私は天使なんかじゃない






リンカを探して









  全ては彼女の気まぐれからだった。
  無償で頼みごとを聞く、それはキャピタル・ウェイストランドでは珍しい、過去の習慣。

  彼女の気まぐれが全ての始まりだった。





  「あー」
  飴玉が全部尽きた。
  仕方ないか。
  バンブルを救うための方便だったが、今更嘘とも言えなかったし。
  私は運転しながらそう考えていた。
  西へ。
  向かうべくはFスコット主要道路&キャンプ場。現在そこでは西海岸の商人たちが珍奇な品物を持ち込んで来たのでバザーが開催されている。
  珍奇な品物には興味がない。
  私は、浄水チップを求めに現れるであろうアマタと接触したいだけだ。
  来る根拠?
  特にない。
  ただ、キャピタルのどんな有名スカベンジャーに情報を求めたとしても浄水チップなんてまず手に入らない。そんな場所が手付かずであるわけがないからだ。かと言って適当に探すには
  広大過ぎるし、その広大な場所に当たりがあるとも限らない。現在浄水チップを使用している場所を襲うのも得策ではない。
  少なくともアマタ達はスカベンジャーの何でも屋のジョーと接触したらしい。
  何でも屋のジョー、ケリィのおっさんの先輩格、とのこと。
  その接触でバザーのことを知った可能性は高い。
  私は接触できなかった。
  入れ違いってやつだ。
  わずかな可能性を信じて私はバザーへと向かっている。途中で寄り道が多かったけどさ。でも仕方ない、このトラックを手配してくれたのはルーカス・シムズだし、頼みは聞かないと。
  アンデール、ビッグタウンでの視察終了。
  見た感じ?
  まあ、安定はしてるかな。
  特にアンデールはとある一件があって住人がMr.ハリスと子供たち以外は全滅したわけで。
  ……。
  ……その件に全力に私らが関わってるんですけどねー。
  ともかく。
  ともかく住人が死に絶えた。
  だけどメガトンを中心に共同体構想が始まり、アンデールもその枠組みに入ったことにより以前以上の発展をすることが出来た。復興の資金提供やら警備兵の派遣やら復興政策による
  住民が移住してきたこととか、色々と功を喫している。ビッグタウンの方はアンデールよりは簡単だったのかな、住民は古巣のランプライトからの全面移住で増えたし。
  もちろん問題もある。
  BBアーミーだ。
  見た感じかなり強引に売り込んでいる、警備会社。
  会社なのか?
  まあいい。
  元タロン社残党だけどそこらで個々に暴れている残党部隊とは異なりなかなか頭の良い立ち回り方をしている。
  売込みが強引ってだけではレギュレーターは動くまい。
  メガトンにしても警備兵の手薄を突いての売り込みは分かっていても、早急にはどうしようもないだろうな。
  結局優先すべき悪党がいるし、エンクレイブは既に北部に侵攻している。現状は北部に拠点があると思われるレッドアーミーと小競り合いしているから私らの生活圏内まで侵入していないだけだ。
  そんな状況がBBアーミーの勢力拡大に繋がっている。
  あと、拠点不明で、そこらで暴れているらしい人狩り師団もね。
  厄介な現状は続くなぁ。
  「主」
  「何?」
  「休息なされた方が?」
  「問題はないわ」
  旅程は遅れている。
  まあ、正確には旅程が遅れているのではない。特に日程までは決めてない。私が言いたいのは、視察で時間を食ったということだ。別に本来ありえない方角の視察に向かってから本題の
  方向に向かうというわけではない。遠回りはしてるとはいえ別に見当違いの方角帆旅していたわけではない。まあ、遠回りはしたけどさー。
  私のため息。
  それは飴玉だ。
  餓鬼かよと言うなかれ。戦前ならともかく、今の時代あんなものはなかなか手に入らない。
  バンブルを救う為だったし、その辺りは分かってるし別に不満はない。
  つまり?
  つまり口が寂しいってわけ。
  甘い物に飢えてるー。
  そんなことを考えながら私はひたすらに荒野を進む。この辺りはキャピタルでも辺境に位置する場所だ。
  西へ。
  西へ。
  西へ。
  私はひたすら進む。
  ガソリンは缶に入れて幾つも荷台にある。これだけの量があればメガトンとFスコット主要道路&キャンプ場とも往復は可能だ。
  グリン・フィスは窓の外を見ている。
  横目で私は彼の方を見た。
  何かに釘付けのようだ。
  何がある?
  「あれは……」
  「グリン・フィス?」
  呟く彼。
  視線の先にはビルがある。荒野の中にポツンと残っている、ビル。
  ある程度の地理は旅立つ前に予習した。
  今回の旅の為の目印的な建物、地形は把握している。
