天使で悪魔
アーダルジの家宝
「悪いが私からの任務は今のところ、ない」
「不景気ですのね」
帝都スラム地区。ダレロスの庭での階段。
わたくし、盗賊ギルド期待の新鋭アルラ=ギア=シャイアと盗賊ギルド参謀アーマンド。
会合の時間は常に深夜。
……お肌が荒れますわね……。
「それでどうすればよろしいの?」
「前にも言ったが君は独立した盗賊だ。好きに盗めばいい。……ただ、出世が伴う任務が欲しいのであればブラヴィルに行くといい」
「ブラヴィル?」
あまり治安の良い都市とは言えない。
犯罪……軽犯罪だけど、発生率は高い。街の外観も汚れている。
それにコネがない。
わたくしが懇意なのはコロール、アンヴィルの領主達であり、帝都の名族貴族。
「気が進まないのか?」
「ブラヴィルには知人があまりいませんので、私の特権があまり薄いですわねぇ」
「特権……ああ、勘違いするな。ブラヴィルにいる参謀から任務を受けろという事だ。向こうでは仕事があるらしい」
「ああ、なるほど」
「もちろんスクリーヴァの任務の地までは知らないがな」
盗賊ギルドには二人の参謀がいる。
盗賊ギルドのマスターであるグレイフォックスの片腕であり、グレイフォックスの指示を実行し組織を運営している。
その一人がここにいるアーマンド。
そしてもう一人が……。
「そのスクリーヴァ、どんな方ですの?」
「カジートの淑女だ」
「カジートの……」
「一つ言っておく。忠告、ではなく警告だいいなっ! 何があってもスクリーヴァの家の鍵を抉じ開けようと思うなっ!」
「はあ?」
恐怖が浮かんでいる。
柄にもなくうろたえているアーマンド。淑女、というのは揶揄かしら?
「昼間だ昼間がいいそれ以外には訪ねるな万が一機嫌の悪い夜に訪ねたその時お前は既に死んでいるっ!」
ケンシロウかお前は。
秘孔を突いてわたくしが始末しますわよ、あんまり意味不明だと。
「そ、そしてお前を紹介した私もきっと……あうあうあうきっと殺される皆死ぬんだうへへーっ!」
「……」
アーマンド。
もっと冷静な人かと思ってましたわ。
……ふぅ。
ブラヴィル。
帝都から南に位置する都市。あまりこの近辺には来た事がない。
ブラヴィル、レヤウィンはどこか貧しい。特にブラヴィルの南に行けば、完全に未開。都市は、都市として存在するけれどその周辺
は湿地帯であり密林。あまり行きたいとは思わない。
帝都の北はブルーマ。
雪国であり北方の種族ノルドの数多く住む街。
余程の雪国好きではない限り、また寒冷地に適応した種族であるノルド以外はまず住まない。というかわたくしは住みたくない。
シェイディンハルは……まあ、それほど文句はないですけど、伯爵が腑抜けだったり伯爵の息子が道楽者だったり実は闇の一党
の巣窟があるという噂の地でもあったりと、あまり好きではないですわね。
……?
……はて、何でこんな話を……。
……。
まあ、いいですわ。
ともかくブラヴィルが地理不案内でコネがない、というのが今の話の締めくくり。
さて。
「貴女がスクリーヴァですの?」
ブラヴィル、スクリーヴァの家。
意味不明でしたけど、アーマンドの助言に従い夜明けまで待ちましたわ。宿屋である『求婚の達人』に宿泊しましたけど無駄なお金
ですわね。まったく、後でアーマンドに請求しなくちゃね。
「ああ、貴女が期待の新人ね。グレイフォックスから聞いているわ」
「それは光栄ですわ」
また、グレイフォックス。
どこまで本当かは分かりませんけど……わたくしの活躍をグレイフォックスは知っている?
