私は天使なんかじゃない






称号








  称号。
  ある意味で、認められた者が得られるもの。

  問題は認められたら認められたで面倒な展開に遭遇することがあるということだ。





  メガトン。
  自宅。
  「ふんふーん」
  鼻歌を歌いながらキッチンでサラダを作る。と言っても新鮮な野菜はこの世界にはない……いや、少なくともキャピタル・ウェイストランドにはない……ので缶詰がメインだ。
  ほうれん草を皿に乗せ、コーンを乗せ、ドレッシングをかける。
  これでも料理は得意。
  ……。
  ……ま、まあ、料理ではないな、うん。
  アレンジ。
  そう、これはアレンジだなぁ。
  自宅には私1人。
  パパはもういないし、私が旅行している間にボルト101の至上主義者どもが家に殴り込んだらしくワッズワースが壊された。ワッズワースの修理をモイラがしてくれているけど人格チップがない。
  真っ新なチップはあるみたいだけど。別に人格なくても起動はするけど……無機質のお手伝いロボは怖いものがある。
  グリン・フィスは一緒には住んでいません。
  別に恋人じゃないし。
  それにいつも尽くしてくれるのに家でも尽くしてもらうと正直悪い。彼もそれでは息切れするだろう。
  なので別に住んでいる。
  「ドレッシングっと」
  昨日は強欲な商人相手で付かれた。何というか久々な自宅だ。ルックアウト帰ってから何だかんだで忙しいからなぁ。
  もちろん、それが仕方ないのは分かる。
  エンクレイブ再来は時間の問題だ。
  既に北部に入ってる。もっとも何かしてこないのは北部で何か企んでいるのか、まあ、企んでいるのもあるんだろうけど、南進してこないのは北部にレッドアーミーがいるからだ。
  レッドアーミー、体を斑に赤く染めているスーパーミュータントの一団。
  仕切っているのはジェネラル種。
  ジェネラル、ではない、複数形だ。かつては教授が遠隔で捜査していた赤い個体。教授亡き後は複数のジェネラルがそこらで暴れている、手下を率いてね。
  どうもレッドアーミーの拠点は北部にあるらしい。
  まあ、潰し合えばいいさ。
  敵の敵は味方ではない、純粋にそいつらも敵なのだから。
  気になるのはDr.アンナ・ホルトかな。
  私がルックアウトにいない間にグール化しつつも行動してるらしい。タロン社残党部隊とレットーアーミーを傘下に入れ、シークレットボルトから大量のFEVを手に入れた、らしい。
  「よし、出来た」
  料理関係。
  あとはゴブが作った手作りパンと一緒に食べるだけ。
  モーニングセット完成。
  コーヒーもお好みでどぞー。
  何気にゴブって器用だな、パンって単語は知ってたけど見たのはルックアウトから帰って来てからが初めてだ。食べたのもね。
  「食べようかな」

  コンコン。

  「……」
  家の扉がノックされる。
  一瞬硬直。
  何故に?
  いや、まあ、何というか経験談で言いますと……これは面倒な展開という感じがする。
  無視する?
  無視スルー?

  コンコン。

  無視したところで厄介ごとが地の果てまで追い掛けてきそうな気がする。その挙句に別の厄介にも遭遇する気がする。
  だったら最初から関わった方がいい。
  もっともこの厄介をこなしたところで、前述の別の厄介とやらにもいずれは遭遇するんですけどねー。
  ……。
  ……ま、まあ、ダブルで来るよりはマシか。
  ここで1つ片付けるのはさ。
  ポジティブに行こう。
  は、はははー。

  コンコン。

  「はいはい」
  とりあえずパンを一口頬張る、おいしい。コーヒーの入ったカップを片手に立ち上がる。
  コーヒーを啜る。
  苦いな。
  砂糖をもう少し入れなくては。
  贅沢品だけどそれなりに蓄えはある。モリアティの情報料に悪戦苦闘していた頃の私ではない。そもそもあれ以降キャップを使う暇がなかったから、かなり貯まってる。
  甘い物が私は大好き。これぐらい贅沢しても罰は当たらないだろう。
  それだけ働いているわけだし。

