天使で悪魔








トラブルメーカー







  災いは突如としてやって来る。
  体質か?
  偶然か?
  運命か?
  何がトラブルを招いているかは誰にも分かりはしない。






  呪われしドライバー『ドライ』。
  代々木カントリークラブの15番ホールのバンカーで50打も無駄打ちした、ゴルフ名人として名高い某会社の社長の怨念が込められている。
  ゴルフ仲間からの失笑や嘲笑。
  その嘲りが元で社長の怨念がドライバーに宿り、ドライに人格が形成された……らしい。
  ……。
  ……意味不明。
  ともかく強力な武器だ。



  グルルルル。
  俺に肉薄してくる緑色の化け物。
  アルディリアモンスター?
  違う。
  俺がいるのは密林の中。
  冒険者の街フロンティア付近だ。
  敵はトロル。こいつが最後の一体。既に七体を始末している。
  緑色の化け物トロルは基本どこにでもいるがヴァレンウッド地方の深緑旅団が持ち込んだトロルの生き残りがシロディール全域に広まりつつある、らしい。
  その為トロル撃破の仕事は多い。
  今回は冒険者ギルドの仕事。
  意味?
  軍資金稼ぎだ。
  アルディリアの迷宮は基本金にならない。
  その為の軍資金稼ぎ。
  あの迷宮で儲かるネタはガーディアンの死骸しかない。妙な『財団』がガーディアンの死骸を金貨20000枚で買い取ってるらしい。
  さて。
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  魔力を呪われしドライバーのドライに込める。
  ドライ自身にも魔力を宿しており魔力剣と同じような状態。
  だが決定的に異なる点がある。
  それはドライが所持者の込めた魔力を増幅するという特性だ。その威力、込める魔力によって当然異なるが一時的に世界随一の攻撃力になると言っても
  過言ではない。
  トロルにこんな高威力は必要ないが、練習台だ。
  まだドライには慣れてないしな。
  「マスター」
  「おうっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  ドライが光る。
  魔力増幅完了っ!
  食らえーっ!
  「必殺っ! 悪夢の十五番ホールっ!」






  「楽勝だったぜっ!」
  冒険者の街フロンティアに舞い戻り、冒険者ギルドから報奨金を貰って俺はホクホク顔で大通りを歩く。
  最後のトロル?
  倒したぜ。
  跡形もなくな。
  増幅する魔力……つまり俺が込める魔力にもよるが、全ての魔力を込めた状態でドライを振るうと小規模のクレーターが出来るほどの威力だった。トロル
  程度が耐えられる威力じゃあない。
  良い物ゲットしたぜっ!
  ……。
  ……ただまあ、ドライを扱うのに……つまり高威力を引き出すのに必要なのは剣術ではない。魔力だ。
  要は高い魔力を有しているものほどこのドライ、高威力となる。
  俺よりも魔術師向きの武器だな。
  特にイズ。
  仮にではあるがシロディールで最強と称される魔術師達が手にしたら、この世のものとは思えないほどの威力となるだろう。
  最強の魔術師?
  アルケイン大学のアークメイジであるハンニバル・トレイブンとかスキングラード領主のハシルドア伯爵とか。ああ、あとはグランドチャンピオンも卓越した
  魔術の遣い手だと聞いたな。ともかくそいつらが持てば俺以上の威力となるだろう。
  まあ、あくまで過程ではあるが。
  何しろドライは現実的に俺の手にある。
  さて。
  「カガミ楽勝だったねー」
  「ああ」
  俺の肩に止まる白いカラスであるサラが嬉しそうに呟く。
  今回、俺と同行しているのはサラだけだ。ああ、まあ、ドライも同行しているな。
  他の面々?
  イズとグレンはアルディリアの迷宮に詳しいとされている学者に話を聞きに行っている。色々と情報があるのとないとではまるで成果は変わってくる。
  俺達の最終目的は金だ。
  それでも。
  それでも情報は必要。
  まあ、アルディリアの迷宮踏破の際には名声と栄光もついでに手に入るという寸法だがな。おいし過ぎる展開だぜ。
  「あれだけの仕事で金貨100枚。何とかこれで食い繋げれるしドントンも雇えるな」
  「だねー」
  ドントンは案内屋としての仕事中。
  打ち解け合ったものの、あいつはあくまで『案内屋』として生きている。
  俺に対しては敬意を表しているものの、妙に捻くれており世間を斜めに見ている節がある。
  素性は今だ不明。
  何者だろう?
  ……。
  ……まあ、人間謎が一杯だ。
  俺も自分の素性を説明しろ、と言われても無理だ。
  何故?
  簡単だ。
  他人を理解するよりも自分を理解する方が難しいからだ。遥かに難しいと俺は思ってる。記憶力はいい方だが、幼少時の事はほとんど俺は覚えていない。
  つまりまあ、そういうものだ。
  ドントンの素性を特に詮索するつもりもない。
  フロンティアの街を歩く。
  前に一度来た事がある。イズ達と会う前にな。賑やかな通りを俺は歩く。
  「ボロ儲けだよね、カガミ」
  「確かにな」
  「イズがあんなに高く売り飛ばせれるとはね。さすがはカガミの交渉スキルは絶品ですなー☆」
  「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「金の為なら仲間すら売る、そんな鬼畜の生き様にあたしは惚れ込んでます☆」
  「ぶっ殺すぞっ!」
  「てへ☆」
  「……」
  周囲の目が痛いです。
  冒険者や一般人が俺を詰るように見ている。サラの言葉は当然その他大勢にも聞こえているわけだから、当然と言えば当然だな。
  ついでながらドライの声も聞こえている。
  ただドライは戦闘以外は喋らない無口な性格なので特に問題はない。
  無駄口ばかり叩くサラは問題ですがねー。
  おおぅ。


