私は天使なんかじゃない







旅の報酬





  報酬は正当な権利。
  無形の報酬ではあるが、彼女はそれで満足していた。





  ポイントルックアウトの動乱。
  ……。
  ……動乱目当てではなく、冒険……いや、観光となんちゃって冒険目当ての息抜きだったんだけど、いつの間にか訳の分からない動乱に巻き込まれていた。
  ソドムの街。
  ルックアウト唯一の歓楽街であり冒険の拠点。
  市長バルトは巧妙に市民を監視し、観察し、必要に応じて人体実験をしていた、らしい。少なくとも灯台の記録ではそうなってた。
  奴はボルト87でスーパーミュータント軍団を製造していたカルバート教授の手下だった。
  当初私をミスティと認識していなかったけど、途中でそれを知り、抹殺に掛かろうと……した瞬間、別口の厄介が飛び込んできた。
  スワンプフォークの襲来。
  オバディア・ブラックホールとかいう爺さんの命令でジャングルの奥地にいる閉鎖的な連中が襲来してきた。
  結局、スワンプフォーク自体は爺さんの命令で動いていただけで、わずかな時間ではあったけど共に行動してた時は気さくだった。何言ってるかは分からんかったけど(汗)
  爺さんの狙いはオカルトな本。
  魔力が宿った本。
  誰がどういう理由で最初に奪い、どういう経緯でリレーして狂信者ジェイミに渡ったかは知らないけど、そいつから本を奪い返せと言われた。
  断ればいい?
  出来るならそうしてた。
  本の争奪戦に巻き込まれてうんざりしてたからサクッと味方してジェイミ一行を片付けた。
  オバディア自身は魔力の本だなんて思ってないわい、というスタンスだったけど、奴は奴で狂ってた。本のことを禁断の不死魔道書とか何とか言ってたな。
  ドイツ語?とかいう言語で書かれてて私には内容が分からなかったけど、バルト曰く拷問本らしい。
  爺さんはそれを知らない。
  自分の寿命を延ばす本だと思い今も必死で翻訳してることだろう。
  何かの病気みたいだし、それは死に至る病で、だからこそ本に縋りたいのだろうけど……争奪戦に関わってた連中は全部狂ってたってオチ。
  嫌だなぁ。
  翻訳する前に病で死ぬかもだし翻訳しても結局死ぬだろう、寿命伸ばす本じゃないわけだしね。
  同情はしないしどうでもいいけど、まあ、翻訳前に死ねたら幸せだろう。
  この決着の後、教授の手下の生き残りたちが躍起になって動き始めた。何故かOCのマクグロウとオリンもそっちに味方してた。別に友達じゃないからいいんだけど。
  教授の敵対者だったツンデレのデズモンド・ロックハートと再び手を組み、アンクル・レオを神と信じ教授側から転じたトライバルを味方に付け、灯台で決戦。
  私たちが勝利した。
  ザ・ブレインとマクグロウは原子力潜水艦でルックアウトを離れたみたいけど……沖合でキノコ雲が上がった。
  あのタイミングでキノコ雲だから何らかの事故で爆発した?
  そうかもね。
  全く関係ない爆発ってことは、可能性的に低いだろ。あのタイミングだし。となるとザ・ブレインとマクグロウは絶望的だろう。悪いことはできませんなぁ。
  スーパー・エゴ、というか、フェリー乗りのトバルの脳ミソはどうなったか謎。
  決戦後、カテドラルで盛大な宴会したんだけど、デリンジャーも参加してたんだけど、途中で消えてた。終わり際に泥だらけで帰ってきた。何らかの対処をしたんだろうけど彼は微笑するだけ。
  殺したんだか見逃したんだか謎。
  まあいいけど。
  COSに関してはもっと謎。
  海岸沿いでCOSと思われる死体がごろごろしてた。
  誰がやったんだ?
  仲間割れ?
  謎です。
  謎。
  数十に及ぶ死体だし、バルトの側にいたデリンジャーはCOSとも面識がある。全員の名前を諳んじてる間柄ではないにしても、大体の人数は分かる。彼曰く、目にしたに人数分は死んでるらしい。
  COSは全滅と見るべきかな。
  何でだか知らないけど。
  宴会で私たちはお酒を飲み、歌い、アンクル・レオとデズモンドは何故か踊りまくり、楽しい宴会でした。
  だけど息抜きはお終い。
  私たちはキャピタル・ウェイストランドに戻った。





  キャピタル・ウェイストランド。
  リベットシティ付近。
  巨大な空母が遠くに見えてる。ようやくキャピタルに帰って来たってわけだ。
  帰りの方法?