  ガチャ。

  「誰?」
  扉を開く。
  子供だ。
  「お姉さん、どうも」
  「おはよう」
  ハーデンだ。
  ルーカス・シムズの息子で、マギーの友達。
  「どうしたの?」
  「パパが呼んでいるよ、家に来て欲しいって」
  「ふぅん」
  ちょっと待っててと言って私は部屋に戻り、棚を漁る。甘い物大好き繋がりの代物。モイラに頼んでゲットした代物。わりと高かった。まあ、贅沢品だもんね、この時代では。それを持って戻る。
  ピンク色の、小さな球体を手渡した。
  「何これ?」
  「飴玉。確か苺味」
  「すげぇっ! 飴玉か、本で読んだことがある。こんなの本当にあるんだっ!」
  「お駄賃ね」
  「ありがとうお姉さん。あっ、パパのところまで案内する?」
  「大丈夫、分かるし」
  「そうだよね。マギーのところにこのまま遊びに行くよ」
  「あー、じゃあ」
  また部屋に戻って飴玉を持ってくる。
  今度は紫色。
  「多分ぶどう味。マギーにもあげて」
  「うんお姉さんありがとう」
  「気を付けてね」
  バイバイと手を振る。
  さてさて。
  ほんわかタイムはお終いだ。
  ルーカス・シムズ宅、ね。
  メガトン市長としてのお仕事か、レギュレーターとしてのお仕事か、まあ、どっちかの仕事を斡旋されそうだ。
  コーヒーを一口飲む。
  うん。
  苦い。
  軽く食べたら行くとしよう。
  グリン・フィスは多分酒場にいるだろうけどとりあえずは話を聞くぐらいだから別に手間かけさせるまでもないだろう。
  私1人でもいいかな。
  さて。
  「食べようかなぁ」
  扉を閉めて食卓に向かう。
  モーニングを優雅に平らげるしよう。



