天使で悪魔
傭兵集団『旅ガラス』
真実が常に目に映るモノだとは限らない。
「ちっ。何が大口の仕事だよ」
白い雪舞う道なき道を歩く。
タムリエル中央にあるシロディール地方、北方都市ブルーマ付近。
寒い。
寒い。
寒い。
身も心も寒い。そもそも俺はレッドガードだ。
脳味噌まで筋肉のノルドのようにガサツには出来ていない。俺は繊細な神経と心の持ち主なのだ。
俺の名はカガミ。
レッドガードの魔法戦士(魔法のノウハウを持つ戦士の総称。魔法が使えるだけで理屈が把握出来ていない者は魔法戦士とは呼ばれない)だ。
年齢は25。
傭兵集団『旅ガラス』のリーダーであり若きカリスマだ☆
ふははははははは。俺様に跪けー☆
……。
ちなみに俺の武装は鉄装備。兜と盾はしていないがな。
武器は炎の魔力剣。
しかし思うに俺は誰に武装の説明をしているんだ?
さて。
「仕方ないわよ」
黒いローブ姿のブレトンの女は素っ気なく答える。俺の連れだ。旅ガラスの紅一点。
怨霊使いのハーツイズ。
愛称はイズ。
怨霊使いとは何か?
要は怨みなどを負の感情を持った幽霊を使役すると物騒な能力者だ。あまりに物騒過ぎて死霊術師の組織『黒蟲教団』から追放された前歴を
持つ。イズは意識せずとも怨念を持つ霊を呼び寄せてしまうからだ。
つまり?
つまり人間を死体にして弄り回す死霊術師達にしてみれば迷惑千万な能力。
実験の為に拉致した人間を殺した矢先に怨霊となる、イズの無意識の力でだ。その力が死霊術師達に恐れられ追放されたってわけだ。
性格?
至ってまともだ。
大概温厚。
しかし人間には冷たく幽霊には優しいという価値観だから……ま、まあ、まともじゃあないか。
歳は23。
博識で知識は深い。その為当傭兵団の参謀的な役目だ。
「何が仕方ないんだよイズ」
「仕方ないわよ」
肩を竦める。
俺達は傭兵。冒険者も報酬次第で傭兵の真似事をするが俺達は戦争が唯一の金稼ぎの場。タムリエルは表向きは平和。皇帝ユリエル・セプティム
の善政によって統治されている。あくまで表向きはだ。しかし事実は異なる。
そこら中で紛争が起きてる。
特に北部のスカイリム地方では小競り合いが続いている。
特に最近皇帝が暗殺されてからは反帝国の動きが活発になっていた。スカイリム地方に駐屯している帝国の軍団は皇帝暗殺に乗じスカイリム独立
を謳う反帝国組織《スカイリム解放戦線》の反抗の前に苦戦。
つまり儲かる……はずだった。
俺達がどっちかの味方に付く為スカイリムに行ってみると勝敗は決していた。
スカイリム解放戦線が、スカイリムにおける帝国の顔である軍団長(スカイリム方面総司令官)を暗殺していた。
ただ暗殺しただけなら特に問題はない……とは言わないが……スカイリム解放戦線の連中は1つの街を焼き尽くした。つまり組織的に街を放火し
軍団長を焼き殺したのだ。帝国兵もノルドの一般市民も。
民衆の支持を失った組織は脆い。
スカイリム解放戦線は壊滅。
スカイリム地方は一時的な小康状態を保っている。つまり傭兵は必要ないのだ。
敵勢力駆逐されたから。
くそぅっ!
「まあよいではござらんかカガミ殿」
「……確かにお前はいいよな」
「義を果たす戦いがないのであれば戦う必要はござらん。自分はそう考える」
「ちっ」
舌打ち。
剣は天才的だがアカヴィリ刀の遣い手であるこの男の理論は苦手だ。
名をグレン。
元スキングラードのステンダール聖堂の聖堂騎士。つまりグレンは神様に忠誠誓う騎士崩れだ。仕事尽くめて婚約者死なせてしまいその結果信仰
を捨て今では傭兵。ただやたらと義に固執するから金のなる仕事でも蹴る事が多い。
俺と同じレッドガーとではあるがグレンはブレトンとハーフ。
俺より肌の色合いが薄い。
年齢は28とこの中で最年長。
剣の腕は最高。
聖堂騎士の務めとして回復系魔法に長けている。……ま、まあ、完全に堅物なのが玉に瑕なのだが。
さて。
「はぁ」
スカイリムに行ったのに何するでもなく帰って来た。
旅費使っただけだ。
何たる無駄。
世の中は何が大切?
金。
金。
金っ!
世の中は金で回っているのだそして俺はお金大好きお金と結婚したいぜふははははははははははははははははははははははははははははっ!
「まーったく。カガミは相変わらず守銭奴だねぇ」
「何だとー?」
バサバサ。
肩で羽ばたくんじゃねぇーっ!
俺の肩には一羽の白いカラスがいる。もっとも普通のサイズより一回り小さいがな。
……。
……これで普通のサイズなら俺は肩凝って死んでしまうぜ。
この世界にサロンパスはないのだ。
てかサロンパスって何だ?
まあいい。
「黙ってろサラっ!」
「うっわ図星を言われると切れるんだ。心が狭いのが丸分かりですなー」
「うるせぇーっ!」
「まあまあカガミ君。サラちゃんに当たったって仕方ないでしょうに」
イズが間を取り持つ。
ちっ。
ムカつくぜサラの奴。
誰のお陰で陰険魔術師から助けられたと思ってんだ。
元々サラは……正式名はサラ・ミス……まあいい。ともかくサラは陰険魔術師グリーバスに捕らわれていた。
それを当時一人旅していた(傭兵団結成前)俺様が助けてやったわけだ。
以来一緒にいる。
しかしこのカラスはまるで俺に懐かねぇ。
常に俺を弄る側に回る。
サラの素性はよく分からんが古代アイレイド文明の名物君主である『黄金帝』の創造した魔道生物らしい。
声質、口調は女性なのだが性別不明。
まあ女なのだろう。
多分。
「なんか文句あったら言ってごらんよカガミー?」
「ちっ」
「うっわ敗北認めるの? 負け犬根性身に付いてますなー」
「何だとぉーっ!」
ともかく。
ともかく俺、イズ、グレン、サラ。
この三名と一一羽が傭兵集団『旅ガラス』の全てだ。
「ねーねーイズ。これからどこ行く?」
「そうですねぇ」
「まあカガミは地獄行きだけどね。既に決定事項だし。ねー、カガミ?」
「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「相変わらずカガミのリアクションは大袈裟ですなー☆」
「殺すぞてめぇっ!」
「うるさいですよカガミ君」
「やーい。怒られたー」
グイ。
グレンが俺の肩を掴み、首を横に振った。眼が『サラ殿には太刀打ちできないですよ』と語っている。
ちくしょうっ!
俺がリーダーなのに孤立無援かよー。
「私が思うにフロンティアに行くべきだと思いますね」
「あったし賛成☆」
「自分も同意する。傭兵などという非生産的な行為よりも冒険の方が遥かに有意義ですからね」
フロンティア。
冒険王ベルウィック卿が創設した街だ。
冒険を斡旋する冒険者ギルドというものがある街で、冒険者達のメッカ。確かに稼ぎいい。久し振りのシロディールで現状がまるで分からん以上そ
こらの街で仕事を募集するよりはよっぽど確実だ。仕事は世情に左右されるからな。
ただ問題は……。
「俺を無視して勝手に決めるなーっ!」