天使で悪魔
冒険者の街フロンティア
宿命は絶対?
運命は絶対?
冒険者の街フロンティア。
未開の森にある街。つい最近出来上がった街だ。
創設者は冒険王ベルウィック卿。
世界一の冒険者として有名な彼は冒険で得た財宝の一部を帝国元老院に献金して子爵になった(爵位の買取は合法)。その後私財を投じて冒険
者の街フロンティアを創設、今に至る。
街の住人は冒険者、冒険を支援する者(武器屋、防具屋、道具屋、情報屋、宿屋等)、そして一般市民。
固定人口は約130名。
しかし常に冒険者が街を行き来しているので実際には固定人口の2倍はいる。
周辺には様々な砦、洞穴、遺跡がある。
冒険には事欠かない。
だからこそ。
だからこそ冒険者の街フロンティアはわずかな間に軌道に乗り発展を続けているのだ。
仕事の話も無数にある。
仕事の類を取り纏めるのは冒険者ギルド。
街の治安は冒険者によって維持されている。
これはベルウィック卿の政策の1つ。ベルウィック卿は兵士の駐留を認めなかった。領主であるにも拘らず兵士を唯一抱えていない。フロンティアは
あくまで自由な気風をモットーにしたかったからこその判断だ。
かといって法律がないわけではない。
この街の法律は他の街に比べて厳しい(実際にはスキングラードの方がフロンティアよりわずかに厳しいのだが)。
仕事にあぶれた冒険者はベルウィック卿の私兵として一時的に抱えられる。そうする事で仕事にあぶれた冒険者の生活苦を救い、かつ治安維持
に必要な兵力を有するのだ。類稀な政治手腕を持つ者としてベルウィック卿は民衆の支持を得ている。
往来を歩く。
創設されてまだ日が浅いので地面は石畳にはなっていない。土の大地。そもそも街を覆う塀も木製だ。
横一列に歩く。横幅は結構長いから問題はない。
俺達三人と一羽はフロンティアに今、いる。
「相変わらず暑い気候だぜ」
ブルーマで数日過ごしてから俺達『傭兵集団旅ガラス』は冒険者の街フロンティアにやって来た。
スカイリム〜ブルーマの区間は極寒の雪国。
……。
……まあ、スカイリムに比べたらブルーマは温暖な気候なんだろうけどな。
いずれにしても寒過ぎて既にその感覚すら分からなくなってた。
で今はフロンティアにいる。
ここは亜熱帯の気候だ。
レヤウィンよりも過ごし辛い。密林の中にある街だからか虫が多いし好きではない。しかし金にはなる街だ。仕事はゴロゴロしている。さすがに傭兵
としてのの仕事(戦争、紛争の類)はないだろうが金になる他の仕事はゴロゴロしている。
冒険者の街。
稼ぐには絶好の街だ。
冒険者ギルドと戦士ギルドはそう大差がないが……冒険者ギルドは戦士ギルドとは異なり義務が少ない。
つまり命令される事はない。戦士ギルドは状況によっは上から命令される事があるらしいが冒険者ギルドはそうではない。
縦構成の組織ではないからだ。
「あんまり好きじゃないぜこの気候」
「うっわカガミまた不服?」
「ああ。嫌いなもんは嫌いなんだよ」
「じゃああんた嫌いなあたしはどーすればいいのさ? けっ。いっつも我慢してるってのによぉー」
「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「好かれてたと思ってたのかパンツ黄ばみ男☆」
「……」
無視しよう。
無視っ!
当然ながらサラの声は俺達以外……つまり街の住人や冒険者達に聞こえている。周囲にいる連中にはな。
往来で『黄ばみ』云々言われるのはたまらん。
無視だ無視。
……。
……しかしさすがは冒険者の街フロンティアだな。
カラスが喋るのに何の抵抗もないらしい。
世界は不思議に満ちている事を知っているのだろう……とりあえず綺麗に纏めてみる。
さて。
「ここがそうね。私達はこの街初めてだけど……ここでいいのよね、カガミ君?」
「カガミ殿」
一軒の建物の前でイズとグレンが足を止めた。
俺も止まる。
「ああ。ここだ」
冒険者ギルドの建物。
俺達は扉を開けた。
「よぉ久し振りだなカガミ。最近はどこで戦争してたんだ?」
「最近はしてねぇよ」
カウンター席に座って店主であり冒険者ギルドのインペリアルの管理人と話をする。
管理人の歳?
さてな。
髪白いし結構いってるだろう、多分な。
冒険者ギルドの内装は戦士ギルドとは大分異なる。
まず第一に冒険者ギルドの内部は酒場。宿無しはここに泊まれる(格安ではあるが料金は当然掛かる)。ここは依頼を受ける場所であり情報交換
の場所でもあるのだ。
街の創設者が元冒険者だからな。
冒険野郎の心を充分に理解している。
ちなみに管理人。冒険者ギルドのギルドマスターという意味ではなくあくまで依頼の斡旋役&情報屋としての側面を持つ立場だ。
ギルドマスター?
