私は天使なんかじゃない
メトロの人々
それは変革の始まり。
「ない、か」
地図を手に私は呟いた。
ここはテンペニータワーの1階。エントランス。私達仲間はここで外へ出る為の準備中。メンバーは私、トンネルスネーク3人、ボルト組3人、計7人。
グリン・フィスはまだいない。
あいつどこ行ったんだ?
まったく。
「ベンジー、武器の調子はどうだい?」
「完璧だ、ボス」
軍曹はどこから手に入れたのかライトマシンガンを持っている。キャピタルでは珍しい代物だ。私がルックアウトで冒険している間に、ブッチは頼もしい仲間をゲットしたようだ。
アマタとオフィサー・ゴメスは腰に10oピストル、メインとして手にアサルトライフル。スージーは10oピストルのみ。
ブッチの仲間のレディ・スコルピオンは中国製ピストル。ナップサックを背負い、さらにお手製ダーツガンを背負ってる。ブッチは9oを2丁、軽装といえば軽装だけど、私がいない間に実戦
経験積んで根からかなり強い……らしい。よくは知らんけど、大活躍だったようだ、ストレンジャー相手に。
私はいつも通りの完全武装。
「アマタ、スーツケースはスージーに持ってもらったら? 片手じゃライフルは撃ちにくい」
「そうね。お願い」
「うん、分かった」
スーツケースの中には浄水チップ。
これがメインで動いてた。
失くせませんよね。
ドン、ドン、ドン。
外に続く扉は固く閉ざされている。仕切りに扉を叩く音。
音は複数。
外にはフェラル・グールが団体さんでお越しの模様。反ヒューマン同盟の兵隊。ここ、テンペニータワーへの移住を求めているグール達の組織の先兵。
タワーの支配者であるスマイリング・ジャックとしては、移住=住民皆殺しが前提の為、受け入れられないのが現状。
脱出の為にBOSのベルチバードをデリバリーする?
無理。
無線機が通じない。
ジャミングの類のようだ。
用意が良いようで。
「地下の正確な地図はないの?」
「ねぇよ」
無愛想にスマイリング・ジャックは返した。スーツ姿の手下を背後に従えている。
随分威圧的ですね。
まあ、仕方ない。
何だか知らないけどグールどもは私の身柄を要求してきていた、タワーも諦めたわけではないようだったけど、私を渡せば一時退くとか何とか。
約束の確証?
そんなものはない。
そんなものはないけど、交渉の材料……いや、時間稼ぎにはなるとは思ってたんじゃないかな、利己的なジャックおじさんはさ。
彼はかなり狡猾で、頭が良い。
このいきなり中庭まで攻め込まれた状況の打破として使える提案だと思ったはず。
事実そうしようとしていた。
でもしなかった。
何故?
それは……。
「にしてもお前さ、もうちっと考えて行動しろよな。トンネルスネークとしての自覚を持てよ、自覚をよ」
「善処するわ、ボス」
「おいおいボス、あんまり責めるなよ。俺だってそうしたぜ? 彼女差し出してお終いって展開は、ボスだって嫌だったろ? あのまま行けば全部敵になってたぜ?」
そう。
レディ・スコルピオンが敵の親玉をスナイプしなければスマイリング・ジャックは私を差し出していただろう。
そうなれば当然私は抵抗する、タワーの私兵どもとも敵対することになる。
だけど彼女は親玉を消した。
つまり?
