私は天使なんかじゃない






ボルト101 〜英雄〜






  英雄が英雄でいる為の条件。
  それは……。





  「殺せ」
  「殺せ」
  「殺せ」
  熱い視線をどうもありがとうございます。
  マックス?マキシー?の先導で私たちは『メトロ』と呼ばれる場所まで連行された。武器はそのまま携帯しているけど、戦闘は無理だろうな。すること自体は可能、得策じゃないだけ。
  そこらにあるメトロとここメトロとは同じ単語だけど意味が違う。
  前述のメトロは総称だけど、後述のメトロはこの場所そしてこの勢力の通称。
  連れ込まれた場所は地下深くの車両の保管基地。
  広い空間に無数の貨物車輛があり、そこに人々は暮らしている、らしい。そこだけではなく駅舎やプレハブ小屋もある。
  ここに通じる通路は全て埋まっている為、メトロの住人が掘り進めた通路だけが唯一の侵入口。そしてそれはメトロの人々にしか分からない。ここに到達するまでに聞いたんだけど全員が
  ロシア系、人数は500人はいるようだ。ここが地下ということを考えれば、凄い数だ。
  そしてここに来るまでに聞いた話。
  それは規律。
  全員が全員顔を隠す、性別を隠す、なので遠巻きに私たちを見、囲んでいるメトロの人々は全員ガスマスクみたいで気味が悪い。
  「ボス、これヤバくないか?」
  「ヤバいわね」
  「……マキシー、何とかならねぇのかよ?」
  ブッチの知り合いは私たちの傍に無言で立っているだけ。
  表情が分からないからなぁ。
  何考えているか謎。
  「策はある」
  「どんなだよ?」
  「この場で私に抱かれるのだ」
  「はっ?」
  「縁続きになれば我らは同胞。助かるという作戦さ」
  「……女、なんだよな?」
  「ガチホモだ」
  「……」
  「冗談だ」
  「冗談、何だよな? は、ははは」
  掴みどころのない人だなぁ。
  女?
  女なのかな?
  うーん。
  謎。
  「ボス、全滅させた方が早くない?」
  何かイライラ気味なレディ・スコルピオンさん。
  何故に?
  まあ、彼女の提案をマジに考えると、無理だなー。
  全員を全滅させるとなるとこちらが確実に返り討ちになる。私が人類規格外とはいえ、トンネルスネークがかなりの猛者とはいえ、まず負ける。勝てません。返り討ちです。デストロイ。
  話し合いしかない。
  向こう側の大半が攻撃的とはいえ、ね。
  そして攻撃的な意味も分かってる。
  ボルト101と同じ。
  余所者は排除。
  それ以上でも以下でもない。
  ならば。
  ならば交渉の余地はある。
  「アマタ」
  「な、何?」
  「交渉は私に任せてほしいの。ブッチもいい?」
  「わ、私はいいわ、任せる」
  「おう。任せたぜ」
  了解は取り付けた。
  さて。

  「お前さんたちが余所者か」

  交渉開始です。
  1人の人物が貨物車輛の上に現れる。例によって性別が分からない、ガスマスクしてるからだ。全身もくまなく防具で覆ってるしボディラインも分からない。
  あれが指導者ってわけね。
  こちらは武器がある。
  狙おうと思えば狙えるけど、次の瞬間にハチの巣になるのは分かってる。
  まずは向こうの言い分を聞くとしよう。
  喧嘩をするつもりはない。
  少なくともこちらには。
  「最近地下を徘徊している者がいる。それは構わない。だがこちらを攻撃するのは容認できない」
  「私達ではありません」
  「だがこの場所を知った。それは無視できない」
  「……」
  「掟に従い、裁かねばならない」
  「どうぞ」
  「何?」
  「どうぞご随意に」
  食って掛かろうとする軍曹をブッチとオフィサー・ゴメスが羽交い絞めにして黙らせる。マックス?マキシー?は助け舟を出そうとし、それから私の発言の真意を量りかねたのか黙った。
  それにしても随分ない言いぐさだ。
  攻撃者と間違った、のならまだ分かる。誤解もやむなしだ。にしても勝手に連れてきて場所を知られたとかぶっ飛ばすぞこいつ。
  だけど地下を徘徊している者、ねぇ。
  まさかそれが人狩り師団か?
  あり得る話だ。
  そう仮定するとレギュレーターが探しても見つからないのも分かる気がする。
  地下だ。
  あいつら地下を動き回って、地上に出て来るのだ。
  なるほどなー。
  「私達を殺せるなら、どうぞ」
  「どういうことかな?」
  「殺せるならどうぞ、と言っています。出来ないと思いますけどね」

