私は天使なんかじゃない







その後いかがお過ごしですか?





  それは彼ら彼女らの後日談。
  もしくは、その末路。





  動乱が終わった後、ソドムの街は荒廃した。
  バルトがカルバート教授に管理を任される以前の姿に戻った。
  生き残った住人の大半はトライバルに吸収され、わずかな残りの住人もソドムには留まらず姿を消していった。
  観光と歓楽の街ソドム。
  安穏とした箱庭は壊れ、境界線はなくなり、危険と混在した。箱庭とバルトは表現したものの危険は常に隣り合わせだった。
  完全に隠されたボルトでさえ崩壊する。ソドムはそれよりも脆弱だった。
  時折スカベンジャーが休息に利用するだけの残骸と化した。
  街はそれほど必要ではなかったのだ。





  トライバルはこの急速なまでの流れで行われた動乱の中を生き延びた。
  彼ら彼女らは機を見るにも鈍であり臨機応変でもなければ野心的でもなかった。
  しかし皮肉なことに、だからこそ生き延びたのだった。
  アンクル・レオはトライバルのある種の至純ともいえる部族の姿勢を危惧し、神はもうトライバルの前に現れないと告げて、去った。
  トライバルが今後誰かに騙されないようにとの思いからだった。
  指導者ジャクソンはソドムの難民を受け入れ、キャピタル・ウェイストランドとプンガフルーツの取引をし、後にルックアウトにおける商業都市の礎を作るのだった。
  彼らは物惜しみせず常に親切ではあったがプンガフルーツの育成方法だけは決して言わなかった。
  誰もが求める甘い果物プンガフルーツを売る際にちょっぴりと余計な物を売りつけてはキャップを稼ぐ姿は商人そのものだった。






  キャピタル・ウェイストランドで分裂したOCの分派組織はルックアウトで壊滅した。
  ハイテクを求めて未開の地で全滅したのはある意味で皮肉的な最期だった。
  常に紳士的にあろうとしたマクグロウであったが、その内面はどこまでもハイテクレイダーでしかなかったが、彼は最後の瞬間まで自分が紳士的だと信じて疑わなかった。
  エリヤが言ったように本家BOSのやり方は段階的に古くなっていた。
  BOSは学ばない。
  決して蓄えた知識を使おうとしない。
  いつしかBOSはハイテクから骨董品にまで成り下がっていた。





  Mr.チャンは死んだが、結果として任務を達成した。
  彼が宇宙船に拉致されている間に地上では200年の月日が過ぎたものの頑なに祖国を信じ、帯びた任務を至高とし、結果として原子力潜水艦は爆破された。
  エリヤは彼を利用し、嘲笑っていたが、その頑なな精神は愛国者そのものだった。
  しかし愛国者という言葉は廃れて等しい。
  見る者によっては、彼の行動は教授の手下の生き残りであるロボットたちと同じだった。
  愛国なのか人形なのか。
  それは見る者によって真逆となる答えだった。






  西海岸から勢力拡大の為にルックアウトに来ていたヴァン・グラフ・ファミリーはこの地で潰えた。
  失われた莫大な資産。
  ファミリーが東海岸に新たな拠点を築くための労力は全て水泡となった。
  結果として基盤が揺るぎつつなった西海岸のヴァン・グラフ・ファミリーは盤石にするためにクリムゾン・キャラバンと組んでモハビ・ウェイストランドで暗躍を開始しつつあった。
  商売敵と対抗馬の抹殺、そうすることで挽回しようとしていた。
  ルックアウトに派遣されていた者たちは何人かは生きていたが、西海岸におめおめと帰ることができず、東海岸に居残った。





  トバルの脳はスーパー・エゴと名乗り、赤毛の冒険者やCOSを利用して邪魔な肉体を排除したのだった。
  機械の脳や機械の臓器、自由意思を与えられたかつての肉体はバルトを名乗ってはいたが全くの別物だった。そんな異質な肉体をトバルは嫌い抜いていた。
  全てが終わった後、独立したトバルではあったがデリンジャーのジョンに追われ、密林に逃げ、沼地にはまってしまった。
  抜けようにも抜けれず、緩やかに錆びてスクラップになっていくボディ。
  思考を至高としていた脳ミソは自分の錆び行く速度を計算したりしていたが次第にその無意味さを知り、ついに思考を停止した。
  脳は脳の役目を放棄したのだった。
  結局脳は望めば独立できるが、脳もまた肉体同様に不完全であることをトバルは最後まで気付かなかった。
  不完全こそ生き物の本質。
  完全などないのだ。





