私は天使なんかじゃない






2人のエデン、2つのエンクレイブ






  世界はそれほど単純ではない。





  依然として流れ続けるエンクレイブ・ラジオ。
  その内容。
  「ここで霊的な引用を。大統領ジョン・ヘンリー・エデン自身が、あなたの心に届けよう」
  「女性の立ち振る舞いは共和主義政府が国家において実用的かどうかを知る為のもっとも確実な基準である」





  シカゴ。
  地下深くに存在する軍事要塞ドーン。
  現在クリスティーナ・エデン大統領が率いる正統エンクレイブの本拠地。
  大統領執務室。
  大統領に就任したクリティーナ・エデンは、親衛隊であるガルライン中佐の報告を聞き入っている。
  執務室には2人だけ。
  「閣下、反乱した州に対してはいかがなさいますか?」
  「放っとけ」
  「よろしいので?」
  「駐留している基地から既に我が軍は撤退させた。暴れているのは現地軍だけだ。それに我々の傘下にあったことを知っているのは数名だけ。そいつらに言われて唐突に軍を起こし、訳も分からず
  に暴れている兵士たちなど取るに足らん。兵士たちは何故軍事行動しているかも知らんわけだからな。我が軍は撤退している、別に問題ない」
  「となると……」
  「反乱を煽っている連中は、要は私の求心力を削ぎたいだけだ。戦前ならいざ知らず、今の時代は州に一つの街しかないこともおかしくはない。その街が反乱する=一つの州が反乱した、というわ
  けだ。煽りたいだけだ、放っとけ。直轄軍が反乱したならともかく、我々傘下の地元勢力の指導者が反旗を翻しただけだ。地元軍は引き摺られているだけで敵すら分かっていない烏合の衆だ」
  「なるほど」
  「ただ……」
  そこで言葉を区切る。
  エンクレイブの直轄領、従属領は広大。
  双方合わせて13州。
  隣接している他州には当然別勢力もいる、敵は内部だけではなく外部にもいる。
  大半は敵ではない。
  それぞれに利害関係があり、まとまることがないのでエンクレイブとしても怖くはない。現在の状況でもだ。
  「メッカニアが面倒だな」
  「確かに」
  軍事要塞ドーンのあるシカゴはイリノイ州にあり、メッカニアと呼ばれる国家はミネソタ州にある軍事大国。
  パワーアーマー、戦闘車両等多数保有している。
  現在エンクレイブに対抗できる、隣接している地域では唯一の競合勢力。
  「連中の動きは?」
  「現在国境線に兵力を増強しています」
  「……」
  「閣下」
  「こちらも国境に増援を送れ。ただし、何もするな」
  「ではメッカニアは動かないと?」
  「全面対決して勝てるとは連中も正気では思ってないだろ。嫌がらせ程度にこちらの兵力を分散させたいだけだ。特に意味はない。我が軍の不穏分子とは繋がってはいまい」
  「確かに。エンクレイブはエンクレイブですからね」
  「そうだ。頭がすげ変わったところでエンクレイブ、連中に利益などないからな」
  「頭がすげ変わるなどと……」
  「表現などどうでもいいさ。メッカニアも放っとけ。下手に動けば後に控えているNCR侵攻にも響く。向こうが本命だからな」
  「コロラドを中心に戦力を拡大している蛮族どもはどうしますか? 我々とは国境を接してはいませんが」
  「リージョンか。連中は何故か西に固執している、西はモハビがあり、モハビを巡りNCRと潰し合っている。いかに我らとて双方を相手には出来ん。潰し合いを傍観するさ」
  「分かりました」
  「ところで話題を変えよう、キャピタルのエデンはどうなった?」
  「現在は衛星中継ステーションを拠点にしております」
  「動きは?」
  「現在キャピタル北部に侵攻中です」
  「北部に?」
  クリスティーナは眉を潜めた。