アンヴィルでの盗賊行為も知っていたらしいし、もしかしたらすれ違った事ぐらいあるのかもしれない。
「ふぅん。噂は聞いてたけど……本当にドレス着込んで、貴族の令嬢っぽいんだねぇ」
「名門貴族シャイア家当主のアルラですわ。御機嫌よう」
「まあ、盗賊に礼節は必要ないんだ。それはいいよ、そのご機嫌ようもね。仕事の話をしようじゃないか」
……なら聞くなよゴラァっ!
「レヤウィンに飛んでもらいたい」
「レヤウィン?」
ついさっきレヤウィン嫌いと思ってたのに……ううう、神様は意地悪ですわ。
「盗賊ギルド構成員の未亡人がいるんだが、彼女の手助けをして欲しい」
「未亡人……その方は……」
「ギルドには関わっているけど、構成員ではないわ。彼女の旦那はギルドに貢献した人物でね、グレイフォックスは困窮した生活を送っ
ているその未亡人を支援し続けている。情の深い方なのさ、我々のマスターは」
「そのようですわね」
「最近、その未亡人……アーダルジというカジートなんだけど、彼女から大切な指輪を盗んだトカゲがいるらしい。我々盗賊ギルドは
フリーの盗賊の快く思わない。そのような輩がいると、ギルドの名にも関わるしね」
義賊でも結局は盗賊。
世間ではそれらを纏めて見ている。わたくしも、没落するまではそうでしたもの。
……そのわたくしが今は盗賊。
……神様の意地悪ぅー……。
「では頑張ってきてください。御機嫌よう」
「……貴女も御機嫌よう言ってるじゃないですの」
レヤウィン。
マリアス・カロ伯爵の統治する、亜熱帯の都市。
周辺には密林や湿地帯や変わり易い天候に加えて、賊が横行している。
賊、と言ってもブラヴィルのように可愛い窃盗犯とかではない。完全武装の、賊だ。さすがに市内にはそんな連中はいないものの一歩
レヤウィンを出れば、街道を外れれば山賊達の天国であり無法地帯。
都市軍並の武装を誇るブラックボウと呼ばれる賊達が有名。
最近、その対応として白馬騎士団を創設したらしいけど、まだ勇名は馳せていない。つまり役に立っていない。
しかし今、一番の敵はこの空気。
「……暑いですわね」
「……まったくですな、お嬢」
「そーっすか? 過ごしやすい良い陽気でごさんすよ。あっはははー♪」
元気なのはアルゴニアンのジョニーのみ。
アルゴニアンの故郷ブラックマーシュに一番近い場所が、ここレヤウィン。だからトカゲは元気だし、その関係からかレヤウィンにはト
カゲが溢れている。
しかしわたくしは健全とした、インペリアル。
この亜熱帯の気候には正直慣れない。
……いや慣れて永住しようという発想に至ったならば、その時点で亜熱帯の暑さに脳が直撃した証拠だろう。
「アーダルジの家はどこですの?」
「あっしが聞いてまいります。ひゃっほー♪」
陽気でテンションがハイなトカゲ。
……あれはあれで、脳がやられたのかしらね?
「お嬢」
「何ですの、グレイズ」
「いい加減、その妙なお嬢様言葉をやめたらいかがです?」
「妙な、とは?」
「ですから……」
「わたくしは貴族です。……例え愛人の娘だろうとも何であろうとも……うー、それにそーいう言い方されると昔の自分思い出すではあ
りませんのっ! 今後同じ事を不用意にも口にしたら絞めるぞゴラァっ!」
「御意」
「ほほほ。よろしくてよ。それでよろしくでよぉー」
「お嬢様、衛兵に聞いてまいりましたこちらですこちら。いやっほぉー♪」
「……あれはあれでまずいのではないですの?」
「御意」
「夫からプレゼントされた指輪なんだ。その……そう、婚約指輪。それを奪い返して欲しいんだ」
アーダルジは挨拶もせずに、いきなり用件に入った。
わたくしは部屋の中を見回す。
かなりリッチな生活を送っているようだ。調度品も、家具も、レヤウィンの平均生活レベルを考えると高い部類に入る。
生前の旦那が残した遺産が莫大なのか?
それとも盗賊ギルドからの支援が大きいのか。どちらか判別し難いけれども、そもそもギルドがそこまで支援する意味が分からない。
グレイフォックスは猫好きなのかしら?