  「殺せ」
  「殺せ」
  「殺せ」

  殺せコールいただきましたー。
  全員の唱和ってわけではなさそうだけどさ。
  ここにはここの掟がある。
  それは分かってる。
  引き籠りたいなら引き籠ればいい、それも分かってる。
  別に外の世界と合流して一緒に仲良くしようなんて思わない。それならそれでいいけどさ。でも別に無理強いできる方も根拠も私達にはない、そんなものはただの独善だ。
  ここにいたい?
  どうぞご自由に。
  さようなら、御機嫌よう。
  「私は別にあなた方と懇意になろう、というわけではありません。そのような役割をたまにはしてますけどね、今回はそういうわけではなく、そちらの勝手にご招待で来ました。そこはご理解ください」
  「うむ」
  「よかった。話を進めます。私はそちらがここに居たいのなら永遠にいればいいと思いますよ、それを壊す権利は私にはないし、それを勧めるつもりはありません。それもよろしいですか?」
  「うむ」
  「聞けば上に最近出ているとか。目的は? 水ですよね。ずっと地下にいたのに何故今になって? 浄水が始まったから? それもあるでしょう。でも実際は浄水の確保が出来なくなった、でしょう?」
  「うむ」
  「元手は? 銃ですね、だけどそんなものがいつまでも続くとでも?」
  「……何じゃと?」
  男?
  男かもな、この人。

  「だからなんだっ! こちらの武器は地上のを越えているっ! 我々は量産出来るんだ、元手は幾らでもあるんだっ!」

  「今はね」
  冷やかに叫んだ外野の人物を見る。
  良いセリフ頂きました。
  あざーす。
  私が求めていた言葉だ。
  「今勝っているからって、いつまでも勝っているわけではない。需要があるのは必要とされているから、まあ、当たり前のことですね。でもいつまでそれが続くと思います? 時間は常に動いている、
  上は画期的なまでな変化を遂げた。良質の銃を生産するピットとの同盟も確立された。さていつまで需要があります?」

  「……」

  ぐぬぬな外野を無視して話を進めるとしよう。
  「浄水チップがあります。欲しいですか?」
  「な、何?」
  「重要なはずです。差し上げます。半分」
  「……」
  ボルトのを半分渡す、それでも問題ないはずだ。少なくともアマタたちもここまで入手できるとは思ってなかったはずだし、半分でも事足りる。それに私も力を貸してたし、半分の主張は問題ないだろ。
  た、たぶん。
  アマタは堅い表情で成り行きを見守っている。
  スージー?
  欠伸をかみ殺してる。
  結構大物かも。
  「そちらの主権をこちらがどうこうするつもりはないですし、かといってそちらの一方的な主張をこちらが聞くつもりもない。我々を殺して全部巻き上げたいならどうぞご自由に。ですがこれだけは覚え
  ておいてください。浄水チップ、上の世界では意味がないんですよ。少なくともここほどはね。その意味を覚えておいてください」
  「……そうか、お前さんが赤毛の冒険者か」
  「えっ? あっ、はい」
  「その度胸、頭の回転、聞いていた通りだ。このままでは我々は置き去りなる、というわけだな?」
  「そういうことです」
  「一方的な態度で、攻撃的な対応したこと、恥じ入る」
  「喧嘩しないで済むならそれでいいんです」
  「実に有意義な会話じゃった」
  「こちらこそ」
  長老さんは満足そうにそう言った。
  メトロの人々は納得したのかな?
  少なくとも。
  少なくとも、メトロの人たちはボルト101よりも結束はしていると思う。血の紐帯というのかな?
  ボルト101は何だかんだで揺れているからなぁ。
  ただ、それでもそもそもの本質が違う。ボルト101は今だから思うけど、どこか宗教的だと思う。教祖と信者、見たいな感じ。ボルトで生まれボルトで死んでいく、それを全力でやってる。
  ここは違う。
  メトロは、生きてる。
  ここは生活の場だ。ボルトとは違う。
  メトロの人々には意見があり、メトロの人々には意思がある。ボルトとここは違うと思う。
  「マックス」
  「はい」
  「我々の友人たちを送ってくれ」
  「はい」
  あの世にではないでしょうねー?
  「行こうぜ、優等生」
  「ええ」
  随分とご信用している模様。
  私がいない間に交友を広めてたようです。まあ、良いことだ。そのお蔭で助かったようなものだし。メトロの住人と知り合いでなければここまで円滑にはいかなかったと思う。
  お手柄です、ブッチ君。
  歩き出す私たち。
  「赤毛の冒険者」
  「はい?」
  長老の言葉に振り向く。
  「今日この時より我々は隣人だ。何かあれば頼るといい」
  「ありがとうございます」
  メトロの可能性は未知数だ。
  住民多そうだし。
  高性能&高品質の銃火器の生産が出来るしね。同盟関係のピットもそれと同等もしくはそれ以上の武器が量産出来るけど距離がある。そういう意味ではメトロとの関係はキャピタルにとって必要だろう。
  「行こう、アマタ」
  「ええ。早くボルトに帰らないと」



