私は天使なんかじゃない
脳と体のより良い関係
何事にも適度な距離というものがある。
近過ぎず遠過ぎず。
それがより良い関係。
光が満ちた。
パルス・グレネードの光。
デリンジャーの手の中でそれは爆ぜ、光が放たれる。
人体には影響はない。
……。
……さほど、ね。
多少気分が悪くなる程度だ。少なくとも今の科学とか医学ではそれ以上の効果は判明していない。実は重大な影響があるのかもしれないけど(汗)
ともかく。
ともかく人体には影響はない。
このバトルルームのほぼど真ん中で爆発したのでパソコンや機器には影響はないだろう。範囲は本当に限定されている、効力は近距離専用だ。
ただ近くにいたバルトには効果はあった。
とてもじゃないけど避けきれない。
あの至近距離じゃあね。
光より速く動けるのであれば、まあ、別だろうけど。
「……あ、あ、あ……」
胸元を押さえ、足元はがくがく。
口は呆けたように開かれ視線だけがぎょろぎょろと動いていた。
デリンジャーは微笑。
「これで依頼は完遂です。お疲れ様でした」
「……あ、あ、あ……」
「数年越しでしたが、ようやくネイディーンさんの依頼を終わらせることが出来ましたよ。バカンスに来てよかった。まさか、あなたが生きているとは思ってもなかったですし」
ふぅん。
偶然ここに来て、偶然バルト……いや、フェリー乗りのトバルの生存を知り、今回数年越しの依頼を完遂したようだ。
律儀な奴。
この場合、デリンジャーが黙ってたら誰にも分からなかっただろう、彼の胸に秘めておけばこの事実は誰にも知られなかった。信頼も損なわずにね。
でもわざわざ近付き、わざわざ始末した。
まあ、嫌なプロ根性ではある。
敵にはしたくないですね。
あー、もう無理?
無理かなぁ。
ドサ。
その場に倒れるバルト。
私を殺そうとした時、ヴァン・グラフに要求したパルス・グレネードはこの時の為か。この時の布石の為か。つまり彼にはこのビジョンが既にあったってわけだ。
だんらあんなに飄々としてたのか。
最初から結末が分かってたから。
周囲全てを利用して、周囲全てを駒にしてこの結末を導き出した男、デリンジャーのジョン。
怖い怖い。
「……あ、あ、あ……」
呻くバルト。
呻くことしかできない。
パルス・グレネードは機械系の内部に作用し、そのシステムを破壊する。バルトがアダマン何とかの骨格とかに覆われていて銃弾が効かないにしても、パルス・グレネードから発せられる
電磁波がそれを透過して内部の人工臓器の機能を停止もしくは低下させる。バルトはまだ生きてるから停止ではなく機能の低下なのだろう。
だけど関係ない。
こいつは緩やかに死ぬ。
「任務完了です」
「私ら全員を駒にしたのね」
「まあ、そんな感じです」
「街での暗殺は何なの? モーテル爆破したでしょ? あれもこいつの差し金?」
「あれはCOSからの依頼でした。時系列としては観光に来る、バルト、いや、トバルに雇われる、彼の正体に気付く、取り入る為に居候してたCOSの依頼を受け腕を見せる、今に至る、です」
「その為に殺した?」
嫌な奴だ。
「正確には違います。デモンストレーションです。同意の上の」
「……?」
「彼女は彼女で死ぬ必要があったんです」
「はっ?」
「知る必要はないでしょう。人には人の物語がある。それだけです」
「まあ、そうね」
意味が分からない。
だけどデリンジャーの言うことは分からんではない。
確かにその通りだろう。
さてさて。
こいつはどうすっかなぁ。
決着はキャピタルで付けるわけだけど、どうしたもんか。
「主、斬りますか」
「……ふぅ。別にいいわ。とりあえず、フリーな内は敵じゃないわけだし」
割り切るとしよう。
敵として回せば厄介過ぎる。
たぶんグリン・フィスなら斬れるだろうけど、相手に敵対する意思がない以上、無理に喧嘩することもあるまい。アンクル・レオの言ったことはつまりはこういうことだ。無駄にやり合うことはない。
「それでー、ミスティ、あいつはどうするのさ?」
シーが指差す。
バルトだ。
あいつは銃では殺せそうもないからこのまま死ぬのを待つか、グリン・フィスに倒してもらうかのどっちかかな。
市長が呻く。
「……記憶が消えちまうー……」
「えっ?」
思わず声が出る。
記憶が消える?
