私は天使なんかじゃない
受難体質
望む望まない関係なく。
「あなたが市長のバルトさん?」
「そうとも。ようこそ、旅の人」
ポイントルックアウト市民銀行。
欲望の街と呼ばれるソドムの市庁舎であり税関、かな。いやいや入国管理局?
ここで滞在の手続きを取らなければならないらしい。
滞在の税金を払い、拳銃以外の銃火器を預け、そのうえで銀色のバンドを貰って腕に巻く必要があるようだ。バンドはパスポート的な感じみたい。
観光案内見たしネイディーンにも耳にタコができるほど聞いた。
というかネイディーン曰く、腕にバンドを巻いてないと消されるらしい。
怖い怖い。
「この街は初めてかい?」
「ええ」
市民銀行には私、グリン・フィス、アンクル・レオの他にはバルトと何かの打ち込み作業をしている女性が2人いるだけ。
奥にまだいるのかな?
とりあえず受け答えは代表して私がしてる。
「規則は知ってるかい? 船長たちには伝えるように言ってあるし、船旅中に観光案内も配るように言ってあるんだが」
「知ってる」
「そいつはよかった。まっ、ざっとだけど軽く説明するよ。ここは観光の街だ。ジャングルでサバイバルするのもよし、海底に沈むお宝にロマンを馳せるのもよし、風光明媚を
楽しみ、うまい酒や食べ物に舌鼓を打つのもよし、ともかくここは娯楽の街だ。だから規則が必要だ。楽しく遊ぶためにね。そして市民の証に税金をまず支払ってくれ」
「1人1000キャップよね?」
「そうだ。そのお金で快適でクリーンな滞在中の生活を提供できるって寸法さ。……スーパーミュータントは、規則になかったし、想定してなかったが、まあ、同じ金額で頼むよ」
「分かったわ」
キャップを支払う。
今回の旅はBOSの奢り。
旅費で10000ほど貰ってる。ネイディーンに支払った船賃が3000、税金3000、帰りの船賃も3000、まあ、遊び以外のお金は確保してもらってる。
もちろん遊び用のお金も持ってる。自腹だけど。
思えば金銭的に余裕ができたもんだ、私。そもそも使う暇なかったし。
モリアティに情報量せびられてたのがまるで遠い昔のようだ。
「毎度あり。さっ、こいつを腕に巻いてくれ」
銀色のバンドをテーブルに置くバルト。
私たちはそれを手に取り、腕に付けた。
「拳銃以外を預ければいいのよね?」
「そうだ。発砲事件はこの街の日常だけど発砲以上のことをされちゃあ困るんだよ。戦争はお断りさ。預かり賃は必要ないよ、税金で賄ってる。整備はしないけどね」
「街の外に出るときは?」
「冒険するときは返却するよ。で帰ったら預かるってわけだ。面倒だろうけどその都度ここに来てくれ」
「彼の剣は?」
アサルトライフルを渡しながら私は聞いた。
グリン・フィスのショックソードは対象なのかな?
「剣か。古風だな。今時そんなの使ってる奴はいないし、これまた想定してなかったけど、まあ、いいよ。剣は対象外にしよう」
結局預けたのは私のアサルトライフル、アンクル・レオのミニガン。
これで私の装備は44マグナムが2丁、グリン・フィスは45オートピストル、アンクル・レオに関しては素手。
市長はにんまりと笑った。
「改めて歓迎するよ。ポイントルックアウトにようこそ。そして私の街ソドムにもね。滞在を楽しんでくれ」
「ありがとう」
「簡単に街の施設の説明をしようか。君はー……女性だし、君が話してるから、たぶん君がリーダーなんだよな?」
「ええ。それが?」
「男どもは街の公共宿泊施設には興味がないからさ。あの手の連中は娼館かヴァン・グラフのクラブに泊まるもんさ。であんたらは女リーダーに従って公共施設の方に泊まるんだろ?」
「主と一緒に自分は娼館に……」
「グリン・フィス君☆ 君は地獄が見たいのかな☆」
「ユ、ユーモアですっ!」
「死ね」
「……」
「フィスが悪いぞ、今のは」
そうですともそうですともグリン・フィスが悪いですとも。
がるるーっ!
