私は天使なんかじゃない
闇の権力者
その者、キャピタル・ウェイストランドの裏社会の支配者。
「そして時は動き出すっ!」
時間が元に戻る。
瞬間、放たれた12発の44マグナムの弾丸がMr.ガッツィーに向かって直撃する。このタイプと喧嘩するの初めてだ。会ったことはある、アンダーワールドのケルベロスとかエンクレイプの軍曹とか。
ハンディ型が家庭用なら、ガッツィー型は軍用。
フォルムは変わらないけど攻撃能力の高さは桁違いだ。
……。
……発揮する暇がなければ意味がないけどさ。
グールが叫ぶ。
悲痛な声だ。
「オートマタMk.2ーっ!」
お気に入りだったのかな?
その大切なロボは爆発四散。いきなりMk.2とか言われても、じゃあMk.1はどしたの?的な反応しかできないわけで。それはストレンジャー発言も同じ。傭兵団っていうのは聞いた、私がいない
間に暴れてた西海岸の傭兵団。それに対しても、だから何としか言えない。
弾丸を素早く装填。
グールに銃を向けた瞬間、私の前にグリン・フィスが割って入って来る。
「……」
「……」
デスとかいう奴が向かってきたからだ。
グリン・フィスの力量を見抜いたからか、2振りの剣を構えたまま一定の距離を保って睨み合う。マシーナリーと呼ばれたグールはその間に背を向けて逃亡。
へたれかよ。
挑んできて開始1分で逃げるとかどんだけだ。
まあいい。
ガンスリンガーとかいう奴が今度は私と遊んでくれるらしい。
2丁拳銃を連射してくる。
何というかトンネルスネークのメンバーですか的な恰好だ。
まさかブッチの手下か?
だとしたら倒すのは気が引ける。
もちろん挑まれたからには倒すけどさ。
「ふう」
弾丸を首を動かして全て回避。
わずかな動作で相手の弾倉の全てを避ける。視界に入る限りは自動発動の能力で全てスローになる。
こいつがどんな銃の名手でもね。
意味なんてないわけだ。
「ぐはぁっ!」
「他愛もない」
その時、グリン・フィスがデスを切り伏せた。
2振りの剣の刃は切断され、デス本人は呻きながらその場に崩れていた。……あー、切ってはないのか。叩きのめしただけらしい。ある意味でグリン・フィスの憂鬱だろう、ショックソードの切れ味
で切り結べる相手がいない。刃が交差した瞬間に相手の得物はおしゃかになるからだ。武器破壊してしまった以上、殺すのが忍びないんだろう。
それにしても死神、ね。
もしかして弱いのか?
死神wwwみたいな感じ?
「お、おいおいおいデスまでっ! 嘘だろっ! 俺たちストレンジャーが、こんな簡単に、わずか数分で……っ!」
「有名どころ?」
「有名かだってっ! 俺らは西海岸最強の傭兵団で、デスは最強の傭兵だっ! それが、まさかこんな……っ!」
「戦前の、ある島国の風潮ってやつね」
「な、何?」
「昨日の強敵は今日は雑魚ってね」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ガンスリンガーは吠える。
そして弾倉交換。
ふぅん。
まだやるのか。
こいつは殺さない。依頼人が誰か気になるし、デスは当分起きないだろうし、こいつに聞かなきゃね。
「死ね、赤毛っ!」
「やれやれ」
飛んでくる弾丸を全て回避。
無駄。
無駄です。
視界に入る限り弾丸は全てスロー。
当たるわけがない。
「そ、そんなっ!」
銃を落とし、こっちに来るなとばかりに両手を前に突き出して後退するガンスリンガー。
「ありえないっ! 俺は射線通りに撃ってるのに何で当たらないっ!」
「射線?」
何言ってんだ、こいつ。
射線、ね。
まさかこいつも能力者か?