こいつまさか……。
「あんたもしかして電子脳なの?」
「……た、助けてくれー……」
「デリンジャー、どういうこと」
「これは想定外でした。まさか電子脳とは。……僕は詳しくは知りませんけど、これは……どういうことでしょうか?」
「生物の脳からデータを抽出、電子脳に複製したのね。必ずしも脳ミソが残っている必要はないけど、こいつ、ロボトミーだったのね。それも自律している、高級な」
カルバート邸を襲ったロボトミーの高級版か。
最初から生きてる奴は誰もいなかった。
そう。
この復讐劇で舞っていたのは全てカルバート教授の作った機械仕掛けのマリオネットたちだった。教授の死後も舞い続けていただけってわけだ。
操り手は誰もいなかった。
馬鹿馬鹿しい結末だ。
「バルト、ザ・ブレインはどこ?」
「……あ、あ、あ……」
「答えなさいっ!」
「……あ、あいつは、マクグロウと一緒に、COSの潜水艦を奪いに……」
「デリンジャー、あなた私のPIPBOYにメールした?」
「何のことです?」
知らないらしい。
ピピピ。
PIPBOY3000が鳴る。
ちょうどよくメールのようだ。
開く。
『お蔭で肉体の処理が出来ました。これで完全な、独立した存在になりました。ありがとう。感謝の印にこの施設の権限をCOSに譲りました。SEE
YOU☆』
COSに譲る?
この施設の権限を?
「バルト」
PIPBOYを見せる。
内容を見て彼は毒づいた。弱々しくはあるけど。
「あ、あの野郎、スーパー・エゴめ」
「ザ・ブレインが黒幕かと思ったけど……ふぅん、つまりあいつが本当の意味でのトバルなのね」
「そ、そうだ」
前のメールは女の子みたいだったような。
ネカマか、あいつ。
ボルト112のDr.ブラウンを思い出す。あー、あいつもベティとかやって遊んでたなぁ。
別の自分に憧れるものなのか?
よく分からん。
「ボディはロボブレインだったっけ?」
「そ、そうだ」
ふぅん。
なるほどね。
脳の方は体から独立したがってるってわけだ。完全な意味でね。生身が邪魔らしい。まあ、バルトは生身の皮は被ってるけどほぼ完全にロボットだけど。
……。
……あれ?
この展開どっかであったような。
あー、夢の中での展開と同じか。私の脳ミソも独立したがってたな。よほど排尿の管理が脳ミソ的には面倒な模様。
馬鹿な奴らだとは思う。
こいつら組んで戦ってたらたぶん私らもこんなに簡単に施設を落とせなかったし、もしかしたら負けてたかもしれない。
「つまりー、僕は依頼は……」
「まだ果たしてないわね。こいつはただのロボット。トバルのデータを元にした、別人みたいなもの」
「ミスティ、どうするの? COSが出てくるかもしれない」
「その可能性はあるわよね、サラ」
早々に撤退した方がよさそうだ。
スーパー・エゴは既にここには用がないだろう、たぶん、いや、確実に戻っては来ない。ここにいる意味はもうない。とっとと逃げた方がよさそうだ。
ヴォン。
天井から青白い光が伸びる。
なるほど。
あれが普通の状態らしい。色彩がおかしいのではなく最初から青が基調のホログラムってわけか。
青白い人影が宙に投影される。
「君の脳ミソは実に友好的だな、バルト君。君とは大違いだ。このまま退くのでも問題はなかったのだが、サラ・リオンズ、キャピタルBOSの指導者の娘も交じっているとはな。赤毛の
冒険者ともども目障りではある。完全なる支配の為の布石として消さねばならない」
「完全なる支配? そんなの、BOSの規範ではないわっ!」
サラが叫び返す。
投影は荒過ぎて人がいる程度の画質。投影の人物は、老人はそのサラの叫びに笑った。
「BOSの規範? そんなもの何の役に立つ? テクノロジーをため込む、その先は何だ? どれだけため込んだ? いつまでため込む? 先などない、何もない。ただの集落だった
NCRは今どうなった? 西海岸で大敗を喫したはずのエンクレイブはいまだ強大なのは何故だ? リージョンの脅威は? そしてキャピタルBOSの勢力拡大の理由は?」
「それは……」
言葉に詰まる。
確かに。
確かにこの声の言っていることは理屈としては正しい。前にアッシャーが言ってた。BOSは視野が狭いと。明日の為に何をするでもないと。
私もそう思う。
そしてそれはエルダー・リオンズの中にもあると思う。地元の英雄になりたがったという嫌味もあるけど、私は英断だと思う。独立することでBOSのあり方を変えようとしてる。
ある意味で本家BOS系譜のマクグロウやオリンを見る限り先はないと思う、本家BOSには。
サラには言わないけど、あれはハイテク装備のレイダーだ。
もちろんCOSを擁護する材料もなければ擁護する気はないけどさ。ただ理屈としては正しい。
「時代は次世代へと向かいつつある。BOSのやり方は段階としては、もう古い。ハイテクは使ってこそだ。あの連中はレーザーライフルの作り方を知っている、だがどこから調達する?
