私は天使なんかじゃない
西へ
悪は蔓延る。
どんなに駆逐しても新たな悪は生まれる。
だが彼女は足を止めない。
どんなに小さな一歩でも、確実な一歩だからだ。
『それでー、そこでヌカ・コーラをさらに加えて煮込むと茹でローチのヌカソース添えが完成ってわけ。ラッド・ローチのおいしい食べ方よ。……聞いてる? スティッキーさん?』
『お、おお、うっぷ、聞いてる、聞いてる』
『廃墟の暗がりにヌカ・コーラを撒いておくと30分でラッド・ローチが確保できるし、食材はお手軽よ』
『……い、以上、今日の美食のコーナーでした。スリー・ドッグ、スタジオにお返しするよ。というか俺もスタジオに帰りたいーっ!』
『何とも、おいしそうな、料理だったな。ご苦労様、スティッキー、俺はスタジオでソルベリーステーキ食べてるからそっちでご馳走になって来てくれっ! 胃洗浄の用意はしておいてやるよっ!』
『現在スティッキーはギルダーシェイドのシエラ・ペトロビタさんのところで料理の取材をしているぜ』
『さてここでスティッキーの為にレクイエムを流そう』
ラジオから音楽が流れてくる。
車に揺られながら私は荒野を走る。
「飴食べる?」
「いえ結構です」
「そう? 3袋全部私が食べちゃうわよ?」
「ははは」
2日前にメガトンを出発。
私とグリン・フィスは小型トラックでキャピタル・ウェイストランドの悪路を走っている。荷台はガソリンの缶で満載。缶は10ちょっと。荷台は屋根はなく野ざらし。
この車はルーカス・シムズが提供してくれたモノ。
レギュレーターのモノなのか、メガトンがどこかに買い出しに行くようなのかは知らないけど、貸し出しの好意はありがたい。
実のところ選択肢があった。
貸し出しの車の種類。
当然1台はこの小型トラック、もう1台は普通の乗用車。私は迷わず積載量のあるこのトラックを選んだ。
何故って?
ここは全面核戦争前のアメリカではないのだ。
燃料が尽きたからと言ってガソリンスタンドはない。キャラバン隊や集落から買えればいいけど、かなり運の要素もある。というかキャラバン隊に荒野で会うのはかなり無理ゲーだ。
なのでトラックを選んだってわけ。
2人乗りだが仕方ない。
まあ、連れて行けるメンツがいなかった、というのもある。
ブッチたちトンネルスネークは未だにメガトンに帰って来てないしアカハナたちピット組は警備の仕事に勤しんでいる。というか私がそのように命じた。複数の街が連盟し手を組んでいる
とはいえ、メガトン共同体の治安維持は容易ではないのだ。つまり動けるのは私らしかいないというわけだ。
私たちはバザーに向かっている。
Fスコット主要道路&キャンプ場と呼ばれる場所で行われている、バザー。
西海岸の商人たちがそこで売買をしている、らしい。
わずかな流通経路は今までもあったようだけど今回は今までにない規模の商人が来ているようだ。自然、キャピタルの商人たちもそこに集まっている。
私たちの目的はアマタたちを探すこと。
そこにいるという根拠?
ない。
ただ、ボルト101側の通信の内容は、浄水チップ絡みだった。
アマタたちは何でも屋のジョーというケリィのおっさんの先輩格のスカベンジャーと接触したらしい。バザーの件を知っているかは分からないけど、宛としてはそこぐらいな気がする。各街にある
浄水システムは独自のもので精製は不充分だし、ボルト101の規格にも適合してない。キャピタルで浄水チップが手に入る場所は普通に人が住んでる。
まさか追い出して奪うってことは考えてはいないだろ。
それだけの戦力はないだろうし。
何でも屋のジョーから何かを聞いて、あるであろう廃墟とかをスカベンジングするにしても、そんな場所が手付かずであるはずがない。絶対にスカベンジャーの手が入っているし、まず残ってい
るわけがない。当てもなく探すには効率も悪い。となるとバザーに向かう、というのが私の判断だ。そこにあるかは知らないけど向かうのは確かだろう。
会えれば力になれる。
ジェファーソン記念館で水の浄水は可能になった。
チップという形だろうが水の提供という形であろうともボルト101は救える。
……。
……問題はー……。
「はぁ」
車を停車する。
集落の道の真ん中で車を止める。
私は降りた。
グリン・フィスも降車する。
今回の私の服装は通常装備の他に、キャラバン隊のクロウから買ったコートをアーマーの上に羽織り、帽子を被っている。
44マグナムはミスティックマグナムに変更。
威力?
