天使で悪魔







財団からの誘い





  世界とは広いようで狭い。





  「はあはあ、ここかっ!」
  黒熊亭を後にした俺は走りに走って燃える建物の前に辿り着いた。
  この建物は最近建てられたものらしい。
  冒険者の街フロンティアにおいて冒険王の次に大きな建物。
  それが今、燃えている。
  周囲には石造りの壁が四方を囲んでいるので火はそれ以上は広がりそうもないが建物は壊滅的だな。
  「はあはあ、疲れたぜ」
  「カガミ運動不足じゃねぇ?」
  肩に止まるサラが不服そうに呟く。
  「てめぇがから揚げ食い過ぎて重いからスピードが落ちたんだよっ!」
  「うっわ人の所為? そんな小さいことを言ってると大物になれないぜ、下半身が小物のカガミさんよぉー」
  「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「小学生とタメを張れるレベルです☆」
  「……」
  「うっわ図星? ごめん知らなかった強く生きて行ってね、きっと73年後には良いことあるさ☆」
  「……果てしなく遠いな心の励みにもならないぜ……」
  「てへ☆」
  「……」
  ま、まあいい。
  サラと付き合ってると建物が燃え尽きちまうから切り上げるとしよう。
  「ところでカガミ、ドントンは?」
  「まだらしいな」
  振り返るものの見当たらない。
  あいつも一緒に酒場を出たのだがここにはまだ来てない。
  まあ、仕方ないかもな。
  あいつは鋼鉄製の鎧に身を包んでる。兜こそ被ってないものの盾も持ってる。
  カテゴリー的には重戦士。
  どんなにスタミナがあろうともあの重量では機敏には動けまい。
  「で、どうするの?」
  「まずは聞く」
  「スリーサイズを? おいおい場所と状況考えろって」
  「うるせぇーっ!」
  「はいはい。反抗的な性格ですなー」
  「ともかくっ! ともかくまずは交渉だっ!」
  燃え盛る建物の周りには遠巻きに眺めている面々がいる。一部はただの野次馬だろうし、一部はこの街の冒険者で消火作業に従事(基本的に警備等も冒険者に
  対しての依頼という形となるためこの街には帝都から派遣された正規兵はいない)している。そしてその中には前述の2つに含まれない者達もいる。
  財団の連中だ。
  建物の中から無事に非難したのだろう、燃える建物を見ている。
  連中が財団関係者とは限らない?
  まあ、そうだな。
  だがこの街の連中でないのは確かだ。
  着ているものはどこか洒落ていて帝都の気風がある。少なくとも帝都から来た連中であり地元民ではない。冒険者でもない。で全てを総合するとこいつらは
  財団関係者である可能性は極めて高い。
  「なあ」
  1人に声を掛ける。
  ボズマーの女性だ。着ているものはシルクの服なんだが背には矢筒、手には弓がある。
  ふぅん。
  ど素人ってわけではなさそうだ。
  普通とりあえず手近にある武器持って逃げるなら剣の類だ。剣は素人でも突く、斬る、払うの動作は出来る。当たる当たらないは別にしてだがな。それに対して
  弓矢は熟練者でなければ意味がない。弦を引くだけでも力が要するし的に当てるには長い修行が必要になる。にも拘らず弓矢を持っている。
  この女、相当出来る。
  「なあ」
  「今は立て込んでいるわ、見たら分かるでしょう?」
  「それは分かるがどうしてこうなった?」
  「仮面の連中よ。どこの誰だか知らないけどいきなり侵入してきて火を放ったのよ。応戦したけど駄目だった。連中の使う魔法は強力で太刀打ち出来なかった。
  私は弓矢で血路を開いて仲間を逃がすのが精一杯だった。3人ほど返り討ちにしたけど、それが限界。まだ仲間が中に取り残されているわ」
  「中に?」
  「ええ。燃えている本館の隣に小さな建物があるのよ。その建物には地下に通じる為の階段があるわ。今まで集めた物が収まってる」
  「そこに仲間がいるのか?」
  「そうよ。でも敷地内には仮面の連中がいて入ろうとすると魔法を放ってくるのよ。うちの人材で戦える者はわずかだし、冒険王の送ってくれた冒険者達も消火
  が精一杯。そしてその消火すらも連中は邪魔してくる。このままじゃいくら地下にあるとはいえ無事とは言えないわ。お宝も仲間もね」
  「俺を買わないか?」
  提案をする。
  これはこれで1つの仕事のあり方だろう。
  「うっわここで体売るのっ! ……駄目だこいつ腐ってる……」
  「うるせぇーっ!」
  ボズマーの女は俺の顔をじっと見た。
  その時、ぜえぜえと言いながらドントンが登場。
  「戦力は2人だ。。どうだ? 安くするぜ? これでも俺達はアルディリアの迷宮の第四階層を攻略したんだ。片翼の天使より一歩先を行ってるんだぜ?」
  「そうか、あなた達が旅ガラスってわけね」
  「そういうことだ」
  「では協力願うわ。正式な報酬に関しては後で話を詰めるとして、まずは金貨500枚を約束するわ。一人頭500よ。どう?」
  「悪くない」
  「最優先の目的は仲間の救出。宝はこの際問題ではないわ。うちらのボスは仲間の死を何より嫌う、だから仲間の命優先よ。つまり必然的に敵の掃討にも
  なると思うけど気を付けて。地上にいる敵に関しては、弓矢である程度は支援できる。頼める? かなり難易度の高い任務になるわよ?」
  「金を稼ぐっていうのは大概リスクが付き物さ。俺はカガミ、こいつはドントン。あんたは?」
  「私はメスレデル。帝都を拠点にするシャイア財団のエージェント。地下には同僚のアーミュゼイがいます、彼を助けてください」