私は天使なんかじゃない
キャピタル独立戦争紀
彼ら彼女らは知らず知らずの内にこの土地を愛していた。
だから。
だからこそ命を懸ける。
独立の始まり。
ポイントルックアウトから帰還後。
3日が経った。
「それで、現在テンペニータワーはどうなってんの?」
私はキャピタルのだだっ広い荒野を歩きながらキャラバン隊を率いている……隊、と言ってもに荷物積んだバラモン一頭とアサルトライフル持ちの護衛2人、商人1人の構成だけど。
少ない?
いや。
この世界、どんなアホでもキャラバンは狙わない。
少なくともレイダーあたりはスルーする。
何故?
キャラバンが途絶えれば街が寂れる、物流が止まる、旅人が減る、つまりはレイダーもヒャッハー出来なくなる。
その為狙わない。
まあ、だからと言ってレイダーに配慮があるとは言わないし思慮があるも言わない、というかない、ナッシング、皆無です。
「スマイリング・ジャックって奴が取り仕切っている」
「スマイリング・ジャック?」
私は聞き返す。
荒野を歩くのは私、グリン・フィス、そしてキャラバン隊のクレイジー・ウルフギャングとその護衛。
別に一緒に旅しているわけではない。
たまたま会って同道しているだけだ。
途中までね。
私らの目的地は話題のテンペニータワーの近くにある。タワーには寄せんけど、まあ、仕事が終わったら寄るかも。休息にね。背負っているナップサックには食料や弾丸の他に無線機がある。
結構重いから疲れる。
早く休みたい。
グリン・フィスが持ちますと言ってたけど、今もたまに言うけど、グリン・フィスの強みは敏捷性だ。万が一の際に重い物持ってて動きが鈍るとやばい。
「主、いつでも持ちます」
「ありがとう。帰りにタワーで休憩しましょう」
「ラブホ的な意味での休憩で?」
「死ね」
「ユ、ユーモアです」
「どうだか」
タワーに行ったことはない。
ただ、故ロイ・フィリップス率いる反ヒューマン同盟が狙ってた、金持ちの街、クリスティーナ隊が襲撃して支配下に置いてた、冒険野郎が前に住んでた、程度の認識。
……。
……ああ、補足。
エンクレイブが撤退後、空き家になったタワーに反ヒューマン同盟の残党が住んでたらしい。
まあ、私がいない間に水絡みのごたごたで追い払われたみたいだけど。
BOSを偽装してたタワーの元住人にだっけ?
よく分からん。
私いなかったし。
それでもまだ全滅してなくて相変わらずアタックしているとか何とか。
まあ、そこはどうでもいい。
ウルフギャングとの会話に戻る。
「誰それ?」
ウルフギャングの声に不満そうな感じがあったから気になる。
評判の悪い奴なのかな?
スマイリング・ジャックって。
「カンタベリー・コモンズでキャラバンやってた奴だよ、前にな」
「前に」
今は違うようだ。
グリン・フィスが私の横を通り過ぎて柄に手を掛けて止まる。私もキャラバン隊も止まる、護衛はアサルトライフルを構えて警戒態勢。
何かいるのか?
荒野はだだっ広い。遠目にタワーが見えている。
あー、あれか。
ヤオ・グアイだ。
50メートル先に1頭、さらに離れて数頭いる。遠いから数がよく分からんけど5頭ぐらいかな。
こちらに気付いているようだが特に反応しない。
1頭は斥候か、あれ。
害意があるか探っているのかな。
こちらに対しての攻撃の意思はなさそうだ、つまり今は特にお腹が空いていないということだ。
「主、どうしますか?」
「スルーする。ウルフギャングはどう?」
「むやみに手を出すのは好みじゃない。幸い迂回しても問題ないし無視しよう。……次に通った時に襲われたに笑えるけどな」
「あはは」
動物は大切にしましょうってわけじゃない。
むやみに殺すのが嫌いなだけだ。
誰か襲われるかも?
