私は天使なんかじゃない








審判の日





  裁きが来たる。
  問題はそれは誰からの裁きかということだ。

  裏で糸を引くのは誰?





  「毎度あり〜」
  「どうも」
  チャリンチャリーンと5キャップ支払。
  安いんだか高いんだか謎。
  ここに限らず物価の価格は謎です。
  「んー。おいしそうなクレープだ」
  露店のおっさんから私はプンガフルーツ入りのクレープを買って街を1人で散策中。
  買ったクレープを歩きながら一口食べる。
  あっまぁーい。
  生クリームとプンガフルーツのコラボが最高です。
  時刻は15時。
  おやつです。
  ヴァン・グラフ・ファミリーとやり合ってから3日後。あれから私は休日の女子高生な生活をしています。
  女子高生?
  旧世界にいた職業……なのか?
  まあ、適当です。
  旧世代の女子高生はどうだったのかは知らないけど、赤毛の女子高生はサファリジャケットにジーパン、44マグナム2丁装備してます。
  強化型コンバットアーマーはモーテル。
  あれからヴァン・グラフ・ファミリーは大人しい。クラブは閉鎖中。暴れまわったから改装必要なんだけど、誰だか知らないけどデリンジャーとやり合っている間に金庫を
  破って有り金奪われたらしい。まあ、旧次世代的に言えばヴァン・グラフざまぁwwwになるわけですね。
  構成員も引きこもっているのか通りでは見かけない。
  「んまーい☆」
  おいしいです。
  グリン・フィスとアンクル・レオは最近釣りにはまっているらしい。2人で昨日まで釣りしてた。朝から夜までね。夜釣りが最高とかなんか言ってたな。
  飽きないのかねぇ。
  今は徹夜で釣りして疲れたらしくモーテルで寝てる。
  連中が釣りしている間?
  街で遊んでました、私。正確には現在進行形で、今日も遊んでます。
  マダム・パナダのとこでランチしたりやたら羽振りの良いシーと遊んだり冒険野郎と冒険談義したり。まあ、充実した毎日です。
  あれからデリンジャーも出てこないし、サソリけし掛けた奴も出てこない。
  ヴァン・グラフは前述のとおり死んだふりしてるし。
  一応私はそれなりに強いし2人の護衛なくても大抵は何とかなる。それに、ここ別に敵地ではないし、問題ないだろ。
  警備兵いるし。
  ……。
  ……ま、まあ、警備兵に偽装したデリンジャーがこの間までいたわけですけど。
  というかクリスって何だったんだ?
  デリンジャーが多分誰かからの依頼で爆殺した女性。
  誰だったんだろ。
  謎です。
  デリンジャーは面倒だけど依頼でしか動かない。
  前金で10万、成功報酬でさらに10万。かなりの高額だしヴァン・グラフ・ファミリーは破産状態。あいつは私怨では動かないらしいし、依頼で動かすには高額すぎる。当分私は狙われないだろ。
  「うまうま」
  クレープを平らげる。
  おいしかった。
  次は何食べようかな?
  冒険も観光も楽しいけど、食べ歩きも楽しいものだ。
  「いつまで滞在しようかな」
  路銀は大丈夫。
  旅費はBOS持ちで奢り。遊ぶお金は自腹だけど、まだまだ余裕はある。余裕はあるよなぁ、考えてみたらモリアティにせびられててた頃が資金繰りに困ってたピーク。
  その後はたまる一方でした。正確には忙しすぎて使う暇がなかったとも言う。
  まあ、あんまりここに長居もできないかな。
  釣りに宝探しに海水浴、食べ歩き、一通りの遊びはしたかな。ショッピングはお土産探しの時にするとしよう。あんまり長居をするとサラたちに迷惑をかけることになる。
  エンクレイブ再来は時間の問題だ。
  リフレッシュほどほどに。
  あと3日ぐらい滞在したら帰るとしよう。
  そう考えながら私は歩いていると寂しい通りに出た。夜中は、まあ、性的な面々が屯っているけど昼間は寂しいものだ。街のどこを見てもね。
  気付けばボッチ。
  ……。
  ……いや。変な奴がいた。
  酔っ払いだろうか?
  「何あれ?」
  ぽつんと立っている男がいる。
  青いオーバーオールを着たおっさんが通りをふらふらしている。この時間帯は基本的にスカベンジャーはジャングルに宝探し、夜のお店系客商売の連中は就寝時間。
  人通りは少ない。
  そして現在私がいる近辺には私とそいつだけ。
  向こうはこちらに気付いていない。
  何か異様なものを感じて私は路肩に積まれた木箱の陰に隠れた。
  息を潜めてそーっと見る。
  「……何言ってんだ、あいつ……」
  何かぶつぶつ呟いてる。
  でも何を喋っているのか全く分からない。距離が離れているから聞きづらいのもあるけど全く分からない。英語ではないのか?
  観察する。
  観察すると、顔が異常なまでに崩れているのが分かる。
  私は美醜には興味ない。興味ないけど、あの人物はかなり醜い。見ていてぞくりと寒気を感じた。
  手には抜身のコンバットナイフ。
  危ない奴なのか?
  ふと気付くと路地裏から今度はやせ細った、それでいてお腹だけはビール腹の出っ歯男が出てくる。それだけじゃない。まだいる、路地裏からぞろぞろと出てくる。
  次第に数が増えてくる。
  誰もまだ気づいていない。まあ、そうだろう。日中はスカベンジャーはジャングル、他の連中は大抵は寝てる時間帯だ。
  通りは閑散としている。
  目につく限り私しかいない。
  少なくとも人間っぽいのは私だけだ。
  ……。
  ……差別かな?
  まあ、いいか。
  警備兵は気付いていないのかな?
  何だか知らない連中は手にそれぞれ武器を持っている。
  ナイフは、まあ、いい。抜身で持ち歩くのは物騒だけどこの街の法律には触れない。
  問題なのは銃火器だ。
  銃火器と言っても古臭い代物ばかりだけど銃は銃。
  西部劇かよと突っ込みたくなるような古臭いライフルやショットガンを持っている。数は30人ぐらいになっている。
  私はこれを厄介と判断、ゆっくと後ずさりを始める。
  関わっちゃいけない。
  そう心が警告している。
  向こうさんたちは通りをただうろうろしているだけで何するでもない。もちろんこのままその流れとは思わない。
  ここは撤退しよう。
  わざわざ厄介にかかわる必要はない。

