天使で悪魔
白昼の決闘
起こった事象には全て意味がある。
何も感じないのはそれはただ気付いていないからだ。
冒険者の街フロンティア。
大通りで戦闘勃発。
いきなり攻撃をかましてくれた相手は奇妙な弓(弦を引くと光の矢が具現化する)を手にした少女キャバリディア。
誰だか知らん。
誰だか知らんが突然攻撃した来たのだから、敵対関係。
不意打ちで俺は怪我をしている。
治療費、請求してやるっ!
ざわざわ。
大通りでの、しかも時間的に人通りが多い時間帯だから見物人が多い。
俺達を取り囲む形で見物している。
ちっ。
暇人どもめ。
厄介なのはこの街には純粋な兵士は存在しないという事だ。この街の創設者であるベルウィック卿は兵士は不要として1人も抱えていない。基本的に
この街の治安に携わるのは冒険者。冒険者が治安に関わっているからか、冒険者同士の小競り合いには甘い。
一般市民に害を成さない限りは結構手抜きだ。
……。
……まあ、邪魔が入らないのはいい事だがな。
もちろん俺の相手は小娘だ。
もしかしたら邪魔が入るかもしれない。そうそうにお仕置きして治療費を頂くとしよう。
俺は鬼畜か?
いいや。
俺様は被害者だ。全面的に被害者であり全面的にあいつは加害者。
治療費を請求させてもらうぜっ!
さて。
「覚悟はいいか、小娘」
「魔物に与する者め。このボクが誅してやるっ!」
「うっわ聞いたカガミ『チューしてやる☆』だってさ。案外カガミの気が引きたいから攻撃しただけだったりして。ロリコンにはたまらない状況ですなー☆」
無視だ無視。
チャッ。
俺は呪われしドライバー『ドライ』を構える。
結構傷負わされたものの別に全力でドライを振るって消し飛ばすような事をするつもりはない。てかそんな事したらさすがにまずいって。フロンティアの
冒険者全てを敵に回す騒動になるだろう。さすがにそこまでする気はない。要は謝罪と治療費が欲しいだけだ。
さて。
「最後に聞くぞ。謝る気はないのか?」
「ないですね」
「何故だ?」
「だってボクはその喋るカラスと喋る棒切れ、その2つを排除しようとしただけ。そいつらは魔物、そう魔物っ! ボクが決めたんです魔物に決定っ!」
「……」
こいつすげぇ餓鬼だ。
いやまあリアルに餓鬼なんだが、こんな奴を野放しにするなよ保護者。
もっと面倒なのは強力な未知の武器を有している事だ。まさかこいつが『実は二十歳☆』とかいう展開はないだろうから、あの武器は親が与えたんだろ
うな。もしくは親代わりがな。どっちにしろ物騒過ぎる代物と物騒過ぎる発想の持ち主として野放しは出来ん。
「悪い子はお尻ぺんぺんだぜっ!」
「うっわカガミそれってセクハラしたいだけなんじゃない? ……きっと叩くだけじゃなくて色々するんだろうなー」
「色々とって何だボケーっ!」
「げっへっへっ☆」
「……」
エロガラスめ。
それに余計な事を大声でいうから誤解されてるじゃないか。……何故か俺がな。
ちくしょう。
「鬼畜キターっ!」
「ロリコンかよあいつ。同じ男として恥かしいぜ」
「頑張ってねお嬢ちゃん。あたし達は貴女の味方だから。だからそんな男、粉砕してっ!」
「助太刀するぜ、万が一の時はなっ!」
「そこの男、死ねっ!」
痛い。
痛いです言葉が痛いーっ!
何か既に街の人間全てを敵に回したような感じなのは気のせいだろうか?
あっ。頬に何かが伝った。
水だ。
……。
……ああ、雨が降ってきたのかー。
あれれ?
もしかしてこれは涙?
悲しくないのに涙が出るなんて変なのー。
「うっわカガミあんた泣いてんのっ!」
「……泣いてねーよ」
「仕方ないじゃん。ロリコンは病気なんだから。あんたが悪いんだよ、反省しなって。悪い子はお尻舐め舐めだぜー、なんて言うから」
「言ってねーよっ!」
「てへ☆」
「……」
そうでした。
そうでしたとも。
サラの口車に乗ると展開が妙な横道に逸れるのを忘れてました。何気にサラが俺の人生のラスボスなんじゃないだろうな?
おおぅ。
「そういえば」
「あん?」
「貴方の名前を聞いていませんでしたね」
「俺の名は……」
「こいつの名はロリコンダーだよ。タロンシャダーと並ぶ煩わしい存在さ☆」
「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ロリコンダー、いざ参る」
「てめぇも信じてんじゃねぇーよぶっ殺すぞっ!」
すいません気のせいでしょうか俺を弄る為に皆グルになっている気がするんですけどただの被害妄想でしょうか?
ありねぇだろこの展開っ!