まあ、否定はしない。
だけど空腹の人が狩る分を私らが駆逐するのもどうかと思う。もちろん空腹のヤオ・グアイが人を狩ることもあるだろうけど。別に肉が欲しいわけじゃないし、スルーしよう。
あくまで私らは仕事だし。
目的は狩りじゃない。
大きくヤオ・グアイの群れを迂回しながら私らは歩き始める。
「でウルフギャング、話を戻すけど」
「何だっけな」
「スマイリング・ジャック」
「ああ、その話だったか。どこまでは話した……ああ、カンタベリーのキャラバン隊だった、まで言ったか。つまり元商売仲間ってわけだ。俺たちキャラバン隊は特定の勢力限定の取引相手は
基本的に持たない。キャピタルを旅して売り歩くんだが、あいつはそれが効率悪いとか言って飛び出していったんだ。まあ、悪いことじゃないけどな」
「でも嫌いそうなんだけど?」
「あいつはなレイダーと取引してた奴なのさ」
「レイダーと?」
「エバーグリーン・ミルズって知ってるか?」
「ええ」
レイダー連合の本拠地。
エンクレイブに吹き飛ばされたみたいだけど。
あいつらとも因縁あったなぁ。
虐殺将軍エリニースとかは、まあ、いい。問題はデリンジャー・のジョンを殺し屋として差し向けたことは非常に迷惑でした。
「そりゃ知ってるよな、ははは」
ウルフギャングは笑う。
笑いどころあったか?
なかったような。
「何が楽しいの?」
「キャピタルに出て来たばっかのミスティと会った時は、こりゃ先行き危うくねぇか?と思ったもんさ。だが今じゃ赤毛の冒険者様だもんな。レイダー連合の拠点名ぐらい知ってるよな。感慨深いよ」
「そういうもん?」
「そういうもんさ」
「あの時はお世話になりました、ウルフギャング様」
「ははは、第一村人が俺でよかったろ? これでもキャピタルじゃ紳士な部類だしな?」
「否定はしないでおく。お世話になったし」
「ははは」
「それで、そいつはレイダーなの?」
「いや。客分待遇でエバーグリーン・ミルズにいたようだがレイダーではない。キャップに目がないだけで戦闘タイプじゃないからな。どういう経緯か知らんが今じゃテンペニータワーにいる」
「ふぅん」
ピピ。
PIPBOYが鳴る。
ナビっておいたから警告音だ。この辺りでウルフギャングとは別ルートとなるってわけだ。
「そろそろここらで別れるわ」
「そうかい。まあ、久し振りに会えてよかったよ」
「私も」
「そいつは嬉しいね。そうだ、もしスマイリング・ジャックと取引するときは気を付けろ。奴はキャップの上での取り引きはフェアだが……」
「フェアだが?」
「キャップが伴わない取り引きは信用ならない。口約束を信じるな」
「分かった」
「じゃあな。何の仕事かは知らないがうまくいくといいな」
「あなたもね」
「またどっかで会おうぜ。機会があれば飲もう。えっと、そっちはグリン・フィスさんだっけ? ミスティをよろしく頼んだぜ」
「承知」
ウルフギャングと別れて30分。
目的地に到着。
崖があり、洞穴があり、ここからだとテンペニータワーが良く見える。
「ソノラめ」
軽く悪態。
お仕事とはレギュレーターのお仕事。
つまり?
つまりは悪党退治です。
目的地はここの洞穴。
正式名なのか適当なのかは知らないけどレイダー前哨基地と呼ばれる場所。多分洞穴内にはレイダーどもが沢山いるんだろう。
「はあ」
討伐はいい。
討伐はいいんだけど2人でやれってどういうことよ?
結局新しい44マグナムはまだもらってないし。あくまで帯びているのは代替品。まあ、44マグナムなわけだから別にいいんだけど、ソノラの口振りだと特別製が貰えるとか言ってたような。
「主」
「何?」
「久し振りに2人で遠出ですね」
「そうね」
遠出というと遊びみたいな響きだけど、やることはレイダーをデストロイだもんなぁ。
アカハナ達は別件でメガトン周辺を哨戒中。
私らがルックアウト行っている間にブッチはベンジャミン・モントゴメリーという人とレディ・スコルピオンという人を仲間にしてた、意外に人望があるようだ。
ともかくトンネルスネークも別の場所でレイダー狩り。
レギュレータも総力を挙げてレイダー狩り。
何故そこまでするのか?
