私は天使なんかじゃない
渡る世間は悪党ばかり
どの時代にも悪党は尽きることはない。
それは真理。
ただし、悪党と戦い続ける者もまた、決して尽きることはないのだ。
パワフルなジェットエンジンが音を立ててキャピタル・ウェイストランドの空を舞う。
元々はパラダイスフォールズ、つまりは奴隷商人の保有していた代物だ。私は一応ピットから因縁がある機体。
あの時はわざわざピットまで奴隷商人の親玉であるユーロジー・ジョーンズとその仲間たちがピットまで出張ってきて驚いたものだ。
ヘリは東に進む。
乗っているのは私、ポールソン、そして……。
「助かったわ、スティッキー」
「俺はただ胃薬買いに寄っただけなんだけどなー。あの女の料理はやばい……うっぷ……」
「胃薬?」
「胃薬」
確か料理の取材でギルダーシェイドにいたような?
あー、ゴキブリ料理食べてたな、そういえば。
茹でローチのヌカ・コーラ添えだっけ?
うっぷ。
食べたいとは思わんな。
「ご愁傷様」
「口では容易くそう言えるだろうけどさ、実際死ぬぞ、あれ。味はいいんだけど」
「味はいいんだ。何が嫌なの?」
「パサパサしてる。変に柔らかい。何か胃からこみあげてくる」
「……吐かないでよ?」
「実際ランプライトでも食は制限されてたけど、あんな気分悪くなった覚えはないよ」
「向こうでは何食べてたの? 考えてみたら洞窟内だし、何食べるの?」
「洞窟キノコだよ。自生してた大量に。後はたまに来るスカベンジャーとかキャラバンと取引して食料とか得てた」
「へー」
完全に閉鎖されていたってわけではないのか。
まあ、街に入れるかは知らないけどさ。
街先で取引してたのかな?
だいぶ街に余所者を入るのをマクレディ前市長も拒否してるオーラ全開だったもんなぁ。
同乗しているポールソンが笑った。
「シエラの料理食ったのか、坊主? 今度息子さんと一緒に夕飯でもと誘われていたが、止めといたほうがいいか?」
「胃薬用意してるなら行った方がいいよ。味は悪くないから。食後が、ヤバイ」
「ははは。止めとくとしよう」
「……賢明だよ」
現在スティッキーはギャラクシーニュースラジオに属している。
そこでスリードッグのアシスタントをしたり、自作の物語をラジオで流したり(わりと好評らしい)、今回みたく取材でそこら中を飛び回っている。私は一応ボルト101の実習でヘリの操縦の仕方を
シュミレーション上とはいえ習ったんだけど、スティッキーの場合は私の操縦を一度見ただけで覚えているあたり、かなり頭が良いのだろう。という天才?
私は喋りながら窓から眼下を見ている。
ポールソンもだ。
リンカって子を探している、そしてそれをさらったと思われる犯人は錆びたバンに乗っている、東に向かった、という情報を頼りにヘリで東に進んでいる。
東に向かう理由がもう1つ。
バンブルだ。
ビッグタウンのバンブルを誘拐した奴はテンペニータワーにバイヤーがいるとか言ってた、らしい。グリン・フィス情報だ。今彼はいないから聞きようがないし、あの時はリンカ探しに繋がるとは
思ってなかったから詳しくは聞かなかったけど、あのタワーに奴隷商人が紛れ込んでいる可能性は否定できない。マダムたちレイダー集団も泊まってたぐらいだからね。
スマイリング・ジャックはキャップ至上主義。
金さえ払えば悪党確定の奴らでも平気で招き入れる、そんな感じだ。
それも商売だろ?
まあ、そうなんだろうけど、他の街ではレイダー然としてたらさすがに泊めないし街にも入れない。
……。
……あー、奴隷商人だから恰好では分からないのはあるかも。
あいつらわりと小奇麗な格好してたし。
まあ、スマイリング・ジャックのことだ、相手側の素性を知った上でもキャップ払いさえよければ受け入れるだろう。それが正しいのか悪いのか、別に普通なのかは知らないけど、現在悪党を
追っている側の私たちとして見たら厄介なことだとは思う。荒野での追撃戦ならともかく、無関係の人たちが住む場所での戦闘は極力避けたいし面倒だ。
今のところ眼下には何もない。
荒野が続き、たまに岩場が見える程度で。
この近辺は完全に戦前の趣を残していない。ひたすら荒野が続く。時折何かの影が動いているのが見えるけど野生動物のようだ。
「なあミスティ」
「ん?」
視線を前に向けたままスティッキーが私に声を掛ける。
「お礼の話?」
「お礼?」
「わざわざヘリ借りてる状態だし、何かお礼しなきゃだよね」
「そうじゃないよ。俺ら友達だろ?」
何このイケメン。
わりと格好良かったりするじゃないの。
「じゃあ今度料理でもご馳走するわ」
「……ラッド・ローチは捌く?」
「捌かない」
何だその嫌なスキルは。
捌けないってあんなの。
触るのも嫌だ。
まあ、触るのがオッケーな奴はとりあえずキャピタルで手から見たことがない。当然ボルト101にもいなかった。少なくとも各街々にある酒場やら食堂であんな食材は扱わない。
そもそも食材か?