  「ダンウィッチビルね」
  「……」
  「グリン・フィス」
  「……」
  「グリン・フィス?」
  「……」
  食い入るように見つめるグリン・フィス。
  私は車を止めた。
  このビルはかつてはカルト教団の拠点だった、らしい。
  ポイントルックアウトで私が倒したジェイミがここにいた。ソノラはダンウィッチのジェイミと呼び、ジェイミ自身レギュレーターに狙われていた云々を言ってたから、名の売れた悪党だった
  のだろう。あのグールの意味不明な耐久力は結局その理由が分からずじまい。クスリをキメてたってレベルではなかった。
  まあ、もうこの世にはいないけど。
  さすがにルズカに跡形もなく食われたら復活しないだろ。
  ……。
  ……たぶんねー。
  さて。
  彼が食い入るように見るダンウィッチビル、確かに何か不気味だ。
  何というかビルの窓という窓から、扉から、闇が染み出しているような、そんな印象を受ける。少なくとも夜1人でここにはいたくないな。
  「主」
  「ん?」
  「あの老人は何だったのでしょう?」
  「はっ?」
  誓ってもいい。
  誰もいませんでした。
  こいつは何が見えてんだよ、こえー(泣)
  「あの老人、あれはまるで……」
  「やーめーてー」
  「何故ですか?」
  「何故って、怖い話嫌いなのよ」
  「夜中トイレ行けないのであれば自分がお供します。むろんトイレの中……」
  「降りて死ね」
  「ユ、ユーモアですっ!」
  「撃ち殺す」
  「すいませんでしたっ!」
  「まったく」
  最近この野郎エロいんだよ畜生がーっ!
  まともなのはアンクル・レオとフォークスぐらいだ。
  他愛もない会話をしながら私たちはようやくFスコット主要道路&キャンプ場に到着。
  疲れた。
  「へー」
  「賑やかな場所ですね」
  遠目からでもテントが立ち並んでいるのが分かる。
  そして賑わっているのも。
  西海岸の商人たちが品物を持ち込み、東海岸の商人たちがそれを買う為に集まる。賑わうのも当然だ。商業が充実する、それは復興を意味している。私たちはバザーから少し離れた場所に
  車を止めて降りる、どうもここは駐車場エリア、のようだ。車持ちは私達だけではない。10数台は止まってる。色が錆々のバンとかバイクとか。バラモンもいて草を噛んでいる。
  そして前回あたりからお馴染みの青い軍服も何人か屯している。
  BBアーミー。
  ……。
  ……まあ、普通に考えたらいるか。
  警備会社的な立ち位置ならバザーの警備という利権を放っておくわけないし、商人たちも警備がいるといないとでも安心感が違うわけだし、雇うだろう。
  文句言う?
  全然。
  さすがにバザーに関してはメガトン共同体の枠を超えている。私がどうこう言うことではない。
  もっとも、だからと言って……。
  「車の警備してやろうか? 200キャップだ」
  「お断りします」
  だからと言ってこいつらのお世話になる気はない。咥え煙草をした兵士がそう言ってくる。
  車の警備、ね。
  車番する為にここにいる兵士たちは屯っているのか。駐車料金ってわけではなさそう。駐車料金なら、まあ、バザー運営の一環とも思えるけど、車の警備してやろうか発言からすると
  こいつらの売り込みでしかない。特に敵意はないけど好意もない、というか胡散臭いと思っている。お近付きにはなりたくない。
  「断る? まあいいが、車の盗難とかもあるし、なぁ?」
  最後は仲間に向かってそう言って、それから私を見る。
  脅し?
  脅しなのか?
  「グリン・フィス」
  「何でしょう?」
  「車にいて。私はちょっと見て来るから」
  「御意」
  この場を彼に任せて私は離れる。
  本気でBBアーミーの立ち位置が分からない。ただの荒っぽい警備会社のか?
  まあ、荒っぽい警備会社って何だよって感じだけど。
  自作自演で問題起こして警備の押し売りをしているような感じはアンデール、ビッグタウンでは確かにあった。要注視ってところか、今度ソノラにどう考えているのか聞いてみよう。
  聞いたら聞いたで私の仕事になりそうだけど。
  それも嫌だなぁ。
  おおぅ。
  私は人混みを避けつつテントを回る。
  西海岸の珍奇な品物、ね。
  基本的には銃火器だ。
  ふぅん。
  そういうことか、エンクレイブ絡みのいざこざを聞いてここに売り込みに聞いているのか。それはそれでいいんだけど商魂魂逞しいなぁ、どんだけの距離をやって来てるんだ、この商人たち。
  なかなか興味深い銃火器もあるけど私は今の武器で充分。
  もちろん銃以外にも持ち込まれた代物はたくさんある。
  食料品とか装飾品とか。