「市長のお勧めの方で」
「そ、そうか。街の北にあるよ、ホームステッドモーテルというんだ。戦前のモーテルを改修したのさ。ちゃんとお湯も使えるよ。50人は宿泊できるんだがね、さっきも言ったが
大抵はいかがわしい店に泊まるからガラガラさ。まあ、それも税収だけど。一部屋で3人は泊まれるけど、赤毛の君の分は一部屋別に使ってくれ」
「いいの?」
「いいさ。ガラガラだから。宿泊費は税金から賄うけど、食事はないからね。そっちで勝手に食ってくれ」
「分かってるわ」
「サバイバルするのに雰囲気を重視するならヘイリーズ・ハードウェアという店に行きな。モーテルからちょっと北さ。年代物のライフルやショットガンでハンティングが盛り上がることは
請け合いさ。他にも雑貨や釣りの道具もあるし、ポイントルックアウト初心者には優しいお店だよ。ああ、銃は貸出専門だ。返却は店かここでいいよ。街で持ち歩くなよ?」
「随分と銃を嫌うのね」
「ヴァン・グラフ・ファミリーは規則には従がって借りてきた猫だけど、実際には凶悪な連中さ。スカベンジャーもね。せっかく興した街でドンパチされたくない。分かるだろ?」
「ええ」
頷く。
私としても遊びできた街でドンパチしたくない。
まあ、もう遅いけど。
「そういえばヴァン・グラフと一戦交えたんだって?」
「吹っかけられたのよ」
「どっちにしてもだ。死なない限りはうちの警備兵も手は出さないけど、死んだらつまらんだろ、あんたもさ」
手は出さない、ね。
スナイパーライフルを私に向けてた兵士を思い出す。
「あいつらは何なの? 西海岸が何とか」
「西海岸が本拠地の連中さ。仕切ってるのは母親だ。何でもめちゃくちゃいい女らしくてな、子供は全員父親が違うらしいよ。でエンクレイブだかBOSだか知らないけど連中のハイテクを
何故か大量に抱え込んでいる。そいつをそこらに売りまくって基盤を拡大してる。ここにいる連中も勢力拡大の一環で来てるのさ」
「はっ? あいつらチンピラじゃなくて商売人なの?」
「チンピラだよ。売る為なら殺しもするし何でもする。手段を選ばないのさ。だが自然環境はどうにもならなったらしいな」
「ああ、レーザーとかは使い物にならないのよね」
「そうだ。だからクラブ経営で方向転換してるよ」
「誘われてるんだけど」
「行かない方がいいな。性的なところさ。武器の持ち込みをチェックするという名目で客は全員パン一で酒飲んだりする場所さ。少なくともあんたは行きたかないだろ?」
「主今夜行きましょう」
「死ね」
「フィス、悪乗りし過ぎだぞ」
ちょいちょいうざいですね、グリン・フィス君。
というかなんてクラブだっ!
生乳入店の店なんて絶対行くもんかっ!
うがーっ!
「さて施設の話の続きだ。安くて、うまくて、清潔な店で食べたいならマダム・パナダのハウス・オブ・ウエアだね。露店のお店だけど酒は薄めてないし最高のお店さ」
「ふぅん」
夕飯はそこにしようかな。
ガチャ。
その時私たちの後ろの扉が開いた。
「お帰り」
市長はその人物に声を掛ける。
振り向くと薄汚れた茶色いフード付マントを纏った奴がいた。口元には布を巻いているから目しか見えない。私たちに一瞥して、通り過ぎる。
背負っていたショットガンをカウンターに置いた。
市長、怪訝そうな顔。
「返却用のショットガンは分かる。けど、あんたスナイパーライフルはどうした? あんたの自前のやつだが、預けてほしいんだがね。管理は私の仕事だ」
「スワンプフォークと戦ってる最中に落とした」
女だ。
女の声だ。布を通して喋っているかくぐもってるけど女だ。
「スワンプフォークだって? あんた奥地に行ったのか」
「証拠よ」
超怪しい女は懐から何かの塊……いや、種か、種を置いた。5粒の種。
「こいつはっ!」
「プンガの種1つに付き500キャップよね?」
観光案内に載ってたプンガフルーツ。
食べたことは当然ないけどめちゃくちゃ甘くておいしい、ポイントルックアウト原産で限定の高級フルーツらしい。一か月は保存効くとかなのでお土産に買って帰ろう。
で、こいつらは何の会話してんだ?