つまり、交渉が出来なくなった。
グールどもの命令系統は知らないけど混乱しているはず。自動的に.2が新しい親玉になるとは考えにくい。発言力は親玉並みになるとはいえ一騒動あるだろう。少なくとも自動的に繰り上がり
はしないし、指揮系統が完全に安定するにはこの戦いの間は無理だ。スナイプされたボスの仇討の為に交渉そのものをしないと考える幹部もいるだろうし。
タワー側として見交渉先をなくした。
結果として私を差し出せない、私と喧嘩する必要性がなくなった。腹いせ紛れにこちらを攻撃してくる可能性もあったけど、私なら私らを利用する。グールどもの第一目標が仇討にシフトしたからだ。
移住を諦めないにしても報復の順位は上がったはず。
それに、わざわざ私の身柄を要求した以上、そもそも私に対して何らかの含みがあるのは確かだ。
タワーは私たちを外に放り出す、グールたちを出て来た私たちを見逃さない、結果としてタワー側はグールどもを押し返す為に私たちを利用するはず。奇妙な同盟関係の成立。
「ほらよ」
「ありがとう」
鍵を受け取る。
タワー裏手にある発電施設に入るの鍵。そこはメトロへと通じているらしい。私が受け取った地図もその地図。ただしメトロまでの地図は失われているので途中までの記載しかされていない。
メトロに通じている理由は不明。
ただ、戦前の核戦争への懸念を考えると、メトロを避難用に想定してのことなのだろうか。
その為に繋げたのかもしれない。
まあ、真相は謎だけど。
「そろそろ出て行ってくれないか」
「分かってる」
「改めて言っておくぞ。その鍵は発電施設を開ける為の鍵だ。メトロへの扉は電子ロック式だが、回線切れて電力行ってないから手動で開けろ。開く筈だ、たぶんな」
「……たぶんか」
「仕方ねぇだろ、使ってないんだからよ。入ってすぐ右手に扉があるがそこはロックしてある、発電機がある、ここの生命線だ。その鍵は渡してないから、お前らは入って正面の扉を押して開けろ。いいな」
「分かったわ」
「お前らが出たら2階から援護してやるし、ここからもしてやる、扉はすぐに閉じるがな。2階からは継続支援してやるよ」
「どーも」
善意?
打算だな、これ。
私らが出れば私らを追撃してくる、先に私らが出易いように数減らしてくれるのもそういう意味だろ。私らを追ってメトロまで追い掛けて行ってくれたら儲けものってわけだ。
反ヒューマン同盟がどこまでやるつもりかは知らないけど、私らを利用すれば数を減らせる。
タワーから連中を押し出すことも可能だろう。
まあいいさ。
別に打算でも何でもいい、私らが出れる手筈ならそれでいい。
「なあミスティ」
「ん?」
オフィサー・ゴメスが耳打ちしてくる。
「それ、本物か?」
鍵の件か。
偽物ってことはないだろ、メトロまで追撃させることに意味がある。いや、そこまで考えてないにしても、私らが逃げ回れば逃げ回るほどフェラルたちは私たちを追っていく、結果としてタワーが
護れる。裏手で私たちを全滅させたところで赤毛ザマーwww程度であって、タワーにとっての利点はないだろ。
私は微笑して言う。
「もちろん」
ジャックおじさんは馬鹿じゃない。
こちらの懸念も見越してる。
だったらコソコソしても仕方がない、私はニコニコしながら、そう言った。ぶいっとおじさんは顔を逸らした。ゴメスの懸念は分かるけど、ここは化かし合っておいた方がよさそうだ。スマイリング・ジャック
のような人物に舐められたり軽んじられると、変な要求されかねないし。もちろん出来たらもうお付き合いしたくないけどさ。多分向こうもそう思ってる。
さてさて。
「行きましょうか。ブッチ、アマタ」
「トンネルスネーク始まるぜぇ、始まるんだぜぇっ!」
「分かった」
それぞれの組のリーダーはやる気満々。
全員銃を手にスタンバる。
「スマイリング・ジャック」
「何だ?」
「ここで私らも立て籠もって戦う?」
「よしてくれ」
嫌そうな顔。
