふ。馬鹿兄貴め、腐ってろ。これでナタリーは俺様のもんだっ!」

  「ん?」
  ぐふぐふ言いながらこちらに大柄の人影が近付いてくる。
  声からして男性、キモい男性。
  私とは逆方向、つまりアンダーワールドの側から来たであろう人物。絡まれても面倒なので私は物陰に身を潜めた。薄暗いしジッと見なければばれないだろう。
  実際男はこちらに気付かずにそのまま通り過ぎて行った。
  かなりの巨漢だった。
  腰に銃をぶら下げていたけど、メインの武器は背負った身の丈以上のスレッジハンマーのようだった。
  あれ?
  あいつどっかで見たような?
  「確か」
  そうだ。
  グレイディッチで見た奴だ。
  ニールとか言ったっけ?
  よく分からんけど、あの時は確か3人いた。兄弟っぽかった3人。今日は残り2人はどこだ?
  まあ、いいけどさ。
  私は物陰から出てきて歩き始める。
  シーからのお使いは出来るだけ早く終わらせたいものだ。





  ファラガット駅を抜け、DC残骸に到着したのはメガトン出発から2日後。
  前回よりは早い移動スピード。
  キャピタルに慣れた、というよりは……まあ、慣れたんだけど……より純粋に言えばこの辺りにいた連中の掃除が終わったから早く進めた、ということかな。
  リンカーン記念館とアンダーワールドで軽く情報収集した。
  聞いたのは当然公文書館のこと。
  公文書館に関しての情報は特に大したことはなかったけど、どうやら最近スーパーミュータントの勢力が盛り返しているらしい。
  教授?
  たぶん別件。
  赤い奴と赤く斑に塗られた奴らと言ってたから、レッドアーミーの類だろう。
  まあ、そいつらが教授の手下の生き残り絡みかも知れないし、違うかもだけど。
  だけどこんなとこで何してるんだろ。
  連中の本拠地は北部のはずだ。
  そこで北部に何故か執拗に侵入しようとしているエンクレイブと小競り合いをしている、と聞いた。そしてレッドアーミーは今までのスパミュとは毛色が違いグールも襲う。だからアンダーワールドは
  防衛の為に閉じ籠っているし、リンカーン記念館のハンニバルたちと攻守同盟を結んで協力し合ってる。
  どこも大変だ。
  私は私のすべきことをしよう。
  公文書館の場所は聞いたのでそこに向かった。
  当然食料の類はアンダーワールドで補給済みなので探索が長丁場になっても問題ないだろ。無線機あるし。いざとなったらBOSでもデリバリーするさ。
  「ここ、か」
  瓦礫の山を踏み越えて私は公文書館に到達。
  なかなか壮観だ。
  歴史ってやつを感じますね。
  崩壊した世界にあって尚も歴史の重みってやつを周囲に主張している。
  「あっ」
  ふと思う。
  マグナカルタってどんなんだ?
  何かは知ってる。
  だけど現物は知らない。見たら分かるものなのだろうか?
  それをここで探せと?
  ……。
  ……無理だろ……。
  リンカーン記念館かアンダーワールドで人手を募った方がいいのかもしれない。
  結局ライリーたちとも連絡取れなかったしなぁ。
  とことんついてないらしい。
  まあ、いつものことか。
  ともかく。
  ともかく中に侵入するとしよう。
  公文書館の10数段ほどの石造りの階段を昇り始める。

  「……う、ううう……」

  ぼろきれ……失礼、スナイパーライフルを持った男が階段に倒れている。何でそんなとこに主張するように倒れているんだ、強制イベントかよ。嫌だなぁ。
  スナイパーライフルは銃身が半ばで折れて使い物にならない。
  「……う、ううう……」
  当然昇る前から見えてました。
  無視するつもりだったのに自己主張してる。
  はあ。
  やれやれだぜー。
  「大丈夫?」
  「ニ、ニールにやられた」
  「ふぅん」
  そうとしか言いようがない。
  誰だよ。
  誰だ。
  そもそもあんたは誰だ。
  「ここにはお宝があるとかでな、俺らは来たわけだが……あの野郎、最後の一線越えやがった。兄貴の俺をいきなり、くそっ!」
  「あー」
  この間の巨漢か。
  ファラガットで会った奴が多分ニール。
  壮絶な兄弟喧嘩ですね。
  迷惑な。
  「俺はイッチ。リベットシティを中心にハンターをしている」
  「どうも」
  「わ、悪いが、スティムパックを持っていないか?」
  あるわ。
  そう言おうとした瞬間、男の顔が強張った。
  背後に何か音が響いてくる。
  地響き。

