私は天使なんかじゃない






Interval









  戦士たちのしばしの休息。





  無敵病院から2日。
  とりあえず休息モードの私は自宅でごろごろしてる。
  基本的には2階の寝室のベッドに転がってラフな格好で漫画を読むという自堕落な生活をしてる。ベッドの隣に同じような高さのテーブルを引き摺ってきてコーヒーとお菓子をを完備している贅沢ぶり。
  読んでるのはグロッグ・ザ・バーバリアンという戦前の漫画。
  とりあえず出回っているのは、入手不可能という絡みでの欠番もあるものの、最新刊は15巻まで。完結する前に世界が核で吹き飛んでしまった為、本来ならどこまで続くのか、どういう終わり方
  をするのかが謎。ボルト101には15巻までの一揃えが何組かあったけど、私も持ってたけど、外の世界では欠番だらけだ。
  暇潰し用にモイラの所で買ったけど8巻までしかなかった。それも2巻と7巻がなかった。
  世界が核で吹き飛んだんだ。
  残ってる方が凄い。
  好きなんだけどなぁ、この漫画。
  続きが気になる。
  どっかにないかな、幻の16巻。
  「ふぅ」
  本を閉じて仰向けで目を瞑る。
  無敵病院には大した医療物資はなかった、他の1件も同じく。ただしもう1件には適度な量があったらしい。
  そういう意味では成功なのかな?
  なお私らとは別に依頼されたのは傭兵団だけどライリー・レンジャーではなく私の知らない傭兵団だった。ジェファーソン決戦の時には私の傘下にいたようだけど。
  ……。
  ……ああ、ついでに補足。
  ミスティ様の為に、と言ってたレイダー300名はかつて地雷原と呼ばれた街で暮らしてる。
  地雷原はまともな家屋がたくさんあったし住み易いようだ。
  今では一般人で、たぶん私が言えばまた義勇兵みたくなるんだろうけど、一般人として暮らすことを選んだみたいだから特にいうつもりはない。一応メガトン共同体にも入ってる。というか名目上
  市長は私。勝手に向こうが決めただけなんだけどさ。主な産業はスカベンジングと畜産。どこから曳いてきたかは知らないけどバラモンをたくさん囲ってる。
  さて。
  「今日はどうしようかなぁ」
  まだPIPBOYは直らない。
  ブッチたちトンネルスネークも稼ぎに出たまま帰ってこない。グリン・フィスはこの間は自分の力量不足で、とか言って街の外で修行してるし、話し相手がいない。
  無敵病院で頭をガンガン打ったから安静にしています。
  BOSの検査して貰った結果、特に異常はないしだけど、体の倦怠感はスーパースティムの影響らしい。
  現在寝て治している最中。