  「んー」
  外に出た。
  久し振りの外気が気持ちいい。
  出た先はファラガット駅。
  かつてパパを探して通った場所だ。まさかこんな場所と繋がっているとはね。正確にはメトロの人々が長年掛けて繋げた、というのがいいのかな。お手製のトロッコで移動とかオツですね。
  巧妙に隠し通路があったりとかメトロの人たちの知恵は凄かった。
  何でもDC中を移動できる術があるらしい。利用方法を知っているのは当然メトロの人々だけ。
  凄いの一言。
  そしてこれとは別にキャピタル中のメトロは繋がっているという、恐らく戦前に政府が避難用に通路で繋げたものだろう。こちらは知っている者、スカベンジャーとか地下生活者とかが利用している
  らしく鉢合せを避けてメトロの人々は極力は使っていない。そこに最近攻撃的な連中が移動している、との話。多分それが人狩り師団なのだろう。
  レギュレーターがー総力を挙げても見つからないわけだ。
  移動経路が地下だから見つからずに移動しているってわけだ。
  なるほどなー。
  となると連中はどこかの駅に潜んでいるのか。
  ……。
  ……虱潰しか。
  かなりめんどいなー。
  「私はここまでだ」
  「ありがとう、えーっと、マキシー? マックス?」
  「どちらでもいい、赤毛の冒険者ミスティ。君に会えてよかった、良い見聞だった」
  「どうも」
  握手。
  良い友達になれそうだ。
  「変な連中がいるって言ったじゃない? 目星は付いているの?」
  「拠点ということか?」
  「そう」
  「分からないな。ワーリントン駅にはグールの組織がいるが、そいつらではない。メレスティ・トレインヤードの連中でもない。どこの連中かは分からない」
  「そっかー」
  ワーリントンのはたぶん反ヒューマン同盟だろう。そんなとこにいるのか。
  メレスティはヴァンスたちの拠点。
  うーん。
  人狩り師団はどこにいるんだ?

  「ボス? ここで何を?」

  「ん?」
  振り返る。
  赤いパワーアーマー1名、そして緑のパワーアーマー9名。計10名の集団。
  アカハナたちピット組だ。
  何だってこんなところに?
  「何してるの?」
  「巡回です」
  「お仕事ご苦労様」
  「勿体ないお言葉」
  グリン・フィス並みに律儀な人です。
  何だかんだで私って相当な戦力を持っているのかも。地雷原の市長(一応は)だし、そこに住むレイダーたちを従えていたりする。アカハナたちは最強のパワーアーマー部隊だし。
  「あの、ボス、グリン・フィスさんは?」
  「行方不明。見なかった?」
  「いえ。それにしても、珍しいですね、ボスから離れるなんて」
  「よね。まあ、別に息抜きしてくれてもいいんだけど、前もって言ってくれないから心配かな」
  彼には彼の生き方がある。
  別に私のお守りを毎日して欲しいわけではないから怒ってはないし息抜きは当然だとは思ってけど、いきなり消えたのが頂けない。
  心配するじゃん、普通に。

  「またな、マキシー」
  「寂しいのであれば私を抱いてもいいのだぞ、ブッチ・デロリア」
  「……女なんだよな?」
  「かもね」
  「……」
  「ははは。またな、ブッチ・デロリア、ミスティも。再会を期待する。私を見掛けたら声を掛けてくれ」
  「うん、またね」
  バイバイして別れる。
  彼女は駅の中に消えて行った。
  見掛けたらって、メトロの人たちって見分けが付かないんですけど。
  「アカハナ」
  「はい。ボス」
  「私はこのままボルト101まで行くんだけど、お勤め終了なら途中まで行かない? 久し振りに話したいし、心強いし」
  パワーアーマー部隊が一緒ならレイダー程度なら手を出してこないだろ。
  もちろん話をしたいというのもある。
  最近話してないし。
  「ご一緒します、よろしければボルトまで」
  「いいの?」
  「グリン・フィスさんがいないので、もしかしたらレギュラーキャラに昇格できるかもしれませんし」
  「は、はは」
  メタ的な発言ですね。
  まあいいや。
  「行きましょう」
  「了解です。ボスに続け」
  『おう』
  ボルト101に行くとしよう。
  お土産の浄水チップを持って凱旋だ。






