天使で悪魔







人が造りしモノ





  迷宮の真相は謎のまま。
  そして謎と謎は互いに絡み合っていく。

  好奇心にご用心。
  何故ならその扉の先には……。






  「な、何だここは?」
  気が付いた時、俺達は外にいた。
  満天の星空の下。
  草原の中。
  誰一人欠けることなく俺達はいた。
  俺、ハーツイズ、グレン、ドントン、そして俺の肩にはサラ。誰一人欠けていない。
  ……。
  ……だがここはどこだ?
  確かヴァイスとか名乗る優男に下層に落とされたような?
  「ここはどこでござるか?」
  「さあな」
  夜風が気持ちの良い、星が輝く空の下。
  そこに俺達はいる。
  「兄貴、外に放り出されたのかな?」
  「かもな」
  完全に外だ。
  下層に放り込むとか言っておきながら外に放り出した?
  ありえんだろ、それは。
  あそこまで大口を叩いておきながらそんなへまをするか?
  うーん。
  「カガミ、どうすんの?」
  「どうするって……」
  「イズをお外でやっちゃうの? まあ、たまには斬新でいいかもねー。野生に戻って本能のままにお外でイズの豊満なバディーを貪ろうぜ☆」
  「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「AV業者カガミ、新たなる境地☆」
  「……」
  「うっわ黙秘? 認めちゃうの早すぎだぜー」
  「……」
  すいませんハーツイズさんが俺様を物凄い目で睨んじゃってるんですけど何か悪いことしました?
  仲間との信頼関係オワタ。
  何でこうなったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  おおぅ。
  「な、なあ、ハーツイズ」
  「イズ気をつけてね。カガミに名前を呼ばれただけで妊娠しちゃうから。カガミはまさに歩く性の伝道師ですなぁ☆」
  「……サラ様すいませんフロンティアに戻ったらご馳走しますので黙っててくれませんか……」
  「うむ。よろしい。言葉遣いも丁寧になってきたし。ようやくカガミも礼儀ってやつを覚えてきたね。あたしの教育の賜物ですなぁ」
  「……」
  うぜぇー。
  旅ガラスのマスコット?
  そうは思いません(泣)
  ともかく……。
  「帰るか」
  ここがどこかは知らないけど文明にあるところまで戻ろう。
  ヴァイスのへまで外に放り出された。
  まあ、結局そんなところだろ。
  ただここはどこだ?
  吹き荒び草原を揺らす風は涼風。
  少なくとも亜熱帯ではない。
  フロンティア周辺でないのは確かだ。
  シェイディンハル?
  そうだな。
  気候的にはシェイディンハルだが……見渡す限りの大草原か、シェイディンハルにこんなにも広大な草原はあったかな?
  まあ、全ての地形をそらんじてるわけではないからな。
  あるのかもみしれないしないのかもしれない。
  ともかく。
  ともかく文明のところまで戻るとしよう。
  「ねえ、カガミ君。ここって迷宮の中だとは想定できません?」
  「迷宮……外だろ、どう見ても」
  突然すごいことを言い出すハーツイズ。
  どう見ても外だ。
  野外。
  「確かにそれはそれでありそうでござるな」
  「おいおい、グレンまで……」
  「昨夜とは星図がまったくデタラメでござる。ここはシロディールでは……ないでござるな。少なくとも見たことがない配列の星々でござる」
  「ああ、そうか、グレン君は星が読めましたわね」

  バサバサ。

  耳元でサラが羽ばたく。
  「うるさいな」
  「カガミ、カガミ」

  「何だよ」
  「あんただけ役立たずですなぁ☆」
  「……」
  「でも安心して。あたしは役立たずで無能で不能なカガミのことが好きだから☆」
  「すいません不能って何ですか?」
  「その若さで薬に頼るカガミ君です☆」
  「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ黙ってくれーっ!」
  「相変わらず癇癪持ちですなぁ☆」
  「……」
  無視して歩くとしよう。
  無視して。
  ここがどこであるにしても見渡す限りの草原にいつまでも留まる気はない。
  そして数分後。
  俺達は異変に気付いていた。
  敵が何もいない。
  迷宮内だろうがただの草原だろうが何もいないのはおかしい。獣ぐらいいてもいいだろ、だけど何もいない。
  何かの力が働いているのか?
  そうかもしれない。
  そして俺達は何も遭遇することなく変なものを見つけた。