  コンコン。

  何かノック音がしたような。
  ……。
  ……これは、あれか、私が暇だと思ったから誰かがピコーン、厄介押し付けたったー的な感じなのか?
  嫌だなぁ。

  コンコン。

  ノック音は続く。
  やれやれ。
  無視したら扉蹴破ってでも厄介が持ち込まれそうだ。いや特にそういう経験はないけどさ。
  仕方ない。
  逆らうのはやめて厄介さんとご対面するとしよう。
  44マグナムを1丁掴んで立ち上がり階下に。
  銃は普段着と一緒。
  特に他意はない。
  余所行き用に44マグナム2丁とグレネードランチャー付きのアサルトライフルを持つことを考えたら、普段着のようなものだ。
  扉を開く。
  「誰ですか?」
  「お久し振りね」
  「はあ、どうも」
  赤いローブの女性。腰にはレーザーピストル。
  どこかで見たような?
  面識はあると思うけど誰だか覚えてない。所属している組織そのものは一見しただけで分かる、BOSだ。戦闘系ではなく技術系の階級の出、スクライブだろう。
  だけど誰だっけ?
  度忘れしてるなぁ。
  「どうしたの、ミスティ」
  「いえ」
  向こうは私を知っているらしい。
  わざわざここに来たんだ、要塞からのなんらかの使いだろうから、名前を知っていてもおかしくない。だけど彼女の場合根使いできたから名前を知っている、というわけではなく前から
  知っている、そんな感じだ。誰ですかとは聞けない、私ら面識があるみたいだし。脳内で検索掛けてるけどなかなか名前が出てこない。
  向こうはそれを察したのだろう。
  苦笑した。
  「ああ。記憶障害ね、よくあることだわ」
  「はっ?」
  記憶障害?
  誰かに聞いたような?
  ……。
  ……ああ、ポールソンか。ギルダーシェイドで保安官してるポールソンか。
  確か彼もそんなこと言ってたな。
  昔の仲間が宇宙船でのことを現実と思えなくなって姿を消したとか云々。そうなるとこの人も宇宙人絡み?
  私自身信じてないけど、ポールソンと同じこと言うのは何か引っかかる。
  というか気味が悪い。
  本当に私は宇宙船にいたのか?
  いやぁ。
  まさかねー。
  「そうか、じゃあ、初対面とした方がいいのかな。スクライブ・エンジェルよ。現在はスクライブ・ピグスリーとともにDr.ピンカートンの元で仕事をしているわ」
  「どうも、ミスティです」
  「よろしく」
  「こちらこそ」
  スクライブ・ピグスリーが誰かは知らないけど、とりあえず挨拶終了。
  少し前進だ。
  「あのへなちょこな女の子が今ではスター・パラディンとはね。これは敬礼しなきゃね。スター・パラディン閣下に敬礼っ!」
  「どうも」
  へなちょこ?
  宇宙船の話が本当だとすると、私は宇宙船では役立たずだったってことか?
  だけど謎だ、別に腹が立たない。
  途方もない話だから?
  うーん。
  何かポールソン同様に妙な親近感があるな。
  もう少し話がしたいかも。
  「上がります? コーヒーぐらいは出しますよ」
  「いえ。急ぐので。ベルチバードを街の外に任せているのよ。抱えている仕事が多い割には人員が割かれないからね、帰らなきゃなのよ。ああ、申し遅れたわ、私は遺伝子工学を担当しているの」
  「遺伝子……あー、ジェネラル絡みの報告ですか?」
  「頭の回転の速さは相変わらずね」
  「どうも」
  「そうよ、その話で来たの。まずこれは結論。ジェネラル種は能力者。これはあくまで予測なんだけどmaster系とはまた異なる、支配者系の能力者ね」
  「master系?」
  何の話だ?
  さっぱり分からん。
  「これに関してはかなりポピュラーな能力。フェラルとかラッド・ローチを操る奴に遭遇したことない? ジャイアント・アントとか」
  「ああ」
  心当たりはある。
  前に倒したガロって奴はラッド・ローチ操ってたし、アンタゴナイザーはアリを操る、フェラルを操る奴はキャピタルにもいたしルックアウトでも、ジェイミの部下が該当するだろう。
  master系って括りで分けるってことは……。
  「私のような能力者とは別物?」
  「そうなるわ。厳密にどう違うのと言われたら困るけど、別物と認識してくれていいわ」
  「ふぅん。でもジェネラルが能力者だとしたら、教授はそれを認識していなかったようですけど」
  「そう。おそらく認識してなかった」
  「どんな能力なんです? 別のジャンルの、支配系ってことですよね?」
  「厳密にどう違うかは分からないわ。ただ、フォークスってミュータントを操ろうとしたって報告があったわよね?」
  「そうですね」
  ジェネラルはフォークスに私たちを殺させようとしていた。
  ただの悪あがき?
  それならいい。
  もしもそうじゃなくて、何らかの能力だとしたら……。
  「ミスティ、能力者の特性って知ってる?」
  「特性、能力者同士は能力が反発し合うってやつですか? だけど、考えてみたらガンスリンガーという奴とは相殺し合わなかったんですけど」
  「仮説は成り立ってる。あなたは時間を止めれる、任意で。そうよね?」
  「ええ」
  「それとは別に弾丸に限り視界にはする限り自動でスローになる。任意にしろ自動にしろその間あなたは加速度的に動いている、そうよね?」
  「ええ」
  「あくまで推測よ、だけどたぶんあってるはず。任意同士は反発し、相殺し合う、でもそれ以外だとその限りではない」
  「あー」
  「思い当たる節はあるようね」
  「まあ、そうです」
  任意同士は反発。
  なるほど。
  つまりそれ以外は、自動同士、任意と自動でも相殺し合わない、そういうことか。そしてその法則が正しいならジェネラルは任意能力者。
  だけど何の能力だ?
  「master系は別物だからそもそも反発しない、そこまでは理解できる?」
  「ええ。それでジェネラルの能力は分かっているんですか?」
  「フォークスを操ろうとしていたことから支配するタイプの能力者、かしらね。ただしフォークスは支配できなかった、そこかに考えられるのは意思が強いスーパーミュータントは
  操れないのか、もしくは知能が高い、言い換えれば自我が確立している者は操れない、かしらね」
  「あー」
  「思い当たる節はあるようね」
  「まあ、そうです」
  そうか。
  それでDC残骸でもビッグタウンでもジェネラルが死ぬと雑魚は逃げたのか。そもそも雑魚はそこまで好戦的ではないのだ、正確には組織的には動いていなかったってことか。
  ジェネラルが死んで能力の干渉から離れたからあいつらは戦わずに逃げるのか。
  教授はそれを知らなかったはずだ。
  遠隔操作していたジェネラルが強いから従えれた的なことを言ってた。支配している時間が短い時はジェネラルの自我が前面に出るようなことをフォークスは言ってた、だからおそらく
  完全に遠隔操作しててもジェネラルの意識というものは確立されているのだろう。その確立されていた自我の部分が能力を発動していた?
  そうなると教授の支配っていうのはかなり適当だな。
  支配しているつもりで、実はジェネラルの能力のお蔭だったってわけだ。
  エンジェルは続ける。
  「我々はその能力に名前を付けました。armyです」
  「ピッタリの名前ですね」
  「あなたも付けてはどうですか?」
  「私も、名前を」
  考えとこう。
  まあ、どっちでもいいんだけどさ。
  「話は以上です」
  「わざわざ伝えに来てくれたんですか?」
  「ストレンジャーという集団がここに来たことで、能力者が意外にも多いということに気付いたので、能力者であるあなたに忠告をというのがエルダー・リオンズの方針です」
  「確かに戦いやすくなりました」
  知ってると知らないとでは全く違うのは確かだ。
  「では私はこれで」
  「ありがとうございました」
  「……ああ、そうだ」
  「何か?」
  「覚えていないかもしれませんがソマーに気を付けてください。彼女はかなりの兵器を下に持ち込んでいます。そして性格は以前ほど快活ではない。人が変わった、というのか、それとも
  それが元々の性格なのかは知りませんけど、会うにしろ彼女が関わっていることに首を突っ込むにしろ、気を付けてください。かなり攻撃的です。BOSの小隊を一つ潰しました」
  「意味は分からないけど、ご忠告感謝」
  「では」
  立ち去るエンジェル。
  うーん。
  誰だっけ?
  ソマーという名前も聞いたことがあるなぁ。
  「まあいいか」
  考え過ぎないことだ。
  今は分からなくても不意に思い出すことだってあるのだ。
  とりあえず今はオフだし楽しもう。
  そうそう。
  PIPBOY3000が直っているかもしれないからクレーターサイド雑貨店に行ってみるとしよう。
  室内に戻り私は44マグナムのホルスターを巻き、2丁突っ込む。
  お出かけだ。