  ボルト101。アトリウム。
  ここは2階が吹き抜けとなっている、かなり広い場所。ボルト101で一番広い空間。
  下層は主にレクリエーションをする為の場所で、ビリヤード台もある。私も子供の頃はここでよくアマタと走ったりして遊んだものだ。上層は生活空間もあるし売店もある。
  私が帰ってきた……というか、アマタが帰ったことはすぐに広がったのだろう、ほぼ全ての住民がここにいる。
  興味深そうに上層から手摺越しに見ている者もいれば、私に対して敵意がある視線もちらほら。
  だけど誰も手を出そうとはしない。
  それもそうだろう。
  トンネルスネークはいるし、アカハナたちピット組もそのまま同行している、手が出しようもない。
  ……。
  ……向こうに思慮ってやつがあればね。なければ銃撃戦になるけど、それは避けたい。
  住民は300はいる。
  色々あったけどまだこれだけいると見るべきか、もうこれだけしかいないと見るべきか。
  客観的に見たら滅びるかなとは思う。
  これでは次世代には繋げられない。
  「監督官、無事のお戻り何よりです」
  「ええ。ありがとう」
  赤い帽子を被った男が出迎える。
  背後にはセキュリティ兵士5名。もちろん他にも下層にもいるし上層にもいる。警備の為か、それとも……?
  彼はアラン・マック。
  ワリーとスージーの父親。
  当然面識はあるけど特に良い思い出はない。別に何かされたってわけではないけど、常に悪意の視線をぶつけられてたな。今もそうだけど。当時はどうして悪意をぶつけられてたのかが分から
  なかったけど今は分かる。とりあえず理解はできるし、余所者めーという感情も分からんではないけど、好きではないジャンルの人だ。好きになる必要はないけど。
  私たちに一瞥し、それからアマタに視線を戻す。
  労いもないのかよ。
  まあ、別にいいですけど。
  彼の為でもボルト101の為にでもなく、あくまで私は親友の為にしただけだ。ブッチは舌打ちしたけどさ。
  「それで監督官、浄水チップは?」
  「あるわ」
  アマタはスーツケースを開けて中身を見せる。
  これでボルトは救われたってわけだ。
  水的にはね。
  今後どうなるかは分からない。
  人数的にも既に取り返しがつかないレベルだし、それにここの人間は全員が全員がどこかで繋がってる、近親間での結婚しかありえないわけだから当然と言えば当然だけど。
  アマタはスーツケースを閉じ、彼に手渡した。
  ミッション終了。
  お疲れっしたーっ!
  「監督官、他の者は?」
  「生き残りはこれだけよ」
  「そうですか」
  観衆の中から嗚咽、怒声が一時的に響く。あくまで一時的。すぐにセキュリティがそれを鎮めたからだ。物理的にではなく叱正で、だけど。叫んでたのは身内のようだ。
  生き残りはアマタ、スージー、オフィサー・ゴメスの3人。
  この3人だって運が良かっただけだ。
  私だって初期にあそこに行けば死ぬもの。
  「アラン・マック」
  「はい、監督官」
  考えてみたらこのおっさん出世したな。
  私がいなかったとはいえ前回外でやりたい放題やってたのにこの出世、ちょっと納得いかない。まあ、外で備蓄用の水を確保したし外の状況を知る数少ない人物だから発言力を増したのは
  当然と言えば当然だろう。今回アマタが自ら外に出たのだって予想外に発言力の増した彼への牽制の為だ。もちろん純粋にボルトの為でもあったわけだけど。
  「ミスティに救援を頼んだこと、感謝するわ」
  「当然のことをしたまでです」
  つまらなそうに返すアランさん。
  表面を取り繕うこともしない。
  舐めてますね、アマタを。
  彼女がいない間に住民やセキュリティに何らかの根回しをしたのかもね。彼が私に頼んだ最大の理由は浄水チップの確保の為だけだ。私にそれを届けさせようとしただけであって、アマタたちの
  生死はそもそも気にしていなかったはずだ。というか死んでいる方に賭けていたんじゃないかな。
  「ミスティの帰省を認めたそうね」
  「……」
  「それについては私も賛成よ。今回彼女の助けなくして浄水チップの入手は不可能だったわ」
  「……」
  「アラン・マック?」
  「ミスティ」
  ん?
  監督官であるアマタの労いを遮る形で私に言葉を掛けてくる。
  感謝の言葉かな?
  あったとしても心は籠ってはないでしょうけど。
  帰省したいというわけではないけど、たまには遊びに来たいし、昔の思い出にも浸りたいからあの条件は悪くなかった。
  「ミスティ」
  「何?」
  「ボルトの皆は君に感謝している。君は我々を救った英雄だ。長旅は疲れただろう」
  「どうも」
  しみじみと語りだす。
  内容的に悪い気はしない。
  アマタは微笑しているし仲間たちも次の言葉を待っている。
  うん。
  悪い気はしないね。
  「唐突だが君に告げなければならないことがある。我々は君がボルトから去ってくれることを望んでいるのだ」
  「どうも……えっ? はっ?」
  何言いだしやがった、こいつ?
  去れ?
  「ここに居ては我々はきっとこれからも君を頼りにしてしまうだろう。君に依存してばかりではボルトの若者や次世代が育たない。頼り切った挙句にもし君が突然いなくなってしまったら、我々は
  どうすればいい? ボルトのこれからのことを考えれば君が今去ってくれることが最善なのだ」
  「アラン・マック、何を……」
  監督官を無視してつづけるアラン・マック。
  そうか。
  そういうことか。
  最初から全部餌か。
  くそ。
  舐められたものだ。
  「君は我々を救った英雄だ。しかし我々を破滅へ追い込む可能性もはらんでいる。すまない、もう一度言わせてくれ。君は英雄だ。だからこそ、ここから去って欲しい」
  「……」
  謀略はお得意のようだ。
  お前に決定権はない、あくまであるのはアマタだけだ。そして、だからこそこいつは言っているのだ。アマタに決断しろと、こいつをとっとと追い出せと。
  どちらに転んでもアラン・マックに不利はない。
  ボルト的な不都合はあるだろうけど、こいつにとっては不都合はない、どっちでも権勢が増すだけだ。
  アマタが私を追い出せば私との繋がりが断たれる、別に自分の影響力をひけらかせているわけではないけど外との繋がりが断たれる。ボルトは閉鎖が継続されるってわけだ。
  アマタが私を追い出さなければ閉鎖派がそれをネタにネチネチと煽るんだろうな、前回のレイダー襲撃で閉鎖派に転んだ人がおおそうだし。アマタは実権を失う流れになるはず。
  つまり?
  つまりどう転んでもアランに損はない。
  頭のよろしいことで。
  ただ分かってないのは……。

