私は天使なんかじゃない
廃院の巨人
科学と医学の発祥から来たモノたち。
「がはぁっ!」
ズリズリズリ。
再び……これで三度目か……一階の階段から二階まで引き上げられる。グリン・フィスが来る気配はない。よほどの数と戦っているのだろうか。
さすがに体が参ってきた。
強化型コンバットアーマー着ているとはいえ生身の部分はやばい。
指が変な風に、いや、考えないことだ。
あー。
あれだな、無敵っていうのは、ないな。
ある程度強くなった気ではいたけど状況次第ではどうしようもないな。これはさすがにお手上げだ。
参った参った。
……。
……って考えてる場合ではないな。
一応銃を撃てる限りは撃ってる、ネット網の拘束が狭いから照準なんて定められない、というか狙えない。ただ引き金を引くだけ。上手くいけばネットを射抜けるんだけどそう都合よくもない。
白いMr.ハンディは私を床に引き摺り、止まる。
こいつガチで殺しに来てるな。
ゴードン曰く捕まっても殺されないはガセか。
まあ、麻薬漬けにされるのも嫌ですけど。
このままではまた階段まで勢いよく進み、止まり、その勢いで私が階段を落下のコンボだ。
趣味ではないがやれることはやっておこう。
趣味ではないけど。
「お、お願い、もう許して、死んじゃう、死んじゃうよ、言うこと聞くから、どうか命だけは許してください……っておい聞けよ止まれってーっ! くそ、駄目か、このポンコツーっ!」
はい。
無駄でしたー。
勢い付けて加速していくロボ。
哀願とか駄目かよ。
あー、19歳か、もう少し生きたかった。
ポジティブ?
まあ、今までだって何度も死に掛けてたしなぁ、死ぬときは死ぬわけだ。
バリバリバリ。
銃声。
激しい弾幕が突然ロボを襲う。
私とロボを繋いでいたワイヤーは射抜かれ、私はネットに拘束されたままとはいえ解放される、ロボはそのまま三階の階段を上がり消えた。
「はあはあ」
口の中が血塗れだ。
助かった、のか?
「あの、大丈夫ですか?」
「……?」
アンソニー?
どうしてここに?
私は拘束されたままで身動きが取れない。何にしても助かった。アンソニーは私を見下ろし、そして周囲を見回した。今のところ敵はいない。
「た、助かったわ」
「よかった」
「解いてくれる?」
「嫌です」
「はっ?」
「タイプの女が瀕死、周りに誰もいない、拘束されて身動きもとれない、やること決まってるでしょうが」
「ちょっ!」
「行きますよ。ははは」
ズリズリズリ。
引き摺られていく。
何かさっきよりまずい展開になってるだろうがーっ!
ま、まずい。
何かやらしいことされるぞ、これ、こういうのって裏ページとかにBADENDバージョン的にして別枠にした方がいいんじゃ絶対18禁だよどぎついのだよ……って何だそれーっ!
ヤ、ヤバイ、混乱してる。
部屋に連れ込まれ、扉が閉じられる。そしてアンソニーの手が私を……。
「おらぁーっ!」
「ぐはぁっ!」
ミスティパーンチっ!
正義の拳が悪の男の顔を打ちのめす。
……。
……あ、あれ?
体の拘束取れてる?
ゆっくりと体を起こす。
「主、よかった」
「グリン・フィス」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「いいわ、私が油断しただけだし。さあ、行きましょ」
「ちょっと待てやーっ!」
「何でいるの?」
鼻を抑えているのはメタボの男。
ケリィのおっさんだ。
腰には10oサブマシンガンが二丁、床にコンバットショットガンが置かれている。背中にはナップサック。昔に比べたら随分と軽装ね。昔は全身の武器を括り付けてた。
私同様にPIPBOYはしていない。馬鹿ブッチの所為で。
あっ。
このおっさん、鼻血出てる。
「ケリィのおっさん、ここで何してるの?」
「まずは俺様に礼を言うべきじゃないのか、ああんっ!」
「礼?」
「主、彼が主を助けてくれたのです」
「マジか。サンキュ」
「軽いなお礼がよぉーっ!」
カルシウム足りないおっさんだ。
「ケリィのおじ様、どうもありがとうございましたぁ☆ 私ぃ、おじ様だぁい好き☆ミャハ」
「そういうのじゃないんだ、そういうのじゃないんだ」
「二度も言わないでよ。じゃあ、どうしたいいの?」
「礼と言ったら乳だろっ! 乳揉ませろよ、生乳っ!」
「グリン・フィス、斬っといて」
「御意」
「俺様が全面的に悪かったっ!」
まったく。
まあ、私も状況がよく分からないから悪いんだけど。
1つずつ解決しよう。
「それで助けてくれたのがケリィのおっさんってことでいいんだよね?」
「何だよ、覚えてないのか?」
「どうも妙な感じになってる。グリン・フィス、アンソニーはいた?」
「アンソニー、ですか? いえ、いませんでしたが」
「うー」
何度も落とされたから頭が朦朧としてる、記憶が混乱してる、ゴードンのアホが私を襲おうとしたり最近私の周りをちょろちょろしてるアンソニーに対しての疑心とかがさっきの妄想になったのか。
やばいな。
私大丈夫か?