  30分後。
  私はルーカス・シムズの家の椅子に腰かけてる。
  食事?
  終了です。
  ゆったりと食べたかったんだけど、まあ、仕方ない。
  出掛けるときは一応完全武装を心掛けてる。なのでコンバットアーマー、44マグナム。さすがにアサルトライフルはいらんと思ってしてないけど。あー、じゃあ完全武装ではないのか。
  まあいい。
  テーブルを囲んで相対している。
  当然私の前にはルーカス・シムズ、そしてその背後に立つ形でアッシュとモニカがそれぞれスーツケースを持っている。この間リベットで会ったレギュレーター隊員だ。
  あー。
  銃の話かな?
  「新しい銃くれるって話?」
  「ぶふぉーっ!」
  噴き出すアッシュ。
  何だ?
  何なんだ?
  この間もこんな感じだった。
  意味分からん。
  ルーカス・シムズが振り返ってアッシュを睨む。アッシュは黙った。よしよし、もっと睨んでやれーっ!
  「来てくれて感謝する、ミスティ」
  「いいわ、別に」
  さてさてどんな厄介だ?
  今日はどこの誰を助けるんだ?
  「仕事?」
  どうも銃の話ではなさそうだ。
  ああ。
  マダムの話か。
  キャピタルのレイダーどもに対してどの程度の影響力があるのかは知らないけど、レイダー前哨基地の親玉だった奴だ。
  「モニカ、アッシュ」
  そう言うと2人はスーツケースをテーブルに置いた。
  市長は続ける。
  「10000キャップ用意した。これを持ってグレイディッチ近郊にある前哨基地に向かってくれ。グールたちがそこにいる」
  「10000キャップ?」
  何の話だ?
  誘拐事件でもあったのか?
  身代金の受け渡し的な感じなのか?
  「どういうこと?」
  「どういうこと、と俺に聞かれてもな」
  「はっ?」
  ソノラにわざわざ私が確認取れってことか?
  よく分からん。
  何だ、その手間。
  市長の後ろでモニカって人が囁く。
  「もしかして概要聞いていないのでは?」
  「マジか。だとしたらBOSも手を抜いたものだ。アッシュ、通信機を持ってきてくれ」
  「了解」
  BOS?
  通信機?
  つまりこれはBOSの仕事ってことか。あー、そうか、うちは通信機ないからな、それでルーカス・シムズに仲介を頼んで、私に仕事を回す気なのか。
  テーブルの上に通信機が運ばれてくる。
  まずは聞こう。
  「市長、どういうこと?」
  「何も知らないとは思わなかった。そっちはそっちで聞いているものとばかり」
  「何も聞いてない」
  「みたいだな。概要はこうだ。グレイディッチ付近のビルの中にいるグール達がBOSに取引を持ち掛けてきた。赤いスーパーミュータントを買わないかと」
  「赤い、ジェネラル種」
  「そうだ。何故売れると思ったのかは知らん。ただ、BOSはそれを買い取ろうとしている。問題はエンクレイブ絡みで動かせる部隊がいない。それだけではなく交渉に行く暇もない。なのでお前に話が
  回ってきたわけだ。10000キャップもこちらがとりあえずは肩代わりしてある。後でBOSから取り立てるがな」
  「話が見えてこない。何故、私なの?」
  「身元不明の取引相手を素直に信じれるか?」
  「ああ」
  なるほど。
  露払いってことか。
  身元を調べて来いってことか。大勢で行くと相手を警戒させる。だから単独で動けて、強い奴が良いってわけだ。
  それが私?
  全幅の信頼ありがとう、とは言えんな。
  めんどい。
  「私が行って、買って、運ぶの? そもそもペイントしただけのミュータントかもしれないし私じゃ見分けが付かないわよ」
  「俺に言われても知らん」
  「だよね」
  「ただ、向こうの話じゃ運ぶのと確認するのはライリー・レンジャーって傭兵団がするらしい」
  「ライリー・レンジャー?」