「射線通りに撃ったら当たるってどういうこと?」
「射線が見えるんだよ、銃を構えると。その射線に沿うように撃てば必ず当たるんだ、なのになんでお前は当たらないっ!」
「ああ」
やっぱり能力者か。
それにしても私との能力の相性が悪いですね。
例え射線通りに撃とうとも、私は視界に入る限りはスローになるという能力。当たるわけがない。
まあいい。
グレイディッチまで来て疲れてる。
とっとと終わらせてメガトンに帰りたい。
運が良ければゴブが言ってた良い部位のバラモン肉のステーキが夕飯にありつける。売れてなきゃの話だけど。
「あんたらが誰だか知らないけど、誰に頼まれた?」
「……」
「だんまりするならすればいい。そしたらあんたは永遠の休暇ってわけ。デスって奴が目を覚ますまでここにいるのが面倒だからあんたに聞いているだけ。まだ情報源はあるのよ?」
「……こ、殺さないんだな?」
私は肩を竦める。
「私の能力に勝てると思うならいつでも挑んできていいわ」
「……わ、分かった、言う」
「そう? で、誰?」
「ちょっと前まで俺たちと行動を共にしてたジェリコって奴だ。どこにいるかは知らん。その、報酬を前金で全部貰ったから、あんた殺した後で会う予定はないんだ」
「ふぅん」
ジェリコ?
何であいつが私を狙う?
確かにピットでぼこぼこにはしたけど刺客差し向けられるほどの因縁はないんだけどな。よっぽど切れやすい性格なのか?
それにしても生きていた、とはね。
マクレディ市長曰く、ボルト87に通じる殺人通りに捨てたとか言ってたからスーパーミュータントに食われたものかと思ってた。だけど生きていたとなると、リトル・ランプライトの子供たちは運が良い。
刺客差し向けるほど粘着質なら子供たちにも報復するだろう。だけど残念ながらランプライト洞穴はもう空。子供たちはビッグタウンにいる。
さて。
「刺客は何人? あんたらで全部?」
「い、いや、全部で12人送るとか何とか。俺たちも含めてだ。誰だかは知らん。ストレンジャーで雇われたのは俺たちだけだ」
「へぇ」
12人の刺客、ね。
前言撤回。随分と気が長いじゃないの、ジェリコ。これは、あいつ遊んでるな。刺客差し向けたりして遊んでるだけだ。
何が狙いだ?
そこまで因縁深くないんだけどー。
「あのロボは勘定には?」
「入ってない。マシーナリーがあいつの分の報酬も貰えると思ってたから、ぶーぶー言ってたよ」
「そう」
残り9名か。
まあ、まだ誰一人殺してないけどさ。
「グリン・フィス、行こう」
「よろしいので?」
「殺さない約束だし。それにあなただってトドメ刺さなかったでしょう? 気絶したから?」
「いえ、弱かったからです」
「帰ろうか」
「御意」
放置?
まあいいだろ。
報酬は既に全部受け取っているようだし私らわざわざ殺したところでそれ以上の報酬はない、わけで。
問題はマシーナリーの方だ。
この場にいない。
あとあとになってストレンジャーの誇り(そんなもんがあるのかは知らないが)狙って来るかもだけど、もうどうしようもない。居場所が分からないからだ。逃げちゃったし。
私たちはガンスリンガーとデスを放置してその場を後にした。
残り9人の顔ぶれが気になる。
「ん?」
そんなことを考えながら歩いていると何やら3人組が争っているのが目に飛び込んできた。
新たな刺客?
……。
……あー、そうではないのか。
喧嘩かな?
何かの得物の取り合い、見たいな感じだ。
「どうしますか?」
「見物」
趣味が悪いかもだけどね、見物なんて。
だけど道の真ん中で争ってるんだ、避けようがない。向こうはエキサイトしててこちらに気付かない。
スナイパーライフルを担いだ男と、カレッジハンマーを持っている筋肉質の大男、小柄な白衣の男。どことなく雰囲気が似ているから兄弟か何かかな?
