天使で悪魔







旅ガラスの実力





  実力とは何?
  実力とは他者を屠る事。






  第二階層『遺跡』。
  とりあえずハイランドの自称王女の話は置いといて俺達はアルディリアの迷宮第二階層『遺跡』を突破すべく行動を開始した。
  前回はいなかったハーツイズも今回は同行。
  さてさて。
  突破するか。






  「兄貴っ!」
  ドントンが力任せにガーゴイルを剣で斬り付けつつ叫ぶ。
  警告の声だ。
  ただドントンにとってはそれが精一杯だった。奴が持つ剣では石像であるガーゴイルを斬り伏せるのは容易ではない。というか不可能だろう。少なくともドントン
  の腕では石は切断できない。ドントンに必要なのは剣ではなくメイスだろう。
  まあいいさ。
  とりあえず死ぬ事はないだろう。
  ドントンにガーゴイルを倒す武器はないが、ガーゴイルの攻撃で倒されるほど安い腕ではない。
  一体ぐらい受け持ってもらうとしよう。
  さて。
  「おらぁーっ!」
  俺は呪いのドライバー『ドライ』を振るう。
  魔力をドライに注ぎ込む事で爆発的に魔力を増幅、それを叩きつける事でどんな敵を粉砕出来る……のだがそこまでする必要もない。魔力を注がずともドライ
  そのものにも魔力がある。魔力の帯びた武器は偉大だ。例え石だろうが粉砕出来る。
  容易にな。
  「次行くぜ、次。ドライっ!」
  「かしこまった」
  石像の化け物を粉砕。
  砕け散った敵はすぅぅぅぅぅっと消失した。アルディリアモンスターの特性だ。死んだら何一つ残さずに消失する。
  考えてみれば分かりやすくていいな。
  死んだ振り攻撃に合わずに済むわけだから。
  既に乱戦。
  グレンは魔剣で、ハーツイズ魔法で。
  それぞれ得意の攻撃で敵を粉砕している。
  第二階層の敵は石像メインらしい。ガーゴイルにゴーレム。堅い敵がメイン。しかし魔力を帯びた武器に堅さは関係ない。
  俺達は全員魔力攻撃が出来る。
  武器にしろ魔法にしろな。
  ……。
  ……そう考えるとドントンは貧弱な奴だな。
  武装にしろ能力にしろ。
  剣の腕は光るモノが、まあ、あるとは思うが……魔法を覚えるか魔力剣を1本購入するように勧めないといかんな。
  この先も遺跡を潜るつもりなら必要な事だ。
  「カガミ、来るよっ!」
  「分かってるっ!」
  白いカラスのサラの声と同時に、俺は右手を振り上げたゴーレムに突進。そのまま相手の右足を砕いて通り抜けた。
  ドゴォォォォォォン。
  足が砕けてそのまま倒れるゴーレム。
  そしてバラバラになった。
  脆いな。こいつら。
  ドライが強力なのは分かるがゴーレムにしてもガーゴイルにしても脆い。
  純粋の石の強度ではないのかもしれない。
  まあいいさ。
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  ドライに魔力を込める。
  迫り来る石像軍団。
  「チャージ完了ですぞっ!」
  「ああ、分かったぜドライ。必殺、悪夢の15番ホールっ!」


  そして。
  そして閃光が閃いた。



  石像軍団を蹴散らして俺達は進む。
  「さすがは兄貴、強いですね」
  「お前も魔力装備使えよ。自腹で買えって」
  自腹?
  自腹だ。
  当然だろ。わざわざ俺が買い与えるわけないだろ、そんな出費を負うつもりはないさ。いかに弟子とはいえな。
  「うっわカガミってばケチですなー。……毎夜毎夜ドントンは体で払ってるんだから買ってやれって」
  「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「体で払えと強制する鬼畜男のカガミ君です☆」
  「殺すぞてめぇっ!」
  「はいはい。口だけ男キター」
  「……」
  「まっ、あたしの人気うなぎ上りだから便乗してけよカガミ。あたしの人気の理由? 強いてあげるなら声が林原めぐみだからかなぁ☆」
  「……」
  無視しよう。
  無視。
  俺達は立ち塞がったゴーレムやらガーゴイルやらを蹴散らした。
  数こそ多かったものの俺達は実力で圧倒。
  撃破した。
  第一階層もそうだったがアルディリアモンスターは怒涛の勢いと数で向ってくるものの、それほど強くはない。
  紙の軍隊とは言わんが蹴散らすのは容易い。
  ……。
  ……もちろん俺達だから簡単に行けただけの話だ。
  他の奴らなら100回は死んでる。
  それにしても。
  「人は少ないでござるなぁ」
  「そうですわね」
  グレンとハーツイズの会話の内容。
  それは迷宮の人口比率だ。
  とりあえず他の冒険者とは遭遇していない。
  まあ意味は分かる。
  この間、下層にしか出てこないはずの『ラフィールの黒犬』が上層に上がって来た。その結果、第二階層で修練していた冒険者の面々は斬殺された。その結果
  として迷宮人気が下がったのだ。危ないぞこの迷宮は、という事になったのだ。
  現在、まともに迷宮に潜っているのは数少ない。
  俺が知る限りでは……。