アーダルジはカジート。
スクリーヴァはまだ淑女的な雰囲気はありましたけど、アーダルジは下町の女将さん風。
「指輪、さてどのようなものでしょう。何か特徴は?」
「指輪を盗んだ盗賊の名は判明してる。アミューゼイというトカゲ。指輪を取り戻し、その代償として奴を八つ裂きにしてしまえっ!」
「殺しは闇の一党に祈るといいですわ」
「くっそ頭の固い規則だよまったくっ! アルゴニアンはトカゲで人じゃない、人殺しにはならないだろうよ」
「その理屈なら、ネコの貴女も人ではありませんのね」
ジョニーが身を小さくする。
まあ、別のトカゲの話題とはいえアルゴニアンの彼にしてみればあまり愉快な話題ではない。
「心配しなくても良いですよジョニー。貴方は、わたくしが直接始末しますから♪」
「ち、違うでしょうお嬢様ーっ!」
「あら不服?」
「そ、そうだアミューゼイ。確か盗賊ギルドに入る時に会ったあのアルゴニアンでは?」
話題を転じる。
グレイズを見ると、静かに頷く。
そういえばメスレデルが試験に受かり、落ちたトカゲはレヤウィンに流れたとか言ってましたわね。
「指輪を取り戻して欲しい。グレイフォックスの迅速な対応に感謝を」
「まっ、わたくしも尽力しますわ。御機嫌よう」
物乞いは盗賊ギルドの目であり耳。
そう、参謀のアーマンドは言っていましたけど……なるほど、小銭を握らせたら情報源に変身しましたわ。
これも盗賊ギルドの方針らしい。
貧困層にかなりの金をグレイフォックスはばら撒き、手懐けているようだ。そしていざ仕事に必要な情報を得る時には充分に役に立つ
情報源へと活用できる、か。
そこらの情報屋よりも使える人材ですわね。
それで物乞いの情報ではアルゴニアンのアミューゼイは投獄された、らしい。
面倒な事を。
早速、面会するべくレヤウィンの城へ着いたわたくし達一向。
「ではジョニー、面会して参りなさい」
「はい」
レヤウィン城。地下独房、看守の詰め所。
大抵の都市は手続きさえ正しく踏めば囚人に面会は許可される。……はずなのだけど……。
「ああ、君。面会は許可できない」
「何故ですの?」
「面会に行くのがトカゲだからだ」
「……?」
「伯爵夫人は大のトカゲ嫌いだ。カジートも嫌いだしダンマーもオークも嫌いだ。分かるだろう?」
なるほど。評判通りか。
伯爵夫人のアレッシア・カロは人種差別主義者として有名。
一説には城に隠し部屋があり、そこで差別している種族の囚人達を伯爵夫人は夜な夜な拷問し、愉しんでいるという。
嫌ですわね、サディストは。
……何ですの、そのわたくしに対する妙な視線は……?
「お嬢様、あっしでは駄目らしいですので」
「ジョニー」
「はい」
「始末ですわ」
「な、なんでですかーっ!」
「あなたがアルゴニアンなどに生まれるからですわ。まったく、使えないですわね」
「ひ、ひでぇ」
面会台帳に署名し、看守に扉を開けてもらう。
本来は看守はついてくる。
心蕩かせる甘い微笑と懐暖める金貨の袋を握らせると、看守はそろそろ食事の時間だと呟き冷えたスープと堅いパンを齧りだす。
どちらが看守の心を動かしたのかしらね?