「こいつは、俺の得物だっ! ナタリーにプレゼントするんだよ、あいつと一緒になる為になっ!」
「馬鹿野郎っ! 兄貴、何言ってんだ、ナタリーは俺に惚れてるんだよっ!」
「イッチ兄さん、ニール兄さん、もうやめなよっ!」
「おやおやサンポス、自分だけ良い子ちゃんアピールか? せこいな、お前もナタリー狙いなんだろっ!」
「引っ込んどけよっ!」
「……リベットになんか引っ越さなきゃよかった。ホステス取り合ってどうするんだよ……」
何だか複雑な兄弟喧嘩だなー。
こっちにようやく気付いたのか3人の視線が集中する。ニールと呼ばれた大男が失せろと叫んだ。グリン・フィスを止める。止めなきゃきっとこいつを斬るからなー。
まあいい。
兄弟喧嘩なんかに用はない。
私たちはメガトンへの帰路を急いだ。
その頃。
キャピタル・ウェイストランド北西部にあるディカーソン・タバナクル礼拝堂。
かつてはストレンジャーのキャピタル支隊のメンバーで、しばらく前から姿を消しているドリフターという狙撃主が拠点としていた半壊した教会。
ここは辺境。
それにも構わず最近人々が集まりだしている。
人間が大半だがグールもいる。
全員が全員お互いに面識があるわけではなく初対面が多いこの集まりだが、集まっている連中はある一つのことで共通していた。
裏社会で名が売れている面々。
それはジェリコが集めた、ミスティ抹殺の為の12人の刺客。とはいえまだ全員は集まっていない。
「……」
ジェリコは教会の外の壁に背を預けて立っている。
掻き集めた殺し屋や破壊工作のプロフェッショナルたちは教会の中で酒を飲んだりしている。
差し向けたストレンジャーの生き残り3人が既に敗北したことは、放っている密偵からの通信で知ってはいたがジェリコは特に気にしていなかった。
手駒はまだあるからだ。
きききききききっ。
教会の前に一台のバギーが止まる。
そこから降りてきたのは擦り切れたレザージャケットを着た、赤毛を逆立つように固めている粗野な男。腰には無造作に大型拳銃が突っ込んでいる。
「よぉ」
ジェリコが声を掛けると男は片手を挙げて近付いた。
「久し振りだぜ、ジェリコ」
「まったくだ。暴走バギーのガルシア」
「何か面白いことを始めたって?」
「12人の刺客を差し向けるお遊びさ」
「12人? ああ。じゃあ俺に仲介を頼んだのは、その為か。あの兄弟はまだだ。どっかで油売ってやがる」
「いいさ。こっちもまだ1人集まってない。……というか集まれないと言った方がいいのか? あいつがここに来たら全員が逃げちまうからな」
「はあ?」
「まあいいさ。飲もうぜ」
「言っておくが俺は刺客には入ってないよな? 俺は遊びに来ただけだぜ? あくまで、お前さんに頼まれたから兄弟との仲介しているだけさ」
「分かってる。さあ、飲もうぜ」
「それはいいけどね、ちょっと話をしようじゃないのさ」
教会の中から出て来た人物。
女性。
クローバー。
「おやおや何かやご立腹だ。ガルシア、勝手に飲んでてくれ」
「そうさせてもらうぜ」
ガルシアは教会の中に消える。
それを睨みつけていたクローバーはガルシアが消えたと同時に捲くし立てた。
「同盟を組んだんじゃなかったのかい? ええ?」
「そのつもりだが」
「じゃあ何だってサッサとミスティを殺さないっ! ここであいつら掻き集めて飲み会か? ふざけないでよっ! ミスティの首を取る為に全部差し向けなよっ!」
「それじゃあつまらん。ゲームにならない」
「ああ、そうっ!」
「どうするつもりだ? まさか俺を殺してあいつらを仕切るか?」
「そっちはそっちでやればいい、あくまで同盟というスタンスは変わらないけどね、こっちはこっちでやらせてもらうよっ!」
「それは構わんが、どうする?」
「フォーティっていうエロ野郎を使う」
「誰だそりゃ?」
「ユーロジーの右腕だった奴だよ」
「奴隷商人か、まだ生き残ってたんだな」
「ミスティがパラダイス・フォールズに攻撃して来た時はエンクレイブの命令でボルト87の入り口を探してたからね、あいつとあいつの部隊は生き残ってるのさ。ユーロジー曰く、精鋭部隊」
「ふぅん。お前さんに従うのか?」
クローバーはボスであるユーロジー・ジョーンズの愛人。
それ故に仕切ってはいたが現在既にボスは死んでいる。後ろ盾がない以上、従がわないのが普通だろう。
だが……。
「従うね、あいつはユーロジーの遺産の在り処を躍起になって探してる。奴隷売買で得た、大金をね」
「遺産? そんなものが?」
「何言ってんだい。あんたが刺客集める金も、水絡みで策動した金も、Dr.マジソン何とかに出資した金も、全部そこから出てるんだよ? 忘れたの? つまりあんたは逆らえないのさ、スポンサーにはね」
「ああ、そうだった、思い出したよ、女王様」
「そいつを餌に抱き込んで殺させる。文句はないよね?」
「ありませんとも」
「ふん」
そう言い残してクローバーは歩き去り、教会から離れて行った。
昔馴染みを呼び集めるのだろう。
それを黙って見送ってからジェリコは鼻で笑った。
「あばずれが」
正直、クローバーはジェリコにとって金蔓でしかない。もちろんクローバーにとってもジェリコの顔の広さを金で買っているに過ぎない。
どちらも信頼などない。
悪党が手を組んでいるに過ぎない。
「世の中随分とつまらなくなった。だが、これで少しは楽しめそうだ」
呟いて目を閉じる。
ジェリコにとって全てはつまらなかった。
その為の遊び。
刺客もまた遊びに過ぎない。
ジェリコは目を閉じたまま次の構想を練っていた。
「な、何だとっ! デスをぶっ倒しただとっ!」
「うん」
メガトンに帰還。
軽く市長に今回のあらましを告げてから私はゴブ&ノヴァに行き、ゴブが言ってた特製のバラモンの肉で焼いたステーキをカウンター席で平らげている最中。
んまーいっ!