  キャップ持ってクレーターサイド雑貨店に。
  店の扉を開けようとすると中から客が出て来た。おっと、ぶつかるところだった。
  「あら、ミスティ」
  「ルーシー」
  その客はルーシー・ウエスト。
  前に郵便配達の仕事を私に依頼してきた女性で、私の友人だ。
  紙包みを抱えている。
  私の視線に気付いたのか、彼女は微笑んだ。
  「あなたも新作を?」
  「新作?」
  「ああ、知らずに来たのね。クロウって人が来てるのよ、カンタベリー・コモンズのキャラバン隊の人で防具とか服飾を専門に扱っている人」
  「あー」
  前にウルフギャングに聞いたことがあるなぁ。
  名物商人4人の話。
  ただ私はまだウルフギャングとハリスにしか会ってない。クロウ、Dr……誰だっけ?には会ったことがない。
  「ルーシーは服を買いに来たの?」
  「そう。モイラに売る前だったからね、かなり安く買えたわ」
  「あはは」
  モイラを通すと当然彼女の取り分も手数料として上乗せされた価格になる、卸元から購入したってことですね。
  じゃあねと言って彼女は帰って行った。
  バイバイしてから私は扉を開けた。
  「いらっしゃい。おやお嬢ちゃん」
  「ハイ」
  お店の傭兵が軽く手を上げる。
  私とはもう馴染だ。
  カウンターではモイラと男性が何か話している。多分彼がクロウなのだろう。大量の品をカウンターに乗せている。商談の際中らしい。
  ザ・ブレインの姿が見えないけど倉庫かな?
  「ああ、ミスティ、ちょうど良かった」
  私を手招きし、棚から無造作に取り出して、とある品物を手に取った。
  PIPBOY3000だ。
  「直ったの?」
  「ワッズワース、いや、ザ・ブレインが直してくれたわ」