半端ない。
反動は特にないけど威力は言われたとおり2倍です。
どんな謎構造してるんだ(汗)
なのでコートのポケットに32口径ピストルを忍ばせている。ミスティックマグナムだと相手を無力化して尋問が出来ない、普通に撃たれた部位が吹き飛ぶ。肩掛けホルスターでもして9oピストル
でもいいんだけどアーマー着てて肩掛けホルスターというのも様にならない。というか邪魔。ボッケは深いし32口径ピストルを入れてる。尋問用、脅し用、なので普段は使わないし問題ない。
グリン・フィス?
相変わらずの装備です。
さて。
「主、どうされます?」
「話を聞きに行きましょ」
「御意」
歩き出す。
家は前のと同じかな?
ここには以前来たことがある。その時と比べると住民も普通だし、歩いている私達に向ける視線も特に問題はない。
主要な収入源は、まあ、もてなし?
旅人の拠点として潤っている街。要は宿泊用の宿やら酒場が収入源。あとは、バラモンの飼育、繁殖、食肉、かな。とりあえず軌道には乗っている模様。
ここには何の用もない。
少なくともここにアマタたちはいない。それは分かってる。
視察なのだ、これは。
レギュレーター絡みではなく、メガトン共同体としてのね。
「主、ここの街は何と言いましたっけ?」
「アンデール」
「そうでした。人食いの街ですね」
「元、ね。今の住人にそれは言っちゃ駄目よ。黒歴史だから。それに大元は全部消したし。おっけぇ?」
「御意」
そう。
ここはアンデール。
かつては人食いの街。
もっとも以前ここに訪れた際に悪党を根こそぎにしたので今は普通の街だ。
私たちは視察としてこの街の現状を見て、その後で西に移動、ビッグタウンの現状を見た上でバザーに向かうって旅程。
……。
……嫌だなぁ。
視察云々は別にいい。要は目で見て、街の代表となったMr.ハリスと世間話して終了。
それだけだ。
嫌なのは私が方々の勢力に属してしまっているということ。
まあ、今更なんですけどね。
BOSではスター・パラディンという役職。何気にNO..2。
レギュレーターではミスティックマグナム貰っちゃう立場。
メガトン共同体……というか、各街と密接だったり?
ピットとも懇意だったりする。
他には、いや、やめよう。
考えるのはやめよう。
頭痛くなってくる。
「主、視察とは何をするんですか?」
「街見てハリス老人に話聞いて終了。特に問題ないでしょ、平和そのものだし。一部を除いては」
「そうですね、一部を除いては」
歩いてて街に活気があるのは分かった。
ただー……。
「何だろ、あいつら」
「街の警備兵では?」
「武装は統一してるって聞いてたけど」
メガトン共同体の警備兵はコンバットアーマー着てる。そういう兵士は確かにいる、だけどここには数が少ない。共同体はメガトンが中心として活動している為、離れるにつれて色々と減少していく。
兵士の数も、資金も、色々と。だがこれはまだ仕方ないだろう。まだ完全には機能していないし、それでも今までの状況に比べたら格段の進歩だ。
その辺りは各街も分かっているから問題にはなってない。
格差をなくす動きもある。
それはいい。
その辺りは私の問題ではないし、政治はは知ったことじゃない。
私は私の正義で動くだけだ。
まあ、後は気分で。
それにしてもあの青い軍服の兵士はなんだろう、街の中に結構いる。青い軍服の上に防弾チョッキ、アサルトライフルを手にし、腰には拳銃。
連中はこちらを見ている。
街の住人は、青い集団の存在を受け入れているのかは知らないけど、嫌っているような印象が見て取れる。触らぬ神に祟りなしという感じだ。
何者だ?
