天使で悪魔
片翼の天使
天を舞う天使も翼を失えば堕天する。
第一階層『廃墟』。
第二階層への扉前にてラフィールの黒犬と遭遇、撃破。
「……」
無言なまま対峙する俺達。
本来三階層にしか現れないはずのラフィールの黒犬を撃破したものの、その黒犬を三階層から追って上がって来た連中と俺達は静かに対峙し
ていた。敵ではないが雰囲気的に味方でもない。
初顔合わせだしな。
相手の数は6名。
構成種族はノルド、アルゴニアン、ブレトン、カジート、オーク。
リーダー格である『黒騎士』は兜被ってて分からない。露出してるのは口元だけだからだ。ただ人間系なのは確かだ。
この近辺(実は世界的に、らしいが)では有名な連中。
世界最強の集団『片翼の天使』。
世界最強?
さてな。本当に世界最強かは疑わしい。別に天下一武道会(DB風味☆)で決めたわけではないからだ。
最強の魔術師と名高いハンニバル・トレイブンより強いのか?
最年少であると同時に女性は初のグランドチャンピオンであるレディラックより強いのか?
そこは誰にも分からない。
もしかしたら前述の2人より弱い可能性もある。結局、総当たり戦で今世界最強になってるわけではないからだ。上には上がいるものだ。
ただ確かにこいつらは強いよ。それは俺もそう思う
発している威圧感は半端ない。
特に黒騎士はな。
「……」
俺達は沈黙している。
びびってる?
いいや。
ただ連中の威圧感に圧倒されてるいるだけだ。
……。
……圧倒はびびりとは異なる、俺はそう思っている。ただ少し度肝を抜かれているだけだ。
最強を自称する『片翼の天使』どもは仲間内で話し始めた。
俺達が何のリアクションもないからだろうが……ムカつくぜ。余裕ぶりやがって。
「どうしたお前達? 黒犬を倒したのだからもう少し嬉しそうにしたらどうだ? 駆け出しにしては、なかなかの腕だ」
「黒騎士さん。駆け出しじゃなかったら失礼な言葉だと思いません?」
「……」
「だが事実ですぜ、レイの姐さん」
「こいつらびびってやがるぜっ! へへへ。三階層では雑魚掃除ばっかで飽きてたところだ。こいつら俺が始末していいですかね?」
「ザック。ごろつきの様な口調はやめろ。私闘は禁じているはずだ」
黒騎士。
レイという名前と判明したノルドの女。
無口なアルゴニアン。
ブレトンの魔法戦士。
小生意気なカジートのザック。
オークの戦士。
お互いに自己紹介していないのでまどろっこしいが、わざわざ自己紹介して仲良くするつもりはない。絆を深めるつもりもなければ因縁を深めるつも
りもない。わざわざ知り合いになろうとはまったく思わない、という意味合いだ。
「……」
だが。
だが面と向ってこいつらに口が利けない。
プレッシャーか。
こいつらの発するプレッシャーに俺達は気圧されていた。忌々しい事だが、それが事実だ。
「自分は黒騎士。そう名乗っている」
「ああ、そうかい。知った事か」
ざわり。
黒騎士以外の連中がざわめいた。
こちら側の陣営は『おいおい喧嘩売る相手選べってっ!』という感情に対して向こう側は『こいつ自分達が何者か分かってないのかっ!』的な傲慢
だった。特にザックとかいうカジートの反応は露骨だった。露骨に顔をしかめた。
あーあ。
これで因縁深めちまったな。
だが俺は別にこいつらを崇拝する気も尊敬する気もない。そもそも関わり合う必要性もどこにもない。
ならば何故慇懃無礼?
簡単さ。
傲慢な感じが嫌い。それだけだ。
特にザックの第一印象が最悪。……まあ、ネコ野郎も同じような感情を抱いているだろうけどな。
「名を聞こう」
「白騎士」
「面白い冗談だ」
「ちっ」
黒騎士、こいつだけ桁が違う。
自分に対する絶対的な自信からか、超余裕。
俺の絡み口調を難なく流す。
こういう態度に出ている以上、こちらも紳士的に出ないと恥を掻くだけだ。その程度の配慮は俺にはある。
「カガミだ」
「ほう」
「傭兵集団『旅ガラス』のリーダーさせてもらってる。……満足か?」
「お初にお目に掛かる、カガミ」
「ちっ」
「我々はフロンティアに戻る。一緒するかね? 旅は道連れの方が楽しい」
「俺達だけで帰れるっ!」
くそ。
お守りは必要かな、と聞かれているのと同じだ。
悪気があるのかないのかは知らんが腹立つ連中だぜ。これが『旅カラス』と『片翼の天使』の初顔合わせだった。
……はぁ。
最悪な顔合わせだな。
ザックは中指を立ててから立ち去る。
「くそ」
腹立つぜ。
特にザックはな。いつか勝負してやるっ!