  「お久し振りー。ミスティ、だったよね」

  「……?」
  誰かに声を掛けられる。
  瓶を片手に赤いショートヘアの女性が私に笑い掛けた。体のラインほ全力で主張するボディスーツを着ている。相変わらずナイスボディですね。
  何か負けた気がする。
  くそー。
  「レッド・フォックスさん」
  「そう。アタシ」
  グビグビと瓶に入った液体を飲み干す。
  恰好はかなりというか全力でエロいんだけど、誰も茶々を入れない。入れれるわけがない。身の丈以上の剣と対戦車ライフル背負ってるわけだから。
  そんな彼女はナップサックを肩に掛けている。
  重そうだ。
  そりゃ重いだろ、瓶がナップサックの口から何本が出ている。
  どんだけ力持ちなんだ、この人。
  「さん付けはしなくてもいいよ、別に本名じゃないし」
  「そうなんですか?」
  「仲間内ではティータイムって呼ばれてた」
  「ティータイム」
  「同じティー繋がりだね」
  「あはは」
  変わった名前だ。
  いや。
  名前じゃないのか、仲間内ではってことは、ティータイムも通称な可能性がある。
  「どっちで呼べばいいんです?」
  「そうだね、レッド・フォックスでいい。そっちの方がしっくりくる。でもさん付けはいらない」
  「分かりました」
  「それでいい。さて、どっかでお茶しない?と誘いたいところだけどアタシは別の街に行くよ。狙ってる賞金首がこの近辺にいるらしい。ここには特に用がなかったけど、これがあるって聞いてね」
  瓶に目を向ける。
  「キャピタル・ウェイスランドはヌカ・コーラが主流で、まずくはないけど、モハビ・ウェイストランドが長かったアタシとしてはこいつに少し飢えていたところなのよ」
  「何です、それ」
  「サンセットサルバリラ。向こうじゃ、西海岸じゃこれが主流なのよ」
  「ああ」
  ルックアウトで聞いたことがあるな。
  「レッド・フォックスはモハビ出身なんですか?」
  「正確にはクレーター・ウェイストランドだけど、そう思ってくれても構わない」
  「クレーター……」
  それは知らない名前だ。
  だけど彼女はそれを話すつもりはないのか、私に聞く余裕を与えずにまたねと言って去って行った。都合が悪いというよりはこの場所に興味が失せたのだろう、目的の物を手に入れたわけだし。
  まあいい。
  私はアマタたちを探すとしよう。
  目的はそれだし。
  「あの」
  「いらっしゃい」
  「浄水チップって売ってます?」
  「浄水チップ」
  「ええ」
  アマタたちの容姿言って来たかどうかを聞くより、こう聞いた方が早い。
  商人は首を捻る。
  「ないなぁ」
  「ある人知りません?」
  「そうだなぁ」
  「……」
  「そういえばさっき何人か聞きに来たな。こっちじゃ売れるものなのかい?」
  「前に聞きに来た人たちは、どれくらい前ですか?」
  「2時間ぐらい前かな」
  「2時間」
  まずいな。
  入れ違いになった。
  ここにないのが分かったならもうここにはいないだろう。というか仮にあってももういないはずだ。お礼を言って私はその場を離れる。
  どうしたもんかな。