「うー」
「主、アンソニーが何か?」
「大丈夫。たぶん大丈夫。頭打ったから現実と妄想がごっちゃになってる」
不意に体のことを思い出す。
……。
……どこも悪くない?
見渡してみたり、腕を動かしてみたりするけど、特に何の支障もない。
おかしいな。
骨がかなりばきばきになってたはずだけど。
「ミスティ、頭が朦朧とするのは頭打ったからだけじゃないぜ、たぶん中毒になってるから、朦朧としているんだろう」
「中毒?」
「スーパースティムパック打ったからな、その中毒だ」
「何それ?」
聞いたことがない。
「スーパーなスティムパックだ」
まんまだろ。
ケリィは続ける。
「ジョーさんから買ったんだよ、ここに来る前にな。まさかいきなり使うことになるとは思わなかったが。それも親友の娘に対してな。言いにくいんだが、お前さん死に掛けてた」
「でしょうね」
さすがにあのロボの攻撃はえぐかった。
嬲り殺しだ。
「通常のスティムの数倍の濃度がある。それだけ強力で、それだけ治癒力も高めるが、その後の中毒がある。しばらくは頭が朦朧としているはずだ」
「そうみたい」
考えが微妙にまとまらない。
能力はどうだろ?
意識を集中する。
心臓の音が脈打つ音が……あれ?
びくん。
びくん。
びくん。
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
頭が痛いーっ!
駄目だ。
能力の行使もできない。
スーパーなスティムの中毒だからか、頭連打したからか、まあ、たぶん両方か。
これはしばらく能力無理だな。
「主っ!」
「おい、いきなりどうした。痛むのか? 無理するな」
「試しに能力発動してみたけど……駄目だ、何か体がビクンビクンする、何というか、感覚が迸るというか……」
「……ビクンビクン表現は微妙にエロいです、主」
「……親友の娘がマジで俺を誘惑するんじゃない、俺だって男だぞ」
何か言ってる。
何か言ってるぜ男どもがよぉーっ!
駄目だ。
前回から何気にエロい展開だ。そして男どもが微妙にうぜぇ。特にゴードン死ねーっ!
「あー」
頭が痛かった。
こりゃ能力が使えませんね。
「ところでケリィのおっさん」
「わざわざおっさんと呼ぶんじゃない、おじさんと呼べ、おじさんと」
「おっさん」
「……まったく。ブッチといいお前といい、最近のボルト市民はどうなってるんだ」
ブツブツうるさい。
「それでここで何してるの?」
「決まってるだろ、仕事だ。俺はスカベンジャーだぞ、売れるものを漁りに来たんだよ。ブッチの野郎が俺のPIPBOYにウイルス叩き込みやがったからな、修理代稼ぎに来たんだよ。そっちもだろ」
「微妙に違う。BOSのボランティア」
「そいつはご愁傷様だな」
「PIPBOYはモイラに預けたの?」
「いや。そっちは、そうか、あの娘に預けたのか。俺は稼ぎ場の話を聞きにスーパーウルトラマーケットに最近宿泊してるジョーさんに預けたのさ」
ジョーさん。
さっきも言ってたな、そういえば。
「誰なの?」
「何でも屋のジョー、俺の先輩格のスカベンジャーで、キャピタルで一番古い人だよ」
「ふぅん。その人って直せるんだ?」
「らしいな。向こうから直してやると言ってきた。5000キャップだってさ。ストレンジャー追っている際に全財産積んだ車が吹き飛んでな、持ち合わせないからここまで稼ぎに来たのさ」
「へー」
5000か。
妥当なのか吹っ掛けなのか。
「全財産のくだりが分からないけど、その所為で武器が少ないの? 前は全身に括り付けてたけど」
「そういうことだ。武器揃える金もないんだ」
「ふぅん」
「PIPBOY、そっちはモイラに預けたんだろ、いくらだって?」
「手間賃は修理に掛かる時間による、みたいなことを言ってたから謎。ノヴァ姉さんは後でブッチに請求するとか言ってた。私らもどう?」
「その発想はなかった。そいつはいいな、あいつの所為だしな。それで行くか?」
「当然」
「とりあえずはジョーさんに渡す分稼いで、後でブッチから取り立てるとするか。結局稼いだ分は俺の取り分だからな、俄然やる気出て来たぜ」