  「な、何だこれ?」
  「扉、よね?」
  「だよな」
  「ですわね」
  俺とハーツイズは間の抜けた声でその物体を見ていた。
  目の前に扉がある。
  鉄製の扉。
  それが草原にでーんと立っている。
  扉が?
  扉がだ。
  周りには何もない、扉だけがそこに立っている。周って裏を見てみる。やっぱりただの扉だ。
  何だこりゃ?
  「うーんっ!」
  引っ張ってみる。
  押してもみる。
  まったくビクともしない。
  「うーんっ!」
  「カガミ、カガミ」
  「何だよ?」
  「おっきい方がしたいならもっと隠れてしなって。まったく人前で気張りやがって変態かよカガミは」
  「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「うるせー☆」
  「……」
  何気にパターンだな、最近。
  おおぅ。
  「あ、兄貴」
  「どした?」
  「これ次の階層に続く階段だっ!」
  「へぇ?」
  ふぅん。
  これが次の階層に続く階段か。
  どうやらこれで完全にここは外ではなく迷宮の中ってことが判明したな。
  だがそうだとすると……。
  「カガミ殿、ガーディアンがどこかにいるのではないでござるか?」
  「いるだろうな」
  ヴァイスとかいう奴はガーディアンと戦わせる為に俺達を下層に落とした。
  肝心のガーディアンがいないとおかしい。
  だが何故だ?
  どうして戦わせようとする?
  俺達を殺そうと思えばラフィールの黒犬をけし掛ければいい。わざわざ下層に落として階層を護るガーディアンと戦わせる意味なんてないはずだ。
  何故だ?
  まるでガーディアンを倒して欲しいようにも思える。
  「カガミ、来たよ」
  「らしいな」
  サラの言葉に俺は後ろを振り返る。
  仲間達も。
  そこにいたのは漆黒の犬だった。
  ラフィールの黒犬のように黒犬の面をした人型の敵ではなく普通の黒犬。
  もっとも普通というのはあくまでフォルムが普通の犬という意味であって大きさはそうじゃない。
  大きさは牛ほどもある。
  鈍重そうな敵だ。
  これがガーディアンか?
  拍子抜けだな。
  「兄貴、油断しない方がいい。何しろどこぞの財団が死骸を金貨20000枚で買い取るほどの敵だからな」
  「20000枚か。おいしい相手だな」
  「強さは未知数だぜ、兄貴」

  「来るぞっ!」
  俺の叫びと同時に犬が飛びかかってきた。もっとも俺達は既にそこにはいない、叫びと同時に俺達も動作に移したからだ。
  獰猛で俊敏な黒犬は一定の間合を保って囲む俺達の顔を順に見る。
  今夜の食事を誰にするか決めてるってわけだ。
  だがっ!
  「食事にありつくのは俺達だぜ、てめぇの死骸を売ってなっ!」
  「斬っ!」
  「食らえーっ!」
  俺、グレン、ドントンは武器を抜き放って敵に肉薄っ!
  「なっ!」
  俺達の武器はむなしく空を斬る。
  ちっ。
  思っていたりも俊敏だ。
  華麗なステップで後退していく。口元に光る球体を宿しながら。
  魔力の光っ!

  ジャジャジャジャジャーっ!

  その光は無数に拡散しながら光線となって俺達に放たれる。たまらず防御しながら後退。もっとも命中率はデタラメで大半は方向違いに飛んでいく。
  何もない地面を抉る。
  俺達には1発も当たらない。防御して損したぐらいだ。
  どうやら命中精度はないに等しいらしい。
  「電光石火っ!」
  グレンが叫ぶ。
  ポウっとグレンの足が淡く輝く。脚部強化の付与魔法だ。
  速度を上昇させたグレンが奴に迫る。
  ガーディアンが唸った。
  身を震わせながら。
  そして次の瞬間……。

  バサっ!

  翼が生えたっ!
  蝙蝠のような翼を羽ばたかせて黒犬は漆黒の空を舞う。すぐに闇夜に紛れて見えなくなった。当然グレンの攻撃は届かない。ガーディアンは天に消えた。
  視認できない。
  夜の闇っていうのはこの為か?
  ここはアルディリアの迷宮内、ガーディアンにとって有利な環境っていうのも頷ける。漆黒の毛色に闇夜、見えなくて当然だ。
  そんな闇夜に新たな星が出現する。
  ……。
  ……ああ、いや。
  どうやら星ではなさそうだな。
  「カガミ君、あれ見てっ!」
  「ちっ」
  舌打ち。
  闇夜に光る球体が出現。
  奴の口に宿った魔力の光だろう。
  どうやら自分の能力を十二分に発揮できるだけの知能があるらしい。
  命中率の乏しい拡散魔力光をこっちの頭上に放つという行為はあながち間違いじゃない。地上から俺達に放つ際には地面が邪魔をして拡散には適さない。
  何発かは必ず地面に直撃してこちらには届かないからだ。しかし上空から放つ分には全てが降り注ぐ。地上から放つ際の無駄も生じない。
  厄介だな。
  あの犬、自分の力の使い方を知ってる。
  だが……。
  「グレン、俺が奴を打ち落とすっ! 行ける高さで奴を斬ってくれっ!」
  「了解でござるっ!」