  以前ヴァン・グラフ・ファミリーがOCから奪った漁船を修理して私たちはキャピタル・ウェイストランドに戻ってきた。漁船そのものの運用方法は今のところ決めてないから放置。
  あー、久々の陸地だ。
  長い休暇でした。
  ……。
  ……大半は戦ってたけどさ(泣)
  戦利品をそれぞれ持って帰ってきた。リンカーン・リピーターは結局私が持ってる。それなりに強力そうだし。単発だから使うかどうかは微妙だけどさ。
  サラはヴァン・グラフ・ファミリーの店から可能な限りプラズマ系の武器をゲットしてご満悦。
  戻ってきたら戻ってきたでエンクレイブとの再戦は間近だから、最先端の武器は多い方がいい。
  私たちは帰ってきた。
  私たち、当然私、グリン・フィス、アンクル・レオ、サラ、シー、ポールソン、デズモンド、ワンコ2頭そしてデリンジャーのジョン。デリンジャーは別に同じ船で仲良く帰ってきたわけではなく、私たち
  の船の後ろを別の船で付いてきただけ。まあ、途中から牽引する形で一緒に帰って来たし飲んだり食べたりもしたけどさ。
  嫌いではない。
  嫌いではないけど依頼次第では敵になるから面倒くさい。
  それもやたらデタラメに強いし。
  なおアンクル・レオはミニガンの代わりにプンガフルーツの入ったでっかいカゴを背負ってます。
  何か可愛い。
  プンガフルーツは皆へのお土産。
  「それでこれからどうするの?」
  私は聞く。
  聞く相手はデズモンド・ロックハート。彼は彼で休暇、いや、隠居の為にルックアウトに行ったのにこんな結末となってしまった。
  船旅中も今後のことで悩んでたようだし。
  「俺か? そうだな、悩んだがキャピタルには留まらんよ。エンクレイブが来そうだしな。赤毛さんたちを見捨てるようで気が重いが、戦いは疲れたんだ。前も言ったけどな」
  「仕方ないけど、寂しくなる」
  「それに」
  「それに?」
  デズモンドはクククと笑った。
  「トラブルメーカーが近くにいるのも、あれだしな。どんなトラブルでも引き寄せちまう」
  「ちょっ、それ私のこと?」
  「まー、否定できないっすねー」
  「そうね。確かにミスティは100キロ先のトラブルでも引っ張ってきそうよね」
  「……御意」
  「ミスティ、気にするな。それはそれで特技だ。……いや、やっぱり、トラブルばかりも疲れるかな、がっはっはっはっはっ」
  「クソチビ野郎にも誘拐されるしあんたは悪運の塊だよな?」
  すいません誰もフォローはしてくないのですか?
  デリンジャー?
  一つ一つのコメントに頷いてます。
  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああちくしょーっ!
  デズモンドは笑った。
  「あんたとつるんでて楽しかったよ、赤毛さんよ」
  「私もよ」
  「最初は利用できると思っただけさ。悪いけどな。だが、何というか、あんたは面白かった」
  「……褒めてる?」
  「微妙だな」
  「何よそれ」
  「ははは。まあ、あれだ、赤毛さんよ。あんたと会えてよかったよ。今後は愛犬たちとどこかで静かに暮らすよ。とはいえこのまま別れるのもあれだよな、リベットで飲もうぜ。奢るからよ」
  「いいわね、それ」
  出会いがあれば別れもある。
  それはどうしようもない。
  今は友人と一緒に楽しく飲むとしよう。
  「デリンジャーも来る?」
  「おや僕もお誘いしてくれるのですか? まさか僕に好意を持ってしまったとか? いやぁ、よくあることです」
  「……主、斬りますか?」
  柄に手を掛け構えるグリン・フィス。
  物騒な奴だ。
  だけど実際、デリンジャーとグリン・フィス、どっちが強いんだろ。わりと勝敗が分からなかったりする。
  「奢り酒を断るのは人として駄目だと思いますけど、今回はご遠慮しようかと」
  「何で?」
  「さすがにソノラさんがこちらに来るのにリベットに近付くのも、ね」
  「ソノラ?」
  リベットシティの方を見る。
  あー、いた。
  リベットシティの入り口付近にいる。部下を8人連れてる。部下たちは2人で1つのでかい木箱を運んでる。つまり合計4つの木箱。
  何してんだろ。
  艦橋のところで、つまり入り口付近でリベットのセキュリティ連中と何か口論?か何かしてる。
  それにしてもデリンジャーはレギュレーター的にはどんな扱い何だろ。
  ジャンダース・ブランケットみたく抹殺対象?