  別にミュータントの専門家ってわけじゃあるまい。
  何故に?
  「どうしてライリーたちなの?」
  「俺に言われても知らん」
  「だよね」
  「そのあたりは通信機で確認してくれ。えっと、周波数はこれで……よし、後は話してくれればいい」
  「うん」
  通信機のスイッチを入れる。
  交信開始。
  「あのー」
  <要塞>
  「ああ、繋がったのね。私はミスティ、確認したいことが……」
  <識別番号を>
  「識別番号?」
  何だそりゃ。
  知らん。
  「すまんミスティ、忘れてた。最初の交信の時に何か番号を言われたな。お前さんの番号だとよ。……説明不足なのはBOSの所為だが、俺も読解力がなかったな。パスワードの言伝頼まれる
  時点でお前は何も知らんというわけだ。まあいい。ほら、お前さん宛のパスワードだ」
  「私の?」
  紙切れを貰う。
  数字が書かれてる。2035986。これを言えばいいのかな?
  「2035986」
  <照合中。……照合完了。お待たせしましたスター・パラディンのミスティさん>
  「スター・パラディン?」
  何だそりゃ。
  幾分か向こうの声には敬意がある。
  この間のBOS隊員は、私はパラディン待遇とか言ってた。だけどスター・パラディンって何だ?
  聞いたことはある。
  ……。
  ……あー、クロスさんか。
  あの人の階級はスター・パラディンだったな。
  私的なイメージでは、イニシエイトが訓練兵、スクライブが研究者、ナイトが一般兵、パラディンは上級兵&小隊長、センチネルが司令官、エルダーが最高司令官って感じ。
  スターが付いているパラディンだから、パラディンよりも上?
  大隊長的な感じなのか?
  聞いてみるとしよう。
  「あの」
  <何か?>
  「スター・パラディンって偉いの?」
  <もちろんです。エルダーに次ぐ階級です。エルダーの命令なくとも動ける身分です、センチネルはそうではありませんので、NO.2ですね。ただ軍の指揮権はありません。平時はエルダーの
  身辺警護ですが特命で単独の任務を与えられることもあります。指揮権はありませんが支援要請等をする権限はあります>
  「……ふぅん」
  名誉職みたいなもんか。
  階級というよりは称号って感じかな。
  要は私が十分な働きをしているからご褒美に称号を与えとこうみたいな感じですね。
  名誉職とはいえ支援要請の権限はありがたい。
  貰えるものは貰っとこう。
  ルーカス・シムズが小声で出世おめでとうと言ったが表情は微妙そうだ。意味は分かる。体よく使われてるというイメージは確かにある。
  まあいいさ。
  一応はBOSの中でも上位の身分だし、あるとないとでは意味が違う。
  「エルダー・リオンズに取り次ぎをお願い」
  <了解しました。すぐに取り次ぎます>
  「分かった」
  すぐに、と言ったら本当にすぐだった。
  30秒後にはエルダーに繋がる。
  早いな。
  通信係の隣にエルダーがいたんじゃないかってぐらいに早い。
  <おお、ティリアス、どうしたのかな?>
  「依頼があるとか? いや、任務? というか私はいつの間にBOSに?」
  <BOSとして認識してもいいし別にしなくてもいい。いずれにしてもティリアスはこれである程度はBOSにも命令できる。多少は楽になるはずだ>
  「楽にねぇ」
  何気にBOS認定されて厄介を押し付けられそうな気がしないではない。
  だけどそれは言わない。
  「それで何をすれば? 概要は聞きましたけど」
  <まず元気そうで何よりだ。プンガフルーツは美味かった。ただ、サラが歳を考えろとうるさくてな。甘い物を控えろと>
  「あはは」
  エルダー・リオンズ。
  私の出産には立ち合わなかったものの、赤ん坊の私を抱っこしたりしてくれたらしい。その後パパがボルト101に去る時にクロスさんを護衛に付けてくれた、ようだ。