  「雷帝・発剄っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  夜空に向って、奴に向って雷撃を放つ。
  直撃っ!
  奴が口に宿していた魔力の光は消失した。
  これで倒せるとは思ってない。
  何しろ相手は金貨20000枚の価値のある、アルディリアの迷宮の各層に1体限定の敵だ。いくら俺様の必殺の一撃でも易々とは死なないだろう。
  それでも。
  それでもダメージは大だろう。
  実際安全圏内の上空から攻撃を仕掛けようとしていたガーディアンは雷撃を受けて視認できる距離まで落下してきていた。

  その瞬間、紅蓮は大きく跳躍する。
  グレンの脚部強化の魔法は速度上昇だけでなく軽業上昇の効果もある。
  高く。
  高く。
  高く跳躍。
  夜空にきらっと閃光が光る。
  斬ったっ!
  「……すげぇ太刀筋だな、兄貴……」
  「グレンの剣の腕は一流だからな」
  おそらく旅ガラスでは随一だろう。
  ……。
  ……ま、まあ、旅ガラスには俺とハーツイズとグレンしかいないから随一と言っても対抗馬はほぼいないんだが。
  それに実際には俺とグレンはやりあったことはない。
  訓練はある。
  だが実戦ではない。
  別に奴より弱いと時分の腕を卑下はしていないが……勝てるかと聞かれれば、かなり微妙だ。
  まともにやり合えばどっちかが死ぬのは明らかだからだ。
  まあ、お互い仲間同士。
  わざわざやり合う必要性もないし優劣をハッキリさせる必要はない。
  仲間なんだしな。
  さて。
  「完了でござる」
  「おう。お疲れさん」
  地面に降り立ったグレンは刀を鞘に戻す。
  転がる2つの肉塊。
  犬の上半身と下半身だ。
  「終わったな」
  「だねー。カガミもこれでお終いだぜ☆」
  「……なあ、今の言動はさすがに脈絡なさ過ぎだと思わないか、サラ?」
  「全然☆」
  「そ、そうですか」
  「まだまだ修行が足りないですなぁ」
  「……」
  ま、まあいい。
  ともかくこれでガーディアンは滅した。まだ上半身の方が動いているけどすぐに死ぬだろ。どちらにしても身動きは取れないわけだから始末は容易い。

  ズリュ。

  『はっ?』
  下半身が、生えた。
  な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
  「ど、どういうことですのっ!」
  「し、知るかよっ!」
  それもただ生えただけじゃない。
  斬られた部分が境界線として目立つ。何故なら再生した下半身は黒い毛皮ではなく黒いうろこ状な外観。
  堅そうだ。
  さらに……。

  ズリュ。

  「な、なんだよっ! うげーっ!」
  ドントンが隣で吐いた。
  気持ちは分かる。
  ガーディアンの上半身の部分の皮が全部削げ落ちた。皮が削げ落ちたグロテスクな姿。だがそれも数秒だ。すぐに黒いウロコがびっしりと覆う。
  再生、ではないな。
  これは……。
  「進化」
  おそらくグレンの一撃を耐える為の進化なんだろうが……こんなデタラメな敵は知らんぞ、今まで遭遇した事もないっ!
  化け物っ!
  「カガミ君、これは厄介だわ」
  「ハーツイズ、こいつはオブリビオンの化け物か?」
  「オブリビオンの悪魔だって法則がある。でもこいつはその法則を無視した存在よ。人が造りしモノ、歪んだ外法で造られた存在だわ」
  「人が……?」
  「様々な生物の合成体、キメラよっ!」
  「……なあ、俺今物騒な事を考え付いたんだが聞いてくれるか?」
  「何ですの?」
  「こいつ俺達の攻撃や動きを学習して強くなってる、進化していく。つまり……際限なく強くなるてことか?」
  「それはないよカガミ」
  答えたのはハーツイズではなくサラだった。
  ただしサラの否定の意味は楽観的なものではなく、それは俺達にとって悲観に満ちた憶測。
  「カガミ達に合わせて進化していく、それはつまりカガミ達の能力を超えた時点で進化は止まるよ。だってこれ以上学習しようがないんだから。際限はあるよ」
  「……サラっと言うなサラッと」
  「さぁて。あたしは次の飼い主見つけよーっと」
  「逃げるなーっ!」
  「てへ☆」


  VS地獄の猟犬っ!