天使で悪魔






正面突破






  縁は異なもの味なもの。
  ほとんど見ず知らずの人物と共闘するとは思ってもいなかった。

  見ず知らずの友人は、そしていつか戦友となる。




  
  山道を白馬で走る。狭い山道。
  先頭を走るのは新生アークメイジのフィッツガルド・エメラルダの乗る馬。
  本来、わたくしは魔術師ギルドには関係ない。
  ゴタゴタに関る理由はないしそのつもりもなかった。ただ、恩人であるハンニバル・トレイブンの死はやはり重たい。
  だから。
  だから今回手を貸している。
  わたくしとフィッツガルド・エメラルダはわずか2人で山彦の洞穴に向っている。
  黒蟲教団の本拠地とされる場所だ。
  危険?
  まあ、危険ですわね。
  ただ、わたくしも魔術師の端くれ。虫の王と戦ってみたいという欲求がある。
  「……」
  「……」
  それにしても沈黙が続きますわねぇ。
  フィッツガルド・エメラルダは一言も喋らない。後ろを振り返りもしない。もちろん気持ちは分からなくもない。養父のマスター・トレイブンの死が心の傷に
  なっているのだろう。様々な追憶が頭の中を過ぎっているのではないだろうか。
  それに。
  それに山道は険しく、茂みも多い。
  伏兵がいそうな感じ。
  喋っている場合ではないのは分かりますけど……やはり沈黙は性に合いませんわ。

  「ちょっと。寡黙過ぎましてよっ!」
  「……」
  「ちょっとっ!」
  「うるさいなぁ」
  彼女は振り向きもせずに苛立たしげに応じる。
  わたくしを誰だと思ってますの?
  まったくっ!
  わざわざ手伝ってあげてますのに愛想ぐらい振り撒いて欲しいですわねっ!
  その時……。

  
わあああああああああああああああああああっ!

  喚声が聞こえる。
  「……始まりましたわね」
  わたくしは小さく呟いた。
  とうとう始まった。
  やはり死霊術師の軍勢が待機していたのは新生アークメイジが単身で乗り込んでくるのを待っていたのだろう。彼女が動いた事により死霊術師は
  待機する意味を失った、だから攻撃を開始した。
  フィッツガルド・エメラルダを誘った理由?
  さあ、それは分かりませんわ。
  わたくしは虫の王ではないので奴の思考は当然ながら分からない。しかし予想は出来る。虫の王マニマルコは強力な魔術師の魂を吸収して魔力と
  生命力を増幅しているらしい。多分、フィッツガルド・エメラルダを誘ったのはそういう意味合いなのだろうと思う。
  そして彼女は誘い込まれた。
  まだ山彦の洞穴には入り込んではいないけど今さら引き返すのも不可能。死霊術師の軍勢は圧倒的。ここに至っては引き返して戦うよりも虫の王の首
  を取りに山彦の洞穴に突入するしか他にない。軍勢同士の戦いはどう転んでも魔術師ギルド側は勝てないからだ。
  勝つには虫の王を倒すしかない。
  ゆっくり騎馬のままわたくし達は進む。彼女にしてみれば全力疾走で行きたいんでしょうけど、そんな事したら山道から落ちる。
  足場は極端に狭い。
  ザッ。
  彼女の馬が突然止まった。
  わたくしも手綱を引いて白馬を止めた。
  「シャドウメア?」
  「どうしましたの?」
  馬が何かを感じ取ったのだろうか?
  わたくしは周囲の様子を窺う。
  ……。
  ……あ、あれ?
  何も感じませんわ。気配をまるで感じない。生命の波動を感じられない。まるで何かに遮断されているかのよう。
  彼女はまだ気付いていないのかもしれませんわね、だとしたら微妙な魔力の流れを感じ取る能力はわたくしの方が上ですわね。
  どうやら死霊術師の結界に入り込んだらしい。
  敵が隣にいてもまるで分からない。感覚を完全に遮断されてしまっている。
  ふぅむ。
  わたくしは灰色狐の仮面を被る。
  魔王ノクターナルのアイテムであるこの仮面には生命探知の魔法が永続的に付与されている。
  被った途端、青白い光が無数に見えた。
  生命探知は魂を感知、それを視界に捉える事が出来るようになる。
  囲まれている。
  「敵が潜んでますわ」
  「敵が?」
  ようやくフィッツガルド・エメラルダはわたくしに振り返る。
  ふふん。
  やっぱり柔軟性ではわたくしの方が上ですわね。
  ほほほ☆
  「包囲されてますわね。そこかしこにいますわ」
  「何故分かるの?」
  「この仮面、生命探知の効力がありますの」
  「ああ」
  敵は茂みに多数潜んでいる。
  人間?
  さあ、それはどうかしら。
  アンデットも基本的には自我の崩壊した魂を宿らせた存在。だから生命探知でも探知できる。
  「よっと」
  彼女は馬を降りる。
  瞬間、矢が降り注ぐ。咄嗟に彼女は自分の馬の陰に隠れる。……盾代わりとは動物虐待ですの?
  わたくしは転げ落ちるように馬から降りた。
  白馬に矢が刺さった。
  ヒヒーン。
  痛そうに嘶く。
  よくもわたくしの愛馬に……ええい、万死に値しますわーっ!
  その時、彼女の馬は全身矢だらけのまま茂みの向って突進、茂みの中からは悲鳴や踏みつける音が響く。生命探知の魔法の影響にあるわたくしの眼
  にはいくつもの生命の光が消えていくのが分かる。何なんですの、あの馬はーっ!