  ドスドスドス。

  「オヤ? ダレカイルゾ?」
  片言の言葉。
  はあ。
  内心で溜息。
  「あーあー」
  振り返って嘆息。
  案の定スパミュだ、それも群れてる。こんな数を見たのは実は久し振りかも。ボルト87陥落後は各地から姿を消したし。
  だけど今までのとは多少違う。
  何が?
  色だ。
  全身を赤く塗っている、かなり斑だけど。
  レッドアーミーと呼ばれる連中だ。
  指揮タイプのジェネラル種はどうやら……いないようだ。それぞれがアサルトライフルを手にし、示威的に威嚇している。数は8体。大した数ではない。あくまで小隊の1つなのかもしれないけど。
  とりあえず喋っているこいつがこの部隊の責任者なのだろう。
  車の廃鉄で作ったのかは知らないけど、兜と鎧を纏っている。マスターかプルートというタイプだろう。
  まあ、今更雑魚なのは確か。
  「イッチ」
  「……マジかよ。死んだ。俺死んだっ!」
  「仲間は?」
  「ナタリーっ! 愛してるーっ!」
  「なーかーまーはー?」
  逆境に弱いな、こいつ。
  こっちの話を全然聞いてやしない。この間グレイディッチで会ったのはこいつだ、さっきの奴がニールだとして、もう1人いた。一緒に行動していないのか、ニール同様にやんちゃしたのか。
  「ふむ」
  まあ、よいか。
  この程度の数なら奇襲されない限りは、面と向かって戦う限りは特に問題ないだろ。
  私には能力がある。
  「オンナ、カーティスタイサノメイレイダ、キテモラウゾ。ソッチノヤツモナ。ガハハハハハっ!」
  「……えーっと」
  片言過ぎるから脳がその意味を理解するまで多少時間が掛かる。
  来てもらう、か。
  ボルト87は沈黙したのにまだ仲間増やしているのか?
  それともそれを知らない……いや、そんなわけないか、こいつも今流行りの赤い塗装してる、未だ何も知らずに残骸で行動している教授の支配下ならわざわざ塗らないだろう。
  レッドアーミー、か。
  何考えてるんだろうな。
  そういえばDr.アンナ・ホルトが生きていて、スパミュと行動しているとか聞いたな。あいつが増やしているのだろうか?
  そしてカーティス大佐?
  何者だ、それ?
  タロン社か、エンクレイブか、それとも全く別の組織か。
  「オンナ、コイっ!」
  「私が? あんたたちと? それ笑える」
  「ナンダト?」
  「Cronus」

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  聞こえる、心臓の脈打つ音。
  その瞬間に人を支配する時間は、私に支配される。ミスティックマグナムを引き抜きスパミュたちに向けて引き金を引く、そして時間は動き出す。
  断末魔の声すらなく頭が粉砕される集団。
  さすがレギュレーターの秘蔵品、といったところか。
  ミスティックマグナムは圧倒的な破壊力だ。
  「くだらない」
  全滅させました。
  強くなりましたね、私。
  勢力を盛り返したと言っても以前ほどではない。以前ほどここを歩くのが絶望的というわけではなさそうだ。
  「イッチ」
  「あわわわわ」
  「大丈夫?」
  「あわわわわ」
  「スティム」
  手渡そうとするものの震えて対応してくれない。考えてみたらまともな対応が最初から出来てないな。彼の足元にスティムを置き、私は階段を昇り切った。
  その時……。

