天使で悪魔






一つ目教団






  鍛冶師。
  彼らは熔解する鉄の輝きを見続ける為に片目が潰れ、フイゴを踏み続ける為に片足が萎える。
  遥かなる伝説の東方の地ではその者達をこう呼ぶ。

  イッポンダタラと。





  「以上が報告っす」
  「ふぅん」
  場所は冒険者の街フロンティアにある宿屋の一室。わたくしは貴族の端くれですので最上の宿。
  まあ、それでも帝都やアンヴィルの宿には遠く及びませんけど。
  ロッキングチェアに身を沈めて書類を読む。
  そんな私の前には直立不動で立っている深紅のトカゲがいる。
  アルゴニアンのジョニー。
  シャイア財団(盗賊ギルドが前身で旧盗賊ギルドのメンバーをそのまま流用している)の大幹部という立場にあり実質わたくしの片腕。
  ……。
  ……正確には、まあ、ただの滅私奉公人ですけどね。
  一応灰色狐=わたくしという方程式はシャイア財団内でも成り立っていない。参謀や伝令は知っていても構成員はそれを知らない。あくまでわたくしは
  灰色狐の腹心中の腹心という立場であり2ということになっている。正確にはそのようにしている。
  何故?
  それはある意味で逃げ道ですわね。
  万が一の際に正体が外部に露見すると問題がある。
  その為に灰色狐を偶像としてわたくしの上においている。そうすることにより万が一の際は、何とかなる。私自身が灰色狐であると露見しない以上は
  献金でどうにでもなる。そういう意味での逃げ道ですわね。
  さて。
  「あの、お嬢様、内容に何か問題がありますか?」
  「ジョニーを釜茹でにするのは構いませんがもうちょっと捻りが欲しいとスクリーヴァに伝えておいて欲しいですわ」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃそんな内容じゃないでしょーっ!」
  「ほほほ」
  そう。
  そんな内容ではありませんわ。
  それにジョニーはわたくしの所有物ですのでスクリーヴァにどうこう指図される謂れなどない。
  このトカゲを茹でトカゲにするのはわたくしの意思でだけですわっ!
  「何を考えてるんすか何を物騒な事を考えてるんすかっ!」
  「読心術? 侮れないトカゲですわー」
  「……」
  「わたくしに弄られるのが不服ですの?」
  「……不服ですけど不服じゃないっす……」
  「ほほほ」
  付き合い長いと阿吽の呼吸ですわね。
  スキングラードに住んでいた頃からの付き合いですわ、このトカゲとは。
  クソ親父の浪費のお陰で名門シャイア家が没落しローズソーン邸が差し押さえられた後(その後ハシルドア伯爵からフィッツガルド・エメラルダに贈られた)も
  常にわたくしに従っている。従者ではありますけど、まあ、わたくしから見たら出来の悪い兄貴的な感じですわね。
  さて。
  「ジョニー、報告書に問題はありませんわ。返事を書きますからブラヴィルのスクリーヴァに届けて欲しいのですけど、よろしくて?」
  「了解っす」
  「それにしても」
  わたくしはそこで溜息。
  書状の内容。
  それはこの間のオークションの一件ですわ。
  黒猫と追いかけっこしている間にオークション会場の連中はお宝と一緒に消えていた。落札された宝の引渡し、落札額の支払い、そのどちらも済む前に
  うやむやになってしまったので誰にも実害はなかったわけですけどオークションを開催していた窃盗団は全員逃げた。
  まあ、穏当な行動ですわね。
  オークション会場にいたのは有力者達。シロディール中の有力者をペテンに掛けようとしたわけだからシロディールに居残れる理由など存在しない。
  だから、逃げた。
  ですが甘いですわね。
  わたくしがすぐさま人数を走らせて国境に監視網を張り巡らせた。
  貴族として?
  義賊としてですわ。
  窃盗団が逃げるとしたら方角は限られる。
  フロンティアからまっすぐに南はありえない、さすがにブラックマーシュ地方には逃げないでしょうね。アルゴニアンの窃盗団なら話は別ですけど、あの
  地方はアルゴニアン以外では暮らせないと聞いている。北もない、シェイディンハル→ブルーマを経由してスカイリム地方もない。
  何故?
  スカイリム地方に入るには山を越える必要がある。
  雪原の大地を横断する必要性がある。
  山越えのリスクは冒さないでしょうね。
  結局のところシロディールから最短距離で、そして安全な経路で逃げるならレヤウィンを経由してヴァレンウッド地方に逃げるしかない。
  ですが甘いですわね。
  窃盗団は気付かなかった、シャイア財団(旧盗賊ギルド)の監視網が張り巡らされている事に。
  ブラヴィルを拠点にする参謀スクリーヴァの管轄はレヤウィンも含まれている。
  私の迅速な指示により窃盗団は全員拘束済み。
  ただし怪盗黒猫その中にはいなかった。
  尋問の結果、怪盗黒猫はフリーらしく一時的に窃盗団に雇われていただけ。
  現在行方不明。
  秘石とともに。
  まあ、ですけど問題はないですわね。
  名もなき皇帝の遺産に到達するには4個の秘石が必要。

  @怪盗黒猫。
  Aロウェン卿。
  B一つ目教団。
  C不明。

  秘石の所有者は判明していますので対処はし易いですわ。
  1つ。
  1つだけでも手に入れれば後は全てが勝手に絡み合う。
  居場所が特定できない黒猫もわたくしの持つ秘石を求めて姿を現すでしょうしね。
  だから。
  だからまずは1個を手に入れる必要がありますわ。
  居場所不明の怪盗黒猫やベルガモット兵団を率いるロウェン卿から奪うのは不可能に近い。不明な1個を探すのも今は得策ではない。
  「一つ目教団ですわね」
  密林の遺跡に陣取ってる邪教集団という噂。
  まずは情報収集ですわね。
  「ジョニー」
  「はい」
  「始末」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃお約束キターっ!」