わたくしは一人、牢獄へと足を運んだ。
外は、レヤウィンの気候は亜熱帯で暑いものの、牢獄はひんやりとしていた。
もちろんそれが心地良いとは思わない。
望むひんやりとは違う。
さっさと用件を済まし、上に出よう。まだ亜熱帯の方がましだ。
収容されているのはごくわずかであり、トカゲは一人だけ。おそらくはこいつがアミューゼイなのだろう。
向こうはわたくしを覚えており、向こうから声をかけてきた。
「おやおや盗賊ギルドの新人さん。こんな辺鄙なところに何用ですかな?」
「独房は心地良さそうですわね。どうも御機嫌よう」
アルゴニアンが独房に閉じ込められている。
トカゲの見分けはつかないものの、わたくしを知っている……となると、ジョニーの言うとおりあの時のトカゲだ。
「こんなところで何遊んでいますの?」
「俺は盗賊ギルドに入りたかったんだが、あんたのようにコネもなくてな。顔パスも出来なきゃ、試験も落ちた。でレヤウィンに戻ってき
たわけだ。ここは俺の生まれ故郷でな、勝手がいいんだ」
「捕まってたら意味ないですわね。それで、指輪はどこですの?」
ピタリと、そこで動きを止めるトカゲ。
付き合い長いジョニーの表情は何となく読めますけど、その他のアルゴニアンの表情を読む事は至難。
そもそもトカゲ。
人とは外見はまるで違うし、表情が読み取りにくい。
「……俺がそれを話す筋合いがどこにあるんだ」
「これと引き換えなら安いものでしょう?」
鍵開けの必需品、ロックピック。
盗賊ギルドが販売している、鍵を開錠する為の針金。ギルドが改良に改良を重ね、鍵を壊さずに穏便に開錠できる優れもの。
それでも開錠にはかなりの技術を要するけれど。
「くれるのか、それを」
「ええ。必要な事を言ってくれたら」
「お、俺はアーダルジから指輪を盗んだんだ。それを盗品市場に持ち込んだら、そんな物騒な物は買えないと言われたよ」
「物騒?」
爆発するのかしら?
「盗品商の一人が内側を見ろとびびりながら言ったよ。刻印が刻まれてた、あれはレヤウィン伯爵が夫人に送ったものだ。そうさアー
ダルジの指輪は、そもそもが盗品だったんだよ。俺は盗品市場を追い出された」
「ふーん」
盗品の、伯爵夫人の指輪。
アーダルジの様子が変だったのはそれでか。それに盗賊ギルドがアーダルジの生活を支援する最大の理由がその指輪。
使い方は色々とある。
当然、アーダルジはそれを知っていて盗賊ギルドから金銭を受け取っているのだ。
……また利用されましたわね。
「それで、貴方が捕まってる理由は……まあ分かりますわ。欲出したわけですわね?」
「い、痛いとこ突くな。そうさその通りだ。伯爵夫人に買い戻してもらおうと訪ねたら、この有様だ」
「無様ですわね」
「う、うるさい」
「それでは御機嫌よう」
「待て待て待てっ! ロックピックをくれる約束はっ!」
「わたくし下賎な方との約束は護りませんの。ほほほ、シャイア家の家訓ですわ。……でもまあ、恩は売るものですわね」
トカゲに手渡す。
もちろん、誰にでも鍵を開けれるわけではない。熟練の技術が必要だ。
脱獄出来る出来ないは、腕次第。
わたくしはあくまで機会を与えているに過ぎない。しかしトカゲは笑う。ケチな窃盗犯は、自信があるらしい。
「あんたには借りが出来たな」
「あら、お互いに望む事は手にした。帳消しではないのですの?」
「いいや。あんたの方が大きい。いつか返すよ」
分を知ったトカゲ。
ふぅん。少し気に入りましたわ。
「ではまた会いましょう。御機嫌よう」
「指輪はっ! 指輪はどこにっ!」
「さて、どこでしょうね」
アーダルジの家に逆戻り。
あの後、アミューゼイが脱獄したのか出来ないのかは、知らない。そこはわたくしの問題ではない。
取引は、公平に完結しましたわ。
その後の事は範囲外。
「アーダルジ、アミューゼイは伯爵夫人に売りつける気だったらしいですけど、何か問題は?」
注意深く観察する。
盗品で、それも伯爵夫人の指輪だと知っているのであれば……。