  「イッチ兄さんっ!」
  そうそう。
  彼だ。
  白衣を着た彼、グレイディッチにいた兄弟の1人だ。彼とは仲違いしていないのかな?
  駆け寄ってきた彼はイッチの介抱を始める。
  私と目が合う。
  彼は目礼してから治療を始めた。
  イッチのことは彼に任せるとして……まあ、最初から別に仲間ってわけではないんだけどさ。あくまで人道的な見地から助けようとしたにすぎない。
  薬莢を捨て、弾丸を装填しながら私は公文書館に入った。
  「うわー」
  絶句。
  中は『さすが世紀末ですねー、ヒャッハーっ!』なまでに荒らされている。
  そうですね。
  無政府状態で200年ですもんね。
  当然といえば当然か。
  だけどこの無数に仕掛けてある地雷は何だ?
  荒れ果て、砕けた大理石の床を歩きながら私は進む。果たしてマグナカルタがあるかは知らないけど、探すか。
  どこにある?
  さあね。
  大体重要なものは地下最奥にあるものだ(超適当☆)

  こつ。こつ。こつ。

  地雷に引っかからないように進む。
  何もない。
  特に何も。
  既に略奪された後のようだ。
  本来あるであろう物もない。椅子の類も電燈の類も。それとは逆に本来ないであろう塹壕があったりする。ここで戦争でもあったのか?
  確かに少し前まで大量にスパミュが近辺にいたし、歴史博物館が今ではアンダーワールドという街になっていることも考えれば、公文書館にも何らかのコミュニティがあって、スパミュと
  一進一退の攻防をしていたとも考えられる。もっとも、今は誰もいないみたいだけど。静寂だけがここを支配している。
  おっ。
  端末がある。
  弄ってみる。
  「なになに?」
  クイズに正解したらプレゼントが貰えるらしい。
  ふぅん。
  やってみよう……と思ったけどそのままフリーズしたまま画面が動かない。やれやれ、期待したのに。
  「うーん」
  どこかに地下の入り口があるはず。
  どこかに……。
  「おっ」
  なんですかなんですか、床がせり上がっている場所がありました。
  怪しいですな。
  怪しさ全開です。
  一瞬イッチがやったのかとも思ったけど……ニールはあくまでそれを口実にイッチをここで謀殺する為に来た、と見るべきか。少なくともニールは何も持っていないようだったし。
  せり上がっている部分を調べる、これははエレベーターだ。
  地下に通じるエレベーター。
  ビンゴ、かな?
  これはどう考えても正規のエレベーターではない、少なくとも見学者用のモノではないだろう。
  どこに通じてるのかな?
  お宝ルーム?
  だとしたら話が早い。
  グレネードランチャー付きのアサルトライフルを手に取って私はエレベーターに入る。
  エレベーター起動。
  地下にゴーゴー。
  「へー」
  地下は一風変わっていた。
  何というかメタリック系ってやつー?
  ボルト、ではないな、何か工場のような印象を受ける。何でこんな地下施設があるのだろう。戦前の人間が考えることがよく分からん。
  壊れているようだけど天井には無数にタレットがぶら下がっていたり、数歩進めば壊れたロボットの残骸にぶち当たる。
  倉庫という扱いなのかな、ここ。
  だけど私から見たら軍事要塞に仕立て上げようとしか思えない。
  壊れてるけどさ。
  「ん?」
  何か聞こえたような。
  立ち止まり耳を澄ます。
  「……」
  何も聞こえない。
  気のせいか?
  周囲をきょろきょろ。
  特に何もない。
  ……。
  ……あー、いや、ふらふらと宙を浮いたロボットが出て来る。
  軍用のMr.ガッツィー?
  これは家庭用のMr.ハンディーだ。調理用兼強盗ウェルダン用の火炎放射器、食材ぶった切り兼強盗の首ごりごり斬り落とす用の回転のこぎりを装備した、画期的な家庭用ロボットだ。
  こちらにスーッと宙を滑って寄ってくる。
  敵か?
  一応撃ち落しておくか。

  「あんたっ! すぐに避けて、後ろから来るよっ!」

  「……っ!」
  女の声。
  それが誰かはどうでもいい、アサルトライフルから手を離し、ミスティックマグナムを2丁引き抜いてMr.ハンディー、そして警告された相手がいるであろう場所に向ける。
  そこにいたのはピストルを持った、薄汚い軍服に身を包んだグール。
  あれは確か中国兵の……。