  「ぎゃっ!」
  「ぐああああああああああああああああっ!」
  「ひぃっ!」

  茂みの中から悲鳴。
  人間の声だから死霊術師なのでしょうね。
  あの馬が始末してる?
  ……。
  ……ジョニーよりも役に立つ馬ですわねー……。
  幾らでなら売ってくれるかしら?
  欲しいーっ!
  「大丈夫?」
  わたくしは自分の白馬から矢を引き抜く。回復魔法はあまり得意ではないけど、気休め程度の回復魔法を施す。
  ただし所詮は気休め。
  すぐには走れるようにはならないでしょうね。
  「ん?」
  視界に飛び込む骸骨の戦士達。
  新手の敵か。
  弓矢を手にしたスケルトン。
  数は30。
  数や質は問題じゃあない。わたくし1人でも蹴散らせれる。問題はそれを統率する者ですわね。
  リッチが1体、それが骸骨戦士を率いている。
  リッチが叫んだ。
  「トレイブンの愚かなる支配は終わったっ! 今日この日こそ猊下の世界の始まりの日っ! 我こそは虫の隠者ノランクェラなりっ!」
  奴は手にしている杖をこちらに向けた。
  死霊術師が望む理想の姿、それがリッチ。……だけどこれが理想の姿なのかしらねぇ。わたくしには死に損ないにしか見えない。
  「裁きの天雷っ!」
  「霊峰の指っ!」

  
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「くああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  絶叫とともに果てる虫の隠者。
  別に連携を狙ったわけではないですけどわたくしとフィッツガルド・エメラルダの雷の魔法がリッチを焼き尽くす。
  攻撃の機会は与えない。
  瞬時に撃破。
  骸骨戦士達もその一発で消し飛んだ。敵じゃあない。
  「なかなかやりますわね」
  「あんたこそ」
  ふぅん。
  マスター・トレイブンの後継者を名乗るだけありますわね。なかなか強い。
  わたくしとどちらが強い?
  まあ、五分五分かしらね。
  負けるとは思わないですけど絶対に勝てるとも思えない。
  その時、彼女の馬が戻ってくる。全身矢だらけでも動いているその馬は、もしかしたら死霊術が関係しているのかもしれない。
  不死の馬?
  そうかもしれない。
  「お帰り、シャドウメア」
  彼女の馬は煩わしげに首を振ると矢が全て抜けて落ちた。
  「何ですの、この馬っ!」
  「不思議な馬」
  「……」
  ざっくりな説明ですわね。
  まあ、いいですけど。
  話し込んでいる状況ではないのも確かだ。さらにこちらに向かってくる魂の揺らめきが見える。フィッツガルド・エメラルダは生命探知の魔法を
  発動したのだろう、わたくしと同じ方向を見る。魂の揺らめきだけで敵とは断定出来ない、まだ姿そのものは見えない。
  数はさっきと同じ30。
  登山者?
  まさか。
  死霊術師の巣窟の山に登山する馬鹿な登山者はいないと思うし、いたとしてもここまで登る前にゾンビにされてしまうだろう。
  だとすると敵か。
  「アルラ、どう思う?」
  「敵ですわね、きっと。可能性としては敵であると思った方が良さそうですわ」
  「じゃあどうする?」
  「先制攻撃あるのみですわ」
  「気が合いそうね」
  お互いに微笑。
  ふぅん。
  結構良い関係になれそうですわね。この戦いが終わったら一度じっくり呑みながら話し込んでみたいものですわ。
  わたくし達は雷の魔法を同時に放つ。