  「そこの人」

  「ん?」
  今度は誰だ?
  男の声だ。
  ターバンを巻いた若い男だ。露店越しに声を掛けてきているからこいつも商人なのだろう。隣にはもう1人商人がいる。相棒かな?
  「何か?」
  アマタたちのことを知っているのか?
  さっき聞いた場所とそう離れていない、聞こえていてもおかしくない。
  私を値踏みするように見ている。
  前言撤回。
  これはアマタ絡みではなさそうだ。
  「何か?」
  「ああ、すまない。君はハンターなのかな?」
  「まあ、そんなようなもの」
  ハンター。
  賞金稼ぎとかそんなあたりの総称、らしい。キャピタルではあまり聞かない総称だから西海岸方面の由来なのか?
  とはいえ別にハンターという単語自体はここにもある。
  私が言いたいのは、キャピタルなら、傭兵なのかな?的な聞き方をするってだけ。特にハンター呼ばわれされても問題はないし、気にもしない。
  さて。
  「実は頼みがあるんだ。近くにデスクローがいる、そいつがいると色々と商売がやり辛いんだよ」
  「デスクロー」
  戦ったことはないけど前に見たことはある。
  レイダーの群れを無双してた。
  一山幾らのレイダー相手とはいえあの無双振りは普通ではできない。スーパーミュータントと言えども銃を持った人間数人の前では呆気なく死ぬ。デスクローはなかなか厄介な敵だとは思う。
  「倒して来てくれないか」
  「はあ?」
  何でまた。
  「BBアーミーに頼めば?」
  「あいつらは、何というか警備専門なんだよ」
  「ふぅん」
  「10000キャップ支払おう」
  「悪いけど……」

  「ミスティじゃないか。来たばっかりでミスティに会えたのは、神に感謝しなければな。神なんぞ信じてないが、今日ばかりは信じるとしよう」

  今度は誰だー?
  振り返るとそこにはショットガンを手にしたカウボーイがいた。
  ……。
  ……ああ、そうか。
  ギルダーシェイドは近いのか。
  彼がここにいてもおかしくはない。この辺りは彼の生活圏内と言ってもいいのだろう。
  「お久し振り、ポールソン」
  「ああ。だな」
  「悪いけどお仕事の件はパスで。ポールソン、行きましょ」
  彼を伴って歩き出す。
  「いいのか?」
  「断る口実になってくれてありがとう」
  「ははは。そりゃよかった」
  「ポールソンはここで何を? 銃を見に来たの? あー、保安官としてここで警備か何かをしているの?」
  「いや」
  立ち止まる。
  私も立ち止った。
  「実はリンカという少女を探している」
  「リンカ?」
  「西海岸から来た商人の娘だ。その商人たち、リンカの両親は今ギルダーシェイドにいる。そこで保護している」
  「保護」
  「ここには商売に来たらしい。ただ、商売を始める為にこの近くまで来た辺りで2人組に襲撃されたんだ。いや正確には最低でも2人だな。まだいるかもしれん」
  「誘拐ってこと?」
  「ああ。持って来ていた商売道具等は無事だった」
  「でもどうしてあなたが動くの?」
  「ギルダーシェイドに彼らが立ち寄ったからだ。立ち寄って、出発した直後に襲撃された」
  「ギルダーシェイドに犯人がいた?」
  「この辺りがお祭り状態だからな、元々静かに寂れていたギルダーシェイドにもそのお祭りの流れが来ている。つまり、酒飲んだり騒いだりする奴らが蔓延りだしている。無法者一歩手前の連中だよ」
  「超えたってわけね、そのラインを」
  「ああ」
  ふぅん。
  街の治安を護る者として許せないってわけだ。
  その心意気は嫌いじゃない。
  「1人でここに?」
  「そうだ」
  「相棒は?」
  キャピタル残留を決め、ギルダーシェイドで暮らしている犬好きのグールの友人を思い出す。
  「あいつは来ないよ」
  「何で?」
  「BBアーミーって知っているか? ギルダーシェイドに警備の押し売りをしてきている。現状は俺と相棒、ギルダーシェイドでアイスホッケーとかいうスポーツ復活を推進している連中と一緒に
  追い出してはいるがなかなかにしつこい。信用できるかどうか以前にあんなの雇う金がないからな」
  「またあの連中か」
  「知ってるのか?」
  「他の街にも来てる」
  「連中はバニスター砦とかいう場所を拠点にしているようだ」
  「バニスター?」
  どっかで聞いたような。
  あー。
  かつてのタロン社の本拠地か。
  だとするとあのBBアーミーこそが正当なタロン社残党ってわけだ。
  「ミスティ」
  「何か手がかりは?」
  「手を貸して……」
  「当然でしょ。仲間じゃないのよ」
  「すまん」
  「それで手がかりは?」
  「2人組は車でこっち方面に逃げた、らしい。バンとか言うのか? かなり錆びだらけだとか何とか」
  「錆びだらけ……ある、あるわ、その車」
  「何だとっ!」
  「こっち」
  私たちは人混みを避けて走る。とはいう人混みが邪魔でなかなか前に進まない。
  「ポールソン、リンカって子ってどんな子?」
  「特徴は特にない。5歳ぐらいか。赤毛で……ああ、そうだ、赤い宝石のネックレスをしている。ガーネットってやつだ」
  「がーねっと?」
  宝石の種類。
  それは分かっているがどんなのかは知らない。
  「災いを避けるっていう性質があるらしい」
  「避けてないじゃん」
  「今日は休業日なんだろう」
  「何それ」