  ばぁん。ばぁん。

  同時に、双方に向けて撃つ。
  Mr.ハンディーを撃墜。そしてグールに右肩を撃ち抜いた……つもりが完全にプランプラン状態、つまりほぼ肩の部分を破壊してしまった。何という威力だ、この銃は。威力の高さにまだ慣れない。
  殺す気はなかった。
  情報源だからだ。
  とはいえ殺しかねない威力で攻撃してしまった。反省反省っと。
  「く、くそ、オートマタMk.3が……っ!」
  そのままグールは逃げて行った。
  驚いた。
  動けるんだ、あの傷で。
  それにしてもオートマタMk.3ねぇ。
  あいつはマシーナリーだ、ストレンジャーの生き残りで、今はジェリコが差し向けた12の刺客の1人だ。他のガンスリンガーとデスは諦めたかは知らないけど、あいつはガッツがあるな。
  まあ、私が勝手にあいつの今の住処に押し入っただけなのかもしれないけどさ。
  だけど段々バージョンダウンしてるな。
  最初のオートマタは警戒ロボ、稼働しているロボ系の中では最強だ。もちろん軍用。これは私の与り知らない機体、その時私はルックアウトにいたし。
  Mk.2はMr.ガッツィーだった。これも軍用。
  今回のMk.3はMr.ハンディー、ね。こいつは家庭用だ。
  最終的にはプロテクトロンになるのか?
  あー、あいつ自身がロボブレインになるのかも。
  「助かったわ」
  「そいつはどうも」
  薄緑色のコンバットアーマーを着た女性がいる。この声、さっき警告してくれた声だ。
  ライリー・レンジャー、ではなさそうだ。
  カラーリングが違う。
  手にしているのは10oサブマシンガン。
  ただ、従来のものとはどことなく異なる。弾倉の部分が異様に長い。カスタマイズしてあるらしい。
  初めて見る顔。
  どうして警告してくれたのかも謎。
  神はこういう時の為に会話というものを授けてくれた。
  「私はミスティ、あなたは?」
  「シドニーよ。こんなガラクタの山の中にようこそ。どうせワシントンの爺が寄越した新手のトレジャーハンターってところでしょ? 私は別に遊んでたんじゃない、ここを攻略してたのよ」
  言っている意味が分からない。
  「悪いけど、あなたとは関係ないところからのオファーで来たわけです」
  「ああ。別件か。そりゃ失礼」
  ちょっと警戒の色が出たかな?
  そりゃそうだ。
  向こうは私をトレジャーハンターと思っている、取り分が減ると思っているんだろ。
  狙いを先に言っておくか。
  「マグナカルタ、それが狙い」
  「ふぅん」
  何気なくふぅんとか言っているけど、安堵を感じる。
  向こうは別の物狙いらしい。
  ……。
  ……いや。
  正確には、ワシントンとかいう奴の狙いが別にある、と言うべきか。彼女はそいつに雇われてここに来た、何を狙っているかは知らないけど、時間が掛かり過ぎて私が催促として送り込まれたと
  考えていたようだ。催促でもないし、狙いも被っていない、それが分かったからか途端に饒舌になる。
  「私の狙いは独立宣言書よ」
  「へー」
  「よかったら組まない? ここには無数にロボットがいる、排除するのに時間を食っててね。はっきり言っておくけど、私の助けなしにここの攻略は無理よ」
  「いいわ、組みましょう」
  言い方が多少気に食わないけど、気に食わない程度で喧嘩する気はない。
  要はここでの活動は自分の方が長いという自負と、主導権を握りたいからだろう。だけどそれでも構わない、何故なら独立宣言書なんてどうでもいいからだ。
  人手が確保できるならそれで良しとしよう。
  向こうもそう考えているはず。
  彼女は歩き出す。
  「こっちよ」
  「お宝の場所が分かるんですか?」
  「虱潰しにマッピングした結果だよ。残っているのはもうそこだけなんだ。そこになければ、別の隠し扉か、階層にあるんでしょうね」
  「へー」
  「何だってマグナカルタを?」
  「まあ、借りを返す為というか」
  「何よそれ。そのアーマーの塗装、ライリー・レンジャーっぽいけど、関係者か何か?」
  「メンバーです」
