天使で悪魔







アルディリアの謎






  謎は謎であるべきだ。
  解き明かそうとする好奇心が身を滅ぼす要因なのだから。






  街では色々と面倒な展開があったが、現在はアルディリアの迷宮の第二階層『遺跡』を探索中。
  アルディリアの迷宮は第三階層まで開放されている。
  最下層は第八階層。
  先は長い。
  先は……。



  俺達は迷宮を進む。
  特に第一階層と変わりはしない。第一階層は『廃墟』。ここ第二階層は『遺跡』。だが結局同じだ。
  つまり背景が異なるだけだ。
  後は徘徊する敵のカテゴリーだけだな。
  まだまだ展開はぬるい。
  緩やか過ぎる。
  もちろん傭兵集団『旅ガラス』である俺達(ドントンはあくまで案内屋なのだが)のレベルが高いという意味合いもあるだろう。俺達が強過ぎで敵が雑魚過
  ぎるわけだ。いやいや、強すぎるのも罪ですなー。
  第二階層を進む。
  歩く。
  歩く。
  歩く。

  『……』

  俺達は無言で進む。
  当然ながら武器は抜いている。抜き身だ。
  先頭はドントン。まあ、案内屋(二階層までしか道順は知らないようだが)だからな。ドントンが右手で剣、左手で松明を持って進む。
  その次に俺、グレン、ハーツイズ。
  歩く。
  歩く。
  歩く。
  突然ドントンは止まる。
  意味は分かった。
  「兄貴」
  「ああ」
  振動が伝わってくる。
  曲がり角の向こうからだ。壁に黒い影が映る。そして『それ』は近づいて来た。
  曲がり角から現れたのは……。

  「雷帝・発剄っ!」
  「凍える魂っ!」

  雷の魔法。
  氷の魔法。
  俺とハーツイズの魔法がコラボ。
  現れた人型の巨石、ゴーレムを簡単に打ち砕いた。
  ……。
  ……すいませんね盛り上がりもなくぶっ倒してしまってよ。
  はっきり言って雑魚だ。
  雑魚。
  ゴーレムなんて鈍いだけの的でしかない。まともに普通の鉄の剣で戦ってたら、まあ、苦戦するだろうが俺達の敵ではない。
  俺もハーツイズも魔法が使える。
  俺は呪いのドライバーであるドライを所持しているしグレンだって妖刀の保持者だ。ついでに言うとグレンは回復系のエキスパートでもある。元聖堂
  騎士だしな。結局のところドントン以外は魔道戦力なわけだ。
  まっ、俺達『旅ガラス』に死角なしってわけだ。
  さて。
  「ドントン倒したぜ。さっ、先行してくれ」
  「了解した」
  促す。
  この青年の前身はよく分からんが剣の腕は確かだ。
  剣筋に天性のものは感じないが長年の修練の成果を感じる。
  結局何者なんだろう?
  歩きながら考える。
  「カガミ殿」
  「ん?」
  その時、真後ろのグレンが声を掛けて来た。
  「何だ?」
  「流血傭兵団はここで我々を待ち構えていると思うでござるか?」
  「さてな」
  「奴ら、そもそもどうしてこんな迷宮に?」
  「俺達と一緒で路銀がないんじゃないのか」
  「……投げやりでござるな」
  「連中の話題はあまり好きじゃないんでな」
  「それは同じでござるが……」
  「……」
  俺はここで会話を打ち切った。
  流血傭兵団。
  戦場で敵と戦う傭兵団ではなく戦場とは無縁の村々を襲う集団。もちろん襲うのは敵領の村だ。そうする事で敵勢を挑発する。
  もちろん。
  もちろん連中に依頼する軍の奴らも悪い。
  だが流血傭兵団はそれを嬉々として行っている。既に人格崩壊した駄目人間集団だ。
  感性的に好きではない。
  「カガミ君、私も質問があるんだけど」
  「何だハーツイズ」
  「『狩神』って知ってる?」
  「……? カガミ? 俺の名前だろ?」
  「いえ。そういう組織、もしくは集団。知らない?」
  「知らん」
  「そう」
  何なんだ?
  狩神。
  うーん、知ってるような知らないような……まあいいさ。そいつらがどこの連中かは知らないが俺には関係ないさ。
  ……。
  ……多分な。
  それにしても思うのは……。
  「サラ、随分と静かだな」
  俺の肩の上の白いカラスに声を掛ける。
  さっきからずっと沈黙だ。
  珍しい。
  何かあったのだろうか?
  「気分でも悪いのか?」
  「うっわ声掛けるんじゃねぇよ馬鹿☆」
  「はっ?」
  「今頃読者は『サラたん、どうして喋らないんだろ? まさかカガミのクソヤローに食べられた?』と疑ってたところなのに。ちっ、伏線読めよー」
  「すいません意味分かりません」
  「やれやれだぜー☆」
  「……」
  それは俺の台詞だと思うんだが気のせいだろうか?
  おおぅ。
  くすりとドントンは笑う。最初に比べるとこいつも打ち解けたものだ。
  「兄貴。この通路を抜けたら次の階層への階段だ」
  「そうか」
  これでようやく第三階層で唯一冒険している『片翼の天使』どもに追いつけるわけだ。
  世界最強の集団?
  甘い。
  俺達が世界最強だと教えてやるぜ。
  その時。