ともかく好き好んで食べないのは確かだ。
「じゃあ今度料理してもらおうかな。これで俺ら正式に男女の関係だよな?」
「はっ?」
エロなのか?
いや、何か知識を勘違いしてるのか?
勘違いな気もする。
正式に、とか言っちゃってるし。
「それ使い方違うわよ」
「マジか」
「マジ」
「ふぅん。そういえばミスティ、アンソニーって知ってるか?」
「ええ」
またあいつか。
「ギルダーシェイドで会ったんだ、あいつはシエラに料理の話しに来てたみたいだけど、俺もちょっと話したんだけど、俺がミスティの友達だと汁とあんたの話ばかりしてたよ。誰なんだい?」
「さあ?」
そう答えるしかない。
くそ。
別に目障りと思うほどではないにしても、何か目障りだな。私のいないところで何してるんだ?
気にし過ぎ?
気にし過ぎなんだろうけどもだ、何かイラつく。
駄目だ。
少し冷静に考えなきゃ、特に他意はないのかもしれないし。
「ミスティ、あれを見ろ」
ポールソンが呟く。
声には緊張。
眼下には荒野を西に爆走する錆びたバンがいる。私がバザーで見た、錆びたバンだ。
「どうする、通り限るのかい? ここに滞空する?」
「スティッキー、旋回して追って」
「よしきた」
錆びたバンは西に向かい、ヘリは旋回して追尾を始める。
西、ね。
どうやら東に向かった理由は終わった、と見るべきか。
つまり?
つまり取引終了。
バザーに戻るのかそのまま別の場所に行くのかは知らないけどリンカは既に乗ってないと見るべきだ。じゃなきゃ東に向かった車がまた西に向かうなんてありえない。少なくともこの近辺を
逆走する理由は、元来た方向に戻る理由は特にない気がする。バンは追尾に気付いているだろうけど特にアクションはない。
さてどうしたもんか。
その時、ポールソンが扉を開けようとしているのに気付いた。
慌てて止める。
「ちょっ!」
「何だミスティ、扉開けなきゃ連中に声が届かないだろうが」
「落ちたらどうするのよ。まったく。スティッキー、拡声器のボタン押してあげて」
「あいよー」
ポチっとな。
「ポールソン、話していいわよ」
「これで外に聞こえるのか?」
「ええ」
「すげぇな」
何を言う気なんだろ、この保安官。
あの錆びたバンが怪しいのは分かるし、私も怪しいとは思ってるけど、どうやって犯人認定するのか、その手腕が楽しみだ。
ポールソンが叫ぶ。
「おい悪党野郎どもっ! お前らがリンカを誘拐したのは分かってるんだ、縛り首にしてやるっ!」
荒野に拡声器からの響いた。
ボリュームでかっ!
というか手腕なんかねぇよこれはただのどストレートだよっ!