  「ハッ! 軟弱な機体になってますけどね、蓄えた知識は以前のまま何でお安い御用ですよー」

  倉庫の方から声がする。
  PIPBOYに変な細工してなきゃいいけど。一応は敵だったわけだからいきなり全面的には信じれないのは仕方ない。
  私はPIPBOYを受け取って腕にはめる。
  これがなきゃ落ち着かない。
  起動を確かめてみる。
  よし。
  直ってる。
  「ザ・ブレインがいてくれてよかったわ。すぐに直せたし手間も掛からなかった。ただー……」
  「ただ?」
  「アンソニーって知ってる?」
  「アンソニー、ああ、あいつがどうしたの?」
  「PIPBOYを売り物だと思ったんでしょうね、売ってくれってしつこかったわ。ノヴァの分もさっきまであったのよ、だから2つあるなら1つ売ってくれって、どうしてもPIPBOYを付けたいんだって聞かないのよ」
  「それでどうしたの?」
  「俺がお帰り頂いたよ。仕事だからな」
  傭兵が言う。
  ぐっじょぷっ!
  それにしてもあいつは何なんだ、テンペニータワー以外では私の前に姿を見せないけど、妙に私の周囲をうろちょろしてる。
  さすがにただのファンでは片付けられないような気がする。
  まあいい。
  話を変える。
  「モイラ、幾ら?」
  「そうねー。私はほとんど何もしてないし1000キャップでいいわ」
  「安いのね」
  「あらこれは驚いた。10倍ぐらい高く吹っ掛けた方が安心する?」
  「いえいえ」
  ケリィのおっさんはぼったくられてるのかな、ジョーって人に直してもらうと5000キャップとか言ってたもんな。
  まあ幾らだろうと結果的にブッチ君の負担なわけですけど。
  可哀そう可哀そう。
  キャップを支払う。
  5000って相場を基本に考えてたからかなり残るな。
  そうだ。
  「クロウさん、ですよね?」
  「ああ。クロウだ。カンタベリー・コモンズが拠点だよ。お前さんは……あー、赤毛に、PIPBOY、あんたがあの赤毛の冒険者か。ウルフギャングやハリス、メカニストやアンタゴナイザーから話は聞いてるよ」
  「どうも」
  思えばこの世界での仲間が増えたものだ。
  しみじみです。
  「それじゃあ少しお安くしておくかな。買いに来たんだろ? まだ店主には売ってないから俺の取引として処理しよう。そしたら安いからな。さて、新しい金属かメッシュのマントをお探しかな?」
  「普段はライリー・レンジャーの強化型コンバットアーマー着るんですけど、防御力を上げたくて」
  「ああ、あの傭兵団の。となるとパワーアーマー着るぐらいしかないかな、あそこのコンバットアーマーはパワーアーマーに次ぐからね。パワーアーマーだと取り寄せになる、さすがに手元にはないよ」
  「パワーアーマーはちょっと」
  私の趣味じゃない。
  「そうか。それじゃあ気休め程度になるだろうがその上に着るものがある」
  「その上に?」
  品物の山からカーキ色の衣服を取り出す。
  トレンチコートだ。
  でかいな。
  「Lサイズだ」
  「でかいですよ」
  「だからアーマーの上にも着れるのさ」
  「まあ、そうですね」
  受け取ってみる。
  確かにかなりでかい、とは言えアーマーの上に着るとなるとボタンは留めれないだろうなぁ。まあ、ボタン留めずに着込むっていうのもなんか格好良いけど。
  「手触りはどうだい?」
  「いいですね」
  意外に丈夫だ。
  「そいつはかなり上等な代物だよ。防刃程度の防御力はある。アーマーと合わせて着れば保険にはなるんじゃないか? アーマーは基本体覆っているだけで手足は無防備なわけだし」
  「確かに」
  「そうだな、半額でいいよ、150キャップだ」
  「買います」
  即答。
  防御力を抜きにしてもこれはかなり良い代物だ。キャップを支払う。
  私の反応に気をよくしたのかクロウは品物の山から帽子を引っ張り出した。
  「こいつはサービスだ。紳士用の帽子だがそのトレンチコートとよく合うだろう? 見た目は悪くないはずだ。私立探偵みたいな感じだな」
  「どう、モイラ?」
  トレンチコートを着て、帽子を被ってみる。
  「悪くないわ」
  「ああ、似合ってるよ、お嬢ちゃん」
  反応は悪くない。
  私は帽子のつばを指で上げて格好付けてみる。