  傭兵集団『旅ガラス』。
  世界最強集団『片翼の天使』。
  虐殺を続ける『流血傭兵団』。
  帝都から来た金持ちの組織した冒険者達。

  とりあえず知る限りでは四つだ。
  もちろん他にもいるだろう。細々とやってる冒険者達もいるにはいるだろう。だがあまり脅威にはならないと思う。
  脅威?
  つまりは競争相手って事だ。
  その時……。

  「あんたら、先に進むのはやめときな」
  「あん?」
  前方からこちらに向かってくる面々がいる。
  冒険者だろう、多分。
  数は3人。
  俺に声を掛けてきたインペリアルの男、カジートの戦士、ノルドの女戦士の3人構成だ。
  見た感じ『その他大勢』的な奴らだな。
  俺は聞き返す。
  「何故、先に進むなと言うんだ?」
  「流血傭兵団とかいう連中が次の階層に続く扉の辺りに陣取ってるからさ」
  「流血傭兵団か」
  何気なく呟く。
  あの連中とは戦場で色々とあった。
  実際にやり合ったのは数回ではあるものの、連中のやり口は気に入らない。
  無抵抗の村落を潰す事で敵を煽って徴発する。
  もちろん連中の自発的な行動ではなく雇い主の意向なのは承知ではあるが……少なくとも請ける側にも問題があるだろう。俺達ならそんな事はしない。同じ
  傭兵であり結局は人を殺すのは変わらないだろうが、俺は連中を認めていない。
  向こうもそうだろうな。
  俺達を甘っちょろいと思っている節がある。
  むろんそれならそれでいい。
  元々折れ合うつもりも分かり合うつもりもないわけだからな。
  とことんぶつかり合う。
  それだけの話だ。
  「陣取って何してるんだ?」
  「そこまでは分からん。我々は『ありゃ危ないな』と思って引き上げたんだからな。……無視して進んだらどうなるか、それは考えないようにしてる」
  「なるほどな」
  俺達に進むなと警告して冒険者達は引き上げて行った。
  確かに。
  確かに懸命だろうな、引き上げたのは。
  そもそも虐殺専門の流血傭兵団がどうして迷宮に潜っているかの真意がよく分からんが、真意はともかくとして血と死を撒き散らすのは連中のお家芸だ。気分
  次第で冒険者といえども殺すのはお手の物だ。
  俺達は退く?
  ……。
  ……まさかな。
  流血傭兵団を仕切る団長マドゥルクが何を待っているかは分からないが俺達が介入してやるさ。
  決着を付けてやる。
  戦場ではなく迷宮の奥底でな。
  「ハーツイズ」
  「行けますわ」
  「グレン」
  「連中とはケリを付けたいと思っていたでござる」
  「ドントン」
  「任せろ兄貴」
  「サラ」
  「……分かった。あたしを抱いて☆」
  「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「本気にするなよこのやろー☆」
  サラ嬢、無敵です。
  おおぅ。
  「よっしゃ野郎ども、あたしに付いてこーい☆」
  『おーっ!』
  いつの間にか全員纏めてるし。
  白カラスのサラ侮れん。
  いつも元気なムードメーカーとして旅ガラスを盛り上げてくれている。……多分な。
  さて。
  「行くぜっ!」
  俺達は進む。
  第二階層『遺跡』の最奥に。






  その頃。
  第二階層『遺跡』最奥。

  「団長」
  「……」
  「マドゥルク団長」
  「……ああ。どうしたのかね?」
  「次の階層に進まないのですか? ここで待つ意味は?」
  「次の階層には『片翼の天使』がいます。別に連中を恐れる事はしない。しかし『旅ガラス』と挟み撃ちは面倒ですからねぇ。先に連中を潰す事にします」
  「なるほどっ! さすがは団長っ!」
  「お褒め頂き感謝ですよ」
  基本的に。
  基本的に流血傭兵団の団員は純戦士であると同時に脳筋。さらに戦争での虐殺と略奪と暴行を繰り返しているので頭脳が麻痺している。
  頭脳は団長のマドゥルク任せであり団員は全て手足。
  さて。
  「目に付く者は全て殺して構いませんよ」
  『おうっ!』
  逞しい肉体を持つ男達は嬉々として叫ぶ。
  そんな様をマドゥルクは侮蔑の込めた視線で眺めるものの、団員達はそんな事にも気付かない。
  老人は呟く。
  「カガミさん、挑んできなさい。そして教えてあげますよ。本当に虐殺しているのはどちらかをね。……貴方と私はきっと友達になれる。ふふふ」

















  その頃。
  アルディリアの迷宮、第一階層『廃墟』。

  「スイートウォーターでアーガマは完成しました。准将も首を長くしてお待ちです。大佐がいなければモビルスーツは動かせないのですから」
  「……すいませんシャルルさん。俺は愛染なんですが?」
  「まったく付き合い悪いですねぇ。そこは『キグナン、私は大尉だよ』というのがお約束」
  「約束なんっすか?」
  「当然です。法律ですね」
  「……」
  「まあいいですよ。とりあえずは第一階層突破です。それにしてもぬるいですねぇ、この難易度。とっとと調査を片付けて若の元に帰るとしましょう」
  「ですな。それにしても若はどうしてこんな迷宮を気にして、イニティウムの我々を派遣したんですかね?」
  「秘宝目当てでしょう」
  「秘宝? この迷宮の奥にあるとかいう?」
  「秘宝はワンピース」
  「はっ?」
  「海賊王に俺はなるっ!」
  「……すいませんシャルルさん段々キャラ性が悪ふざけになってますぜ?」

  黒の派閥、第一階層突破。