  私に対して祖父みたいな感じで接してくれる。
  嫌いではない。
  ある意味で私を昔から知る、数少ない人だ。
  <報酬はもちろん払う。数人のメンバーをそちらで選出してくれ。多過ぎたら向こうに警戒されるから少なめにな。1人に付き2000支払おう>
  「2000」
  結構な大金なのかな?
  よく分からん。
  物価はあってないようなものだ。街によっても違うし。ただ、モリアティにせびられてた頃は500稼ぐのにも一苦労だったから、まあ、大金なのだろう。
  特に不満はない。
  だけど……。
  「2000だけでいいわ。仲間の分だけ欲しい」
  私はこう言った。
  グリン・フィス連れてくだけだし、私はそれなりに蓄えあるし。
  ガメツクする、というのも確かに必要だ。
  だけど時に清貧ですとアピールするのも交渉においては大切。
  今のところBOSとのパイプは良好、エルダー・リオンズとサラの関係も問題ない。だったらもう少し強固にしておくべきだろう。
  ある程度の打算+本当にそんなにお金は必要ない、のコラボです。
  無償でもいいんだけど、それだと今度は相手が恐縮し過ぎるだろうし、グリン・フィスにはグリン・フィスの生活費が必要だからね、2000は貰っておくとしよう。
  <本当にそれでいいのか?>
  「ええ」
  ビンゴ。
  相手の声には感心した、というような響きがある。
  まあ、計算付くでもあり、本音でもある。
  報酬固辞は。
  だけど……。
  「その代り条件が」
  <何だね?>
  「今回メガトンが交渉のお金を肩代わりしてくれたから、そうね、何かお返しして欲しいかな」
  市長を見ながら言う。
  それで私が何を言いたいのかが分かったのか、市長は通信相手に言った。
  「可能でしたら防衛用の武器を融通して欲しいのですが。レイダーの行動が活性化してますしエンクレイブの絡みもある。なので監視台から攻撃できる、良い武器が欲しいのですが」
  <ミニガンの類をそちらに回すように命令しておく。近日中には届くはずだ。メガトンの協力には、感謝する>
  ふぅん。
  メガトン防衛用の武器が欲しかったわけか。
  なるほどなるほど。
  提案が了承されたこと、提案し易いように打診した私に対してルーカス・シムズは頭を下げた。
  「ありがたい、ミスティ」
  「私の街でもあるし当然のことよ。さてエルダー、お仕事の話」
  <ある程度の話は?>
  「ミュータントの買い取りの話」
  <そうだ。ジェネラル種は是非に欲しい。ティリアスの報告書の中で、DC残骸で一番最初に能力が消され、頭痛した相手だとあった>
  「ええ。それが?」
  <能力者同士が相殺されることは既に分かっている。そこでこう考えた。ジェネラル種も何らかの能力を使っていたのではないかと>
  「ジェネラルが能力者?」
  <ああ>
  それは、おかしい。
  少なくとも作り主であったカルバート教授はそのようなことは言っていなかった。
  教授は、能力者に対して君のような能力者に興味を持ったから作った、とは言っていた。だけどそれは人間タイプの被験者たちだ。ボルト87にいた連中に対してのことだ。ジェネラルが能力者なら、
  私がDC残骸で能力を使って見せたことに興味を抱き、能力者を量産した、という流れはおかしい。何でジェネラルという能力者の存在を無視した?
  ……。
  ……まさか、知らなかったのか?
  ジェネラルが能力を行使していたことを。
  ふぅん。
  なかなか興味深いな。
  「解剖でもするの?」
  <より純粋に言えば解析する>
  同じ気がする。
  「グールは何故売りたがっているの? どうしてBOSなら買い取ると?」
  <それは分からんが、交渉を君に頼みたい。頼めるだろうか?>