  うーん。
  今度ソノラに聞いてみよう。
  ……。
  ……いやいやいやっ!
  変に同類項だと思われたら、下手したらレギュレーターが敵に回るかもしれない。
  疑わしきは皆殺しにしちゃう性格だもんなぁ、ソノラ。
  よし、関係聞かれても黙秘でいこうっ!
  怖い怖い。
  「ではそういうわけで。僕は祖母の様子を見てきますよ」
  「祖母? あんた肉親いるの?」
  「いますよ。僕の持ってる44マグナムは元々祖父の遺品です。久し振りに祖母孝行してきます」
  「ふぅん」
  「とはいえいつか決着は付けたいところですね」
  「……疲れるから、めんどい」
  「ははは。では、また」
  そう言ってデリンジャーは去っていった。
  次は敵?
  かもね。
  「あー、あたしもまずいかもー」
  「シーも?」
  レギュレーターに目を付けられてるのか?
  あー、ありえるかも。
  「前にレギュレーター本部に忍び込んでキャップ巻き上げたし。若気の至りってやつ☆」
  「それ100%ソノラに殺される案件じゃない?」
  「てへ☆」
  「てへじゃないでしょう。いや、マジでマジで」
  「トレジャーハントはスリルが大切なのだよ」
  「そういうレベル?」
  「微妙☆」
  やばいだろ。
  サラが前に言ってたけど、会った仲で一番ポジティブだな、シー。
  まあ、褒めてないけど。
  こいつとも同類項と思われると消されるかもなー。
  怖い怖い。
  「そういうわけであたしも行く。そうそう、ネイディーンはリベットにいるから伝えといて欲しいことがあるのよ。ルックアウトに船出してなかったら、だけど。いなければいないでもいいけど、
  キャサリンおばさんに言っといて。キャサリンおばさんは知ってる? ネイディーンのお母さんなんだけど」
  「名前は聞いたから知ってる。会ったことないけど」
  「大体ゲイリーズ・ギャレーって食堂にいると思うよ。まー、そこはそっちで探してよ。それで、伝言があるのだよ」
  「何を伝えればいいの?」
  「トライバルと協定結んだからプンガフルーツの売買できるよって言っておいて」
  「トライバルと? どんな魔法使ったの?」
  プンガフルーツ持ち出し禁止だったような。
  お土産用は特別だと思ったけど、そうでもないのか?
  「あたしさ、ヴァン・グラフからキャップ巻き上げたじゃん? 気付いて取ると思うけど」
  「まあね」
  「トライバルに全額渡してきた。あいつらキャップ好きなんだ。ソドムあった頃は嗜好品とかの取引で連中もキャップ使ってたし。とはいえお金大好きってよりもキャップを集めるのが好きっ
  ていう意味なのよ。あいつらキャップのコレクターみたいなもんなの。20万渡したからプンガの独占販売権ゲットした。あいつらネイディーン知ってるし、取引可能って言っておいて」
  「彼女に販売権上げるの? 何で?」
  「あたしあの子の姉貴分だしキャサリンおばさんにはお世話になったし。というかあたしは別にお金も好きだけど、使うのも好きなんだ。パーッと使うのが好きなの。そんだけ」
  「へー」
  宵越しの銭はもたねぇ、みたいな?
  面倒見がいい子らしい。
  ふぅん。
  ますます好きになったな、シーが。
  「トレジャーハントする為に冒険するのが好きなのだよ、まー、贅沢するのも好きだけどさ。……ちょーっと敵作り過ぎてるかもだけど」
  「ちょっとどころじゃないような」
  デリンジャーにしろソノラにしろ敵にするにはデカ過ぎるだろ。
  「じゃあ伝えておいてよ」
  「分かった」
  「またキャピタルのどっかでね。ばいびー☆」
  「ええ」
  そう言ってシーもデリンジャーのように去っていく。
  人には人の物語がある。
  前にデリンジャーが言っていたように、ね。
  確かにその通りだ。
  私は私の道を歩くように、シーはシーの、皆は皆の道がある。そう考えるとなんか感慨深いものがあるな。

  「ミスティじゃないか」

  「ん?」
  後ろから声がした。
  振り返る。
  見知った顔だった。
  「ハンニバル、お久し振り」
  そう。
  声を掛けてきたのはハンニバル。
  ユニオン・テンプルのリーダー。
  現在はDC残骸にあるリンカーン記念館を中心に街を作りそこを治めている。市長、という役職でいいのかな?