次の瞬間、錆びたバンの助手席の窓から男が顔を出しアサルトライフルのようなものでこちらに対して掃射してくる。
スティッキーの悲鳴。
「またかっ! またこういう展開かーっ!」
すいませんね。
私が関わるとこういう展開は仕様なんで慣れてくだされ。
ヘリは上昇。
さすがにここまでは弾丸は届かないし、そもそもこのヘリは防弾だ。よっぽど連続して受けなければ耐久的に問題はない。
錆びたバンは止まらない。
荒野を無規則に移動している。
さてどうしたもんかな。
「ははは、どうだミスティ、俺の説得術は」
「大したものね」
皮肉ではなく実際そう思った。
ああいう手合いはストレートに言えば馬脚を出すってわけね。なるほどなー。
「スティッキー」
「なんだい?」
「スナイパーライフルはないわよね?」
「そんなもの積み込むぐらいなら胃薬を載せとくよ」
よほどローチ料理がトラウマなようだ。
仕方ない。
「スティッキー、機体の右側向きでも左側向きでもいいから、バンの前に急降下して。ポールソンは私の指示で扉を開いて。スティッキー、出来る?」
「出来るよ。……やりたくはないけど。お礼の料理にはデザートも付けてくれよ?」
「あはは」
「左向きするよ」
「分かった。ポールソン、合図と同時に左の扉を開いて」
「了解だ」
ミスティックマグナム2丁を引き抜いて中腰で構える。左側の扉に向かって。
ヘリはその間にバンを飛び越える。
機体に何か金属音がするけど、誘拐犯の銃弾を機体が弾いている音だろう。ポールソンは扉を開くべく待機中。体が降下を感じる。
「ポールソンっ!」
「了解っ!」
扉が開く。
私の視界には錆びたバンがこちらに向かって猛攻してくる場面が飛び込んでくる。
運転席、助手席、それぞれ男が1人。
顔立ちが似ている。
兄弟かも?
まあいい。これで決めるっ!
「Kronosっ!」
どくん。
どくん。
どくん。
全てがスローに。
この世界でまともに動けるのは私だけ。
前の両輪に向かって引き金を引き、さらに運転席の奴にも弾丸をプレゼントするべくトリガーを引く。情報源は1人でいい。
そして。
そして時は動き出す。
世界が本来の時間の流れを取り戻した瞬間、錆びたバンは横転した。無理もない。前のタイヤが完全に機能不能となり運転手がこの世からいなくなれば運転が安定しなくなる。横転するか
どうかは既定路線ではなかったけど撃つことにより車が制御を失ってヘリに突っ込んでこないことは分かってた。じゃなきゃ怖くて出来ない。
「スティッキー、降りる」
「分かった」
ヘリが着陸する。
私は降り、ポールソンも降りる。
スティッキーは降りず、ヘリのローターも回ったまま。
錆びたバンに私たちは近付く。
横転した車の助手席から男が這い出してくる。血塗れだ。私はこいつらは何もしてない。横転した際に負傷したようだ。可哀想可哀想。自分の問題に手一杯でこちらには一切の注意を払っていない。
私たちに対して銃での牽制もしてこない。
まあ、しても無駄だけど。
「動くな」
私は銃を構えてそう鋭く呟く。
男の動きが止まった。
私はポールソンに目配せする、その真意に気付いたのか、彼はショットガンを奴に黙って向ける。
交渉役は私ってわけです。
さて。
「御機嫌よう、誘拐犯さん」
「誰が誘拐……っ!」
「ここまでするんだから確たる証拠があるってわけ。黙るならそれでもいいし騙すならそれでもいい。でも私らがイカれた正義感持ってるってことは、ご理解いただけたと思うけど?」
「……」
証拠?
ないです。
あくまで状況証拠だけでここまでやっているようなものだ。
こんなの正義じゃない?
さあ、どうだろ。
「リンカを誘拐したわね?」
「お、俺はやめようって言ったけど、兄貴がジェリコの依頼の前に一稼ぎしようって」
「ジェリコ?」
妙なところで妙な名前が出て来たな。
ジェリコの仕事の前にってことはジェリコの指示ってわけではなさそうだ。
まさかこいつら12人の刺客絡み?
……。
……ま、まさかねー。
さすがに雑魚過ぎるから別件だろう。
「余計な前置きはいいの。あんたら奴隷商人ってわけ?」
「せ、正確には違う。俺ら兄弟は奴隷商人に頼まれて動いていただけなんだ」
「奴隷商人に頼まれて?」
「あ、あんた、ミスティって奴知ってるか?」
「ええ、まあ」
私の顔を知らんのか。
じゃあ刺客ってわけではなくジェリコの雑魚な手下ってことか?
まあいい。
兄弟の片割れは話を続ける。
「そいつはさ、パラダイス・フォールズを潰したんだ。奴隷商人の本拠地さ。だけど当時そこには何でかエンクレイブがいたらしくてさ、そいつらの命令でミスティが攻撃して来た時に命拾いした
奴らが何人かいるんだよ。そいつらの1人、ユーロジーの片腕とまで呼ばれた男と兄貴が知り合いでさ、そいつから頼まれごとをしたんだ。その、兄貴が」
「片腕?」
「フォーティって奴だ」
「フォーティ」
知らん。
「で?」
「そいつから兄貴が頼まれたんだ、テンペニータワーでさ」
「子供をさらって来いって?」
やっぱりか。
テンペニータワーにバイヤー、奴隷商人の生き残りたちの仕業か。
「違う」
あっさり否定された。
あれ?