  「仰せのままにエルダー・リオンズ閣下」
  <ははは。ティリアスの協力には感謝する。では、またな>
  「ええ。通信終了」
  ふぅ。
  とりあえずはこれでよしっと。
  特に大事にはならないだろう、というかなってもらっても困る。
  「大変だな、ミスティ」
  「いつものことだから。それよりマダムはどうなったの?」
  「現在逃亡中だ」
  「大体の足取りは?」
  「レイダーの大拠点がいくつかある。ウィートン武器店とかベセスダとかな。その辺りを潰せば見つかるかもしれない。ミスティ待ちで話を進めていいか?」
  「……出来たらそっちで片付けて」
  「ははは。分かった。BOSの仕事、頑張ってな」
  「まっ、疲れない程度にね」
  市長の家を辞去して私は足をゴブ&ノヴァに向ける。
  ここにグリン・フィスはいるはずだ。
  店に入る。
  「いらっしゃい、おお、ミスティか、何か飲んでいくかい? それとも食事にするかい? バラモンの肉の良い部位が手に入ったんだ。ステーキにでもどうだい?」
  ゴブからの嬉しい提案だ。
  だけどお仕事。
  「ごめん、今から仕事なんだ。それに食べて来たし」
  「そうか、残念だ」
  「私も」
  客はまばらだ。
  カウンター席ではグリン・フィスが飲んでいる。私に気付いて立ち上がり、会釈。相変わらず律儀ですね。
  その隣には……ケリィのおっさん?
  酔い潰れて寝ているようだけど。
  「よお優等生」
  「ブッチ」
  用心棒のブッチ・デロリアが壁に背を預けて立って客を威圧している。と言っても客はカウンターの2人だけなんだけど。
  丁度暇な時間らしい。
  ノヴァさんもいないしシルバーもいない。
  ああ、ブッチの手下のレディ・スコルピオンがいる。ブッチの手下であり暇なときはここで接客している。
  「いらっしゃいませ☆ニヘラァー」
  「ど、どうも」
  謎な人だ。
  「優等生、ノヴァさんは買い出しに行っているし、ベンジーはシルバーとどっかにデートだ。客もまばらだ。で俺様は暇してる。仕事だって? 俺もかませてもらえるか? この間の旅で金欠でよ」
  「来たきゃ来てもいいけどただ働きよ?」
  報酬はグリン・フィスの分だけだし。
  「マジかよ」
  「大体あんたが抜けたら用心棒どうするのよ」
  前はそもそもいなかったけど。
  特に必要でもないけど、いたらいたで便利だし、前より繁昌しているから保険として用本棒が必要だってルックアウトから帰ってきた時にノヴァさんが言ってたな。
  「俺がいなくてもレディ・スコルピオンがいるからな」
  「ふぅん」
  強いらしい。
  確かに時折眼光が鋭い。聞いた話では軍曹も強いらしい。
  何だってブッチの手下なんだろ、謎だ。
  「控えろローチ・デロリア、主は自分と二人きりがいいのだっ!」
  「ローチって何だラッド・ローチってかマジでぶっ殺すぞてめぇっ!」
  わー。
  グリン・フィスとブッチって仲がいいなー(棒読)
  「そうだ、ブッチ、聞きたいことがあるんだけど」
  「あん?」
  「アンソニーって知ってる?」
  「アンソニー? ……ああ、グールズか」
  「グールズ?」
  「窃盗団だよ。そこにいたらしい。何でもお前さんに世話になったとか何とか。知り合いなのかい?」
  「助けられたようなことは言ってたけど、覚えてない」
  「ふぅん。この間も来たぜ、ここに。お前さんの話を聞きたがってたな。特に悪い奴ではないと思うぜ。ゴブと料理の話で盛り上がってたし。ファンなのかい? 大変だな、英雄さんもよ」
  「ファンねぇ」
  何なんだ、あいつ。
  よく分からん。
  まあいい。
  「グリン・フィス、仕事よ。大丈夫? 行ける?」
  「問題ありません」
  「じゃあ一時間後に出発ね。メガトンの門で会いましょう」
  「御意」