「あはは」
「西海岸の品が集まるバザーの話は知っているか? Fスコット主要道路&キャンプ場の話」
「何それ?」
バザーって何だ、初耳だ。
「キャピタルの西南に位置する場所だ。そうだな、悪名高いダンウィッチビルが南にあって、ギルダーシェイドが北にあるって地理だな。分かるか?」
「その地名は知ってる、PIPBOYが直ったら調べる」
「その場所に西海岸の商人たちが商売してるのさ。西海岸の品はこっちじゃ珍しいからな、カンタベリーの奴も含めて、キャピタルの商人たちも集まっているわけだ。稼いだ金はそこで使うとするよ」
「ブッチの賠償を宛にして?」
「そういうことだ」
ブッチ君、可哀そう可哀そう。
当分は借金生活のご様子。まあ、同情はしませんけど。
「そういえばジョーさんのとこにボルトの奴が来たとか言ってたな。何かマーケットに情報収集に来たのがいたんだとさ。何の話したかは知らんが」
「ボルトの?」
「ああ」
ワリーか?
「ところでMr.ハンディはどうなったの?」
私を引き摺ってた奴はどこ行った?
途中から現実と妄想の区別がつかなくなったけど……とりあえず残骸はここに転がっていない模様。
「グリン・フィス」
「自分が駆けつけた時には既に彼が主を介抱しているところでしたので、何とも」
「そっか。ケリィのおっさん、どうなったの?」
「まず言いたいことが2つある。おっさんと呼ぶな、おじさんだ」
「おっさんっ!」
「……強調するな強調。くそ。それと、もう1つ言いたいことがある。あればMr.ハンディじゃない」
「Mr.ガッツィー?」
「でもない」
Mr.ハンディが家庭用の宙を浮くタコ型ロボット。回転のこぎりと火炎放射が得意技。意外に器用に回転のこぎりで料理をします。まあ、強盗も料理しちゃうけど。
Mr.ガッツィーが軍用の宙を浮くタコ型ロボット。プラズマライフルと火炎放射器を内蔵。
両機は外見上は見分けが付かない。
まあ、武装の違いで分かるけど。
基本的にはカラーリングで見分けるのが普通かな。
私を拘束していたのは白いカラーリングだった、ハンディ型は基本銀色、ガッツィー型は基本緑、もちろんその色じゃいけないという決まり決まりはない。見た目で騙されたってことか。
だけどケリィの言葉は私の予想とは違った。
「あれは別の型だ」
「別の型?」
そんなのあるのか。
知らなかった。
「Mr.オーダリーと呼ばれる、医療型だ」
「Mr.オーダリー?」
「ああ」
初めて聞くなぁ。
「俺様はスカベンジャーだからな、仲間内で旧時代の遺産の話で盛り上がることがある。情報交換したりな。Mr.オーダリーはビッグ・エンプティで開発されていた、医療型のタコロボットだ」
「ビッグ・エンプティ?」
どっかで聞いたような。
あー、デズモンドが言ってたなー。
狂った科学とか何とか。
カルバート教授もそこから技術を取り込んでたっぽいな、確か会話の端々に出て来た気がする。
「ビッグ・エンプティって?」
「戦前の、科学の最高峰さ。その場所で全ての科学技術が生まれたと言っても過言ではない、らしい。ともかくMr.オーダリーはそこで開発され、流通……するはずだった」
「核戦争が起きた?」
「そう。わずかな数が出回っただけだ。俺も見たのは初めてだよ。あれ鹵獲していいか? BOSが高く買いそうだ」
「BOS? あなたOC専属じゃなかった?」
「分裂騒ぎとかでそれどころじゃないんだよ。買い取りとかしてくれなくなった。まあ、仕方ないさ。自分たちが主流派気取りだったのにキャピタルBOSはエンクレイブの技術まで確保しちまったしな」
「仕方ないわよね」
分裂したマクグロウの一派はルックアウトで全滅したし。
「出来たら私がそのロボ欲しいんだけど」
「ミスティがBOSに売るのかい? そいつは承服できないな、俺様の獲物だ」
「いや獲物は獲物でいい。何なら私が買い取ってもいい」
「どうするんだ?」
「ぶっ潰すっ!」
さすがに憤るだろ、殺されかけた。
ケリィのおっさんが間に入らなければ私は多分死んでた。ぎりぎりグリン・フィスが間に合ってた?