  パラダイス・フォールズとの決戦で開放した奴隷たちもその街に加わりかなりの大所帯の街になっているとルックアウトに行く前に聞いたような。
  「シモーネも久し振りね」
  「別にあんたに会いたかったわけじゃないんだからねっ! ……久し振りね、元気だった?」
  「は、ははは」
  相変わらず妙なツンデレさんだ。
  アサルトライフル持った平服の男女を5人引き連れてる。その人らの名前は知らない。
  部下かな?
  「先に行ってて」
  お酒飲みたそうな顔してた男性陣を私は促す。
  「先に始めてるぜ、ミスティ。行こう、デズモンド」
  「ああ、そうだな保安官さんよ。早く来いよ、赤毛さんよ」
  「ところでデズモンド、このままギルダー・シェイドで暮らせばいいんじゃないか? あそこは静かでいいぜ。……少しばかりクレイジーが多いがな」
  「少しか? ははは、だが、それもいいかもな」
  デズモンドとポールソンはリベットに歩き始める。
  仲良くなって何よりだ。
  ワンコたちもポールソンにも懐いてるし。
  私はグリン・フィスも促した。
  「しかし……」
  「飲みたいんでしょ? 先に始めててよ」
  「よろしいので?」
  「行ってらっしゃい」
  「御意」
  お酒大好き人間と化したグリン・フィス君も2人に着いていく。
  無礼な奴?
  いやいや。
  仲間だから別にこれでいいんじゃないかなぁと。
  そもそもグリン・フィスの最初の対応が従者然としてたからこんな感じの関係性になっているような。
  まあいいけど。
  「アンクル・レオも行っておいで。……あれ、リベットはスパミュいいのかな?(汗)」
  「うーん、微妙なところだな」
  メガトンはオッケーな感じになってたな。
  リベットは分からん。
  考えてみたらリベットはパパを探しに行って、その後パパとDr.リー訪ねに行ったきりだ。
  うーん。
  あんまりリベットシティは好きじゃないかなぁ。
  何というか閉塞感がある。
  ボルトっぽいというか。とはいえボルトみたく滅菌されてるわけでもなくて、やたら錆びっぽいけど。
  私としては空があった方がいい。
  今更ボルトでは暮らせないな。
  「ミスティ、私もちょっと抜けるわ。ルックアウトで手に入れたプラズマ系の武器を部下たちに命じて要塞に運ぶ手筈をしなきゃいけないし。またね」
  「分かったわ。近い内に要塞行くから、またね」
  サラも立ち去る。
  残ったのはアンクル・レオだけ。はいえ皆すぐに会えるから別にいいんだけどさ。
  「よかったのか、ミスティ?」
  「別にいいわ、ハンニバル。ところでリベットには何しに来たの? 補給物資の調達?」
  「それならアンダーワールドで事足りるな。わざわざここまで来るのも危ない」
  「そうよね。で、何しに?」
  「ここ最近恒例のお願い事だよ」
  「お願い事?」
  何のことだろ。
  「リベットシティには個人が経営している博物館があるのだが、そこにリンカーンの愛用の品々があるのだ。元々は歴史博物館、アンダーワールドにあったのだが、今はここにある」
  「ふぅん」
  「シドニーというトレジャーハンターが持ち込んだらしい」
  「へー」
  誰だ、それ。
  知らんな。
  シーがまだここにいたら分かったかもね。同業者のようだし。
  「自分とこの街に飾りたいの?」
  「そういうことだ。何とか交渉をしているのだが、かなり吹っ掛けられるのだ。もちろん向こうは向こうで代価を払ったわけだから、それは、別に悪くはないのだがね」
  「あは」
  この辺りがハンニバルのいいところだと思う。
  自分が正しい、正しいんだっ!だから従えやっ!という理論を持ち出さない。そういうとこは尊敬できます。
  「交渉は平行線?」
  「そうだ」
  「というか……たぶん、リベットの博物館の人、手放す気ないから吹っ掛けてるんじゃない?」
  「やはり、そう思うか?」
  「うん」
  博物館してるぐらいだからその可能性が高い。
  売り物ってわけじゃなさそうだ。
  「ミスティ、あれ、必要ないならあげたらどうだ?」
  「あー」
  アンクル・レオに言われて思い出す。