  「ああ、それで。見覚えある色だと思ったよ」
  「私も質問です。そもそもワシントンって誰です?」
  「アブラハム・ワシントン、リベットシティで博物館を営んでいる爺さんだよ。そいつに頼まれたのさ」
  「アブラハム・ワシントンって」
  何だそのパチモン感の名前は。
  実名?
  実名なのか?
  「博物館ってことは他にも何か展示してたりするんですか?」
  リベットはあんまり行ったことがない。
  遠いし。
  だけど前にハンニバルがリンカーンのグッズを集めている爺さんに交渉しに行くとところに会ったなぁ。その爺さんはリベットにいると言ってた。まあ、リベット付近で会ったわけなんですけど。
  その爺さんと同一人物なのかもしれない。
  そんなことを考えながら通路を進む。
  「上層の地雷は?」
  「地雷? ああ、あれか、私だよ」
  「同業者潰し?」
  「そうじゃない。ここは元々スーパーミュータントの巣窟でね。赤毛の冒険者って知ってる? そいつがここらで暴れ始めてから数が減ったんだよ。昔は議事堂でタロン社と戦争してたってのにね。
  今じゃめっきり減ったんだ、スーパーミュータントも、タロン社もね。赤毛様様さ。私がここに入った時はあの化け物どもはいなかったけどさ、念のために仕掛けておいたのさ」
  「へー」
  私の顔は知らないらしい、あと赤毛の冒険者の名前も。
  わざわざ言うつもりもないけど。
  「スーパーミュータントはいなかったから楽勝だと思ったんだけどさ、地下はロボットだらけさ。壊しても壊してもキリがない。だから持久戦で順に磨り潰してたってわけ」
  「あのグールは知り合い?」
  「知らないよ。気が付けばあいつも地下にいたんだ、私を見るとロボットをけし掛けてきてた。どう操ってたかは知らないけどさ。あんたは知り合いっぽかったけど?」
  「マシーナリーとかいう奴です。詳しくは知らないけど」
  「マシーナリー?」
  「ストレンジャーとか何とか」
  「ああ。西海岸最強とかいう傭兵団ね」
  有名らしい。
  私はルックアウト行ってたから……まあ、ルックアウトにもブリーダーとかいう奴がいたみたいだけど……ブッチ君大活躍だった模様。そんな最強傭兵団を返り討ちにするなんてさ。
  「話を戻しますけど、シドニーは博物館専属ってこと? 全部あなたが集めてるの?」
  「違う違う。あそこには一級品がごまんとあるのよ。さすがの私も1人では集めきれない。爺さん自身も骨董品だけど。あの爺さんはそこら中のトレジャーハンターから買い漁ってるのよ」
  「あなた自身は興味は?」
  「爺さんに対して? 遺物に対して? どちらも興味はないわ。でも爺さんはその興味がない物を高値で買い取ってくれる。その金で私は飲んだくれて、良い物食べて、男と寝れるってわけ」
  「お、男と……」
  「おやおや、もしかして、経験はまだ?」
  「独立宣言書については何か知ってるの?」
  「はぐらかしたわね。それで独立宣言書が何だって? 知っているのは厚紙の巻物のようなもので、色々なことが書かれているってことだけ。有名な文書なんでしょ、昔々のね」
  よく知らないようだ。
  本当に遺物には興味がないらしい。
  私もよくは知らないけどさ。それでも彼女よりは知っている。
  本当にどうでもいいようだ、その価値は。
  もちろんそれは別にどうでもいい。私だってマグナカルタ目当てで、どう扱うか知らないのにシーの為にここにいる。
  「止まって」
  「ええ」
  ピタリと私は止まる。
  言っている意味は分かる。
  50mほどの視線の先には扉がある、鉄製の扉。だけどそこには警戒ロボットが2体立ち塞がっている。
  あのタイプは戦前でも強力だった機体のはずだ、あれ以上のタイプは少なくとも量産配備はされていなかった。あれを上回る試験型とかはあっただろうけどさ。
  ともかく。
  ともかくあのタイプがわざわざ2体あんな場所にいるんだ、まるで扉を護るようにね。
  何かあるはず。
  あの先に何かあるはずだ。
  「行くわよ」
  「ええ」
  お互いに武器を身構え、撃ちながら進む。