  「品物を抱えた女性に聞いたら赤毛の冒険者がここにいると聞いて……ぶふぉーっ!」

  アッシュだ。
  カウボーイ姿のアッシュ、レギュレーターだ。腰には44マグナムがある。
  こいつは何なんだ?
  どうして私を見ると吹くんだ?
  喧嘩売ってるのか。
  「私に何か用?」
  「ルーカス・シムズの家に来てくれ。ソノラが来てる」
  「ソノラが? 分かった」
  お仕事かな?
  ソノラ直々にってことはそういうことだろう。
  嫌だなぁ。



  アッシュに連れられてルーカス・シムズに家に到着。
  その間会話なし。
  何かこいつ肩を震わせてたな、笑うのをこらえてるのか?
  何か腹が立つ。
  「俺はここで待つ」
  「はいはい」
  「ぶふぉーっ!」
  「……」
  殺してやろうか?
  まったく。
  腹が立つレギュレーターの男は市長の家の前で待機、私が扉を開けて中に入る瞬間に女性がアッシュの所に駆け寄る。モニカって人だ。彼女もレギュレーター。どうやら2人で私を探していたらしい。
  大がかりな仕事があるのだろうか。
  嫌だなぁ。
  ハーデンはおらず私は家の中をきょろきょろ、勝手に探して来いってことか?

  「2階に来てくれ」

  市長の声が降ってくる。
  やれやれ。
  2階に上がる。
  市長の私室に入るとテーブルにはソノラと市長がいた。2人は何か言おうとして、私の姿を見て、驚いたようで、それでいて笑いをこらえたような顔をした。
  何なんだ?
  何なんだーっ!
  がるるるるるるるーっ!
  「ミスティ、座ってくれ」
  「それより前に聞きたんだけど私ってそんなにおかしな顔か何かしてる?」
  「いいえ、内緒にしていたので、仲間内で笑ってしまった、それだけです」
  「内緒?」
  「恰好そのものは素晴らしい、と言っておきます。実に空気を読んでいる」
  「はっ?」
  ソノラの言っている意味が分からない。
  とりあえず椅子を勧められたので座った。私が座ると同時にソノラは小さなトランクケースをテーブルに載せる。そしてケースごと私の方に押し付けた。
  「何これ?」
  「開けてみてください」
  「分かった」
  ケースを開ける。
  中には銀色の44マグナムが2丁あった。
  ……。
  ……ああ。前にくれると言ってた、特別製か。
  触ろうとするとソノラが言った。
  冷たい声で。
  「その銃を持つ価値があなたにありますか? 正義を成せますか? それはただの銃ではありません、レギュレーターの、宝なのです。あなたは正義を成す勇気がありますか?」
  「私は」
  「……」
  「私は天使なんかじゃない、救えないことも出来ないこともたくさんある。それでも自分の出来ることはやってきたつもり。それが覚悟になるかは分からないけど、それが、私の正義」
  「……」
  「ソノラ」
  「正解です、ミスティ、あなたは正しい。それはあなたの物となりました」
  「どうも」
  何が言いたいのかは分からない。
  相変わらずソノラは説明を省く癖がある。
  だけど認めて貰ったようだ。
  「ミスティ、我々には由来があります。レギュレーターの由来です」
  「レギュレーターの由来?」
  「かつて悪が蔓延っていました。誰もそれと戦おうとはしなかった。ただ、1人の男が立ち上がりました。それが誰なのか、我々は名前すら知らない。しかし彼はトレンチコートと帽子に身を
  包み、44マグナムを手に悪と戦った。レギュレーターは彼の生き方を継承しているのです。その彼が死んだかどうかは分かりません、気が付けば、キャピタルから姿を消していました」
  「トレンチ、あー」
  なるほど。
  この恰好はそのコスプレみたいなものか。
  とはいえ笑われる謂れはないぞ。
  別に真似したわけじやない。
  たまたまだ。
  「彼の名前を誰も知らない、しかし我々はこう呼んでいます。ミステリアス・ストレンジャーと。そして彼が使ったその銃こそミステリアス・マグナム。通常の44マグナムの2倍の威力です」
  「ミステリアス・マグナム?」
  「ミス・ティリアス、あなたにその銃を預けます。レギュレーターの魂を」
  「あー」
  それで吹いてたのか。
  「ぶふぉーっ! し、失礼」
  失礼なら口を縫っとけ市長さんよぉーっ!
  くそ。
  これでも一応は地雷原の市長だぞ、私は。
  反逆して攻撃してやろうか。
  がるるるるるー。
  それにしても何てネーミングだ、たまたまとはいえ、この合致は何なんだ。
  ミス・ティリアスにミステリアス・マグナムを、か。
  神は洒落たつもりか?
  まったく。
  それにしてもスペック的には44マグナムの2倍の威力とかどんなだよ。どんな構造だ、というかこれは44マグナムと呼称していいのか?
  謎だ。
  ただ、スペック的にはパワーアーマーも射ぬけるような。
  ちょっと興味あるな、今度はどっかで廃棄用のパワーアーマーでも見つけてきて試し撃ちしてみよっと。
  新しい銃を貰い、今までのを返却する。
  「ところでソノラ、マダムはどうなったの?」
  「依然行方不明です。西南の方で見た、という者がいますが真偽は不明です」
  「西南? あー、バザーがあるとかって方角?」
  「そうです。あの辺りはタロン社やレイダー連合がせめぎ合っていたのですが、どちらも頭の部分が消滅してしまった。なので手下どもが暴れている地域です。雑多な勢力がせめぎ合っています」
  「へー」
  「ある意味で悪党の入り込む余地がある、ということです。人身売買等も行われているとか」
  「人狩り師団? 結局そいつらは何なの?」
  「大規模なレイダー組織、としか。規模はおろか所在も現状は不明です」
  「ふぅん」
  「妙な詐欺師のような軍隊も出ています、色々と、忙しいのが現状です」
  「詐欺師のような軍隊?」
  「警備の押し売りですよ、タロン社崩れが何かしているようです。それで実はそちらに行った時でいいのでバザーの監視を……」