人狩り師団とかいうレイダーの大組織が各地で攻勢を強めているようだ。でそいつらの拠点がいまだ解明せず。
何でもレイダーにしたらえらいガッツがあるようで尋問されても絶対に拠点を言わないようだ。
エンクレイブ再来は時間の問題。
そもそも北部には既にエンクレイブ入ってる。
何で何もない北部かは知らない。
少なくとも集落はないしBOSの拠点もない。
何もないからか?
聞けばレッドアーミーと呼ばれるスーパーミュータントの軍団が北部でエンクレイブとやり合っているらしい、となると連中も北部に拠点があるのか。BOSは潰し合いを傍観しつつも警戒に余念が
なくこちらに手が回せないので、キャピタルの治安維持はレギュレーターに委ねられているのが現状。
メガトン共同体も自分たちの街々を警備するので限界みたいだし。
……。
……とはいえ2人かぁ。
まあ、大抵のことはもうどうにでもなるけど心許ないなぁ。
ソノラの依頼の真意は人狩り師団の拠点を探し出すこと。知りうる限りのレイダーの拠点を叩けばどこかで当たるんじゃないかってぐらい、かな。例え見つからなくても雑魚レイダー集団は潰せる。
そんな感じだろう。
私らが襲撃するレイダー前哨基地は元々テンペニータワーを攻撃する為の、レイダー連合の拠点だったらしい。
連合壊滅後は勝手に殺し合い、残りは対していないとかソノラは言ってたな。
そう願いますけど真相は謎。
まあいい。
「グリン・フィス」
「はい」
「派手に行くわよ」
「御意」
別に驕っているわけじゃないけど今更レイダー程度ならよっぽどの数じゃない限り何とかなるだろう。
さてさて、お仕事お仕事。
「うひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ撤退撤退ーっ!」
突撃数分後。
私らは回れ右して撤退。
何がいても少しだソノラのボケーっ!
50人ぐらいいるぞっ!
どこかに襲撃に行くつもりだったのか洞穴に入った途端に遭遇、撃てる限り撃って、時間止めれるだけ止めて戦ったけどこりゃ無理だっ!
ま、まあ、瞬時に20人ぐらい蹴散らしたから向こうもビビって追ってこないけど。
……。
……あれ洞穴内に何人いるんだろ?
もっといるのかも。
やばいなぁ。
「ぜえぜえ」
「主、追ってきません」
「ぜえぜえ。そりゃよかった」
「御意」
そこは御意って言うところなのか?
私らは撤退して岩陰に隠れている。洞穴の入り口からは20メートルぐらい離れてる、一応いつでもスナイプできるようにグレネードランチャー付きアサルトライフルを洞穴の入り口に構えている。
やばいなぁ。
かなりいたぞ、かなり。
さらにヤバいのが任務失敗したらソノラに指をナイフでゴリゴリされかねないといことだ(汗)。
どうしたもんか。
「主」
「何?」
息が落ち着いてきた。
ふぅ。
「あれが人狩り師団とかいう奴らでしょうか」
「かもね」
結構な数だった。
可能性は大だ。
どうすっかなぁ。
無線機を取り出して援軍でも呼ぶか。でも来ない可能性も高いしなぁ。報告だけはした方がいい……ああ、そうか。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
簡単な話じゃん。
洞穴の出入り口を塞げばいいんだ。
グレネードランチャーを叩き込む。洞穴の入り口は爆発し、岩が降り注いで埋まった。他に出入り口がなければこれでお終いだ。
ただ……。
「主、さすがに連中の知能はそこまで低くはないかと」
「だよね」
そう。
よっぽどのアホじゃない限り出入り口ももう一つ用意しておくだろう。
万が一塞がれば生き埋めだからだ。
多分どっかにもう一つ出入り口があるはず。とはいえそれがどこだかは分からない。崖のどっかに別の出入り口があるのかもしれない。
だけどそれを探すのは骨だ。
「グリン・フィス」
「はい」
「連中はどうすると思う?」
「あれだけの数ですから報復してくるかと。必ず我々を探しに来ます」
「私らがここを離れれば?」
「おそらくタワーに探りを入れて来るかと」
「私もそう思う。タワーで休憩しましょう。何人か差し向けて様子を探りに来るはずだから、そいつらを使って、次の手を考えましょ」
「主、ご休憩の時間限界まで可愛がっちゃうぞ」
「死ね」
「ユ、ユーモアです」
「どうだか」