  彼女は10oサブマシンガン。
  私はミスティックマグナム2丁。
  警戒ロボットはこちらをようやく認識した、あの距離で、別に隠れてもいなかったのに認識できていなかったわけだからこのロボットたちは識別等がイカレてるのかも。
  それは仕方ないだろ。
  少なくとも200年前の代物なわけだから。
  反撃らしい反撃も出来ず……もちろん片方の腕がミニガン系(実弾かレーザーかは分からなかったけど)、もう片方の腕にミサイルランチャーの警戒ロボットに反撃らしい反撃されたら
  たまったもんじゃないですけどね。基本私たちのターンっ!だったので無事に敵を沈黙させることが出来た。
  「へぇ。やっぱり銃の扱いは結構上手いね」
  「どうも」
  ミスティックマグナムの攻撃力は本物だ。
  簡単に撃ち抜ける。
  良い物貰った。
  シドニーの手にしているカスタムメイドの10oサブマシンガンも私にとっては簡単に値するものだったけどさ。
  物凄い連射だ。
  大抵の敵には撃ち負けることはないだろ。
  残骸を通り抜け、私たちは扉を手で押し開けた。
  部屋の中に入り身構える。
  デスクがある。
  山積みの木箱があちこちにある。
  そしてデスクの前には妙なウィッグを被ったプロテクトロン。ガチャガチャと動いている。つまりは稼働している。
  そいつは喋った。
  「貴官は我らが防御を破り、我らが攻撃陣から逃れ、そして我らが祖国を襲撃した。しかし私の戦いはまだこれからなのだ。我らが自由を盗ませはせぬっ!」
  「こいつっ!」
  シドニーが銃を構えようとしたけど私がそれを手で制した。
  流暢に喋っているのはプロテクトロンなんだけど、今までのとは毛色が違う。
  カツラ被ってるし。
  何だこいつ?
  「どうして撃たせないっ!」
  「どう考えても毛色が違う。ここのセキュリティを管理してるタイプじゃない? ねぇ、あなた名前があるの?」
  「私はバトン・グイネットだ。よろしく」
  「バトン・グイネット?」
  ん?
  ボルトの授業で習ったな、確か独立宣言書に署名した人だったような?
  どういうことだろ。
  「ここには何しに来た」
  「独立宣言書を寄越しなさいっ!ここにあるのは分かってんのよっ!」
  「何だ、宣言書が欲しいのか。ならそこのデスクに入っている」
  「……」
  あっさり答えたな。それが気に入らないようでシドニーは用心深そうに風変わりなプロテクトロンを睨み付けながらデスクの引き出しを開ける。
  私からは何が入っているか見えない。
  シドニーはそれを取り出し、にんまりと笑った。
  紙だ。
  紙切れだ。
  それを私に見せる。
  ……。
  ……署名が変じゃないか?
  ところどころ名前の綴りが違う。
  「私の任務はお終いだ。じゃあね、ミスティ。マグナカルタが見つかることを祈っているよ」
  「どうも」
  わりとドライの人ですね。
  手伝ってはくれないらしい。
  まあいいですけど。
  去って行くシドニー、そしてその場に取り残されたのは私とバトン・グイネットを自称するプロテクトロン。
  「気付いていたようだな」
  「何が?」
  「あれが偽物だと」
  「まあね」
  「何故分かった?」
  「そりゃ分かるわよ。さすがに机の中ってことはないでしょ。別の所に厳重に保管されているんじゃないの? あれは何? まさかお土産用の品みたいな?」
  「そうだ」
  「あらら」
  「宣言書はどこにも持って行かせぬ。これは我らが希望の象徴である。我らは自由の国という叫びを上げる為の物なのだ」
  「まさか本気で歴史上の人物と自分を重ねてる?」
  「何を言うか、私はバトン・グイネット。独立宣言書の第二署名者にしてジョージアの特別代表である」
  「ミスティよ。よろしく」
  何なんだろ、このプロテクトロン。
  推測としては偉人データをAIに組み込まれた、観光者向けのロボット。もしくは何らかのアクシデントでバトン・グイネットのデータをインストール、自身をその人物だと思い込んでいる、のかな。
  まあ、どちらの場合でも意味は同じか。