ちくしょう。
「それでロリコンダー……」
「カガミだっ!」
「カガミ?」
「そうだ」
「怪しい奴っ!」
「はっ?」
「だってそうでしょうっ! ロリコンダーなんて偽名を使ってたなんて……やっぱりお前は魔物の使いね。ボクが攻撃したのは正解みたいだ」
「最初はサラを攻撃し損なって俺に当たっただけだろうがっ!」
「過去は関係ありません」
「……」
あー言えばこう言う。
屁理屈好きな餓鬼かこいつは。
もちろん断るまでもなくこいつは子供なんだけどな。ただ俺じゃなかったら死んでた可能性もあるんだぜ、不意打ち攻撃で。
最近の餓鬼は何考えてんだ。まったく。
「正義の名の元に排除するっ!」
「正義ねぇ」
「食らえ悪者っ! 光り輝く閃光っ!」
ググググググ。
弦を引く。
瞬間、そこに光の矢が生じる。『光り輝く閃光』という名の弓か。言うまでもなく魔法の武器。
ひゅん。
「マスター、来ましたぞ」
「おうっ!」
バチィィィィィィィィィィっ!
ドライで撃墜。
光の矢はドライに触れると消失。一撃必殺の威力があるわけではないらしい。もちろんただの棒切れなら、棒切れが爆ぜるだろう。ただドライは強力
な魔力が宿ったドライバーとかいう球打ちの道具(意味不明ではあるが)だ。強力な魔力の武器は非常に心強い。
さて。
「それで?」
「くっ!」
「治療費を払うなら許してやってもいいぜ?」
「うっわカガミ……」
「黙れーっ!」
「言わしてよー」
「うるせぇ」
サラを沈黙させる。
そもそもこのカラスが展開を面倒にしてるんだ。黙っとけ。
「やるね、ロリコンダー」
「カガミだっ!」
「さあ、次はそっちの攻撃だよ。ボクに攻撃してご覧よ」
「はっ?」
「さあ、どうぞ」
「……」
ではお言葉に甘えて。
タッ。
俺は地を蹴って走る。
もちろんこの餓鬼の脳天にドライを叩き込むつもりはない。びびらせたいだけだ。餓鬼は動かない、弓を身構える事もしない。
バッ。
次の瞬間、俺は左に転がった。転がりつつ1つの石を手に取る。小さい石だ。
「はぁっ!」
顔を狙う、なんて危ない事はしない。
相手の左足に向って投げた。
「ふふっ!」
餓鬼が笑った。
ポケットに手をつっこみ何かを取り出す。握った何かを宙に投げた。きらきらと光るビー玉らしきもの。
「封珠っ!」
「なにっ!」
バチィィィィィィィィィィィィィン。
石が弾かれた?
ビー玉が浮いている。奴の周囲にふよふよと浮いている。あれが石を弾いたように見えた。
確かめてみよう。
石を投げる。
「無駄だよっ!」
バチィィィィィィィィィィィィン。
やっぱりか。
攻撃の軌道に合わせてビー玉が連動して動く。そして弾くのだ。しかもビー玉で弾いているわけではない、攻撃が当たる瞬間に何かしらの障壁が展開され
ている。あのビー玉、魔力障壁を発生させる効果があるのか。
さらに試すとしよう。
今度は連続して石を投げた。数は五つ。
右足、左足、右肩、左手、再び右足。
「ふふふ。無駄だって分からないかなぁ」
バチィィィィィィィィィィィィン。
ビー玉は素早い動きで動き回り全ての石から餓鬼をガードした。
なるほど。
そういう事か。
「無駄だよ、ボクのこの『封珠』は敵の攻撃もオートでガードするんだ。どんな角度から攻撃してきてもボクには届かない。無意味が分かったろ?」
「性質は分かった」
「性質?」
「性質さ」
俺を舐めんなよボケ。
この餓鬼は奇妙な武器や道具を持っているものの、奇妙なだけで問題ではない。活かしきれていないのだ、せっかくの不思議アイテムの効力をな。ただ
与えられた物を使っているだけで活用しているわけではない。
大人を舐めるなよっ!
「ロリコンダー、どういう……」
「ロリコンじゃねぇーっ!」
バッ。
手を餓鬼に向ける。
正確には餓鬼の足元にだ。ビー玉の……ああ、封珠だっけか?
ともかく封珠の特性は分かった。
魔力障壁を展開させ、攻撃に対して自動防御なのは凄いが惜しい事に魔力障壁の効果範囲が狭い。無数の石礫を一回の魔力障壁で弾いたのではなく、
素早く動き回って石を撃墜した。
つまり?
つまり一斉に石礫が飛んで来たらどうなる?
さっきのはあくまで連続で投げたのを弾いたに過ぎない。同時に飛んできたのであれば……さてさてどうなるかな?
そして……。
「雷帝・発剄」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
「魔法なんて効かない……」
雷は餓鬼の足元に炸裂。
その際に無数の石礫が舞う。土煙、雷の余波、それらが全て餓鬼の足元に生じた。
全てが餓鬼に同時に襲い掛かる。
封珠の特性上、同時攻撃は全て防げない。
俺の思惑は合ってるかって?
餓鬼のこの悲鳴を聞けば分かるだろう?
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
無数の礫の前に引っくり返る餓鬼。
やりすぎ?
さてな。
いずれにしても報復は正当だ。それに殺すつもりはないしこの程度じゃ死ぬまい。
その時。
「女の子に何するのっ!」
「はぐぅっ!」
ガンっ!
見かねたのであろう、1人の女性(フロンティアに在住の主婦メイラーナ。一人娘シンシアと生活している)に背後から棍棒で殴られる。
バタリ。
俺はその場に倒れた。
俺は……。
「カガミが死んだよーっ! 次回からはあたしが主人公だからよろしくねー☆」
第一部、完。