「売ろうとした? あのトカゲが? ……あんのボケトカゲめぇーっ!」
……とまあ、こんな風に荒れますわね。
なるほど。盗品と知った上でしたのね。そしてわたくしの考えは、これで肯定されましたわ。
アーダルジは伯爵夫人の指輪を使いレヤウィンの機密を入手、そしてグレイフォックスはそれを奇禍として今まで援助していたの
でしょう。指輪は刻印にもなる、それを使えば公文書だって合法的に入手できる。
「あのボケトカゲめ、そんな短絡的な金の稼ぎ方する為の指輪じゃないんだあれさえあれば伯爵家の手紙だって読めるのにぃっ!」
ビンゴですわね。
そして交渉は熱くなった方が負け。
更に言うなら自分の弱みを見せれば、もう救いようがない。こちらはそれに便乗し、交渉を有利に運べる。
「報酬は二倍ですわ」
「……」
「貴女が出すのか、スクリーヴァがわたくしに支払うのかは知りませんけど、二倍ですわ。もしもギルド持ちの報酬ならその旨を書状と
して書き記しスクリーヴァに送って欲しいですわね。どうかしら、今後の生活の為にも安いと思いますけど?」
「お、脅す……」
「脅してますわ。貴女は盗賊ギルドから金をせびっていた。それは指輪が貴女の手元にあるから。でも今は伯爵夫人の手元、そしてそ
こからわたくしが手に入れる。別にギルドに渡しても良いですのよ。きっと言い値で買い取ってくれますわ」
「……わ、分かった。二倍ね、分かったわ」
「交渉成立ですわね。御機嫌よう」
舞台はコロコロ変わって、再びレヤウィン城。
伯爵夫人と知り合いなら問題なかったのけれども生憎コネはない。
普通に盗むしかないか。
……待て待て待て待て……。
ああ、そうですわ。コロール伯爵夫人の娘が、レヤウィン伯爵夫人。わたくしはコロールの領主とは懇意。
そのツテを利用しましょうか。
「奥様、アルラ=ギア=シャイアと名乗る方がどうしても面会したいと……」
「アルラ? ……ああ、スキングラードかどこかの貴族でしたわね、お通ししなさい」
湯浴みを終えたばかりの伯爵夫人は、バスローブのみの姿で私室でくつろいでいた。
恭しく頭を下げる。
今回はグレイズは連れていない。差別主義の、伯爵夫人の機嫌を損ねるからだ。
ジョニーはいつも通り盗みに入っている。
……しかしこの場所はまずい。
今、指輪をしていないから多分宝石箱の中。そしてその宝石箱は……すぐそこだ。
「何用ですか」
「随分とリラックスしていますわね。貴婦人たるもの、肌は見せてはいけませぬ」
「……母のような事を申すな」
「母上様は、わたくしの人生の師。実はわたくしコロールより参りました」
「おお、貴女は里から来ましたかっ!」
人種差別主義で有名な彼女は、もう一つ有名な事がある。
それは家族を大切にする事。
特に母親に対しての敬愛を内外に問わず公言し、月に一度は長い道のりを物ともせずに里帰りしている。
母親の知り合い。
……嘘ではないですわね。最近は会ってないですけど、懇意ですわ。
その懇意の者がはるばるコロールから来た。それだけで親近感が湧くものらしい。
「一緒に夕食などはせぬか?」
「結構ですわね。謹んで、お受けいたしますわ。……まずその前に、バルコニーで涼みませぬか?」
「そうですね。参りましょう」
ジョニー、後は任せますわよ。
無事に指輪を入手。
わたくしの最大の目的は御家再興、その次がグレイフォックスに会う事。
どちらを優先させる?
「お嬢様、何をニコニコしているので?」
「ジョニー、私はブラヴィルに行きますわ。ここの気候風土はあまり好きではありません」
「指輪は……」
「アーダルジに伝えて。それと、彼女伴ってブラヴィルにまで来なさい。指輪の競りを開催すると言ってね」
ジョニー&グレイズ、苦笑。
うまい商売ですなと呟くオークを、わたくしは黙殺した。
……機嫌悪かったら撲殺しますけどねぇ。
盗賊ギルドとアーダルジ、どちらがこの指輪を高く買い取ってくれるかしらね。
楽しみですわ。