  「仲間をパラダイスフォールずに売り飛ばしたのよきっとっ!」
  「女性をなんだと思ってるのっ!」
  「極悪人だぜ、あいつ」
  「死ねっ!」

  うわぁ。知らん奴に死ねとまで言われた。
  サラのお陰で冒険者の街フロンティアを敵に回したような気分で一杯です。ちくしょうっ!
  ちなみに。
  ちなみに白いカラスが喋る、という行為に関しては誰も驚かない。さすがは様々な不思議に見慣れた冒険者の街フロンティアだぜ。
  さて。
  「うっわカガミ追放運動が始まりそうな勢いだねー☆」
  「お前の所為だろうがーっ!」
  「まあまあ。人生長い事を生きてたらたまにはこんな事もあるさ☆」
  「そんな言葉で済ますんじゃねぇーっ!」
  「てへ☆」
  「……」
  まったく。
  温厚な俺じゃなかったら今頃は焼き鳥にしてるところだぜ。カラスの焼き鳥なんざ食べる気はないがな。
  「あっ」
  「……」
  無視。
  「ねーねー。カガミ」
  「……」
  無視だ無視。
  いちいち構ってたら人生を破滅させかねない。
  「危ないよカガミ」
  「……」
  無視だ無視……はぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
  バチィィィィィィィィィンっ!
  何かが後頭部で当たった。俺はその場に前のめりになって倒れた。
  「だから言ったのにー」
  「くっ」
  パタパタ。
  宙を羽ばたきながらサラが言う。
  俺は後頭部を触る。軽く血が出てた。
  何なんだいきなりーっ!
  俺は立ち上がり攻撃が飛んで来た方向を見る。立ち上がるとサラが俺の肩に止まった。
  「あっ。また来る」
  「うにょーっ!」
  バチィィィィィィィィンっ!
  今度はおでこに直撃。血が『どばぁー』と吹き出した。な、何なんだ、一体何なんだーっ!
  攻撃の正体は不明。
  ただ食らう際に視界が光に遮られた。魔法の類だろう。……多分。
  ざわり。
  街は騒然となる。
  そりゃそうか。通りで出血している俺がいるんだからな。それに誰かは知らんがいきなり俺を攻撃した奴がいるんだしな。
  「ごめんカガミ。あたしあんたを始末するためにレギュレーター雇ったの。無様に死ね☆」
  「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「カガミ、台詞それじゃないじゃん」
  「はっ?」
  「カガミは『タロンシャダーっ!』とか『ひゃっはぁーっ!』しか喋っちゃ駄目だよ」
  「……」
  ま、まあいい。
  サラの相手をしている場合じゃあない。
  俺は叫ぶ。