んー、微妙ですね。
「あのゾンビ野郎どもは何なの?」
「ゾンビ野郎? ああ、そこら辺に転がってる死体の山か。何だ、ゾンビ野郎って」
「撃たれても立ち上がってきた」
「撃たれても、ああ、たぶんこれの所為だ」
ナップサックから小さな薬瓶を出す。
何だそれ?
「オイホロトキシンって薬さ。白い粉薬だ」
「オイホロトシキン?」
「普通はカプセルに適量入れて処方するもんだ、オイホロカプセルって呼ばれてる。鎮痛剤だよ、スティムにも少し入ってる。適量超えて投与されると痛覚が完全になくなるんだよ、そして一度
トリップすると中毒になるんだ。ゾンビ野郎ってことは、そいつらはジャンキーってことなんだろ」
「へー」
色んな薬が世界にはある物だ。
そうか。
そういうことか。
薬欲しさにあいつらは従がってるのか、いや、正確には過去形か、従がっていたのか。
「それ、どうするの?」
「使いようによってはただの鎮痛剤だからな。誰かが買うだろ」
「BOSは薬品を探してる。買い取ってくれるかもよ?」
「そうか。そいつはいいな。ところでスーパースティムで傷は治るが打った頭まではさすがに無理だからな。脳にダメージがあるかもしれん。帰りはどうするんだ?」
「ベルチバード呼ぶ」
「そうか。じゃあ別にいいか。BOSに検査してもらえ。俺様は3階に行ってMr.オーダリーを確保してくるぜ。なあ、ミスティを頼んだぜ」
「承知」
「俺様はちょっと主人公してくるわ」
俺様はミスティを剣士に任せ、3階に到着する。
剣士があらかた倒したのか既にクレイジーと化した商売敵たちは姿が見えない。全滅しているならいいんだが。
「ん?」
何か声が聞こえた。
耳を澄ませる。
「そこだ。空手チョップだっ!」
空手チョップ?
何の話だ。
声のする方に向かう。そこはどうも入院患者が憩える、テレビのある応接室のような場所だった。
「な、何だこいつ?」
そこにいたのはMr.オーダリーというタコ型ロボットではなかった。
人間。
やたらマッチョなパン一の人間。
ただ鼻から上が銀色。
サイボーグか何かか?
そいつはテレビを見ていたが俺様に気付いたのだろう、こちらを向く。
「お、お前、何だ?」
「ふしゅるるるるるるるる」
「答えなければ撃つっ!」
「うーつー?」
「えっ? あ、ああ、撃つっ!」
「ぬうおおおーっ! 俺を殺しに来たハンターかあーっ! ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ごろごろごろーと階段を転がってくる肉団子。
……。
……失礼、ケリィのおっさんです。
何してんだ、この人。
「どうしたの?」
「しゅ」
「しゅ?」
「主人公、返上するわ。ま、任せた」
ガク。
そのまま力尽きる。
マジかよ。
主人公として30行もたなかったのかよ。
やれやれだぜー。
ドスドスドス。
「ん? ……うげっ!」
「これは、でかいですね」
階段から顔の上半分が金属のマッチョが降りてくる。妙にポージングしてる。
何だ、こいつ。
何だか知らないけどケリィのおっさんはこいつに負けたようだ。
主人公してくると3階に向かって早々に主人公返上に追い込む相手、か。
ケリィのおっさんはああ見えてかなり強い部類。
それがこうも簡単に負ける。
つまりこいつただ者じゃないってわけだ。
一体全体何なんだ、この病院。
ん?
手に何か持ってる。
小瓶?
まあいいっ!
「いっけぇーっ!」
44マグナムを連射。
全弾叩き込む。
的はでかいし何かポージングしているだけだから全弾当たる。ただ、頭は金属製なのだろう、堅い音をして弾かれた。
だけど全身は血塗れと化す。
「ふしゅるるるるるるるるるるるる」
「はっ?」
倒れないっ!
何でっ!
「筋肉がぶ厚すぎて無理、なのでしょうか?」
「いやいやいやっ!」
どんな理屈だ、それっ!
ありえないっ!
グリン・フィスが斬りかかるよりも早くマッチョは小瓶を口元に寄せる。飲み物?
「マッチョエキースっ!」
何か言ってる。
何か言ってるよ、この敵。
一気に飲み干し小瓶を私に向かって投げつける。
はっ?