  
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  瞬時に粉砕。
  魂の揺らめきは全て消えた。彼女は自分の愛馬を撫でる。
  「私の馬は不死だから問題ないにしても、そっちの馬は大丈夫?」
  「しばらく無理そうですわ」
  あまり無理はさせない方がいいですわね。
  ブルルル。
  彼女の馬が嘶いて上を見る。

  ズザザザザザザザ。

  高所から滑り降りてくる甲冑の戦士達。
  さらに新手ですわね。
  姿や武装は魔術師ギルドのバトルマージと同じ。ただし被っているフードが漆黒。黒蟲教団版バトルマージって感じですわね。第三波の敵。
  第一波、第二波と同じく数は30。
  弓矢を構えながら敵は滑り降りてくる。

  ひゅん。
  ひゅん。
  ひゅん。

  矢が飛ぶ。
  敵側の矢?
  いいえ。
  それは敵に向って放たれた矢。三本の矢は敵の喉元を的確に貫通。良い腕ですわね。
  こちら側の援軍?
  まあ、真偽はともかくわたくし達の敵ではないようですわね。
  少なくとも敵の敵。
  相手は突然の攻撃に動揺したまま、矢を放てないまま同じ位置にまで滑り降りてきた。何も出来ないままで。
  わたくしはチルレンドを引き抜く。
  フィッツガルド・エメラルダもまた剣を引き抜く。
  そして同時にわたくし達は相手に向かって突進した。戦いは勢い、そして流れ。勢いも流れもわたくし達の側にある。
  一気に蹴散らしますわーっ!
  「はあっ!」
  「そこ、ですわっ!」
  剣には自信がある。
  氷の魔法が込められた魔力剣チルレンドで敵を貫く。もちろん普通の剣なら鉄の鎧を貫通は出来ない、しかし魔法が込められた剣は攻撃力が高い。
  基本的に魔法は万能なのだ。
  まともに甲冑戦士達と戦えば、おそらく苦戦していたのかもしれない。しかし相手は動揺し、尻込みし、困惑している。今なら叩き潰せるっ!
  さらに敵側に向って矢が飛んでくる。

  ひゅん。
  ひゅん。
  ひゅん。
  
  わたくし達に斬り込まれ、矢で射抜かれて敵はバタバタと倒れる。
  「加勢しますっ!」
  凛とした声が響く。
  ダンマーの戦士だ。……どこかで見たような娘ですわね……?
  気のせい?
  ともかくダンマーの戦士は弓を捨て、腰の剣を引き抜いてこちらに向かって……いえ、敵に向って突っ込んでくる。
  フィッツガルド・エメラルダはダンマーの戦士に叫ぶ。
  知り合いみたいですわね。
  「悪いけどパーティーは先に始めてたわ。今のところ撃墜数は私が上。アリス、勝負しない?」
  「望むところですっ!」
  「勝手に話を進めないでくださるっ! エースはわたくしですわっ!」
  撃墜数は私の方が上ですわ。
  まったくっ!
  剣でわたくし達は相手を追い込んでいく。流れはこちらのものですわ。
  「何をしているたかが3人の女にっ!」
  怒号。
  別の方向からだ。さらに敵の援軍?
  結構伏兵が多いんですのね。
  ただその怒号を発した男はわたくし達の前に姿を現す前に断末魔を残してこの世から退場していた。
  「フィーさん、こちらの敵は一掃しましたっ!」
  ダンマー戦士よりも幼い声。
  見るとブレトンの少女がそこにいた。累々と横たわる死骸を山と築いた少女が、そこにいた。
  ……。
  ……あ、あれ?
  もしかしてわたくし展開的に置いてけぼりですの?
  フィッツガルド・エメラルダを軸に展開しているように感じるのはわたくしの杞憂?
  「行くわよっ!」
  「フィッツガルドさん、御供しますっ!」
  「問題なしです、行けます」
  「勝手に仕切らないで欲しいですわねーっ! 仕切るのは、わたくしですわーっ!」
  あくまで主人公はわたくしです。
  絶対にねーっ!