  チャッ。

  無言で武器を構えだすアカハナたち。パワーアーマー部隊だ。まともにぶつかればここのセキュリティなんて瞬殺だ。
  トンネルスネークの2人もそれと同時に武器を身構えた。
  「やめなさい、アカハナ」
  「申し訳ありませんが、さすがにこの結末には同意しかねます」
  「やめなさいっ!」
  「……了解です。全員武装解除」
  「お前らも武器を下せっ!」
  「おいボス、悔しくねぇのかよ、こんなのってよっ!」
  「でもそれがボスの意向ならあたしらは従がうまでよ、軍曹さん」
  一触即発。
  こちらの攻撃力が分かってないのか?
  分かって言ってるのか?
  全滅だぞ、そっち。
  皆殺し確定だぞ?
  グリン・フィスがいなくてよかったかも知れない。アラン・マックの首が飛ぶところだった。もちろん物理的にだ。
  「アマタ」
  「……ミスティ」
  「言って」
  どうでもいいさ。
  帰郷は降って湧いて出ただけの話で確約は確かになかった。
  アマタに決断を促したのは彼女の発言力を護るためだ。弱気な監督官ではこの先、地位を保てない。
  「ミスティ」
  「ん」
  「私、何て酷いことをあなたにしたんだろって、今考えてた」
  「……?」
  「あの時、私はあなたを追放したわ。ボルトを護るためにって。でも気付かないだけで私は父と同じだったのね。ボルトを解放するって、きっと嘘だった、本音では嘘だったのね、自分では
  気付かなかったけど。現状を維持する為の方便だったと思う。怖かったのよ、外が。あんな事件があったから全てが揺らいでしまった」
  「そうね」
  あんな事件、エリニースの突撃だろう。
  確かにあれは想定外だった。
  誰にとっても。
  エリニースにとってもね。まさか私が帰っているとは彼女も思わなかったはずだ。
  「ミスティ」
  「何?」
  「ここから出て行って欲しいの」
  「ええ、分かってる」
  ボルトを護るためだ。
  仕方ない。
  私という邪魔者がいては開放も閉鎖も宙ぶらりんな状態。結局は異邦人なのだ、最後まで私はここの住人ですらなかった、とはいえアマタを恨む気はない。そんな気はない。
  アマタは続ける。
  「そして私たちを導いてほしい」
  「導く?」
  どういうことだ?
  「私もここを出るわ」
  「はっ?」
  「どういうことですかな、監督官?」
  ニヤニヤのアラン・マック。
  本当に取り繕うことすらしないな。この展開も想定していたのかもしれない。
  「聞いての通りよ。私はここを出る」
  「監督官の職務を放棄するということですな」
  「違う」
  「違う?」
  「職務は放棄しないわ。私は監督官として提案する、外への移住を」
  「馬鹿な」
  「別におかしなことは言っていないつもりよ。命令ではない、提案よ。私と共に外に出る者は一緒に外の世界で、新しい街を作りましょうっ!」