どういうことだ?
「話が見えてこないんだけど?」
「そいつから何か女が喜ぶようなものを買って来いって言われたんだよ。支払用に3000キャップ貰った。報酬はその差し引きで残った額だって。でバザーに向かったんだけどさ、西海岸の珍奇
な代物って結構するんだ、差し引きの額じゃ子供の小遣い程度だった。ギルダーシェイドに俺らは行った。特に意味はない。ただ、強いて言うなら酒飲みに行っただけなんだ。そしたら……」
「宝石」
「そう、あの餓鬼……い、いや、お嬢ちゃんが赤い宝石のネックレスしてたんだ」
「なるほど」
話が見えてきた。
別にリンカはどうでもよかったんだ、狙いはガーネットのネックレス。それを奪えば3000キャップがまるまる手に入る。
そしてわざわざ誘拐した理由。
ついでだ。
ついでに奴隷商人に売ったんだ。
何て奴らだ。
「リンカを売ったのね。フォーティに」
「違う」
「はあ?」
今更言い逃れは意味がない。
だとすると何の意味が?
「売れなかったんだ」
「どういうこと?」
「奴隷はいらないってさ」
「……」
また意味が分からなくなった。
そうなるとバンブルさらって売り飛ばそうとしてた奴が言ってたバイヤーは、フォーティではない?
「じゃあリンカはどうしたの?」
「す、捨てた」
「ふぅん。捨てた、ね。どこに置いて行った?」
生存の可能性はある。
急がなきゃ。
「テンペニータワーに置き去りにした?」
「その」
「言いなさい」
「場所がどこかと言われても分からない。その、走行中に捨てたんだ。兄貴が邪魔だからって……」
ばぁん。
迷わず男の右腕に銃弾を叩き込んだ。
悲鳴。
知ったことか。
そのまま出血多量で死んでしまえ。
「ポールソン、どうする?」
「縛り首の話か? 手頃な大木を見つけるのは面倒だな」
「そうじゃなくて」
「分かってるよ、あの小僧とあんたは懇意なんだろ? 何とか空からの捜索を頼みこんでくれないか」
「ええ。あいつはあのままでいいわよね?」
「時間があればもっと痛めつけれるが、あれでは手緩いが、まあただ殺すよりはいいと思うぜ」
「気に入ってくれて何より」
「ははは」
ヘリに戻る。
「どうするミスティ?」
こちらの状況を察しているのだろう、手伝いを申し入れてくれた。
向こうからだ。
良い奴だ。
「空からリンカって子を捜索したいんだけど」
「分かったよ」
「小僧、助かる。今度、そうだな、女がたくさんいるところで一緒に楽しまないか? 俺が奢るぜ」
「マジかっ!ヒャホーイ」
わりとポールソンって好色のようだ。
いやこれで普通なのか?
それにしてもグリン・フィスがどこに行ったんだ。
くそ。
捜索するにも人手が足りない。
この間ウルフギャングと同道して旅をしたときこの近辺にはヤオ・グアイがいた。群れがいた。リンカってこの身が心配だ。ヤオ・グアイは肉食性。そう、ちょうど誘拐犯の片割れが引きずり
回されて群れに襲われているように、あいつらは人間を餌と見なしている。こんなところで1人のリンカを早く助けなきゃ。
「行きましょうポールソン、ヤオ・グアイが血に誘われて集まってきた」
「ああ。さすがに生きたまま食われるのは見ていて気分が良い物ではないしな」
私たちはヘリに乗り込む。
そしてヘリは再び大空に向けて舞った。
同刻。
テンペニータワー。
ここの所有者はここ最近変更が激しい。現在の支配者はスマイリング・ジャックと呼ばれる、レイダー連合と取引していた商人。エンクレイブ侵攻で壊滅したレイダー連合の資金をどさくさ
紛れに持ち出し現在の地位を得た人物。所有者が変わったものの依然としてタワーの名称はテンペニータワーのまま。
現在ここは街、と言うよりは、高級ホテル。
住んでいるのはスマイリング・ジャック系の者ばかりで他の者の永住は認められていない。
キャップ至上主義の彼はキャブの支払いさえよければここでの悪事も見逃している。そしてキャップさえ払えばどんな情報でも売った。
キャップを払うことでタワーに逃げ込んでいる悪党たちの情報ですら。
タワー8階。
ここは現在貸切状態となっている。
誰に?