BOSの兵器工房か? 違う。レーザーライフルの持ち主のところにアポなしで訪ね、譲ってもらうだけだ。武器を片手にな。冗談ではない、連中に先などない。取り残されるだけだ」
「興味深いけど同調する気はないわ」
私は毅然として言う。
こいつに同調する気はない。
そしてタイプ的に私はこいつと同じだ。思想が、ではない。やり方がだ。こいつのトークに意味はない、少なくとも私達には。これはただの時間稼ぎだ。
青白い姿は左腕に装着されている物を、右手でタイピングしている……ようにも見える。
PIPBOYか、あれ?
バージョンは分からないけどそう見える。
声が響く。
「運動の時間だ」
天井からいくつか機銃型タレットが現れる。
マジかっ!
激しい銃撃音が響く。私たちは全力でVIP席に逃げる。
……。
……あれ?
機銃の狙いが甘いぞ。
追い立てられた?
そんな気もする。
這いつくばって奥の扉に行こうとしていたバルトをとりあえず踏みつけ、置かれている機器の陰に隠れる。
「不自由をやろう」
ブォンっと音を立てて私たちの前に、実験生物だかロボットだか知らないけど戦わせて実戦データを取っていたであろう場所と、現在私たちがいる計測の為のVIP
空間を遮る形で光の壁が現れた。弾丸は光の壁を貫通しない。そして機銃はこちらをロックオンしたまま、掃射を止めた。
「フォースフィールドね」
そう。
サラは正しい。
声の主はフォースフィールドを展開しやがった。これが私たちが発生させた、というのは分かる。防御用にね。問題は攻撃してる側がこいつを発動させた。
何の為に?
「ちょっ、ミスティ、あたしら閉じ込められてね?」
「だよね」
ヒューヒューと妙な息遣いのバルトの襟首を掴み、私は彼をこちらを向かせる。
死に掛け?
知ったことか。
「答えなさい」
「な、何を?」
「あいつはどこにいるの?」
「し、知らない。COSはあんたらが来る前に撤退した。スーパー・エゴがここのシステムにログインする方法を教えたんだ、ここにはいない。外はあの調子だし、近くにいるとしても、施設外だ」
「遠隔でああやってるの? PIPBOYで?」
「あ、ああ、たぶんな」
「あれはPIPBOY?」
「バージョンは知らないが、そうだ。自慢してたよ」
「そう」
襟首を離す。
バルトはその場に転がった。息も絶え絶えだ。
死に掛け?
知ったことか。
「消し飛ばしてやろう」
あー、嫌な発言来ましたーっ!
大体このパターンだとは思ってた。悪役定番ですね。
つまり?
つまりー……。
『自爆装置ガ起動シマシタ』
機械音が響く。
フォースフィールドは私らが逃げれないようにらしい。逃げるにはフィールドの解除が必要だけど、解除した瞬間にタレットで殺されるだろう。
私は計測用であろうパソコンを起動する。
相手がPIPBOY使ってるなら私達にもまだ分がある。
勝ち目はある。
「サラでもシーでもいいから内部セキュリティに潜入してっ!」
「……滅茶苦茶言うわね、ミスティ」
「そうっすよねー。簡単に入れるわけ……はいはい、睨まないで、あたしがやりますよー。この程度のセキュリティ突破、トレジャーハンター舐めんなよー☆」
並行して私はPIPBOYで施設の防衛システム、つまりはタレット群の制御にログイン……くそ、弾かれたっ!