  必要とされているところに収めた方がこの銃も喜ぶだろ。
  「ハンニバル、これ飾ってよ」
  「何だね、これは」
  美しい装飾の施されて銃を手渡す。
  ハンニバルはそれを受け取って、怪訝そうに見てた。
  「見覚えない?」
  「見覚え……アンダーワールドでチューリップに見せてもらった資料にあったような……」
  「リンカーン・リピーターよ」
  「リンカーン・リピーターっ!」
  嬉しい反応だ。
  「これを、まさか、くれるのか?」
  「ルックアウトのお土産」
  「ありがとう、ミスティっ! 君にはいつもお世話になっているっ! まさかこれが手に入るとは……何と美しい……リンカーンの品の中でも一級品のレベルだよ、これは……」
  惚れ惚れと銃を見るハンニバル。
  喜んで貰えて何よりだ。
  「あとハンニバル、お土産にプンガフルーツを……ハンニバル……? おーいっ!」
  「すぐに収納ケースを作らねばっ! ミスティ、悪いが私はこれで失礼するっ! いつか恩に報いると約束するよ、ではなっ!」
  小走りのハンニバル。
  慌ててシモーネと部下と思われる面々が追いかけていく。去る前にプンガフルーツを幾つか手渡した。
  思わず苦笑。
  ハンニバルの新しい一面が見れた。
  「楽しい仲間だな」
  「あははは」
  コントみたいな展開でしたね。
  「ところでアンクル・レオはこれからどうするの?」
  「俺か?」
  「うん」
  「俺はオアシスに帰るよ。ハロルドが待ってるし、あいつらにもお土産持って帰りたいしな。俺はどれだけフルーツを持って行っていいんだ?」
  「半分ぐらい持って行っていいよ」
  「本当か? いいのか?」
  「あそこは自給自足で、外に出ないし、甘いものに飢えてると思うんだ。プンガフルーツを差し入れしてあげて」
  「喜ぶぞ、あいつら」
  ワクテカなアンクル・レオ。
  可愛いですね。
  そろそろ私たちもリベットシティに行くとしよう。
  リベットに向かって歩き始める。
  リベットからはセキュリティとの口論が終わったのか、レギュレーターの一同がこちらに向かってきている。先頭はソノラ。部下の数がさっきより増えてる。木箱を運搬している連中を
  警護するように数人が展開している。360度フリーな空間なんだけど、連中はこっちに向かってきてる。どうやらソノラは私を視認してるらしい。
  「お帰りなさい」
  「ただいま」
  ソノラたちレギュレーターの一段と接近遭遇。
  立ち話。
  ……。
  ……いつになったら私らは飲めるんだ?
  あいつら出来上がってるんじゃね?
  「先に行っていていい」
  「了解しました、ソノラ」
  木箱持ちの部下と、それを守備している部下たちがここから歩き去る。
  木箱、結構でかい。
  ソノラの少し後ろには栗色のロングの女性と黒い短髪の男性が控えている。あー、前にビリー・クリールが従がえていたような。
  2人はソノラの影のように控えていた。
  「ルックアウトはどうでした?」
  「最悪」
  「何故?」
  「色々あったのよ、色々と。……あー、ジェイミって知ってる?」
  「ジェイミ? ダンウィッチの?」
  「そいつ始末した」
  「ほう? それは素晴らしい。奴は前にあなたが始末したジャンダース・ブランケット同様に我々の抹殺から逃れていた奴です。感謝します」
  「感謝してくれるなら、その、ちょっとごめんねな話があるんだけど」
  「何ですか?」
  私は腰の44マグナムを一丁引き抜いてソノラに見せる。
  デリンジャーに破壊されてる。
  ピットではインフェルトレイターはボスの証で、破壊=奴隷に降格、という掟だった。レギュレーターはそういう掟ないでしょうね?
  がくぶる(泣)
  「……」
  「ソノラ、あのー……」
  「ミス・ティリアス、新品を用意させましょう。とはいえ今は予備を使ってください。モニカ、あなたの銃を彼女に」
  「了解しました、ソノラ」
  モニカ、と呼ばれた女性が銃を差し出す。彼女のホルスターにあった44マグナムだ。
  破損した銃はソノラが持ってる。
  それにしてもミス・ティリアス、か。誰に聞いたんだろ?