  「カガミっ!」
  「はあっ!」
  鋭いサラの声と同時に俺はドライを横に一閃、突然襲い掛かってきた影を薙ぎ払った。
  鎧袖一触。
  ドサ。
  転がったのは屈強のノルドの戦士。
  顔は見た事がないが誰かは知っている。
  正確には『何者』かだな。
  パチパチパチ。
  拍手が響いた。
  「悪趣味だな、待ってたってわけか?」
  「ええ。カガミさんとは古い付き合いですからねぇ」
  「悪いが関係を深めるつもりはねぇよ」
  「それは手厳しい」
  「それで何の用だ、マドゥルク。お前にここまで祟られる理由は悪いが思いつかねぇんだが……教えてくれると嬉しいんだがな」
  「友達でしょう、我々は」
  「論外だな」
  「それは手厳しい」
  眼帯巻いた法衣の爺マドゥルク。
  元々はエルダースクロールズを解読していた宮廷魔術師だったという過去を持つ。エルダースクロールズを読み続けると眼が潰れるというし奴が眼が見
  えないのはそういう理由なのだろう。まあこいつの過去がデタラメでないという保証はどこにもないがな。
  ともかく。
  ともかく盲目なのは確かだろう。
  仮に見えるのだとしても両目を眼帯で塞いでいる以上、見えるはずもない。

  ざわり。

  気配が動く。
  気が付けば俺達の周囲は包囲されていた。
  屈強の戦士達。
  流血傭兵団の団員どもだ。
  この屈強の荒くれどもは無抵抗な村々を襲撃し、略奪し、暴行し、殺戮するのが大好物な人間の屑どもだ。流血傭兵団の構成員は全員戦争で頭の線が
  完璧にプッツンしているものの強い。まあ腕力オンリーでやり易いといえばやり易いけどな。
  傭兵集団『旅ガラス』は魔道戦力。
  腕力馬鹿どもには負けないさ。
  そもそも誰一人この状況を臆していない。
  さて。
  「外道どもとの決着、そろそろ付けたいと思っていたところでござる」
  「怨霊ちゃんに食い尽くしてもらいましょうかねぇ」
  「兄貴、指示をっ!」
  構える仲間達。
  数にして40人対4人。
  だが決して臆する状況ではない。
  決してな。
  俺はドライを無造作に構えたまま一歩踏み出した。流血傭兵団の団員どもはざわめくものの、マドゥルクがそれを手で制した。
  「カガミさん」
  「何だ?」
  「この迷宮の奥底には面白いものがあるんですよ。私はそれが欲しいっ! ……ただ、戦う前に今まで嘘を付いていた事を懺悔したく思います」
  「懺悔?」
  「はい」
  「好きにしろよ」
  「それは結構。実はカガミさん、私は貴方が好きなんですが……それ故に嫌いなのですよ」
  「ほう?」
  「どうせ殺しは殺し。なのに貴方は私だけを侮辱する。同じ人殺しの分際で生意気なんですよ。そして貴方は知らない。本当の悪夢を。……ここはね、悪夢
  が具現化する迷宮なんですよ。私はその力が欲しいっ! 誰もが等しく悪夢を見るべきだっ! 私だけではなくっ!」
  「私だけではなく? どういう意味だ?」
  「私の眼は真なる闇。それは悪夢。全ての者に等しく悪夢をっ! それが平等、そうでしょうっ!」
  「結局そいつが本音か。ようやくラストバトルらしくなってきたな」
  「殺せっ!」


















  「ヴァイス」
  「何か?」
  「貴方も参戦したらいかがですか? ……上はなかなか楽しい展開のようですからね」
  「お望みとあれば」

  アルディリアの迷宮の最下層に潜む者達の暇潰し。
  それがここの流儀。
  そして悪夢は踊るのだ。