慌てて跳ねのけようとするけどそんなに器用に行くわけもなく、ただ払いのけようとしたことによって狙いは反れてアーマーに当たっただけ。グリン・フィスが抜刀の姿勢で間を詰める。
瞬間……っ!
「HAHAHAHAHAHAーっ!」
「何と」
バッ。
グリン・フィス、驚きながら飛びのいた。
マッチョな巨人の筋肉が隆起する。
それはまるで<俺は能のない妖怪でしてね、筋肉を操作するしかできないんで>とか言ったりしそうな感じ……何考えてんだ、私はっ!
つまり。
つまりーっ!
「ふしゅるるるるるるるるるるるるる」
筋肉増強とかのレベルじゃないぞ、これ。
でかくなってる。
……。
……何ミュータントなの、これ?
そいつは咆哮。
そしてグリン・フィスを吹っ飛ばして私に向かって来るって、何ぃーっ!
慌ててダッシュ。
超兄貴は私を追撃してくる。
厄日だ。
今日はとても厄日だ。
走りながら弾丸を再装填しようとするものの走りながらで上手くいくわけがない。44マグナムをホルスターに戻し、背負ってたアサルトライフルを手に取る。そして振り向かずに銃を可能な限り
後ろに向けて掃射しつつ逃げる。もっともパワーアップ前にも44マグナムが効かない相手なんだ、こんなのが効くとは思えないが。
実際追って来る音は途絶えない。
近付いてくる。
まずいな。
このままでは捕ま……。
カチ。
ん?
何か踏んだような?
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
緑色の光に包まれ体が回転しながら天井が近くなるのを感じる。そして床に叩きつけられた。
何?
何だっ!
足が妙に痛い。
「足ぃーっ! ……あっ、ある」
ほっと一息。
地雷を踏んだのではないか、という危惧だった。いや地雷は地雷だった、ただ火薬ではなく、おそらくパルス地雷。踏んだのはロボット系をガラクタにする兵器、だと思う。
人体には影響がない。
爆発した衝撃で宙を舞ったようだけど、少なくとも地雷そのものに殺傷能力はない。
これは危なかったのか?
PIPBOYしてたらガラクタになってたところだ。
「ふしゅ、しゅー」
よろけている超兄貴。
あー、そうか。
こいつはやっぱり鼻から上が機械なんだ、まあ、全身も怪しいところだけど、ルックアウトのバルトみたいにおそらく電子脳。バルス系のダメージが来ているのだろう。
銃では殺せない。
ならばっ!
「食らえっ!」
足元にグレネードを叩き込み、私は開けっ放しの部屋に飛び込んだ。
爆発音。
弾丸を再装填して廊下に出てみると、廊下には大きな穴。
超兄貴は見えない。
階下に落ちた、か。
そぉーっと覗いてみるけど姿が見えない。
マジか。
あの爆発で五体満足ってことか?
逃げられたようだ。
「はあ」
今回の私はダメダメでした。
ルックアウトでも無双だったし敵なしと思ってたんだけど、それが甘かった。
それにしても超兄貴もそうだけどMr.オーダリーも謎。
何だったんだろ、あいつらは。
仲間もいるのか?
まあいい。
とりあえずは考えないことだ。
この後私たちは無敵病院を探索、薬品庫を見つけたけど扉は破られた後だった。室内の荒れ方や錆から推測すると破られたのは昨日今日ではなく、たぶん全面核戦争のドサクサだろ。
無敵病院には大した量の医療品はなかった。
ケリィのおっさんのお蔭で助かったし、その大したことない量は彼の取り放題にした。要は彼が戦利品をBOSにそれを売るっていう流れにした、私は別に困らない、BOSはBOSでエンクレイブの
最終決戦に備えて色々な物資をそこら辺から買い取ったり調達したりしている、特に問題ないだろ。
ベルチバードを呼び寄せて私とグリン・フィスは帰還。
ケリィのおっさんは戦利品をその場でBOSに売却して、またなと言い残してどこかに行ってしまった。
さあ。
帰るか。
ミスティたちが撤退した後。
DC残骸の廃墟の建物の中。
「ふぅん。見学してたけどあの赤毛の子って意外に悪運は強いのかなぁ。それにしてもクレーター・ウェイストランドの巨人がこっちに来ているなんて。奇妙な因縁を感じるなぁ。どうしたもんかな」
楽しげに呟く女性。
壁に背を預けて廃墟を歩き去る巨人とロボットを眺めている。
対戦車ライフルを構えるも少し考えてから銃口を上げた。
「やーめた」
赤毛のショートの女性はそう言い残してその場を後にした。