  ばぁん。

  突然、出っ歯男の頭が吹き飛んだ。
  さらに次々と異形な連中は撃ち殺されていく。銃撃の位置から推察すると上から。市長バルトの警備兵だろう、建物の屋根から狙撃しているらしい。
  ようやく気付いたのか。
  異形達も何かを叫び応戦している。その喧騒に呼応するように街のあちこちで騒ぎが始まる。
  何だ?
  何なんだ?
  上から声が降ってくる。

  「そこの君、逃げろっ! そいつらはスワンプフォークだ……おい、マジかよ、ウィン、ベルロス、連中が街になだれ込んできてるぞっ!」

  最後の方は悲鳴に近い叫びになっていた。
  警備兵は3人らしい。
  そいつらが上から狙撃している、そして見てしまったらしい。街に侵攻中の連中を。
  「スワンプフォーク」
  私は単語を呟く。
  観光案内に載ってたジャングルの奥地にいる原住民。でも街には入ってこないんじゃあ?
  後ずさりしていた私を認識したのだろう、スワンプフォーク達は奇声を上げて攻撃してくる。弾は見えるし基本単発みたいだから避けるのは容易い。
  問題は数だ。
  わらわらと路地裏から湧いて出てくる。
  相当数が街に入り込んでいるらしい。警備兵たちはさすがに対処できないのか、悲鳴を上げている。そしてその悲鳴は遠ざかる。
  逃げやがったーっ!
  さすがに通りの騒動に気付いたのであろう面々が建物から出てきて、あっさりとスワンプフォーク達の餌食に。
  防御的に詰みじゃないの、この街?
  スワンプフォークは街に入ってこないという不文律はまやかしだった、つまりその時点でこの街は崩壊したという意味だ。
  数が多い。
  押し返すのは難しいんじゃないかな。もっともそれは市長の問題だ、私は迫りくる眼前の敵に対処しなきゃ。

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  心臓が脈打つ音をリアルに聞き、ゆっくりとしていく時間の中で私は動く。
  2丁の44マグナム。
  それが瞬時に火を噴き、全ての弾丸を吐きだす。
  「こんのぉーっ!」
  44マグナムを二丁全弾発射。
  迫りくるスワンプフォーク達は弾丸分、吹き飛んだ。しかしあくまで微々たる数だ。通りには次第にスワンプフォークが満ちつつある。
  何だ、この数は。
  200、いや、もしくはそれ以上はいるんじゃないのか?
  私は弾丸を装填しながら走る。
  仲間と合流しなきゃだけど、モーテル方面には戻れない。何故ならそっち方面からスワンプフォーク達は侵攻してきているからだ。
  結果として、連中に押される形で港に向かう羽目に。
  ……。
  ……グリン・フィスとアンクル・レオは大丈夫かな?
  さすがに敵の数が多すぎる。
  それに武器の縛りがある。
  まあ、グリン・フィスは従来通りだけど、アンクル・レオはいつものミニガンがない。
  市民銀行に預けたままだ。
  それは私も同じ。
  グレネードランチャー付きアサルトライフルがない。