聞けばいいか。
こんこん。
市長となったMr.ハリスの家をノックする。
いや。
正確には前に住んでいた家の扉をノックする。今も住んでいるかは知らないけど。扉が開いた。出て来たのはMr.ハリス。よかった、この家だった。
「お久し振りです」
「おお。お前さんか。久し振りじゃな」
「ええ。本当に」
「旅かな? 前よりも人数が少ないようだが……」
そこは触れないでほしいものだ。
クリスチームはもういない。
帰ってこない。
絶対にだ。
「視察に来ました」
そう言うと彼は驚いた顔をした。
「視察が来るとは聞いていたが、お前さんか」
「ええ」
「ははは。出世したものだ。さあさあ、入ってくれ。コーヒーでも飲みながら話をしよう。クッキーもあるぞ」
「楽しみです。その前にあいつらはなんです?」
入る前に家々の前をうろうろしたり道で屯っていてる青服たちを見る。
「ああ、あいつらか。BBアーミーの連中だ」
「ビービーアーミー?」
何だそれ?
また妙な新勢力ですか?
嫌だなぁ。
「ブルーベリーアーミーの略じゃよ」
「ああ、それでBB」
「そうじゃ」
「何者です?」
「視察に来たんだ、だったらその話もせんといかんな。要はこの街には警備兵が少ないからあいつらは警備をしている。この街のな」
「へー」
不満そうな声だ。
ただしメガトンに向けられているものではない、BBアーミーに対してだ。連中な対しての視線が、嫌そうだ。
何てだろ。
「嫌なら断ればいいんじゃないですか? 少ないとはいえ警備兵はいるわけですし」
特に今まで問題があったもとは聞いてない。
少なくともルーカス・シムズは出発前にそんなことは言ってなかった。
「何か問題が?」
「連中は警備を押し売りしてきてる」
「警備の……」
あー。
あれがソノラが言ってた奴らか。タロン社崩れの傭兵どもか。とはいえお揃いの軍服を揃えるぐらいの資金力があるわけだから、崩れとはいえ無視できない勢力だろう。
警備の押し売りでレギュレーターが動くかは知らないけど。
「押し売りと認識してるなら追い出せばいいような」
「最初は無視したさ」
「何か問題が?」
「そうしている内に何軒かボヤ騒ぎがあった。ワシは年寄りだからな、何となく分かった、無駄に長生きはしてない。連中を雇ったらピタリと止んだ」
「それは……」
私は次の言葉を飲んだ。
屈したことになる、かもしれないが仕方ないのだろう。連中の数は多い。ここの警備兵は少ない、太刀打ちできないのは明白だ。
なるほど。
これは何とかしないとまずいな。
ただ、今までのように私が全力でぶちのめすだとまずい。根本的な解決にはなってない。
解決にはこの街にもっと充実した備えが必要となるだろう。
BBアーミーは警備の押し売りという発想でしかないけど、少なくとも今はそれだけなんだけど、人狩り師団とか出張ってきたらひとたまりもない。
何とかしなきゃだ。
幸い無線機は持って来てる。
「すぐに報告しますから、色々と話しましょう。……話し合いを円滑にする、おいしいコーヒーとクッキーがあるんですよね?」
「もちろんじゃ。さあさあ入ってくれ」
1時間後。
私はさらに車を西に向けて移動している。
アンデールの話し合い?
