私は天使なんかじゃない
そうだ宝探しに行こう
宝探し。
それは誰もがロマンを覚える単語。
水面に沈んでいく夕日。
それは情緒があり、私の心の中にある憧憬そのものだった。
ずっと太陽に憧れてた。
変?
仕方ないじゃない。
ずっと地下深くのボルト101に住んでいたのだからさ。
一番最初に会った時にモイラが言ってた「天井の電球を変えるのは大変」が今更ながらユーモアに溢れていたんだなと気付く。
そんなポイントルック最初の夕暮れ。
感動の余韻に浸りつつ、市長のバルトにポイントルックアウト初心者にお勧めのお店と紹介されたマダム・パナダの店に足を運んだ。
夕飯の為にね。
……。
……と、そこまではよかったんですけどーっ!
問題はその道すがらだった。
「そこのスカベンジャーのお兄さん、遊んでかない? 安くするわよ? 儲けたんでしょ、だからあたしら姉妹がお相手してあげる☆」
「ヴァン・グラフの店行こうぜっ!」
「トップレスの店キターっ!」
「ああん☆」
「ひゃっはぁーっ! 女をなで切りだぁーっ!」
なんだ。
何なんだこの性に乱れた街はーっ!
夕暮れまではとってもロマンチックで風光明媚な街でした(超過去形っ!)
だけど夜の帳が降りた途端に性なる街となりました。
性夜です。
性夜。
うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ私もそっち系の女と思われてキャップちらつかされたーっ!
ま、まあ、すぐさまグリン・フィスが叩きのめしてくれたけど。
もっとも……。
「主、恋人として全力でお守りします」
「……」
こいつも最悪だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
駄目だ。
男性不信になりそうだ。
以上がマダム・パナダの店に向かうまでの回想でした。
最悪だー。
「ミスティ、フィス悪乗りし過ぎだぞ、最近」
「……まともなのはあなただけよ、アンクル・レオ」
そして今現在はマダム・パナダの経営する露店の酒場。露店というか旧世紀のフードコートのような店舗。
調理場兼料理の受け渡しの為の店舗があり、その前にテーブルや椅子があるという按配だ。
ソドムにある彼女のお店の一画は空き地があり、そこにいくつかのテーブルと椅子を並べて酒と料理を楽しめるような作りになっている。市長の好意らしい。
私らは適当に陣取って料理に舌鼓を打っていた。
ほぼ満席です。
座れてラッキー。
なおアンクル・レオには椅子は小さい……というか体重を支えきれず木製の椅子が潰れたので、マダム・パナダが酒樽を貸してくれた。
椅子代わりです。
感謝。
マダム・パナダの経営するお店は<ハウス・オブ・ウエア>。ウェイトレスやウェイターをそれぞれ一名ずつ雇っているけど、料理に関しては一切手出しさせず厨房を仕切っている
年齢不詳の妖艶な女性。用心棒なのか初期の戦闘用ロボットのプロテクトロンがテープルとテーブルの間をうろちょろしてる。
邪魔です。
「うっまぁー☆」
「美味ですね、主。アカヴァル大陸では魚は食べれませんでしたし」
「ミスティ、おかわりしていいか?」
テーブルに並んだ料理をたらふく食べてます。
魚料理。
マダム曰く絶品のおすすめ料理らしい。
荒くれ海賊風魚料理って名前だけど、海賊って何だろ?
謎です。
飲み物、私はプンガジュース、グリン・フィスはプンガをウイスキーで割ったお酒、アンクル・レオは私と同じ。
甘くておいしい。
「これ甘くてうまいな。フォークスやハロルドにも持って帰りたいぞ、ミスティ」
「フォークスはともかく、ハロルドは……飲めるもんなの?」
確かに顔はあったし口も喋るときに動いてるから飲めると言えば飲めるのか?