カチャカチャとキーボードを叩く音が響く。
ならフォースフィールドを消してやる。
セキュリティを掻い潜り、不正のパスだけど騙し、内部に……くそ、また弾かれた、誰だか知らないけどCOSの親玉が私のログインを吹っ飛ばしてる。妨害してる。
「能力を殺してやろう」
照明が落ちた。
なるほど。
フォースフィールド消しても私ら完全に死にますね。私の能力は視界に頼ってる、真っ暗では意味がない。パソコンやPIPBOYの画像が光ってるから完全な闇でもないけど。
シーは叫ぶ。
「ミスティ何すりゃいいのよ、意味分かんないけど、何消すの、何にインするのっ!」
「あっははははははは意味なんてないから」
「……えっと、壊れた?」
「あっははははははは」
セキュリティ解除失敗。侵入失敗。弾かれました。駄目でした。相手の方がスピード早過ぎでした。
天才っているもんだな。
相手のスピードは私をはるかに超えてる。
まともにやったら勝ち目はない。
まともにやったらね。
「自爆を速めてやろう」
そう言われてもカウントダウンされてないからよく分からん。
シーは自爆を止めようとキーボードを叩いているけど、ディスプレイに照れされた彼女の顔には焦りがあった。
「もう少し生きたかったですねー」
「だーまーれーっ!」
デリンジャーとシーの掛け合い。しかし既にシーには余裕がなくなってる。
サラは言葉もなく佇んでる。どんな胸中なんだろ。
グリン・フィスは目を閉じてその場に座ってる。覚悟を決めてる、というかなるようにしかならないという達観かな。
バルトは相変わらず死に掛けてる。
知ったことじゃないけど。
「ふぅん」
パターンが掴めた。
ようやく尻尾を掴んだ。私はPIPBOYのキーボードをリズミカルに叩く。さっきより早く。さっきより的確に。
「無駄だ。赤毛の冒険者。お前は私の速さに追いつけない」
「誰だか知らないけどその余裕が命取りになってるわよ。……ああ、死にはしないけどね、だけど死ぬと同義のことを私が今からしてあげるわ」
キーボードを叩きながら私は叫ぶ。
アクセス拒否アクセス拒否アクセス拒否。
施設のセキュリティからは弾き出され続けるけど、少しずつ前進してる。
「それで? ここへは何しに? 観光だっけ? ああ、情報収集だったっけ? 必要なものは手に入った? 殺すならとっとと殺せばいいのに。泳がせるのもいいけど、命取りよ?」
「ふふふ。何が言いたいのか、何をしようとしているのかは知らないが、私の勝利は揺るがない。私は勝つ。そう、目的のものを全て手に入れてな」
「PIPBOYに頼りすぎると馬鹿になるかもよ? 必要なことはちゃんと記憶しとかなきゃね。あとはエンター押せば終わるわ」
全ての手順は終了。
相変わらず゛照明は落ちてるし、タレットはこちらをロックオンしてるし、フォースフィールドは展開されたままだし、カウントされてないから分かんないけど自爆準備も継続中だろう。
私は解除できなかった?
まあ、そうね。
それは認める。
相手の能力は私をはるかに超えてる。
この施設のセキュリティ自体は私は突破できるけどあいつがそれを邪魔してくる、ログインしても弾き出してくる。
同じ土俵で喧嘩してやる義理はない。
私は逆手に取った、相手もセキュリティに入っているということを逆手に取った。同じセキュリティに入っている、セキュリティを通して今私とあいつは繋がってる。それを通じて私はあいつ
のPIPBOYに入った。シーはフェイク、私が必死に突破しようとしてたのもフェイク、実際にしたかったのはあいつのPIPBOYにアクセスすること。少しずつ、侵食するように。
お膳立ては全て終わった。
PIPBOYに自爆装置はないから私は奴を殺せないけど、ある意味では殺せる。
つまり?
つまりーっ!
「PIPBOYのOSには脆弱性があるのよっ! だからあんたのPIPBOYに侵入できた、そしてこれが私の勝ち方よっ! ご自慢のPIPBOYをガラクタの鉄の腕輪にしてあげるわっ!」
「データがっ! 私が集めてきたデータがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
怒号。
憤怒の声。
だけどそれは長くは続かなかった。すぐに消えた。
「シー、タレットを解除して。私は自爆を解除するから」
「何の抵抗もなくなったけど……何したの?」
「相手のPIPBOYに入って初期化した。あいつはアクセスできなくなったから抵抗なくなったってわけ。施設外にいるみたいだしパソコンも弄れんでしょ、たぶんね」
「はっ? 何でそんなことできんの?」
「スーパー・エゴよ。あいつがハッキングしてきたからOSの脆弱性が分かったの。……よし、自爆解除。色々とセキュリティに入ろうとして弾かれてたのも、あいつのPIPBOYに入る隙を狙って
ただけ。何回かやって尻尾を掴んだから、並行してセキュリティ解除の真似事しながら、あいつのデータを消してやったってわけ」
「……ミスティって馬鹿じゃね? 天才通り越して馬鹿じゃね? もう意味わかんないっす」
「同意するわ」
何なんだその態度はーっ!