  律儀に立ちはだかる敵の小部隊を蹴散らしてわたくし達は山彦の洞穴の前に到達した。
  伏兵の人数そのものはそう多くはありませんでしたわね。
  準備運動程度の数でしかなかった。
  基本的にはバトルマージもどき、ゾンビやスケルトンがメインでありリッチは先ほどの一体だけしかいなかった。確実に準備運動程度ですわね。
  少なくともわたくし達を本気で叩き潰そうという布陣ではない。
  ……。
  ……まあ、立ち塞がる連中は本気で勝つつもりなんでしょうけどね。
  だけど黒蟲教団上層部の考えは違う模様。
  さて。

  「どいつが愚かなるトレイブンの後を継いだ女だ?」
  山彦の洞穴の前には1人のダンマーが待っていた。
  緑の肌の色が気色悪い。
  髑髏の刺繍の入った黒いローブに身を纏い、同じく黒いフードを被っている。腰には大振りのロングソード。
  フィッツガルド・エメラルダをご指名らしい。
  わたくし無視とはいい度胸ですわ。
  「私よ」
  彼女は一歩前に出る。
  「そうか。お前が後継者か。思ったよりも雑魚そうだな」
  「あんたに言われたくはないわ」
  「ここまで無謀にも来た。お前は身の程知らずにも虫の王に、猊下に会うつもりか?」
  「いいえ。殺すつもりで来た」
  「謁見したいのであれば俺を殺すしかないぞ。虫の王マニマルコ様の四大弟子が1人、虫の狂者ボロル・セイヴェル。剣には自信がある」
  「あら本当? 試してみる?」
  「くくくっ! ファルカー程度の剣術だと思うなよっ! 俺は随一の剣術を誇っているのだっ!」
  「御託はいいわ」
  静かに対峙。
  顔色の悪い自称幹部は剣の柄に手を当てたまま彼女の周りを孤を描くようにゆっくりと動き出す。
  ふぅん。
  剣術に自信があると吼えるだけはありそうですわね。
  隙は少ない。
  自称幹部の顔には自信が満ち溢れ、フィッツガルド・エメラルダを小馬鹿にしたような、見下したような感情を顔に浮かべている。
  それに対してフィッツガルド・エメラルダ。
  「……」
  涼やかな微笑を浮かべている。
  殺気?
  闘志?
  そんなものはまるでない。
  ただただ澄み切った、静かな微笑。
  これは……。
  「決まりましたわね」
  呟く。
  勝負を見るまでもない。勝敗は既にこの時点で決している。
  バッ。
  自称幹部は抜き打ちで彼女を斬って捨てようとする。速い。だが彼女はそれよりももっと速かった。ダンマーが抜いた瞬間には既に背負っていた黒い
  魔剣を相手の脳天に叩き込むところだった。完全に相手とは格が違う。自称幹部は刃を交える事すら出来ないままに真っ二つとなって果てた。
  さすがに言葉を失うわたくし達。
  ……。
  ……魔法では互角かもしれませんけど、剣術では相手をしたくないですわねー……。
  はっきり言ってこの女、剣の技量は高過ぎる。
  ついでに言うなら容赦なさ過ぎ。
  「邪魔は消えたわ。行くわよ、皆」




  フィッガルド・エメラルダは敵の幹部を一撃で撃破。
  わたくし達は勢いを持続したまま洞穴内に雪崩れ込んだ。
  洞穴内、静寂に包まれている。
  雑魚はいない?
  ふぅん。
  つまりこれは洞穴内は幹部勢揃い的な流れ?
  まあ、大量の雑魚を投入してわたくし達を殺すつもりは、相手にはないでしょうね。そもそもそのつもりなら魔術師ギルドが雪原に布陣した時点でアンデッド
  軍団全軍突撃で粉砕したはず。それをしなかった、それはつまり黒蟲教団としてはそれ以外に抹殺方法をしたいのでしょうね。
  もしくは仲間に取り込む?
  そうかもしれない。
  何らかの魅力的な提案をして仲間に取り込むつもりなのかもしれない。
  もちろん、わたくしは飛び入り参加。
  ダンマー戦士もブレトン少女も同じく飛び入り参加。結局連中のご執心はアークメイジであるフィッツガルド・エメラルダだけでしょうね。
  「フィッツガルドさん、誰も、いませんね」
  「いえ。いるわ」
  「……何も感じませんけど」