  意味が分からない。
  実際、北部に侵攻するべき拠点はない。少なくとも内偵としてキャピタルにいた彼女の頭には何も浮かばない。
  「そこで連中は何をしている?」
  「親衛隊のリナリー中尉が偵察任務でキャピタル入りしておりますが……正確なことは何も分からないとのことです。ただ、北部にはスーパーミュータントの勢力がおり、現在交戦中とのこと」
  「……」
  「アダムス空軍基地に対しての攻撃はありません。また、キャピタルのBOSが勢力拡大に動いています」
  「やれやれ。エンクレイブの抗争に介入するつもりか」
  「そのようです」
  「まあ、我々も連中もキャピタルをそのままにするつもりはないから妥当ではあるが……ふぅん、アダムス空軍基地はスルーか」
  「御意」
  「衛星中継ステーション側の指導者はやはり?」
  「現在ジョン・ヘンリー・エデンを大統領として据えているようです。その下にクラークソン准将、そしてオータム大佐。ただ、いささか矛盾が生じてきていますからね、脱走兵が増えているようです」
  「矛盾」
  レイブンロックが陥落した後、ジョン・ヘンリー・エデンはシカゴの軍事要塞ドーンから指揮していると宣言していた。
  軍事要塞ドーン、つまりはクリスティーナが今いる場所だ。
  ここにいるわけがない。
  それが矛盾。
  だが……。
  「矛盾だろうか」
  「はっ?」
  「それすらも計算しているとしたら」
  「ですが、その場合、意味があるのでしょうか」
  「さあな」
  「ジョン・ヘンリーエデンは傀儡、と見るべきでしょうか?」
  「おそらくオータムが演じているだけだろう。クラークソン准将は、ただ先代エデンに盲従しているだけだ、利用する為に先代エデンを持ち出しただけだろう。あとは、正当性をアピールしたいのだろ
  うな。ただ気になるのはジェファーソン決戦の際に、先代エデンがオータム隊以外の全隊を撤退させたことだ。この時点でオータムが全隊を退かせる意味がない。自分が危機だったんだからな」
  「では別の者が?」
  「クラークソンが凡庸の振りをしてるだけかもしれん」
  「いずれにしても閣下、向こうのエンクレイブはこちらをキャピタルに引き摺りこもうとしているのは確かです。主要戦場をキャピタルにしたいのではないでしょうか?」
  「だろうな」
  「我慢比べ、ということですね」
  「だが私はそこまで我慢するつもりはない。クラークソンはともかくとしてオータムの影響力は依然こちら側に残っている。議会の大半は奴寄りだ。長引けばエンクレイブが完全に割れる」
  「では援軍を派遣なさると?」
  「ガルライン」
  「はい」
  「連中は攻撃衛星を持っている。12発の核ミサイルがある。何故使わないと思う?」
  「私見ですが軍事要塞ドーンを無傷で確保したいのではないかと」
  「それだけだろうか」
  「申し訳ありません。分かりません」
  「まあいい。膠着状態を打破する。移動要塞ヴァルゴをアダムス空軍基地に派遣せよ」
  「し、しかしっ!」
  それはエンクレイブが保有している2基の移動型総司令本部の1つ。
  収容兵員1000人。
  この世界に現存している、最大級の陸上兵器。
  大統領の旗艦。
  「しかし、何だ?」
  「それはつまり……」
  「そうだ。大統領クリスティーナ・エデン自ら出陣する。私が行けば私の首を取りに来るだろう、連中は動く。簡単なことだろう? ガルライン、クインシィ少佐を補佐として軍事要塞ドーンの護れ。出撃し
  ている間に反乱が起きて帰る場所がなくなるのは痛い。私は橘藤華大尉、カロン中尉、ハークネス中尉を連れて行く。異論はあるまいな? お前にしか頼めない。やれるか?」
  「御意っ!」
  「よし」