  ざわざわ。

  当然ながらざわめくボルト住民たち。
  流れが変わった。
  何を考えているんだ、アマタ?
  「ミスティ」
  「何?」
  「私はあなたを利用したわ。最低の人間だと思う。それでも、それでも助けてくれるというのであれば……」
  「親友よ、ずっと」
  「……ありがとう、ミスティ」
  「水臭いこと言わないで」
  「私はずっとここで決められた道を、いいえ、敷かれたレールを進んでた。苦労することなく、お膳立てされた道を歩いてきた。だから私は外に行きたい。自分の道を自分で歩いて生きていきたい」
  「その手助けはするわ。ブッチ」
  「ああ。当然だぜ」

  ざわざわ。

  ボルトの在り方が揺らいでる。
  今、この瞬間に。
  「馬鹿なっ!」
  その揺らぎを否定したのがアラン・マックだった。
  喜び半分、動揺半分かな。
  喜びの部分はアマタが去るということ。結構な発言力があるし閉鎖派の首魁みたくなっているようだからアマタが去れば次の監督官は彼だろう。動揺はどの程度の住民が去るかってことが見通
  せないからだと思う。でも動揺が半分しかないのは喜びが勝っているからではなく、外の世界を知っているという強みからだろう。
  事実彼はそれを口にした。
  「外の世界は残酷で地獄だ。どう生きる? どうやって生きていくっ! ボルトに留まれば安全だ、我々はボルトで生きて行けば安全なのだっ! 監督官、妙な扇動はやめていただきたいっ!」
  「確かにここは安全よ、それは同意する。でも先はないわ。私はそれを確信した」
  「先はない? そんなことはないっ! 外の連中は野蛮で無知だ。薬の作り方すら知らない、我々の方が勝っているし、隔離しても生きていける。我々こそが選ばれた人類だからだっ!」
  「聞いて皆っ! 私は外に出て、似たような人たちに会ったわ。その人たちは外との繋がりを認め、そのように動き出した。何故だと思う? ミスティの言葉が彼ら彼女らを動かしたの」
  「詭弁だ監督官、そんな奴らと我々とが同じなわけ……」
  「ミスティは言った。今勝っているからって、いつまでも勝っているわけではないと。完全に世界が復興したら我々はどうしたらいい?」
  「知れたこと、外に出るだけだ。何を……」
  「復興した後に迎えてくれるとでも思っているの? その時、我々はエリート面しただけの田舎者に過ぎないわ。今勝っているのならその技術を外に伝えればいい、そしてそれが私たちの強みになる」
  「詭弁だっ! 混在すれば我々は淘汰される、数で勝る野蛮な連中に淘汰されるのだっ! 大体どうやって生きていくっ! 水は? 食べ物は? 住む場所は?」

  「スプリングベールあたりに住めばいいんじゃねぇか? なあ?」
  「スプ……ああ、聖なる光修道院があった場所ね、ボス」
  「ボスの発言にしてはまとも……失礼、悪気はないぜ? だが確かにそうだな。信者どもはそこに住んでもんな、無数の家屋もあるしいけるだろ」

  トンネルスネークの発言。
  確かに。
  確かにあそこは家屋が無数にある。シルバーも前は普通に住んでたし。
  住居は確保できる。
  そしてメガトンに近い。
  なるほど。
  笑みを浮かべるブッチ君、ボルトの為に一肌脱ぐってわけだ。義理に厚いですね。
  じゃあ私もそう動くべきか。
  「アマタの言葉は別に扇動ではないわ。思いたきゃそれでもいいけど。確かに外に出るって選択は重いと思う、よく考えて。でも出るのであれば、私が用意するわ。生きる術を。もちろんいつ
  までもただ飯は食べさせられはしないけど、いきなり0からのスタートにはしない。それなりの援助が出来ると思う。それなら、どう?」
  「詭弁……っ!」
  「あなたこそ黙りなさい、決めるのはあんたじゃない」