それは……。
「どう? 似合ってる?」
「ああ、似合ってるよクローバー」
8階にあるスイートの一室。
赤いネックレスをしてご満悦のクローバー。
そして勝手にしてくれとばかりに投げやりな男性。名はフォーティ。ミスティとユニオンテンプルがパラダイス・フォールズを攻撃した際はランプライト洞窟の奥にあるボルト87への侵入方法を
探しに部隊を引き連れて本拠地を離れていたため難を逃れていた。ユーロジー曰く精鋭部隊で、連中がいればこうも簡単に攻め込まれなかったと言われていた。
クローバとは旧知の仲。
とはいえ仲が良いわけではなく、あくまでボスのお気に入りの愛人だから挨拶丈は丁重にしていたものの、特に仲が良いわけではない。むしろ彼女を軽視していた1人だ。
そんな彼だが今はクローバーに従う姿勢を見せている。
部隊を引き連れて傘下に入っている。
仕方がなかった。
何故ならクローバーはパラダイス・フォールズの財産の大半を隠匿している。本拠地に残った物はユニオンテンプルが去る前に回収した、残り物でしかなかった。
クローバーはジェリコをある意味で見限った。
その為自前の戦力を揃える必要があった。財産の場所を教えるという条件でクローバーとフォーティは手を組んだ。
「これで満足か?」
半ば呆れながらフォーティは宝石に喜ぶクローバーを見た。
綺麗な物が欲しいという無理難題を、フォーティは偶然タワーで会った昔馴染みのレイダー兄弟に頼み、その結果このネックレスが手に入れたわけだが茶番でしかない。
「クローバー」
「何かしら?」
「ミスティを殺すんだろ、どこにいるんだ? とっとと殺して俺はボスの財産と共に去りたいんだよ。お互いに嫌い合ってるんだ、やることをやろうぜ」
「たぶんメガトンにいるよ」
「よし。メガトンの連中ごと皆殺しにしてやろう」
その頃。
キャピタル北西部にあるディカーソン・タバナクル礼拝堂。
現在ここはジェリコの拠点となっている。
元々はストレンジャーの1人でキャピタル支隊のドリフターと呼ばれるスナイパーの住居だったのだがしばらく前から行方不明。その空家をジェリコは我が物顔で使っている。
ここにはミスティ抹殺の為の刺客が集まられている。
12の刺客。
ただ既にストレンジャー残党のデス、マシーナリー、ガンナーは敗北し、9人にまで減っていた。
……。
……いや、正確には……。
「あの兄弟はまだ来ないのか。まったく、何してやがる」
忌々しそうにジェリコは吐き捨てる。
闇の権力者としてキャピタル・ウェイストランドの裏社会を牛耳りつつあるジェリコもさすがに知りようがない。リンカを誘拐し、ミスティの逆鱗に触れて兄弟はこの世にいないことには。
「まあいいじゃないの」
そう言って声を掛けてきたのは刺客の1人。
グールの女性。
「私が皆殺しにしてきてあげるよ」
「グーラ」
「テンペニータワー奪回でまた駆り出されてるしね。私は反ヒューマン同盟にも雇われてる。あいつらが掻き集めたフェラルの群れを使えば、どっちの仕事もこなせて私の財布が潤うって寸法さ」
彼女は能力者。
フェラル・グールを支配できるmaster系の能力者。
特定の生物を操れる能力。
ウェイストランドではわりとありふれた(当然能力保持者は多くないもののmaster系は一般人にも認知されている特殊能力)能力ではあるものの使いようによっては絶大な威力がある。
特にフェラル軍団のラッシュをうまく活かせば敵はない。
「分かった、お前に任せよう」
ジェットヘリは進む。
あの誘拐犯どもはたぶんタワーとバザーを往復しただけだ。その区間のどこかにリンカはいる。
……。
……生きていればね。
頼むから生きていてよ。私はbadendは嫌いだ。
「おい、あれを見ろ」
「えっ?」
左側の窓に張り付いて眼下を見ていたポールソンが呟いた。
その方向を見る。
女の子がいる。
地面に横たわっている女の子が。その傍には老人が立っていた。じーっと見ていると女の子は寝返りをした。
生きてるっ!
「スティッキー、降下してっ!」
「あいよ」
リンカを助けたら一気にタワーに行くとしよう。
奴隷商人の生き残りどもめ。
叩き潰してやるっ!