  ポイントルックアウトにおいて一番の教養を自負していたオバディア・ブラックホールは内なる狂気に暴走した。
  オカルトと笑った本を、実は誰よりも彼自身が信じていた。
  病に侵され余命幾ばくも無い老人は本を翻訳し、スワンプフォークのメイドで実験し、次第にスワンプフォークから疎まれていった。
  彼は知らない。
  その本がただの拷問本であるということに。
  誰よりも教養を誇っていた彼は、誰よりもオカルトに傾倒していたのだ。
  人は追い詰められれば容易に狂気に身を委ねる。
  常識を保つことは簡単ではない。





  奥地から召集されたスワンプフォークは、オバディアの狂気を嫌い、結局は奥地に引っ込んだ。
  命令されれば残虐な行為も辞さない彼らではあったが本来は境界を侵さない限り温厚な民族だった。
  トライバルは平地を支配し、スワンプフォークは奥地に君臨する。
  幸いなことに攻撃的で無慈悲な自然の集大成である深い密林が双方を遮っているため、両者はルックアウトにおいて共存の道を選ぶことが出来た。
  人は見た目では中身が分からない。
  つまりはそういうことだ。





  ボルト87でのデータを元に作られた進化するスーパーミュータント・コマンダーは電子脳を失い、肉塊となった。
  それを取り込んだフェラルを変異させたりもしたがそれで終わりではなかった。
  増殖し、生物を取り込むことで肉塊は生き続けた。
  教授が望んだ進化とは別の方向に進み続けた。
  いつしかその存在はルックアウトにおいて蠢く者と呼ばれる異質な存在となっていた。
  進化を制御することなど誰にもできないのだ。





  伝説の冒険者は私怨と嫉妬に駆られ晩節を汚した。
  妬みの塊となった彼は赤毛の冒険者によって命を落とすこととなった。彼は人間は全て、自分を含め、性悪だと思っていた。
  自分以外を蹴落として歩んできた人生だった。
  最後の決着の際、彼は赤毛の冒険者を罵り、悪役として彼女と敵対し、そして敗れた。
  だが赤毛の冒険者は彼が今までしてきたようにを彼を蹴落とそうとはしなかった、その生き方を哀れんだ。
  宛の外れた老人は自らを蹴落とし、その生涯を終えた。
  本来失墜するべきだった彼の名声は赤毛の冒険者によって守られた。
  見様によっては老人にとって最高なまでの嫌がらせだった。
  赤毛の冒険者にその気がないにしても。





  COSはルックアウトの地で躯を晒すことになった。
  エリヤは何とか逃れたものの組織は壊滅し、シエラ・マドレ探索は数年の遅れが出たのだった。
  求めていた情報も手に入れれず、また組織したCOSの全滅によりエリヤは無駄な時間を費やすことになったのだが彼はめげなかった。
  今回の失敗を糧にさらなる行動に出ようとしていた。
  彼の行動原理は常に間違っていたがそれに気付くでもなく、また指摘する者もいなかった。
  しかし彼にとってはどうでもいいことだった。
  冷静に狂っていた彼にとって間違いを間違いとして認識できる感性は既に失われていたのだから。
  狂人は歩き続ける。
  いつか地中深い棺桶に閉じ込められるその日まで。





  クリスティーンはCOSを壊滅させたものの、瀕死の重体だった。
  何とかキャピタル・ウェイストランドに渡ったが……。
  「……ここは……」
  「目覚めたか。まだ寝ていた方がいい。生きているのが不思議なほどの傷だ。喉の傷も酷い。もしかしたら声を失う可能性もある」
  「……あなたは……?」
  「俺か? 俺の名は……・」


  TO BE CONTINUED