  ピピピ。

  「ちょっと待って」
  PIPBOY3000が何かを受信したようだ。
  またいかがわしいのじゃないでしょうね?
  恐々受信した代物を開いてみる。
  音声データだった。


  『こちらはボルトテック、ボルト101の自動救難信号である』
  『メッセージ、開始』
  『アラン・マックだ。今は遺恨を忘れてそちらに連絡している。面白くないだろうが、こちらも面白くない、それを踏まえた上で聞いてくれ』
  『ボルト101の浄水チップが停止しつつある。幸い俺が外で手に入れた水が備蓄用としてあるしチップはまだ完全に停止していないから問題はないのだが停止は時間の問題だろう。いずれは壊れる』
  『実は監督官のアマタが数人を率いて外に出ている。浄水チップの確保が目的だ』
  『だが連絡が途絶えている』
  『何とかして彼女を探してほしい、そして最悪の場合は浄水チップだけでも持ち帰ってくれ』
  『全てが終わればお前の帰郷も認めよう。以上だ』


  「何だこいつは、随分と一方的だな」
  市長が憤る。
  純粋に怒ってくれてて、少し嬉しい。私の為に怒っている。確かに私も気に食わないが、アマタ絡みか。
  ……。
  ……そうか、ケリィがジョーって人がボルトの人間を見たとか言ってたって話をこの間の無敵病院でしてたな。あれはワリーではなくアマタだったのか。
  浄水チップ、か。
  だけどそんなものがどこにある?
  「ミスティ、バザーにあるかもしれませんね」
  「確かに」
  「これは私見ですが、私は行く必要がないと思います。それでも向かうのですか?」
  「うん」
  「……理解し難い」
  「ごめん。それが私だから」
  「そうではありません。私も、ルーカス・シムズ同様に怒りを感じているのですよ、何様だと。それが理解し難いのです、感情に流されるなんてね」
  「ソノラ、ありがとう」
  「調子が狂います。速くお行きなさい」
  「分かった。またね」