でしょうね。
私としてもそこまで馴れ合うつもりはない。今回何故か私を要求している、でもそうじゃなくとも連中はここ欲しさにアタックしてきている。
敵のボス殺した今はいい。
だけど長引けば私を差し出してー、という発想に繋がってもおかしくない。
立ち去るのが賢明だ。
一応提案はしたみたけど同意されたらどうしようかと思ってました。
「どう支援してくれる?」
「さっきも言ったがとりあえずここと2階から援護する、あんたらはともかく走れ。ただし裏庭までは支援しない。何故って?」
「広範囲支援する意味がないからでしょ」
「ふん。正解言っちまうとは面白くねぇな」
「どーも」
敵は常に正面からしか来れない。中庭に全部敵が溢れているわけではない、侵入できるのはそこの扉だけだからだ。2階から見る限りでは中庭に全部がひしめいているわけではないし、侵入口
である扉周辺に固まっているだけ。私らがそれを突破して中庭の裏手に走る、2階から正面だけを攻撃する、それでタワーとしての義理はお終いってわけだ。裏手は私らにやれってことだろ。
作戦会議はこれでお終い。
スマイリング・ジャックが目配せするとスーツ姿のセキュリティ2人が両開きの扉の取っ手をそれぞれ掴む。私らの前に布陣するセキュリティ部隊。部隊はアサルトライフルを手にしている。
「アマタ、始まるわよ」
「……」
「アマタ」
「え、ええ。ス、スージー、怖くないわよ?」
「えっ? あっ、うん、平気」
意外に根性あるようですな、スージー。とはいえ別にアマタが臆病ものってわけでもない。
デスクローといい人狩り師団といい、アマタはハードモード選ぶよなぁ。
「開け」
スマイリング・ジャックの声と同時に扉が開かれ、開いた兵士2人はその場から慌てて下がる。
瞬間、激しい銃撃音。
2階からもだ。
連動して外敵に対しての攻撃を始める。
浮足立ってうとうとしたゴメスを軍曹が止める。ここで無駄弾を使う必要はない、逃走経路は長い、弾は温存しないとね。
激しい銃撃。
タワー内に押し入ろうとフェラルたちはラッシュして来ようとするものの、ラッシュなど出来るはずもない。
バタバタと倒れていく。
フェラルの兵隊は消耗品で、本隊のグール達は中庭はおろか壁にすら近付いていない。壁の外。ただ突撃してくるフェラルではこの流れはどうにもできない。ラッシュしようにも数秒でミンチだ。
……。
……少なくとも、今はね。
行動は急がなきゃ。
すぐに立て直すだろう、グールの兵隊が来たらアウトだ。
「行けっ! ……そしてもう戻って来るな。お前が来ると客が寄り付かなくなる」
「それは言わないお約束」
ウインクして返す。
この流れは私の所為ではないだろ、元々タワーは狙われてたし、囲まれるのは年中行事だったわけだし。
「行くぜ、優等生っ!」
「ええ」
私たちは走りだす。
ぎりぎりまでエントランスの面々は援護してくれたけど、私らが出たら当然そのまま扉を閉じた。
外に出た私たちを出迎えたのは日光と、大量の死体、そして倒し切れなかったフェラルたち。中庭にいるフェラルの残りが私らに向かってくる。しかし構えるよりも先にそいつらは沈黙。
2階からの援護だ。
ふぅん。
思って寄りは信用できるようだ。
もちろん私らの為というよりは私らがここで逃げ損なって死ぬとフェラルたちが居残るからってわけなんだろうけど。逃げれば逃げるほど、生き残れば生き残るほどフェラルは私らに引きつけられる。
つまりはそういうこった。
悪いことじゃあない。お互いに利用し合っているだけだ。
さて。
「走れーっ!」
全員ダッシュ。
当然ながら上からの銃撃は正確というわけではなく、さらに中庭に突入してくるフェラルの群れもいるから、全部が全でスルー出来るってわけではない。
走りながら迎え撃つ。
「アマタっ! 鍵よ、先に行って、スージーもっ! 援護するっ!」
「わ、分かったわ」
「はーい」
スージーは余裕あるなぁ。
天然?