一瞬ドライでは以後からざっくりしてやろうかと思ったが……闇討ちはまだした事がないしあまり好きではない。
まあいいさ。
いつか正面から勝負つけてやる。
実際問題手に余るのは黒騎士とレイとかいうノルドの弓矢女ぐらいだろう。後は良い勝負できる、つまりは互角程度の腕前だ。
ザック?
はっ、あいつは雑魚だぜ。
それにしてもあの程度で世界最強とは……ふん、完全に『自称』だな、こりゃ。
ともかく。
ともかく今回の冒険はこれで終了だ。
「ちっ」
多少の忌々しさと不快さが心の奥底にシコリとして残っているものの、とりあえずは今回の目的は達成した。
第一階層『廃墟』踏破完了。
……。
……結果として『片翼の天使』と因縁深めた?
いや。
特にそうは思わない。
確かに俺達傭兵集団『旅カラス』がいるのに、勝手に世界最強を名乗られるのは忌々しいが別に敵対感は持っていない。おれはただあのザックと
いう野郎にムカついているに過ぎない。
あのネコめっ!
叩きのめして縁側で毛玉吐くしか能のない体にしてやるぜっ!
「兄貴、いつか思い知らせてやりましょう」
ポンポン。
終始ふてくされている俺をなだめるような口調でドントンは俺の肩を叩きながら言う。
兄貴、ね。
どうもラフィールの黒犬登場の際の俺の余裕っぷりに惚れ込んで兄貴分に祭り上げているらしい。……ツンデレだったのかこの若造。
まあ崇められて悪い気はしない。
俺はニヤリと笑う。
「街に帰って一杯やろうぜ、弟分」
「兄貴っ!」
「うっわ街に帰って一杯犯ろうぜだなんて……くっはぁー☆ これが男と男の友情ってやつっすかー☆」
「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
突然のサラの介入。
……。
……こいつが絡むと俺様はいつも可哀想な立場になる。
嫌がらせか?
嫌がらせなのか?
おおぅ。
「さてカガミ君、そろそろ戻りましょう。今日はさすがに疲れましたわ」
「そうだな」
全身が疲労を訴えている。
寡黙な侍野郎グレンは口では何も言わないが、顔には疲労が色濃い。ドントンもだ。ここに至るまでは楽勝過ぎたが、あの黒犬との戦闘が体に疲労
を蓄積させたらしい。あとは『片翼の天使』どもとの対峙の際の緊張感か。
「カガミそろそろ戻ろうぜ☆ あたしも疲れちゃった☆」
「あのな、肩に乗ってるしかしてないお前が疲れた言うな」
「うっわそれ差別」
「はっ?」
「カガミの側にいるだけでも精神的ダメージ多いのに……けっ、お前の存在の側にいると体が穢れるのに我慢してるあたしに感謝しろこのボケ」
「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「うるせー☆」
「……」
何て可哀想な奴なんだ俺はっ!
こんな報われない底辺的な存在の主人公きっと初めてっ!
おおぅ。
「カガミ君、行きますわよ」
「カガミ殿」
「兄貴」
口々に俺の名を呼びつつ歩き始める仲間達。
話題は街についてからの食事。
確かに腹減ったな。
「マスター」
「ん?」
「今後ともよろしくお願いしますぞ」
「ああ」
ドライを手にしながら俺は頷く。知性がある以上はこいつも仲間だ。ドライバー……という存在そのものの意味が不明だがな。
まあいいさ。
強力なんだ。それだけで満足するべきだろう。
今回の冒険はこれにて終了。
「行こう、カガミ」
「ああ」
アルディリアの迷宮。第一階層『廃墟』を傭兵集団『旅ガラス』は突破。
「猟犬を始末するとは。……あの連中以外にもそれが可能な奴らがいるとは想定すらしていませんでした。気まぐれのお陰ですね」
「ふふふ。どうですヴァイス、楽しくなってきたじゃないですか」
「御意に」
「物事を楽しむには味付けが必要です。ふふふ」