  「失礼します閣下、裁可して欲しい書類があります」

  大量の書類を手に入室してきたのは腹心の橘藤華大尉。
  現在は秘書的な立場にある。
  ただしその能力はグリン・フィスをしのぐ氣の使い手。
  「……大量だな」
  「各基地からの陳情、各ボルトからの要望もあります。州の運営の裁可もございます。議会もいくつか案件があると。人事としての相談事もありますし、後は……」
  「分かった分かった。……ガルライン、行動はこれが終わってからだ」
  「御意」
  「笑ったか?」
  「いえ、滅相もありません」
  「クリスティーナ様」
  「分かった分かった」





  同刻。
  キャピタル西部にある衛星中継ステーション。
  現在ジョン・ヘンリー・エデン大統領率いるエンクレイブ軍が駐屯している。兵力3000。ベルチバードも多数保有。核ミサイルを搭載した攻撃衛星も管理下にある。
  数に置いてはクリスティーナ側にははるかに劣るものの、戦力的には劣るものではない。
  またオータム大佐の影響力は絶大で軍事要塞ドーンにも支持者が多数いる。
  いざ全面対決になればどうなるか分からない。
  だからこそクリスティーナ側も迂闊には動けない。
  3階の私室から演習の様子を見ていたオータムの部屋をノックする音が響く。
  「誰だ」
  「私です、大佐」
  「サーヴィスか、入れ」
  「失礼します」
  入室したのはサーヴィス少佐。
  元々オータムの副官だったガルライン中佐を平和的にクリスティーナの元に送り、オータム大佐の副官の地位を得た人物。
  「どうした?」
  「クラークソン准将はどのような反応を示しましたか?」
  「ああ」
  オータム大佐は侮蔑の笑みを浮かべる。
  内心軽視していたとはいえクラークソンのお目出度さがおかしかった。
  「大将就任を大変喜んでいたよ」
  「それは何よりです」
  大佐以上はあくまで名誉職でしかない。
  要はクラークソンを喜ばせ骨抜きにしたいだけの仕組まれた就任。大将にまでなれば細部にまで口出せない、立場上大佐であるオータムが全てを吟味し、どうでも良いことだけ上に
  上げる、その形式に持ち込みたかったオータムとサーヴィスの策謀に過ぎない。ただある程度の善意でもある、クラークソンは就任を喜んでいるからだ。
  「エデンの振りは楽しいか?」
  「楽しいか、と聞かれれば特にそうでもありません。あくまで私は大佐の指示で動いているだけですから」
  「では俺が大統領ってことか」
  おどけてみせる。
  サーヴィスは微笑し、それから威儀を正して報告した。
  この男、徹底した官僚的な人物。
  「大佐、北部侵攻は依然として攻めあぐねいています」
  「スーパーミュータントどもか」
  「はい」
  「よりにもよってあんな場所に居座らなくても良いものだがな」
  「確かに」
  「赤毛どもはどうなった?」
  「BOSを中心とした勢力を形成しています。レギュレーター、メガトン共同体もそれに協力、さらにピッツバーグの勢力と同盟関係です。赤毛を殺しますか? 奴が要です」
  「殺したところで殉教者になるだけだ。まあ、殺せばエンクレイブ撃退後に分裂して殺し合うだろうが」
  「それはそれで楽しいのでは?」
  「我々が負けるってことだぞ、楽しいものか」
  「申し訳ありません」
  ミスティの仇であるエンクレイブが退場したらバラバラになる、オータムはそう考えている。
  だが当然それはエンクレイブ負けるということだからあまり面白いものではない。
  「で? 原住民は何をしたがってる?」
  「雑多な勢力を併呑してキャピタルの統一、でしょうか」
  「ふん。エンクレイブに対抗する為か。小賢しい」
  「勢力の統合に血道を上げており、北部に我々が侵攻しているのは確認しているようですが特に動きはありません。エンクレイブとスーパーミュータントとの戦いを傍観しているようです」
  「決着が付くまでは傍観、か。悪くない手だ」
  「こちらもBOSを放っておきますか?」
  「ああ。放っていてもいいだろう。むしろ生かしておいたら向こうのエンクレイブを潰す駒にもなるだろう。ただし、北部侵攻を急げ。クリスティーナの側に気付かれるな、こちらの真意を」
  「はい」
  「要塞の機能については確かなんだろうな?」
  「確実です、問題ありません」
  「よし。ならば3つの衛星通信アレイを早急に制圧しろ。居座るミュータントどもを駆逐しろ。急げよ」
  「了解しました」