  
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  響き渡る爆音。
  そして立ち上る黒煙。
  ……。
  ……えーっと、あれって私らの車が止めてあった場所じゃ……。
  商人や客たちは慌て、その場に蹲る者、転がる者、火事場泥棒的に物を奪って逃げようとする者で大混乱。火事場泥棒はポールソンがショットガンの銃底で沈めた。しばらく起きないだろ。
  ぐっじょぶ。
  「ポールソン、神っていると思う?」
  「不幸の神様はいるんじゃないのか?」
  「うー」
  察したのだろう、ニヤニヤとポールソンは笑った。
  教訓。
  私が行動すると不幸が飛び込んできます、特に私限定の。
  嫌だなぁ。
  ともかく。
  ともかく私たちは停車した場所に走る。
  結果?
  うー、停車してあった場所が消し飛んでいます。バラモンの何頭かは逃げ惑い、警備を任されていたであろうBBアーミーが右往左往して捕まえている。あっ、撥ねられた。
  こいつら弱いのか?
  戦闘系の勢力ではないのかもしれない。
  錆びたバンは見えない。
  消し飛んだというかここにはいない。私がバザーに入った後に出て行ったのだろう。燃料補給か、もしくはここでリンカって子を売った?
  だけどさすがに人身売買は人目に付く。
  奴隷商人はさすがに……。
  「テンペニータワーか」
  バイヤーがテンペニータワーにいるらしい。グリン・フィスが消した奴隷商人はそう言ってたようだ、というかあいつはどこだーっ!
  消し飛んだ?
  いや、さすがにそれはないだろ。
  「貴様っ!」
  BBアーミーの兵士が叫び、バラモンを捕まえようとしている連中以外の兵隊5人が私にアサルトライフルを向ける。
  ふぅん?
  やる気か?
  「何のつもり?」
  私はまだ構えない。ポールソンはショットガンを構えているけど。
  「お前、爆薬を仕込んだなっ!」
  「爆薬?」
  「とぼけるなっ! 少尉が荷台の缶を調べたらドカンだっ!」
  少尉が誰かは知らんがあの咥え煙草をした奴だろう。
  くそ。
  人の足を吹っ飛ばしやがった。
  この急ぐ展開の邪魔しやがって。
  「Kronosっ!」
  能力発動。
  ……。
  ……中二病ではありません。
  スクライブ・エンジェルが能力に名前付けたらって言うから付けただけです、時の神様です、何となくなんです。
  おおぅ。