  相手がそう名乗るのであればそのように接するとしよう。別に否定する必要はないわけだし、否定していては余計に時間を食う。
  「彼女には話が通じないと思ったわけ?」
  偽物を即座に渡していたし。
  「そうだ。会話で解決しないのであればそれしかないと判断した。武力行使という選択肢はその次だ」
  「ふぅん」
  「我が兵士たちの行動は全て見ていた。彼女は強かったが、お前はどこか、別格の印象がある」
  「気のせいじゃない?」
  「いいや、貴官の武勇は私をはるかに上回るようだが、私とて必要とあらば命を懸けた決闘をする所存だ。フェンシングか? 殴り合いか? さあ選ぶのだっ!」
  「……フェンシングって……」
  冗談か?
  いやー、限りなくまじめな話なんだろうなー。
  「どうして守ろうとするの?」
  「私が守る物はただの紙切れではない。彼女に渡したような土産物のレプリカなどではない。第二次大陸会議の同志たちによって定められた政策原理なのだ。これによって我らは英国王
  ジョージ3世の圧政から解放されたのだ。この自由主義国家のもっとも偉大な象徴とも言えよう」
  「それから500年は経っていることは、知らないわけよね?」
  「つまらぬ虚言、虚偽は英国王家の常なるやり方とはいえ、私はそのような虚言の前に屈したりはせぬ」
  「困った」
  「貴官は血を流さずに事を納めたいようだな。ならば提案だ。ここは退いて、降伏してはくれまいか? 貴官には名誉ある扱いを保証しよう、どうだ?」
  「そうは言われてもね」
  「降伏したら各種のフルーツの味があるメンタスをあげるぞ。クイズの景品だ、在庫がたくさんある。食べ放題だぞ」
  「……そ、それは魅力的な提案ね」
  壊すことは出来たら避けたい。
  こいつに悪意はない。
  シドニーの話では施設内にロボット徘徊してたようだけど、殴り込んだのはこっちであって、こいつが攻撃させていたんだぶっ壊すは、野蛮人の台詞だしなぁ。
  さてさてどうしたもんか。
  独立宣言書は別にいらないけど、シドニーは気付かないだろうけど、ワシントンって爺さんはあれが偽物だと気付く可能性がある。となるとシドニーは戻ってくる。彼を壊してでも奪いにね。
  それは困る。
  特に関わり合いがあるわけではないけど、バトン・グイネットを演じている彼をこのまま見殺しには出来ない。
  「提案があるわ」
  「何だ」
  「いや、その前に説明を。外の世界はね、もうアメリカって国は存在しないの」
  「その虚報、英国軍の手口だな」
  「いいから最後まで聞いて」
  ホルスターを外す。
  背負っているアサルトライフルを捨てる。ボッケには32口径ピストルがあるけど、まあ、これは護身用だ。……いや、いいか、それも取り出して床に捨てる。
  「これでどう?」
  「……」
  自身を偉人と思っているようではあるけど、少なくとも知能らしきものはある。ロボットに知能って言い方は矛盾しているのかもだけど。
  私は武器を全て捨てた。
  隠し持っていても分からない、32口径ピストルも。
  「美徳と見るべきか、馬鹿と見るべきか」
  「さあ? どっちだろ」
  「……弱ったな。貴官を排除するにはいささか後味が悪い」
  「じゃあ話を最後まで聞いて」
  「了解した」
  「実は……」
  私は話す。
  世界が核戦争で200年前に吹き飛んだこと。
  既にアメリカという枠組みは消滅してしまっていること。
  そして今エンクレイブという勢力がアメリカの威光を利用して暗躍しているということ。
  全て話した。
  全て。
  「以上よ」
  「それが本当だとしたら、私が守ってきた物は全て無意味だな。独立など当に消え果たのだ」
  「そうでもない」
  「と言うと?」
  「理念は決して消えないわ」
  この時、私はある考えが浮かんでいた。
  ある意味でジョークなのかもしれない、途方もなく滑稽な話。だけどそのネタにはどうしても独立宣言書が必要になってくる。
  「バトン・グイネット」
  「何だね?」
  「その理念を私に預けて欲しい」
  「ほう?」
  「私は……」