終了。
すぐに要望をルーカス・シムズに無線で伝えた。ダイレクトにMr.ハリスがそれをしなかったのはBBアーミーに盗聴されている場合を考慮してだ。どうもこの辺りは完全にあいつらが
掌握しているらしくこれから向かうビッグタウンにもいるらしい。私が見たところ揃いの軍服、武装、この辺りの掌握等を見てもかなりの資金力、軍事力、統率力があると見ていい。
分裂して、好き勝手やってるタロン社残党とは訳が違う。
規模はかなりのものだ。
下手にアンデールが逆らえば潰される可能性もある、Mr.ハリスはそう考えていた。
それは間違ってない。
BBアーミーの警備オンリーの現状がいつまでも続くとは思えない。連中の目的が何かは知らないけど、ただの警備会社で終わるのだろうか?
いずれにしても押し売りが押し込み強盗に変わる可能性は否定できない。
不審火等も連中のごり押しの可能性だってある。
まあ、共同体からアンデールに派兵され、警備が拡充されれば連中は不必要になるし、その分のキャップが浮くからアンデールは栄える。BBアーミーがボヤ騒ぎに関係ないとするのであれば
街単位の警備契約を失うにしても個人用に切り替えればやってけるだろ。そして共存できる。
連中がまともなら、ね。
今のところは何とも言えない。
アンデールへの取り入り方は執拗だったとMr.ハリスは言ってたけど、今のところはそれだけだ。だからこそ警備兵たちも何も出来なかった。住人に喧嘩吹っ掛けて来るわけでもないらしい。
よく分からん集団だ。
ともかく。
ともかく私たちは次の街ビッグタウンに向かって車を進める。
「うー」
「主?」
「疲れた」
「休憩しますか?」
「そうしたいところだけど、私の目的はアマタなのよ。何とか早く合流したい」
「では断ればよかったのでは?」
「市長の頼みの視察のこと?」
「はい」
「そういう性格なら苦労しないわ」
ため息。
無視するところは無視すればいいんだけど、性分なのか、出来ないでいる。
めんどい性格だなぁ。
運転を交代したいところだけどグリン・フィスは車の運転ができない。
まあ、運転なんて簡単だし、戦前と違って対向車も後続車もいない。というかそもそも道がない。自分が進むところ、それが道っ!状態。
教えて交代するか?
あー、でもグリン・フィスは向かう場所を正確には知らないからなぁ。
もちろん私もそこまで正確には知らないけどPIPBOYを見ながら方角を逐一修正している。助手席で寝ている私の左腕を顔を伸ばしてみながら運転するのも危ないだろう。
仕方ない。
もう少し頑張る……ん?
「どう思う?」
「保護者同伴には、見えませんね」
「だよね」
レイダーのような女……いや、レイダーですね。廃タイヤや布切れで作った、所謂レイダーファッションをした女が視界に入る。その女、10oサブマシンガンを携帯している。
まあ、そいつは別にいい。
だけどその女はパジャマを着た女の子を引き連れている。その女の子はにこにこしている。かなり可愛い。
さて、どうしたもんか。
ききききき。
車を停車。
レイダー風の女の近くでね。
私は降りる。
グリン・フィスも。
女は立ち止まって警戒するけど、音にの子はにこにこと笑っている。
「ハイ」
女に笑い掛けると、女は強張ったような顔をし、女の子は元気に答えた。
「こんにちは。あのね、あたし今から冒険に行くよっ!」
「へぇ、冒険」
「うん」
一桁台の女の子、かな。
かなり幼い容姿。
私は女の子に微笑みつつもレイダー風の女の動向を横目で見ている。
ふぅん。
本当にこの子の保護者、なのかは知らないけど、私を見る目に怯えと敵意がある。いきなり現れた私たちに対しての怪訝という感じではない。こいつ、私のことを知ってるな。
誰だ、こいつ。
個人的にどこかで会ったか、組織として何らかの接点があったか。
いずれにしても私を見る目は嫌な奴に会った、そんな感じだ。
「私はミスティ」
「ランプライトの子たちにはバンブルって呼ばれてる。でも本当の名前はベティなの。あのね、あたし歯が生え変わったんだ」
「じゃあ、大人ね」
「でしょでしょ? だけどエクレアがね、あなたは危ないから街から出ちゃ駄目だっていつも言うんだ。でもこのお姉さんがあたしを外に連れ出してくれたの、今から冒険に行くんだぁ」
「そっか」
ランプライト、ね。
あの洞穴に住んでいた子供たちは全員ビッグタウンに移住して、ランプライト洞穴は空っぽ。
この子はビッグタウンの子か。
どう考えても拉致しただろ、この女が。正確には甘言で誘い出した。
その結果はどうなる?