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  心臓の鼓動が聞こえてくる。
  全ての事象は緩やかになっていく。ミスティックマグナムだと手加減は出来ないからポケットの32口径ピストルを連中の足に向けはトリガーを引く。
  そして時は動き出す。
  瞬間、兵隊5人はその場に蹲った。32口径ピストルを右手で持ったまま左手でミスティックマグナムを引き抜く。バラモン追ってた連中は私を一斉に見るけどさすがに手を出したらまずいと
  感じたのか、呆然と立ったままだ。それでいい。人数いようとこの状況なら特に問題はない。遮蔽物が特にないんだ、私の能力で一掃できる。
  最初に少尉云々言った奴に銃を向ける。
  「錆びたバンはいついなくなった?」
  「うぐー」
  「いつ、いなくなった? ポールソン、私の周囲をカバーして」
  「了解だ」
  これで周囲は安心だ。
  私は兵士の頭に銃を突きつける。これで黙秘できるならガッツがある。まあ、突っぱねたら永遠に黙秘できるだろうけど。
  「ここにはまだあんたの仲間がたくさんいる。答えなかったら、分かるわよね?」
  「あ、あんたらが付いてすぐにいなくなったっ!」
  ガッツがないな。
  「どこに行った?」
  「知らんっ! あ、いや、違う、東だ、東に向かったっ! 2人組の奴らだ、給油してたから燃料を買いにここに寄ったんだろうっ!」
  「女の子はいた?」
  「さ、さあ? 降りたのは2人だ。車の中にいたとしたら、分からんっ! そ、それで、もう許してくれるのか? というか勝手に車を探索して悪かった許してくれーっ!」
  「私の仲間はどこ?」
  「みょ、妙な老人に付いて行った」
  「はあ?」
  老人?
  ダンウィッチ付近でもそんなことを言ってたな。グリン・フィスにしては珍しく勝手にいなくなったな。
  何か気になることがあるんだろうか?
  「ミスティ、あれはエイリアン野郎の飛行船かっ!」
  「飛行船って……」
  丁度私らの頭上にローターの音を立ててヘリがいる。
  アリゾナ観光と書かれたジェットヘリ。
  そういえばラジオで聞いていたけどスティッキーがギルダーシェイドに来てたんだっけ。料理の取材の為に。ヘリは旋回し、空き地に降りようとしている。
  私を見た?
  いや。
  たぶん取材でもするんだろ、爆発してるし。
  丁度いい。
  「ポールソン、乗り物酔い大丈夫?」





  その頃。
  ギルダーシェイド付近にあるジョコのジュース・ガソリンスタンド。かつてはここにガソリンスタンドがあったものの、今ではただ1軒の廃屋があるだけの場所。
  その廃屋の側には8名のレイダーが屯っている。
  廃屋内部。
  端正な顔立ちの男性が半ば太った女性レイダーの言葉に耳を傾けている。
  この女性、通称マダム。
  かつてはエバーグリン・ミルズで娼婦を差配していた女性で、その所為かレイダー連合内でも発言力があった。レイダー連合がエンクレイブによって攻撃され、崩壊するどさくさに資金を持ち
  逃げして一定の勢力を持つにいたった。その辺りはテンペニータワーにいるスマイリング・ジャックと同じような経歴であり、ともにレイダーではない。
  もっともマダムは没落していた。
  ミスティによってレイダー前哨基地は潰された。
  贅沢な暮らしも、兵力も失った。
  だから……。
  「それで僕に暗殺を、ですか?」
  「そうだよ」
  マダムは元々は美しい人物だったのだが、レイダー連合壊滅後は自前の勢力を持つに至った為、自堕落に暮らし体形も崩れている。それでも昔の面影はあるが、あくまで面影だ。
  人間一度覚えた贅沢はなかなか忘れられない。
  それを奪ったミスティに対して憎しみを募らせている。
  「依頼を受けてくれるかい?」
  「いいでしょう、デリンジャーのジョンにお任せを」