うーん。
「うっまぁー☆」
魚ウマウマです。
謎の白身魚を焼いて、ほぐして、野菜と一緒に彩ってソース掛けられてるお料理。
バルサ……何とかってソースらしい。
説明は忘れた。
とにかくウマウマなのでよいのです。
あんまり、というかほとんど行ったことないけど、リベットシティでも魚料理は提供されてるようだ。キャピタルで唯一の魚料理がある都市。
問題はその魚が水銀と放射能で食べたら死ぬってことだ。
なのでリベットの皆様は解毒剤飲むらしい。
……。
……いや、そこまで博打感覚で食べなくてもよいのではないかと。
おおぅ。
ポイントルックアウトでは魚は食用らしい。少なくともネイディーンとの船旅では放射能に悩まされることはなかった。水に放射能が帯びている場合、水に触れなきゃとか落ちなければ
大丈夫というわけじやない。大量に帯びてれば船上も汚染される。
そうではなかったから、食べても大丈夫な魚ってわけだ。
まあ、クリーンな水ではないけどさ。
とはいえメガトンや他の都市にある簡易型のろ過装置並みの放射能は含まれてるけど身体的に問題はない。
あー、気付けば私も完全にウェイストランド人の感覚ですね。
ボルト時代には考えもしなかったことだ。
「……ちくしょう。せっかくステルスボーイを大量に見つけたのにスワンプフォークに追い回されて落としちまった……」
「いいことあるよ。一杯奢るから元気出しなって」
レザーアーマーを着こんだ年配の髭もじゃ男……スカベンジャーかな?……はヤケ酒を煽っている。
同席しているのは青い髪の女性。
ウェストランドで一般的に出回っている白い布の服を着ている。
……。
……あれ?
シーリーンじゃん。
激動の街ピットで知り合った女性だ。私と同い年か、もしくは年下。
スチールヤードでトロッグに追い詰められていた私を助けてくれたトレジャーハンター。
「主、どうされ……あの女性は確か……」
「シーだね」
「ミスティの知り合いか? 俺は知らないけど、声かけるのか?」
向こうはこちらに気付いたような感はない。
ここには仕事かな?
そうかもしれない。
トレジャーハンターだし、なんかのお宝を目当てでここに来たのだろう。
多分。
グリン・フィスはピットの動乱終了後、シーに会った。アッシャーが開催した宴の際にはやたらと口説かれてたな、グリン・フィス。
まあいいけど。
ガールズトークもしたいところだけど、ちょっと心情的にまだ吹っ切れていないというかなんというか。
あの街で私、シー、スマイリーはそれぞれの道を進んだ。
会えば当然スマイリーの話も出るだろう。
彼女は知らないけど私はスマイリーの最後をしてる。エンクレイブ傘下のボルトテック残党によってスマイリーは偽中国軍のジンウェイ将軍に改造された。
そして命を落とした。
会えば必ずスマイリーはどうしてるかなぁ的な話が出るだろう。
それは困る。
私はそこまで大人な振る舞いが出来ない。
「乾杯しよう」
コップを持って私は乾杯を促す。
二度目ですけどね。
アンクル・レオは知らないけど、ピットもママ・ドルスも関係してないから知らないけど、グリン・フィスは私の憂いを理解している。
それ以上は何も言わなかった。
シーはシーの目的でここにいるわけだしとりあえず旧交を温めるのは又にしよう。
滞在している限りはまた会えるだろうし。
とりあえず、私は取り繕えるほど完璧人間ではないので。
そういえば市長のバルトが宝の地図をくれるとか言ってたな。多少胡散臭いおっさんではあるけど、あのおっさんがこの街を取り仕切っているからネイディーンの頭を
かち割ったフェリー乗りのトバルのような変質者もいなくなったんだろうし。少なくともバルトはヴァン・グラフ・ファミリーを押さえつけるだけの強権を持ってる。
「明日は宝探しに行こう」
「アイレイドの彫像を探しに遺跡を潜っていた頃を思い出します」
「アイレイ……はい?」
ちょいちょい意味が分かりません。
謎のグリン・フィス。
「宝探しか、楽しそうだな。ミスティ、カメラ買っていこう。弁当も持っていこう。俺は大盛りで頼むぞ」
「それ楽しそうね」
明日の日程決まり。
宝探しっ!