どっかに売り払われる、そんなところだ。
……。
……そうか、この女は奴隷商人か何かか。
たぶんパラダイス・フォールズの残党。
元々奴隷の大半はピット送りだった、キャピタルであまり奴隷を見ないのはその為だ。だけど可愛い子を愛玩用の奴隷として売り飛ばすという行為はキャピタルで行われていたはず。
何故ならピットでは労働力が欲しかっただけであり子供が必要というわけではない。となると子供はどこぞの金持ち辺りに売り払われるのか。
「ねぇ」
この子の前でこの女を殺すとトラウマになるかな。
それは困る。
「ねぇ、ビッグタウンに帰らない? 今から私はその街に行くんだけど、飴玉食べ損なっちゃうわよ?」
「飴玉って何?」
「これ」
最近携帯してます。
甘い物ウマー。
「あげる」
たぶん苺味。
バンブルはそれを口に頬張ると、微笑む。
天使ですね。
「甘くておいしいっ!」
「でしょ? 冒険は次にしたら? それは特別にあげる。皆には内緒よ? 街に着いたら、皆に配るから、あなたも帰りましょう。もちろんバンブルにもまたあげるわ」
「じゃあ、帰ろうかな」
「決まり。そこの人、この子は私が送るわ。いいわよね?」
「え、ええ」
動揺してるな。
やっぱりこいつ私を知ってる。多分奴隷商人の生き残り、もしくはレイダー連合の残党が小遣い稼ぎにさらったのか。
まあ、どっちにしろ敵だ。
「グリン・フィス」
「はい」
「ビッグタウンは西に15分と行ったところ。私はバンブルを連れて車で先に行ってるから、悪いけど歩いてきて。そこの女性はあなたが送ってあげて」
「御意」
どこに送るかって?
さあ、どこだろ。
バンブルを助手席に乗せて私はビッグタウンに向かう。道中特に問題はなかった。車に乗るのが初めてのバンブルがはしゃいでほんわかしたぐらいかな。
到着っと。
停車。
停車場所はビッグタウンの真ん前。
……。
……いや、これは真ん中か?
以前のビッグタウンは周囲が廃車が山積みとなった街で、唯一ある街の入り口は狭く、長い吊り橋の街。ある意味で完璧な防御。まあ、ある意味で逃げ場なしな街だったんだけど。
環境は今も変わらない。
止めたすぐ近くには吊り橋、街は廃車で囲まれている。
ただ、街の北側にあった廃墟の建物がいくつもあったんだけど、今もあるけど、現在は廃墟というわけでもなく人が住んでいるようだ。
露店もあるし子供が遊んでたりもする。
ランプライトからの移住もあったしその為かな。そもそもの街は周囲が覆われ、生活空間は限られている。現在は余裕も出て来たようでビッグタウンは壁の外にも生活環境を広げていた。
むろんその弊害もある。
割り当てられている警備兵が少ない。
だから……。
「またあの連中か」
青い軍服の面々が目に入る。
BBアーミーだ。
本来のビッグタウンは防御完璧だけど、新たに周囲に広がった部分は無防備だ。いや警備兵はわずかながらとはいえいるし、廃車や廃材で防御用の弾除けを作ってはいるけど戦闘兵力が
足りない。その為新たに広がった部分の警備はBBアーミーが担当しているようだ。兵隊が15人、いや、20人はいるのか。
「行こう」
「うん」
バンブルと手を繋いで橋を渡る。
BBアーミーの兵士1人と言い争いをしているセキュリティに声を掛ける。
「ダスティ」
「俺の名を……ああ、あんたか、久し振りですね。元気そうで何より」
「そっちもね」
彼はダスティ。
前にここに来た時に共闘した仲だ。
「バンブル? お前どうして外から来たんだ? お前は中にいたはずだろ?」
「冒険に行ってたの」
「冒険に?」
「バンブル、飴玉配るからお友達呼んで来てよ」
「うんっ!」
少女は街の中に消えた。
あの子にはあまりリアルに危険だったとは言いたくない。注意は必要だけど、そこまで怖がらせたくない。大人が気を付ければ済む問題だ。
少なくとも、この要塞みたいなビッグタウン本体に住んでいる以上はそれで済む。
吊り橋渡らないと出入りできないわけだし。
……。
……あれ?