  「……はぁ」
  「どうしたの、アマタ」
  バザー壊滅から3日後。
  テンペニータワーに缶詰め状態になっていた。
  何故?
  タワー移住を求める反ヒューマン同盟がフェラルの軍勢を率いてタワーを包囲しているからだ。無線でタクシー……いえ、BOSにベルチバードを頼んだんだけど通信出来ず。
  どうも妨害電波が出ているらしい。
  なのでここに缶詰め状態。
  私たち、私、アマタ、オフィサー・ゴメス、スージー、ブッチ、レディ・スコルピオン、ベンジャミン・モントゴメリー軍曹の7人は無為に毎日を過ごしている。
  特にここには用はない。
  3階のレストラン、窓際のテーブルを占領して私たちは遅い昼食中。レストランはお客でいっぱいだ。12,3あるテーブルは全て埋まっている。
  キャピタルで一番洒落ていると思う。
  ……。
  ……まあ、指導者が滅茶苦茶無愛想だけどねー。
  それさえなければ最高なんだけどなぁ。
  窓から眼下が見る。
  フェラルの軍団。
  300ぐらいいるのかな?
  まあ、数がいようとテンペニータワーは高い壁で覆われているからどうしようもない。
  「アマタ」
  「えっ?」
  「疲れてるの?」
  「……」
  お腹空いてる?
  まだスープしか来てないからなぁ。
  全員次の料理待ち。
  スージーは時間潰しに手帳に何か書いてる。多分絵。いやイラストって言った方がいいのか。手先が器用で、上手。
  「空腹?」
  「いや優等生、どう考えてもこの間の件だろ」
  バザーの件?
  まあ、そうね。
  さすがに私でもあの体験は……ないことはない、ないことはないけど……アマタがいきなりハードすぎる体験をしたのは分かる。
  アマタはため息を吐いた。
  「外ってきついのね」
  なるほど。
  ブッチの推測は正しかったようだ。
  ただー……。
  「アマタ、どうして私に助っ人頼まなかったの? 最初から」
  「体よく切っておいて、頼めるわけないじゃない」
  「別に気にしてないけど」
  「私が、気にしているの」
  「じゃあ次は切り捨てないでね。はい、それで終了」
  「相変わらずね」
  「そりゃ私は私ですから。ただねアマタ、あなたの行き先が問題あるのよ?」
  「行き先?」
  南部はやばいだろ、南部は。
  まだ南東ならいい、リベットがあったりBOSの拠点である要塞があるから。南西はやばいだろー、何もない、完全な辺境だ。まあ、ギルダーシェイドはあるけど、自分たちで手一杯だしなぁ。
  「ミスティだってこれを乗り越えたんじゃないの?」
  「ごめん私はレベル1の時はアリアハンを彷徨ってた。あなたたちはいきなりネクロゴンドにいるようなものよ」
  「意味分からないんだけど」
  「つまりだ、優等生が言いたいのは紛争地に旅行者が行っているようなもんだってことだ。だろ、優等生?」
  「そう、それ」
  分かり易い例え。
  ブッチのくせに生意気だ。
  「にしても優等生、あいつはどうしたんだよ」
  「グリン・フィス?」
  「そう。サロン・パスだ」
  「……いつもの仕返しってやつ?」
  「まあな。で、あいつはどうしたんだよ」
  「分かんない」
  「何だそりゃ」
  依然として行方不明。
  お互いにメガトンに住んでいるからここで行き違っても最終的には会えるから問題はないけど。

  「お待たせしました」

  来た来た。
  ウェイター3人が料理を持ってくる。7皿分。手は2本しかないのによく持てるものだ。
  テーブルに料理を置いてウェイターは下がる。
  液体?
  焦げ茶色の液体のようだ。
  バラモンの肉が入ってる。
  初めて見るな。
  「西海岸では見たことないわ」
  「レディ・スコルピオン、こいつはビーフシチューというやつだ」
  へぇ。
  さすが自称戦前の軍人。
  本当かは知んけど。
  一口食べてみる。
  仲間たちも。
  「うまいな」
  オフィサー・ゴメスが感嘆の声を上げる。
  スージーは貪るように……おおい、早いな、もう半分ないぞっ!