  ざわざわ。

  アラン・マックの叫びを無視しするように、ざわめきは増えていく。
  肯定的な声。
  否定的に声。
  様々だ。
  不安は仕方ない、むしろ当然だろう。希望の展望だけで外には出れないしそこまで無垢な子供ではない。不安は誰にでもある。
  「ミスティ」
  「パルマーおばさん」
  誕生日にロールケーキを作ってくれたおばさんが声を掛けてくる。
  「外の世界で需要があるのかしら?」
  「何のです?」
  「ロールケーキよ」
  「もちろんです。少なくとも、私がキャピタルを周った限りではなかったですから、1号店ですね」
  「それは魅力的だわ」
  ヒャッホーと叫ぶブッチ君。
  どんだけ好きなんだよと。
  ……。
  ……あー、そういえばロールケーキ好きだったな、こいつ。
  可愛いところありますね。
  食い意地張ってるだけ?
  かもねー。
  「ブッチ」
  「お袋」
  ブッチのお母さん。
  脱出時にラッドローチに襲われているのを助けたような。あー、ゴキ汁に塗れましたね、私(泣)
  あの時ブッチに貰った革ジャンはどこやったっけ?
  「私も、行っていいかしら?」
  「当然だぜ」
  アル中だったよな、ブッチのお母さん。
  それでブッチは困ってた、嫌ってはなかった、嫌ってなかったから、ブッチはいつも憂いてた。随分と顔色が良い。ブッチが旅立ってからお酒を控えたのかもしれない。
  「禁酒したの、ブッチ」
  「そいつは最高だぜ。飲むにしても、適度な量だよな」
  感動の和解。
  それを遮る怒声。
  「煽るつもりか、ミスティっ! ボルトをどうあっても滅ぼすつもりかっ! お前にそんな決定権があるのか、路頭に迷わせて殺す気だろうっ! 食料、水、それらもお前が用意できるっていうのかっ!」
  「アカハナ、無線機」
  「了解です。どうぞ」
  「ありがとう」
  無線機を受け取り、周波数を合わせる。
  「ルーカス・シムズ市長」

  <ああ、お前さんか。どうした、ミスティ?>

  「実はボルトの住民の一部が外に移住します。スプリングベールに。それで水を都合して欲しいんですけど。モントゴメリー貯水池でしたっけ? そこの水を回してほしいんですけど」
  私がいない間に確保した貯水池。
  今ではそこを中心に開拓しているらしい。近くに稼働可能な農場があるからだ。
  現状はアクアピューラを運んでいる水キャラバンがメガトンを定期的に訪れるようになったのでもう貯水池から水道管を通じて水を確保はしていないようだけど、使えるのであればそこから
  確保したい。もちろんあくまで水キャラバンの申請が通るまでの繋ぎであり、アクアピューラを分けてもらうとメガトンの分が足りなくなるので、貯水池の水利用を提案したってわけ。
  市長の答えは……。

  <構わんぞ。近くに人が増えるのは楽しいものだ。輸送の手筈はこちらで整える>

  「ありがとう」
  これで水絡みは完了だ。
  次は食料か。

  <食料はどうするんだ? 何なら手配するが、どうだ?>

  わざわざ聞いてきてくれた。
  優しいなぁ。
  お言葉に甘えるとしよう。
  「ソノラに話を通してください。私が言うと、何というか仕事を押し付けられそうで。前哨基地で手に入れた食料を分けて欲しいんですけど」
  マダムがいたレイダー前哨基地に大量の食料があった。
  レイダー連中の略奪品?
  まあ、厳密に言えばそうなんだけど、元々はエバーグリーン・ミルズ陥落時に連中が持ち出したものだ。
  ソノラは半分をBOSに譲った。
  レギュレーターとBOSは今のところ関係は悪くない、食料の譲渡は円滑にするための潤滑剤みたいなものだろう。そして発言力を維持する為。もう半分はBOSに恩を着せる為のキープ品だと
  私は見てる。レギュレーターは軍隊ではない、そこまでの規模でもはない、あそこにあった食料の半分でも相当なものだ。備蓄用を兼ねているにしてもそこまで必要だとは思えない。
  「仲介してくれますか?」

  <水臭いことを言うな。お前は身内だし、友人だ。すぐに話を取り付けよう。ソノラもBOSへの交渉材料程度に確保しているだけだ。アクアピューラに関してはどうする? 俺がBOSに掛け合うか?>