当然ベルウィック卿だ。
「まずは何か飲むか?」
「当然だぜ。スリリー産のワインをくれ。……お前らは水飲め、水。無料だしな」
仲間達に言い放つ。
リーダーたる者、メンバーの生殺与奪の権利を有しているのだ。
ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははリーダー最高っ!
「うっわカガミそれ横暴。……多数決取ります、新しいリーダーにあたし立候補☆」
「賛成ですわ」
「賛成でござる」
なっ!
クーデター勃発っ!
「よってこれより傭兵集団旅ガラスはこのあたしサラちゃんがリーダー務めます。カガミだけ水飲め☆ あたしら全員お酒ね☆」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「うっわ逆らうの? 数の暴力……じゃない、民主主義の勝利に抵抗するの?」
「……すいません皆仲良くお酒飲みましょう……」
「最初っからそう素直に言ってればよかったのだよカガミ。これだから短くて小さくて早い奴は困るぜー」
「……」
うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
何なんだこのカラスはっ!
生意気過ぎだろーっ!
自称傭兵集団旅ガラスのムードメーカー、言葉は辛辣です。
……。
……ちくしょう。
俺様はリーダーじゃないのかよー。
くそぉっ!
ともかく。
ともかく改めて酒を頼む。もちろん全員分だ。
水云々は冗談だったんだが……サラは俺よりも上手だった、口で勝てた事がねぇ。
サラの口撃力(攻撃力にあらず)最強だぜ。
おおぅ。
「ふぅ」
酒を啜る。
とりあえず一息付けた。
「おっさん」
インペリアルの管理人を呼ぶ。
客(冒険者)は俺達だけではない。管理人はカウンターに座っている別の客と談笑していたが俺の声で振り向いた。
「どうした?」
「何か儲け話はないか?」
「傭兵の仕事か?」
「……あのな。俺はこの街初めてじゃないんだよ。戦争関連の依頼がこの街にある分けないのは知ってる」
「そりゃ助かる。説明するのが面倒だからな」
管理人任されるだけあって世故長けている。軽く受け流された。
ワインを飲みながらイズが口を挟んだ。
「世情はどんな感じ?」
当傭兵団の参謀は世情を知りたがった。
まあそうだな。
スカイリムでは傭兵の口を探してうろちょろと徘徊していただけだし、ブルーマでは骨休めしていただけ。世情は疎くなってる。
皇帝が死んだのは知ってるけどな。
さて。
「世情かい?」
「ええ。最近どんな事がありました?」
「そうさなぁ」
怨霊使いという物騒な職業(職業か?)ではあるもののイズは物腰は柔らかい。社交的だ。
グレン?
あいつは『男は無口が一番』とか思ってる奴だからな。
喋りを期待する方が間違ってる。
で現在の世情どんな感じだ?
親父は言う。
「ブラックウッド団が潰れたな。何でもアルゴニアン王国の強硬派の尖兵だったらしい。軍と元老院も一枚噛んでいたらしいよ」
「へぇ。それで他にはあります?」
「王宮に盗賊が侵入して何とエルダースクロールズを強奪したらしい。……ああ、あとは盗賊ギルドでグレイフォックスの代替わりがあったらしいよ。
前のグレイフォックスがどうなったかは誰も知らないけどな。新グレイフォックスは元老院と港湾貿易連盟を狙ってる節があるな」
「へぇ。それで他にはあります?」
「他に? ……そうだな、スカイリム解放戦線が壊滅したな」
それは言われるまでもない。
知ってる。
俺達はスカイリムに仕事に行ってたんだからな。
イズは頷いた。
「知ってます」
「へぇ。そうかい。じゃあ連中の残党がシロディールに逃げ込んだのも知ってるかい?」
「それは初耳ですわね」
ちっ。
あの連中、国境越えて逃げ込んできたか。
既に軍(元々ゲリラ的な軍事力しか有していないが)として機能しない以上、テロ行為に走るだろうな。
……厄介だぜ。
……。
俺達は確かに傭兵。つまりは戦争屋ではあるが無用な争いが欲しいわけではない。
既に起きてる戦争&紛争は生活の場として利用しているがそれだけだ。
さて。
「おっさん。何か仕事の口はないのか?」
「相変わらず口汚い奴だな、カガミ」
「いいじゃねぇか。で仕事はあるのか?」
「ああ。あるよ」
ドン。
カウンター席に分厚い辞典のようなものを置く。
いや辞典ではない。
依頼のファイル。
……っておいっ!
「なんだこの量はーっ!」
俺は前に……と言っても数週間程度だかフロンティアを拠点に金を稼いでいた。まだイズとグレンと出会う前だがな。
サラと一緒に仕事していた。
だから分かる。
依頼のファイルの厚さ半端じゃねぇー。
「景気がいいのか?」
「そうじゃないんだよカガミ。冒険者が仕事をしないんだ。他の事で手一杯だからな」
「他の事?」
「アルディリアの迷宮さ」