天然なのかも。
「レディ・スコルピオン、お前も頼むわ。お前が行けば安心だぜ、俺らは援護に徹するからよ」
「了解、ボス」
3人は走り去る。
当然私らも続くけど基本はフェラルのお掃除。
「こんのぉーっ!」
バリバリバリ。
私とオフィサー・ゴメスのアサルトライフルが火を噴く。
今のところ私らのターンだ。
特に支障はない。
軍曹の軽機関砲が唸りを上げて大量の弾丸を吐き出した。考えなしに突っ込んでくるだけのフェラルには充分過ぎるほどの武器だ。
ただ、これだけのフェラルだ、従がえている奴がいるはず。
master系とかいう奴だ。
意思1つで操れるらしい。
アンデールでは最低でも2人のグール(実際の内訳は片方はグールのロイ・フィリップス、片方はグールマスクをしたカール)がいたから単独なのか複数で操ったのかは知らないけど、それでも
ルックアウトではジェイミのダチが1人で操ってた。あれがmaster系の操れる標準の数だとしたら、操ってる奴は1人ってことになる。
出来たら探し出して撃破したい。
後難を避ける為にもね。
だけど、まあ、無理か。
その余力がない。
幾らタワー側と連携しているとはいえ完全な味方ではないし、いざ私たちも消した方が後々楽じゃないかとスマイリング・ジャックが判断したら容赦なくそうされる。あいつはそういうタイプ。それに私
らにはこの圧倒的なフェラルの数を押し返すだけの弾丸がないし、フェラルはともかくとして、グールの連中が前面に出て来たらまず負ける。
「ボス、行こうぜ。あんたらもだ。殿は任せろっ!」
「よっしゃ。任せたぜ、ベンジー」
「よろしく」
敵の猛攻が弱くなった。
私たちも先に行ったアマタたちを追う。
「良い仲間持ったね、ブッチ」
「ん? おお。だろ?」
軍曹にしてもレディ・スコルピオンにしても一級の人材だ。どこで見つけたのやら。
「ミスティ、俺も踏み止まる。彼だけには任せられん」
「オフィサー・ゴメス」
「どうするよ、優等生」
「分かった、援護してあげて」
「了解だ」
ゴメスと別れて裏手にある発電施設に到達。
正確には地下に通じる扉。
階段を下りる。
階段の一番下ではレディ・スコルピオンが警戒しており、扉は空いてる。アマタたちは中か。
「開かないってさ」
「開かないだと?」
「そうだよ、ボス」
どういうことだ?
ブッチにここは任せて私は扉をくぐる。
中はそれほど広くはないけど、一同が入れるだけの広さはある。扉は2つ、1つは施錠されているようだ。多分これが発電機のある部屋だろう。鍵はないし用はない。
正面にもう1つ扉。
これか。
アマタとスージーが鋼鉄製の扉を押している。
こちらに気付く。
「ミスティ、これ以上開かないわ」
「ちょっと待って」
扉に近付き、しゃがむ。
少し開いているけどこれ以上は開かないようだ。床には埃、私らが入るまで誰も開けようとはしていなかったことから、別にジャックの罠ってわけではなさそうだ。
アマタはこれ以上と言ったわけだから、この隙間分は開けたってことで電子ロックは死んでる。
となると単純に錆びているのだろうか。
「ちょっと閉めてみよう」
取っ手を引いて、閉める。
閉まる。
「開けよう。せーの」
3人で力を合わせて押す。
ゴン。
何かに当たった。
ふぅん。
何かが向こう側で倒れているか何かしているのだろう。突っ掛ってるってわけか。まずいな。
銃声が近付いてくる。
声が降ってきた。
軍曹とゴメスの声だ。
「まずいぞ、死体どもが大挙して押し寄せてくるっ!」
「どうする、踏み止まるかっ!」
まずいな。
扉をグレネード弾で吹き飛ばすという手は……駄目だ、万が一失敗したら完全に脱出口を失う。
どうする?