  5時間後。
  グレイディッチ南南西にあるビルに到着。
  そこが交渉の場所。
  ……。
  ……そういえば初めて来たな、ここ。
  グレイディッチの話そのものは前から出てた、蟻が溢れているとか何とか。私に討伐の話が来たけど偽中国兵事件が起き、レギュレーターが処理するはずがエンクレイブ襲来でお流れ。
  そして蟻事件はトンネルスネークが解決、か。
  ふぅん。
  もしかしてブッチたちってすでに有力なチームなんじゃ?
  そう考えると、凄いな。
  「それじゃ頼んだよ」
  「了解」
  言ったのはライリー・レンジャーの1人で、確かドノバンとかいう奴。前に一度会った。傭兵たちは、と言っても人間は2人。カーゴトラックでここまで来たようだ。傭兵2には周辺の安全を確認、さらには
  トラックの安全を確保する為に外にお残り。ビルは半ば崩れていて、3階の部分は中が見える。そこからグールのスナイパーが時折こっちを見ていた。
  私ら用?
  うーん。
  それもあるかもだけど、ビルの周りにはスーパーミュータントの死体がいくつか転がっている。
  その対策なのかな。
  まあ、私らの騙し討ちも想定しているんだろうけど。
  「行こう」
  「御意」
  「分かった、行こう」
  何だか知らないけどフォークスもいる。ボルト87で会った、知的で親切なスーパーミュータントだ。
  取引相手を警戒させないためにだろう、武器を持っていない。代わりに10000キャップ入りのケースを2つ持っている。パワフルなスーパーミュータントだから軽々と持ってる。
  ビルに入る。
  「よく来たな。BOSの使いだな」
  「ええ」
  グールだ。
  ビルに入るとレザーアーマーを着たグールがいた。手にはショットガン。
  「2階にウィントがいる、俺らのリーダーだ。そいつと交渉してくれ」
  「分かった」
  「良い取引を」
  「ええ。そうね」
  騙し討ちは……来ないのかな?
  最近展開がハードすぎるからどうしても疑ってしまう。だけどもしかしたら本当に取引がしたいだけなのかもしれない。
  階段を見つけ、上る。
  「それにしてもフォークスがライリー・レンジャーとはね。私がいない間に何があったんだろ。あはは」
  思わず笑う。
  人生って不思議が一杯だ。
  「ライリーと飲み友達になってね、その縁だよ」
  「へー」
  これでBOSがライリー・レンジャーに依頼した理由が分かった気がする。
  フォークスならジェネラル種なのかの判別が出来ると踏んだからだろう。もしかしたらその話をどっかから聞いたライリー側からの売り込みなのかもしれない。
  「そういえばミスティは副隊長なんだってな」
  「ええ。偉いわよ? 職権乱用しちゃうわよ?」
  「ははは。お手柔らかにな」
  「こちらこそ」
  「主、お話の邪魔をして申し訳ありませんが……どういう方針で、取引をしますか?」
  「相手の出方次第かな。当然警戒はするけど、それ以上はいい。万が一の時は私ら全員即座に動けるから、まあ、問題ないでしょ」
  「御意」
  階段を上って2階に到達。
  小さな檻に鎖でぐるぐる巻きに折り畳まれた赤いスーパーミュータントがいる。口は塞がれてなく口汚く何か叫んでいる。
  その周りにはグールが3人。
  ゴーグルを付けているグールがここのリーダーだろう、白いジャンプスーツを着ている。
  別の1人は私らを警戒し、もう1人はジェネラル種に銃を向けている。
  「そこで止まってくれ」
  「ええ」
  5メートルほどの距離で止まる。
  「フォークス」
  「ああ。分かってる」
  ケースを下に置き、それを床を滑らせて向こう側に2つ渡す。
  相手はキョトンとしている。
  「確認して」
  「……わりと豪胆だな、何というか、全面的にこっちを信じていいのかよ?」
  「取引相手を信用しなくてどうするの?」
  「……」
  「だけど確認はこちらもしたいからね、信用とか抜きにしても、それは当然でしょう? フォークス、確認して」
  「分かった」
  歩き出すフォークスに対してグールの2人は警戒するものの、ゴーグルのグールは首を横に振った。
  すると2人は後ろに下がる。
  「あなたがウィント? 下でその名前を聞いたけど」
  「ああ。ウィントだ。今回の取引は実に良い取引だ」
  部下にケースを開けさせ、キャップが詰まっているのを見てウィントは嬉しそうに口笛を吹いた。
  「数える?」
  「いやいや、10000ぐらいはあるだろ、見た感じでもさ。そっちは俺らを信じて紳士的だし、俺らもそれに習うとするよ。良い取引だった」