柔らかくてジューシー、バラモンの乳で作ったバターが熱で溶けてこれまた絶品。
最高ですね。
値段は通常価格だと50キャップとお高いんだけどゴブの好意で私は特別価格。半額です。
グリン・フィスは私の隣、ではなく、別のテーブル席で騒ぎながら飲んでる。
アカハナ達とね。
アカハナ達はピットから派遣されている、私の部下……である以前に、アッシャーがキャピタルの現状を考えて派遣してくれた援軍、という意味合いもある。そういう感じなのでBOSにしても
そうだけど、メガトンとしても命令は出来ない。ただ私がメガトンを好いているから彼らも好意で街道の巡回をしてくれてる。
感謝です。
近々別の援軍が来るとかってアカハナが言ってたような。
アッシャーには頭が上がりませんなぁ。
まあ、彼に言わせれば、私はファミリーで、王の腹心だから援軍を送っただけだよって感じらしい。私は何気にピットのNO.2。アッシャーの好意に感謝。
「くそぅっ!」
「ボス、落ち着きなよ」
「あんただって倒したんだ、ボス、別に狼狽する必要はないだろうよ」
何か怒ってるブッチ。
私らがストレンジャーとかいう連中を叩きのめしたのが何やら気に入らないご様子。
それを慰めているレディ・スコルピオンとベンジャミン・モントゴメリー。
よく分からん。
何故に怒るんだ?
まあいい。
「ゴブ、おいしい☆」
「そりゃよかった。ははは。ミスティの喜ぶ顔は俺は大好きだよ」
今日は疲れた。
展開は大して濃厚ではなかったけど行き帰りだけでかなりの距離だ。足が重い、まるで棒になったような感じだ。
あー、やだやだ。
夜の部になって酒場はかなり繁昌している。ノヴァさんとシルバーも客の対応に忙しそうだ。まあ、客の半分以上はアカハナ達ピット組10人とグリン・フィスなので、まあ、ミスティチームが大半なんだけど。
「ゴブ、半休で頼むわっ!」
「はあ?」
ブッチはそう宣言する。
酒場の一同は彼に注目するも、私は意に介さず手下たちに行くぞと叫んだ。
何なんだ?
「どしたのブッチ」
「ストレンジャーはグレイディッチ近くにいるんだなっ!」
「まあ、叩きのめした時は」
「お前らより早く倒してやるっ!」
「何言っちゃってんの?」
「俺があいつらボコボコにしてやんよっ! 特にデスをなっ! あの野郎、見逃してやったのにまた同じことしてやがるし叩きのめさんとなっ!」
ああ。
そういうことか。
タイムアタックしたいわけね、どっちが早く倒せるかって。
そして気にしてるんだ。
見逃したから今回に繋がったと。
別にブッチが責任を感じることはないと思うけどなぁ。
「へっ、相変わらずしけた顔してんな、ブッチ」
「あん?」
来客。
シルバーがいらっしゃいませ、と言いかけて顔を強張らせた。
ブッチに暴言を吐いた人物。
それは……。
「てめぇっ! ワリーっ!」
「何だ死人でも見る顔をしやがって。俺は生きているぜ、悪いけどな。……ミスティ? ふん、ボルトの悪魔もご帰還ってことかい」
ウォーリー・マック。
通商ワリー。
ボルト101の服の上に擦り切れたレザーアーマーを纏い、ソードオフショットガンを腰にぶら下げてる。
私はいなかったけど父親であるアラン・マックとともにボルト至上主義を率いてメガトンの街で暴れたりしてた奴だ。
同級生でもある。
だけど険悪そうだな、ブッチとワリー。
ボルトを出る前まではこいつもトンネルスネークで、ブッチの腰巾着だったような。そういえば帰郷の際には会ってないなぁ。
影が薄かった?