となるとバンブルはどうやって外に出たんだ?
ダスティやセキュリティはおそらく常に吊り橋付近に詰めてるはず。なのにどうしてあの奴隷商人はバンブルをさらえた?
少なくともダスティはバンブルは中いたと言っている。
手引きした奴がいる?
誰だ?
「なあミスティさん、どうしてあいつはあんたと来たんだ? その、外から」
「奴隷商人があの子を連れまわしてた」
「はあ?」
「はあ、と言いたい気持ちは分かるわ。どうやって外に出たかは知らないけど、どこかに抜け道でもあるのかもね」
「……あんたらと言い争ってた時だな」
鋭い視線をBBアーミーの兵士に向ける。
「それは濡れ衣ってもんだ。我々は大佐の命令で警備の拡充を申し込んでいる、だけだ。話し合いの際にそちらの警備にミスがあったとしても知ったことではない。それよりも拡充の件だが……」
「その件についてはビターカップたちがメガトンに警備兵の増強を申込みに行ってる。あんたらの言い分をこれ以上聞く気はない」
雲行きが怪しいな。
ビッグタウンが、ではない。いやビッグタウンもそうだが、BBアーミーはわりとゴリ押しをしているようだ。
面倒な勢力が出て来たなぁ。
とはいえ今のところ潰すに値する証拠もない。レギュレーター案件ではないな、ソノラが言うように詐欺師のような連中だ。
むろん容認は出来ないけど。
「失礼、私はミスティ、メガトンからの特使。BBアーミーが何をしたいかは知らないけど、メガトン共同体にはメガトン共同体の規律がある。個々の市長にではなく、メガトンの方に言ってください」
「この件はブルーベリー大佐に持ち帰り、吟味させていただく」
「紳士的な対応に感謝します」
「ただし、現在結んでいる警備協定はそのままだ。これは紙面で結んだ、正当な契約なのでね。嫌ならそれでいい。その時は違約金を払ってくれ。それで終わる」
「こちらも話し合いますわ」
「ではな」
兵士は、いや、士官か、そのまま去って行く。
面倒な連中だ。
「ダスティ、今のでよかった?」
「ありがたい。あいつら警備の押し売りをしてくるんだ。もちろんこっちは兵士の数が足りないから、足元を見られてるんだろうけど」
「主」
グリン・フィス、合流。
「お疲れ様」
「主、実はご報告が」
「ん?」
「あの女、テンペニータワーにバイヤーがいるとか」
「ふぅん」
奴隷を買いたい奴がテンペニータワーに、ね。
業突く張りのジャックおじさんじゃないでしょうね?
「ここでの件は?」
「軽く視察して本題に移るわ。ああ、その前に、飴玉配らないと」
ちびっ子たちがやってくる。
マクレディ前市長もいる。飴玉につられてくるなんて子供らしいところもあるもんだ。まあ、純粋に子供なんだけどさ。
結構いるなぁ。
うー。
話の流れとして仕方なかったとはいえ私の好物の飴玉がー。