天使で悪魔





優雅なるサディスト




  小鳥が鳴く。
  わたくしの午睡を妨げないように。
  わたくしの午睡に華やぎを添えるように。

  美しい声を奏でている。
  木々に揺れるハンモックの上に静かに横たわりながら、鳥達の唄を聞き惚れていた。
  閉じた瞼の向こうに太陽は燦々と輝いている。
  今日も良好お天気ね。
  今日も世界は平和ね。

  自然、微笑みながら私は今日の日々を神様にお祈りした。
  神様。今日も心豊かな日々をありがとうございます。
  「お、お、お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  「……ジョニーが帰ってきたようだ」
  「……そのようですわね」
  ハンモックから身を起こす。……ああ、現実に引き戻されましたわ。
  場所は帝都スラム街。

  基本的に盗賊やあぶれ者、人生の落伍者達の巣窟。人生の負け組みとも言いますわね。
  がばぁっ。
  その場に平伏し、地面に頭を擦り付けているのは真紅のアルゴニアン
ジョニー・ライデン。
  使用人ですわ。
  午睡の邪魔をする者を問答無用で張り倒す役目……わたくしが与えたんですけど……その役目を請け負っている
  のがグレイズ・エル・トレヴァー。白いオーク。
  紫外線が致命傷となる為、常に肌を隠している用心棒ですわ。
  吸血鬼ではないのであしからず。
  「お嬢様ぁ。あっしはただいま戻ったでござんす」

  「おやまあ。生きていらっしゃったの? ……よくまあ……奇跡ですわね」
  「殺す気だったんですかっ!」
  「二度とは会えないと思ってましたわ」
  「……ひ、ひでぇ……」
  「ほほほ。貴人たるもの、下々の方の命に感傷は持ちませんの」

  「……」
  お金になるものを失敬しに王宮に忍び込んだ際、この近衛兵に見つかったので『囮作戦♪』でジョニーを縛り上げて
  放置してきたんですけど……ふぅん。貧乏人とはタフなものですわね。
  脱獄してきたんでしょうか?
  それにしてはなかなか良い服を着ていらっしゃる事。
  「ジョニー。まさか王宮から借りたお金を独り占めして良い服を着込んでいるわけじゃないですわよね?」
  「へっ?」
  「グレイズ。片しちゃって」
  「へい」
  「おおおおおおおおおおおおおおおおおお待ちくださいよお嬢様ーっ!」

  皇帝暗殺から三日。
  そのドサクサに地下監獄から逃げて来たであろうジョニーは、質の良い真紅のローブを着込んでいた。
  どこのブランドの服かしら?

  「ジョニー、裏切ったら絞めるわよ?」
  「あ、あっしの命はお嬢様とヴァネッサーズの為に使う所存で、ござんすっ!」
  「わたくしに粉骨砕身、仕えるのですよ?」
  「ははぁっ!」
  わたくしの名前はアルラ=ギア=シャイア。名門シャイア家の第13代当主……であったのですが、株は怖いですわねぇ。
  暴落して今では借金が金貨10万枚。
  実家であり生まれ育った豪邸『ローズソーン邸』はスキングラードに抵当として差し押さえられましたの。
  それでかつての使用人であるジョニー、グレイズと共に盗賊集団ヴァネッサーズを結成。
  目的はお家復興ですわ。
  その為にも盗んで奪って相手シバキ倒してハイヒールで踏みつける、のが当組織の概要ですわ。
  「それでジョニー、次のお仕事の場所は決めたかしら?」
  「アンヴィルなんかどうでしょう?」

  アンヴィル。
  港湾都市として栄えている。そこに届いた船荷はアンヴィル〜クヴァッチ〜スキングラードと三つの都市間を行き来し一
  般的にその道筋を『黄金街道』と呼ばれる、商人達の道。
  お嬢様なのに盗賊?
  お嬢様なのに強盗?
  ほっほっほっ。問題ありませんわ。何せ我が家の家訓は『他人を蹴落とせ幸せ奪え♪』ですもの。

  「ではジョニー、グレイズ。ヴァネッサーズ、金品強奪靴まで奪えをモットーに行きますわよ♪」
  向かう先はアンヴィル。
  借金返済しかつての栄光を取り戻す為に、頑張って平民を虐げて稼がなくちゃ。
  ヴァネッサーズ、出発。