  「それはこちらでするわ。色々とありがとう。通信終了」
  通信を切る。
  次は要塞に周波数を合わせる。

  <要塞>

  「2035986」
  識別番号を口にする。

  <照合しました。スター・パラディン閣下、何かご用でしょうか?>

  「新しい街が出来るの、スプリングベールに。現在のところ規模は不明。とりあえずはメガトンに水の供給を頼むんだけど、アクアピューラの配送の手筈を整えてほしいの」
  水の精製はジェファーソン記念館。
  配送はリベットシティ。
  だけど要塞に話を通しておいた方が早いと思い要塞に連絡をした。
  BOSの本拠地だし。

  <かしこまりました。ただちに手配をいたします。……ああ、そうそう、センチネル・リオンズから伝言があります。たまには顔を見せに来て、だそうです>

  「分かったとサラに伝えておいて。通信終了」
  これで手筈は整った。
  住居、確保。
  食料、確保。
  一時的な水の供給はメガトンに頼み、アクアピューラは申請済み、水はこれにて完了です。
  「ボス」
  「何、アカハナ?」
  「我々は現在拠点は定まっていません。あくまでボスがいるからメガトンを拠点に動いているだけです。何でしたら数名をスプリングベールにを拠点にしたいのですが」
  「ありがとう、助かるわ、本当に」
  「ボスの為でしたら容易いことです」
  「最強で最高の兵士もスプリングベールに駐留するわ、これで暮らしは完璧。どんな仕事をするかは決めなきゃだけど、アラン・マック、全て揃えたわ。適当に煽っているわけじゃない」
  「……」
  アラン・マック、言葉もない。
  ただ私を睨み付けるだけ。
  「先に警告して置くけどこっちはそちらを殲滅するだけの戦力がある。手出ししないで」
  「脅すつもりか」
  「事実」
  「……」
  「確かに出て行くときは淑女じゃなかった。人を殺した。それは分かってる、忌々しく思うのも分かってる、でもレイダーの件は与り知らないし、水に関しても私の所為ではない。罪滅ぼしでも
  ないし、したことに関しては謝るし、素直に立ち去るけど、今この時に関しての行為はすべきことをしているつもり。受け入れなくてもいいけど、文句を言われる筋合いはないわ」
  「……」
  ラッド・ローチの襲撃もガロがしてたことだし、監督官サイドも混乱してたから私に襲いかかってきたり、挙動不審な住民を抹殺しようとしてた。
  脱出した夜のこと、あれは色々な要素が重なって起こった惨劇だ。
  私に罪はないとは思わない。
  思わないけど、私だけの所為ではない。
  「決めるのは私でもアマタでもあなたでもない、住人だもの」
  「……ふん。好きにしたらいいさ。ボルトは完璧だ、お前らさえいなくなればな」
  計算したのかな?
  吐き捨てるようなセリフであると同時に、どこか浮かれてる。
  そうね。
  アマタは去る、外に移住したがっている人たちは去る、自分は発言力がある、つまりはアラン・マックが監督官となる。
  損な取引ではないのだろうね。
  「私は監督官を降りる、外に出たい人は私と一緒に来て。新しい街を作りましょう。良い街を」



  結局、ボルトを去ることを決めたのは30名ほどだった。
  アマタの演説も私の行為も心を動かすには至らなかった。でもそれも仕方ない、ずっと中にいたんだ、外に対しての恐れは誰にだってある。仕方がないことだ。
  新しい監督官はアラン・マック。
  彼は言った。
  二度と戻って来るなと。
  戻るつもりはないし戻れないのも分かってる。それは分かっているけど、私はやはり住人ですらなかったというわけだ。
  それはやはり物悲しいものがある。
  一緒に去ったのは若い世代がほとんど。例外的にはブッチのお母さん、パルマーおばさん、プロッチ先生、オフィサー・ゴメスかな。
  アマタも去る。
  スージーは父親に見切りを付け、外に出た。
  開放派はスプリングベールを新しい街とし生活を開始した。
  可能な限りの援助はするし、各勢力に支援を取り付けたけど、手に職ってやつを何とかしないと。
  新しい街はまだ幼い。
  それを育てるも殺すのも采配次第。
  こうしてボルト101の長い長い対立は終わりを告げた。









  ※アラン・マックのお前は英雄だ云々は、主人公を散々お使いさせた挙句の初代フォールアウトの監督官の言葉です。
  3のアマタの出て行け発言はこのオマージュだったのかな?
  ともかく引用させてもらいました。