  バリバリバリ。

  瞬間、バトン・グイネットが爆ぜた。
  銃撃っ!
  ガチャンと盛大な音を立ててバトン・グイネットは倒れた。胴体が真っ二つになって。プロテクトロンは装甲が大して厚くない、初期タイプのロボット。それも軍用から規格落ちしたタイプだ。
  私は床に落ちている32口径ピストルを即座に拾って扉の方に向き直る。向き直る際に腰に衝撃が走る、銃弾を一発受けたようだ。アーマーで弾いたけど。

  ばぁん。

  戸口に立っていた、アサルトライフルを手にした青い軍服の頭に弾丸を叩き込んだ。
  青い軍服?
  こいつブルーベリーアーミーか。
  死体が転がる。
  くそ。
  外ではレッドアーミーがいたかと思えばここにはBBアーミーが突入してくるのか。
  面倒臭い。
  バタバタと足音を立てて複数が近付いてくる。
  来るなら来い。

  ばぁん。ばぁん。ばぁん。ばぁん。

  姿を現した瞬間に頭に弾丸をプレゼント。弾丸尽きた32口径を捨て、次の敵が来る前に床に置いてあるホルスターからミスティックマグナム2丁を引き抜いて構える。
  さあ、次はどいつだ?
  再び足音。
  何だってBBアーミーがこんなところにいるんだ?
  こいつらは警備専門だったはず。正確には押し売りの警備専門。未だにこいつらの立ち位置がよく分からない。
  「……?」
  足音が止まる。扉の近くまでは来ている、でも突入してこない。
  どうした?
  何故来ない?

  「そこにいるのが誰かは知らないけどさ、少し大人の話し合いをしようじゃないか。ここは相当な宝箱なんだから、奪い合う必要もないだろ?」

  「そっちから攻撃して来たのに今更それはないでしょう、肉欲のサンディ大尉」
  「ああ、あんたか」
  私の声を聞いたからか、懐かしそうに彼女が顔を出した。
  武器は特に持っていない。
  腰にある9oピストルだけだ。
  懐かしそうにというのもいささかおかしいか、別に懐かしくもなんともない、少なくとも私はね。相手が私に何を求めているか不明。どういう感情を持っているのかも。
  私は身構えたまま言う。
  「何か用?」
  「ここにはお宝探しに来たんだよ」
  「そう」
  手下は姿を現さない。とはいえいないわけではない、号令1つで来るだろう。
  入ってきたところで私が撃ち殺すだけだけど。
  「警備が仕事なんじゃないの?」
  「そうだよ。アンダーワールドとリンカーン記念館に警備の仕事を申し込んできた。だけど私の隊はお宝探しにここに来たのさ。ブルーベリー大佐は金目の物が好きなんだよ」
  そこまで言って彼女は肩を竦めた。
  「価値なんかまったく分かってないのは、内緒だけどね」
  「悪いけど仲良くするつもりはない」
  「堅いこと言わない」
  「で? ここには何を探しに? 被らない限りは尊重してあげるけど、今は私の時間よ。後にして」
  「権利章典だよ」
  「そう、被らなくても良かった、命拾いしたわね。さあ、まずは私の時間、出て行って」
  「そんなにギスギスしないでおくれよぉ」
  「出て行け」
  カチャリ。
  撃鉄を起こす。
  肉欲のサンディ大尉は意味ありげに舌なめずりしてから、はいはいと言って出て行った。
  何なんだ、あいつは。
  「バトン・グイネット」
  「……」
  真っ二つに破壊されたロボットに声を掛ける。
  何やら異音がする。
  稼働はしているけど、これはもう……。
  「あな、たに、アメリカの、意思を、ア、アズケマス……」
  「アメリカの意思」
  「これで、私は、ヨうやヤヤャヤややゃヤク休めるのです、ネ」
  「ええ。お疲れ様。あなたがしてきたことは私が受け継ぐわ、おやすみなさい」


  私は独立宣言書を手に入れた。
  ジョーク。
  そう、これはジョークのような話。
  私がしようとしていること。
  それは……。