  「ひぃっ!」
  「くそ、何だって街にあの化け物どもが入ってくるんだよっ! 話が違うじゃねぇかっ!」
  「食われちまう、逃げなきゃっ!」
  「くそぉっ! 市長の野郎に武器さえ取られてなきゃ、あんな奴ら……っ!」

  喧騒が次第に広がっていく。街の中は蜂の巣をつついたような状況だ。
  逃げてるのは私だけじゃない。
  戦ってるのもだ。
  数が多い。
  スワンプフォークはもはやうろうろと徘徊しているだけではない、一斉に街に対して攻撃を開始している。
  どこから出てきたんだこの数っ!
  スカベンジャーや傭兵たちも応戦してるけど、武器に関しては私と同じで、市長に取り上げられてる。小型拳銃じゃああの大軍を相手は難しい。
  戦ってみて分かったけどスワンプフォークは強くない。
  強くないんだけど、数がいる、全部殺すには武器のチョイスが問題だ。武器さえいつものならなぁ。
  あと問題が一つある。あいつらきめぇ(泣)
  ジャングルの奥地に引っ込んで暮らしているから排他的であり閉鎖的、つまり余所から血が入ってこない。
  近親相姦の集団。
  だから遺伝的におかしくなっているのか、それとも奥地は放射能が酷いのか、まあ、たぶん両方だ。それで連中の皮膚は崩れているのだろう。
  何かをやたらと叫んでいる。
  観光案内には南部訛りと長年排他的だった為に独自の、全く別な言語になったとか何とか。
  つまり言葉は通じない。
  交渉も降伏も無理ってわけだ。
  そもそも観光案内を見る限り常に一定の距離を保っていたらしいのに何だって急に攻撃してきたんだ?
  それこそ謎だろうな。
  聞き出したいけど言語が分からない。

  「ミスティっ!」

  「はっ?」
  急に呼びかけられて私は唖然とした。
  他に逃げ惑っている面々もその一団を見ると面食らったような顔をした。まあ、立ち止まらずに逃げたけど。
  何だってここにBOSがいるんだ?
  「サラ? 何だここにいるの?」
  「任務よ」
  「任務?」
  サラ・リオンズ。
  BOSの精鋭部隊センチネル・リオンズの隊長であり、エルダー・リオンズの娘。
  自身はヘルメットなしのパワーアーマー、部下5名はヘルメット付きのパワーアーマー。武器はそれぞれレーザー系。サラは目くばせすると部下たちは私たちが逃げてきた方向に走っていく。
  「ちょっ! サラ、あいつら……っ!」
  「敵勢の足止めをさせるわ。あなたに話があるのよ。アウトキャストの中心人物の護民官キャスディンと護民官マクグロウは仲たがいして分派した。私たちはマクグロウの派閥を追って……」
  「いやいや、そうじゃなくてっ!」

  『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

  全滅です。
  あっさりと。
  「そんな馬鹿なっ! 私が鍛え上げた精鋭がっ!」
  やべぇサラは密入国したようです。観光案内読んでないのだろう、だから知らない。ここではハイテクはただのゴミだということを。
  実際にゴミになる瞬間を見たのは初めてだけど、瞬殺されてた。
  本気でパワーアーマーやレーザー系はまともに稼働しないらしい。
  「サラ、ここじゃあテクノロジーは意味ないのよっ!」
  「何でっ!」
  「知らないわよ、動力が駄目になるとか何とかっ!」
  「何で言ってくれないのよ、馬鹿っ!」
  「……逆切れてるんじゃないわよ……」
  まったく。
  巨漢のスワンプフォークが斧を振り回してこちらに迫ってくる。44マグナムで額を撃ち抜く。異形とはいえ生命体だ、頭を撃ち抜かれれば死ぬしかない。
  殺せるのであれば対処はできる。
  問題は数だ。
  全部殺すだけの弾はない。
  全力疾走でこちらに向かってくるスワンプフォーク。逃げ遅れた人々はその異形の波に飲み込まれて殺されていく。
  44マグナムを前段連射。
  殺せるだけ殺したら私は回れ右して走り出す。サラの手を引っ張って。
  「任務か何か知らないけどまずは逃げるわよ」
  「当てはあるんでしょうね」
  「ない。けど、とりあえず船を確保するわよ。海上なら、まずは安心よ。……たぶんね」
  「応答せよ。報告をっ! ……くそ、他の部隊の反応も……」
  「いいから来なさい、早くっ!」
  私たちは逃げ延びていく。
  どこまでも。