どうしよう。
そうこうしている間にブッチたちが後退してくる。ここに立て籠もって敵を銃撃、侵入口は1つしかないし狭い、防衛は可能、ただしグールの兵隊が出るまではだ。フェラルなら何とかなるけど
長期戦だとは弾がもたない。その後に重武装のグール兵が来たらアウトだ。さすがにどうしようもなくなる。
軍曹が叫んだ。
「ここは受け持つが対処法を何とかしてくれよっ! こいつの弾丸がある間は何とかなるが、その後が困るんでなっ!」
言いたいことは分かる。
虎の子の軽機関銃の弾丸は温存したい。もちろん今はそんなこと言えないから使用しているわけだけど……可能な限り残弾は確保したい。
防衛を軍曹とゴメスに任せて残りの全員で扉を押す。
「何よー、これー。そうだブッチ、爆破したら?」
「そいつはいいや。俺らが避難できる場所があればな、スージー」
ダメだ。
びくともしない。
爆破は出来ない。下手したら扉が歪んで逆に出られないというか、下手しなくても無理だろうし、状況的にここに籠るしかないから、余計に無理になった。
「早くしてくれっ!」
叫びと同時に弾丸が飛んできた。
おいおい。
グールの兵隊さんのご到着か。
これ以上は限界だ。
どうする?
どうし……。
「はあ」
露骨にレディ・スコルピオンはため息を吐いた。
それから誰に言うでもなく呟く。
「公言しないでよ。この武器知られると……そうね、BOSとかに没収されかねないから」
……?
そう言ってナップサックから何かを取り出す。
レーザーライフル?
そんなもんでどうするつもりだ?
「どいて」
私たちを扉の前からどかす。
それからレーザーライフルの先端を弄り、側面のカバーを外して何かを弄り、カバーを戻して扉に向ける。
カッ。
真紅の光が伸びる。
その光は通常の者よりも赤く、そして強い。
四角を描くようにライフルを動かす。
……。
……マジか、まさか鋼鉄の扉を焼き切っているのか?
なるほど。
これは口止めした意味が分かる。
こんなに高出力のレーザーライフルは見たことがない、BOSが欲しがるだろう。四角を描いた後、レディ・スコルピオンはライフルを片手に持って無造作に扉を蹴った。
がたん。
四角に切られた扉の一部が向こう側に落ちた。
結構厚いぞ、この扉。
よく切れたな。
エンクレイブでもこんな出力はそうそう持ってないんじゃないか?
ブッチは口笛を吹く。
「ひゅー。さすがだぜ、レディ・スコルピオン」
「どうも、ボス」
クールな人だ。
誇るでもなくレーザーライフルをナップサックにしまう。そして一番に扉をくぐり先にスタスタと進む。
うーん。
謎のお方ですね。
「優等生、先に行けよ、俺らは後から行くぜ。アマタもスージーも行きな」
「任せた。行きましょう」
数分後。
……。
……あー、数十分後?
時間の感覚がない。
ダメだ。
私らは完全に地下で絶賛迷子中。
途中扉があったりしたけど基本的には全て施錠されていて入れなかった。
殿してた面々は既に合流しているし、時たまフェラルが追撃してくるけど、これが私たちが選ばなかった道から来た野良フェラルなのか、追撃してきたフェラルかは不明。いずれにしても
一度の追撃で来る数は数体。返り討ちにはしているし、それは簡単なんだけど、道は分からない。
地図?
はっはっはっ。既に地図に記された以上の場所にいるのだよ、だからもう分からん。
行き止まり。
袋小路にドラム缶が置いてある。
ここは違ったか。
少し戻って分岐を右に行くべきか。
「ちょっと休憩しましょう」
誰に言うでもなく私はそう言った。
疲れてる?