  「誰だ誰だこの俺様に喧嘩売りやがった命知らずはーっ! 正義の名の元にリンチしてやるーっ!」
  「わぉ、出血の程度を考えるとカガミって丈夫ー♪」
  ドクドクと頭から血が出てる。
  ま、まずい。
  怒ると血が盛大に吹き出す、心を落ち着けろ心を落ち着けろ。
  平常心平常心。
  ……ふー……。
  「カガミっ!」
  「あん?」
  「その水芸、とっても素敵♪ いつ練習したの?」
  「冗談で頭から血が吹き出せるかーっ!」
  ぴゅー。
  額から血が吹き出す。
  「カガミ、もっとやってもっとやってー♪」
  「あぅ」
  い、いかん。
  サラのペースに引き込まれるな、血が吹き出すからー。
  平常心を、平常心をー。
  ……ふー……。
  「ああん、もう終わり? ちぇっ、けち」
  「黙れ」
  「あの、そこのお兄さん、大丈夫ですか」
  「……?」
  駆け寄ってきたのは10歳かそこらの子供だった。女の子だと分かるが中性的な印象を受ける。手には弓があるが矢は所持していない。
  緑色の服を着ていた。スカートは穿かずにズボン。
  ただ俺は思う。
  こいつ何者だ?
  纏っている衣服には何らかの魔力が宿っているからだ。
  ……。
  ……まさかこんな餓鬼が冒険者ってわけじゃないだろうがな。
  何なのだろう、こいつ?
  子供は言う。
  「危ないところでしたね、思わず撃っちゃいました」
  「ああどうも」
  とりあえず社交辞令で、俺は意味は分からないが頷いておいてやる。
  にしても思わず撃った?
  言動から察するにー……いやだがこんな弓で頭ボロボロにされるわきゃないだろう。仮に矢があったにしても、その場合は俺の頭に矢が刺さっていなけれ
  ばおかしい。まあその場合には俺は死んでいるわけだがな。
  「その傷、ボクがやったんです」
  「ああ、そうかっ……何ぃーっ! お前かこの傷の責任者はーっ!」
  「それは些細な事ですっ! 何故ならボクは常に正義の為に、人々の幸せの為に生きているのだからっ!」
  「そんなのが理由になるかちくしょうめっ!」
  「あなたは知らないかもしれないでしょうがそのカラス、人語を解する。つまりは人外の存在、つまりは人類に害与える異形っ!」
  「へー」
  他の街の連中と同じリアクションだな。
  普通、サラを見たらびびる。カラスが喋ってるわけだから。
  ただ、こいつが言うほど奸智に長けた邪悪でもないとは思うが……いずれにせよサラを狙って俺に当たったわけかっ!
  二発目は完璧に俺狙ってるし。
  確信犯かこいつ。
  「へーってあなた……いえ、リアクションのしようがないでしょうね。意外性に満ちた事実ですから」
  「あのなぁー」
  「マスター、倒しますか?」
  「ああっ! あなた分かってるんですかっ!」
  「はっ?」
  「その手にしている棒が喋ったっ! きっと魔物だ死ねーっ!」
  「はっ?」
  手にしている弓を構える子供。
  弦を引いた時、光が矢のように具現化した。
  そして……。
  「あぐぅっ!」
  バチィィィィィィィィィィィィンっ!
  ……。
  ……あれか。
  あれが攻撃の正体か。妙な武器だな。
  弦を引いた時に光の矢が具現化するという初めて見る武器。アルディリアの迷宮からの掘り出し物だろうか?
  ただ絶対的な威力はないな。
  三発受けても俺は生きてる。……まあ、額から血が吹き出しているが。
  「大丈夫ですかっ!」
  「……お前ここまでやっておいて『大丈夫ですか』で済まそうなんていい度胸じゃないか」
  「何言ってるんです。あの棒、棒に見えるでしょうが実は、魔物なんですよっ! 危ないところでした」
  「へー」
  「へーって……大人ですからそう素直になれないのは分かりますがせめてありがとうの一言があるべきじゃ」
  「この傷の状態で感謝しろと?」
  「些細な犠牲です、祟り殺されずに助かったんです」
  だったらせめてちゃんと標的を狙えボケーっ!
  完全に俺狙ってる。
  完全にな。
  「ボクは義務を果たした、それだけです。でも感謝はして欲しいですね」
  「あーあんがとよ」
  「いえこれも義務ですから。ではこれで。あっ、早目に病院に行かれたほうがいいですよ、血が出てますから」
  「で俺の怪我はどうするつもりだ?」
  「魔を滅する為には些細な犠牲です。いえいえ礼には及びません、その程度の傷で済んでよかったですね」
  ブチっ!
  何かが切れた、財布の緒?
  あっはははは、財布の緒はとうの昔の切れまくり底は穴あきまくりで財布は再起不能金銭とは縁遠いってばー。
  あっはははは、財布に関しては心配後無用。
  ……あっはははは……。
  と何気に乾いた笑いを心の中で響きかせつつー。
  ともかくーっ!
  「堪忍袋の緒が切れたーっ! てめぇ、この傷の代償をその体で払ってもらうからなーっ!」
  「うっわカガミってば外道ってか鬼畜ーっ! 同性愛の次はロリコンかよ。節操ない奴。やれやれだぜー☆」
  「誰が手篭めにするかーっ!」
  「てへ☆」
  「ぜえぜえ」
  何を期待してたんだ、こいつは。
  しかもこんな外で……野外でロリ、ちょっと興奮するかもー……なんて思うかボケーっ!
  「治療費、請求させてもらうっ! 金貨20枚だだっ!」
  「うっわ安っ!」
  「敵対するつもりですか。ではあなたも魔物の仲間、と解釈して問題はありませんね。希望通りこれよりボクがあなたを排除します。正義は我の元にっ!」
  「カガミ、カガミ、こいつもいい性格してるね♪」
  ところどころのサラのコメントは無視。
  バッ。
  俺は飛び下がり間合を保つ。そしてドライを構えた。
  「ボクの名はキャバリディア、正義の名の元に排除しますっ!」
  「望むところだぜ、来いっ!」