  「お口に合いますか?」

  柔和な笑みを浮かべた青年が出て来る。
  白衣を着てる。
  とはいえ医者ではない、コックってやつだ。
  名前は……。
  「美味しいわ、アンソニー」
  「よかったです」
  ここ最近私の周りをちょろちょろしている男性。
  サンセットサルバリラ買いにバザーに行っている間にここに流れてきた、らしい。何でもPIPBOYを探して旅してここに来たらしい、ここにあるとは知らずにね。あるのはたまたまだ。
  ボルト101のアマタたちが持ち込んだPIPBOYがここにある。
  それを買う為にここで現在コックとして働いている。
  PIPBOYに拘る理由は不明。
  んー、ボルトでは普通の代物だからなぁ。やっぱり外の人にしてみたら特別な物なのかな。私としては見慣れているから別に何とも思わないけど。
  「ビーフシチューって初めてだけど美味しい」
  「ビーフシチューではありません」
  「違うの?」
  おいおい軍曹さん違うじゃないですかぁ。
  「何て料理?」
  「ビーフストロガノンドロフという戦前の料理ですよ」
  「……ごめん途中で魔王混ざってない?」
  「何のことでしょう」
  気のせいだったのか。
  んー、何かハイラル王国を狙う魔王が混ざっていたような……まあ、いいかー。
  「ではメインを運んできますね」
  「よろしくー」
  メインか、何だろうなー。
  アンソニーは立ち去る。
  「ブッチ」
  「あん?」
  「彼って何か私に固執してたりする? 何というか私の先をいつもちょろちょろしているというか」
  「おいおい、そりゃひでぇ言い方だな。むしろお前がアンソニーの後を付け回している状態じゃねぇか? ははは、有名人様は被害妄想かよ。というかこのガノンドロフうめぇーっ!」
  「……」
  そうか。
  そうね。
  確かにその通りだ。
  私の行動は基本的に計画的ってわけではない、そんな私の行動の先回りなんて出来るわけがない。
  なるほど、ただの偶然ってわけだ。
  なるほどなー。
  「ねぇ、ミスティ」
  「何アマタ?」
  「ここでいつまで足止めを食うの?」
  「それは私にも分からない」
  フェラルの包囲が解けるのはいつになるかは知らない。
  目的がタワー占領だし。
  まあ、タワー明渡せばすぐにでも包囲は解除するだろうけど、ここにいる全員が生きて帰れるかといえば疑問だ。
  殺されるだろうなぁ。
  普通に。

  「赤毛の冒険者っ!」

  「ん?」
  スーツ姿のセキュリティ5名を引き連れて無愛想な主が現れる。
  スマイリング・ジャックさんだ。
  部下は10oピストルを手にしている。
  ついでにこちらに向けている。
  「何か?」
  「本っっっっっっ気で疫病神だなっ!」
  「はあ?」
  「外を見ろ、外をっ!」
  「外」
  見てみる。
  何も変わっているようには……あー、中庭にもフェラルがいるな。そして拡声器を持っている、バイクのヘルメット被っている奴がいる。あれはグールだな。周囲にはフェラルもいるけど、そいつ
  の周りは銃火器で武装してる、グールの兵隊か。拡声器で何か喋っているのか、だけどここまでは聞こえない。
  スーツ姿の私兵の1人がスナイパーライフルを手に窓際に待機。
  瞬間、ガラスが割れてその兵士が倒れた。
  頭から血が出てる。
  即死だ。
  状況を察して窓際から離れた。
  「グールたちが門を越えたのね」
  「そういうことだ」
  「どうやって?」
  「知らん。いきなり開いて、外の兵士は全滅した。タワーは閉鎖したが連中は一気に攻め落とすつもりだ。タワーに入られたらお終いだ」
  「私に戦えってことね」
  「違うっ!」
  「違う」
  「連中が要求している」
  「タワーの権利を?」
  「違うっ!」
  「何なのよ、一体」
  「ヘルメットの奴がいただろ。見たか?」
  「ええ」
  「そいつは現在反ヒューマン同盟を率いているマスターズという奴だ。何だか分からんがお前の身柄を要求してきている。そう叫んでいる。渡せば退くと言っている、退けば態勢を整えられる」
  「私を引き渡すって?」
  「そういうことだ。仕方ないだろう?」
  「くだらない」
  そう言ったのはレディ・スコルピオン、そしてそのままスナイパーライフルを手に取る。
  私兵は銃を彼女に向けるものの、彼女はそのまま窓の外を撃った。
  眼下の標的を。
  「どう? ボス、お気に召した?」
  「すげぇ腕だな、マジすげぇっ!」
  「ふん、なかなかだな。だがなボス、狙撃は俺も得意だぞ」
  あらあら。
  マスターズを射殺してしまった模様。
  これでは取り引きできませんねー。
  「安心してスマイリング・ジャック、出て行くから。出口だけ教えてくれる?」
  「……損得抜きで殺してやりたいよっ!」
  「それ分かる」



  出口は聞いた。
  あの包囲を突破するのは完全に無理だ。
  タワー裏手には地下があり、そこは発電施設があるそうだ。そしてその地下は何故かワーリントン駅に通じているらしい。そこから外部に脱出できる。
  ボルト101、トンネルスネーク、ともにその案に納得。
  さて。
  そろそろ帰るとしましょうか。