その頃。
欲望の街ソドムよりも北に2キロ先の海岸。
旧時代には漁船として使われていた一隻の大型の船が停泊している。そこに十数名の人間が屯っていた。
普段なら人影は少ない。
むしろ、ない。
いつもならあるのは人ならざる者たちだけだ。
キャピタル・ウェイストランドではミレルークと呼ばれ、ポイントルックアウトではレイクルークと呼ばれる異形のミュータント。しかし生きてはいない。
累々と死体として転がっている。
「カニどもが」
1人が吐き捨てるように呟く。
その人は、いや、そこにいる十数名全員が、正確には一人のスクライブを除いてだが、全員が赤と黒を基調としたパワーアーマーを纏っていた。
そこで焚火をたいて野営している。
船から降ろしたのであろう、木箱が複数置かれている。
中身は武器であり、食料。
近付く者には容赦しない姿勢を占めているのはアウトキャストと呼ばれる集団。
元々はエルダー・リオンズに従ってキャピタル・ウェイストランドに旧世紀のテクノロジー収集に来たものの、エルダー・リオンズが西海岸のBOS本部の指揮から
離れ独立した為、本部の意向を遵守するべくリオンズを見限ったのがアウトキャスト。つまり彼ら彼女らこそが正式な意味でのBOSだった。
離脱後はテクノロジーの収集をしながら西海岸へと撤退するつもりだったがそれが阻まれた。
エンクレイブの到来だ。
結果、アウトキャストの勢力の半分は駆逐され、エンクレイブ撤退後は彼らの残した技術はリオンズ達の手に転がった。アウトキャストは大きく水を空けられた感じとなった。
アウトキャストを束ねていたのは護民官キャスディン。
彼は西海岸からの援軍を待って立て直すべきと主張。しかし護民官マクグロウは早々に戦利品を持って西海岸に帰ることを主張。
双方主張を譲らず分派した。
護民官キャスディン側はウェイストランドの砦に立てこもり、護民官マクグロウ側はポイントルックアウトに渡った。
何故?
それはヴァン・グラフ・ファミリーの取り扱うプラズマ兵器とレーザー兵器を買い取る為だった。
西海岸の本部はテクノロジーの出所は気にしない。
要はテクノロジーに囲まれていれば満足なのだ。
持ち帰れるものさえあれば、マクグロウ達は帰還できる。マクグロウはある意味で穏健な性格で、ヴァン・グラフ・ファミリーと戦争してまで奪おうという腹はない。
それが部下たちの反感を買ってはいるが現状では抑えられている。
少なくとも、今はまだ。
「マクグロウ」
ただ一人、パワーアーマーを着ていない女性がリーダーに声を掛けた。
階級はスクライブの女性。
スクライブ、学者だ。
「何だね、オリン」
「あんなチンピラを信用できるの? ヴァン・グラフ・ファミリーは西海岸でも評判の悪党どもよ」
「連中は利に転ぶ。それだけだ。心配する必要はない」
同刻。
ソドムの街。ヴァン・グラフ・ファミリーが経営するクラブ<インサニア>。
支配人室。
いるのはポイントルックアウト支部を取り仕切るヴァン・グラフ・ファミリーの御曹司であるグラッツェ・ヴァン・グラフと愛人のミス・グラマラス。
彼も愛人も組織のメインバーも全員が西海岸の出身。
母親の命令で武器商人としての商売拡大の一環として派遣されたものの、この地はプラズマやレーザー、パワーアーマーは使い物にならなくなる。
その為路線を変更して性風俗のクラブ運営に専念していた。
愛人が叫ぶ。
「グラッツェ、さっさと赤毛を殺してよっ! あいつうざいのよっ!」
「ミス・グラマラス。足が付く。あいつとは極力接触したくない。カリフォルニア共和国ですらビビッてるエンクレイブを追い返した女だぞ? お前にも分かるだろうが、ヤバさがよ」
豪奢なデスクに足を投げ出してふんぞり返っている御曹司は気の乗らない返事をしていた。
事実、気が乗らない。
あんな常人離れした射撃を見せられたのであれば争う気も起きない。
ただ畏敬の念を抱いているわけではない。
気に食わないが組織のダメージにはしたくない、という意味合いだった。
「あんたあたしよりあいつに色目使ってんじゃないでしょうねっ!」
「何馬鹿なこと言ってんだ」
「あんな生意気女さっさと殺してよっ!」
「そろそろ部下たちがアウトキャストと取引している頃だな。……良い取引なんだよ、ミス・グラマラス。終わり次第手は打ってやる」
「ほんと? どうやって?」
「赤毛を殺せる恰好の奴を見つけたのさ。本当だぜ?」
同刻。
アウトキャストが野営している海岸を見下ろせる岩壁。
そこにいる集団の会話。
「あれか? 不法に侵入した連中とは? 街の連中もたくさん迫ってきてるな、どうするんだ、ジャクソン?」
「ふむ」
「街の連中には手を出さない約束だぜ?」
「出さないさ。正規の手順を踏んでる奴らはな」
「アウトサイダーだけ消すのか? どうやって? 結構骨だぜ?」
「どうするもこうするもない。不法にこの地を侵す者はプンガの養分にしてやるまでだ。戦士たちよ声を上げよ武器をかざせ、アウトサイダーを始末するぞっ!」
トライバル、アウトキャストに攻撃開始っ!