置いてけぼり。
「なるほど。落としたのは嘘じゃなさそうだな」
「信じてもらえて何より」
「この街をチェックアウトする際に精算することになってる。その時に払うよ。それでいいだろ、クリスさん」
「ええ」
そのまま彼女は退室、私たちが取り残される。
クリス?
「今の……」
「ああ。プンガフルーツかい? うちの取引先のトライバルがこの街に卸しているのは品種改良した結果で種無しなのさ。勝手に栽培されちゃあ困るからね。スワンプフォーク
どもは種有を栽培してる。昔ながらのやつさ。種を外地に持ち出されて栽培されちゃあうちの商売に関わる。だから買い取ってるのさ。密輸業者が密林を徘徊してるけどね」
「そうじゃなくて。クリスって……」
「今の人かい? しばらく滞在してるよ。偽名なのか本名なのかは知らないけどね」
「ふぅん」
聞きながら考える。
多分、というか、完全にただの偶然だろう。
クリスティーナなわけがない。
……。
……あーあ。
駄目だ。
完全に吹っ切れてはいない。
何だかんだで私たちは仲間だった。少なくとも私はそう思ってるし、だからこそ反動でエンクレイブめーっ!とエキサイトしてたわけで。若干治まってはいるけど、それでもやっぱり
裏切られた感はある。その半面、ジェファーソン記念館でのハークネス、レイブンロックでの藤華の発言を聞く限りではクリスは穏便にしようとはしてた。
まあ、とはいえ仕方なかったよね、とは思わんけど。
敵だ。
敵。
だけど一応はあいつの言い訳の囀りは聞いてやろうとは思うよ。
エンクレイブという肩書名乗っている限りはどこまで行っても敵ではあるけどさ。
そこは割り切ってる。
敵である以上撃つまでだ。
「主、まさか今のがクリスティーナだとお思いで?」
「鋭いわね」
「しかし奴がここに……」
「大佐だし来ないでしょうね……とは言えないかなぁ。メガトンの核とか情報収集の絡みで私と仲間してたし、ウェイストランドを放浪してたし」
単独でここにいても不思議ではない。
だけどここにいる意味はない。
プンガフルーツ?
新商品としてのプンガフルーツを押さえる為にここに来た?
オータムがジェファーソン記念館を奪ったような流れで?
「市長、もう注意事項ない?」
「ん? ああ、ないよ。ああそうだ、モーテルの鍵を渡さなきゃな。えっと、どこだっけ……」
「グリン・フィス、アンクル・レオ、よろしく」
返事もそこそこに私は市民銀行を出る。
周囲をきょろきょろ。
……。
……いた。
モーテルの方に向かってるさっきの女性。
出てきたものの特に何かするというわけでもないし、というか、どう声を掛けたらいいんだ?
「はは」
苦笑。
誰かを探しているわけではなく、自分が幻影を追っているのに気付いた。
どうやらまだ割り切れてはいないようだ。
とはいえこのままでは格好が付かない。まあ、ちょっと声ぐらいかけてみよう。
小走りで走る。
ぞく。
不意に寒気が背後からした。
振りまく。
何もない。
ああ、いや、いた。
屋根に乗ってる奴がいる。同一かは知らない、だけどたぶん同一なんじゃないかなと思った。
スナイパーライフルを私に向けてた兵士だ。
何なんだ、あいつ。
睨みつける。
腰の銃に手を当てたらそいつは後ろに下がり、そのまま別の場所の警備しに行くのか私の視界からほどなくして消えた。
「はぁ」
既に厄介に足を踏み入れている気がする。
厄介の内容?
さあね。
まだ内容は明かされていないので何とも言えないけど既に当事者な気がしてきた。
被害妄想?
それならまだいいんだけどねー。
あー、嫌だなぁ。
そうこうしているうちに女性はモーテルの一つの扉を鍵で開けた中に消えた。彼女があてがわれている部屋なのだろう。
戦前のものとはいえなかなかこじゃれたモーテルが建ち並んでいる。
私は走る。
何となく滑稽な気もしなくもないけど、クリスの幻影さんと話してみよう。冒険者同士の情報交換とか指南とかしてもらおう。迷惑ならそれでいい、というか自分的に
引っ込みつかないだけなんで断ってくれても問題はない。
扉の前に立つ。
ノック。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!
ノックしようとしたら突然爆発。
そして私は爆風で吹き飛ばされた。
……。
……はい、厄介の当事者きましたー……。
嫌だなぁ。
そして私の意識は飛んだ。