  「ようこそ、子猫ちゃん」

  「カラーニャっ!」
  洞穴にわだかまる闇から剥離されたかのように突然ドレス姿の女が現れる。
  わたくしも見覚えがあるアルトマーの女。
  やはりご執心なのはフィッツガルド・エメラルダだけらしい。わたくし達には一瞥を与えただけですぐに視線を彼女に向けた。……ムカつきますわー。
  カラーニャは言う。
  「猊下が奥でお待ちよ」
  「そう。待たせて悪いわね。案内して貰える?」
  「早合点ね。私を倒した後に、お待ちって意味よ」
  「ふぅん」
  「ボロル・セイヴェルを倒したようね。だからって調子に乗らない事ね。結局奴は末席。倒したからといって手柄にはならない」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  容赦ないですわねー。
  突然フィッツガルド・エメラルダは雷の魔法をカラーニャに向って放つ。しかしカラーニャは慌てずに自分に向ってくる雷に手のひらを向けた。
  「避雷針」
  雷はそれる。
  あらあら。
  相手に攻撃を防がれるだなんてまだまだですわねー。
  ならば。
  「ご挨拶ね、いきなり攻撃だなんて。相変わらず淑女の礼儀を知らないわね、子猫ちゃん」
  「霊峰の指っ!」
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  見せ場ゲットですわっ!
  雷に弾かれるようにカラーニャは後方に吹っ飛び、ザザザザザっと地面を転がった。
  即死?
  まあ、生きてはいないでしょうね。
  「残念ですわね。最近の淑女は先制攻撃するものですわよ?」
  「……あら、それは知らなかったわね」
  むくりとカラーニャは起き上がる。
  そんな馬鹿なっ!
  必殺の一撃だった。なのに動けるなんてっ!
  「……っ!」
  ゾク。
  生きていたのも想定外でしたけど、寒気がしたのはそれだけではなかった。
  ごしごし。
  眼を擦ってみる。
  ……。
  ……見間違いではないらしい。
  カラーニャの完全に雷撃で完膚なきまでに焦げていた。判別すら出来ない。真っ黒焦げ。眼も鼻も口も既に原型がない。
  「……何あれ」
  ダンマー戦士は呟く。
  それはそうですわ、わたくしでさえガクブルしてる。誰だってあれを見たら驚く。
  カラーニャは気味の悪い声で笑う。
  「メイクが落ちたかしら? きひひひ。アルトマーの振りをするのは疲れるわぁっ!」
  その声に呼応するかのように。
  闇の奥から人影が現れる。2人現れる。
  1人はアルトマーの男性。ミスリルの鎧を着込んでいる。
  1人は子供。ブレトンの少年だ。ローブを着ている。
  「もう本性を現したのか。随分と早いな、カラーニャ」
  「っていうかボロル・セイヴェルはもう死んだ? あのおっさん、随分と呆気ないなー。あはははー☆」
  こいつらが残りの四大弟子、か。
  どうやら決戦の場となるらしい。
  こちらは4人、相手は3人、数としてはこちらが上。ただし時間的余裕がない。何故なら雪原では魔術師ギルド&戦士ギルド&シャイア財団の混成軍
  がアンデッド軍団に圧倒されているはずだ。とっとと虫の王を倒して相手のカリスマを奪わなければならない。
  ダンマー戦士は高らかに叫ぶ。
  「フィッツガルドさん、ここはあたし達が相手をしますっ! それぞれ一対一、そうすれば時間のロスは避けられますっ!」
  「アリスっ!」
  まあ、それしかないですわね。
  フィッツガルド・エメラルダに花を持たせるわけではありませんけど彼女は既に弟子の1人を倒している。わたくし達はまだ倒していない。ならば残りの
  弟子はわたくし達が倒すとしよう、そして虫の王はとりあえずは彼女に任せるとしましょうか。
  「そこのダンマー娘の言葉は妥当ですわね。わたくし達も貴女のように幹部を瞬殺してから追いつきますわ。御機嫌よう」
  「同意します。フィーさんは奥にっ!」
  残りの幹部は3人。
  それぞれサシで相手をして、倒すとしよう。
  「こいつは面白い。俺はそのダンマーの剣士をいただく。おい、付いて来いっ!」
  「じゃあ僕はあのおばさん殺すとしようかな、人形劇でねっ!」
  「きひひひっ! では私はそこの餓鬼を殺すとしようっ!」
  おばさん?
  それってわたくしの事ですの?
  餓鬼がーっ!
  完膚なきまでに叩きのめしてあげますわっ!