疲れていると言えば疲れてる。
だけど休憩以上に今後のことを話したい。
「それで、どうしよう?」
「そりゃ優等生、ここから出るさ」
「それは分かるけど……」
永住する気はないです。
どっかにパソコンでもあればなぁ。
そこからこの場所の地図をゲットできるかもしれないのに。
食料や飲料の類はなかったりする。
正確にはそれぞれごくわずかとはいえ携帯している食料はある、ガムとか、ブロックタイプの栄養食とか。だけどこれでは長期は生きられない。幸い水に関しては水飲み場がいくつか点在して
たから、この先もあるだろう、ないかもしれないけど。放射能に関しては微量だけどあった、とはいえ初期のメガトンよりも低いから問題ないだろ。アマタたちには抵抗あったみたいだけど。
「考えるまでもない、進むしかない、でしょボス」
「だな」
結局そうなるのかなぁ。
とりあえずメトロには通じているらしい、えーっと、ワーリントン駅。元々は戦争時の避難経路っぽいから、たぶん繋がっているんだろ。意味もなくここまで広大だとは思えない。駅に通じていないにし
てもどこかには通じているはずだ。まさかシークレットボルトとかじゃないでしょうね?
それだとまた話が変わってくる。
危険かどうかは知らん。
問題はルックアウトのソドムでのトラウマがあるからだ。
まあいい。
進むしかないのは既定路線だ。
休憩も多少は出来た。
進むか。
「行きましょう」
「地獄に?」
「……っ!」
気付けば後を固められているっ!
聞こえたのはくぐもった声。
何だこいつら?
3人いる。
ガスマスクのようなものを被った、完全武装の3人だ。アサルトライフルを手にしているし、こちらに向けている。
初めて見るタイプの連中だ。
肌が露出している部分がない。
「待て待て、俺は……」
ブッチが何か言い始める。
その時……。
ガタン。
今度は後ろから音がした。
振り返る。
後ろに置かれていたドラム缶が移動していた。壁には亀裂があり、人が通れそうだ。事実人が通れるのだろう、そこには先ほどいなかった人物が経っていた。同じ装備をした人物。男だか女だか。
「ああ、ブッチ・デロリアか」
「もしかしてマキシーか?」
「そうだ」
「助かったぜ」
「助けた、つもりはないが、武器を下してくれていい。抵抗はしないだろう」
手下3人?は銃を下した。
だけど言った発言が引っ掛かる。
抵抗?
「ブッチ、誰なの?」
「マキシーって奴だ。マックスとも呼ばれてる。性別は知らん。ずっとメトロにいるんだとさ。汚染されるのが嫌で顔も見せないんだと。仲間内でもな」
「へー。だから地下に住んでいるんだ」
「らしいぜ」
生活方式がボルト101と酷似しているな。
「最近は水を求めて地上にいるんだ。マキシーとはそこで会ったんだ」
「へー」
水を求めて、か。
これまたボルト101と似ている。
マキシーは言う。
「悪いがブッチ・デロリア、お前たちは我々メトロの住人のテリトリーに入っている。正確にはテリトリーの入り口にまで来てしまった」
ああ。
ドラム缶はカモフラージュか。
メトロって意味が分からないけど、そういう勢力もいるってことかな?
地下モグラってわけだ。
「どういうことだよ、マキシー」
「大変申し訳ないが同行してもらう。本来ならどうってことはないのだが最近は物騒でね、地下を徘徊している連中がいる、こちらを見ると攻撃してくる。我々はそれを看過できない」
「はあ?」
状況が分かっていないブッチ。
アマタたちもだけど。
だけど、これは……。
「……」
無言で構えようとした軍曹に私は首を振った。
この状況下で交戦したら何人か死ぬ。
向こうは完全に死ぬけど、こっちも犠牲が出る。それは避けたい。少なくとも今は交戦しない方がいい。ブッチが知り合いなら何とかなるかもだからだ。
それにしても徘徊している連中?
グールたちのことか?
「どういうことだよ、マキシー」
「掟に従いお前たちを裁かねばならない。悪いようにはしない。付いてきてほしい。認識していないかもしれないが、取り囲まれている。地下の領域で我々に勝てると思わない方がいい」
「……優等生」
「仕方ないわ」
ここは従がうとするとしよう。
付け入る隙はある。
交渉は可能だ。
舌先三寸の私の本領発揮ってところかな。