かもね。
「おおっとブッチ、動くなよ、お前には興味ないんだよ。どっちが良い男かを証明しに来ただけさ」
「はあ?」
訳の分からんことを。
だけどワリーは気付いていないらしい。
客の大半、要はミスティチームが私を悪魔呼ばわりしたことに腹を立てていること、そしてブッチの手下2人もいつでも動けるということを。もう少し余計なことを言ったらワリーは月まで吹っ飛ぶ。
素人は無知でいいですなぁ。
私はゴブやノヴァさんに迷惑かけるんじゃないかって冷や冷やだ。
そしてそれはブッチも同じらしい。
自分の部下たちの気質を知っているし、当然騒ぎにはしたくない。
だから……。
「とっとと出てけよ」
ふぅん。
ブッチも大人の対応するものだ。
もちろん私でもそうする。
月まで吹っ飛ばすのは容易いけどその後のことを考えたら面倒臭い。方々に頭を下げるのが面倒ということだ。
「ブッチ、俺はモテるんだぜ?」
こんなチンケな奴が?
何言ってんだこいつ。
パチン。
ワリーは指を鳴らす。
すると下着姿……正確には下着にしか見えない恰好をした女たちが店の中に入って来る。多分下着、果てしなく下着、あんな恰好でよく外を歩けるものだ。
女たちはワリーに纏わりつく。
「俺の女たちだ」
『きゃあワリー様ぁっ!』
何だ、この展開。
女は全部で5人。美形で、スタイルが良い。幾分かグリン・フィスたちの気勢が削がれているような?
男ってやつは……はぁ……。
「お前ら、そこの皮ジャン野郎をどう思う?」
ブッチを指差す。
女たちはブッチをまじまじと品定めする。
さすがに緊張するのか、いいところを見せたいのか、ブッチは背筋を伸ばしてる。レディ・スコルピオンのため息が聞こえたような。
品定めが終わったのだろう、女たちは口々に呟く。
「駄目ね」
「駄目だわ」
「駄目駄目ね」
「せっかくだけどあんた、もっと男らしさって奴を磨いてから私らの前に出るのね」
「そういうわけだから、ごめんねー」
ぷぷーっ!
ブッチ撃沈じゃんっ!
ワリーはにんまりとして踵を返す。女たちに取り囲まれながら。
「じゃあそういうことなんでな、負け犬ブッチ、楽しい夜を過ごしておくれっ! はーっははははははははっ!」
『ワリー様ってばマジで素敵ーっ! じゃね、負け犬さん☆』
……。
……何だったんだ?
「お、おい、ブッチ」
見かねたのかグリン・フィスが珍しくまともに名前を呼んだ。というか呼べるんじゃんか。
「悪い、俺部屋で泣いてくる」
メンタル弱いなー。
まあ、気持ち分からんではないけど。
手下2人は顔を見合わせてため息。これも気持ちが分かる。
「ゴブ、あの女たちは何なの?」
「さ、さあな、この街の連中じゃないけど」
「そういえば聞いたことがあるわ」
そう言ったのはノヴァさん。
知ってるのかな。
「あの女たちを知ってるの?」
「街々を大型トレーラーで回っている女たちがいる、って聞いたことがある。最近の話だけど。一部の男しか相手にしないとか何とか。でも必ずしもキャップ目当てってわけでもないみたいね」
「じゃああいつらは……」
「売春婦みたいなものかしら。確かトレーラーには何かのキャラクターのような女の子の絵が書かれてて、店の名前っていうのかな、ともかく名前が書かれてるのよ」
「何て名前です?」
「サロンド乙姫」
キャピタル辺境。
西から来た者がいる。西海岸から来た女が、いる。
その女は、その赤毛のショートヘアの女は右目を髪で隠している。何か意味があるのか、ただのファッションなのか。
背中には自分の身の丈以上もある大剣、対戦車ライフル。
ボディラインを妙に強調したボディスーツで全身を覆っている。
女は呟いた。
「ふぅん。ここで東海岸、か。どこに逃げてるのかは知らないけど、ちゃんと狩ってあげなきゃね。……強いといいんだけどなー」