  ティリアスは私の本名。
  昔ボルト101にいた頃にミスとかミスターを付けるのが流行った。ティリアス→ミス・ティリアス→ミスティ、となりました。
  外で私の名前を知ってる人は少ない。
  ブッチあたりに聞いた?
  あー、かも。
  「ソノラ、何故に私の本名で呼ぶわけ?」
  「あなたがレギュレーターの鑑だからです。それにしても、いい名前ですね。実にふさわしい」
  「はっ?」
  意味分からん。
  「ぶふぁーっ!」
  突然男の方が噴き出す。モニカも笑っている。
  仲間内でしか分からないギャグか何か?
  何かいらっとするな。
  「近い内に進呈しますよ、新しい銃を」
  「まあ、何だ、よろしく」
  「さて我々はこれで失礼を。新しい本部の立ち上げで忙しいのです」
  「新しい本部?」
  ああ、前の本部はエンクレイブに吹き飛ばされたとか言ってたな。
  じゃあ木箱の中身は本部に備蓄する物資か何かか。
  「そうそう、ミスティ」
  今度はミスティに戻ってる。
  何なんだ、さっきの本名呼びは?
  「今リベットシティは混乱してますよ」
  「混乱?」
  「あなたがいない間に色々と騒動があったのです、キャピタル・ウェイストランドでもね。解決済みですけど、まだごたごたの余波は続いています」
  「ふぅん」
  そのあたりは後で復習しよう。
  ルックアウトにいた私にしてみればふぅんとしか言えない。
  「例えばどんなことが?」
  「モハビから来た傭兵どもが騒動起こしたり、グレイディッチでアリ騒動、一番大きいのが水の問題ですね。水がリベットの利権となっていました」
  「利権」
  パパとママの魂の合作を利権だとぉー?
  ふざけやがって。
  「そのごたごたに嫌気がさしてDr.マジソン・リーが旅に出たようです。詳しくは知りませんけど、確か……連邦に旅立ったとか? すいませんね、又聞きですので詳細は分かりません」
  「連邦? 噂じゃエンクレイプに従属したんじゃなかった? わざわざそこに飛び込むの? 何で?」
  「そういう話を聞いたことはありますけどよく分かりません」
  「ふぅん」
  いなくなっちゃったのか。
  残念。
  パパとママのこと色々と聞きたかったのに。今まで色々とごたごたしてて聞けなかった、残念だ。
  「Dr.マジソン・リーの助手とかに聞けば詳しいことが分かるかもしれませんね」
  「そうする」
  「ただ、さっきも言いましたけどリベットシティは混乱してます。セキュリティも厳しくなっている。詮索し過ぎて不審人物として捕まらないように気をつけてください」
  「はーい」
  「そうそう。ブッチ、でしたか? あなたの恋人がリベットにいますよ」
  「恋……いや、違うから」
  「おや、彼が言ってましたが。まあいいです、我々はこれでお暇します。それでは。……時期を見てまた仕事を持っていきますから逃げないようにね」
  「は、ははは」
  逃げようっ!
  それにしてもブッチ殺す、百回ころーすっ!
  「ああ、そうだ、プンガフルーツの御裾分け」
  「何ですか、これは?」
  「ルックアウトの名産」
  「ありがとう。楽しみに食べるとします」
  ソノラは笑う。
  相変わらず目は笑ってないけど。
  しばらく私を見てる。
  何だ?
  「ミスティ」
  「ん?」
  「休養してください。直に嵐が来ますから」
  「そうね」
  嵐。
  それはエンクレイブという名の嵐。
  必ず動乱は来る。
  必ず。
  私はソノラと別れ、そしてリベットシティに向かう。
  今日は旅の仲間と楽しく語らおう。
  かけがえのない旅の報酬だ。






  ソノラ一行。
  新しい本部に向かってレギュレーターの一団は歩く。
  会話はない。
  無言。
  レイダー連合やタロン社、奴隷商人は一掃された。あらかた根こそぎにされた。ただ今まで組織として統制されていた一面もあった。その組織がなくなり、統制もなくなった。
  その為享楽的な連中や一攫千金を狙う者たちは各地で暴れまわっていた。
  必ずしも治安が回復しているわけではなく依然混沌としていた。
  街道にはメガトン共同体の兵士がいるし、レキュレーターを狙う馬鹿はそうそういないものの、それでも油断していい状況でもないのは確かだ。
  しばらくの沈黙の後、モニカが呟く。
  「良い子ですね、彼女」
  「……」
  「ソノラもそう思いませんか?」
  「だからこそ腹が立つ」
  「ええ。私もです」