ぷんぷんっ!
「バルトに捕まって何か薬で麻痺させられて目覚めたら頭の回転が速くなってたの。理由は知らない」
「前から頭は良かったけど、ちょっと早過ぎる回転だと思うわ。薬に何か入れられたんじゃない?」
「うっわミスティってバルトにナニ入れられたの? でも涼しい顔してるってことは、うんうん、やっぱ淫乱だよね。サラもそう思うでしょー?」
「ボルトの子って乱れてるのね」
「特別ミスティが淫乱なだけだって☆ 他のボルトの子に失礼じゃん☆」
「そうね。他の子に謝らなきゃね」
うがーっ!
とりあえずグリン・フィスは何か言おうとしたので睨みつけて黙らせました。
フォースフィールド解除、そして照明回復。これで元に状態に戻った。
バルトを見る。
目を見開いたまま動いていない。どうやら完全に機能を停止したようだ。ご愁傷様。デリンジャーはポケットから取り出したであろう包帯を肩に巻いている。ああ、そういえば私が撃ち
抜いたな。そしてコートを拾って纏い、リュックを手に取って微笑する。
「随分と楽しそうなガールズトークですけど僕は行きます。トバルを消さなければならないのでね」
「じゃあね」
留める理由はない。
こいつとやり合うのは面倒だ。スーパー・エゴの、いや、トバルの始末はデリンジャーに任せるとしよう。
バルトとトバルは本当にバカだ。
組めば私らに勝てた可能性はかなりあったのに。
自分の頭を軽く小突く。
「私らに勝とうだなんて百億年早かったわよね」
何故自分でこんなことを言ったのか、自分ですら謎。
夢は現実だった?
さあね。
それは分からないけど、私と私の脳の、より良い関係にバルト&トバルは負けを喫したのは確かだ。
「決着はついた後じゃったか。また、出遅れたな」
リンカーンリピーターを背負い、腰には9oピストルと中国製ピストルを帯びた老人が現れた。自然、出て行こうとしたデリンジャーは留められる形となる。
冒険野郎だ。
私が何か言う前にシーが叫んだ。
「あーっ! その腰の中国製ピストルってズー・ロンv418中国軍ピストルじゃんっ! くぅー、いいなぁ、タートル・ダヴ収容所にあったお宝じゃんかー」
有名な武器らしい。
あー、そういえばMr.チャンだかサムソンだかが持ってたな。火の玉を出す銃。
聞いてみる。
「それってどうしたの?」
「この銃か? この施設に突入しようとしてた連中の1人が持ってたんじゃよ。不意打ちして蹴散らしておいたよ」
COSが突入しようとしてたのか。
結局あの中国軍のスパイが何だったのかは謎のままだ。COSの親玉はスパイ気取りの狂人扱いしてたし、ポールソンは宇宙人に誘拐された云々言ってたなぁ。本当に戦前に
誘拐された奴が今この時代に地上に降りてきて、頑なに任務を果たそうとしてたのかは謎。任務達成の一環でCOSと組んでた?
そうかもしれない。
そうじゃないのかもしれない。
まあ、いい。
デリンジャーがさっき言ってたようにそれぞれに物語はある。
それだけの話だ。
デリンジャーは数歩下がって私たちの隣に並んだ。
……?
「物騒ですね」
何が?
「同調する気はないが、確かにな」
グリン・フィスも呟く。
何故?
どうして敵意を飛ばしてる?
さすがに私もサラもシーも意味が分からない。どういうことだ?
冒険野郎はため息。
そして今までのような軽快な口調ではなく、陰湿で、忌々しそうに呟いた。
「勘が良いお仲間というのも考え物じゃな。お前さんもワシと一緒の口じゃろ? アーガイル、奴と同じような仲間のお蔭で名が上がった、それだけのクソ女じゃろ?」
「何を言って……」
「名が上がってしまえばそういうお節介なのはいらなくなる。むしろ邪魔じゃ。ついロックオーポリスの場所を喋った? そこまで耄碌しておらんわい。始末するためにばらしただけじゃよ」
「あんた何言ってんのっ!」
「名声を得るのはワシだけで充分。ここで死んでもらおうか、赤毛の冒険者」