  「この裏切り者がーっ! こいつらを殺せーっ!」

  ジェネラルが叫ぶ。
  裏切り者発言は、まあいい。だけどこいつらを殺せ?
  ……。
  ……んー、試してみるか。
  能力発動。
  全てがスローに……くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
  「くっ」
  「主?」
  「あんた大丈夫か? ここに取り引きに来るまでに疲れちまったのかよ? 遠出させちまったなら、すまなかったな」
  頭痛がする。
  やっぱりだ。
  ジェネラルは何か能力を使ってる。
  フォークスを操ろうとしているのか?
  だけど別にそんな風はなさそうだけど……うーん……。
  「ミスティ、こいつはジェネラル種で間違いない」
  「ありがとうフォークス」
  取引終了。
  「良い取引だったわ。引き取ってもいいのよね?」
  「ああ構わんよ。ところであんたミスティって……まさか赤毛の冒険者か? ははは、だとしたら、騙し討ちなんかしてたら危なかったな」
  「そのつもりが?」
  「別にないけどよ、BOSがどこまで信用できるのかってのはあったさ。最近は善人みたいなことしてるけど、あいつらあれはあれで悪党だろ?」
  「まあね」
  前身は悪党と呼んでも間違いではない。
  今は?
  まあ、味方かな。
  善人ではなく味方と思うところがミソですね。……まあ、善人では、ないな。だけど、少なくともキャピタルの味方である以上は、特に問題はあるまいよ。
  「ところでウィント、どうして売ろうとしたわけ?」
  「俺らここらで暮らしているんだがミュータントどもが押し寄せてきてな。斑に赤く塗ったレッドアーミーって言うの? そいつらはグールでも攻撃してくるんだ、蹴散らしている最中に真っ赤なのを
  捕獲したんだ。こいつは俺らも初めて見るタイプだし、珍しいしBOSなら買うかなって。特に他意はないよ。何となくだ。だがお蔭で軍資金が手に入った」
  「軍資金?」
  「北部で街を立ち上げようと思うんだ。その軍資金さ」
  「ふぅん」
  「俺らはここを引き払うよ。あれはあんたらが好きにしてくれ。じゃあな」
  「旅の無事を祈ってるわ」
  「ありがとうよ」
  ミッション終了、かな。



  「じゃあ、またな。たまにはライリーが顔を見せろって言ってたよ、副隊長殿」
  「ええ」
  ドノバンはそう言い残してトラックを発進させた。
  排ガスの臭いが残る。
  そして私らもここに残される。
  ライリー・レンジャーの3人はこのままジェネラル種を連れて要塞に向かうらしい。私らはメガトンに帰るから行先が違う。それに後部にはジェネラルとフォークスが乗るから私らのスペースはないし、
  どっちにしても乗るスペースはないから歩きってわけだ。例え行き先が同じだとしてもね。
  それにしても珍しい。
  話し合いで全部終わった。
  ウィントたちグールもここを引き上げたので随分と静かだ。

  ……バァーン……。

  「銃声?」
  遠くから銃声がする。
  グレイディッチの街からだ。
  誰かが何かしているのかな?
  まあいいさ。
  別に関係あるまい。
  「主」
  「ん?」
  「敵です」
  「心得ているわ」
  やれやれ。
  こちらに向かってゆっくりと歩いてくる一団がいる。一団、3人と1機。組み合わせは人間2人、グール1人、Mr.ガッツィー型のロボットが1機。
  ウィントの手下?
  関係ないだろ、あいつは。
  攻撃して全部巻き上げるなら遅過ぎるし、向こうはキャップを手に入れている、わざわざ今更攻撃させる必要もない。私ら殺したところでジェネラルを奪還できるだけだし、意味はないだろ。
  となるとこいつらは誰だ?
  「ミスティさんだね?」
  「ええ」
  わざわざ自信満々で訪ねてくるんだ、違うと言ったところでリアクションが変わるだけで展開は変わらない。
  なら嘘をつくまでもあるまい。
  言ったのは人間……なのかな、顔が見えないから分からない。だけどこの防具は知ってる。
  中華製ステルスアーマーたーだ。
  偽中国軍のクリムゾンドラグーン部隊が装備していたステルス迷彩の防具。
  腰には2振りの剣。
  「僕の名はデス。死神さ」
  「ふぅん」
  中二病か?
  「そっちがガンスリンガー、マシーナリー、そこの機体がオートマタMk.2」
  「ふぅん」
  金髪リーゼントの、皮ジャン2丁拳銃はガンスリンガー、ジャンプスーツでアサルトライフル持ちグールがマシーナリー、Mr.ガッツィー型がオートマタMk.2、ね。
  そう言われてもリアクションのしようがない。
  何なんだ、こいつら?

  「悪いんだけど僕たちは依頼されたのさ、赤毛の冒険者を殺すようにね」
  「それはそれはご苦労様」
  「さあ、僕たちストレンジャーに狙われたこと、そして死神の裁きを受けなければならない自分の身を呪うがいいっ!」
  「呪えるように善処しまーす」
  そして……。